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2024/11/01 08:22 |
琥珀のカラス・49/クレイ(ひろ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「――てなわけで、多分その長男をいきかえらそうってことじゃないかと思い

ます。」

 日も傾きかけた斜陽の頃、ずいぶん久しぶりの気がする部屋で、一通りの説

明を終えたクレイは目の前の男の反応を待った。

 隣のカイも黙したまま静かにたたずんでいた。



 サキのところをでたクレイとカイは、そのままハーネス邸にもどってきた。

 一応情報屋をまわろうかとも考えたのだが、

『今から調査を頼むのでもなければ、これ以上の話は聞けないだろう。第一、

言ってすぐに情報が出てくるのなら、カラス騒ぎの裏にある石のことがバレて

いることになる。

 そんな話があるなら、前にクレイがまわったときに出ていたはずだ。』

 と、カイの冷静な判断があったため、すみやかに撤収することにしたのだっ

た。

 屋敷にはカシューがクレアとデュランが先に戻ってきており、一休みしてい

るところだった。

 考えてみれば、クレアなんかはただの少女―――むしろ甘やかされた部類の

身、デュランもみためどおりの老骨となれば、緊張の連続にそろそろ限界だっ

たのかもしれない。

 クレイはそんな二人にはかまわずに大公への報告をしにいこうとしたが、ふ

となにかを思い出したように屋敷の中で浮きまくっている謎の男爵ことカ

シューになにかを頼んだ。

 「まあ、よーく知ってる一品だからな、模造品ぐらい簡単に手配できるが、

力が伴わなければ簡単にばれるぞ。さすがにそれまではまねできんからな。」

 「かまわねぇよ。べつにそれ渡してごまかすつもりじゃないしな。」

 それをきいていたカイもいぶかしげに首をかしげた。

 「どうするつもりだ?」

 「ん? ああ、サキのところから考えてたんだが……。」

 それをきいたカシューは納得した様子で屋敷のものを呼びにいった。

 「じゃ、俺たちは閣下に報告だ。」

 クレイとカイは執務室を目指して歩き出した。



「そうか。」

 話を聞き終えたギルベルトは少し考えた後決断を下した。

「ロイヤーは現在はどこの派閥ともいえない、治安系統を抑えて、ロイヤーの

軍への指揮権を剥奪する。」

 イスカーナで貴族位をもつものはそのくらいに合わせて軍への指揮権も持

つ。

 クレイもいまでこそ騎士団ではなく傭兵まがいの部隊で一兵士をやっている

が、小隊長と同等の指揮権を盛っていたりする。

 最下級では貴族位の無いものにしか権限が無いので、特別に貴族と同等の権

利を有する騎士たちにこそ命令権は無いが、一般人であれば10名までを個人で

動員できるのだ。

 ただし国と関係ないところで個人で動員した場合、当然ながら報酬は自腹で

払う必要があるため、クレイのように一兵士と変わらないままというのもそん

なに珍しい話ではないのだった。

 それを考えてもロイヤーは落ちぶれたとはいえ元大貴族。

 個人でも100やそこらは動員できるし、すでに私設でもそれなりの軍隊は抱

えているはずなのだ。

 しかし、貴族の頂点ともいえる大公ともなればその指揮権を停止させるぐら

い造作も無いこと。

 そして、そんなことをする以上は、ギルベルトはロイヤーを家ごと消すと決

めたということだった。

「今夜中に各騎士団および軍各部に命令を下す。神殿も圧力をかけて黙らす。

あすにはロイヤーはこの国からきえるだろう。」

 しずかにかたるギルベルトを見ていたクレイは肩をすくめて口を挟んだ。

「丸裸にするのは賛成ですが、大公家でぐんをうごかすならやめたほうがいい

ですよ。」

「……ロイヤーに同情でもしたか?」

「まさか。」

 眉をひそめたギルベルトにクレイは内心呆れていた。

(ほんとに親バカなんだから……)

