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2024/05/16 19:19 |
捜し求める者たちの軌跡2 「素敵なおじさま」/サノレ(ちあきゆーか)
PC:ギゼー メデッタ サノレ (アイリス エスト)
NPC:リング ニーニャの母 看護婦×2
場所:ソフィニア市街・病院
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ソフィニアの印象は、ひとことでいえば「なんでもあり」だった。
尖った耳のエルフや尻尾の生えた半獣人、お揃いの制服を着た学生、魔法の力で走る
列車、この街では当たり前なものごとも、サノレにとっては初めて目にするものだっ
た。
そんな街では、人が消えるのも珍しくないことなのかと思ったが――

「ニーニャ!ニーニャがっ!」

どうやらそういうわけでもないらしい。
少女の母親と思しき婦人はすっかり狼狽しきっていた。
それなのに、周囲の通行人ときたらただ少女の消えたあたりを取り巻くだけで、彼女
には見向きもしない。
人間の本性は、世界のどこでもこんなものなのだろうか。

「だいじょうーぶ?」

サノレは婦人に声をかけた。誰もやらないなら、自分がやればいいだけのことだ。
だが、返事はない。
もう一度声をかけようとサノレが口を開いた瞬間、婦人は卒倒した。
魔方陣を取り巻いていた人々がざわめく。

(今さら騒いだって遅いのよ、あんたーら!)

サノレが慌てて彼女を助け起こしたが、意識がない。
呼吸はあるから命の心配はないだろうが、だからといって放っておくわけにもゆくま
い。
お人好しな自分に半ば呆れながら、サノレは彼女を担ぎ上げた。

「病院はどこなーの?!」

野次馬のひとりが道の向こうを指さす。
婦人を担いだサノレが歩き出すと、野次馬の列が割れる。
数歩歩いたところで、急に肩が軽くなった。怪訝に思ったサノレが横を向くと、栗色
の髪の男が婦人のもう一方の腕を担いでいる。

「手伝うぜ、お嬢さん」

男はそう言って笑うと、少し先に佇む、少女を背負った黒ずくめの男に目で合図し
た。
黒ずくめの男は、苦笑しながらもしっかりと頷く。
その黒ずくめの男を視界に捉えたサノレは、思わず呟いていた。

「素敵なおじさま……!」


   * * * * *


栗色の髪のおにーさんは、トレジャーハンターのギゼー。
黒ずくめのおじさまは、メデッタ。
そしてメデッタが背負っていた女の子は、リング。
三人はソフィニアの近くにある遺跡を探検してきたばかりなのだという。
遺跡探検。
それもまた、サノレには新鮮な響きだった。

「…ところで、あのご婦人はどうして倒れたんだね?」

婦人とリングを医者に預けた後、待合室の長椅子で、おもむろにメデッタはそう切
り出した。
考えれば考えるほどにリングが心配になって、何かを話すことで気を紛らわせなけれ
ばとても堪えられそうになかったのだ。
だが、ギゼーは看護婦をナンパしに行ったまま帰ってこないため、仕方なくこの少女
を話し相手に選んだのだった。

「子供が消えたのーよ」
「消えた?それはまた、奇妙な話だな」
「だけど本当なのーよ」

こういう形の模様があってーね、と、指で空に図形を描く。

「これは…魔方陣か?」
「うーん、あたし魔法はよくわかんないけーど」

メデッタがもう少し詳しい説明を求めると、サノレは肩にかけたポシェットから紙と
鉛筆を取り出し、さらさらとそれを書き表してみせた。
サノレの描いた図を見て、ほう、とメデッタは感嘆の声をあげた。
完全なのだ。
彼女は「魔法はよくわからない」と言ったにもかかわらず、相当の知識がなければ描
けない複雑な魔方陣を完璧に再現したのだ。これは、普通の人間の記憶力ではまず為
し得ない業だった。

「お嬢さん、何者だ?」

メデッタの眼光が鋭くサノレを射る。
だが、何故かサノレは頬を赤らめて俯く。

「おじさま、あたしが気になるーの?きゃー、嬉しーい!」
「そういうことではなくてだな…」
「あたし、おじさまのためなら何でもするーよ?」
「…………」

何か根本的な行き違いが生じているような気がして、メデッタは閉口した。
サノレの瞳はきらきらと輝き、上目遣いで彼を見上げている。
可愛らしさをアピールしているつもりなのだろうか。
彼の嫌いな赤い色をした瞳で?

「あ、看護婦さんが来たーよ?」

サノレはそう言うが、看護婦など姿も見当たらなければ足音もしない。
メデッタが怪訝な顔で彼女の横顔を見たそのとき、彼の耳は看護婦の足音をとらえ
た。
決して彼の耳が悪いのではない。サノレの聴覚が鋭いのだ。
メデッタの表情に驚きの色が浮かぶ。
年配の看護婦は彼を一瞥すると、手元のカルテをぱらぱらとめくった。

