忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/11/01 08:27 |
捜し求める者たちの軌跡1「行方不明事件」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー メデッタ (サノレ アイリス エスト)
NPC:リング ニーニャ ニーニャの母親
場所:白の遺跡~ソフィニア市街
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 かくして、白の遺跡と呼ばれていた遺跡は脆くも崩れ去った。
 轟音と共に崩れ行く遺跡を目の当たりにしながら、ギゼーはひざまづいて力
なく肩を落とし、呆然と眺めるしかなかった。
 崩れ行く遺跡を眺めながら、ギゼーは息苦しさを感じていた。胸が痛い。目
頭が熱くなっていく。愛すべき遺跡が無くなっていく事に、ギゼーは耐え難か
った。
 物心ついた頃から遺跡の中で育った。それは、父親がトレジャーハンターだ
からとか、そういう意味だけでなく本当に遺跡の中の匂いとか、雰囲気とか、
そういった存在そのものが好きだったのだ。だから自分は積極的に遺跡の中を
散策してきた。ちょっとした探検気分を味わいたかったからかもしれない。普
通の男の子にありがちな、スリルを味わうという感覚。ギゼーは崩れ行く遺跡
を目の当たりにしながら、昔の事に思いを馳せている自分に戸惑いを感じてい
た。

「……嗚呼、遺跡が……」
「ギゼー君。君の気持ちは分かるが、今は呆然としている場合じゃないぞ」

 呆然とするギゼーに、鞭を打つような言葉を投げかけたのはリングを背負っ
たメデッタだった。

「早くリングを病院に連れて行かなくては」

 メデッタさんはリングちゃんの事を、本当に大切に思っているんだな。ギゼ
ーは思考の停止した頭の中を過ぎったその言葉を覚えると、虚ろに笑った。
 遺跡よりもリングちゃんのほうが大事か。ああ、そうか。それもそうだな。
 ギゼーはやっとの思いでそれだけを思うと、徐に立ち上がって無理やり笑顔
を作って見せた。

「ああ、それもそうですね。メデッタさんの言うとおりだ。早くリングちゃん
を病院に連れて行かなくては」

 とはいえ、病院に連れて行ったからといってどうにか成るような状況ではな
いだろうが。少なくともここにじっと蹲っているよりは遥かに有益な行動であ
る。

「ここから近い街というと……ええっと……」

 血の巡りが悪くなった頭で必死に答えを導き出そうと試みるギゼー。

「ソフィニアだよ。ギゼー君」

 そんなギゼーを見かねてさり気なくフォローするメデッタ。
 息はばっちり合っているようである。


     ∞∞∞∞∞∞∞∞


 ソフィニアの街は、噂話で溢れていた。
 独り言の多いはだけ男の噂や、向こうが透けて見えそうな男の噂、中には連
続殺人事件の噂などもあった。烏がやたら騒いで夜も眠れなかったという話も
聞こえてくる。
 そんな噂話など耳に入らずといった風体で、ギゼーと、リングをおぶったメ
デッタは、大通りを歩いていく。目指すはソフィニアの街中に唯一有る病院
だ。比較的大きな建物だから直ぐにでも目に付くだろう。そんな気楽さも伴っ
てか、ギゼーは通りを物色しながら歩いている。何の物色かは想像に難くな
い。その瞳が女性の後姿ばかりを追っている事からも、ナンパな心が働いてい
る事は目に見えて明らかだった。
 そんなギゼーを見かねてか、メデッタは先を促す。

「ギゼー君。今は寄り道なんてしている場合じゃないぞ」

 ギゼーはそんなメデッタの親心に、空返事で答えるだけだった。


 ふとギゼーは、視界の端に違和感を感じた。
 不審に思って見ると、栗色の髪も鮮やかな一人の少女が通りをギゼー達とは
反対の方向へ駆けて行くところだった。その表情には笑みが浮かんでいる。朱
色の瞳を明るく輝かせて、愉しげに走っていく。淡い桃色のワンピース。その
裾が、ギゼーの直ぐ横をひらめかせながら過ぎる瞬間に――少女は消えた。
 忽然と。
 ギゼーがはっとして振り返ると、少女が消えた辺りの石畳には魔方陣らしき
文様が刻み込まれていた。まるで、その上で炎か何かが燃えたように魔法陣が
くっきりと焦げ付いて残っていたのだ。

(――魔法!?)

