PC:エスト(ギゼー メデッタ アイリス エスト サノレ)
場所:ソフィニア
NPC:猫
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
人が行き交う、昼下がりの路地。
エストは、小さな包みを片手に、雑踏の中に紛れていた。
そんな中、どんっ、とわざとらしくぶつかってきた者がいる。
仕方なく、エストは歩みを止めた。
「てめぇ、どこ見て……」
相手はドスをきかせた声で脅し文句を言いかけたが、エストの顔を見るなり、気まず
そうな顔をしてそそくさと逃げていった。
……どうやら、このテでいちゃもんをつけて金品を巻き上げているらしい。
(俺はそこまでの悪人ヅラか……?)
厄介な連中に絡んでほしいわけではないが、何も顔を見て逃げなくても、とそんなこ
とを思いながら、再び歩き出すエストだった。
エストは、路地を抜け、酒場の前に来ると、今度は酒場と隣の建物の間の細い道に入
る。
横向きにならなければ通れないような狭さだ。
その細い道を抜けると、酒場の裏手に出た。
空き樽や木箱が雑多に積まれた、物置のような場所である。
「――……おい」
エストは、ぶっきらぼうに声を上げた。
ほどなく、隣の建物の陰から、ひょこっと一匹の猫が顔を覗かせた。
赤い首輪をした、白地に黒いブチ模様のある猫である。
猫はエストの足元に歩み寄ると、三日月のように瞳孔が細くなった金色の瞳で、じっ
と顔を見上げてきた。
この時、喉を鳴らされるか、あるいは「にゃおん」と一声鳴いて擦り寄られれば、猫
好きなら一発でまいることだろう。
エストは黙りこくったまま、手にしていた包みを地面に降ろし、ガサガサと開く。
開いた包み紙から出てきたのは、一本のソーセージ。
露店で買った、ハーブやスパイスの類の入っていない、シンプルなものだ。
アツアツというわけではなく、やや冷めてしまっている。
猫は、ふんふん、と匂いをかぐと、エストを見上げた。
「かたじけない。実は今朝から何も食べておらんのだよ」
その声は、驚くべきことにエストの前にいるこの猫から発せられているものだった。
猫は、とんとん、と前足でソーセージを叩く。
「ふむふむ。熱過ぎもしなければ冷たくもない、この絶妙な温度……まさに食べご
ろ」
「さっさと食え」
エストは、近くの空き樽に腰掛けた。
ことの始まりは、三日前。
ソフィニアを訪れたエストは、ギルドでとある依頼を受けた。
それは、『家出した飼い猫を探して欲しい』というものだった。
なんでも、七日も帰って来ないらしい。
簡単に済むだろう、と思って引き受けたところ、思惑通り、猫はあっさりと見つかっ
た。
猫がよく集まるという場所に行ってみたら、そこにいたのである。
赤い首輪、という野良猫との決定的な違いが目印になった。
しかし、猫を見つけてからが問題だった。
まず、この猫は、ただの猫ではなかった。
どういうわけか、人間の言葉を操ることができたのだ。
本人(猫?)の言い分によると、飼い主を初めとする人間全般には喋らないようにし
ている、とのことだった。
エストは正直、自分の耳と正気さを疑ったものの、とにかく『飼い主が心配している
から、帰ってやれ』とだけは伝えてみた。
そしてさらに問題に直面する羽目になった。
猫はこう答えたのである。
『世話になった花売り娘が行方知れずだというから、探していたんだ。まだ見つかっ
ていないから帰らない』と。
猫は今の飼い主にもわわれる前、ゴミ捨て場に捨てられていたところを花売り娘に拾
われたのだという。
『花売り娘は身寄りがないから、誰も心配しないし、探してくれない。だから、ワガ
ハイが自分の手で探し出したい』
猫はそう付け足し、今は帰るつもりのないことを強調した。
その時、問答無用でひっつかまえて飼い主の元に連れていき、さっさと仕事を終わら
せてしまえば良かったとエストは思う。
しかし、実際それをやったとしてどうなるだろうか。
