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2025/03/10 07:29 |
Rendora-11/アダム(Caku)
キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠丘
--------------------------------------------------------

「アダム」


声をかけられて振り返る。そこにはつい先日知り合った竜の少女がいた。
なぜか頬を赤らめて近づいてくる。距離に比例してアダムの心拍数も軒並み急上昇する。目の前で立ち止まると、両手を胸の前で組んだ格好でじっと上目遣いで見つめてくる。こんな顔と仕草で見つめられるのは初めてで、こちらも顔が赤くなるのは止められない。

「お願いがあるんです、聞いて…いただけますか?」

不安そうに俯きながら、ぽつりと呟く。がくがくと首を頷かせるアダム。こんなことを嫌いじゃない女性に言われて断らない男という人種はいない。神に誓ってもいい!

アダムが肯定すると、クロエは寄り添うように抱きついてきた。予想外だけど希望的イメージの一つにアダムが狼狽して、慌てて肩に手を…置こうとしてじっとクロエがこちらを見上げていることにドキリとした。夢か!これは夢だ!と自身に言い聞かせても胸の鼓動は収まらない。正直あれだよね、上目遣いって各国共通の殺し動作ですよね。しかし、クロエはそれだけではなく、いきなりアダムのシャツをめくって肌に手をおく。さすがにアダムもびっくりして離れようとするが、クロエがそれを許さない。
この進捗は正直驚きだがこのまま流れに乗ってしまえ!とにやけた次の瞬間。

「人の体って興味があるんです♪」

なんかクロエさんが嬉々とした笑顔、悪寒すら催すほどにすげぇ笑顔。今までの脳内シュミレートが急遽警報発令、なぜってクロエさんの手に握られてるソレです、そう名前は確か缶切り。ちょっと待って、と口にしたその瞬間。クロエは満面の笑みで缶切りをアダムの胸板に突き刺して、ぐにっと。そのままぐにぐにってえぐるとその向こうには肉片が脂肪が血管が動脈が肋骨が肺が内臓が心臓がーーーーーーーー

そのアダムの内包物の前には、愛らしい血塗れのクロエ、さん、が、げふっ、ごふっっ、て、い…て…




* * * * * * …





「そんなオチあるかぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!」






大絶叫と共に毛布代わりのジャケットをどかせて起き上がる。

『…おはようございます、アダム…ってどうしました?』

夢でも現でもまったく変わらないクロエの優しげな声が朝の谷間で首を傾げていた。てりり、てりり…と猛禽類の鳥の声が高く蒼穹から響いている。川のせせらぎもきらきらと流れる音で自然の豊かさを象徴している。実にいい朝だった。

『寝起きの抜群さから言って、すごいいい夢でも見たんじゃない?』

アダムの隣で転がっていたシックザールがのんきに発言する。基本、無機物のシックザールに睡眠という概念はないらしく、アダムの寝言まで細部に聞き取れていたようだ。

『なんかさっきまでは馬鹿みたいに幸せそうだったのにねー急に青ざめてうなされてたよ』

シックザールがん無視のまま、体を調べる。鎖骨胸板腹肩この間の傷と昨日の傷と四肢に顔、よかった俺は人のしてのパーツが全部揃ってる とちょっぴり涙が零れてくる。

『うわ泣いてるよアダム!どうしたのそんなに感動ものだったの!』

「俺今生きてることに大感動してる…」

『えぇと、アダム平気ですか?痛いところとかありますか?』

アダムの奇行の下で心配そうなクロエの声が加わった。アダムは生返事で「大丈夫、すごく意味のある夢だった」とベッド代わりのクロエへ返しながらも今後彼女に缶切りは絶対持たせないようにしようと心に誓うのであった。


* * * * * *


回復は著しく、ついに正午を過ぎる辺りには谷を登りヴィヴナの森林地帯を抜けることが出来た。緑の丘を越えると、その向こうはすでに地平線まで砂漠が続く景観があった。風紋という砂漠独特の絵画が大地に描かれては消えていく、というのはなんとなく壮大な景色だ。
まだ緑がかろうじてある丘で、アダムが遠くを見据える。

「砂漠越えか、どうするかな」

「アダムがつらいなら、私が飛びましょうか?」

後ろからひょっこりクロエが問いかける。クロエが元の姿になって飛べば確かに徒歩で砂漠横断などよりはよほど早く、安全だろう。しかしアダムは首を横にふった。

「駄目だよ。砂漠じゃクロエさん目立ちすぎる、それじゃ帝國の伏兵に見つかるだろうし、いくらここが大自然地帯だってったって、まだ正統エディウス国内だからクロエさんだって分かる姿はしないほうがいい。ここからは極力、元の姿は抑えたほうがいい」

「そうですか…そうですね、私もフィキサ砂漠は初めてだから迷っちゃうかもしれません。アダム、フィキサ砂漠は初めてですか?」

「いんや、でも二回目」

うーんと困り顔であごに手を当てるアダム。このエディウスに入るきっかけとなった旅団の警護の仕事では水も装備も全部向こうが用意してくれていた。さらに悪いことにアダムには単身砂漠越えなんて冒険経験はない。地図も方位を示す羅針盤すら持ち合わせていない。これでは砂漠の屍となることが素人でも容易に想像付く。

