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2025/07/16 06:20 |
46.十三夜/ニーツ(架月)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  メイルーン 市長邸・図書館
NPC 市長(クリスティ)・クーロン
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 どうしても、理論に何かが足りない気がして、ニーツは本を閉じた。
 夜の帳もすっかり落ち切り、既に月が皓々と地上を照らしている時間帯である。大体この時刻になると、クリスティやらエドガーやらが、何故かお茶を持ってこの部屋にやって来る。折角ハドソン夫人が八重に夢中だというのに、夜は彼が寝てしまうために、夫人も引っ込んでしまうのだ。代わりに出てくる二人は、何故かニーツに執心の為、こんな時刻にお茶、と言う事態が起こる。
 出来れば、どちらかが来る前に、いなくなりたい。
 窓を開けると、夜の冷たい風が、部屋の中にスッと入り込んできた。日がな一日本に向かっているニーツにとっては、心地良い。
 フワリと、ニーツは窓の外に跳んだ。そのまま屋根の上に移動し、空を見上げる。今宵は十三夜。もうほとんど真円に近い月が、ニーツを見下ろしている。
「さてと…、こっちも気が進まないが、行くか」
 なんだか最近、気の進まないことばかりさせられている気がする。心の中で自嘲したニーツの姿は、一瞬後には、其処になかった。

「おねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃん…」
「ああ、ちょっと待って下さいよ!今日くらいは!!」
 嬉しそうにお茶を運ぶ市長-クリスティをと、それを必死で止めるイートンは、書斎の扉を開けた瞬間、キョトンと目を瞠った。其処には誰もおらず、開け放たれた窓から入ってくる夜風が、カーテンを揺らすのみ。
「おや…留守ですか…」
「えー、おねぇちゃんいないのぉ?」
「あの…何度も言うようですが、ニーツ君は女の子じゃないですよ」
「違うよぅ。おねぇちゃん、男の子じゃないわ」
 ある意味、どちらも正しい。
「と、とにかく、今日はいないんですから、仕方ありませんよ」
「え~!!おねぇちゃんと遊びたい!!」
「遊ぶほど、ニーツ君は暇じゃないんですから。ほら、今日は僕が遊んであげますから」
 エドガーとか、ハドソン夫人と入れ替わらなければ。心の中で、こっそりと付け足す。
「えー、じゃあ、仕方ないわ。イートンおにいちゃんで我慢してあげる」
「あ、ありがとうございます…」
(僕も明日は、蝙蝠とか運ばなきゃいけないのに…とほほ)
 クリスティに答えながら、心から涙するイートンであった。

-トン-
 軽い音を立てて、ニーツはその場に降り立つ。
「来よったな」
「来て悪いか」
 すぐ右手の暗がりから聞こえてきた声に不機嫌に答える。
「此処は静かに本を読む場所だぞい。騒がれると困るのじゃがな」
「どうせ、俺しか来る奴はいないんだろう?」
「言いよるわい」
 フッと奥の声の主は、鼻で笑った。
「久しぶり、という感じは全然しないのぅ」
「当たり前だろう」
「お前が来るんだったら、ポポル辺りを呼んでおけば良かったかの?」
「嫌味か?それは」
「おや?嫌いだったかね?ニーツちゃんニーツちゃん騒いでおるぞ?」
「その呼び方がなければ、な」
 心底嫌そうに呟いたニーツに、奥の声は可笑しそうに笑った。
「今日は調べ物かね」
「ああ。見るくらいは良いだろう?」
「別に構わんよ。お前以外、来る者もいないしな」
 ニーツは、声の方を見た。其処には、見覚えのある老人-クーロンの姿。
「それにしても、どうしてお前は、人間の為などに其処までするんじゃ?」
 ふと、クーロンが尋ねた。次の瞬間、辺りの景色が一変する。真っ暗闇だった空間が、天まで届きそうなほど高く、広い本棚群に変わる。
 普段は”知識”という形で保管されている膨大な量の蔵書は、こうして、司書の手によって”本”という形で再現されるのだ。勿論、来た客にどれほど知識を与えるかも、司書はコントロールする事も出来る。特に、貸し出し禁止の指定がされている本は、危険な知識等もあるため、司書が認めた一部の者たちしか見ることが出来なかった。
 彼らが『知識の番人』と称される所以である。
「さあ、な」
 本を一冊手に取りながら、ニーツは答える。本来なら、”知識”を全て把握しているクーロンに、蔵書の内容を尋けば良いだけの話なのだが、ニーツはこうやって、本を捲りつつ自分で探すのが好きだった。
 それを知っているから、クーロンも何も言わないし、教えない。
「単なる好奇心って奴さ」
「ほおう…」
 小さく関心の声を上げながら、クーロン。
「そう言えば、あやつも同じ事を言っておったのう…」
「あやつ?」
「お前を育てた男だ」
 一瞬、ニーツのページを捲る手が止まった。そして、
「ああ」
 気のない返事と共に本を閉じ、別の本を取り出す。
「人間とは、とても興味深い生き物だ。いつか人間と魔族が一緒に暮らせる日が来るとか何とか言っておったわい。所詮は夢物語だと思っておったがの。お前もその影響か?」
「………養父の事は、あまり覚えていない」
 寧ろ、忘れていた。あの、エルフの森の一件以来、ぼんやりと思い出しているのだが…
「ふん。そうかい。では、今度ゆっくり話しでもするかの……それにしても、お前やあやつを見ていると、どうしても、思うな。知識ばかりのワシらより。お主らの方が色んな物を知り、様々な物が見えておると。羨ましいことだ」
「クーロン…」
「さて、これ以上邪魔しても悪いからの。ワシは退散するよ。また、見付からなかったら声を掛けておくれ」
「あ、ああ、悪いな」
 小さな笑い声をあげて、クーロンの姿が消えた。
「人間との、共存か…」
 一人残されたニーツは、静かに手に持っていた本を開く。
 ニーツの、紙を捲る音以外、何も聞こえないこの空間で、ニーツは一人、思いを馳せる。
 自分の生まれてきたことの意味。長く、考え続けていたその答を。

