忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/18 21:30 |
異界巡礼【眠りの車輪に導かれて】/マレフィセント(Caku)
キャスト:マレフィセント・フレア
NPC:リノツェロス・馬車の御者・馬車の主
場所:?
―――――――――――――――

うとうと、誰もが眠りに落ちた。
がたがた、馬車は誰も知らない場所へ行く。


***

車輪はぐるぐる回り続ける…。

***

「……………?」

ふと、ぱっと目が覚めてマレはむくりと起き上がった。
外の様子が気になって、馬車の窓のほうへ振り向く。窓の外は景色があやふやで、白い靄が全てを覆っていた。まるで雲の中にいるようだ。

「境界には敏感なのね」

起きていたのか、女主人の声がマレに届く。
リノもフレアもすやすやと寝息を立てており、この馬車の中で目覚めているものは誰もいない。マレは大きな瞳をぱちぱちさせて、声の主のほうをじっと見つめる。

「越えるのは簡単、でも、戻るのはとても難しいわ」

女主人は意味深に呟く。
馬車の中の暗闇に紛れていて、輪郭はおぼろげにしか見えないが、その手に持っているであろう煙管から、輝く青い煙がたゆたう。

「仕方ないのよ、こればっかりは…境界がないと私達があちらに溢れてしまうもの。
あちらはとても脆いのよ、小さなお嬢さん。あちらの人はとてもとても脆いものだから、私達が押しかけてはきっと恐怖で潰れてしまうでしょうね」

女主人が語りかけてきた。フレアと同じ言葉のはずなのに、マレフィセントに通じる言葉。マレはただ、じっと女主人の声に耳を傾けていた。彼女の声はとても気持ち良いと、本能が告げる。

「だからお眠りなさい、小さなお嬢さん」

言葉には魔力が宿る。マレは女主人の言葉のままに瞼を閉じた。そうして、歌うように声だけが瞼の裏側に響いてくる。

「すでに"越えて"しまった貴女にも、帰れる場所がどこかにあるといいわね。戻れなくなったお嬢さん」

--------------------------------------------------------




***

車輪はぐるぐる回り続ける…。

***


「おはよう、マレ」

次にマレフィセントの目が覚めたときには、すでにフレアもリノも目覚めていた。
眠気の残る瞼を苦労して持ち上げ、手の甲で瞳をごしごしとこする。大きくのびをしようとして、思わずマントがずれて角が露出しそうになる。それに気が付いたフレアが慌ててマレのマントを押さえた。

「こらっ、マレもうちょっと…!!」

その様子を見てたらしい女主人がくすりと笑った空気が流れる。女主人は何かに気が付いたように、あぁ、と小さく声を上げた。

「もうじき見えてくるころですわ、外を」

女主人の声に、思わず窓のほうを見るフレアとマレ。

「あ…」

窓の向こうの景色に、フレアが感動に、マレが驚愕にぽかんと口をあけた。二人は思わず馬車の窓を開け、大きく外に身を乗り出した。




空はまるで万華鏡。意味さえ不明な幾何学模様の星が空一面に散りばめられていて、ところどころで常にカタチを変えている。太陽と月は地平線を挟んで向かい合い、地平まで麦のような穂がなびく畑が一面に広がっている。麦、と断定できないのは、その色が自然界のもとは思えない七色に輝いているからだ。その七色の畑の上を金銀の何かが縦横無尽に飛び交っている。

「……鳥?」

縦横無尽に飛び回るのは、金色の鴎と銀色の鴉。鳥、のはずなのだが、よくよく見るとその翼の羽はトンボのように透けている。瞳は赤い宝石で、光にきらきらと反射する。
馬車は蒼い石で出来ている石橋を走っている。蒼い石橋は、ときおり一部の石が赤や黄色に点滅している。馬の蹄が当たった部分は淡く発光している。後方を振り返ると、地平線まで続いている石橋に淡い光が点々と残っている。
木々には宝石が実り、流れる川は硝子の砂で満たされている。石畳の上には蜥蜴の皮をもった猫が、金目を光らせて馬車を見送っていた。

「…まるで人の世とは思えんな」

ぼそりと、リノが険しい顔で呟いた。痛みとは何か別の、どこか畏れさえ滲ませた感情を抑えた声。
だがフレアはあまりにも美しい外の光景に目を奪われていて、リノの言葉を聞き取ることは出来なかった。だが、その声にくすくすと忍び笑いをもらす女主人。何が気に入らないのか、リノは無言でそっぽをむく。

--------------------------------------------------------

馬車の向こうの景色に心を奪われていたフレアに、後方から声がかかる。

「綺麗な赤い瞳のお嬢さん」

女主人がフレアに呼びかける。その声の中に、なにか不吉なものを感じてフレアは思わず鳥肌がたった。
振り向くと、さきほどと変わらぬ女主人のあやふやな陰影。ただ帽子の下から覗く白い肌と、煌く銀色の唇だけがはっきりと見て取れた。

「これから行く場所は、どんな怪我も病気もたちどころに消えてしまう。そこでは地位も種族も関係なくてよ、けれども一つ、あなた方は絶対に破ってはならない掟がある」

「掟…?」

フレアが鸚鵡返しに問いかけると、女主人は美しい声で、

「こちらの食べ物を口にしないこと」

と、急に女主人の声の温度が氷点まで下がった。

「果実だろうと葉のたった一枚であろうとも、決して口にしてはなりません。もし、これから出会った者達に何か勧められても、絶対に何も食べることがないように」

その言葉に、マレがぴくりと顔をあげ、リノは怪訝そうに眉間に皺をよせて上体をわずかに上げた。




「もし」

女主人は、そこで初めて、

「何か一つでも口にすれば、二度と元いた場所には戻れないのですから」

無邪気な悪意で、そう三人に告げたのであった。



--------------------------------------------------------
PR

2008/10/23 18:52 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<異界巡礼-12 「誰そ彼」/フレア(熊猫) | HOME | Rendora-14/クロエ(熊猫)>>
忍者ブログ[PR]