「ヴィヴナ渓谷側からは出られないって言うしなぁ…」

ヴィヴナ渓谷は国境に隣接している。シメオンとの当初の予定ではそこから出ることも不可能ではない、という話もあった。が隣国のパウラ連合との凶悪な関係もあり国境周辺は夜盗盗賊の聖地になりつつあるというとんでもない噂もある。
結局フィキサ砂漠を越えるしかない、しかし情熱的な太陽の光に早くも汗が落ちるのが止まらないアダムであった。


--------------------------------------------------------------------------

アダムの夢見鳥パワーが足りなかったようです。

今回のRendoraはアダムが惨殺死体で発見されそうなところからスタートしました。
これがPCゲームであったらそのままBAD ENDです。よかったねアダム!

Rendora診断(最高五つ★)
恋愛レベルLv-1
ドキドキ度… ★★★★★
ほんわか度…☆☆☆☆★
ヤヴァイ度…★★★★★
胸キュン度…☆☆☆☆★

恋愛レベル下がりました。残念。
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2007/12/20 20:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora
Rendora-12/クロエ(熊猫)
キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠
――――――――――――――――

森の中を通る湿った風とは違い、フィキサ砂漠から吹き付けてくる風は
軽く、乾いていた。

足元には砂漠の気配が忍び寄っている。
まだ鮮やかさを失わない緑の下草の間にはざらめのような白い砂が入り込み、
異様なコントラストを生み出していた。

「ヴァーンまでは、人の足でどのくらいかかるでしょうか…」

掌でひさしを作っているアダムの横に立って、
クロエは彼と同じ方向を見つめながら呟いた。

「なんとも言えないな…距離的には2日もあれば十分なんだろうけど。
せめて地図があればなぁ」
「道は――どうにかなりそうです」

と、しゃがみこんで地面にてのひらを置き、アダムが見てる先から
やや視線をずらす。そうしたところで景色に大した変わりはないが、
頭の中でかちりと噛み合う感覚がある。

「僅かですが水脈があります。これを辿れば道を外すことはないでしょう」
「水脈?」
「スズナ山脈から出た水をクリノクリアの木々が蓄え、
浄化した水です。きっと私達を導いてくれますよ」

笑みを浮かべてアダムを見る。
彼は正直わからないという顔をしていたが、
なんとか自身を納得させたらしく頷いた。

「なら…どうにかなりそうかな。食料もまだ少しならあるし」
「私は何もいりませんからね。アダムの分があればいいんです」
「……はぁ」
「?」
「ん、なんでもない」

無念そうにため息をつくアダムに視線で問うが、彼はひさしにしていた手を
振るだけできびすを返し、足元に置いてあった荷物を持ち上げた。

『パートナーにごはんも食べさせてあげられないだなんて、
こりゃ相当キてるね、アダム♪』
「てめぇシックザールこの野郎!」
「アダム」

傍らの刀に怒鳴るアダムの腕を両手で取る。
怒りで膨らみかけた筋肉が柔らかく手の中で沈むのを感じながら、
静かに言う。

「本当に気にしないでください。私は大丈夫ですから」

ね、と念を押してから手を離すと、支えを失ったアダムの腕は
だらりと垂れて落ちていった。

「行きましょう。風が強くなりそうですし」

そう言いながら、丘から足を踏み出す。
なめした革を縫い合わせただけの簡単な靴の中は
すでに砂に蹂躙されていたが、ゆるやかな坂を小走りで降りてゆく。

「風だって?」

ややおぼつかないながらもクロエよりかはしっかりした足取りで、
アダムが追い付いてくる。
なにか言いたそうな手をこちらに差し出してきているのは、
クロエの転倒を警戒しての事だろう。

「ええ、もしかすると砂嵐になるかもしれません。
規模はさほど大きくならないでしょうが」
「行き先とかち合えば動けなくなる、か…」
「はい」
『風の民っていうくらいだから、ヴァーンに着けば砂嵐が来ても
どうにかしてくれるかもね?』
「砂嵐に出会う前に着ければ良いのですが…」

さく、さく、と砂を踏みながら歩く。
空は美しい晴天だった。雲はひとつたりとてなく、紺碧の一枚板が
一面に広がっている。
その下で白い砂漠に刻まれた風紋がわずかに影を落として
整然と並ぶ様は壮観だったが、生の気配がしない荒涼とした風と、
まっすぐに届いてくる痛いほどの日差しを和らげるには至らない。

「あっついなー」

アダムの装備は明らかに砂漠越えには向いていないようだったが、
クロエに比べればよほど機能的に見えた。
もっとも人の姿で行動する事のほうが少ないのだから、準備不足は仕方ないが。

