キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール・帽子屋
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠の洞窟
――――――――――――――――
クロエは恐る恐るといった風に口を開いた。
「…アダムの、お知り合いですか?」
『ちなみに第三者から見て、この状況でいきなり出てくるのってめっちゃめちゃ怪しい人物にしか思えないヨ☆』
いぶかしむクロエの疑念を代弁するかのように、シックザールが暢気な声で帽子屋をからかう。帽子屋が首をかしげていると、アダムとどんな関係の者か言わないとネ☆、とシックザールがさらにフォローを入れた。
「ふむ」
しかし、そんな当たり前の問いかけに、帽子屋は三日月型の笑みのままで小首を傾げる。
「そうですね…得意先と下請け業者の間柄とでもいいましょうか。はたまた需要と供給とも言えなくもないですが」
『いや帽子屋ってば。クロエさんが聞いてるのはそういう事じゃなくてー』
シックザールの答えの通り、クロエは帽子屋の言う「とくいさき」だの「きょうきゅう」だのといった単語に首をかしげるばかりだった。はて、と帽子屋はしばらく思案するように口を噤んで顎へ指をあてて考え込んだ後、
「あぁ、人間関係というものですか?」
『そうそう、それよソレ』
シックザールの相槌に、今度こそ納得いったとばかりに帽子屋もうなずく。
「失礼、久しくそういう質問をされなかったものですからつい忘れていました…そうですね、雇用主とでも言っておきましょうか」
『う、ウーン…えーとね、帽子屋はアダムの友達ダヨ。だから怪しいけど怪しくないから大丈夫!』
帽子屋のピントのずれた返答にまたも困惑するクロエに、シックザールがフォローを入れた。
「あの、アダムが…」
「えぇ、ところでシックザール。あの魔眼封じの片眼鏡は一体どうしたのですか?」
『川に落っことしたヨ』
「………」
無言の時がしばし流れた。
『いやどう考えてもあの高さから落ちて命があるだけマシっていうかー、でもあれないとアダム死んじゃうから変わりないけど…』
「アダムは死んじゃ駄目ですっ!」
クロエがもはや涙目になりつつも、ムキになって叫んだ。「僕だってアダム死んじゃやだもーん!!」と叫ぶシックザール達を眺めていた帽子屋は、疲れたように溜息をつきつつも、
「…まぁ、とりあえずアレの事はアダムが目を覚ましてからにしましょう。遊んでいる暇はないようですからね」
アダムの傍らに膝をつくと、左手をアダムの右目にかざす。左手に天体時計のような、規則的な円形とそれに侍る数字、そして秒針のような模様が青く発光しながら複雑に重なり合って浮かび上がる。
と、すぐに光は消えて、帽子屋が手をひっこめて立ち上がった。
「急場凌ぎですが、これで出血はほぼ止まるはずです」
『何したのー?』
「少し悪戯を」
何か楽しそうに微笑み、シックザールの返答には含みを持たせ唇に指を当て、沈黙のポーズをとる帽子屋。クロエが「これってなんですか?」と尋ねると、帽子屋が答える前にシックザールが『いけないことしたときの合図ダヨ☆』とクロエに耳打ちした。
-------------------------------------------
「ところで」
帽子屋はさも遺憾とばかりに、なぜか反発めいたものを感じさせながらクロエに向きなおった。
「貴女のような存在が、なぜアダムと一緒に?」
「それ、は…」
何をどう説明するべきか、いろんなことを喋ろうとして混乱してしまったらしく、口をぱくぱくさせるクロエ。しかし、はたと彼の言葉の中にあったある単語のニュアンスに気がついて、びっくりするように口元に両手を重ねて帽子屋を見上げた。
「あの、もしかして私のこと…?」