「これ、借りて行くぞ」
 漸く見つけた『ドクター・レン』に関する本数冊を片手に、ニーツはクーロンに話しかけた。
「おや?お前は貸し出し禁止にしていた筈じゃぞ?見るだけだと言っておったじゃないか」
「まあ、良いじゃないか」
「駄目だ。…まあ、どうしても、って言うなら反省作文10枚追加で手を打っても良いが」
 にやりと、意地悪そうな笑みを浮かべ、クーロンが言い放つ。
「せめて5枚」
「聞けんなあ」
「6枚」
「ふふふ」
 一向に折れる様子のないクーロンに、ニーツは小さく舌打ちする。
「チッ。仕方ない」
「お前がどんな反省文を書いてくれるか楽しみだわい」
「追加分はお前への恨みで埋めてやるよ」
 そう言って立ち去ろうとしたニーツを、クーロンはニーツ、と名を呼んで引き留めた。
「…何?」
「気を付けなされよ。あの土地には、未だレンの影響が色濃く残っている。あと、リアン兄弟のもな」
「ああ」
「ちゃんと戻ってくるのじゃぞ?まだ説教聞かせてないからな」
「…」
 曖昧な笑みを浮かべ、ニーツの姿が消える。
 それを見届けたクーロンは、寂しそうに呟いた。
「それにしても、あやつの事を忘れているとは。いや、自分で忘れたのかな。余程…」

 メイルーン市長邸に戻ってきたとき、既に月は沈みきり、太陽が主導権を握る時刻となっていた。
 今頃は、いつものごとく八重がハドソン夫人に追いかけられ、イートンは材料調達に行っていることだろう。実際、書斎の窓から中庭を見下ろすと、市長らしき人物が誰かを捜し回っているのが見える。八重は、今日も草むらに隠れているのが見えた。良い囮、というか生け贄になってくれている。夜もそうしてくれれば有り難いのだが。
「さあて。後はこの本に載っていた理論を組み込めば完成、だな」
 ニーツは、一つ大きな伸びをして、窓から離れた。窓は、そのまま開け放しておく。
 明日の夜までには十分間に合うだろう。
 取りあえず、少し眠ろうとニーツは思った。

 満月まで、あと二日。
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2007/02/17 23:40 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
47.前夜祭/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  メイルーン 市長邸
NPC ナスビ・クリエッド・市長ワトスン(クリスティ・ハドソン夫人)
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 儀式前日。召喚術に必要なアイテムを揃える為に、イートンとクリエッドは早朝から馬車に乗ってクーロンへと向かった。やはり、怪しげなアイテムを入手するなら、あの町ほど適した場所は無い。金さえ払えば、あの町の商人は何でも揃えてくれるのだから。

