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2025/03/09 11:22 |
光と影 第二十一回「永遠」/ヴォルボ(葉月瞬)
PC:ヴォルボ (ウェイスター)
NPC:キラミースト・モンス・ミックス マリリアン ピエロの少年 常世の研究者
場所:常世
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 一歩、来た道を戻る。

「さあ、行こう。マリリアン。僕は君と一緒に生きるよ」

「……本当に、いいの? 他に、するべきことがあるんじゃ無い?」

 マリリアンは、全てを理解したような眼差しをヴォルボに向けてくる。それでヴォルボ
は彼女が何を言おうとしているのか、マリリアンの真意を理解した。
 自分はここで生きる道を選んだ。だが、自分にはこの世界でやらなければならないこと
があるようだ。この世界の謎を解くこと。この世界が何故、突如として地上に現れたのか。
その謎を解かなくては先へ進めないようだ。そんな気がする。しかもこの謎を、自分一人
で解かなければならなくなった。ウェイスターを先に行かせてしまったからだ。今にして
思えば、二人でこの謎に挑めばよかったかも知れぬ、と悔やまれる。しかし、反面、これ
で良かったのだとも思う。何故ならウェイスターにもまた、やらねばならない使命がある
からだ。マリリアンへの想いに引かれ、居残ってしまった自分。と、新たに使命を得た自
分。その両方の自分を鑑みて、フ、と苦笑する。まだまだ青いな、と。マリリアンへの想
い。まだその想いを断ち切れたわけではない。むしろ、機会があれば彼女を生き返らせた
いとさえ願っている。だが所詮無理なのだ。それが世の理というものだ。
 常世。この世界の秘密を解くこと。それが今の自分に課せられた使命なのだ。

「ありがとう。マリリアン。でも僕には、この世界でやらなければならないことが出来た
んだ。だから……」

 皆まで言わないで、と首を横に振るマリリアン。その仕草は、愛しい人の思考を読み取
ったかのようだ。
 「ありがとう、マリリアン」と、視線で感謝の意を表するヴォルボ。そして、泉を後に
した。目的はハッキリしている。そのための手段も。先ずは、あの男にもう一度会わなく
ては。あの男はきっと何か知っているに違いないからだ。
 あの男――キラミーストに、もう一度。

                  ∵∴†∴∵

 唐突に、村は蘇った。いや、蘇ったというよりも、正確には人間の世界から乖離した村
が、突如として人間界とリンクしたのだが。しかしそれは、有り得ない事だった。まず、
この世の理に反する事だったのだ。それが現実に、目の前に事実として突きつけられた。
だから、その理反する事実を追及せねばならない。それが今の自分に課せられた使命なの
だ。この事実に遭遇してしまった自分の。
 闇雲に歩いているうちに、村の中央広場に辿り着いた。先程キラミーストに出会った場
所だ。目当ての男はその場にはいなかった。当たり前だ。相手は、生きて、動いている人
間。一所にいつまでもいるわけは無い。用が終わったならば、同じ場所に止まる理由が無
いからだ。

「どこへ行ったんだ……」

 絶望に打ちひしがれた声音で、弱音を吐くヴォルボ。そこには、唯一の手掛かりを逃し
た、探偵気取りの姿があった。手掛かりはキラミースト唯一人。今のところ、取り敢えず
の手掛かりなのだ。彼を探さない事には情報が手に入らない。自分の欲しがってる情報も、
自分の知らない情報も。
 ヴォルボは取り敢えず市場へと向かう事にした。鼻が利いたというわけではないが、そ
こに行けば何かあると思わせる何かがあるからだ。
 市場では、こんな世界だというのに、色とりどりのもの、数々の品物が売られていた。
実際、この常世の世界で貨幣価値というものが存在しているのかどうか謎だった。少なく
ともここでこうして売買をしている者達にとっては、貨幣価値はまだ存在しているのだろ
う事は見て取れた。
 ヴォルボは暫く見るともなしに品物を物色して歩くことにした。
 その時、市場で起こった騒動が目に入ってきた。様子を見ると、どうやら一人の少年が
渦中の中心のようだった。少年のいでたちは、ざっと見常識的な外界の者から見たら不思
議、としか表現できない様な風体だった。先ず第一に目に飛び込んでくるのは、その、派
手な色合いだった。赤や緑や黄色などの原色をこれ見よがしに使っているところを見ると、
その服を作った人はどうやら感覚が普通と違っているようである。身に着けている者も当
然そうなのだが。黄色い星の柄の入った緑色の三角帽を目深に被り、ほとんど目が見えな
い。あれでどうやって歩けるのか。瞳の色はだから分からない。上着は、左右で色の違う
ジャケットを派手なボタンで留めている。ズボンも左右で色が違う。印象は、ピエロであ
る。
 その、少年が、因縁をつけられて涼しい顔で笑んでいた。
 ヴォルボはその少年を怪訝そうに眺めやりながらも、野次馬達の輪の中から遠ざかって
いった。今は喧騒を相手にしている場合ではない。
 と、後一歩のところで後戻りの出来ないところまで遠ざかろうというところで、少年の
何気ない一言が耳に挟まった。