「ギゼー君、どうしたね?」

 メデッタの声にそちらを向くと、いつまでたってもついて来ないギゼーを心
配そうに見詰めるメデッタの姿があった。

「い、いや、今、“可愛い”女の子が消えて……」
「まぁた、可愛い女の子……か。君はこんなときに……」

 メデッタは、呆れてものも言えないという風に肩を竦めて見せた。
 その時、不意にメデッタの後方、二人が向かっていた先の方から悲痛な叫び
声が上がった。

「ニーニャ! ニーニャがっ!」

 声のした方を見ると、一人の女性が頬に両手をあてがって佇んでいた。驚愕
の表情を張り付かせて。目は、今しがた少女が消えた辺りに向けて見開かれて
いる。膝をガクガクと小刻みに震えさせ、今にもくず折れそうだ。彼女の向こ
うには、金と黒のツートンカラーの髪の少女が居て、声を掛けようと歩み寄ろ
うとしている。

(――ニーニャ?)
PR

2007/02/12 17:39 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
捜し求める者たちの軌跡2 「素敵なおじさま」/サノレ(ちあきゆーか)
PC:ギゼー メデッタ サノレ (アイリス エスト)
NPC:リング ニーニャの母 看護婦×2
場所:ソフィニア市街・病院
----------------------------------------------

ソフィニアの印象は、ひとことでいえば「なんでもあり」だった。
尖った耳のエルフや尻尾の生えた半獣人、お揃いの制服を着た学生、魔法の力で走る
列車、この街では当たり前なものごとも、サノレにとっては初めて目にするものだっ
た。
そんな街では、人が消えるのも珍しくないことなのかと思ったが――

「ニーニャ!ニーニャがっ!」

どうやらそういうわけでもないらしい。
少女の母親と思しき婦人はすっかり狼狽しきっていた。
それなのに、周囲の通行人ときたらただ少女の消えたあたりを取り巻くだけで、彼女
には見向きもしない。
人間の本性は、世界のどこでもこんなものなのだろうか。

「だいじょうーぶ?」

サノレは婦人に声をかけた。誰もやらないなら、自分がやればいいだけのことだ。
だが、返事はない。
もう一度声をかけようとサノレが口を開いた瞬間、婦人は卒倒した。
魔方陣を取り巻いていた人々がざわめく。

(今さら騒いだって遅いのよ、あんたーら!)

サノレが慌てて彼女を助け起こしたが、意識がない。
呼吸はあるから命の心配はないだろうが、だからといって放っておくわけにもゆくま
い。
お人好しな自分に半ば呆れながら、サノレは彼女を担ぎ上げた。

「病院はどこなーの?!」

野次馬のひとりが道の向こうを指さす。
婦人を担いだサノレが歩き出すと、野次馬の列が割れる。
数歩歩いたところで、急に肩が軽くなった。怪訝に思ったサノレが横を向くと、栗色
の髪の男が婦人のもう一方の腕を担いでいる。

「手伝うぜ、お嬢さん」

男はそう言って笑うと、少し先に佇む、少女を背負った黒ずくめの男に目で合図し
た。
黒ずくめの男は、苦笑しながらもしっかりと頷く。
その黒ずくめの男を視界に捉えたサノレは、思わず呟いていた。

「素敵なおじさま……!」


   * * * * *


栗色の髪のおにーさんは、トレジャーハンターのギゼー。
黒ずくめのおじさまは、メデッタ。
そしてメデッタが背負っていた女の子は、リング。
三人はソフィニアの近くにある遺跡を探検してきたばかりなのだという。
遺跡探検。
それもまた、サノレには新鮮な響きだった。

「…ところで、あのご婦人はどうして倒れたんだね?」

婦人とリングを医者に預けた後、待合室の長椅子で、おもむろにメデッタはそう切
り出した。
考えれば考えるほどにリングが心配になって、何かを話すことで気を紛らわせなけれ
ばとても堪えられそうになかったのだ。
だが、ギゼーは看護婦をナンパしに行ったまま帰ってこないため、仕方なくこの少女
を話し相手に選んだのだった。

「子供が消えたのーよ」
「消えた?それはまた、奇妙な話だな」
「だけど本当なのーよ」

こういう形の模様があってーね、と、指で空に図形を描く。

「これは…魔方陣か?」
「うーん、あたし魔法はよくわかんないけーど」

メデッタがもう少し詳しい説明を求めると、サノレは肩にかけたポシェットから紙と
鉛筆を取り出し、さらさらとそれを書き表してみせた。
サノレの描いた図を見て、ほう、とメデッタは感嘆の声をあげた。
完全なのだ。
彼女は「魔法はよくわからない」と言ったにもかかわらず、相当の知識がなければ描
けない複雑な魔方陣を完璧に再現したのだ。これは、普通の人間の記憶力ではまず為
し得ない業だった。