 流れる景色を眺めながら、イートンは八重と出会った頃の事をぼんやりと思い出す。ソフィニアからクーロンに続く街道で、二人は出会った。
(私たちが出会って、まだ一ヶ月も経っていないのか・・・)
 確か、出会って直ぐに八重のルナシー化を目の当たりにしたのだ。あの、恐ろしい人喰いウサギの姿を。その時体験した恐怖に、一瞬体を震わせながらも、イートンは自分の勘が外れていなかった事を強く核心する。
(あの時は勢いで旅に同行させてもらったんだよなぁ)
 英雄の物語を書く。それが最初のイートンの旅の動機であった。それまでにも、何度か小旅行を繰返してはいたが、今回は長い旅になる事を覚悟して屋敷を出た。そして、今まで読んだどんな物語より刺激的な生活をしている気がする。魔族のニーツが仲間になり、可愛らしくも不思議な生き物が自分の足元を転がっている。
(今は、小説を書く暇も無いな)
 この物語の結末を知る者は、今はまだ誰も居ない。

「あのー、これー、何か・・・動いてるんですけど」
「そうですね、イートンさん」
 いや、むしろ浮いている。
 クーロンの奥まった路地を通り、一見何屋だか分からない小さな店の中に二人は立っていた。もちろん、如何にも執事と言った出で立ちのクリエッドと、お坊ちゃま然としたイートンがそんな場所を通っていけば注目を浴びるのは当然で、一目見るなり物盗りに変身した男たちにクリエッドが乱射するという一幕があったり無かったり・・・。
「儀式には新鮮な生贄が必要なさかいなぁ」
 店の外観に劣らぬ怪しげな店主が、訛りのある口調で商品の説明を続ける。
 置かれた箱全てが何らかの運動性を持っていて、ガサ、ゴソと音を奏でる。むしろ唯一動かない、一番小さな箱が異様な波長を放っていて怖い。
(しかも、やたらに重いし・・・)
 元々体力には自信が無いが、腰が抜けそうな程に、重い。
 敢えて何が入っているか訊かない事にした。

 市長邸に帰還したのは、既に随分と夜が更けた時刻であった。
(気持ち悪い・・・・) 
 動く荷物の番をしていたイートンは、完全な乗り物酔いに陥っていた。そんな様子を見てクリエッドが言葉をかける。
「荷物運びは屋敷の者にさせましょう」
「すいません、クリエッド」
 空を見上げれば満月と見分けがつかぬほど丸い月が地上を照らしていた。八重は今ごろどんな思いでこの月を見ているのだろう。
 庭の方でガサゴソと音がした。
 しかし、好奇心よりも疲労感の方が強いイートンは敢えて見ないふりをして玄関に向かう。
(きっとナスビちゃんが遊んでるんですね・・・) 
 そして、その勘は間違っていなかった。

「ようやく帰ってきたか」
 ホールには、疲れた顔をしたニーツがいて、そんな彼を口説くエドガーが居た。
(・・・人が疲れてる時に、その顔晒しやがって)
 などと思っている事など微塵も感じさせないホエホエとした笑顔のまま、イートンはエドガーを「邪魔です」と追い払い、ニーツの顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?顔色が悪いですけど・・・」
 彼もだいぶ無理をしているのだろう、普段より青白い顔をしたニーツはそれでも首を振って、無理に表情を明るくして見せた。会ったばかりの時に比べて、彼の態度は随分と柔らかいものに変わっていた。少女とも見紛う容姿の彼だが、時折見せる徹底した冷徹な態度も彼の本性であろう。
(魔族がどんなこと考えてるか何て、人間の私には分からないけど・・・)
 彼が、自分たちに親しみを覚えるくらいには仲良くなっていると思うのは、自惚れでは無いはずだ。
「で、これを明日の夜までに覚えろ」
「・・・・・え?」
 別のことを考えていたので、イートンの反応はかなり鈍かった。細かく、几帳面な文字が紙の上を走っていた。枚数にして6枚。
「うわー、ニーツ君って字、綺麗ですねぇ」
「出来ないのか?」
 癖のある字にコンプレックスを持つイートンはとりあえず逃避してみる。しかし、ニーツの視線がそれを許さない。全ての紙に目を通したイートンは観念したように息を吐いて言った。 
「うぅ、頑張ります・・・」
今夜は眠れそうに無い。


