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2024/11/01 07:48 |
浅葱の杖――其の二十/トノヤ(ヒサ)
キャスト:トノヤ・月見・ファング
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/古い屋敷上空(馬車の中)~古い屋敷敷地内
―――――――――――――――

「俺たちさぁ、壊れた杖なおしに行くのにガラス職人のトコに向うんだったよーな」
「今さらそんなこと確認したって意味ないぞファング」

そんなのんきな会話もつかの間に。
眼下に広がるありえない風景に馬車の中は一気にパニックになった。
今まで固まっていた者たちまで自分の中で何があったんだかバタバタと動き出す。
追い込まれた人間はなにをしでかすかわからないものだ。

そうなればあとに起ることは誰だって大体そうぞうがつく。

「う、うわっ落ちるーーーー!」

がくん、と数度かたむき、乗客が片側へなだれこんだ。
馬車のそとで喉のイカレた鳥の甲高い掠れた声とともに軽い木でも折れたような音が
した。
重心がいった側を支えていた骨でできた鳥が、重みに耐えきれずボロボロと脱落して
行く様をトノヤは見た。
更に馬車は傾き沈んでゆく。

「おいおい、何羽か折れて落ちてッたぞ。危なくね?」
「どどどどーしてそんなに冷静でいられるんだお前は!危ないよ!あー危ないさ!うっ
わ」
「運転手どのー!安全運転でおねがいしますぞってあーーーーーーーれーーーーー」

「あひひひひひひひひ」

落ち始めれば事は早かった。
普段味わうことのないほどの浮遊感と恐怖に意識が朦朧とする中、ファングは見た、
気がした。
右も左も、天地さえもわからなくなっているこの状態で、むくりと立ち上がる人影。
白いワイシャツに襞の入った短いスカート。眼鏡をかけた黒い髪の少女。
その人影がこちらを向いた。
月見、に見えたがファングはすぐに人違いだと思った。
この状況の中微笑をうかべたその顔、目は笑っていない。
ファングと目があうと口の端をさらに上げた。
理由のわからない悪寒が走る。
そこでやっとファングの意識は飛んだ。

馬車は山々に消えて行った。



「っつ………」
「あ、気付いた」

月見はどこかに横たわっていた。
酷く冷えた固い土の上だとしばらくして気付いた。
目を開けたが薄暗くて何も見えなかった。
眼鏡がずれているのに気付き、なおして改めて周りを確認した。

「あれ、ここはどこで……」
「黄泉の国へよーこそー」
「あぎゃーーー!!!!」

振返るとそこには、ランタンで下から顔を照らした白目のトノヤ。
期待通りのリアクションにひっひっひと笑う。

「やめろよなートノヤ」
「はぁ、ガキだな少年」
「ひっひっひ、見たかよ今の月見の顔!あひゃひゃひゃ」
「聞いちゃいないし。つか笑い方汚ねーよ」

何がなんだかという顔で月見はぽかーんと三人の顔を見る。
周りは相変わらず薄暗く、背の低い木がぽつんぽつんと生えている。
薄暗いのは日が落ちたとかいうわけでもなく霧が濃いためだと気付いた。
遠くにいかにも出そうな古い洋館が見える。
周辺で一番背が高い木の下に馬車が横たわっていた。
他の乗客は見当たらない。馬車の中に居るのだろうか。

「な、無事なんですかぃ!?なんでぇ!?だって馬車……ええっ!?」
「俺もついさっき起きたからよーわからんけど、根暗なんとかさんが助けてくれたん
じゃないの?」
「ネクロマンサー」
「そうそう………って、まさか、またっ」

