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PC 八重 イートン ニーツ
場所 ヴェルン湖
NPC 市長(ジェイソン)・ナスビ・ベル=リアン・ユサと部下達
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「イートン君、ちょっといいかな?」
儀式の前夜、ニーツから渡された紙と必死に向かい合うイートンの部屋に、予期せ
ぬ来訪者が現れた。イートンはすぐさま扉の向こうの人物の正体に気づき、少し驚い
た表情で扉を開ける。
「どうしたんですか・・・市長・・・?」
最近ではずっと他の人格に主導権を握っていた、ワトソンの久々の出現である。
「こんな時間に済まない」
「いえ。どうぞ」
イートンはワトソンを部屋の中に招き人を入れようとしたが、彼はそれを片手で制
し扉の前で話を始めた。
「明日の儀式は私にとってとても重要な意味を持っている。君に失敗は許されない。
全力で当たって欲しい」
高圧的な口調だが、これが本来のワトスン=ベーカーウォールの姿である。なまじ
クリスティやらハドソン夫人などという奇天烈な人格が潜んでいるため、元の人格の
彼がまともに見えるが、ワトソンとてメイルーンの市長を務める男である.
「でも、いいんですか?本当に・・・ジェームズがいなければ貴方は市長の座を追わ
れてしまうかもしれないのですよ」
心配する素振りを見せながらも、皮肉な問いを乗せてしまうのは、イートンが彼と
いう存在を無条件で許せないからであろう。
「残念ながらそれはないだろう」
イートンの心中など察することなく、市長は自嘲とともに答えた.
「君は知らないだろうが、すでに警備隊の指揮権は私にあるのだよ」
「フワセル一族はどうしたんですか?」
フワセル一族、それはワトソンのベーカーウォール一族に並んでこの町で権力をも
つ一族だ。クーロンが今より更に混沌としていた頃、近郊のメイル―ンもまた暴力に
支配された町であった。町の荒廃を恐れた時の市長は、ある傭兵の一団を受け入れる
ことで自衛力を強化した。彼らのリーダーがインバル・フワセル、彼らの祖先であ
る。この町に住み着いた彼は尚、部隊の指揮権を渡すことなく地位を確立してきた。
時にはベーカーウォール一族を退け自ら市長となりメイルーンを動かした。しかし、
軍事面を強化した課税は商人、農民の反発を生み、それ以来、メイルーンでは二つの
勢力が事あるごとに、争いを続けていたのだ。
「彼らは既に存在しない」
――――ジェームズに食われた。
「――!」
「彼の行動は年々激しさを増してる。もう、私には止められんのだよ」
自分の狂った人格が起こす悲劇をワトソンは今までずっと黙ってみているしかなか
った。『ヴィルンの涙』を見つけ、その効果を知ったときの喜びは図り知れぬものだ
った。ジェームズの魂を永久の葬り去る為に、ワトソンもこの機会を逃すわけにはい
かない。
「彼の罪は私の罪。それを補う為なら私は構うものなど無い」
そう言って、ワトソンはイートンに頭を下げた。
-------
遠より放たれた強力な魔力の波動は、微風となってイートンの髪を揺らし、頬をな
でた。長い間ニーツの消えた空間を眺めていた彼も、そこでやっと我に返って辺りを
見回す。
「はっ。いけない。早く始めないと、ニーツ君に怒られてしまう!」
一人で行うのも心配だが、見られていると緊張するので、ちょうど良かったかもし
れない。イートンは今になってそう思い直した。
(間違えたら、すっごくにらまれそうだし・・・)
森の入り口にはクリエッドが立っていて、ちょうど屋敷と湖を繋ぐ小道にB地点が
あった。目を凝らしても、まだ八重たちの姿は見えないが、月の魔力が既にこの潮に
充満している。そろそろ始めないと本当に間に合わないかもしれない。
足元に置かれた袋を手にとる。もぞもぞと動く中身が一体何なのかはイートンも聞
かされていない。
むしろ、恐くて聞けない。
腰の短剣を抜くと、迷いなく袋に突き立てた。ビクンと大きく痙攣したソレは動く
のを止めた。滴る血が、魔方陣をぬらし、イートンの袖を染める。
(あぁぁぁぁ。ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!祟ったりしないで下さいね)
――――満る月の下、九十九の贄と我が血をもって汝に捧げる。
双頭の獣を従え、紅き剣を佩く門の番人よ、
いま一時の気まぐれに我が呼び声に答え給え。
溢れる杯は汝の手にあり。
金烏は羽根を落とし、足元に伏したり。
我は開門を願う者なり。
魔界とこの地を結ぶ高き番人よ、
漆黒の空より降り立ちて、その光を<道>と成せ――――
イートンの呪文に答えるように、文字が浮かび上がり光り始めた。さすが、ニーツ
が頭を悩ませて作っただけある。特別なマジックアイテムと段階さえ踏めば魔力のな
い者でも行使できる、理論重視の魔法陣。魔力に溢れた人間ならもっと簡単に儀式を
行えるであろう。
『だから意味があるんだろう?下手に厄介な魔族を降ろされても困るしな』
そう言ったニーツの言葉を思い出す。さらにこんな事も言っていた。
『ようは気合だ、気合』
ソレが一番自分に欠けているような気がしなくも無いが。
カンニング・ペーパを捲りつつ、イートンは長い詠唱を続けた。
PC 八重 イートン ニーツ
場所 ヴェルン湖
NPC 市長(ジェイソン)・ナスビ・ベル=リアン・ユサと部下達
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「イートン君、ちょっといいかな?」
儀式の前夜、ニーツから渡された紙と必死に向かい合うイートンの部屋に、予期せ
ぬ来訪者が現れた。イートンはすぐさま扉の向こうの人物の正体に気づき、少し驚い
た表情で扉を開ける。
「どうしたんですか・・・市長・・・?」
最近ではずっと他の人格に主導権を握っていた、ワトソンの久々の出現である。
「こんな時間に済まない」
「いえ。どうぞ」
イートンはワトソンを部屋の中に招き人を入れようとしたが、彼はそれを片手で制
し扉の前で話を始めた。
「明日の儀式は私にとってとても重要な意味を持っている。君に失敗は許されない。
全力で当たって欲しい」
高圧的な口調だが、これが本来のワトスン=ベーカーウォールの姿である。なまじ
クリスティやらハドソン夫人などという奇天烈な人格が潜んでいるため、元の人格の
彼がまともに見えるが、ワトソンとてメイルーンの市長を務める男である.
