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PC 八重 イートン ニーツ
場所 メイルーン 市長邸
NPC ナスビ・クリエッド・市長ワトスン(クリスティ・ハドソン夫人)
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儀式前日。召喚術に必要なアイテムを揃える為に、イートンとクリエッドは早朝から馬車に乗ってクーロンへと向かった。やはり、怪しげなアイテムを入手するなら、あの町ほど適した場所は無い。金さえ払えば、あの町の商人は何でも揃えてくれるのだから。
流れる景色を眺めながら、イートンは八重と出会った頃の事をぼんやりと思い出す。ソフィニアからクーロンに続く街道で、二人は出会った。
(私たちが出会って、まだ一ヶ月も経っていないのか・・・)
確か、出会って直ぐに八重のルナシー化を目の当たりにしたのだ。あの、恐ろしい人喰いウサギの姿を。その時体験した恐怖に、一瞬体を震わせながらも、イートンは自分の勘が外れていなかった事を強く核心する。
(あの時は勢いで旅に同行させてもらったんだよなぁ)
英雄の物語を書く。それが最初のイートンの旅の動機であった。それまでにも、何度か小旅行を繰返してはいたが、今回は長い旅になる事を覚悟して屋敷を出た。そして、今まで読んだどんな物語より刺激的な生活をしている気がする。魔族のニーツが仲間になり、可愛らしくも不思議な生き物が自分の足元を転がっている。
(今は、小説を書く暇も無いな)
この物語の結末を知る者は、今はまだ誰も居ない。
「あのー、これー、何か・・・動いてるんですけど」
「そうですね、イートンさん」
いや、むしろ浮いている。
クーロンの奥まった路地を通り、一見何屋だか分からない小さな店の中に二人は立っていた。もちろん、如何にも執事と言った出で立ちのクリエッドと、お坊ちゃま然としたイートンがそんな場所を通っていけば注目を浴びるのは当然で、一目見るなり物盗りに変身した男たちにクリエッドが乱射するという一幕があったり無かったり・・・。
「儀式には新鮮な生贄が必要なさかいなぁ」
店の外観に劣らぬ怪しげな店主が、訛りのある口調で商品の説明を続ける。
置かれた箱全てが何らかの運動性を持っていて、ガサ、ゴソと音を奏でる。むしろ唯一動かない、一番小さな箱が異様な波長を放っていて怖い。
(しかも、やたらに重いし・・・)
元々体力には自信が無いが、腰が抜けそうな程に、重い。
敢えて何が入っているか訊かない事にした。
市長邸に帰還したのは、既に随分と夜が更けた時刻であった。
(気持ち悪い・・・・)
動く荷物の番をしていたイートンは、完全な乗り物酔いに陥っていた。そんな様子を見てクリエッドが言葉をかける。
「荷物運びは屋敷の者にさせましょう」
「すいません、クリエッド」
空を見上げれば満月と見分けがつかぬほど丸い月が地上を照らしていた。八重は今ごろどんな思いでこの月を見ているのだろう。
庭の方でガサゴソと音がした。
しかし、好奇心よりも疲労感の方が強いイートンは敢えて見ないふりをして玄関に向かう。
(きっとナスビちゃんが遊んでるんですね・・・)
そして、その勘は間違っていなかった。
「ようやく帰ってきたか」
ホールには、疲れた顔をしたニーツがいて、そんな彼を口説くエドガーが居た。
(・・・人が疲れてる時に、その顔晒しやがって)
などと思っている事など微塵も感じさせないホエホエとした笑顔のまま、イートンはエドガーを「邪魔です」と追い払い、ニーツの顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?顔色が悪いですけど・・・」
彼もだいぶ無理をしているのだろう、普段より青白い顔をしたニーツはそれでも首を振って、無理に表情を明るくして見せた。会ったばかりの時に比べて、彼の態度は随分と柔らかいものに変わっていた。少女とも見紛う容姿の彼だが、時折見せる徹底した冷徹な態度も彼の本性であろう。
(魔族がどんなこと考えてるか何て、人間の私には分からないけど・・・)
彼が、自分たちに親しみを覚えるくらいには仲良くなっていると思うのは、自惚れでは無いはずだ。
「で、これを明日の夜までに覚えろ」
「・・・・・え?」
別のことを考えていたので、イートンの反応はかなり鈍かった。細かく、几帳面な文字が紙の上を走っていた。枚数にして6枚。
「うわー、ニーツ君って字、綺麗ですねぇ」
「出来ないのか?」
癖のある字にコンプレックスを持つイートンはとりあえず逃避してみる。しかし、ニーツの視線がそれを許さない。全ての紙に目を通したイートンは観念したように息を吐いて言った。
「うぅ、頑張ります・・・」
今夜は眠れそうに無い。