「お嬢さん、何者だ?」

メデッタの眼光が鋭くサノレを射る。
だが、何故かサノレは頬を赤らめて俯く。

「おじさま、あたしが気になるーの?きゃー、嬉しーい!」
「そういうことではなくてだな…」
「あたし、おじさまのためなら何でもするーよ?」
「…………」

何か根本的な行き違いが生じているような気がして、メデッタは閉口した。
サノレの瞳はきらきらと輝き、上目遣いで彼を見上げている。
可愛らしさをアピールしているつもりなのだろうか。
彼の嫌いな赤い色をした瞳で?

「あ、看護婦さんが来たーよ?」

サノレはそう言うが、看護婦など姿も見当たらなければ足音もしない。
メデッタが怪訝な顔で彼女の横顔を見たそのとき、彼の耳は看護婦の足音をとらえ
た。
決して彼の耳が悪いのではない。サノレの聴覚が鋭いのだ。
メデッタの表情に驚きの色が浮かぶ。
年配の看護婦は彼を一瞥すると、手元のカルテをぱらぱらとめくった。

「リングさんのお連れの方ですか?」
「いかにも」
「診察室へお入りください」

メデッタは看護婦に伴われて診察室へ消えていった。
それと入れ違いに、別の看護婦がサノレを呼ぶ。


   * * * * *


廊下を進み、階段を登って、また廊下を進む。
そんなことを繰り返して行き着いたのは、古びた白いドアの前だった。

「どうぞ」

看護婦が慇懃にドアを開け、サノレが部屋に足を踏み入れる。
そしてドアが閉められた、次の瞬間。

「死ねぇっ!」

棍棒のように形を変えた看護婦の両腕が振り下ろされる。
サノレが素早く身をかわすと、看護婦の腕は石造りの床を砕き、そのまま深くめりこ
んだ。まさかかわされるとは思っていなかったのか、看護婦の顔に驚愕の色が浮か
ぶ。
次なる一撃を繰り出すためになんとかして腕を引き抜こうとしているが、その大きな
隙をサノレが見逃すはずもなかった。
横向きの体勢からそのまま反動をつけ、看護婦の頭部めがけて回し蹴りを放つ。
だが、サノレの脚は空を切った。

「えっ!?」

バランスを崩してよろめくサノレ。
そして次に振り向いた瞬間、そこに残されていたのは、黒く焼け焦げたような魔方陣
の跡だけだった。

(またこれなーの?)

少女が消えたときにも焦げたような跡。
そして、今またここに焦げたような跡。
その間には何か関係があるのかも知れないな、とぼんやり思うくらいがサノレの思考
力の限界だったが、この不思議な図形は既に彼女の興味を強く惹き付けていた。
サノレはポシェットから取り出した紙と鉛筆でその図形をきっちり書き留めると、ド
アノブに手をかけようとした。

だが、ないのだ。

確かにドアをくぐってこの部屋に入ったはずなのに、そのドアがあったはずの場所に
今あるのは、真っ白いつるりとした壁だけ。
押したり、叩いたり、蹴ったりしてみたが、それでも壁はびくともしない。
おまけに、壁の向こうに人の気配はなく、誰かに助けて貰うという選択肢はないらし
い。
そうなると、残された脱出口は。

「窓しかないのーね……」

カーテンもなければ雨戸もない、剥き出しの窓。
ドアがなければ、確かにそこから出るのが道理というものだろう。
だが、ここは一階や二階ではない。飛び降りるのに失敗すれば、見るも無残なことに
なることは明らかだった。
身を乗り出して、外壁に足掛かりになりそうな部分がないかどうか探してみるが、丁
度良い具合の場所は見当たらない。
次に、下を覗き込んでみる。
薄暗く狭い路地裏にはゴミが散乱し、野良犬や鴉が餌を漁っている。
麻袋に詰められたゴミの山が緩衝材代わりになってくれそうではあるが、さすがに自
分からゴミに飛び込むのは抵抗がある。