2007/02/17 23:43 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
48.捕まえられたら/八重(果南)
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PC 八重・イートン・ニーツ
場所 ヴェルン市長亭 
NPC クリエッド・ワトスン市長(ハドソン・ジェームス)・ナスビ
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「今回の作戦を説明する」
 そう言ってニーツはテーブルの上に大きな紙を広げた。テーブルを囲んで八重、イートン、クリエッド、そしてイートンの膝からテーブルに乗り移ったナスビがその紙を覗き込む。
「これ、ヴェルン湖周辺の地図ですよね」
 ニーツが広げたヴェルン湖周辺の地図には、赤いペンでしるしがつけてあり、しるしの横にはそれぞれ、ポイントA、ポイントBという言葉が書かれている。
「見てわかると思うが、今回の作戦はこのヴェルン湖で行う。ここに空き地があるだろう」
 そう言ってニーツは指でポイントAを指した。
「俺とイートンは市長より先に行ってここで待機し、召喚ゲートを張る。クリエッドはこのポイントA付近に邪魔者が入ってこないように見張っていてくれ。誰一人として入れるな」
「分かりました」
「そして、八重」
 ニーツの言葉に、八重は顔を上げた。
「お前の役目は市長をヴェルン湖のポイントBに誘い出し、魔族化した市長をある程度弱らせ、挑発し、ポイントAにおびき寄せることだ。まあ、あまり期待はしてないが、頑張れ」
「ひどい言い草だな」
「当たり前だ。変身したらお前は自我もなく暴れまわるんだろう。それに、そのお前をコントロールするのがあれじゃ、な…」
 ニーツに冷たい視線で見られ、ナスビは憤慨して言った。
『オマエ、我輩の新の実力が信じられないとでも言うのかッ!』
「しょうがないですよ、ナスビちゃん」
 イートンが苦笑して言う。
「いつもそんなコロコロしてるんですから。本当は強いって言われたって、にわかには信じられませんよ。ねぇ、ニーツ君?」
「まあ、一種の危険な賭けかもな」
『イートン!ニーツ!!』
 ナスビはふんっと鼻を鳴らすとえらそうに言う。
『まあいい。貴様らがそんな軽口を叩いていられるのも今のうちだ。<ヴェルンの涙>を持つ我輩の新の力を見た暁には、貴様らなんぞもう足元にも及ばないほどのビューティフルかつ、最強の我輩の姿をその目で拝ませてやるからなッ!』
「ああ、分かったから、お前は八重と市長のすぐ側に潜んでおけ。いいな?」
 それでも、『いーや、貴様らは我輩の実力を分かってないッ!!』とばたばた暴れるナスビと、それをとりおさえるイートン、冷たく見つめるニーツの喧騒をよそに、八重は窓の外を見つめていた。青白い、病人のような月がこっちを見ている。
(俺は、いつまで<ルナシー>でいなくてはならないんだろうな…)
 八重はため息をついた。
「…‥エンジ…」