「見ればわかりますよ、場慣れしてない姿で一目瞭然にね」
『いや、それは帽子屋の偏見だって』
シックザールが珍しく不満そうに割って入った。
『変なの、今日は機嫌が悪いとか?』
「別に。私にそういう状態異常を起こすような式は入っていませんから」
『嘘つけ、思いっきりクロエさんの事苛めてるジャン』
シックザールがクロエの擁護するのが気に入らないのか、帽子屋が苛立たしげにステッキで床を叩く。
「……えぇと、あの…」
どう対処していいかわからないクロエは、ただ困惑するかしない。
-------------------------------------------
アダムの真上から、大きくていびつな三日月型の笑みが借用書を持って迫りくる。
「この糞帽子…!!返済は次の次の満月までってぎゃあああぁぁ…、あ?」
目をぱっちりと開くと、冷たく暗い洞窟の岩壁が見えた。先ほどまでアダムを押し潰そうとしていた三日月と借用書はどこにもなかった。
『うわぁ、ある意味正夢☆おはようアダムー』
自身の絶叫が「あーあー・・・」と洞窟の奥まで木霊していくのと、能天気な相棒の声がアダムの緊張を無くしていく。自分が固い土に寝かされていることを感触として知り、ゆるゆるとこれまでの経緯を思い出してきた。
「…って夢か」
「…アダム?」
クロエが目をこすりながら、うとうとと上体を起こしている。竜に戻らずに徹夜で人型のまま看病をしてくれたのか。思わず涙腺が緩みかけ、感動の男泣きをしそうになった次の瞬間、
「おはようございます、実にいい朝だ。ねぇアダム?」
その涙が浮かぶ瞳だけではなく顔ごと、帽子屋の黒く艶やかな皮靴に踏みつぶされた。
****
「この外道!!非道!!ついでに馬鹿野郎!てめー、一か月ぶりぐらいにあった友達(ダチ)になんてことしやがる!」
洞窟内に怒号が響く。
アダムが靴痕生々しい顔面を抑えながら、憤怒のあまりに帽子屋に掴みかかろうとしていた。その様子を、むしろそよ風とばかりに態度で流す帽子屋。
「もちろん親愛なる友人を少しでも早く目覚めさせようと思いまして、絶妙の力加減と綿密に計算した角度から挨拶を、と」
「何が絶妙の力加減と綿密に計算した角度だこの変質者!!てめー今すぐ食いモン喉に詰まらせて死ね!」
「あ、アダム…大丈夫ですか?」
今にも喧嘩に発展しそうな二人の合間にクロエが入る。心配そうな顔で、アダムの顔をそっと両手で包み込んで尋ねる。
「あ、大丈夫大丈夫。全然平気だから」
アダムは先刻の怒りもどこへやら、慌てて笑顔を作った。
「私もああやって挨拶するべきだったとはしらず…ごめんなさいアダム」
「そっち!?それはダメっ!それ違うから絶対っ!!」
****
「…で、魔封じの片眼鏡は川に落して自身も落下し、挙句の果てに食料も水も防寒具もないまま砂漠を越えようとした、と」
アダムは「お前のその服装も俺はどうかと思う!」という切なる叫びをぐっと抑えた。踏みつけられた右目は、何か強制的な力で開くことができない。それが帽子屋の手によって応急処置されたことを先ほどクロエから聞かされてしまったため、強く帽子屋に物言いをしにくい状況になっているからだ。
『補足補足ー☆ついでに異常眼の暴走で大出血!』
「…なぁシックザール。お前もしかして俺のこと嫌い?」
陽気な声で持ち主を不利に追い込む刀に、アダムは溜息をつきながら尋ねると、
『一番大好き!』
「あのね……」
シックザールの無邪気な発言に、がっくりと肩を落とすアダム。
「事はどうあれまずは国境を越えてからですね。そちらの彼女のことも、アダムの眼鏡のことも」
帽子屋はさも面倒だという雰囲気をあますところなく伝えてきた。アダムは徹底抗戦の構えを見せ(単にそっぽをむいて唇を尖らせただけだったが)、ふと思いついた疑問を口にした。
「てかさ、素朴な疑問。お前どっから沸いてきた?」
「私は液体ではないですよアダム」
