PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:キラミースト・モンス・ミックス
場所:ガイス(常世)~ジュデッカ
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
「死神はね、本来魂を集めるのが仕事なのさ」
まるで夢を見るような眼差しで、事実を述べるキラミースト。その瞳は潤みを帯びた赤色で、髪は薄い緑という死神らしからぬ死神だった。彼が紡ぎ出した言葉はまるで意味が通っていないようにも聞こえたし、繋がりがあるようにも聞こえた。だからヴォルボは必死になって今までの話との繋がりを考えてみた。
だが、生憎その繋がりは見つからなかった。
結局のところ、彼、キラミーストは自分の言いたい事を言いたい時に言いたいだけのたまっているだけだと結論付けた。
その言葉は旋律に乗って。優雅に、軽やかに。だが、意味の通じない。そんな会話がキラミーストの持ち味だと解るまでにたっぷり5分はかかった。
「で? だから? それがどうした?」
意味不明だと言わんばかりにウェイスターが身を乗り出した。
それでもキラミーストはマイペースに言葉を紡ぐ。この男に限って言えば、言葉を紡ぐという言い方がぴったりである。何しろ、歌う様に話すのだから。
「どうもしないよ。僕が死神で、君達が捕らわれた魂だという事実があるだけさ。……あ、そうそう。この世界にある食べ物や飲み物を食べたり飲んだりしたらいけないよ」
「は? なぜだ?」
「それは、君達がこの世界と同化するという意味だからさ」
キラミーストは意味深な言葉と共に、意味深長な視線を綻ばせる。目で、笑っていた。その視線に当てられて、言葉の意味するところを理解して、ヴォルボの心は震えた。
もし――、
もしここにある食べ物を自分が口にすれば――。
そうすれば、自分は――。
いけない考えを頭を振って振り解く、ヴォルボ。マリリアンの笑顔が浮かんで消えた。一瞬浮かんだ考えはとても素敵だったけれど、それを実行する訳には行かない。少なくとも今は。いつまでも過去の残照に縋り付く訳にはいかない。現実を、今ある事実を直視しなければ。だから自分は前向きに生きるのだと、自分自身に言い聞かせる。それで想い人を完全に忘れ去る事はできないけれど、少なくとも今の自分に目を向けることは出来る。
自分の渦の中に取り込まれそうになっていたのを何とか脱出してみると、少しは客観的に見られるようになって来た。そうして周囲に目を向けてみると、ウェイスターとキラミーストが問答を繰り返していた。渦に飲み込まれる前から続いていた問答だ。いい加減うんざりしているとキラミーストの口から意外な言葉が飛び出た。
「この道を真っ直ぐ進んでごらん。そこに澄んだ泉がある。その泉に飛び込むんだ。そのままずっと泉の奥深くに潜っていけば、この世界から抜け出せる」
意外だった。
彼は、迷い込んだ自分達をただ嘲笑うために粉をかけて来ているのだとばかり思っていた。だから、その彼の口から自分達の益になる言葉が出るとは思っても見なかったのである。
「どうして、……どうして、そんな事を言うんですか?」
ヴォルボは問わず語りに問うた。
だが、キラミーストは答えない。代わりに踊るように去って行った。何かを言いたげな視線を残して――。
「行こう。ヴォルボ殿。我々は、ここで立ち止まっているわけにはいかない」
ウェイスターが先を促す。
ヴォルボはその言葉に応えるように、一歩一歩重い足を動かした。
かつて生者の村だったところは、死者の町と化していた。
とはいえ、部分部分はかつての面影を残している。かつての村を知っている訳ではなかったが、生者が住まう村や町を世界各地で見てきているが、そのどの街と比較しても遜色なく機能している。少なくともヴォルボにはそう見えた。生者が往来を行き来しているわけではなかったが、市はたっているし、煙突からは煙が立ち昇っている。ただ違うといえば、そのどれもが死者が関与しているということだ。市場を賑わせているのは死者の呼び込みの声だし、往来を行き来しているのは足はあってともすると生者と変わりなく見えるが、土気色の肌を晒して生気を失った人々の列だった。
そう、ここは死者の町なのだ。自分達がいてはいけない場所。