「ああ、夢のようだわ」
 ヴェルン湖が、夕方の光に紅く染まるころ、<勝負モード>の化粧をしたハドソンは、八重とともにヴェルン湖畔を歩いていた。
「こうして八重様と夕方のヴェルン湖畔を散歩できるだなんて…。なんてロマンチックなんだろう…。ねぇ、そう思わないこと?八重様?」
 一人勘違いをしているハドソンに、八重はいつになく優しく笑いかけた。
「ふふっ」
「あら、今日はご機嫌がよろしいのね?」
 ハドソンが顔を輝かせる。
「いつもなら、すぐ私の前からいなくなってしまわれるのに。ねぇ、もしかして、私の求愛に応えてくれる気になったのかしら?」
「求愛、ね…」
 ヴェルン湖に夕日がゆっくりと沈むのを見つめていた八重は、不意に言った。
「ミセス・ハドソン、<おにごっこ>は好きかね?」
「お、おにごっこ?」
 困惑した表情を浮かべるハドソンに、八重は言う。
「君がおにで、私が逃げる。それで、もし君が私を捕まえられたら」
 夕日は、もう一本の赤い筋になりかけていた。八重は言う。
「君の言う、求愛とやらに応えてやろう」
「そ、それは本当かい?八重様!」
 ハドソンが興奮のあまりばふーっと鼻息を噴き出す。夕日は、最後の光を残し、西の空へ消えた。
 夕日が消えたとたん、ハドソンの肌がどす黒い色に黒ずんできた。顔と手に、もしゃもしゃと黒い体毛が生え、瞳の色が血のような紅い色に染まっていく。
『くんくん、匂うぞ匂うぞ。オマエも<モンスター>だろ?』
 今やヒトの原型を失いつつある<ジェームス>はにたぁっと笑った。
『オレはなぁ、一度でいいからオマエみたいなタフなヤツと戦ってみたかったんだよぉ』
「それは光栄だね」
八重が苦笑を返す。
『おにごっことかいったよなぁ?いいぜぇ、やってやるぜぇ』
ジェームスはぺろりと舌なめずりをした。
『捕まえて、オマエの肉を喰ってみてぇ』
「さて、そうカンタンに捕まえられるかな?」
 そういう八重の体からも徐々に白い体毛が生えてきた。目が鬼灯色に染まる。
「そのまえに俺がオマエを喰らってしまうかもしれないな」
 バリバリっと服が裂け、耳が伸び、体が巨大化する。一瞬後には八重の体は巨大なモンスター<ウサギ>と化していた。
「グルルルルゥっ…」
 <ウサギ>が恐ろしい唸り声を上げてジェームスを見下ろす。
『くははっ、やっぱ、そうこなくっちゃなぁ』
 ジェームスがにたぁっと笑う。
『こいよ、ウサ公。勝負しようぜぇ』



2007/02/17 23:44 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
49.ヴェルンの魔族再び/ニーツ(架月)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  ヴェルン湖
NPC 市長(ジェイソン)・ナスビ・ベル=リアン・ユサと部下達
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「大丈夫でしょうか。八重さん」
 儀式の準備もすっかり整い、あとはニーツの指示を待つのみになったところで、イートンが呟いた。
「まあ、大丈夫だろう」
「そんな安易な…」
「信じるしかあるまい?まあ、いざとなったら、俺が何とかするさ」
「ニーツ君一人で?」
「…今夜は満月だ。何とでもなるだろう」
 ニーツはそう呟き、夜空を見上げる。紅く色付く真円の月。
 そう、満月に影響されるのは何も融合生物だけではない。ニーツ達魔族自身もまた、その影響を大きく受けている。
 いつもより強い力をその身の内に感じながら、ニーツは視線をイートンへ移した。
「それより、お前もそろそろ詠唱を始めた方が良いぞ」
「ええ?もうですか!?」
「遅すぎて困ることはあっても、早すぎて困ることはないだろう?」
「そ、そうですけど…」
 と、カンニングペーパー片手にイートン。
「忘れたら、隣で教えて下さいね」
「ああ。…っと言いたいところだが…」
 ふとニーツは、何かを見つめるように、瞳を細めた。しばしの沈黙のあと、おもむろに、口を開く。
「イートン、此処はお前一人がやれ」
「ええええ!?何ですか?いきなり!!」
 あまりのことに、イートンは思わず絶叫した。
「野暮用が出来た」
「野暮用って…」
 脱力するイートンには全く構わず、ニーツは遠くを見つめる。
「クリエッドではヤバイな…
 イートン、いいか?失敗するなよ。タイミングを見誤るな。お前に全てが掛かっているんだからな」
「え?え?」
「早く終われば戻ってくる。じゃあ」
 言いたいことだけ言い置いて、ニーツの姿はかき消えた。後に残されたのは、呆然とするイートン。
「ちょっと待って下さいよ。僕一人でどうしろと…」
 こんな事なら、意地でもおじさんに頼んでおけば良かったと、イートンは思わずにはいられなかった。

