PC:ヴォルボ ウェイスター 場所:ガイス(常世)~ジュデッカ +++++++++++++++++++++++++++++++++++
「私達がやろうとしていることは――」
言いかけてウェイスターは口ごもった。やろうとしていることは?ウォダックを討ち
世の平静を取り戻すこと…か?
「別に君を止めるつもりはないよ。この湖に潜れば、いつもの世界に帰れるんだ
ろ?」
キラミーストの言葉が本当ならば…と、ヴォルボは口には出さず付け足した。この美
しい湖に底があるのだろうか。あったとしてそれはどれくらいの深度か。なにより…
向うの世界に帰ってどうするのか。
「…ヴォルボ殿は、この地に残りいかがなさるつもりか。」
「いったろ?僕には忘れられない人がいるって。」
「しかし、なぜ今になって…!」
ヴォルボは答えず、うつむいた。その姿がなんとなく、いたたまれなくなって、ウェ
イスターも口を閉じた。もしこの世界が本当に死者の世界だというのなら、ヴォルボ
に限らず誰だって会いたい人はいる。ウェイスターとて例外ではなかった。ただ、今
はそのような感傷に浸っている場合ではない。それだけがウェイスターを突き動かす
原動力だった。
「…もういい。分かった。私は戻る。君は、すきにするといい。」
「うん。そうしよう。」
あまりにもそっけないヴォルボを尻目に、ウェイスターは湖を見下ろす。改めてその
美しさを痛感し、そして深呼吸…。
ざぶん
ウェイスターは湖の底を目指し、ひたすらに潜り続けた。
水の中は明るさが無く、まるで闇の中をもがいてるようだった。
*□■*
ウェイスターがもぐってからすでに数分が経っていた。ヴォルボは、湖のほとりに佇
んだまま、時々上がる気泡を眺めていた。
「…まだいるんだ。」
だが、もうどうでもいいことだ。彼とはここまでの縁だったわけだし、現実の世界で
ウォダックがどう暴れようと興味はない。
死者の世界でも何でもいい。
「マリリアン…。」
声に出してみた。別に、彼女の影をどこかに見たわけではない。願いとして…彼女に
今一度会いたくて、声に出した。
女々しいかな…なんて想いが、ヴォルボの心をそっとかすめた。
ヴォルボは歩いた。当てもなく、ひたすらに彼女の影を探した。探す手がかりもな
く、ふらふらと歩いているだけだったが、不思議と彼の心はマリリアンに近づいてい
る気がした。気のせいといえば確かにそうだ。しかし、それだけでも気休めにはな
る。歩いて、歩いて、歩いた。本当にここが死者の世界というのなら、彼女は居てし
かるべきだし、ドラマチックを演出したいなら再開は必然だ。
「……。」
その必然が唐突に訪れた。
何気ない道中、そっけない風の中、マリリアンがヴォルボの眼前にたっていたのだ。
生前の『醜さ』そのままに。
「マリリアン…。」
ヴォルボには続けるべき言葉があったが、唇を裂いてこぼれる言葉は、それとはかけ
離れていた。
「大丈夫?」なわけない。死んでいるんだから。
「元気だった?」死者に向ける言葉とは思えない。
「あのさ…。」僕はと、続けようとして、口をつぐんだ。
マリリアンは、静かにヴォルボを見下ろしていた。慈しむように、女神のごとく。
「…なんでもない。」わけではないが、ここで彼女に何を言えるだろう。ヴォルボに
はマリリアンの何が分かるわけではなかった。
彼女はウォダックの手によって殺された。それだけだ。僕と彼女をつなぐ糸はあまり
にも細い。
命を懸けるほどでは決してない。結局、彼女を理由に、むりやりしていた旅だ。
ウェイスターとかいう、あの変人とも今ひとつ意見が合わないし、彼のようにはっき
りした動機があるわけじゃない。
もし、マリリアンが口を聞けたらなんと言うだろう?