しかし、いつまでもここで逡巡している暇はなかった。
ひょっとしたらあの婦人だって、もしかしたらギゼーやメデッタやリングだって危険
に晒されているかも知れないのだ。
そう、それに、汚れたってどこかで体を洗えばいいだけではないか。

と、半ば無理矢理に自分を納得させ、サノレは窓枠に脚をかける。
改めて下を見ると、もし失敗したら、という恐怖心が頭をもたげてくる。
それでも。
飛び降りなければどうしようもないのだから。

大きく深呼吸をすると、サノレはひと思いに窓枠を蹴った。


   * * * * *


「……嬢さん?お嬢さん?」

誰かが肩を揺する。
ゆっくりとサノレが目を開けると、そこにはメデッタの顔があった。
ふたりの目が一瞬だけ合ったが、彼女の瞳を直視してしまったメデッタはすぐに目を
逸らした。

「若い女性が公共の場で眠りこけるのは感心しないな」
「あれ…ここーは?」

サノレは驚いて辺りを見回した。
彼女のいる場所は、ゴミの山の中でもなければ、死後の世界でもなかった。
あの看護婦に呼ばれる前に座っていた、待合室の長椅子だった。

あれは、夢だったのだろうか?

ポシェットの中から、紙の束を取り出す。
ぱらぱらと数枚めくり、あのときメデッタに解説した魔方陣が描いてある次のページ
には。

「あれ、あったーよ?」

看護婦が消えた場所にくっきりと残っていた図形がそのまま書き写してあった。
素っ頓狂な声をあげるサノレに驚いたのか、メデッタは「何があったんだね?」と訝
しげな表情で彼女の手元を覗き込んだ。

「これは?」
「さっき看護婦さんが消えたときにあったんだーよ」
「看護婦?」

メデッタは何が何だか解らないといった顔でサノレを見た。
ちょうどそのとき、ギゼーが戻ってきた。
苦虫を噛み潰したような表情からして、どうやらナンパの成果は芳しくなかったらし
い。

「どこへ行っていたのだね、ギゼー君」
「まぁ、いろいろとね。で、リングちゃん、どうだって?」
「とりあえず数日入院させることになったが…………いや、なんでもない」
「そうか、それじゃしばらくはソフィニアにいることになるな」

メデッタは口をつぐんだが、表情を見れば彼が何かを隠しているのは明らかだった。
だが、ギゼーは敢えてそれを問わなかった。
それが彼なりの思いやりだったし、メデッタもそれを察していた。
だが、やはりその場には重々しい空気が漂いはじめていた。

「おにーさん、消えちゃった看護婦さん知らなーい?」

空気が読めないというべきか、それとも助け舟を出したというべきか、サノレが彼ら
の間に割って入る。

「看護婦?」

そうそう、と、メデッタが妙に明るい声で相槌を打った。
そして、サノレの手にしている紙束を指し示す。

「これを見給え、ギゼー君」
「魔方陣…か?」
「うむ、その通りだ。このお嬢さんの言い分を信じるなら、君と彼女の担いできたご
婦人の娘さんがこの魔方陣で消え」

一枚目の紙に描かれた魔方陣の外側を、メデッタの指がなぞる。

「そして、彼女の出会った看護婦がこの魔方陣で消えた」

二枚目の紙に描かれたそれも、同じようにしてなぞる。

「偶然の一致にしてはできすぎていると思わないかね?」

ギゼーは無言で頷く。
看護婦が消えたというのは自分が見たわけではなかったが、恐らく事実なのだろう。
彼女の言い分を有り得ないと否定するのなら、あの婦人の娘――ニーニャとかいった
か?――が雑踏の真ん中で掻き消えたことも同じように有り得ないと否定されるべき
であろう。
だが、ニーニャが消えたのはこの目で見たし、サノレだって見ているし、他の大勢の
通行人も目の当たりにしている、紛れもない事実なのである。
万一それが幻であっても、白昼の街中で大勢が幻を見たとなれば、それはそれで事件
だといえる。

「面白いな」

ギゼーは不敵な笑みを浮かべた。
この事件には何かがある。
トレジャーハンターの直感がそう告げていた。

「メデッタさん、面白い話を拾ったな」
「礼なら、このお嬢さんに言ってくれ給え」

よく事情を呑み込めていない当のサノレは、うっとりとした目つきでただただメデッ
タを見つめている。

「お嬢さん、ギゼー君が話があるそうだ」
「なーに?」

サノレの視線がギゼーに向くと、やれやれといった風にメデッタは苦笑した。
どうやら、サノレの熱烈アピールも今のところ全く効果がないようだ。

「お嬢さん、この街の人か?」
「違うーよ」
「それじゃ、冒険者か?」
「んー、そういうわけでもないけーど。いろんな人についてって旅してたんだーよ」
「それは冒険者っていうんじゃないのか…?」