「クロエさん、その水脈って深いの?」
「そうですね…このあたりは地形もそれほど複雑ではないので、
そう深くはないと思います」
「そっかぁ、補給できればいいんだけどなぁ。
…ま、そんなのんきな事も言ってられないだろうけど」

行こう、と立ち止まっていたアダムが歩きだす。
クロエは小走りで彼の隣に並ぶと、軽く頷いた。

…★…

「腐りそう…」

数刻も経たずにアダムの体調が悪くなっていくのは、一目瞭然だった。

彼は脱いだ上着を頭からかぶって日除け替わりにしているが、
まったくと言っていいほど効果はないらしく、滝のように
汗をかいているのが遠目にも窺えた。

クロエは立ち止まって振り返ると、小首を傾げて言った。

「そろそろ休みませんか?」
「いや…さっきも休んだばかりだし…」

顔をあげることすら億劫そうに答えるアダムに、
そうですよね、と相づちをうつ――「でも」。

「私、疲れてしまって」

ため息混じりに笑うと、ぱっとアダムが顔をあげた。
彼は不思議そうにまじまじとクロエを見てから、
何かに思い当たったように顔を曇らせた。

「…ごめん」
「こちらこそ」
『クロエったらお嬢様なんだからー』
「すみません、こんなに長く歩いたのって初めてなものですから」

全てを含んだようなシックザールの言葉に苦笑してから、
向かっているほうからやや外れた場所を示す。

「あそこに行きましょう」

かくして、そこから見える身の丈ほどもある砂丘の影に
二人は落ち着いた。

「あぁ――疲れましたねぇ」

明るい声音で言いながら、影になった砂地の上に座り込む。
そのまま半身を下にして寝転び、白い砂に耳を押しあてる。
突拍子もないその行動に驚いて、というわけでもないだろうが、
どさっと砂に座り込むアダム。

「クロエさん?」

荒い砂糖のような粒子の中から、さまざまな音が耳に流れ込んでくる。
鉱物の擦れ合う響き、少ない獲物を待ちながら潜む蛇の鱗の音、
いつか来るとも知れない雨季を切望している種の声。そして。

「…ありました」
「なにが?」
「水です」

アダムがえっ、と言ったきり言葉を失う。その間に、手でその場を
無言で掘りはじめる。だが乾燥した砂は掘っているそばから
低いところへ落ちていき、遅々として進まない。
気がつくとアダムも無言でそれを手伝ってくれていた――顔には
明らかに半信半疑の然が浮かんでいたが。

子供が一人くらい入れそうなくらいの穴を掘ったところで、ちらりと
アダムがこちらを伺うような視線で見た。穴の底は依然として
白い砂のままである。彼としてもそうすぐ水脈が出てくるわけはないと
たかをくくっていたのだろうが、さすがに不安になったらしい。

「えーと…」
『いつまで砂遊びしてんのー?』
「そうですね、このくらいでいいでしょう」
『何が?』
「あとは私が掘ります。お二人はここで待っていてください。
…できるだけ目立たないようにしますから」

剣の声とアダムにそう言って、やおら今掘ったばかりの穴に
足を踏み入れる。その瞬間、合点がいったのかアダムがいきなり
体をのけぞらせた。

粉袋を高いところから落としたような轟音とともに、クロエは
本来の姿に戻っていた。ただし今回は空を翔るわけではない。
頭から垂直に、砂の海へと潜ってゆく。

灼熱の砂を、潜む蛇を、望む種を。そしてさらにその下に横たわる
透明な水の流れを通り過ぎたところで、クロエは急に向きを変え、
すべてを逆戻りするかのように今度は地上を目指して砂の中を
駆け抜け、飛び出す――。


その日、フィキサ砂漠に新たなオアシスと大砂丘が出現した。


――――――――――――――――
ドラゴンのくせに生態系を著しく壊していますが、
大事な夫のためならエンヤコーラ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Rendora診断(最高五つ★)
恋愛レベルLv-1.5
ドキドキ度… ★
ほんわか度…★★
ヤヴァイ度…★★★
胸キュン度…★
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2008/04/24 11:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora
Rendora-13/アダム(Caku)
PC アダム、クロエ
NPC シックザール
PLACE フィキサ砂漠→砂漠の洞窟
------------------------------------------------------------------------

天高く噴出する湧水。炎天下の砂漠が、束の間だけ心地良い湿度をはらんだ。
きらきらと太陽に反射する水の粒を見上げながら、アダムはぽかーんと口を開けていた。干からびそうになっていた口腔に、冷たい水が滑り込む。

「…おー…」

『あんまり大口開けてるとバカっぽく見えるヨ?』

「…うっせ」

刀の嫌味で、ようやく開いた口が塞がった。アダムは水で濡れた頭をがしがしと掻いて、なかば湖になりけている噴出孔まで近づいていく。即席湖にはぴちぴちとした魚…ではなく、やたらドぎづい彩色のトカゲだったりやけに耳の大きいキツネがじたばたしている。先程の洪水大噴出部分の、砂の中にいた動物達だろう。なんだか可哀想なので、シックザールで渡し舟を出してやると必死につかまってサカサカっとこちらにやってくるトカゲ。