どこかで遭った展開にファングは背筋がぞっとしてあたりを見回した。

「いや、普通にオイラだけどね」
「なんだよ、ワッチんか」

声の主が想像した異常者ではないと知ってファングは胸を撫で下ろす。
確かに周りは未だに自分達4人だけしか確認出来なかった。

「ビビリーだな」
「なっ……!」
「まあまあ、それよりこれからどうするか、だろ」

ワッチに言われ、皆ため息まじりに黙り込む。
どうするといわれても皆あまりの展開についていけていなかった。
しばらくの沈黙の後、

「うう、何か空腹な予感はいたしませんか皆の衆……」

月見のめずらしく控え目なセリフに

『ぐぅううう~~~~』

裏合わせでもしていたかのように腹の音大合唱。
4人とも力なくその場に座り込む。

「言ってはいけないことを……」

辺りの霧で昼なのか夜なのか定かではないが、少なくともランチの時間は過ぎている
ことは確かそうだ。

「そこで提案でありますっ。ダッシュであの素敵な雰囲気を放っておるお宅に突撃と
なりの晩御飯!!」
「古っ」

とてもお世辞にも素敵とは言えない館を指をさして月見はそのまま倒れこんだ。

「何だって?」

この世界の者がデカいしゃもじネタを想像出来るわけもなく、月見のセリフに理解出
来ずワッチとファングは顔を見合わせた。

「あー……とりあえずあのカビ臭そうな洋館でメシでもたからねーかって話」
「ええ、明らかに誰も居なそうだけど」
「居たとしてもオイラはちょっとかんべんだなぁ」

と、言いつつワッチは月見を背負い、一行は館へ向った。

三人とも、他の乗客は、と言おうとしては呑み込んだ。
すでにいっぱいいっぱいの頭は、もうコレ以上問題ごとを持ってこられても処理でき
るわけがなかった。
余計なことは気付くな。という暗黙の了解。

ガラス職人のもとにはいつになったらたどり着けるのだろうか。

三人同時に出たため息がそれを語っていた。
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2007/03/09 01:04 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖ーー其の二十一/ファング(熊猫)
キャスト:トノヤ・月見・ファング
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/古い屋敷敷地内
―――――――――――――――
なんの説明もなくただ不気味に佇んでいる屋敷を前に、ファングは
呆然とするしかなかった。

「…何だこりゃ」

かすれた声で、うめく。答えを期待してはいなかった。
あったとしても、きっとろくなものではないだろうが。

空腹で倒れている月見を棒でつつきながら、トノヤが面倒くさそうに
息を吐く。

「どうでもいいけど、俺ら結局どうなったわけ?つーかここどこよ?」
「そう遠くまで来てないぞ。日も傾いてないし」

ワッチがいやに真面目な顔で空を見ている。
ファングは空腹だけで満たされた腹を撫でてから、

「問題はさぁ、なんで俺らがここに連れて来られたかだよね」

したり顔で額のバンダナに手をやって、ごちる。
足は自然と屋敷の裏へと向かう。周辺は霧と森で囲まれ、他に人家はない。
しかも、屋敷へと続く道が――けもの道すらない。
手入れをされていないというより、人が出入りしていた様子がない。
まるでただの広場に、この屋敷が『置かれた』ような・・・。

その事に少なからず戦慄を覚えたファングは、答えを待たずに足を早めた。
壁が切れ、屋敷の裏が霧の中から出現する――

「うぉい…」


墓地である。


規模はそれほどではないが、少なくとも20基ほどの墓石が並んでいる。
更に増した寒気を抑えるようにして、思わずファングは
自分の二の腕を掴んだ。

「なぁ、おい。皆こっち来―」
「黄泉の国へよーこそー」
「ひぎゃあああああああああ!」

振り返ったすぐその目の前に、ランタンで照らされたトノヤの顔(白目)
が出現したので、ファングは思わず悲鳴をあげていた。

「よーこそー」

パニックに陥りそうになる自分の胸を押さえ、唾を飛ばさん勢いで
叱咤する。

「いや、それはもういいから!」
「ひゃっひゃっひゃっ」

飽きずに笑うトノヤを振り払って、ファングは言葉を続けた。

「おかしいって!なんで屋敷の裏が墓地なんだよ?」
「葬儀屋だったとか。名付けて葬儀屋敷」
「いや、いくら葬儀屋でも自分の家に墓地作んないから。
つか意味不明だから」