帽子屋はアダムの発言を一蹴すると、つと洞窟の奥のほうを指し示す。
「もともとこの洞窟は、盗賊や夜盗が使う裏通路だと盗賊ギルドの方から。なんでも南はゾミンから王城オークレール、北は新生エディウスにまで通じているだとか」
最も、途中の王城付近まで行くにはそうとうの難所を越えなければならず、また王城の地下には王の命令で作られた怪しげな化け物が蔓延っていて城にはたどり着けないだとか、と帽子屋は丁寧に付け足した。
「じゃあお前、ゾミンから来たってこと?」
「えぇ、ギルドであなたがエルフの子供とラドフォードに向かったと聞きましたが、ラドフォードでエルフの樹林兵が暴れだしだとかで、正規の街道が町の自警団や正統軍によって封鎖されてしまったので、こんな辺鄙な道のりでラドフォードまで向かおうと歩いてきたわけですが」
帽子屋の発言に、顔を曇らせる二人。
「…やれやれ。やはりあなたがたが関わってましたか…。他にも街では、人食い竜が出たとかで、軍が我が物顔で街を闊歩していましたが…クリノクリアの夢見鳥に人食いの習性があったとは驚きですね」
「そんな…!」
必要以上にとげとげしい物言いに、クロエが声を上げようとしてきつく唇をかみしめて俯く。何か思うところがあるのだろうか、膝上に握りしめた拳を震わせて必死に瞼をつぶっていた。
「てめ…!」
『ねーそんなことよりもとりあえず街の周辺まで行こうよー。そうしないとアダムいつ倒れるかわかんないし、とにかく今は早く進もうよー』
何かにつけてクロエにつっかかる帽子屋に怒りを覚えながらも、なぜ彼がそこまで彼女を嫌うのか…アダムにもシックザールにもさっぱりわからなかった。もちろん矢を向けられたクロエもだったが…実をいえば、帽子屋本人さえよくわからなかったのである。
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NPC:シックザール・帽子屋
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠の洞窟
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クロエは恐る恐るといった風に口を開いた。
「…アダムの、お知り合いですか?」
『ちなみに第三者から見て、この状況でいきなり出てくるのってめっちゃめちゃ怪しい人物にしか思えないヨ☆』
いぶかしむクロエの疑念を代弁するかのように、シックザールが暢気な声で帽子屋をからかう。帽子屋が首をかしげていると、アダムとどんな関係の者か言わないとネ☆、とシックザールがさらにフォローを入れた。
「ふむ」
しかし、そんな当たり前の問いかけに、帽子屋は三日月型の笑みのままで小首を傾げる。
「そうですね…得意先と下請け業者の間柄とでもいいましょうか。はたまた需要と供給とも言えなくもないですが」
『いや帽子屋ってば。クロエさんが聞いてるのはそういう事じゃなくてー』
シックザールの答えの通り、クロエは帽子屋の言う「とくいさき」だの「きょうきゅう」だのといった単語に首をかしげるばかりだった。はて、と帽子屋はしばらく思案するように口を噤んで顎へ指をあてて考え込んだ後、
「あぁ、人間関係というものですか?」
『そうそう、それよソレ』
シックザールの相槌に、今度こそ納得いったとばかりに帽子屋もうなずく。
「失礼、久しくそういう質問をされなかったものですからつい忘れていました…そうですね、雇用主とでも言っておきましょうか」
『う、ウーン…えーとね、帽子屋はアダムの友達ダヨ。だから怪しいけど怪しくないから大丈夫!』
帽子屋のピントのずれた返答にまたも困惑するクロエに、シックザールがフォローを入れた。
「あの、アダムが…」
「えぇ、ところでシックザール。あの魔眼封じの片眼鏡は一体どうしたのですか?」
