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2024/05/16 18:53 |
捜し求める者たちの軌跡6「消えた少女の捜索依頼」/ギゼー(葉月瞬)
PC :ギゼー メデッタ サノレ アイリス エスト
NPC:ニーニャの母親テレゼア・パルヒャー
場所 :ソフィニア市街・レストラン~ギルド
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 アイリッシュ・ミストと名乗った女性は、妖艶なほど美麗だった。
 だが、どこか違う雰囲気を醸し出していた。女性――というには余りにも完
璧すぎた。完璧すぎる女性など、この世には存在しない。だからこそ、ギゼー
は名乗られたとき即座に反応を示さなかったのだ。それに何故か、何処と無く
女性の色香を感じられなかったのだ。
 アイリスは名前を名乗っただけで、そのままある一点を見詰めて目を瞠っ
た。そして優雅に微笑むと、メデッタから目を離さずに言った。

「あら奇遇ね。こんなところで漆黒の竜神と出会うなんて。私も冒険者なの
よ。よろしくね」

 そして一つウィンクして見せると、微笑を残しながら店を出た。
 一方メデッタの方はというと、アイリスから目を離さずにずっと彼女の言葉
に耳を傾けていた。一言一句逃さぬように聞き入れているかのように。アイリ
スに興味があるようにも見えたし、然して興味を示していないようにも見え
た。


     ***


 気が付いたら黒い肌の目つきの悪い青年も居なくなっていた。恐らく店を出
て行ったのだろう。彼が何処で何をしていようと、今のギゼー達には関係のな
い話であった。
 ギゼー達は最初に席を取った卓に再び腰を落ち着けると、いつの間にか運ば
れていた料理を目の前にして顔を突き合わせて相談事に集中する事にした。

「さっきの、消えた少女の事、どう思う?」

 ギゼーが早速、口を開く。付いて出た言葉は至極もっともな疑問だった。そ
の疑問に答えるように何度か頷いて言葉を綴るメデッタ。

「ああ。明らかに先程の現象は異常だった」
「見るからに不自然だったーよ」

 サノレも鳥の腿肉を口に頬張りながら賛同する。

「だな。母親らしき人も必死になってたし」
「君は女性が絡むと、直ぐに興味を示すな」

 二人はスパゲティを軽く口に運びながらも、会話を続ける。
 ニーニャの母親は美しかった。絶世のとまではいかないまでも見目麗しく、
ギゼーの頬を染めるには十分だった。ギゼーは何故かそのニーニャの母親が気
になっていた。

「とりあえず、ギルドに行けば何か情報がつかめるかもしれない。よし! 
俺、ギルドに登録する! 冒険者になる!」

 ギゼーが拳を握り締めて決意を表すと、メデッタが半目であきれがちに問い
質した。

「まさかとは思うが、あんな美女の依頼を受けられるなら一にも二にも無く冒
険者への道を歩む、とか言う気じゃ……」

 ギゼーは親指を立ててそれに答えた。
 メデッタは米神を押さえて苦悩の表情を浮かべた。
 サノレは、そんな二人を交互に見詰めながら皿にあった鳥の唐揚げを平らげ
ていた。


     ***


 ギルドは例の如く賑わっていた。
 そこにはあの紫色の髪の女性も、色黒の目つきの悪い青年も居た。そして、
何故か先程消えた少女の母親と思しき女性もいた。ニーニャと少女の名前を連
呼していたあの、女性である。見目麗しいその姿は、途端にギゼーの目を奪っ
た。
 彼女を観察していたら、彼女が何故このギルド斡旋所に来たのか、その理由
が解った。彼女は、依頼を申し込みに来たのだ。ニーニャを失った悲しみを乗
り越えて、ニーニャを捜索する依頼をするためにここに来たのだ。
 途端にギゼーの両の目は光った。何に燃えているのかは想像に難くない。彼
は、ニーニャの母親を助けるべく行動に移した。即ち、冒険者ギルドの登録と
いう行動に。

「あのう。ここで冒険者ギルドに登録出来るって聞いてきたのですが……」

 語尾は何故か臆病だった。

「ん? ああ。冒険者希望者ね。……これと、これに必要事項を記入して。
あ、それと、既にハンターになってる人の紹介も必要なんだけど…………君の
場合、大丈夫みたいだね」