顔色ひとつ変えずに言うトノヤに、膝から力が抜ける。
ワッチと月見は、とうとう屋敷のドアを壊しにかかっていた。
特に月見に丸め込まれたらしいワッチが、岩を掲げているのが酷く気掛かり
で、
さすがにファングは止めに入った。

「やめろそこの破天荒と破廉恥!」

―――――――――――――――
文なんて書き方忘れたんですけど。
つか、焼きプリンの意味がわかんねぇ。

2007/03/09 01:05 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖22/トノヤ(アキョウ)
キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見
場所:ヴァルカン/古い屋敷敷地内
___________________

「おや、ずいぶんと元気なノックですね。いらっしゃいませ、お客人。私は当屋敷の
執事、セバスと申します。お待ちしておりました。さ、どうぞ中へお入りください」

「………………え、ええええ!?」

ワッチの投げた岩によって大穴の開いた扉の向こうから出て来たのは、セバスと名乗
るやたら背の高い、品の良さそうな温和な初老の男だった。
壊れた扉を開け、腕を屋敷の奥へと示し、中へ入るよう催促している。
なかなか入ってこない四人を見て、セバスという執事は小首をかしげた。

「?どうぞ、中へお入りください。主人が奥の応接室でお待ちでございます」
「ちょ、ちょっと待って!あ、いやあの、待っていたってどういう……?というかこ
こ何処なんですか?俺たち気がついたらここにいて……」

急展開の急展開に頭がついていけず、ファングは頭に浮かんだ疑問を端からぶつけ
た。
疑問を口に出していく端からさらに疑問が浮かび、もう何がわからないのかすらわか
らなくなってきた。
ワッチは岩を投げた体制のまま固まっているし、トノヤは考える事をはじめから諦め
ているのか欠伸をしながらダルそうに突っ立っている。月見に至っては頭がショート
したらしくいつの間にか頭からプスプスと湯気をだして倒れている。
執事は少し困った顔をした。

「ええと、こちらはガラス職人リア様のお屋敷で、リア様の旧友であられる鍛冶屋ド
ム様から、紹介状を持った四人組がこちらに来られると連絡をいただいたので、お待
ちしておりましたのですが。人違いでありましたかな?」

人違い、と言った瞬間執事の目の色が変わった。
温和そうな雰囲気から急に、鋭く刺すようなとても素人とは思えないものに。
空気が変わりおもわず臨戦態勢になるが、ファングはハッと思い出したように荷物の
中からしわしわになった紙を出す。

「え!あ!紹介状!?これ!?ってうそぉ!ここがガラス職人の家ぇええ!?」

癖のある大胆な文字が並ぶ紹介状を確認すると、執事ははじめの温和な顔に戻った。


「ふむ、確かにドム様の紹介状ですな。なにやら色々あったようですが、まあ、詳し
い事は奥でどうぞ」

執事はニッコリ笑うと、案内いたします、と正面の扉の方へ歩き出した。

「どういうことなんだぁ~?」

ワッチは月見を小脇に抱えて、隣を歩くファングに聞いた。

「よくわかんないけど、目的地のガラス職人の家にたどり着けたってことでしょ。
もー疲れてあんまり色々考えたくない」
「そうだなぁ、さっさとリアって奴に直してもらって早く街に帰りたいね。これ以上
なにか起きる前に」
「なんかあっけねーのな」
「いやいや、道中十分いろいろあったでしょ」