「――どうせこの世界は、偽りの世界なんだから――」

 確か、その前後の言葉は「そんなに気にすること無いよ」だったか。
 ヴォルボは愕然とした。この世界の住人である筈の、少年がそのような事を言うなど。
ならばあの少年はこの世界の住人ではないのか。もしくは、この世界の根幹に関わる重要
人物なのか。ヴォルボはそう考えると、急に彼の少年にどうしても接触しなくてはいけな
いような、居ても立ってもいられないような気分になってきた。
 野次馬達の後ろをうろついていたら、少年と眼が合った。その時になって漸く、少年の
瞳を直視した。少年の瞳は、赤かった。血も滴るような紅[くれない]だった。或いは、陽
が沈む頃に見るあの、移ろうような熱っぽいような茜色だった。そして、白目がなかった。
その瞳を見たとき、ヴォルボの胸中は掻き乱された。何故だか不安感を抑えられなかった
のだ。その時のヴォルボは恐らく、不安な表情をしていただろう。
 少年は、ヴォルボに興味を覚えたらしく、人ごみを掻き分け近付いてくる。

「何か用? おじさん」

 おじさんという言葉は、流す事にした。

「君、先程の言葉なんだけど――」

 人混みが段々疎らになり、

「ああ、偽りの世界って事?」

 周囲はやがて、雑踏に満ちていく。

「ああ。君は何で――」

 この少年との会話は、どうにも遣り難い。

「僕がこの世界の謎を知っているのが、そんなにおかしい?」

 ああ、そうか。この少年が、相手の言葉を最後まで言い終わらせずに、被せるように発
言するからだ。だから自分は、どうにも喋り難さを感じるのだ。それはつまり、相手の言
葉をちゃんと聞いていない事になるからだ。それでもヴォルボは、諦める事をせずに言い
募る。

「君と話しが――」

 すると少年はそんなヴォルボを嘲るような視線で射抜き、人差し指を唇の前で立てる仕
草をした。「しーっ、これ以上は言えないよ」という意味らしい。その仕草を見せ付けら
れたお陰で、ヴォルボは完全に虚をつかれてしまった。狐につままれた様な顔をしている。
 少年は、そのまま雑踏の中に押し隠されて消えていった。
 後に残されたのは、呆けたように立ち尽くすヴォルボだけだった。

                  ∵∴†∴∵

 ふと、誘惑に負けそうになるときがある。
 例えば、市場に並んだ数多の食料品たち。例えば、食堂。それら食物に関するものを目
にしたとき、ふとマリリアンの面影が過ぎり、不意にそれらを口にしたくなるのだ。だが、
それらを口にすればどうなるか。想像に難くない。

「マリリアン。出来れば、君と共に生きる道を選びたい。この食物を口にすれば、そうす
れば、僕は常世の住人になれる。…………けれど、解ってる。そうすることが望ましい事
じゃない事くらい……」

 そうして、人知れず溜息をつくのだ。
 人混みに紛れるヴォルボの背中には、哀愁が漂っていた。

                  ∵∴†∴∵

 キラミーストに再び出会えたのは、村のちょっとした集会場になっている場所だった。
 そこで、キラミーストは演説をぶっていた。何か、途方もなく壮大で厳かな語りだった。
そこに居たのは確かにキラミーストであったが、キラミーストであってキラミーストでは
なかった。威厳に満ちた風格がある。
 彼が言うには、この世界は、世界であって世界で無い、とのことだった。世界から隔絶
された場所なのだという。あるいは、世界の裏側にある世界とも。ここは常世。生を捨て
てなお、死から見捨てられた者達の集う場所。その常世を研究している者がいる。その者
が夢見の竪琴を用いてこの世界と生ある世界との位相を重ねたのだという。

「それじゃ、貴方はこの世界を作った者を知っているのですか?」

 ヴォルボは、物は試しと訊いてみた。

「知っているよ。案内も出来る。だが、容易に裏切る訳にはいかない」

 キラミーストはそう言うが早いか、竪琴を剣に持ち替えて身構えた。
 ヴォルボも、矢張り戦闘は避けられないかと、静かに溜め息を吐くと斧を正眼に構える。
 キラミーストは静かに躍り掛かってきた。剣の切っ先が正眼に構えた斧の刃とぶつかる。
剣華が瞬いた。キラミーストは優男の身形をしている割には、力が強かった。なかなかに
侮れないようだ。
 ヴォルボは斧を地面と水平にして、キラミーストの一撃を受け流す。反す刃でキラミー
ストの肩口を狙った。キラミーストはその一撃を剣の柄で受ける。刃と柄がぶつかる鉄音
が響き、二人はほぼ同時に飛び退った。互いに距離をとって、間合いを測りながら構え直
す。
 互いに構え直した時、ヴォルボは視界の端にマリリアンの姿を認め、訝しんだ。何故、
こんなところに彼女がいるのかと。自分は彼女に何も言ってない。それなのに、何故――。
 十合目まで切り結んだところで、勝負はついた。一瞬の攻防だった。
 キラミーストが右足を踏み込んで渾身の一撃を放った。
 それを読んでいたヴォルボは、左上段からの斬り込みを、左に体を捻る事で巧くかわす。
斬道から抜けきった所で、素早く上に向かって斧の切っ先を突き上げる。キラミーストの
顎先数センチのところで寸止めする。彼は何故か笑みを浮かべていた。

「負けたよ。君は強いね。君ならば、或いは……」

 その先を言う代わりに、キラミーストは付いてくるように促した。
 ヴォルボは黙って後を付いていく。その先に、きっと自分が探し求めていた答えがある
だろうからだ。

                  ∵∴†∴∵

 暗がりの中、一人の男が巨大な装置に向かっている。
 男は笑っていた。だが、目は虚ろだった。

「ああ、もう直ぐだよ、アイリーン……君と僕の永遠の世界が……」
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2007/02/12 17:23 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

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