猫はまた家出をして、花売り娘とやらを探しに行くことだろう。
飼い主は再び、ギルドに同じ依頼をすることになる。
そうなれば……自分の信用にも関わってくる。
「あいつは半端な仕事をした。だから、同じ人間から同じ依頼が来たんだ」と言われ
かねない。
それだけは避けたかった。
そんな事情で、猫に協力してやっているわけである。
今日は、もしかしたら捜索の依頼が出ているかもしれない、と思ってギルドに行って
みた帰りである。
見ず知らずの花売り娘を心配しているわけではない。
捜索の依頼が出ていれば、猫が彼女を捜しまわる必要もなくなるので、家に帰らせて
こちらの依頼を完了させられると思ってのことだ。
ただ、それだけのことだ。
結果のほうは……期待するだけ無駄だったが。
「見つかったか?」
靴のかかとで地面の砂を掘りながら、エストはぶっきらぼうに尋ねた。
「それが、な」
ソーセージにかぶりつくのを中断し、猫は、ふるふる、と首を横に振った。
猫の表情の違いなどエストにはわからないが、今は、猫の顔がどことなく悲しげに感
じられた。
「そういえば、今日また女の子が行方知れずになったと聞いたんだが」
「……らしいな」
ギルドで、そんな依頼が出ていたのをちらっと聞きかじったような気がする。
もっとも、その依頼はレストランで見かけた妙な3人組が引き受けたので、それ以上
の詳しい情報は知り得なかった。
「日が近い。何か、関連しているのかもしれんな」
猫は、尻尾の先をぴこぴこと振る。
「関連性……か」
エストは眉をしかめた。
猫の話によると、花売り娘が行方知れずになったのは十日前のことだという。
あまり間を置かずに行方不明者が出ていることから、関連していると考えても不思議
ではないかもしれない。
「一体、どこのどいつの仕業なんだか」
ぼそりと呟き、エストは猫を見下ろす。
猫はもそもそと食事に没頭していた。
場所:ソフィニア
NPC:猫
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人が行き交う、昼下がりの路地。
エストは、小さな包みを片手に、雑踏の中に紛れていた。
そんな中、どんっ、とわざとらしくぶつかってきた者がいる。
仕方なく、エストは歩みを止めた。
「てめぇ、どこ見て……」
相手はドスをきかせた声で脅し文句を言いかけたが、エストの顔を見るなり、気まず
そうな顔をしてそそくさと逃げていった。
……どうやら、このテでいちゃもんをつけて金品を巻き上げているらしい。
(俺はそこまでの悪人ヅラか……?)
厄介な連中に絡んでほしいわけではないが、何も顔を見て逃げなくても、とそんなこ
とを思いながら、再び歩き出すエストだった。
エストは、路地を抜け、酒場の前に来ると、今度は酒場と隣の建物の間の細い道に入
る。
横向きにならなければ通れないような狭さだ。
その細い道を抜けると、酒場の裏手に出た。
空き樽や木箱が雑多に積まれた、物置のような場所である。
「――……おい」
エストは、ぶっきらぼうに声を上げた。
ほどなく、隣の建物の陰から、ひょこっと一匹の猫が顔を覗かせた。
赤い首輪をした、白地に黒いブチ模様のある猫である。
猫はエストの足元に歩み寄ると、三日月のように瞳孔が細くなった金色の瞳で、じっ
と顔を見上げてきた。
この時、喉を鳴らされるか、あるいは「にゃおん」と一声鳴いて擦り寄られれば、猫
好きなら一発でまいることだろう。
エストは黙りこくったまま、手にしていた包みを地面に降ろし、ガサガサと開く。
開いた包み紙から出てきたのは、一本のソーセージ。
露店で買った、ハーブやスパイスの類の入っていない、シンプルなものだ。
アツアツというわけではなく、やや冷めてしまっている。
猫は、ふんふん、と匂いをかぐと、エストを見上げた。
「かたじけない。実は今朝から何も食べておらんのだよ」