「わりぃわりぃー、おどかした?」

答えはもちろん返ってこない。こちらをじっと凝視するトカゲを降ろしてやると一瞬で砂の下に潜って行った。そうしてトカゲやキツネを七匹ほど助けていると、いつの間に人型に戻ったのか、クロエがにこにこと笑顔で後ろに立っていた。

「意外と出ちゃいました」

『意外だよねぇ、どっちかっていうと豪快?』

二人のやり取りを呆れつつ聞きながら、ジャケットの裏にくくりつけてある瓶を取り出す。とっくの昔に空になっていたソレに、澄んだ水を流し込む。瓶の量からして、せいぜい一日程度しか持たないだろうがないよりマシである。使い込みすぎてゆるくなりつつある蓋をしっかりと締めながら、アダムは後ろの少女に振り返る。

「ありがと、クロエさん。マジで助かった」

「よかった」

にこっと笑うクロエ。炎天下の砂漠が、一気に陽の色をした花畑に見えた。熱砂の蜃気楼だとしても、ちょぴり幸せなアダムであった。

***

「綺麗ですね」

赤い斜光を一身に浴びながらクロエが笑う。砂漠の夕日に感動しているみたいで、隣のアダムも見慣れてはいないが見たことがない訳でもない。正統エディウス帝國に入る際には旅の間五日間ほど見続けた光景。
だが、曲りなりにも冒険者であるアダムにとって、砂漠の夕日は別の意味を持っている。

「日が暮れ…ちゃったよ…」

やや茫然自失気味に、がっくりと肩を落とす。その腰元からシックザールの暢気きわまる声が続いた。

『寒くなるよねー』

「?だって暑かったですよ?」

「あークロエさん、その、砂漠ってね…」

森育ちのクロエにとって、砂漠の朝夕の寒暖さが生死に直結するほどスゴいのだということをアダムが説明すると、

「砂漠ってすごいんですね!でもアダムも色んなこと知っててすごいですっ!」

感心された。あれもうなんか、生死とか野宿とかマジ死ぬかもとかどーでもよくなってきました。心の中が幸せな気持ちでいっぱいです。

『アダム、へらへら笑ってないで対策考えたほうがいいよ、僕とかクロエさんとかより一番死んじゃいそうなんだから』

「…そういやそうだった、珍しくまともな意見どうも」

シックザールの突っ込みで我にかえるアダム。見渡す限りの砂丘に、何か命を繋ぐ術はないかと「異常眼」の瞳で見渡してみる。と、

「んー…なんだ、ありゃ」

「何か見えますか?」

眉間に皺を寄せて遠くを睨むアダムの隣で、クロエも首をかしげながら同じ方角を眺める。夕日の落ちた砂漠は空の群青色を映して青く地平線まで広がっている。
アダムは眉間に皺を寄せたまま、一点を凝視したまま呟いた。

「向こうに、なんか洞穴っぽいのがある」


***

砂漠の岩山の影にまぎれるように、ぽつりと影の中には穴があいていた。穴は地中深くまで続いているようで、奥底から風のような、泣き声のような不思議な音が響いている。
ほの暗い洞窟の中は不気味極まりないというに、アダムは暢気に鼻歌を歌いながらリュックを漁っていた。と、目的の物を見つけたのか小さく笑ってリュックから手をぬく。手には何かが握られていた、そこにはどの街にもありふれているランプが一つ。アダムは二人のちょうど真ん中あたりの地面にそれを置く、とランプが勝手に光り輝き、熱を生み出した。

「これ、どうやって火がついてるんですか?」

クロエが興味深そうに、灯りの元のランプをつついた。見た目は普通の古びたランプだが、油もないランプからどうして火がでるのか不思議らしい。

「実はクロエさん、これはちょっとした便利魔法道具なんですよ」

アダムがちょっとだけ嬉しそうに説明を始める。なぜかところどころが凹んでいるランプを持って意気揚々と喋り始める。凹んでいるのは先日クロエの背から川へダイブした際にできたのかもしれない。

「ほら、ランプのガラスに魔法の文字が刻印されてるでしょ?周囲のマナで火を起こすことでできるんですよ、いやぁ魔力のない俺みたいな旅人には本当便利なシロモンで、しかもなんとちょっとぐらいの魔物なら近寄ってこないような微力の聖なる波長が出てるっていう」

ふんぞり返って鼻高々に自慢するアダムだったが、腰脇から冷静で容赦のない補足が飛んできた。

『うん、でもちょっと前に坑道の中で野営してたときに使ったら見事にモンスターに見つかって散々な目にあったヨネ。しかも確かそれ、依頼金ちょろまかした詐欺師の部屋からぬす…』