そうかーも、とサノレはあどけなく笑う。

「まぁ、いいか。とにかく、この事件を解決する気はないか?」
「あれ、なーに?おにーさんたちも手伝ってくれるーの?」

どうやら、目的は一致していたらしい。
ギゼーが右手を差し出すと、サノレはその手をしっかりと握った。

(格好悪くはないけど、あたしの好みとはちょっと違うわーね)
(あと五年もすればいい女になるかも知れないが、まだまだだな…)

視線を交わした瞬間、サノレとギゼーはお互いをそう値踏みしていた。
だが、お互いがそれを知ることはないだろう。

医師の話によれば、婦人の意識はもうすぐ戻るはずだという。
だが、サノレの「なんかおなかが減ったーわ」の一言で、街で遅めの昼食をとること
になった。

だが、そこにもまた一連の事件の種は転がっていたのだった。

2007/02/12 17:40 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
捜し求める者たちの軌跡3「困った人たち」/メデッタ(果南)
PC:ギゼー メデッタ サノレ (アイリス エスト)
NPC:ウェイトレスさん×2 ガラ悪そうな男
場所:ソフィニア市街
----------------------------------------------

 サノレの提案で、ギゼー達一行はソフィニアの街で、少し遅めだが昼食をと
ることになった。
 だが…、街に出て早々、メデッタは、このメンツで街に出たことを後悔する
ことになる。
 サノレは、この街に来たのは初めてなのだろう、ソフィニアで見るもの全て
が珍しいらしく、
「わー、こんなのみたことないーよ」
「これすごいーよ」
 店のショーウィンドーを覗いてはそれを連発し、その場を離れないのだ。
 (やれやれ…)と思いメデッタがギゼーの方を見ると、ギゼーといえば今、
道ですれ違う王宮魔術師候補生のFカップはあるであろうエルフのオネーサン
に心奪われ、心ここにあらず…といった様子だ。鼻の下をびろーんと伸ばし、
少し目を離した隙にふらふら~っといなくなってしまいそうな気配を漂わせて
いる。
 一人なら、自分がその人物を注意して見守っていれば済むことだが、さすが
に、二人同時だと、メデッタも、注意の目を光らせるのには限度がある。

 ああ…。この二人の面倒を同時に見ることは不可能だ…。

 即座にそう感じたメデッタは、一方の手で「ほら、昼食をとるのだろう?」
とサノレをショーウィンドウから引き剥がすともう一方の手で「ギゼー君、行
くぞ」とギゼーの腕を掴み、店の名前もろくに見ずに、二人を引きずるような
形で、近くにあった店の中へとずかずか入っていった。
 耳に心なしか二人の不服そうな声が聴こえてきたが、それは無視しよう…と
心に決めたメデッタであった。


 ろくに名前も見ずに入った割には、この店はちゃんとしたレストランだっ
た。
「ご注文は?」
 ミニスカートに白いエプロンをした小柄なウェイトレスが尋ねる。
「ん~、俺、ハンバーグセット。あ、ライス大盛りね」
「あたしオムライスたのむーわ」
「私は海草サラダを一つ」
「かしこまりました」
 その小柄なウェイトレスが去っていくと、ギゼーがその後ろ姿を目で追いな
がら、一言。
「…カワイイなぁ。後で声かけてみるか」
 と、ボソッと呟いた。それを聞いて苦笑するメデッタ。そんなメデッタをう
っとりとした目で見つめているサノレ。
 その時だった。

 ガシャーン!!!