 応対に応じたギルド員の青年は、ちらりとギゼーの後ろに居る漆黒の竜神に
目を走らせると、そのまま下を向いてしまった。ギゼーは用紙を何枚か受け取
るとその紙に記入するべくペンを取った。奇しくもニーニャの母親と同じ姿勢
で、同じようにギルドの用紙に記入する事になったギゼー。至福のひと時に身
を振るわせるギゼーであった。



「ちょっと待ってて下さいね」

 そう言ってギゼーが書いた書類を持って奥へと引っ込んだ受付係の青年。
 暫く経って、奥から彼の青年が出てきた。手には何やらカードらしきものを
持っている。材質は不明。キラキラ輝いているようにも見えるし、まるでただ
の紙の様にも見える。書かれている内容は、ハンターの氏名、年齢、ギルドラ
ンクや血液型まで書いてある。

「これが彼の有名な、ギルドカードか……」

 をのカードを手にしたギゼーは、感慨深げに翳してみたり眺め見たりしてい
た。

「一年後に更新に来てくれ。更新だけなら各地にあるギルド支部でも行ってい
るよ」

 そうこうしている内に、ギルドに新たな依頼書が貼り出された。
 内容は以下の如くである。

***********************************

依頼人:テレゼア・パルヒャー

依頼内容:ニーニャ・パルヒャーを探してください。
     ニーニャは今日、街角で突然消えました。
     近くには魔方陣のような紋様が残っていました。
     どうか、ニーニャを、ウチの娘を探してください。

報酬:銅貨500枚

***********************************

 ギゼーはその依頼に、一も二も無く飛びついた。

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2007/02/12 17:42 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
捜し求める者たちの軌跡6 「歯車」/サノレ(ちあきゆーか)
PC ギゼー メデッタ アイリス エスト サノレ
場所 ソフィニア表通り・裏通り
NPC 小男
--------------------------------------------


時は夕刻、ソフィニアギルド前の大通り。

「さて、と」

無事に初仕事を請け負い、ギゼーはひと息つく。
力不足だとギルドに断られるのではないかと。
そうでなくとも、依頼人は新米に任せてくれるだろうかと。
申請をしてから職員が奥から戻ってくるまでの間、そんな不安ばかり頭を掠めていた
のだった。
ところが、意に反して、職員は相変わらず事務的な態度で判をつき、簡素な応接室で
会ったニーニャの母親も「お願いします」を繰り返すだけで、彼の素性やランクにつ
いては一切触れなかった。
そう、こうなれば後は。

「とっとと娘を見つけるだけさ!そしてあの人は俺に感謝するっ!!」

握りしめた拳を、天に向かって突き上げるギゼー。
通行人がちらちらと見ているが、彼はちっとも意に介していない。
どうやら、声になっていることにまったく気付いていないらしい。

「しかし、ギゼー君」

それまで沈黙を保っていたメデッタが、唐突に口を開いた。

「何か忘れてはいないかね」
「何か、って?」
「そこにいるお嬢さんのことだ。成り行き上連れて来たが、我々の仕事に巻き込むわ
けにもゆかぬだろう」

メデッタの言うことも道理であった。
ギゼーとメデッタはこれまでパーティを組んできた間柄であり、互いに冒険者である
から、何の問題もないが、サノレはさっき偶然知り合ったばかりで、しかも冒険者で
もない。
このまま彼女を同行させれば、幾度となく危険な目にさらすことになるだろう。
しかし、当のサノレはというと、ギゼーのギルド入りを我がことのように喜んだこと
といい、レストランでの食べっぷりといい、既にパーティの一員であると思っている
ように見受けられた。

