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2025/03/10 12:54 |
Rendora-14/クロエ(熊猫)
キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール・帽子屋
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠の洞窟
――――――――――――――――

「アダム!」

慌てて、倒れてきた頭を両腕で抱き留める。くせのついた髪をはらいのけると、
蒼白になったアダムの顔が現れた。

「なんで、急に――」

うろたえながらも、とりあえず膝の上で仰向けに寝かせる。特に意味があるとは
思えなかったが、呼吸ができるなら大丈夫だろうとクロエは自分に言い聞かせた。

頬に手のひらをあててみる。顔色とは裏腹に、汗すらかいているほどの熱がある。

「…冷やさないと」
『あーあ、今度こそ駄目かもねぇ?』
「駄目にしませんっ」

軽口を叩く剣に反論するも、できることが見つからない。しばらくさまよった
視線が辿り着いたのは、横手に広がる洞窟の闇だった。
洞窟は深そうだった――ある程度の深さがあれば水も氷もある事はクロエも承知
の上だったが、この扱い慣れない身体を駆使してどこにあるかわからない氷を
探しに行くのは不可能だ。

ふ、と息をつく。無意識に両腕を自分に巻き付けて身震いする。

(寒い…)

はっ――と。

思わず洞窟の中から外に目を向ける。
いびつな丸に切り取られた砂漠の夕暮れは、濃い紫と黒い雲の影との奇妙な
まだら模様になっていた。昼間に猛威を振るった、あの灼熱はすでにない。

「夜は、冷えるんですよね」

念押しするかのように呟いて、手を伸ばしてアダムの荷物を引き寄せる。

『うん、そうだけど…って何してるの?』

ポケットからハンカチを――贈り主はコールベル製だと誇らしげに言っていたが、
そんな事はどうでもいい、ただ今は清潔でさえあればいいのだ――取出し、
アダムの上着を脱がせる。ついでに内側にある水の入った瓶を取り出すと
慎重に蓋を開ける。

扱い慣れない留め具やベルトに邪魔をされて、それだけの事をやるまでに相当な
時間を食ったものの、ただ瓶をひっくりかえさなかった事にクロエは安堵した。
四つ折りにしたハンカチをその水で濡らし、最も発熱している右目の上に乗せ、
瓶の蓋を閉じた。

引き寄せた荷物をまとめて塊にすると、そこにそっとアダムの頭を乗せてやる。
だらりと垂れた手を胸に置き、ぐったりとしている彼を数秒見つめてから、
手に瓶を持ってクロエは立ち上がった。

『どこ行くの?』
「冬を少し頂いてきます」

剣が言葉につまった隙をつくように、身を翻して洞窟の外へと飛び出してゆく。

洞窟は円柱を縦に切って寝かせたようなかたちで存在している。クロエは
横に回りこんで洞窟の屋根にあたる部分まで登っていった。ごつごつした
足場はとっかかりとしては最適だったが、ひとたび足を踏み外せば
この低い位置からでも無傷ではいられなさそうなほど尖っている。

苦労して登りきり――さっと周囲に視線を配る。

日が射さなくなった砂漠はモノトーンへと変じていた。風になびく砂が
風紋を刻む音が聞こえる。それにまぎれて、もっと奥底から漏れてくる
囁きを探す。

(…いた)

気配を感じた。足元をさぐり、手にした尖った小石で手の甲を傷つける。
いびつな傷口に血がにじむのを確認しながら、人の口を使い竜の声で唱和する。

『我 白銀(しろがね)の森から来たりし夢見鳥』

反応があった。潅木の根元から、白い砂の影から、ゆらりと透明な波紋が
さざめいて形を作る。

『地に臥す生命 気枯れ萎び 熱を帯びる ゆえに願う』

胸に抱いていた瓶の蓋を開ける。ゆるくなった蓋を取り落とさんとしっかり
握ると、傷ついた手の甲からさらに血が押し出された。
波紋はだいぶ集まってきている――水の精霊だった。やはりこの下には
地下水が流れているのだ。思ったよりも存在していてくれた。

『ここに六花の恩恵を顕さん』

ぱた、と手から血が砂に落ちた。もう辺りは暗くてその色すら伺えない。
波紋がそこに吸い込まれるように漂ってくる。集まる精霊はひとつになり、
分かれ、消えては現れるを繰り返す。