そういえば二日酔いもいつのまにか直ってるな、とファングが伸びをしていたら、前
を歩いていた執事が歩くのをやめた。

「こちらが応接室でございます。どうぞ」

執事は数回ノックし、質素な扉を開けた。

____________________

2007/09/06 20:49 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅黄の杖 23 /ファング(熊猫)
キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見・リア・サジー・セバス
場所:ヴァルカン/古い屋敷内
___________________

「リア様、お客さまがいらっしゃいました」

開かれた扉の先は、およそ雑然としていた。

正面に大きめの窓、その前には装飾のない書斎机。
壁には美術書、児童書、辞書、小説など様々なジャンルの本が適当に
並べてあり、中には背表紙が逆さまになっているものさえあった。

致命的なのは正面を遮るように置いてある陳列棚だった。
どう見ても二束三文の価値しかないような一抱えほどもある翡翠の原石や、
一体なにを想定して作られたのかわからない奇妙なオブジェなどが
等間隔で飾ってある。というより、置いてある。

それらは腰の高さまでしかないので視界が遮られることはないが、
明らかに客を迎える応接室としてはふさわしくないだろう。

しかしそれ以前に、迎えに出てくるべきの当主の姿がどこにもない。

「おや?おりませんな…ははぁ、作業中ですな。ただ今呼んで参りますので、
そちらでどうぞ掛けてお待ちください」

特に驚いたふうでもなく執事はそう言うと、自分は扉の脇に控えたまま
ファング達を部屋に通し、扉を閉めた。

「…なんつーか工房って感じしないね」

種類がてんでばらばらなソファーに腰掛け、執事の足音が遠ざかって開口一番、
ファングはそう呟いた。

「かといって屋敷って感じも…しないよな」

書斎机の上にうず高く積み上げられた本と、注文書らしき手紙を
のんびり眺めながら、ワッチも頷く。彼だけ座高が極端に低いのは、
その巨体にソファーが耐えかねているからだ。

「あーあ。昼飯出してくんねぇかな。その前に茶。食後にも茶」
「はいはい!あたしもそれ賛成ですぞー!」

それまでうろうろと部屋の中を物色していた月見が、ファングの呟きに
無駄な元気の良さで同意してくる。
数十分前に二日酔いでダウンしていた事などはもう忘却の彼方へ
押しやったようだ。

「じじいかよ。茶って」
「俺の紅茶好きをなめんなよ」
「知るか」

不敵に笑って親指を立てて、口を挟んできたトノヤに突きつける。
彼はテーブルの上に組んだ足を乗せ、この場にいる誰よりも退屈そうな顔で
その身をソファーに沈めた。

「だりー。早く来いよ」
「お待たせしました」
「どぅわっ!?」

突然の執事の声に驚いたのはトノヤだけではなかった。
座ったまま振り返ると、そこには さきほどの執事が
直立不動で立っている。

「あんたどっから…」
「――お待たせ」

ファングの問いかけに執事が答える間もなく。あまりにも気軽な挨拶と共に、
一人の女が部屋に一つしかない扉を開けて入ってきた。
年齢は20代後半といったところだろうか。肩ほどまで伸びた金髪を
後ろでまとめているせいかだいぶ小顔に見えた。その中心に
やや太いフレームの眼鏡と、うっすらとそばかすの残った鼻がある。

「リアよ。よろしく」

そう名乗った彼女は、この屋敷の主だというのにこの場でいちばん
ふさわしくない雰囲気をまとっていた。
まず格好がいけない。脱いだ消し炭色のツナギの上半分を腰に結び、
上はタンクトップといういでたちで、まるで屋敷にあっていない。

「あ…ども。ファングです」
「月見ですッ!いやーお姉様ったら二の腕が眩しいッ!触りたい!」
「オイラはワッチってんだ。よろしくな」

慌てて名乗ると、それに被せてワッチと月見も自己紹介する。
トノヤはテーブルの上から足をどけて、「トノヤ」と一言いっただけだった。

「ドムじいの紹介だっていうから、トロールでも来るのかと思ってたけど。
違ったみたいね」

リアは手に持った瓶の中身をその場で飲み干し、肩にかけたタオルで
口元を拭うと、ずかずかとワッチの座っているソファーの後ろから
大きく回りこんで書斎机の前で立った。
まるで職員室に呼ばれた生徒を叱る教師のように腕を組み、そっけない
口調で4人の顔を順々に見る。