「私のためなんかに、危険を冒さないで。」とでもいうだろうか。
頭上のマリリアンは何も言わない。
「違う。僕には…聞き取る権利がないんだ…。」
自己嫌悪でヴォルボの目の前はかすんだ。
「………!!」
頭上のマリリアンが何かを言っているようだった。必死に何かを訴えているような
…。
「え?なんて?聞こえない!」
ヴォルボのいうことは聞こえたのか、マリリアンは身振り手振りを交えて何かを伝え
ようとする。
手を大きく回して…
「え?なにそれ?なんか大きいの?」
首を振るマリリアン。
手のひらを外に向け、水をかくしぐさ…
「え?かえるがどうしたの?」
首を振るマリリアン。
しばし、腕を組んで黙る。そして、思いついたように、剣を振るしぐさをする。
「え?剣道始めたの?」
首を振るマリリアン。ちょっと、イラついてきたみたいだ。
指でヴォルボの来たほうをさす。
「え?来た道がなんだって?」
初めて縦に首を振る。
そして、改めて水をかくしぐさをする。
「え?来た道にかえるはいないよ。」
だいぶイラついてきたみたいだ。
いいか加減にしろといわんばかりに胸倉をつかもうとするマリリアン。実際は触れら
れないわけだから、するり抜けたわけだが。
「ちょ…、近いよマリリアン…。」
と、てれて顔をそむけるヴォルボに平手打ち(当たらない)をするマリリアン。
「顔に手を添えようとしてくれたの?ごめんね。僕が…。」
「ちがわい!こんボケナスがィッ!」と、言っているのだが伝わらないとはなんと歯
がゆい。
「え?何?なんだって?そんなに眉間にしわ寄せちゃって…。よっぽど寂しかったん
だね。大丈夫、僕もだから…。」
と、一人悦に入ってるヴォルボの胸倉をつかんで(掴めてないのだが)怒鳴り散らす
(聞こえないのだが)ともすれば唾がかかる(わけはないのだが)くらいの勢いで。
するとヴォルボは微笑んで、静かに言った。
「…大丈夫。分かってるよ。彼のトコにいけっていうんだろ?」
不意を疲れて、きょとんとしたマリリアン。
「よくわからいけど、分かってるつもりだよ。」
我ながら支離滅裂と思いながらも、それでいいのかと思った。ヴォルボはマリリアン
を背後霊に背負い、来た道を引き返し始めた。
*□■*
そのころウェイスターは、文字通りの闇にとらわれていた。
「私達がやろうとしていることは――」
言いかけてウェイスターは口ごもった。やろうとしていることは?ウォダックを討ち
世の平静を取り戻すこと…か?
「別に君を止めるつもりはないよ。この湖に潜れば、いつもの世界に帰れるんだ
ろ?」
キラミーストの言葉が本当ならば…と、ヴォルボは口には出さず付け足した。この美
しい湖に底があるのだろうか。あったとしてそれはどれくらいの深度か。なにより…
向うの世界に帰ってどうするのか。
「…ヴォルボ殿は、この地に残りいかがなさるつもりか。」
「いったろ?僕には忘れられない人がいるって。」
「しかし、なぜ今になって…!」
ヴォルボは答えず、うつむいた。その姿がなんとなく、いたたまれなくなって、ウェ
イスターも口を閉じた。もしこの世界が本当に死者の世界だというのなら、ヴォルボ
に限らず誰だって会いたい人はいる。ウェイスターとて例外ではなかった。ただ、今
はそのような感傷に浸っている場合ではない。それだけがウェイスターを突き動かす
原動力だった。
「…もういい。分かった。私は戻る。君は、すきにするといい。」
「うん。そうしよう。」
あまりにもそっけないヴォルボを尻目に、ウェイスターは湖を見下ろす。改めてその
美しさを痛感し、そして深呼吸…。
ざぶん
ウェイスターは湖の底を目指し、ひたすらに潜り続けた。
水の中は明るさが無く、まるで闇の中をもがいてるようだった。
*□■*
ウェイスターがもぐってからすでに数分が経っていた。ヴォルボは、湖のほとりに佇
んだまま、時々上がる気泡を眺めていた。
「…まだいるんだ。」
だが、もうどうでもいいことだ。彼とはここまでの縁だったわけだし、現実の世界で
ウォダックがどう暴れようと興味はない。
死者の世界でも何でもいい。
「マリリアン…。」