『河伯に竜の血玉を奉げる故、願い聞届け給え』

ふ、と視界がゆがみ――右の瞳から涙が一筋流れた。

(水で答えた…来る…)

砂が血を吸い込み終わると同時に、左肩と耳の間を波紋が通り過ぎる。
それに導かれるように、左の瞳からも涙が零れてくる。吐く息は白い。

クロエは慌てて瓶を地に置いた。そこにゆらりと立ち上る霧が
瓶にまとわりつき、枯れ枝を折るような音を立ち上らせて
音もなく去っていった。

「ありがとう」

最後に人の言葉で礼を言うと、瓶をそっと持ち上げる。
中には氷がかすかな星明りを反射して鈍く煌いていた。すぐに踵を
翻して、洞窟へ戻ろうと下を覗き込んだところで、クロエは動きを止めた。

そこには一人の男がいた。なんの前触れもなく、唐突に。

主のいない影のように男は黒い姿で立っていた。この砂漠において何のつもりか
知らないが、先の尖ったステッキなど持っている。
洞窟の中から漏れる光を一身に受けているのに、目深に被った艶のある
帽子のせいで、全貌は窺い知れない。

こちらが何かを言うより、男があごをあげてこちらを見るほうが一拍
早かった。
帽子のつばを手でずらすようにして簡易的に礼をしてくる。

「今晩は」

およそ自然界において存在し得ないであろうその青が、こちらの瞳を貫いて
脳髄に突き刺さる。そんな幻想じみた感覚に軽い眩暈すら覚えながら、
クロエはその男の瞳を見つめ返した。

『あー!帽子屋だー!』
「シックザール?」

突如として洞窟内から響いてきた声の主の名を呼ぶ。帽子屋と呼ばれたその
男は、無言で視線を洞窟へと向けてそちらへ歩き出した。クロエもまた
できるだけ急いで高台から降り始める。

「おやおや、酷い有様ですねぇ…」

手に持った瓶を落とさないようにしながらようやく地面について見ると、
入り口を塞ぐようにしてさきほどの男が立っていた。
こちらに背を向け、まったくどうしようもないという風にかぶりを
左右に振っている。
剣の声は依然として明るい。まるで冗談でも話すかのようにうきうきと
してすらいた。

『見て見て帽子屋ー、アダムこんなんなっちゃった☆』
「全くいつもいつも…これは一種の才能とでも言えましょうか」
『まーたしかに凡人じゃここまでこうならないよねー。あ、泡ふいてる』

何から何まで、男を装飾するのは「違和感」という言葉でしかなかった。

砂漠の真ん中でその格好でいる違和感、
仕草や口調はあくまでも丁寧でありながら警戒心を拭い去ることのない違和感、
浮かぶ笑みの、鮮烈な蒼い瞳の。

違和感。

「貴方は――いえ、ごめんなさい」

誰何を問おうとするも、目的を思い出して中断する。凍った水筒を
冷えた右手から左手に移し変えると、その男が立っている位置を
通り過ぎてクロエは洞窟へと戻った。

アダムの目を覆うハンカチを凍り付いた瓶にあてがい、冷やす。

「急に倒れて…」
「これはとんだご迷惑をおかけしましたねぇ、お嬢さん」

アダムの口元を拭いながら言うと、やはり男は丁寧に返してきた。
そう、彼は落ち着きすぎていた。見た感じでは彼らは顔見知りのようだが、
そうとなればもっと慌てふためいていてもいいのではないか。

『クロエ、それなんで凍ってるの?』
「水の精霊にお願いしました」
「ほう」

問いかけたのはシックザールだったが、あいづちを打ったのは帽子屋とやら
だった。いつの間に近づいたのかすぐ真後ろに立って、クロエの頭越しに
アダムの顔をうかがっている。

ふと目があって――その蒼すぎる瞳に気おされるように、我知らずクロエは
さきほど傷つけた手をかばうように胸にあてた。

「クロエといいます。貴方は……貴方は、誰です?」

やっとの問いかけに、男が笑う。
まるでそれは、クロエの手にできた傷口のように鋭く、赤かった。

――――――――――――――――
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2008/10/23 18:53 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora

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