 未だ戦闘の痕が色濃く残るヴェルン湖湖畔。
 そこでニーツは、”野暮用”に向かって、言い捨てた。
「何だ。どんな客かと思えば…お前か」
「随分とご挨拶だね。こっちは…待ちくたびれたよ!!」
 いきなり襲い来る炎の弾を、避けもせず、ニーツは腕ではじく。火傷一つ負っていないその腕を戻し、ニーツは相手をひたと見据えた。
「…死んだと思っていたがな」
「死ねるものか!シュワルツェネ兄の敵を討つまでは!!兄は…兄は…僕を庇って…」
 金の瞳に恨みと憎しみを宿し、野暮用こと、ベル=リアンはニーツを睨み付けた。
「自業自得だろう」
「うるさい!シュワルツェネ兄は、一度も間違ってなんかいない!」
 噛み付くように、ベル=リアンは否定する。
「兄は悪くない。間違っているのはお前の方だ!この、色違いのはみだし者!」
 勢いに任せて言い放たれた言葉に、ニーツの目の色が変わった。
 風もなく木々はざわめき、小さな生き物達は、息をひそめる。
 一瞬にして、世界がその存在を変えていた。ニーツの魔力が支配する世界へと。
「ほう…」
 ニーツの唇が、笑みを形作る。しかし、その目は笑っていない。
「懐かしい呼ばれ方だな…」
「シュワルツェネ兄が教えてくれたんだ!魔族としても、生き物としても、お前の存在はおかしいんだって」
 流石に魔族の端くれだけあり、ベル=リアンもひるむことはない。暫し睨み合う二人。先に口を開いたのは、ニーツだった。
「ふふ…確かに、そうかもしれないな。けれど…」
 ニーツが翳した手のひらに、信じられないほどの魔力が凝縮していく。
「俺を怒らせた事、後悔するんだな」
「く…おい!出てこい!!」
 ニーツの迫力に押されながらもベル=リアンは声を上げた。それに従うようにあちこちから飛び出してきたのは…
「人間を引っぱり出してきたか…確か、ユサとか言ったな?」
 不愉快そうに、ニーツは言う。ベル=リアンはユサ達を引き連れ、誇らしげに笑った。
「シュワルツェネ兄が遺してくれたんだ!」
 だが、ニーツはそんなベル=リアンに嘲笑で答えた。
「それで勝ったつもりか?愚かしいな」
「どうかな?人間相手に手が出せるの?」
「あまり、甘く見ないで貰いたいな」
 一瞬の沈黙。
 動いたのは、二人同時だった。

 "狂犬"と"ウサギ"が睨み合っているのを、じっと見守っている影があった。
 影は、ゆっくりと夜空に皓々と輝く月を見上げる。
 射し照らす光は、ゆっくりとその影にまとわりつき、変化していく。
 小さな、丸っこい影から、人影へ。
「やれやれ…」
 漏れ出る声は、紛れもなく、青年のもの。
「あの魔族も、大概人使いが荒い。いや、ウサギ使いか?」
 黙っていれば可愛いのに、と、すっかり変化を終えた影は独りごちた。
 一つに束ねた長い髪が、風に翻る。
 すらりと伸ばされた指の先に、仄かに光が灯った。
「古より定められし契約よ、我がマスター、ドクター・レンの名に於いて遂行されん。
 其は束縛を望むもの。我と彼とを繋げ。――鎖縛」
 青年の指先の光が弾け、見えない鎖が、暴れウサギへと絡みつく。
 今にも狂犬に飛びかかろうとしていた<ウサギ>の動きが止まる。くるりと向きを変え、反対方向へ駆け出した。
『あ、おい!待て!!』
 それをすかさず追いかける狂犬。二匹のそんな動きを確認して、彼は紅い瞳を細めた。
「さて、行くか」
 そう呟き、自身もその二匹を追うために、走り出した

2007/02/17 23:44 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
50.イートン、道《ゲート》を開く ~市長の苦悩編/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  ヴェルン湖
NPC 市長(ジェイソン)・ナスビ・ベル=リアン・ユサと部下達
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「イートン君、ちょっといいかな?」
 儀式の前夜、ニーツから渡された紙と必死に向かい合うイートンの部屋に、予期せ
ぬ来訪者が現れた。イートンはすぐさま扉の向こうの人物の正体に気づき、少し驚い
た表情で扉を開ける。
「どうしたんですか・・・市長・・・?」
 最近ではずっと他の人格に主導権を握っていた、ワトソンの久々の出現である。
「こんな時間に済まない」
「いえ。どうぞ」
 イートンはワトソンを部屋の中に招き人を入れようとしたが、彼はそれを片手で制
し扉の前で話を始めた。
「明日の儀式は私にとってとても重要な意味を持っている。君に失敗は許されない。
全力で当たって欲しい」
 高圧的な口調だが、これが本来のワトスン=ベーカーウォールの姿である。なまじ
クリスティやらハドソン夫人などという奇天烈な人格が潜んでいるため、元の人格の
彼がまともに見えるが、ワトソンとてメイルーンの市長を務める男である.
「でも、いいんですか?本当に・・・ジェームズがいなければ貴方は市長の座を追わ
れてしまうかもしれないのですよ」
 心配する素振りを見せながらも、皮肉な問いを乗せてしまうのは、イートンが彼と
いう存在を無条件で許せないからであろう。
「残念ながらそれはないだろう」
 イートンの心中など察することなく、市長は自嘲とともに答えた.
「君は知らないだろうが、すでに警備隊の指揮権は私にあるのだよ」
「フワセル一族はどうしたんですか?」