「意外に早かったわね。もしかしたら今日中には着かないんじゃないかと
思ってたわ」
「ていうかここに来るまでどんだけ苦労したか!」

思わず立ち上がって、両こぶしを握る。力が入ったせいでまた腹の虫が
鳴くが、リアはそれにはとりあわずうなずいた。

「ええ。聞いたもの」
「え?」
「サジー」

呼ばれて――
後ろの扉がいきなり開き、ひとりの老人が歩み出てきた。

「うぉお!?……さっきの根暗なんとか!」
「ネクロマンサー、でしょ」

悲鳴をあげてのけぞるファングの指摘を静かに訂正して、
書斎机のふちに寄りかかるリア。
組んだ腕の一方で真後ろの窓を示してから、いまだ爪を噛むのをやめない
サジーとやらを指さす。

「裏の墓場、見たでしょ?サジーはそこの墓守なのよ」
「墓守…?」
「じゃ、あの変な鳥はなんなんだよ?骨で…できた」
「鳥?――あぁ、彼の使い魔よ」

礼儀の無さに関して言えば彼女を上回るトノヤのことばにも、
眉ひとつ動かさず答えるリア。

「ごめんなさいね。迎えに出せるのが彼しかいなくて…。
でも無事着いてよかったわ」
「こんなん迎えによこすなよ…」

頭を抱えてトノヤが沈黙する。それにはファングも同感だった。
月見とはいうと、さっそく話に飽き始めたのか足をばたつかせて
ソファーを揺らしていた。ワッチは話の内容より、いつ自分が座っている
場所が陥没しないかという事のほうに気を取られているようだった。

「セバスと私はここを動けないもの。それに、ドムじいが言ってた目印になる
剣っていうの、見つけられるのは彼ぐらいしかいないから」
「剣って…こいつのことか?」

リアの言葉に、ワッチが鞘に収まったままのンルディを剣帯から外して見せた。
一番の反応を見せたのはやはりサジーとやらだった。爪を噛むのをやめて、
ひときわ高い声で笑う。と、控えていたセバスが無言で老人を引っ張って
ずるずると引きずっていった。

「それがンルディ?…ふうん、普通ね」

執事と老人が出てゆくのを待たずに、リアが腰を屈めてワッチに顔を近づける。
そっけない台詞にワッチはにやりと笑みを浮かべて、ぐっと腕を伸ばして
得意そうに魔剣を掲げた。

「ところがどっこい、実はこいつは――」
「七色に光るんでしょ?それと、アンデッドを完全に葬り去る力を持っている。
――まぁ、サジーがなんでそんなのに興味を持ったのかわからないけど。
それはそれとして、本題に入りましょうか」

そう言って、さっとこちらを向いてくる。ファングは自分が何をすべきか
瞬時には判断できなかったものの、リアの問いかけるような視線でやっと
思い当たり、慌ててザックから菓子袋の包みと、布切れで包んだ棒状のものを
テーブルの上に置いた。

「これ…なんすけど」
「なによこれ」
「や、だから依頼の品。直してほしいんすけど」

いきなり眉根を寄せて不穏な声で言ってくるリアに、きょとんとして答える。
彼女はこわごわと菓子袋に手を伸ばしながら、それを真っ向から否定した。

「そうじゃなくて!このスナック袋はなんだって聞いてるのよ」
「遺産の欠片っす」
「ちなみにじゃがバタおでん風味ですッ★」

余計なちゃちゃを入れてくる月見にちらりと不審そうに目を向け、
リアは菓子袋を両手で広げた。
中身は最初に入れた時より数を増やした欠片が、スナック菓子の残りと
油と塩にまみれてなお、輝きを失わずにそこにあった。