「お嬢さん」
「なーに?」
「ここから先は我々の仕事だが、お嬢さんはどうするかね?」

サノレは意味がわからないといった風にメデッタを見た。
そして、当然だと言わんばかりに答えた。

「どうって、ニーニャ探すに決まってるーよ」

一呼吸おいて、メデッタは低い笑いを漏らした。
ギゼーもそれに同調するように笑い出す。
何がおかしいのーよ、とサノレは唇を尖らせる。

「いや、なんでもない…よろしく頼む、サノレ嬢」
「もっちろーん!」
「よろしくな!」
「お礼は山分けーね」
「…………」
「あっはは、冗談ーよ!」

苦虫を噛み潰したような顔をするギゼーの肩をばしばし叩きながら、サノレは声をあ
げて笑った。

「なんでメデッタさんだけ…」
「でもね、あたしギゼーも嫌いじゃないのーよ?15年後が楽しみだーわ」
「15年……」

そんな三人を、向かいの建物から鋭い眼が覗いていた。


そのころ、裏通りでは。

「あら、失礼」

ふらつく足取りで向かってくる小男を、アイリスは優雅な動きでかわす。
しかし、男は急に向き直ると、アイリスの腕を掴んでものすごい力で引き寄せた。
不意を衝かれ、アイリスの両腕は自由を奪われてしまう。

「あら、積極的なのね」
「こそこそ嗅ぎ回っているのはお前か?」

生臭い吐息が耳元で囁く。

「…何のことかしらね」
「とぼけるな」

後ろから掴まれた腕にさらに力がこめられ、骨が軋む。
貧弱な小男のくせに、どこにこんな力が潜んでいるのか。
アイリスは声をあげないように歯を食いしばっていたが、耐えかねたように、艶かし
くも聞こえる吐息を漏らした。

「さっき会っていた奴と、何を話していたんだ」

それはあのつまらない男か、漆黒の竜神か、銀髪のエストなのか、それとも。

「さぁ、何だったかしらね…」

ほぼ無関係に近い自分にまでこんな応対をするとは、よほど知られたくない秘密なの
だろう。
いずれにせよ、面白いことになってきた。

「…ねぇ、あなたの御主人様に会わせてくれない?きっとお役に立てると思うわ」
腕の痛みに眉をしかめながらも口元には妖艶な微笑をたたえ、アイリスは男を誘い込
む。
「本気か…?」

男の束縛がゆるむ。
その一瞬を見逃さず、アイリスは男の手を振り払った。

「嘘だと思うならいいわ」

男より頭ひとつ分背の高いアイリスは、男を見おろすように言った。
その雰囲気に呑まれてか、男は頷いた。

「…よかろう」

それを聞き、アイリスの濡れた唇が笑みを形作る。
そして、男の顎をとらえて顔を近づけると、低い声で囁いた。

「私を満足させてくれる?」



2007/02/12 17:43 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
探し求める者達の軌跡7「情報収集」/メデッタ(果南)
PC ギゼー メデッタ サノレ
場所 ソフィニア・ソフィニア魔法学院
NPC サイサリア教授・学院の生徒 
--------------------------------------------

 さて、改めてサノレ嬢という仲間を加え、消えた少女を探すという依頼に挑
むこととなった、ギゼーとメデッタ。
 
「さーてっ、サクっと事件を解決して、あの美しいお母様に感謝してもらうっ
っ!」

 瞳をキラキラさせて叫ぶギゼーの声は、建物にわずかに反響し、余韻を響か
せながら、ソフィニアの抜けるような青空に吸い込まれていった。
 当然、不審な目を向け、ギゼーをちらちらと振り返る通行人。
「ねぇママー、アレなーに?」
「しっ、見ちゃいけません!!」
 お決りの会話まで聞こえてくる。
 
「大声出して、ギゼー、よくはずかしくないのーね」
 呆れたようにサノレがメデッタに言う。
「ねぇ、ギゼーはいつもああなーの?」
「私も彼とは最近知り合ったばかりなのでよく解らないのだが…、今までの彼
から推測するに、あれで本人は声を出していないつもりなのだろう」
 周りの視線が自分にもいやおうなく当てられていることに気づき、メデッタ
は黒いシルクハットを深く被り直す。
 そして、早急にこの恥ずかしい状況を何とかするべく、彼はギゼーに向かっ
てえほん、と大きな咳払いをした。

「あー、さて、ギゼー君」
「ん?何だっ、メデッタさん」

 こんな状況で名前は呼ばれたくないものだと思いつつ、メデッタは話を切り
出した。
「これから…、一体どうするつもりなのかね」
「そうだなぁ…。まずは、手がかりを元に情報を集めなきゃな」

