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2025/03/10 12:13 |
Rendora-12/クロエ(熊猫)
キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠
――――――――――――――――

森の中を通る湿った風とは違い、フィキサ砂漠から吹き付けてくる風は
軽く、乾いていた。

足元には砂漠の気配が忍び寄っている。
まだ鮮やかさを失わない緑の下草の間にはざらめのような白い砂が入り込み、
異様なコントラストを生み出していた。

「ヴァーンまでは、人の足でどのくらいかかるでしょうか…」

掌でひさしを作っているアダムの横に立って、
クロエは彼と同じ方向を見つめながら呟いた。

「なんとも言えないな…距離的には2日もあれば十分なんだろうけど。
せめて地図があればなぁ」
「道は――どうにかなりそうです」

と、しゃがみこんで地面にてのひらを置き、アダムが見てる先から
やや視線をずらす。そうしたところで景色に大した変わりはないが、
頭の中でかちりと噛み合う感覚がある。

「僅かですが水脈があります。これを辿れば道を外すことはないでしょう」
「水脈?」
「スズナ山脈から出た水をクリノクリアの木々が蓄え、
浄化した水です。きっと私達を導いてくれますよ」

笑みを浮かべてアダムを見る。
彼は正直わからないという顔をしていたが、
なんとか自身を納得させたらしく頷いた。

「なら…どうにかなりそうかな。食料もまだ少しならあるし」
「私は何もいりませんからね。アダムの分があればいいんです」
「……はぁ」
「?」
「ん、なんでもない」

無念そうにため息をつくアダムに視線で問うが、彼はひさしにしていた手を
振るだけできびすを返し、足元に置いてあった荷物を持ち上げた。

『パートナーにごはんも食べさせてあげられないだなんて、
こりゃ相当キてるね、アダム♪』
「てめぇシックザールこの野郎!」
「アダム」

傍らの刀に怒鳴るアダムの腕を両手で取る。
怒りで膨らみかけた筋肉が柔らかく手の中で沈むのを感じながら、
静かに言う。

「本当に気にしないでください。私は大丈夫ですから」

ね、と念を押してから手を離すと、支えを失ったアダムの腕は
だらりと垂れて落ちていった。

「行きましょう。風が強くなりそうですし」

そう言いながら、丘から足を踏み出す。
なめした革を縫い合わせただけの簡単な靴の中は
すでに砂に蹂躙されていたが、ゆるやかな坂を小走りで降りてゆく。

「風だって?」

ややおぼつかないながらもクロエよりかはしっかりした足取りで、
アダムが追い付いてくる。
なにか言いたそうな手をこちらに差し出してきているのは、
クロエの転倒を警戒しての事だろう。

「ええ、もしかすると砂嵐になるかもしれません。
規模はさほど大きくならないでしょうが」
「行き先とかち合えば動けなくなる、か…」
「はい」
『風の民っていうくらいだから、ヴァーンに着けば砂嵐が来ても
どうにかしてくれるかもね?』
「砂嵐に出会う前に着ければ良いのですが…」

さく、さく、と砂を踏みながら歩く。
空は美しい晴天だった。雲はひとつたりとてなく、紺碧の一枚板が
一面に広がっている。
その下で白い砂漠に刻まれた風紋がわずかに影を落として
整然と並ぶ様は壮観だったが、生の気配がしない荒涼とした風と、
まっすぐに届いてくる痛いほどの日差しを和らげるには至らない。

「あっついなー」

アダムの装備は明らかに砂漠越えには向いていないようだったが、
クロエに比べればよほど機能的に見えた。
もっとも人の姿で行動する事のほうが少ないのだから、準備不足は仕方ないが。

「クロエさん、その水脈って深いの?」
「そうですね…このあたりは地形もそれほど複雑ではないので、
そう深くはないと思います」
「そっかぁ、補給できればいいんだけどなぁ。
…ま、そんなのんきな事も言ってられないだろうけど」