声に出してみた。別に、彼女の影をどこかに見たわけではない。願いとして…彼女に
今一度会いたくて、声に出した。
女々しいかな…なんて想いが、ヴォルボの心をそっとかすめた。
ヴォルボは歩いた。当てもなく、ひたすらに彼女の影を探した。探す手がかりもな
く、ふらふらと歩いているだけだったが、不思議と彼の心はマリリアンに近づいてい
る気がした。気のせいといえば確かにそうだ。しかし、それだけでも気休めにはな
る。歩いて、歩いて、歩いた。本当にここが死者の世界というのなら、彼女は居てし
かるべきだし、ドラマチックを演出したいなら再開は必然だ。
「……。」
その必然が唐突に訪れた。
何気ない道中、そっけない風の中、マリリアンがヴォルボの眼前にたっていたのだ。
生前の『醜さ』そのままに。
「マリリアン…。」
ヴォルボには続けるべき言葉があったが、唇を裂いてこぼれる言葉は、それとはかけ
離れていた。
「大丈夫?」なわけない。死んでいるんだから。
「元気だった?」死者に向ける言葉とは思えない。
「あのさ…。」僕はと、続けようとして、口をつぐんだ。
マリリアンは、静かにヴォルボを見下ろしていた。慈しむように、女神のごとく。
「…なんでもない。」わけではないが、ここで彼女に何を言えるだろう。ヴォルボに
はマリリアンの何が分かるわけではなかった。
彼女はウォダックの手によって殺された。それだけだ。僕と彼女をつなぐ糸はあまり
にも細い。
命を懸けるほどでは決してない。結局、彼女を理由に、むりやりしていた旅だ。
ウェイスターとかいう、あの変人とも今ひとつ意見が合わないし、彼のようにはっき
りした動機があるわけじゃない。
もし、マリリアンが口を聞けたらなんと言うだろう?
「私のためなんかに、危険を冒さないで。」とでもいうだろうか。
頭上のマリリアンは何も言わない。
「違う。僕には…聞き取る権利がないんだ…。」
自己嫌悪でヴォルボの目の前はかすんだ。
「………!!」
頭上のマリリアンが何かを言っているようだった。必死に何かを訴えているような
…。
「え?なんて?聞こえない!」
ヴォルボのいうことは聞こえたのか、マリリアンは身振り手振りを交えて何かを伝え
ようとする。
手を大きく回して…
「え?なにそれ?なんか大きいの?」
首を振るマリリアン。
手のひらを外に向け、水をかくしぐさ…
「え?かえるがどうしたの?」
首を振るマリリアン。
しばし、腕を組んで黙る。そして、思いついたように、剣を振るしぐさをする。
「え?剣道始めたの?」
首を振るマリリアン。ちょっと、イラついてきたみたいだ。
指でヴォルボの来たほうをさす。
「え?来た道がなんだって?」
初めて縦に首を振る。
そして、改めて水をかくしぐさをする。
「え?来た道にかえるはいないよ。」
だいぶイラついてきたみたいだ。
いいか加減にしろといわんばかりに胸倉をつかもうとするマリリアン。実際は触れら
れないわけだから、するり抜けたわけだが。
「ちょ…、近いよマリリアン…。」
と、てれて顔をそむけるヴォルボに平手打ち(当たらない)をするマリリアン。
「顔に手を添えようとしてくれたの?ごめんね。僕が…。」
「ちがわい!こんボケナスがィッ!」と、言っているのだが伝わらないとはなんと歯
がゆい。
「え?何?なんだって?そんなに眉間にしわ寄せちゃって…。よっぽど寂しかったん
だね。大丈夫、僕もだから…。」
と、一人悦に入ってるヴォルボの胸倉をつかんで(掴めてないのだが)怒鳴り散らす
(聞こえないのだが)ともすれば唾がかかる(わけはないのだが)くらいの勢いで。
するとヴォルボは微笑んで、静かに言った。
「…大丈夫。分かってるよ。彼のトコにいけっていうんだろ?」
不意を疲れて、きょとんとしたマリリアン。
「よくわからいけど、分かってるつもりだよ。」
我ながら支離滅裂と思いながらも、それでいいのかと思った。ヴォルボはマリリアン
を背後霊に背負い、来た道を引き返し始めた。
*□■*
そのころウェイスターは、文字通りの闇にとらわれていた。
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