 フワセル一族、それはワトソンのベーカーウォール一族に並んでこの町で権力をも
つ一族だ。クーロンが今より更に混沌としていた頃、近郊のメイル―ンもまた暴力に
支配された町であった。町の荒廃を恐れた時の市長は、ある傭兵の一団を受け入れる
ことで自衛力を強化した。彼らのリーダーがインバル・フワセル、彼らの祖先であ
る。この町に住み着いた彼は尚、部隊の指揮権を渡すことなく地位を確立してきた。
時にはベーカーウォール一族を退け自ら市長となりメイルーンを動かした。しかし、
軍事面を強化した課税は商人、農民の反発を生み、それ以来、メイルーンでは二つの
勢力が事あるごとに、争いを続けていたのだ。
「彼らは既に存在しない」
――――ジェームズに食われた。
「――!」
「彼の行動は年々激しさを増してる。もう、私には止められんのだよ」
 自分の狂った人格が起こす悲劇をワトソンは今までずっと黙ってみているしかなか
った。『ヴィルンの涙』を見つけ、その効果を知ったときの喜びは図り知れぬものだ
った。ジェームズの魂を永久の葬り去る為に、ワトソンもこの機会を逃すわけにはい
かない。

「彼の罪は私の罪。それを補う為なら私は構うものなど無い」

 そう言って、ワトソンはイートンに頭を下げた。

-------
 遠より放たれた強力な魔力の波動は、微風となってイートンの髪を揺らし、頬をな
でた。長い間ニーツの消えた空間を眺めていた彼も、そこでやっと我に返って辺りを
見回す。
「はっ。いけない。早く始めないと、ニーツ君に怒られてしまう!」
 一人で行うのも心配だが、見られていると緊張するので、ちょうど良かったかもし
れない。イートンは今になってそう思い直した。
(間違えたら、すっごくにらまれそうだし・・・)
 森の入り口にはクリエッドが立っていて、ちょうど屋敷と湖を繋ぐ小道にB地点が
あった。目を凝らしても、まだ八重たちの姿は見えないが、月の魔力が既にこの潮に
充満している。そろそろ始めないと本当に間に合わないかもしれない。

 足元に置かれた袋を手にとる。もぞもぞと動く中身が一体何なのかはイートンも聞
かされていない。
 むしろ、恐くて聞けない。
 腰の短剣を抜くと、迷いなく袋に突き立てた。ビクンと大きく痙攣したソレは動く
のを止めた。滴る血が、魔方陣をぬらし、イートンの袖を染める。
(あぁぁぁぁ。ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!祟ったりしないで下さいね)

 ――――満る月の下、九十九の贄と我が血をもって汝に捧げる。
 双頭の獣を従え、紅き剣を佩く門の番人よ、
 いま一時の気まぐれに我が呼び声に答え給え。
 溢れる杯は汝の手にあり。
 金烏は羽根を落とし、足元に伏したり。
 我は開門を願う者なり。
 魔界とこの地を結ぶ高き番人よ、
 漆黒の空より降り立ちて、その光を<道>と成せ――――  

 イートンの呪文に答えるように、文字が浮かび上がり光り始めた。さすが、ニーツ
が頭を悩ませて作っただけある。特別なマジックアイテムと段階さえ踏めば魔力のな
い者でも行使できる、理論重視の魔法陣。魔力に溢れた人間ならもっと簡単に儀式を
行えるであろう。
『だから意味があるんだろう?下手に厄介な魔族を降ろされても困るしな』
 そう言ったニーツの言葉を思い出す。さらにこんな事も言っていた。
『ようは気合だ、気合』
 ソレが一番自分に欠けているような気がしなくも無いが。

 カンニング・ペーパを捲りつつ、イートンは長い詠唱を続けた。

2007/02/17 23:45 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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