「だー余計なことはいいのっ!」

アダムが即座にシックザールの発言を打ち消す。クロエはくすくすと笑って

「じゃあなんかすごいモンスターが来ちゃうかもしれませんね」

「いや、あの時はあれだ。運が悪かったんだって」

『運が悪いのはいつものコトだよネ』

「黙れ、もの押し竿」

魔法のランプの周囲はたしかに暖かく、息を潜めるようにこちらを伺っていた蝙蝠や蟲の息遣いはぱったりと消えていた。周囲の不気味さも、煌々と辺りを照らすランプの光には勝てないようで、アダムは小さく安堵の溜息をつく。と、ランプが幾重にもぶれた。

「あ?」

気が抜けたことで、ちょっと眠気がきたかな…と瞳を手の甲でこすった。が、あまりの熱さにびっくりして、何か言おうとした瞬間に視野が真っ黒に染まって、体の感覚がぶっつりと切れた。ただ、右目が異常に発熱していたことだけは理解できた。たしか、これは、アイツが言ってた

『…眼鏡をはずしたままにすれば、命の保障はしませんよ?』

あ、眼鏡。アダムは重大な事実を思い出した。そういや忘れてたけど、アレがないと―…
かつて、ある魔女に掘り起こされた古代の秘術。一度踊りだすと止まらない呪いの靴のように、それは主人の意図に反して永久に動き続けるモノだと、アイツは、帽子屋は言った。奴は、そんなものは魔法でも魔術でもなく、ただの呪いだとも言った。呪われた赤い靴は、靴を履いた少女の首が手首が胴体が落とされようとも決して止まることがないように、呪われた瞳はアダムの命がどうなろうとも頓着しない。ただ見るという呪いを続けるために、アダムの命を、血を吸い取っていく、と。

「アダム!?」

クロエの悲鳴が聞こえた。こりゃ出血による貧血だなーとアダムは冷静に分析した、までは良かったが、そのまま脆くも意識は暗闇に落ちていったしまった。

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2008/10/23 18:37 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora
Rendora-14/クロエ(熊猫)
キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール・帽子屋
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠の洞窟
――――――――――――――――

「アダム!」

慌てて、倒れてきた頭を両腕で抱き留める。くせのついた髪をはらいのけると、
蒼白になったアダムの顔が現れた。

「なんで、急に――」

うろたえながらも、とりあえず膝の上で仰向けに寝かせる。特に意味があるとは
思えなかったが、呼吸ができるなら大丈夫だろうとクロエは自分に言い聞かせた。

頬に手のひらをあててみる。顔色とは裏腹に、汗すらかいているほどの熱がある。

「…冷やさないと」
『あーあ、今度こそ駄目かもねぇ?』
「駄目にしませんっ」

軽口を叩く剣に反論するも、できることが見つからない。しばらくさまよった
視線が辿り着いたのは、横手に広がる洞窟の闇だった。
洞窟は深そうだった――ある程度の深さがあれば水も氷もある事はクロエも承知
の上だったが、この扱い慣れない身体を駆使してどこにあるかわからない氷を
探しに行くのは不可能だ。

ふ、と息をつく。無意識に両腕を自分に巻き付けて身震いする。

(寒い…)

はっ――と。

思わず洞窟の中から外に目を向ける。
いびつな丸に切り取られた砂漠の夕暮れは、濃い紫と黒い雲の影との奇妙な
まだら模様になっていた。昼間に猛威を振るった、あの灼熱はすでにない。

「夜は、冷えるんですよね」

念押しするかのように呟いて、手を伸ばしてアダムの荷物を引き寄せる。

『うん、そうだけど…って何してるの?』

ポケットからハンカチを――贈り主はコールベル製だと誇らしげに言っていたが、
そんな事はどうでもいい、ただ今は清潔でさえあればいいのだ――取出し、
アダムの上着を脱がせる。ついでに内側にある水の入った瓶を取り出すと
慎重に蓋を開ける。

扱い慣れない留め具やベルトに邪魔をされて、それだけの事をやるまでに相当な
時間を食ったものの、ただ瓶をひっくりかえさなかった事にクロエは安堵した。
四つ折りにしたハンカチをその水で濡らし、最も発熱している右目の上に乗せ、
瓶の蓋を閉じた。

引き寄せた荷物をまとめて塊にすると、そこにそっとアダムの頭を乗せてやる。
だらりと垂れた手を胸に置き、ぐったりとしている彼を数秒見つめてから、
手に瓶を持ってクロエは立ち上がった。

『どこ行くの?』
「冬を少し頂いてきます」

剣が言葉につまった隙をつくように、身を翻して洞窟の外へと飛び出してゆく。

洞窟は円柱を縦に切って寝かせたようなかたちで存在している。クロエは
横に回りこんで洞窟の屋根にあたる部分まで登っていった。ごつごつした
足場はとっかかりとしては最適だったが、ひとたび足を踏み外せば
この低い位置からでも無傷ではいられなさそうなほど尖っている。

苦労して登りきり――さっと周囲に視線を配る。

日が射さなくなった砂漠はモノトーンへと変じていた。風になびく砂が
風紋を刻む音が聞こえる。それにまぎれて、もっと奥底から漏れてくる
囁きを探す。

(…いた)