 盛大に何かが割れる音。
 驚いたギゼーたちがばっ、と音のした方向を見ると、別のウェイトレスの女
の子が、料理を運んでいる途中、盛大に転んだところであった。しかも、転ん
だ拍子に運んでいた料理を思いっきりお客の服にぶちまけてしまっている。
「てめぇ、なにさらしとんじゃあ!!」
 しかも、料理をぶちまけてしまった相手は、よりにもよって、言葉遣いとい
い服装といい、いかにもガラの悪そうな男である。怒鳴られた女の子は半泣き
だ。小さな声で「す…、すみません…っ…」と必死に謝っているが、目には大
粒の涙を溜めて、今にも泣き出しそうな様子である。
「ちょ…っ…」
 見かねたギゼーが席を立ち上がろうとすると、それより早く一人の男が席を
立ち上がり、すっと女の子の目の前に立ちはだかった――。


2007/02/12 17:41 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
捜し求める者たちの軌跡4 「お代 銅貨4枚」/エスト(周防松)
PC:ギゼー メデッタ サノレ エスト (アイリス)
NPC:ウェイトレス ガラ悪そうな男 老コック
場所:ソフィニア市街のレストラン

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

転んで料理をお客にぶちまけてしまったウェイトレス。
ぶちまけられて激怒しているガラの悪い男。

その間に割り込んだのは、暗い色の衣服に身を包んだ、銀髪に褐色の肌の若い男だっ
た。

「あんだぁ? ああ?」

ガラの悪そうな男は、突然ウェイトレスと自分との間に割りこんできた若い男をねめ
つけた。
場の雰囲気が、一気に緊迫する。
ちらちらと様子をうかがう者もいれば、関わりあいになりたくないとばかりに視線を
逸らして息を殺している者もいる。
何しろ、割って入った男の方も、ガラの悪そうなツラがまえなら負けていないのだ。
身長こそさほど高くないものの、三白眼のうえに目つきが悪いときている。
何か起きそうな予感がしても、不思議ではない。

「飯が不味くなる。人前でぎゃあぎゃあわめくな」
愛想もそっけもなく、彼は言う。
その態度が、男にとってはしゃくだったらしい。
「人前だあ? そんなもん知ったことか!」
男はぎゃんぎゃんわめきながら、自分の着ているものを指差した。
衣服の胸の辺りから太ももの辺りまでが、ぐしゃぐしゃに濡れている。
スープをかぶったのだな、ということが匂いでわかった。

「このアマ、俺の服をこんなにしやがったんだ、タダじゃおかねぇ!」

(やかましい……)
間近で吠えたてられ、彼――エストは、ほんのわずかに眉をしかめた。
よくもまあ、こんなに怒鳴り続けていられるものだ。
このやかましい男を、拳で黙らせて叩き出すのは非常に簡単なことである。
この場は、取りあえずそれで静かになることだろう。
だが、それを実際にやったらどうなるか。
それが原因で、店の評判は落ちてしまうだろう。
公共の場でがなり立てる男も男だが、元はといえばウェイトレスが転んで料理をお客
にぶちまけたせいなのだ。
どちらかが一方的に悪いというわけではない。

エストはちらりと後ろにいるウェイトレスに視線を向けた。
彼女は、もはや口をきくことすらかなわない状態だ。
怯えきって震え、この事態が収まるのをひたすら待っている。
大嵐に遭遇した、小動物さながらに。
――どうしたもんか。
店の関係者でもない自分が、これ以上踏みこんでいいことなのだろうか。
「……店長はいないのか?」
答えるとは思えないが、背後のウェイトレスにぼそりと尋ねてみたところ、
「ああ、この店の店長ね。気弱だからこういう時は出てこないよ」
厨房の奥から、痩せぎすな老コックが顔を出した。
……それって、店長としてどうなんだろうか。
そう思わずにいられないエストだった。
(仕方ないか)
心の中でため息をつき、エストは上着の内ポケットに手を突っ込んだ。
「なんだ、やる気かぁ!? 女かばっていいトコ見せようたって……!」

ぴぃん!

男の額を、何かが弾いた。

ことん、と床に落ちたものを見れば、それは一枚の銀貨だった。

「シャツとズボン、靴まで買ってもつり銭が来るぞ。不服か?」

男の背中を、冷や汗が伝う。
今の一瞬、エストの動きが見えなかったのだ。
額に向けてコインを飛ばしたのなら、それなりに動きがあって当然のはずである。
しかし、それが全くわからなかったのだ。