がっくりとリアがその場に膝をつく。額をテーブルのふちにくっつけて、
わなわなと菓子袋の端を持ったままの両手を震わせている。

「なんでこんなことできるわけ…?」
「なかったんスよー袋が」

いやぁ、と照れるように頭の後ろを掻く。次いで、口々にほかの3人も
フォローを入れるように口を出す。

「慌ててその場で食べたんだよね!」
「オイラ、コンソメパンチのほうがよかったんだけどな」
「いや絶対ジャガバタおでん風味だって。わかっちゃいねぇなオヤジ殿」
「あーもー。これ使えないわよ?こんな不純物だらけのガラス…」

ようやっとそこで顔をあげて、無念そうにリア。立ち上がり、菓子袋は
そこに置いて布の包みを取り上げる。布をすぐ払おうとするが――ふと
手を止めて、じっとりとした目でこちらを見てくる。

「…この布は?」
「いや!それは普通の布っすよ!なんすかその目!」
「おう。間違ってもふんどしじゃないから安心しろや」
「力の限り推薦したら力で阻止されましたッ!なんという無念!」
「……」

明らかに不審さを拭えない顔でため息をついてから、さっと布を取り払う。
顔色はすぐに変わった。現れた透明の棒をあらゆる角度から観察しはじめる。
きら、きらと光の反射の違いによって輝く遺産をたっぷり時間をかけて見て、
ぽつりと一言。

「綺麗ね」
「…な、直せそうっすか?」

リアはおずおずと尋ねてきたファングへと視線を移すと、今までの挙動の
中で一番丁寧な所作で遺産を布に包みなおしながら、頷いた。

「時間はかかるかもしれないけれど、やってみるわ」
「まじっすか!?」

思わず立ち上がる。彼女は傷ついた小鳥を抱くように布の包みだけを
書斎机に静かに置くと、自分は回り込んで革張りの椅子に座る。
引き出しから一枚の紙を出し、ペンが刺さったままのインク壷を
押しやってきた。

「そこに名前書いて。あなたのだけでいいわ。あと依頼内容もね」
「よっしゃー!!」

書斎机に飛びついてインク壷から羽ペンを引き出す。長い間インクに
浸っていたペン先は見れたものではなかったが、加えてリアが
差し出してきたフェルトで拭きとってから、書き始める。

「ところであなた達。さっきから気になってたんだけど、もしかして
お腹減ってる?」
「減ってる!スゲー減ってる!なんか食わせろ!」
「よッ!副将軍ストレート!」

待ってましたとばかりにファングの後ろでトノヤが立ち上がる。
月見も同じく立ち上がり、大仰な手振りでそれを後押しした。

「じゃ、屋敷の裏で薪割りよろしく」
「あ"ぁ"!?」
「生野菜とか生肉が食べたいならいいけど?」

書斎机に肘をついてにっこりと笑うリアの顔に、ぐっと口をつぐむトノヤ。
するとワッチが指を鳴らしながら立ち上がり、なぜか楽しげにがっちりと
トノヤの肩を掴んだ。

「よっしオイラにまかせとけ!行くぞトノヤ!」
「おいコラ!ふざけんな!」
「あ。たまに変な音がしても幽霊の仕業だから気にしなくて大丈夫よー」
「ファイオーですぞ副将軍!これも皆の暖かいごはんの為!非体育会系の
自分はここでファング君の契約書作成を応援してますゆえー!」

人事のように遠くから声を張り上げて手を振る月見を睨み、トノヤは
引きずられながらファングを指差して怒鳴った。

「ファングおめー絶対来いよ!すぐ来いよ!じゃねーとどうなるか
わかってんだろうな!」
「へっへー。いってらっさいトノヤ君ー。俺はしーっかり3時間ぐらいかけて
から行くからよろしく♪」
「ぶっとばす!」