ここに残るにしても、ここから抜け出すにしても、どちらにせよ覚悟が必要なようだ。ここから抜け出すためには泉に身を投じなければいけない。どれだけ深いのか、何処まで行けば抜け出せるのか、キラミーストはその事に関しては一言も触れなかった。だから、良く解らない。良く解らない場所に、良く解らないだけ潜っていなければならないのだ。潜る――という言葉が当て嵌まるかどうかも怪しい。それなりの覚悟が必要だ。反対に、この世界に残る――という選択をしてみよう。その場合でさえ、ある種の覚悟が必要なのだ。生者が死者と共に生きるという事は、やがて朽ちる身でありながら永遠の時を彷徨うということなのだ。心が、壊れていくかもしれない。そういえば、この場所で死んだ場合、どうなってしまうのだろう。それすらも不明だ。あるいは、燃え尽きてしまうだけなのか。それとも魂だけが彷徨うことになるのか。
道なりに真っ直ぐ進んで、村を過ぎて少し行った森の中に泉はあった。
鬱蒼と茂った森は何処までも暗く、不透明な現実を表しているかのようだった。互いに触れ合わんばかりに茂っている枝葉はヴォルボ達の行く手を阻んでいたし、何処までも蒼かった。
重なり合った枝葉を掻き分けながら進む。
どのくらい歩いただろう。もう時間の感覚がなくなった頃――この世界に入り込んだ時点から時間の感覚は失われていたのかもしれないが――泉の水面の輝きが目に飛び込んできた。ヴォルボはその眩しさに、思わず瞳を細めた。鬱蒼と生い茂った森の中でも陽の光は差し込むのだろうかとか、そもそもこんな死人の国で陽の光などというものが存在するのだろうかとか、色々と考えると切りが無いがともかくも泉は光りを乱反射していた。
ヴォルボはその光りを目に焼き付けながらも、薄っすらと思う。そして、その思ったことを口にする。意を決したように、眉間に皺を寄せながら。
「ボクはここに残る」
すると、その言葉を聞いたウェイスターが即座に反応した。いい反応だ。半ば褒め称えるようにして、彼を見るヴォルボ。
「君はこんな場所に残るというのか? こんな、人間の住まう場所では無い場所に? 何故だ。どうしてそれほど人間であることを捨てようとする」
「ボクには、忘れられない人がいる。ここに、この場に残れば、少なくともその人に会える気がする」
「君はまさか――!? 馬鹿な! 正気か? いいか? 私達がやろうとしていることは――」
NPC:キラミースト・モンス・ミックス
場所:ガイス(常世)~ジュデッカ
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「死神はね、本来魂を集めるのが仕事なのさ」
まるで夢を見るような眼差しで、事実を述べるキラミースト。その瞳は潤みを帯びた赤色で、髪は薄い緑という死神らしからぬ死神だった。彼が紡ぎ出した言葉はまるで意味が通っていないようにも聞こえたし、繋がりがあるようにも聞こえた。だからヴォルボは必死になって今までの話との繋がりを考えてみた。
だが、生憎その繋がりは見つからなかった。
結局のところ、彼、キラミーストは自分の言いたい事を言いたい時に言いたいだけのたまっているだけだと結論付けた。
その言葉は旋律に乗って。優雅に、軽やかに。だが、意味の通じない。そんな会話がキラミーストの持ち味だと解るまでにたっぷり5分はかかった。
「で? だから? それがどうした?」
意味不明だと言わんばかりにウェイスターが身を乗り出した。
それでもキラミーストはマイペースに言葉を紡ぐ。この男に限って言えば、言葉を紡ぐという言い方がぴったりである。何しろ、歌う様に話すのだから。
「どうもしないよ。僕が死神で、君達が捕らわれた魂だという事実があるだけさ。……あ、そうそう。この世界にある食べ物や飲み物を食べたり飲んだりしたらいけないよ」
「は? なぜだ?」
「それは、君達がこの世界と同化するという意味だからさ」
キラミーストは意味深な言葉と共に、意味深長な視線を綻ばせる。目で、笑っていた。その視線に当てられて、言葉の意味するところを理解して、ヴォルボの心は震えた。
もし――、
もしここにある食べ物を自分が口にすれば――。
そうすれば、自分は――。
いけない考えを頭を振って振り解く、ヴォルボ。マリリアンの笑顔が浮かんで消えた。一瞬浮かんだ考えはとても素敵だったけれど、それを実行する訳には行かない。少なくとも今は。いつまでも過去の残照に縋り付く訳にはいかない。現実を、今ある事実を直視しなければ。だから自分は前向きに生きるのだと、自分自身に言い聞かせる。それで想い人を完全に忘れ去る事はできないけれど、少なくとも今の自分に目を向けることは出来る。