気配を感じた。足元をさぐり、手にした尖った小石で手の甲を傷つける。
いびつな傷口に血がにじむのを確認しながら、人の口を使い竜の声で唱和する。

『我 白銀(しろがね)の森から来たりし夢見鳥』

反応があった。潅木の根元から、白い砂の影から、ゆらりと透明な波紋が
さざめいて形を作る。

『地に臥す生命 気枯れ萎び 熱を帯びる ゆえに願う』

胸に抱いていた瓶の蓋を開ける。ゆるくなった蓋を取り落とさんとしっかり
握ると、傷ついた手の甲からさらに血が押し出された。
波紋はだいぶ集まってきている――水の精霊だった。やはりこの下には
地下水が流れているのだ。思ったよりも存在していてくれた。

『ここに六花の恩恵を顕さん』

ぱた、と手から血が砂に落ちた。もう辺りは暗くてその色すら伺えない。
波紋がそこに吸い込まれるように漂ってくる。集まる精霊はひとつになり、
分かれ、消えては現れるを繰り返す。

『河伯に竜の血玉を奉げる故、願い聞届け給え』

ふ、と視界がゆがみ――右の瞳から涙が一筋流れた。

(水で答えた…来る…)

砂が血を吸い込み終わると同時に、左肩と耳の間を波紋が通り過ぎる。
それに導かれるように、左の瞳からも涙が零れてくる。吐く息は白い。

クロエは慌てて瓶を地に置いた。そこにゆらりと立ち上る霧が
瓶にまとわりつき、枯れ枝を折るような音を立ち上らせて
音もなく去っていった。

「ありがとう」

最後に人の言葉で礼を言うと、瓶をそっと持ち上げる。
中には氷がかすかな星明りを反射して鈍く煌いていた。すぐに踵を
翻して、洞窟へ戻ろうと下を覗き込んだところで、クロエは動きを止めた。

そこには一人の男がいた。なんの前触れもなく、唐突に。

主のいない影のように男は黒い姿で立っていた。この砂漠において何のつもりか
知らないが、先の尖ったステッキなど持っている。
洞窟の中から漏れる光を一身に受けているのに、目深に被った艶のある
帽子のせいで、全貌は窺い知れない。

こちらが何かを言うより、男があごをあげてこちらを見るほうが一拍
早かった。
帽子のつばを手でずらすようにして簡易的に礼をしてくる。

「今晩は」

およそ自然界において存在し得ないであろうその青が、こちらの瞳を貫いて
脳髄に突き刺さる。そんな幻想じみた感覚に軽い眩暈すら覚えながら、
クロエはその男の瞳を見つめ返した。

『あー!帽子屋だー!』
「シックザール?」

突如として洞窟内から響いてきた声の主の名を呼ぶ。帽子屋と呼ばれたその
男は、無言で視線を洞窟へと向けてそちらへ歩き出した。クロエもまた
できるだけ急いで高台から降り始める。

「おやおや、酷い有様ですねぇ…」

手に持った瓶を落とさないようにしながらようやく地面について見ると、
入り口を塞ぐようにしてさきほどの男が立っていた。
こちらに背を向け、まったくどうしようもないという風にかぶりを
左右に振っている。
剣の声は依然として明るい。まるで冗談でも話すかのようにうきうきと
してすらいた。

『見て見て帽子屋ー、アダムこんなんなっちゃった☆』
「全くいつもいつも…これは一種の才能とでも言えましょうか」
『まーたしかに凡人じゃここまでこうならないよねー。あ、泡ふいてる』

何から何まで、男を装飾するのは「違和感」という言葉でしかなかった。

砂漠の真ん中でその格好でいる違和感、
仕草や口調はあくまでも丁寧でありながら警戒心を拭い去ることのない違和感、
浮かぶ笑みの、鮮烈な蒼い瞳の。

違和感。

「貴方は――いえ、ごめんなさい」

誰何を問おうとするも、目的を思い出して中断する。凍った水筒を
冷えた右手から左手に移し変えると、その男が立っている位置を
通り過ぎてクロエは洞窟へと戻った。

アダムの目を覆うハンカチを凍り付いた瓶にあてがい、冷やす。

「急に倒れて…」
「これはとんだご迷惑をおかけしましたねぇ、お嬢さん」

アダムの口元を拭いながら言うと、やはり男は丁寧に返してきた。
そう、彼は落ち着きすぎていた。見た感じでは彼らは顔見知りのようだが、
そうとなればもっと慌てふためいていてもいいのではないか。

『クロエ、それなんで凍ってるの?』
「水の精霊にお願いしました」
「ほう」

問いかけたのはシックザールだったが、あいづちを打ったのは帽子屋とやら
だった。いつの間に近づいたのかすぐ真後ろに立って、クロエの頭越しに
アダムの顔をうかがっている。

ふと目があって――その蒼すぎる瞳に気おされるように、我知らずクロエは
さきほど傷つけた手をかばうように胸にあてた。

「クロエといいます。貴方は……貴方は、誰です?」

やっとの問いかけに、男が笑う。
まるでそれは、クロエの手にできた傷口のように鋭く、赤かった。

――――――――――――――――

2008/10/23 18:53 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora
Rendora-15/アダム(Caku)
キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール・帽子屋
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠の洞窟
――――――――――――――――