この男、一体何者なのか。

「へ……へっ、これで勘弁してやるよ」
威勢のいいことを言う割に、男はそそくさと銀貨を拾い、店から出ていこうとする。
「待て」
その背中に、エストの声がかかった。
「な、なんだよ……?」
ぎこちなく男は振り返る。
「食い逃げすんな。飯代は置いていけ」
「く、くそっ」
男はズボンのポケットに無造作に手を突っ込み、取り出したものをやけくそ気味にエ
ストに投げつけ、逃げるように出ていった。
エストはそれを片手で受け止め、後ろにいるウェイトレスに振り返る。
「これで足りるのか?」
受け止めた手の平を開いて見せると、そこには銅貨が4枚あった。
「え、ええ……」
ウェイトレスは、おどおどした態度で頷くと、
「あ……あの……ありがとう、ございました……」
次に礼を述べた。
しかしエストは黙って席に戻ると、椅子の下に置いていたカバンを開ける。
「あ、あの……」
聞こえなかったのだと判断したらしい彼女は、もう一度繰り返そうとした。
「顔洗って来い。ひどいもんだぞ」
エストはその言葉をさえぎり、カバンから取り出したタオルを彼女の頭にかけた。

「ひどいもんだなんて、そんなことはないっ!」

唐突に知らない男の声がした。
けげんに思って振り返ってみると、そこにはウェイトレスの両手を握りしめその顔を
見つめる、一人の男。
小柄で、栗色の髪を短く刈っている。

「可憐な貴方、是非お名前をっ!」

何なんだこいつは。
異様な疲労感を覚えて、エストは軽い頭痛を覚えた。

……放っておこう。

そう心に決めて視線を逸らした瞬間、紫の巻き毛の人物が視界に入った。

2007/02/12 17:41 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
探し求める者たちの軌跡5「つまらない男」/アイリス(とばり)
PC :ギゼー メデッタ サノレ アイリス エスト
NPC:研究者
場所 :ソフィニア市街・レストラン


-- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --


 何故ここまでしなきゃならないんだ、と男は神妙な顔つきのまま思った。
 目の前の席には、デザートまで運ばれきったセットメニューがずらりと並ん
でいた。鴨をまるまるローストにして仕上げたそれらは、男でも食べきるには
少々骨が折れそうな量である。しかし今、向かい合って食事をしているのは、
どう見ても女性なのであった。
 象牙色の肌に包まれた輪郭を覆うのは、紫色の細い巻き毛。黒いコートの下
はやはり黒で、無駄のない四肢を強調するようなタイトスカートだ。華奢に見
えるその体のどこへそんなに入るのか、彼女は前菜からメインディッシュま
で、まったく速度を落とさずに手を動かし続けている。
 遠慮も何もない食べっぷりなのは、男の奢りだからに違いない。この店で一
番値の張るものを頼まれて悲鳴を上げかけた時、にっこりと微笑まれて―――
凄まれて?―――何も言えなくなった男は、ふるふると首を振った。
 仕方がないのだ。これもすべては研究のため、そう信じることにしよう。男
は1人で頷く。
 食事の誘いをかけられたということは、少なくともこちらの話に興味がある
ということだ。うまく懐柔さえしてしまえば、こっちのものだろう。

「どうしたの、変な顔して」

 声をかけられ、顔を上げる。フォークを止めて女がこちらを見ていた。じっ
と視線を投げかける濃い灰色の瞳は、奥を覗こうとすればぎくりとするほど深
い。

「いや……どうすればあなたが僕の話に乗ってくださるかと、考えていたので
すよ」

 慣れた愛想笑いを浮かべて、試すように言ってみる。早く本題に入りたいと
いうのが本音であった。女は手早く口元を拭い、弓のようにきつく描かれた眉
をちょっと上げてみせた。

「要するに、あなたに雇われてみないか、っていう話?」

 道端でずいぶんしつこく、回りくどーく説明してくれたけど、とつけくわえ
る。皮肉っぽい笑みにあてられ、男は頬を引きつらせないよう、笑う口元に余
分な力を入れた。
 ―――回りくどい? そりゃあそうさ。人を丸め込むのに、直球勝負に出る
奴はいない。
 男は気を取り直して、女が頼んだものとは違う安物のワインを1口含んだ。

「わかっていただけたのなら、話は早い。あなたも見たでしょう? あの、人
が消える魔方陣を―――」

 街で少女が、消えた。
 事実、少数ではあるが目撃証言の残る、不可思議な出来事だ。
 あの出来事を見て、男はこれだと思った。そして自分の隣で、焼け焦げたよ
うな魔方陣を妙に熱心に見つめる、見知らぬ女を目に留めたとき、きっといけ
る、とも思った。
 徹夜明けで、疲れた頭が見せる夢想だとは、考えもしなかったが。