PC 八重 イートン ニーツ
場所 メイルーン 市長邸
NPC ナスビ・クリエッド・市長ワトスン(クリスティ・ハドソン夫人)
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儀式前日。召喚術に必要なアイテムを揃える為に、イートンとクリエッドは早朝から馬車に乗ってクーロンへと向かった。やはり、怪しげなアイテムを入手するなら、あの町ほど適した場所は無い。金さえ払えば、あの町の商人は何でも揃えてくれるのだから。
流れる景色を眺めながら、イートンは八重と出会った頃の事をぼんやりと思い出す。ソフィニアからクーロンに続く街道で、二人は出会った。
(私たちが出会って、まだ一ヶ月も経っていないのか・・・)
確か、出会って直ぐに八重のルナシー化を目の当たりにしたのだ。あの、恐ろしい人喰いウサギの姿を。その時体験した恐怖に、一瞬体を震わせながらも、イートンは自分の勘が外れていなかった事を強く核心する。
(あの時は勢いで旅に同行させてもらったんだよなぁ)
英雄の物語を書く。それが最初のイートンの旅の動機であった。それまでにも、何度か小旅行を繰返してはいたが、今回は長い旅になる事を覚悟して屋敷を出た。そして、今まで読んだどんな物語より刺激的な生活をしている気がする。魔族のニーツが仲間になり、可愛らしくも不思議な生き物が自分の足元を転がっている。
(今は、小説を書く暇も無いな)
この物語の結末を知る者は、今はまだ誰も居ない。
「あのー、これー、何か・・・動いてるんですけど」
「そうですね、イートンさん」
いや、むしろ浮いている。
クーロンの奥まった路地を通り、一見何屋だか分からない小さな店の中に二人は立っていた。もちろん、如何にも執事と言った出で立ちのクリエッドと、お坊ちゃま然としたイートンがそんな場所を通っていけば注目を浴びるのは当然で、一目見るなり物盗りに変身した男たちにクリエッドが乱射するという一幕があったり無かったり・・・。
「儀式には新鮮な生贄が必要なさかいなぁ」
店の外観に劣らぬ怪しげな店主が、訛りのある口調で商品の説明を続ける。
置かれた箱全てが何らかの運動性を持っていて、ガサ、ゴソと音を奏でる。むしろ唯一動かない、一番小さな箱が異様な波長を放っていて怖い。
(しかも、やたらに重いし・・・)
元々体力には自信が無いが、腰が抜けそうな程に、重い。
敢えて何が入っているか訊かない事にした。
市長邸に帰還したのは、既に随分と夜が更けた時刻であった。
(気持ち悪い・・・・)
動く荷物の番をしていたイートンは、完全な乗り物酔いに陥っていた。そんな様子を見てクリエッドが言葉をかける。
「荷物運びは屋敷の者にさせましょう」
「すいません、クリエッド」
空を見上げれば満月と見分けがつかぬほど丸い月が地上を照らしていた。八重は今ごろどんな思いでこの月を見ているのだろう。
庭の方でガサゴソと音がした。
しかし、好奇心よりも疲労感の方が強いイートンは敢えて見ないふりをして玄関に向かう。
(きっとナスビちゃんが遊んでるんですね・・・)
そして、その勘は間違っていなかった。
「ようやく帰ってきたか」
ホールには、疲れた顔をしたニーツがいて、そんな彼を口説くエドガーが居た。
(・・・人が疲れてる時に、その顔晒しやがって)
などと思っている事など微塵も感じさせないホエホエとした笑顔のまま、イートンはエドガーを「邪魔です」と追い払い、ニーツの顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?顔色が悪いですけど・・・」
彼もだいぶ無理をしているのだろう、普段より青白い顔をしたニーツはそれでも首を振って、無理に表情を明るくして見せた。会ったばかりの時に比べて、彼の態度は随分と柔らかいものに変わっていた。少女とも見紛う容姿の彼だが、時折見せる徹底した冷徹な態度も彼の本性であろう。
(魔族がどんなこと考えてるか何て、人間の私には分からないけど・・・)
彼が、自分たちに親しみを覚えるくらいには仲良くなっていると思うのは、自惚れでは無いはずだ。
「で、これを明日の夜までに覚えろ」
「・・・・・え?」
別のことを考えていたので、イートンの反応はかなり鈍かった。細かく、几帳面な文字が紙の上を走っていた。枚数にして6枚。
「うわー、ニーツ君って字、綺麗ですねぇ」
「出来ないのか?」
癖のある字にコンプレックスを持つイートンはとりあえず逃避してみる。しかし、ニーツの視線がそれを許さない。全ての紙に目を通したイートンは観念したように息を吐いて言った。
「うぅ、頑張ります・・・」
今夜は眠れそうに無い。
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