クロエは恐る恐るといった風に口を開いた。

「…アダムの、お知り合いですか?」

『ちなみに第三者から見て、この状況でいきなり出てくるのってめっちゃめちゃ怪しい人物にしか思えないヨ☆』

いぶかしむクロエの疑念を代弁するかのように、シックザールが暢気な声で帽子屋をからかう。帽子屋が首をかしげていると、アダムとどんな関係の者か言わないとネ☆、とシックザールがさらにフォローを入れた。

「ふむ」

しかし、そんな当たり前の問いかけに、帽子屋は三日月型の笑みのままで小首を傾げる。

「そうですね…得意先と下請け業者の間柄とでもいいましょうか。はたまた需要と供給とも言えなくもないですが」

『いや帽子屋ってば。クロエさんが聞いてるのはそういう事じゃなくてー』

シックザールの答えの通り、クロエは帽子屋の言う「とくいさき」だの「きょうきゅう」だのといった単語に首をかしげるばかりだった。はて、と帽子屋はしばらく思案するように口を噤んで顎へ指をあてて考え込んだ後、

「あぁ、人間関係というものですか?」

『そうそう、それよソレ』

シックザールの相槌に、今度こそ納得いったとばかりに帽子屋もうなずく。

「失礼、久しくそういう質問をされなかったものですからつい忘れていました…そうですね、雇用主とでも言っておきましょうか」

『う、ウーン…えーとね、帽子屋はアダムの友達ダヨ。だから怪しいけど怪しくないから大丈夫!』

帽子屋のピントのずれた返答にまたも困惑するクロエに、シックザールがフォローを入れた。

「あの、アダムが…」

「えぇ、ところでシックザール。あの魔眼封じの片眼鏡は一体どうしたのですか?」

『川に落っことしたヨ』

「………」

無言の時がしばし流れた。

『いやどう考えてもあの高さから落ちて命があるだけマシっていうかー、でもあれないとアダム死んじゃうから変わりないけど…』

「アダムは死んじゃ駄目ですっ!」

クロエがもはや涙目になりつつも、ムキになって叫んだ。「僕だってアダム死んじゃやだもーん!!」と叫ぶシックザール達を眺めていた帽子屋は、疲れたように溜息をつきつつも、

「…まぁ、とりあえずアレの事はアダムが目を覚ましてからにしましょう。遊んでいる暇はないようですからね」

アダムの傍らに膝をつくと、左手をアダムの右目にかざす。左手に天体時計のような、規則的な円形とそれに侍る数字、そして秒針のような模様が青く発光しながら複雑に重なり合って浮かび上がる。
と、すぐに光は消えて、帽子屋が手をひっこめて立ち上がった。

「急場凌ぎですが、これで出血はほぼ止まるはずです」

『何したのー?』

「少し悪戯を」

何か楽しそうに微笑み、シックザールの返答には含みを持たせ唇に指を当て、沈黙のポーズをとる帽子屋。クロエが「これってなんですか?」と尋ねると、帽子屋が答える前にシックザールが『いけないことしたときの合図ダヨ☆』とクロエに耳打ちした。

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「ところで」

帽子屋はさも遺憾とばかりに、なぜか反発めいたものを感じさせながらクロエに向きなおった。

「貴女のような存在が、なぜアダムと一緒に?」

「それ、は…」

何をどう説明するべきか、いろんなことを喋ろうとして混乱してしまったらしく、口をぱくぱくさせるクロエ。しかし、はたと彼の言葉の中にあったある単語のニュアンスに気がついて、びっくりするように口元に両手を重ねて帽子屋を見上げた。

「あの、もしかして私のこと…?」

「見ればわかりますよ、場慣れしてない姿で一目瞭然にね」

『いや、それは帽子屋の偏見だって』

シックザールが珍しく不満そうに割って入った。

『変なの、今日は機嫌が悪いとか?』

「別に。私にそういう状態異常を起こすような式は入っていませんから」

『嘘つけ、思いっきりクロエさんの事苛めてるジャン』

シックザールがクロエの擁護するのが気に入らないのか、帽子屋が苛立たしげにステッキで床を叩く。

「……えぇと、あの…」

どう対処していいかわからないクロエは、ただ困惑するかしない。

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アダムの真上から、大きくていびつな三日月型の笑みが借用書を持って迫りくる。



「この糞帽子…!!返済は次の次の満月までってぎゃあああぁぁ…、あ?」

目をぱっちりと開くと、冷たく暗い洞窟の岩壁が見えた。先ほどまでアダムを押し潰そうとしていた三日月と借用書はどこにもなかった。

『うわぁ、ある意味正夢☆おはようアダムー』

自身の絶叫が「あーあー・・・」と洞窟の奥まで木霊していくのと、能天気な相棒の声がアダムの緊張を無くしていく。自分が固い土に寝かされていることを感触として知り、ゆるゆるとこれまでの経緯を思い出してきた。