 ギゼーはサノレに目を移す。

「なんなーの?」
「手がかりといったらやっぱアレだな。例の魔方陣」
「あたしが写したヤツなのーね」
「そう!そいつに絶対、何か犯人に繋がる手掛かりが残っているはずだっ!事
件っていうものは大体こういうパターンと決まっているっ!」

 拳をぐっと握り締めつつギゼーが確信を込めて言う。
 一体どういうパターンなのか…と、内心思いながらもメデッタは尋ねる。

「…それで、その魔方陣をどうやって調べるのかね」
「あー、そうだなぁ、俺は魔法に関してはそんなに詳しくないし…。まぁ、専
門家に訊いてみるのが一番手っ取り早いかもな」
「専門家か…ふむ、確かに、ここには魔方陣を専門に研究してる者が確実にい
るだろう」
 ギゼーの提案にメデッタも顎に手をあて頷く。
「で、とりあえずどこにいくーの?」
 大きな赤い瞳を向けて顔を覗き込むサノレに、ギゼーは自信を持って答え
た。
「ああ、とりあえず、魔法学院にでも行ってみようと思うんだ」



 学院の警備の人間に、魔方陣に詳しい人間に会いたいということを伝え、そ
の証拠としてギルドのEランクのライセンスをギゼーが見せると、学院の警備
員は、「…Eランクか」とぼそぼそと呟きつつも、通行許可証を3人に出して
くれた。
 
「なんだよ、アイツら俺のライセンス見て胡散臭そうな目をしやがって」
 学院の廊下を歩きながら、ギゼーが不満そうに口を尖らせる。
「まあ、キミはまだEランクなのだからな。Eランクというのはいわば、まだ
駆け出しだ。仕方あるまい」
 そうギゼーを見つめるメデッタの瞳は、どこか可笑しそうに笑っている。
「まーよかったじゃないのーよ。そんな新人さんのこと信用して、こうやって
すんなり中に入れてくれたんだかーら」
 あははと笑いつつ、ばしばしとギゼーの肩を叩くサノレ。

(案外鋭いところを突くな。このお嬢さんは)
 サノレの言葉にメデッタの笑みが、ほんの一瞬別種のものに変化する。
 三人がこうしてすんなりと学院内に入れたもう一つの要因は。…そう、ギゼ
ーがライセンスを見せて交渉している際、メデッタがシルクハットについてい
る金色のブローチをちらりと見せたことにもあった。
 メデッタのブローチを確認した警備員の一人の表情が凍りつく。そう、それ
は形状は変わってはいるがまぎれもない、Aランクの彼のギルドライセンス。
何か言いかけた彼の口を塞ぐように、メデッタは彼に大きく頷いた。『ここは
大人しく入れてもらおうか』と。

 そうしているうちに、程なく彼らは、学院の図書館にたどり着いた。

2007/02/12 17:43 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
捜し求める者達の軌跡8「猫と語らう者」/エスト(周防松)
PC:エスト(ギゼー メデッタ アイリス エスト サノレ)
場所:ソフィニア
NPC:猫

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

人が行き交う、昼下がりの路地。
エストは、小さな包みを片手に、雑踏の中に紛れていた。
そんな中、どんっ、とわざとらしくぶつかってきた者がいる。
仕方なく、エストは歩みを止めた。
「てめぇ、どこ見て……」
相手はドスをきかせた声で脅し文句を言いかけたが、エストの顔を見るなり、気まず
そうな顔をしてそそくさと逃げていった。
……どうやら、このテでいちゃもんをつけて金品を巻き上げているらしい。
(俺はそこまでの悪人ヅラか……?)
厄介な連中に絡んでほしいわけではないが、何も顔を見て逃げなくても、とそんなこ
とを思いながら、再び歩き出すエストだった。

エストは、路地を抜け、酒場の前に来ると、今度は酒場と隣の建物の間の細い道に入
る。
横向きにならなければ通れないような狭さだ。
その細い道を抜けると、酒場の裏手に出た。
空き樽や木箱が雑多に積まれた、物置のような場所である。

