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2024/05/16 17:55 |
捜し求める者たちの軌跡1「行方不明事件」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー メデッタ (サノレ アイリス エスト)
NPC:リング ニーニャ ニーニャの母親
場所:白の遺跡~ソフィニア市街
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 かくして、白の遺跡と呼ばれていた遺跡は脆くも崩れ去った。
 轟音と共に崩れ行く遺跡を目の当たりにしながら、ギゼーはひざまづいて力
なく肩を落とし、呆然と眺めるしかなかった。
 崩れ行く遺跡を眺めながら、ギゼーは息苦しさを感じていた。胸が痛い。目
頭が熱くなっていく。愛すべき遺跡が無くなっていく事に、ギゼーは耐え難か
った。
 物心ついた頃から遺跡の中で育った。それは、父親がトレジャーハンターだ
からとか、そういう意味だけでなく本当に遺跡の中の匂いとか、雰囲気とか、
そういった存在そのものが好きだったのだ。だから自分は積極的に遺跡の中を
散策してきた。ちょっとした探検気分を味わいたかったからかもしれない。普
通の男の子にありがちな、スリルを味わうという感覚。ギゼーは崩れ行く遺跡
を目の当たりにしながら、昔の事に思いを馳せている自分に戸惑いを感じてい
た。

「……嗚呼、遺跡が……」
「ギゼー君。君の気持ちは分かるが、今は呆然としている場合じゃないぞ」

 呆然とするギゼーに、鞭を打つような言葉を投げかけたのはリングを背負っ
たメデッタだった。

「早くリングを病院に連れて行かなくては」

 メデッタさんはリングちゃんの事を、本当に大切に思っているんだな。ギゼ
ーは思考の停止した頭の中を過ぎったその言葉を覚えると、虚ろに笑った。
 遺跡よりもリングちゃんのほうが大事か。ああ、そうか。それもそうだな。
 ギゼーはやっとの思いでそれだけを思うと、徐に立ち上がって無理やり笑顔
を作って見せた。

「ああ、それもそうですね。メデッタさんの言うとおりだ。早くリングちゃん
を病院に連れて行かなくては」

 とはいえ、病院に連れて行ったからといってどうにか成るような状況ではな
いだろうが。少なくともここにじっと蹲っているよりは遥かに有益な行動であ
る。

「ここから近い街というと……ええっと……」

 血の巡りが悪くなった頭で必死に答えを導き出そうと試みるギゼー。

「ソフィニアだよ。ギゼー君」

 そんなギゼーを見かねてさり気なくフォローするメデッタ。
 息はばっちり合っているようである。


     ∞∞∞∞∞∞∞∞


 ソフィニアの街は、噂話で溢れていた。
 独り言の多いはだけ男の噂や、向こうが透けて見えそうな男の噂、中には連
続殺人事件の噂などもあった。烏がやたら騒いで夜も眠れなかったという話も
聞こえてくる。
 そんな噂話など耳に入らずといった風体で、ギゼーと、リングをおぶったメ
デッタは、大通りを歩いていく。目指すはソフィニアの街中に唯一有る病院
だ。比較的大きな建物だから直ぐにでも目に付くだろう。そんな気楽さも伴っ
てか、ギゼーは通りを物色しながら歩いている。何の物色かは想像に難くな
い。その瞳が女性の後姿ばかりを追っている事からも、ナンパな心が働いてい
る事は目に見えて明らかだった。
 そんなギゼーを見かねてか、メデッタは先を促す。

「ギゼー君。今は寄り道なんてしている場合じゃないぞ」

 ギゼーはそんなメデッタの親心に、空返事で答えるだけだった。


 ふとギゼーは、視界の端に違和感を感じた。
 不審に思って見ると、栗色の髪も鮮やかな一人の少女が通りをギゼー達とは
反対の方向へ駆けて行くところだった。その表情には笑みが浮かんでいる。朱
色の瞳を明るく輝かせて、愉しげに走っていく。淡い桃色のワンピース。その
裾が、ギゼーの直ぐ横をひらめかせながら過ぎる瞬間に――少女は消えた。
 忽然と。
 ギゼーがはっとして振り返ると、少女が消えた辺りの石畳には魔方陣らしき
文様が刻み込まれていた。まるで、その上で炎か何かが燃えたように魔法陣が
くっきりと焦げ付いて残っていたのだ。

(――魔法!?)

「ギゼー君、どうしたね?」

 メデッタの声にそちらを向くと、いつまでたってもついて来ないギゼーを心
配そうに見詰めるメデッタの姿があった。

「い、いや、今、“可愛い”女の子が消えて……」
「まぁた、可愛い女の子……か。君はこんなときに……」

 メデッタは、呆れてものも言えないという風に肩を竦めて見せた。
 その時、不意にメデッタの後方、二人が向かっていた先の方から悲痛な叫び
声が上がった。

「ニーニャ! ニーニャがっ!」

 声のした方を見ると、一人の女性が頬に両手をあてがって佇んでいた。驚愕
の表情を張り付かせて。目は、今しがた少女が消えた辺りに向けて見開かれて
いる。膝をガクガクと小刻みに震えさせ、今にもくず折れそうだ。彼女の向こ
うには、金と黒のツートンカラーの髪の少女が居て、声を掛けようと歩み寄ろ
うとしている。

(――ニーニャ?)
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2007/02/12 17:39 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡

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