自分の渦の中に取り込まれそうになっていたのを何とか脱出してみると、少しは客観的に見られるようになって来た。そうして周囲に目を向けてみると、ウェイスターとキラミーストが問答を繰り返していた。渦に飲み込まれる前から続いていた問答だ。いい加減うんざりしているとキラミーストの口から意外な言葉が飛び出た。
「この道を真っ直ぐ進んでごらん。そこに澄んだ泉がある。その泉に飛び込むんだ。そのままずっと泉の奥深くに潜っていけば、この世界から抜け出せる」
意外だった。
彼は、迷い込んだ自分達をただ嘲笑うために粉をかけて来ているのだとばかり思っていた。だから、その彼の口から自分達の益になる言葉が出るとは思っても見なかったのである。
「どうして、……どうして、そんな事を言うんですか?」
ヴォルボは問わず語りに問うた。
だが、キラミーストは答えない。代わりに踊るように去って行った。何かを言いたげな視線を残して――。
「行こう。ヴォルボ殿。我々は、ここで立ち止まっているわけにはいかない」
ウェイスターが先を促す。
ヴォルボはその言葉に応えるように、一歩一歩重い足を動かした。
かつて生者の村だったところは、死者の町と化していた。
とはいえ、部分部分はかつての面影を残している。かつての村を知っている訳ではなかったが、生者が住まう村や町を世界各地で見てきているが、そのどの街と比較しても遜色なく機能している。少なくともヴォルボにはそう見えた。生者が往来を行き来しているわけではなかったが、市はたっているし、煙突からは煙が立ち昇っている。ただ違うといえば、そのどれもが死者が関与しているということだ。市場を賑わせているのは死者の呼び込みの声だし、往来を行き来しているのは足はあってともすると生者と変わりなく見えるが、土気色の肌を晒して生気を失った人々の列だった。
そう、ここは死者の町なのだ。自分達がいてはいけない場所。
ここに残るにしても、ここから抜け出すにしても、どちらにせよ覚悟が必要なようだ。ここから抜け出すためには泉に身を投じなければいけない。どれだけ深いのか、何処まで行けば抜け出せるのか、キラミーストはその事に関しては一言も触れなかった。だから、良く解らない。良く解らない場所に、良く解らないだけ潜っていなければならないのだ。潜る――という言葉が当て嵌まるかどうかも怪しい。それなりの覚悟が必要だ。反対に、この世界に残る――という選択をしてみよう。その場合でさえ、ある種の覚悟が必要なのだ。生者が死者と共に生きるという事は、やがて朽ちる身でありながら永遠の時を彷徨うということなのだ。心が、壊れていくかもしれない。そういえば、この場所で死んだ場合、どうなってしまうのだろう。それすらも不明だ。あるいは、燃え尽きてしまうだけなのか。それとも魂だけが彷徨うことになるのか。
道なりに真っ直ぐ進んで、村を過ぎて少し行った森の中に泉はあった。
鬱蒼と茂った森は何処までも暗く、不透明な現実を表しているかのようだった。互いに触れ合わんばかりに茂っている枝葉はヴォルボ達の行く手を阻んでいたし、何処までも蒼かった。
重なり合った枝葉を掻き分けながら進む。
どのくらい歩いただろう。もう時間の感覚がなくなった頃――この世界に入り込んだ時点から時間の感覚は失われていたのかもしれないが――泉の水面の輝きが目に飛び込んできた。ヴォルボはその眩しさに、思わず瞳を細めた。鬱蒼と生い茂った森の中でも陽の光は差し込むのだろうかとか、そもそもこんな死人の国で陽の光などというものが存在するのだろうかとか、色々と考えると切りが無いがともかくも泉は光りを乱反射していた。
ヴォルボはその光りを目に焼き付けながらも、薄っすらと思う。そして、その思ったことを口にする。意を決したように、眉間に皺を寄せながら。
「ボクはここに残る」
すると、その言葉を聞いたウェイスターが即座に反応した。いい反応だ。半ば褒め称えるようにして、彼を見るヴォルボ。
「君はこんな場所に残るというのか? こんな、人間の住まう場所では無い場所に? 何故だ。どうしてそれほど人間であることを捨てようとする」
「ボクには、忘れられない人がいる。ここに、この場に残れば、少なくともその人に会える気がする」
「君はまさか――!? 馬鹿な! 正気か? いいか? 私達がやろうとしていることは――」
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