「――……おい」

エストは、ぶっきらぼうに声を上げた。
ほどなく、隣の建物の陰から、ひょこっと一匹の猫が顔を覗かせた。
赤い首輪をした、白地に黒いブチ模様のある猫である。
猫はエストの足元に歩み寄ると、三日月のように瞳孔が細くなった金色の瞳で、じっ
と顔を見上げてきた。
この時、喉を鳴らされるか、あるいは「にゃおん」と一声鳴いて擦り寄られれば、猫
好きなら一発でまいることだろう。
エストは黙りこくったまま、手にしていた包みを地面に降ろし、ガサガサと開く。
開いた包み紙から出てきたのは、一本のソーセージ。
露店で買った、ハーブやスパイスの類の入っていない、シンプルなものだ。
アツアツというわけではなく、やや冷めてしまっている。
猫は、ふんふん、と匂いをかぐと、エストを見上げた。
「かたじけない。実は今朝から何も食べておらんのだよ」
その声は、驚くべきことにエストの前にいるこの猫から発せられているものだった。
猫は、とんとん、と前足でソーセージを叩く。
「ふむふむ。熱過ぎもしなければ冷たくもない、この絶妙な温度……まさに食べご
ろ」
「さっさと食え」
エストは、近くの空き樽に腰掛けた。


ことの始まりは、三日前。
ソフィニアを訪れたエストは、ギルドでとある依頼を受けた。
それは、『家出した飼い猫を探して欲しい』というものだった。
なんでも、七日も帰って来ないらしい。
簡単に済むだろう、と思って引き受けたところ、思惑通り、猫はあっさりと見つかっ
た。
猫がよく集まるという場所に行ってみたら、そこにいたのである。
赤い首輪、という野良猫との決定的な違いが目印になった。
しかし、猫を見つけてからが問題だった。

まず、この猫は、ただの猫ではなかった。

どういうわけか、人間の言葉を操ることができたのだ。
本人(猫?)の言い分によると、飼い主を初めとする人間全般には喋らないようにし
ている、とのことだった。
エストは正直、自分の耳と正気さを疑ったものの、とにかく『飼い主が心配している
から、帰ってやれ』とだけは伝えてみた。

そしてさらに問題に直面する羽目になった。

猫はこう答えたのである。
『世話になった花売り娘が行方知れずだというから、探していたんだ。まだ見つかっ
ていないから帰らない』と。
猫は今の飼い主にもわわれる前、ゴミ捨て場に捨てられていたところを花売り娘に拾
われたのだという。
『花売り娘は身寄りがないから、誰も心配しないし、探してくれない。だから、ワガ
ハイが自分の手で探し出したい』
猫はそう付け足し、今は帰るつもりのないことを強調した。

その時、問答無用でひっつかまえて飼い主の元に連れていき、さっさと仕事を終わら
せてしまえば良かったとエストは思う。
しかし、実際それをやったとしてどうなるだろうか。
猫はまた家出をして、花売り娘とやらを探しに行くことだろう。
飼い主は再び、ギルドに同じ依頼をすることになる。
そうなれば……自分の信用にも関わってくる。
「あいつは半端な仕事をした。だから、同じ人間から同じ依頼が来たんだ」と言われ
かねない。
それだけは避けたかった。
そんな事情で、猫に協力してやっているわけである。
今日は、もしかしたら捜索の依頼が出ているかもしれない、と思ってギルドに行って
みた帰りである。
見ず知らずの花売り娘を心配しているわけではない。
捜索の依頼が出ていれば、猫が彼女を捜しまわる必要もなくなるので、家に帰らせて
こちらの依頼を完了させられると思ってのことだ。
ただ、それだけのことだ。
結果のほうは……期待するだけ無駄だったが。

「見つかったか?」
靴のかかとで地面の砂を掘りながら、エストはぶっきらぼうに尋ねた。
「それが、な」
ソーセージにかぶりつくのを中断し、猫は、ふるふる、と首を横に振った。
猫の表情の違いなどエストにはわからないが、今は、猫の顔がどことなく悲しげに感
じられた。
「そういえば、今日また女の子が行方知れずになったと聞いたんだが」
「……らしいな」
ギルドで、そんな依頼が出ていたのをちらっと聞きかじったような気がする。
もっとも、その依頼はレストランで見かけた妙な3人組が引き受けたので、それ以上
の詳しい情報は知り得なかった。
「日が近い。何か、関連しているのかもしれんな」
猫は、尻尾の先をぴこぴこと振る。
「関連性……か」
エストは眉をしかめた。
猫の話によると、花売り娘が行方知れずになったのは十日前のことだという。
あまり間を置かずに行方不明者が出ていることから、関連していると考えても不思議
ではないかもしれない。