「閣下、ロイヤーを消すだけで方がつくなら、俺が出ればすむことだ。」

 ふいにカイが淡々と口を開く。

 それは功をあせっているわけでもなんでもなく、冷静に事実を語っているだ

けのいつもの口調だった。

「神殿からの流れ者さえひきつけてもらえれば、ロイヤー自信がよほどの武人

でもない限り、いかに警備を固めたところで普通の屋敷にいる以上、そんなに

難しいことではない。」

 カラスや宵闇男爵の実力を考えればその策はかなり成功率が高いのは明らか

だった。

「だが、この騒ぎの本質は違うのではないか?」

 クレイとカイにはわからないことだったが、デュランとの関係から、その神

殿に捨てられたものが、かつてギルベルトの愛したクレアの母を奪ったあの事

件の関係者であることは間違いなかった。

 ロイヤーがその頃から関わっているとは思えないが、ギルベルトの中にその

ときの怒りがよみがえってきたのは確かだった。

 その怒りからも完全消滅を決断したのだが、カイはその決断は間違いだと

いっているのだ。

「といっても、俺にもそこの違いは良くわからないのだが……。」

 そういって続きを促すカイにクレイは苦笑する。

「そう、この問題は、カラスを狙ったからどうとかではないはずですよ。」

 ギルベルトたちがあかせず、クレイたちも確認を取ることのできないほんと

の問題。

 そう、そもそもは石そのものもかつて滅ぼされた一族の怨みも、クレアを護

るというほんとの目的からすれば二の次三の次なのだ。

(そもそもクレアの権利を脅かす存在をおびき出すためにカラスは再び活動を

開始したのだ。きっかけはデュランの仕掛けだったが、それはあちらの事情。

大公が俺なんかを巻き込んだのも、クレアのことが最優先だからだ。そのため

なら、秘石にはたいした執着はないだろう。)

 不思議とギルベルトが秘跡の力を求めているとは考えられなかった。

 その分、親バカから判断が過剰にはしっているようだったが……。

「細かいことはお互い言わぬがよろしいですが、ようはカラスではなく、あの

石が存在してることが問題なのでしょう?」

 カイの話から黙したまま聞いていたギルベルトはクレイの言葉の意味を理解

した。

 それは、ここでロイヤーをつぶしても、神殿本体に石とのかかわりを疑られ

ては、せっかくあきらめていたのに、大公家の名前が再びその欲望に火をつけ

かねないこと。

 そうなれば神殿との対決に勝利したとしても、クレアの秘密が漏れてしまえ

ばすべては終わってしまうということ。

 復讐のためにすべてが捨てられるのならともかく、今一番護りたいものを考

えれば、ロイヤーや神殿の流れ者をどうしようが、それ自体は目的にならない

のだ。

「……クレイ、私は彼らにどんな事情があろうとも、ロイヤーが唆されただけ

でも、神殿くずれがある種の被害者だとしても、慈悲をかけるきにはなれな

い。だが、最善の策があるというなら……。」

 冷静になればギルベルトとて大公家とカラスのつながりを悟られるようなま

ねは愚策であることは良くわかる。

 ギルベルトが言いたいことを理解したと踏んだクレイは、少し言いにくそう

に自分の考えを話した。

「まあ、策なんて上等なものでもなく、単なるペテンみたいなものです

が……。」

 石そのものはデュランの思いもさながら、クレアにとっては母の形見でもあ

ろうモノだけに、渡すつもりも失うつもりも無かったが、少なくとも相手には

忘れてもらわねばならない。

 必要なのはまず実力で圧倒し、こちらが有利な状況を用意し、あとは役者を

揃えること。

「まあそのためにも、デュラン元司祭は連れて行きますが、後はカラスたちと

我々で片をつけます。」

 やる気に満ち溢れていれば、聞くものも少しは安心するのだろうが、クレイ

はむしろめんどくさそうにせいぜい礼を失わないように気をつける程度のまま

提案……というより、宣言した。

「まあ、閣下は騎士団と軍を抑えといてくだされば十分です。あとは俺たちの

やり方でけりをつけますよ。」

 そして、心の中でこっそりと付け加えた。

(過去の因縁にとらわれて命を奪うなんざ、生臭くてかなわん。それに、そん

な血の上に立つのはクレアには似合わんからなぁ。)
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2006/08/21 23:56 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス

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