「なんでもあなたは、Bランクの冒険者だっていう話じゃないですか」

「あら、どうして?」

「ギルドから出てくる所、あの騒ぎの前に見たんですよ。そこで聞いたんです
……あなたのような美人、目立ちますから」

 女の造作は正直、さほど男の好みをくすぐるものではなかったのだが。とに
かく、紫の巻き毛と黒い衣装が目立つのは事実だ。
 しかし予想に反して、女はどこか嫌そうな顔をした。まさか思ったことが顔
に出ていたかと焦ったが、瞬きの間に、目の前の表情は何事もなかったかのよ
うに、さっきまでの取り澄ましたものに戻っていた。

「それはどうも。それで?」

「ですから、どうか僕と一緒に、謎を突き止めてほしいんですよ」

 男はできるかぎり必死の顔をつくって(事実必死だったが)、女の様子を
窺った。かなりの腕利きと聞いている。これでうまくすれば―――。

「確かに私は、外であの光景を見たけど……それとこれとは関係ないんじゃな
い? ―――あなた、魔法学研究者、とかって言ってたわね。気になるなら、
ご自分で捜査なさいな」

「いや、それは……」

 食い繋ぐために研究所に入ったけど、実際に危険な目に逢いたくない。でも
成果が上がらなければ今度こそ追いだされる―――などと、本当のことがまさ
か言えるわけがなかった。
 口ごもる男に、女は容赦をしなかった。
 
「ギルドも通してなければ、筋も通ってない。第一、報酬は?」

「―――この謎を解明して発表すれば、充分なお返しができます!」

「そんな不確かな口約束じゃ、私はおつきあいできないわ。詐欺師のまねごと
は、研究者さんにはちょっと難しかったみたいね。どうも、ごちそうさま」

 あっさりと切り捨てて、立ち上がろうとする。詐欺師とまで言われて(あま
り否定もできない自覚はあったが)怒る間もない動作に、男は慌ててテーブル
越しにその腕を掴んだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 少々きつめの女の目許が、さらに吊り上がる。ぎょっとするほど鋭い光がよ
ぎったかに見えたが―――

「てめぇ、なにさらしとんじゃあ!!」

 豪快に食器がぶちまけられた音、そして続く怒声に、思わずそっちの方向を
向いてしまった。
 どうやらウエイトレスが、転んで客を怒らせてしまったらしい。数人が立ち
上がって何やら話をしているのを、うっかり空気に呑まれて見つめてしまって
から、男ははっと我に返った。

 掴んでいたはずの腕がない。振り向けば、紫色の巻き毛をなびかせながら歩
き去っていく、黒いコートの背中が遠くなっていた。










 最近、めっきりとつまらない。
 今の男もそうだ。人が消えた後にのこされた魔方陣、それそのものには確か
に面白そうな予感はある。しかし絡まれてつらつらと話をされているうちに、
その興味もなんだか醒めてしまった。
 首尾よく腹も満たしたことだし、さっさとこの街を出ようか? 赤く塗った
唇をゆるめ、「女」はヒールのかかとを鳴らしもせずに、真っ直ぐ出口へと向
かった。 
 ―――しかしそこでは、まだちょっとした騒ぎの余韻が残っていた。
 黒いマントをつけた長身の男、金と黒に別れた髪をした少女。ウエイトレス
の手を握りしめて何やら力説する栗色の髪の男に、褐色の肌の少年とも呼べそ
うな若者―――
 まとめて見ると目立つその組合わせに、なんとなく足を止めた。たまたまこ
ちらに向けたらしい、褐色の肌の中の鋭く青い目と視線が合ったからでもあっ
た。
 騒ぎからは蚊帳の外にいたが、大体の事情は静まり返ってしまった周囲のお
かげで、わかっていた。彼が上手いこと丸く収めたのだろう。立ち姿を見るか
ぎり腕も立つだろうに、あえてそちらを誇示せず公平に立ち回ったようだ。た
だ面倒だったのか、それとも性格か、どちらかはわからないが。
 そんなことを考えながらじっと見ていると、さすがに不審に思ったのか、彼
は小さく眉根を寄せた。怪訝さの色濃く滲む声で、低く、しかしきっぱりとし
た声で言う。

「誰だ、あんた」
 
 訊ねられたら、答えなくてはならないだろう。今度ははっきりと微笑んだ。
何だか楽しいことが起きそうだ。それは直感であり、予感だった。

「アイリッシュ・ミスト」

 長いからアイリスね、とつけ加えるのも、忘れなかった。


2007/02/12 17:42 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡

| HOME | 次のページ>>
忍者ブログ[PR]