「一体、どこのどいつの仕業なんだか」
ぼそりと呟き、エストは猫を見下ろす。
猫はもそもそと食事に没頭していた。


2007/02/12 17:43 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
捜し求める者達の軌跡9「花売り娘」/エスト(周防松)
件  名 :
差出人 : 周防 松
送信日時 : 2007/04/30 21:41


PC:エスト(ギゼー メデッタ アイリス エスト サノレ)
場所:ソフィニア
NPC:猫 花売り娘

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この空き樽に腰掛けるのは、一体何度目だろうか。
エストは、ぼんやりとそんなことを思った。
それから、己の足元に目をやった。
――赤い首輪に、白黒のブチ模様の猫が、金色の目で彼をじっと見上げている。
エストは、めんどくさそうに頭をかいた。
「……よかったじゃねえか。取り越し苦労でよ」
それから、深く息をついた。
白黒ブチの猫は、真似するように、ふぷ、と短く息を吐いた。
「うむ……何か恐ろしい事件にでも巻き込まれたのではないかと思って心配していた
が、何事もなかったようだ。うん、良かった良かった」

エストと白黒ブチの猫が話しているのは、行方不明になっていた花売り娘のことだ。
花売り娘の身を案じ、探し出すまでは絶対に飼い主の元に帰らないとまで宣言してい
た白黒ブチの猫だが、その花売り娘がつい昨日、ひょっこりと広場に現れたのであ
る。
衰弱しているとか目が虚ろだとか妙に怯えているだとか、そういうこともなく、猫い
わく「いたって記憶の通り。変わりなし」である。
今日も今日とて、彼女は広場で花を売っている。

「ほらよ、今日の分」
エストは、小さな包みを取り出すと、地面に置いて開いた。
この白黒ブチの猫に付き合わされている間、いつも与えていたソーセージだ。
「おお、かたじけない。ではさっそく」
礼を述べると、白黒ブチの猫は、ソーセージにはぐはぐと美味そうにかぶりつく。
その様をぼんやり見つめながら、エストは思った。
(これでやっと、依頼が果たせるな)
依頼とは、『家出した飼い猫を探して欲しい』というものだ。
報酬はさほどのものではないが、ソフィニアを出て、しばらく歩くぐらいなら充分事
足りる額だ。
報酬を手に入れ次第、エストはソフィニアを出る気でいた。
あとは、この猫が飼い主の元に戻れば全て丸く収まる。
「……それを食い終わったら、飼い主のところに帰れ」
そう言うと、白黒ブチの猫は食べるのを中断し、じっと見上げてきた。
「……お若いの。もう一つだけ、ワガハイの頼みを聞いてはくれないか」
「内容によるぞ」
言いつつも、エストはよほど面倒で時間のかかることでもなければ、引き受けるつも
りでいた。
「簡単なことだよ。花売り娘が今まで一体どこでどうしていたのか、さりげなく聞き
出してきて欲しいのだ」
「……断る」
エストは、渋い顔をした。
若かろうが年老いていようが、女と話すのは苦手だ。

「ワガハイが人間だったなら、自分で聞き出している。だが、ワガハイは猫なのだ。
猫が喋れば化け物と言われる。どうか……頼まれてくれ」

エストは猫を飼った事もないし、特別好きというわけでもない。
つまり、猫の表情など読み取れない。
しかし、この白黒ブチの猫は、懸命な顔をしているように見えた。
おそらくは、こいつが人間の言葉を喋るからだ。

「……ちっ」

小さく舌打ちすると、エストは空き樽から腰を上げた。



「お花ー、お花です、買ってください。かわいいお花、いかがですかー?」

花売り娘は、頭にスカーフをかぶり、小さくかわいらしい花を入れたカゴを片手に、
広場を歩きながら声をかけている。
だが、そうそう足を止める者はいない。
もう少し見栄えのする大きな花や派手な色の花ならば、少しは売れたかもしれない
が。