『川に落っことしたヨ』
「………」
無言の時がしばし流れた。
『いやどう考えてもあの高さから落ちて命があるだけマシっていうかー、でもあれないとアダム死んじゃうから変わりないけど…』
「アダムは死んじゃ駄目ですっ!」
クロエがもはや涙目になりつつも、ムキになって叫んだ。「僕だってアダム死んじゃやだもーん!!」と叫ぶシックザール達を眺めていた帽子屋は、疲れたように溜息をつきつつも、
「…まぁ、とりあえずアレの事はアダムが目を覚ましてからにしましょう。遊んでいる暇はないようですからね」
アダムの傍らに膝をつくと、左手をアダムの右目にかざす。左手に天体時計のような、規則的な円形とそれに侍る数字、そして秒針のような模様が青く発光しながら複雑に重なり合って浮かび上がる。
と、すぐに光は消えて、帽子屋が手をひっこめて立ち上がった。
「急場凌ぎですが、これで出血はほぼ止まるはずです」
『何したのー?』
「少し悪戯を」
何か楽しそうに微笑み、シックザールの返答には含みを持たせ唇に指を当て、沈黙のポーズをとる帽子屋。クロエが「これってなんですか?」と尋ねると、帽子屋が答える前にシックザールが『いけないことしたときの合図ダヨ☆』とクロエに耳打ちした。
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「ところで」
帽子屋はさも遺憾とばかりに、なぜか反発めいたものを感じさせながらクロエに向きなおった。
「貴女のような存在が、なぜアダムと一緒に?」
「それ、は…」
何をどう説明するべきか、いろんなことを喋ろうとして混乱してしまったらしく、口をぱくぱくさせるクロエ。しかし、はたと彼の言葉の中にあったある単語のニュアンスに気がついて、びっくりするように口元に両手を重ねて帽子屋を見上げた。
「あの、もしかして私のこと…?」
「見ればわかりますよ、場慣れしてない姿で一目瞭然にね」
『いや、それは帽子屋の偏見だって』
シックザールが珍しく不満そうに割って入った。
『変なの、今日は機嫌が悪いとか?』
「別に。私にそういう状態異常を起こすような式は入っていませんから」
『嘘つけ、思いっきりクロエさんの事苛めてるジャン』
シックザールがクロエの擁護するのが気に入らないのか、帽子屋が苛立たしげにステッキで床を叩く。
「……えぇと、あの…」
どう対処していいかわからないクロエは、ただ困惑するかしない。
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アダムの真上から、大きくていびつな三日月型の笑みが借用書を持って迫りくる。
「この糞帽子…!!返済は次の次の満月までってぎゃあああぁぁ…、あ?」
目をぱっちりと開くと、冷たく暗い洞窟の岩壁が見えた。先ほどまでアダムを押し潰そうとしていた三日月と借用書はどこにもなかった。
『うわぁ、ある意味正夢☆おはようアダムー』
自身の絶叫が「あーあー・・・」と洞窟の奥まで木霊していくのと、能天気な相棒の声がアダムの緊張を無くしていく。自分が固い土に寝かされていることを感触として知り、ゆるゆるとこれまでの経緯を思い出してきた。
「…って夢か」
「…アダム?」
クロエが目をこすりながら、うとうとと上体を起こしている。竜に戻らずに徹夜で人型のまま看病をしてくれたのか。思わず涙腺が緩みかけ、感動の男泣きをしそうになった次の瞬間、
「おはようございます、実にいい朝だ。ねぇアダム?」
その涙が浮かぶ瞳だけではなく顔ごと、帽子屋の黒く艶やかな皮靴に踏みつぶされた。
****
「この外道!!非道!!ついでに馬鹿野郎!てめー、一か月ぶりぐらいにあった友達(ダチ)になんてことしやがる!」
洞窟内に怒号が響く。
アダムが靴痕生々しい顔面を抑えながら、憤怒のあまりに帽子屋に掴みかかろうとしていた。その様子を、むしろそよ風とばかりに態度で流す帽子屋。