消えて行くトノヤとワッチに月見と同じようにぶんぶんと手を振り、
扉の閉まる音とトノヤの怒鳴り声を聴きながら、ファングは
満面の笑みで契約書にペンを走らせた。

――――――――――――――――

2007/09/24 00:13 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖25 /トノヤ(アキョウ)
キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見・リア・セバス
場所:ヴァルカン/古い屋敷内
___________________

積み上げられた薪の上に、肩肘をついてダルそうに座っているのはトノヤ。
斧を片手にトノヤを睨み、いつでも来いと構えるのはワッチ。

「ほい」

やる気のないトノヤの手から薪が一本宙を舞う。

「ふんっ」

コッと乾いた音を立てて薪は真っ二つに割れ、ワッチの後ろに着地する。
ワッチの後ろには綺麗に割られた薪達が山積みになっている。
薪を割るために用意された切り株は寂しそうにポツンと隅に追いやられていた。


「ほい」
「おりゃっっ」

また一本。

「ほいほいっと」
「ふんふんがっ」

今度は二本。

「五本同時っ、ほいほいほいほい、ほいっと」
「うりゃりゃりゃりゃーーー!!ふげっ」

急に五本同時に投げられ、割損ねた一本がワッチの眉間に見事ヒットした。

「ぐぅうう、いたた~~……少年!今一本だけ明らかにオイラの眉間狙っただろ!遊
んでるんじゃないんだぞ!!!」
「だはははははは!修行が足りねーんだよ、親父殿!ひぃひぃ」
「な、なにをぉおおお!よし、もっと投げてみろ!全部打ち取ってみせる!」

「あーあー、やってるやってる。絶対こうなってると思ったんだよね」

修理の手続きを終え、様子を見に来てみればやはり真面目にやっていない。
ファングはやれやれとバンダナに手を当て、遊んでいる二人に近づいた。
近づいても気づかないほど熱中している二人に声をかけようとしたところで、ふと、
気づいた。

「あれ、月見は?」

肉体労働の薪割りより手続きを選んだ月見だったが、すぐ飽きて先に薪割りの様子を
見に行ったはずだったのに。
姿が見えない。

「おーい、そこの破天荒と不良少年、破廉恥こっちに来なかった?」
「あ、ファング。手伝いに来てくれたのか?でももう終わるよ、っていうかちょっと
割りすぎたかも」
「てめっ!おせぇんだよ!今頃のこのこ来やがって」
「ねえ、聞いてよ、人の話。月見来なかった?ずいぶん前にこっちに行ったと思った
んだけど」

遊んでいたようでちゃんと薪は割り終わっていたようで。
何日も持ちそうなほどの大量の薪が山になっているのが見えた。
ワッチは斧をもとの場所へしまっているところだった。

「月見~?来てないと思うけどなぁ。オイラ薪割りに夢中で気づかなかったな」
「きもちわりぃ奇声発する幽霊ならいたけどな」
「げっ、マジでここって幽霊でんの!?」
「そうそう、出た出た。働く男の汗はなんて美しいんダッ☆うひょーーーう☆とか
ゆって。気持ち悪かったから少年が薪投げつけたら居なくなったけど」
「マジうぜぇよ。鼻息荒ぇし、一回投げつけただけじゃくたばらなくてよ。三本めで
やっと、こ、これも愛ッ☆とかいいながら、成仏したんだよな」
「ちょ、と、え。それって…さ。えええ!?どう考えたってそれ月見じゃん!!」

なんで気づかないかな!と、急いで、幽霊が出たという墓石の陰に向かうファング。

覗き込んでみると案の定、眉間に三つのたんこぶをこさえながら気絶している月見を
発見した。
気絶しているくせに幸せそうな顔をしていたのは気づかなかったことにして、とりあ
えず起こそうと、月見のたんこぶを木の枝でつついた。