エストは、呼吸を整えると、花売り娘に近寄った。
「……おい」
声をかけられた花売り娘は、エストを見るなり、ビクッと震えた。

「な、なんでしょう? あの、売り上げなんて本当にわずかなんです。パン一切れ買
えるかどうかも怪しいところなんです。見逃してください」

……何か、勘違いをされたようだ。
「違う」
「これを取られたら、わたし、生活できなくなってしまいます。こんな貧しい花売り
娘からお金を取り上げるなんて、ひど過ぎます」
「違う」
「お願いです、見逃してください。わたし、何も悪いことなんてしていないの
に……」
「違うって言ってんだろうが!」

花売り娘の尋常ではない怯え方にイライラし、エストは思わず声を荒げてしまった。
――まずい、と思った時には遅かった。
花売り娘はとび色の瞳をまあるく見開き……そのふちに、みるみるうちに涙があふれ
てきた。

この二人の様子、世間的には、『いかにもガラの悪そうな若い男が、か弱い花売り娘
をいびり、いちゃもんつけてわずかな売り上げをむしり取ろうとしている』としか見
えない。
近くを通る人間が、何事かとチラチラこちらを見ては通り過ぎていく。

エストは、仏頂面で花売り娘に片手を差し出した。
「……花」
で、ぼそりと告げた。
「はい……?」
「花。全部……」
「やめてくださいっ、これ、わたしの大切な商品なんですっ」
買ってやる、と言い終えないうちに、必死の形相で花売り娘はカゴをかばう。
「だから……買ってやるってんだよ」
「そんな、ひどい、か弱い女の子から買って……え……買う……買うって……?」
ようやく言葉を理解してくれた花売り娘が、驚いた顔でエストを見つめる。
「あの……このお花、買ってくださるんですか……?」
「さっきからそう言ってんだろうが」
「す、すみません! わたし、誤解しちゃって!」
花売り娘が慌てて謝るのを手で制し、
「これで足りるか」
と、銀貨を差し出してみると、花売り娘はおずおずとエストを見上げた。
「あの……後で、お金を返せなんて言わない……ですよね……?」
「言うか」
(俺はそこまでの悪人ヅラかっ)
叫びたいのをこらえるエストである。
銀貨一枚と引き換えに手に入れた花は、片手でどうにかまとめてつかめる量だった。
本当は釣りがあるのだが、エストは面倒がって「いらん」と断った。

さて、そろそろ本題の質問をしなければなるまい。
エストは、咳払いをした。
「……ところで、お前」
「は、はいっ」
花売り娘は、緊張でガチガチになった笑顔を向けてくる。
――花を買ってくれたお客さんということで、気を使っているらしい。
「最近ここにいなかったんだってな、何かあったのか?」
「え……?」
戸惑ったように花売り娘は眉をひそめた。
エストは、頭をかいた。
やはり、女と話すのは苦手だ。
「俺の知ってる奴が……お前のことを気にかけていた」
「あ、ああ、そうなんですか」
ちょっと緊張をほどいたらしい花売り娘は、
「ここで花を売っていたら、おばあさんが『うちでしばらく働かないか』って言っ
て、雇ってくれたんです。それで、しばらく花売りを休んで、お屋敷で働いていまし
た」
割合、親しげに答えてくれた。
「……なるほど」
話す口調から見ても、特に異常はなさそうだ。
「それが、なんでここにいる」
そう聞くと、途端に花売り娘は苦笑をうかべ、うつむいた。
「……それが……あまり向いてなかったみたいで……暇を出されちゃいました……」

それはまあ、なんともしがたい話である。

「あまり気を落とすな……じゃあな」

エストは、片手につかんだ花の束を軽く掲げると、白黒ブチの猫の元へと歩き出し
た。
花売り娘が、一体どこでどうしていたのかを教えてやらなければならない。
それから、飼い主の元へとお帰り願おう。
報酬を手に入れたら、ソフィニアを出るのだ。

片手につかんだ花の束のみずみずしい香りが、つんと鼻に届いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007/06/04 21:56 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡

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