「もちろん親愛なる友人を少しでも早く目覚めさせようと思いまして、絶妙の力加減と綿密に計算した角度から挨拶を、と」
「何が絶妙の力加減と綿密に計算した角度だこの変質者!!てめー今すぐ食いモン喉に詰まらせて死ね!」
「あ、アダム…大丈夫ですか?」
今にも喧嘩に発展しそうな二人の合間にクロエが入る。心配そうな顔で、アダムの顔をそっと両手で包み込んで尋ねる。
「あ、大丈夫大丈夫。全然平気だから」
アダムは先刻の怒りもどこへやら、慌てて笑顔を作った。
「私もああやって挨拶するべきだったとはしらず…ごめんなさいアダム」
「そっち!?それはダメっ!それ違うから絶対っ!!」
****
「…で、魔封じの片眼鏡は川に落して自身も落下し、挙句の果てに食料も水も防寒具もないまま砂漠を越えようとした、と」
アダムは「お前のその服装も俺はどうかと思う!」という切なる叫びをぐっと抑えた。踏みつけられた右目は、何か強制的な力で開くことができない。それが帽子屋の手によって応急処置されたことを先ほどクロエから聞かされてしまったため、強く帽子屋に物言いをしにくい状況になっているからだ。
『補足補足ー☆ついでに異常眼の暴走で大出血!』
「…なぁシックザール。お前もしかして俺のこと嫌い?」
陽気な声で持ち主を不利に追い込む刀に、アダムは溜息をつきながら尋ねると、
『一番大好き!』
「あのね……」
シックザールの無邪気な発言に、がっくりと肩を落とすアダム。
「事はどうあれまずは国境を越えてからですね。そちらの彼女のことも、アダムの眼鏡のことも」
帽子屋はさも面倒だという雰囲気をあますところなく伝えてきた。アダムは徹底抗戦の構えを見せ(単にそっぽをむいて唇を尖らせただけだったが)、ふと思いついた疑問を口にした。
「てかさ、素朴な疑問。お前どっから沸いてきた?」
「私は液体ではないですよアダム」
帽子屋はアダムの発言を一蹴すると、つと洞窟の奥のほうを指し示す。
「もともとこの洞窟は、盗賊や夜盗が使う裏通路だと盗賊ギルドの方から。なんでも南はゾミンから王城オークレール、北は新生エディウスにまで通じているだとか」
最も、途中の王城付近まで行くにはそうとうの難所を越えなければならず、また王城の地下には王の命令で作られた怪しげな化け物が蔓延っていて城にはたどり着けないだとか、と帽子屋は丁寧に付け足した。
「じゃあお前、ゾミンから来たってこと?」
「えぇ、ギルドであなたがエルフの子供とラドフォードに向かったと聞きましたが、ラドフォードでエルフの樹林兵が暴れだしだとかで、正規の街道が町の自警団や正統軍によって封鎖されてしまったので、こんな辺鄙な道のりでラドフォードまで向かおうと歩いてきたわけですが」
帽子屋の発言に、顔を曇らせる二人。
「…やれやれ。やはりあなたがたが関わってましたか…。他にも街では、人食い竜が出たとかで、軍が我が物顔で街を闊歩していましたが…クリノクリアの夢見鳥に人食いの習性があったとは驚きですね」
「そんな…!」
必要以上にとげとげしい物言いに、クロエが声を上げようとしてきつく唇をかみしめて俯く。何か思うところがあるのだろうか、膝上に握りしめた拳を震わせて必死に瞼をつぶっていた。
「てめ…!」
『ねーそんなことよりもとりあえず街の周辺まで行こうよー。そうしないとアダムいつ倒れるかわかんないし、とにかく今は早く進もうよー』
何かにつけてクロエにつっかかる帽子屋に怒りを覚えながらも、なぜ彼がそこまで彼女を嫌うのか…アダムにもシックザールにもさっぱりわからなかった。もちろん矢を向けられたクロエもだったが…実をいえば、帽子屋本人さえよくわからなかったのである。
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