「でも、いいんですか?本当に・・・ジェームズがいなければ貴方は市長の座を追わ
れてしまうかもしれないのですよ」
心配する素振りを見せながらも、皮肉な問いを乗せてしまうのは、イートンが彼と
いう存在を無条件で許せないからであろう。
「残念ながらそれはないだろう」
イートンの心中など察することなく、市長は自嘲とともに答えた.
「君は知らないだろうが、すでに警備隊の指揮権は私にあるのだよ」
「フワセル一族はどうしたんですか?」
フワセル一族、それはワトソンのベーカーウォール一族に並んでこの町で権力をも
つ一族だ。クーロンが今より更に混沌としていた頃、近郊のメイル―ンもまた暴力に
支配された町であった。町の荒廃を恐れた時の市長は、ある傭兵の一団を受け入れる
ことで自衛力を強化した。彼らのリーダーがインバル・フワセル、彼らの祖先であ
る。この町に住み着いた彼は尚、部隊の指揮権を渡すことなく地位を確立してきた。
時にはベーカーウォール一族を退け自ら市長となりメイルーンを動かした。しかし、
軍事面を強化した課税は商人、農民の反発を生み、それ以来、メイルーンでは二つの
勢力が事あるごとに、争いを続けていたのだ。
「彼らは既に存在しない」
――――ジェームズに食われた。
「――!」
「彼の行動は年々激しさを増してる。もう、私には止められんのだよ」
自分の狂った人格が起こす悲劇をワトソンは今までずっと黙ってみているしかなか
った。『ヴィルンの涙』を見つけ、その効果を知ったときの喜びは図り知れぬものだ
った。ジェームズの魂を永久の葬り去る為に、ワトソンもこの機会を逃すわけにはい
かない。
「彼の罪は私の罪。それを補う為なら私は構うものなど無い」
そう言って、ワトソンはイートンに頭を下げた。
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遠より放たれた強力な魔力の波動は、微風となってイートンの髪を揺らし、頬をな
でた。長い間ニーツの消えた空間を眺めていた彼も、そこでやっと我に返って辺りを
見回す。
「はっ。いけない。早く始めないと、ニーツ君に怒られてしまう!」
一人で行うのも心配だが、見られていると緊張するので、ちょうど良かったかもし
れない。イートンは今になってそう思い直した。
(間違えたら、すっごくにらまれそうだし・・・)
森の入り口にはクリエッドが立っていて、ちょうど屋敷と湖を繋ぐ小道にB地点が
あった。目を凝らしても、まだ八重たちの姿は見えないが、月の魔力が既にこの潮に
充満している。そろそろ始めないと本当に間に合わないかもしれない。
足元に置かれた袋を手にとる。もぞもぞと動く中身が一体何なのかはイートンも聞
かされていない。
むしろ、恐くて聞けない。
腰の短剣を抜くと、迷いなく袋に突き立てた。ビクンと大きく痙攣したソレは動く
のを止めた。滴る血が、魔方陣をぬらし、イートンの袖を染める。
(あぁぁぁぁ。ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!祟ったりしないで下さいね)
――――満る月の下、九十九の贄と我が血をもって汝に捧げる。
双頭の獣を従え、紅き剣を佩く門の番人よ、
いま一時の気まぐれに我が呼び声に答え給え。
溢れる杯は汝の手にあり。
金烏は羽根を落とし、足元に伏したり。
我は開門を願う者なり。
魔界とこの地を結ぶ高き番人よ、
漆黒の空より降り立ちて、その光を<道>と成せ――――
イートンの呪文に答えるように、文字が浮かび上がり光り始めた。さすが、ニーツ
が頭を悩ませて作っただけある。特別なマジックアイテムと段階さえ踏めば魔力のな
い者でも行使できる、理論重視の魔法陣。魔力に溢れた人間ならもっと簡単に儀式を
行えるであろう。
『だから意味があるんだろう?下手に厄介な魔族を降ろされても困るしな』
そう言ったニーツの言葉を思い出す。さらにこんな事も言っていた。
『ようは気合だ、気合』
ソレが一番自分に欠けているような気がしなくも無いが。
カンニング・ペーパを捲りつつ、イートンは長い詠唱を続けた。
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