行こう、と立ち止まっていたアダムが歩きだす。
クロエは小走りで彼の隣に並ぶと、軽く頷いた。

…★…

「腐りそう…」

数刻も経たずにアダムの体調が悪くなっていくのは、一目瞭然だった。

彼は脱いだ上着を頭からかぶって日除け替わりにしているが、
まったくと言っていいほど効果はないらしく、滝のように
汗をかいているのが遠目にも窺えた。

クロエは立ち止まって振り返ると、小首を傾げて言った。

「そろそろ休みませんか?」
「いや…さっきも休んだばかりだし…」

顔をあげることすら億劫そうに答えるアダムに、
そうですよね、と相づちをうつ――「でも」。

「私、疲れてしまって」

ため息混じりに笑うと、ぱっとアダムが顔をあげた。
彼は不思議そうにまじまじとクロエを見てから、
何かに思い当たったように顔を曇らせた。

「…ごめん」
「こちらこそ」
『クロエったらお嬢様なんだからー』
「すみません、こんなに長く歩いたのって初めてなものですから」

全てを含んだようなシックザールの言葉に苦笑してから、
向かっているほうからやや外れた場所を示す。

「あそこに行きましょう」

かくして、そこから見える身の丈ほどもある砂丘の影に
二人は落ち着いた。

「あぁ――疲れましたねぇ」

明るい声音で言いながら、影になった砂地の上に座り込む。
そのまま半身を下にして寝転び、白い砂に耳を押しあてる。
突拍子もないその行動に驚いて、というわけでもないだろうが、
どさっと砂に座り込むアダム。

「クロエさん?」

荒い砂糖のような粒子の中から、さまざまな音が耳に流れ込んでくる。
鉱物の擦れ合う響き、少ない獲物を待ちながら潜む蛇の鱗の音、
いつか来るとも知れない雨季を切望している種の声。そして。

「…ありました」
「なにが?」
「水です」

アダムがえっ、と言ったきり言葉を失う。その間に、手でその場を
無言で掘りはじめる。だが乾燥した砂は掘っているそばから
低いところへ落ちていき、遅々として進まない。
気がつくとアダムも無言でそれを手伝ってくれていた――顔には
明らかに半信半疑の然が浮かんでいたが。

子供が一人くらい入れそうなくらいの穴を掘ったところで、ちらりと
アダムがこちらを伺うような視線で見た。穴の底は依然として
白い砂のままである。彼としてもそうすぐ水脈が出てくるわけはないと
たかをくくっていたのだろうが、さすがに不安になったらしい。

「えーと…」
『いつまで砂遊びしてんのー?』
「そうですね、このくらいでいいでしょう」
『何が?』
「あとは私が掘ります。お二人はここで待っていてください。
…できるだけ目立たないようにしますから」

剣の声とアダムにそう言って、やおら今掘ったばかりの穴に
足を踏み入れる。その瞬間、合点がいったのかアダムがいきなり
体をのけぞらせた。

粉袋を高いところから落としたような轟音とともに、クロエは
本来の姿に戻っていた。ただし今回は空を翔るわけではない。
頭から垂直に、砂の海へと潜ってゆく。

灼熱の砂を、潜む蛇を、望む種を。そしてさらにその下に横たわる
透明な水の流れを通り過ぎたところで、クロエは急に向きを変え、
すべてを逆戻りするかのように今度は地上を目指して砂の中を
駆け抜け、飛び出す――。


その日、フィキサ砂漠に新たなオアシスと大砂丘が出現した。


――――――――――――――――
ドラゴンのくせに生態系を著しく壊していますが、
大事な夫のためならエンヤコーラ。
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Rendora診断(最高五つ★)
恋愛レベルLv-1.5
ドキドキ度… ★
ほんわか度…★★
ヤヴァイ度…★★★
胸キュン度…★
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2008/04/24 11:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora

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