「つんつん。おーい、生きてるかー?」
「……うぺっ。んがっ!?目覚めたら目の前にはバンダナ王子が目覚めのチッスをs
……」
「するかぼけ!ぎゃー!巻き付くな!人間の動きをしろ!」

軟体動物のように腕にまとわりつく月見をどうにか引きはがしながら、薄気味悪い墓
の群れから離れ、凸凹二人のもとへ……

「って、いないし!」

さっきまでそこに居たはずの破天荒と不良少年は、すでに屋敷の中へ戻ったようだっ
た。

「あっは、ファング君もボクも放置プレイ☆」
「なんなんだよこのまとまりのなさは~~~!ったく、くだらない事言ってないで俺
たちも屋敷に戻るぞ」
「イエッサー」



屋敷に戻ると、用意が終わるまで湯でもあびていてください、と執事に言われ、浴場
へと案内された四人。
下手な宿より待遇が良い。
危険因子の月見を先にいれ、執事に事情を説明し、見張ってもらっている間に男共は
浴場へとを急いだ。
見張ってもらっているとわかっていても、なんとなく急いで済ませてしまったのは三
人とも同じだった。
ほかほかといい気持ちで出て来て、ワッチが一言。

「これってさ、普通だったら逆だよな……」
「………」

なにが、と、言わなくても無言でうなずくファングとトノヤ。

「……なかなか苦労しているようですね」

執事のつぶやきに三人は同時にため息をついた。


食事ははじめに通された応接室ではなく、少し広めのダイニングに通された。
暖炉と、テーブルと、10脚ほどの椅子だけが並ぶ、とても質素なダイニング。
すでにテーブルの上には前菜と飲み物が用意されていた。

「わお!なにやらオシャレな晩餐会のよ・か・ん☆がしますぞー!」
「なんか、ここまでしてもらっちゃって良いのかな~」
「肉料理多めだといいなぁオイラ」
「あーやっとメシだー」

それぞれ好き勝手な椅子に座り、前菜をあっというまに空にしてしまった。
これだけじゃぁ、足りない!とお行儀もへったくれもなく騒ぎだす困った四人組。

「お待たせいたしました、こちらメインディッシュの川魚の南蛮焼き、山羊のグリル
……ああ、そちらはパンペルデュと、きのこの……」

執事がワゴンにいっぱいのメインディッシュを説明しながらテーブルに並べている端
から、皿はどんどん空になり積み上げられていく。
並びきるのも待ちきれず、ワゴンから勝手に好きなものを取り始める始末。
月見はすでにデザートに手を出し始めていた。

「まったく、屋敷の食料を根こそぎ食べ尽くす気?ほどほどにしてよね」

十数枚重なって塔のようになった皿を両手に、給仕室へと消えた執事と入れ替えにリ
アがあきれた様子で入って来た。

「うまいっす!ごちになってまふ!もぐもぐ」

頬袋にいっぱい食料をつめこみながらファングは屋敷の主に礼を言った。

「当たり前でしょ、うちのセバスの料理は一級品よ。ところで、修理に数日かかるけ
ど、あなたたちどうする?いったん街へ戻る?空いている部屋があるからここに泊
まっていっても良いけど」
「でひればここひおひゃましたいれふ。おれたひあんあもちあわへないんれこうつー
ひとああんm……」
「……ものを飲み込んでからしゃべっていただけるかしら」
「ぅん、ごっくん。ここにお世話ンなっても良いですか」
「わかったわ。部屋とか色々セバスが案内するわ。じゃ、私は作業に戻るから」

扉を開けかけて、ふと、リアは振り返った。

「タダで泊まれると思ったら大間違いよ。そのぶん働いてもらうからね。ふふふ」

物凄い笑顔を残して屋敷の主は作業場へと戻っていった。


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2007/10/04 23:00 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖

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