「…って夢か」

「…アダム?」

クロエが目をこすりながら、うとうとと上体を起こしている。竜に戻らずに徹夜で人型のまま看病をしてくれたのか。思わず涙腺が緩みかけ、感動の男泣きをしそうになった次の瞬間、

「おはようございます、実にいい朝だ。ねぇアダム?」

その涙が浮かぶ瞳だけではなく顔ごと、帽子屋の黒く艶やかな皮靴‎に踏みつぶされた。

****

「この外道!!非道!!ついでに馬鹿野郎!てめー、一か月ぶりぐらいにあった友達(ダチ)になんてことしやがる!」

洞窟内に怒号が響く。
アダムが靴痕生々しい顔面を抑えながら、憤怒のあまりに帽子屋に掴みかかろうとしていた。その様子を、むしろそよ風とばかりに態度で流す帽子屋。

「もちろん親愛なる友人を少しでも早く目覚めさせようと思いまして、絶妙の力加減と綿密に計算した角度から挨拶を、と」

「何が絶妙の力加減と綿密に計算した角度だこの変質者!!てめー今すぐ食いモン喉に詰まらせて死ね!」

「あ、アダム…大丈夫ですか?」

今にも喧嘩に発展しそうな二人の合間にクロエが入る。心配そうな顔で、アダムの顔をそっと両手で包み込んで尋ねる。

「あ、大丈夫大丈夫。全然平気だから」

アダムは先刻の怒りもどこへやら、慌てて笑顔を作った。

「私もああやって挨拶するべきだったとはしらず…ごめんなさいアダム」

「そっち!?それはダメっ!それ違うから絶対っ!!」

****

「…で、魔封じの片眼鏡は川に落して自身も落下し、挙句の果てに食料も水も防寒具もないまま砂漠を越えようとした、と」

アダムは「お前のその服装も俺はどうかと思う!」という切なる叫びをぐっと抑えた。踏みつけられた右目は、何か強制的な力で開くことができない。それが帽子屋の手によって応急処置されたことを先ほどクロエから聞かされてしまったため、強く帽子屋に物言いをしにくい状況になっているからだ。

『補足補足ー☆ついでに異常眼の暴走で大出血!』

「…なぁシックザール。お前もしかして俺のこと嫌い?」

陽気な声で持ち主を不利に追い込む刀に、アダムは溜息をつきながら尋ねると、

『一番大好き!』

「あのね……」

シックザールの無邪気な発言に、がっくりと肩を落とすアダム。

「事はどうあれまずは国境を越えてからですね。そちらの彼女のことも、アダムの眼鏡のことも」

帽子屋はさも面倒だという雰囲気をあますところなく伝えてきた。アダムは徹底抗戦の構えを見せ(単にそっぽをむいて唇を尖らせただけだったが)、ふと思いついた疑問を口にした。

「てかさ、素朴な疑問。お前どっから沸いてきた?」

「私は液体ではないですよアダム」

帽子屋はアダムの発言を一蹴すると、つと洞窟の奥のほうを指し示す。

「もともとこの洞窟は、盗賊や夜盗が使う裏通路だと盗賊ギルドの方から。なんでも南はゾミンから王城オークレール、北は新生エディウスにまで通じているだとか」

最も、途中の王城付近まで行くにはそうとうの難所を越えなければならず、また王城の地下には王の命令で作られた怪しげな化け物が蔓延っていて城にはたどり着けないだとか、と帽子屋は丁寧に付け足した。

「じゃあお前、ゾミンから来たってこと?」

「えぇ、ギルドであなたがエルフの子供とラドフォードに向かったと聞きましたが、ラドフォードでエルフの樹林兵が暴れだしだとかで、正規の街道が町の自警団や正統軍によって封鎖されてしまったので、こんな辺鄙な道のりでラドフォードまで向かおうと歩いてきたわけですが」

帽子屋の発言に、顔を曇らせる二人。

「…やれやれ。やはりあなたがたが関わってましたか…。他にも街では、人食い竜が出たとかで、軍が我が物顔で街を闊歩していましたが…クリノクリアの夢見鳥に人食いの習性があったとは驚きですね」

「そんな…!」

必要以上にとげとげしい物言いに、クロエが声を上げようとしてきつく唇をかみしめて俯く。何か思うところがあるのだろうか、膝上に握りしめた拳を震わせて必死に瞼をつぶっていた。

「てめ…!」

『ねーそんなことよりもとりあえず街の周辺まで行こうよー。そうしないとアダムいつ倒れるかわかんないし、とにかく今は早く進もうよー』

何かにつけてクロエにつっかかる帽子屋に怒りを覚えながらも、なぜ彼がそこまで彼女を嫌うのか…アダムにもシックザールにもさっぱりわからなかった。もちろん矢を向けられたクロエもだったが…実をいえば、帽子屋本人さえよくわからなかったのである。

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2008/10/23 18:56 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora

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