その声は、驚くべきことにエストの前にいるこの猫から発せられているものだった。
猫は、とんとん、と前足でソーセージを叩く。
「ふむふむ。熱過ぎもしなければ冷たくもない、この絶妙な温度……まさに食べご
ろ」
「さっさと食え」
エストは、近くの空き樽に腰掛けた。
ことの始まりは、三日前。
ソフィニアを訪れたエストは、ギルドでとある依頼を受けた。
それは、『家出した飼い猫を探して欲しい』というものだった。
なんでも、七日も帰って来ないらしい。
簡単に済むだろう、と思って引き受けたところ、思惑通り、猫はあっさりと見つかっ
た。
猫がよく集まるという場所に行ってみたら、そこにいたのである。
赤い首輪、という野良猫との決定的な違いが目印になった。
しかし、猫を見つけてからが問題だった。
まず、この猫は、ただの猫ではなかった。
どういうわけか、人間の言葉を操ることができたのだ。
本人(猫?)の言い分によると、飼い主を初めとする人間全般には喋らないようにし
ている、とのことだった。
エストは正直、自分の耳と正気さを疑ったものの、とにかく『飼い主が心配している
から、帰ってやれ』とだけは伝えてみた。
そしてさらに問題に直面する羽目になった。
猫はこう答えたのである。
『世話になった花売り娘が行方知れずだというから、探していたんだ。まだ見つかっ
ていないから帰らない』と。
猫は今の飼い主にもわわれる前、ゴミ捨て場に捨てられていたところを花売り娘に拾
われたのだという。
『花売り娘は身寄りがないから、誰も心配しないし、探してくれない。だから、ワガ
ハイが自分の手で探し出したい』
猫はそう付け足し、今は帰るつもりのないことを強調した。
その時、問答無用でひっつかまえて飼い主の元に連れていき、さっさと仕事を終わら
せてしまえば良かったとエストは思う。
しかし、実際それをやったとしてどうなるだろうか。
猫はまた家出をして、花売り娘とやらを探しに行くことだろう。
飼い主は再び、ギルドに同じ依頼をすることになる。
そうなれば……自分の信用にも関わってくる。
「あいつは半端な仕事をした。だから、同じ人間から同じ依頼が来たんだ」と言われ
かねない。
それだけは避けたかった。
そんな事情で、猫に協力してやっているわけである。
今日は、もしかしたら捜索の依頼が出ているかもしれない、と思ってギルドに行って
みた帰りである。
見ず知らずの花売り娘を心配しているわけではない。
捜索の依頼が出ていれば、猫が彼女を捜しまわる必要もなくなるので、家に帰らせて
こちらの依頼を完了させられると思ってのことだ。
ただ、それだけのことだ。
結果のほうは……期待するだけ無駄だったが。
「見つかったか?」
靴のかかとで地面の砂を掘りながら、エストはぶっきらぼうに尋ねた。
「それが、な」
ソーセージにかぶりつくのを中断し、猫は、ふるふる、と首を横に振った。
猫の表情の違いなどエストにはわからないが、今は、猫の顔がどことなく悲しげに感
じられた。
「そういえば、今日また女の子が行方知れずになったと聞いたんだが」
「……らしいな」
ギルドで、そんな依頼が出ていたのをちらっと聞きかじったような気がする。
もっとも、その依頼はレストランで見かけた妙な3人組が引き受けたので、それ以上
の詳しい情報は知り得なかった。
「日が近い。何か、関連しているのかもしれんな」
猫は、尻尾の先をぴこぴこと振る。
「関連性……か」
エストは眉をしかめた。
猫の話によると、花売り娘が行方知れずになったのは十日前のことだという。
あまり間を置かずに行方不明者が出ていることから、関連していると考えても不思議
ではないかもしれない。
「一体、どこのどいつの仕業なんだか」
ぼそりと呟き、エストは猫を見下ろす。
猫はもそもそと食事に没頭していた。
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