「リングさんのお連れの方ですか?」
「いかにも」
「診察室へお入りください」

メデッタは看護婦に伴われて診察室へ消えていった。
それと入れ違いに、別の看護婦がサノレを呼ぶ。


   * * * * *


廊下を進み、階段を登って、また廊下を進む。
そんなことを繰り返して行き着いたのは、古びた白いドアの前だった。

「どうぞ」

看護婦が慇懃にドアを開け、サノレが部屋に足を踏み入れる。
そしてドアが閉められた、次の瞬間。

「死ねぇっ!」

棍棒のように形を変えた看護婦の両腕が振り下ろされる。
サノレが素早く身をかわすと、看護婦の腕は石造りの床を砕き、そのまま深くめりこ
んだ。まさかかわされるとは思っていなかったのか、看護婦の顔に驚愕の色が浮か
ぶ。
次なる一撃を繰り出すためになんとかして腕を引き抜こうとしているが、その大きな
隙をサノレが見逃すはずもなかった。
横向きの体勢からそのまま反動をつけ、看護婦の頭部めがけて回し蹴りを放つ。
だが、サノレの脚は空を切った。

「えっ!?」

バランスを崩してよろめくサノレ。
そして次に振り向いた瞬間、そこに残されていたのは、黒く焼け焦げたような魔方陣
の跡だけだった。

(またこれなーの?)

少女が消えたときにも焦げたような跡。
そして、今またここに焦げたような跡。
その間には何か関係があるのかも知れないな、とぼんやり思うくらいがサノレの思考
力の限界だったが、この不思議な図形は既に彼女の興味を強く惹き付けていた。
サノレはポシェットから取り出した紙と鉛筆でその図形をきっちり書き留めると、ド
アノブに手をかけようとした。

だが、ないのだ。

確かにドアをくぐってこの部屋に入ったはずなのに、そのドアがあったはずの場所に
今あるのは、真っ白いつるりとした壁だけ。
押したり、叩いたり、蹴ったりしてみたが、それでも壁はびくともしない。
おまけに、壁の向こうに人の気配はなく、誰かに助けて貰うという選択肢はないらし
い。
そうなると、残された脱出口は。

「窓しかないのーね……」

カーテンもなければ雨戸もない、剥き出しの窓。
ドアがなければ、確かにそこから出るのが道理というものだろう。
だが、ここは一階や二階ではない。飛び降りるのに失敗すれば、見るも無残なことに
なることは明らかだった。
身を乗り出して、外壁に足掛かりになりそうな部分がないかどうか探してみるが、丁
度良い具合の場所は見当たらない。
次に、下を覗き込んでみる。
薄暗く狭い路地裏にはゴミが散乱し、野良犬や鴉が餌を漁っている。
麻袋に詰められたゴミの山が緩衝材代わりになってくれそうではあるが、さすがに自
分からゴミに飛び込むのは抵抗がある。

しかし、いつまでもここで逡巡している暇はなかった。
ひょっとしたらあの婦人だって、もしかしたらギゼーやメデッタやリングだって危険
に晒されているかも知れないのだ。
そう、それに、汚れたってどこかで体を洗えばいいだけではないか。

と、半ば無理矢理に自分を納得させ、サノレは窓枠に脚をかける。
改めて下を見ると、もし失敗したら、という恐怖心が頭をもたげてくる。
それでも。
飛び降りなければどうしようもないのだから。

大きく深呼吸をすると、サノレはひと思いに窓枠を蹴った。


   * * * * *


「……嬢さん?お嬢さん?」

誰かが肩を揺する。
ゆっくりとサノレが目を開けると、そこにはメデッタの顔があった。
ふたりの目が一瞬だけ合ったが、彼女の瞳を直視してしまったメデッタはすぐに目を
逸らした。

「若い女性が公共の場で眠りこけるのは感心しないな」
「あれ…ここーは?」

サノレは驚いて辺りを見回した。
彼女のいる場所は、ゴミの山の中でもなければ、死後の世界でもなかった。
あの看護婦に呼ばれる前に座っていた、待合室の長椅子だった。

あれは、夢だったのだろうか?

ポシェットの中から、紙の束を取り出す。
ぱらぱらと数枚めくり、あのときメデッタに解説した魔方陣が描いてある次のページ
には。

「あれ、あったーよ?」

看護婦が消えた場所にくっきりと残っていた図形がそのまま書き写してあった。
素っ頓狂な声をあげるサノレに驚いたのか、メデッタは「何があったんだね?」と訝
しげな表情で彼女の手元を覗き込んだ。

「これは?」
「さっき看護婦さんが消えたときにあったんだーよ」
「看護婦?」

メデッタは何が何だか解らないといった顔でサノレを見た。
ちょうどそのとき、ギゼーが戻ってきた。
苦虫を噛み潰したような表情からして、どうやらナンパの成果は芳しくなかったらし
い。

「どこへ行っていたのだね、ギゼー君」
「まぁ、いろいろとね。で、リングちゃん、どうだって?」
「とりあえず数日入院させることになったが…………いや、なんでもない」
「そうか、それじゃしばらくはソフィニアにいることになるな」

メデッタは口をつぐんだが、表情を見れば彼が何かを隠しているのは明らかだった。
だが、ギゼーは敢えてそれを問わなかった。
それが彼なりの思いやりだったし、メデッタもそれを察していた。
だが、やはりその場には重々しい空気が漂いはじめていた。

「おにーさん、消えちゃった看護婦さん知らなーい?」

空気が読めないというべきか、それとも助け舟を出したというべきか、サノレが彼ら
の間に割って入る。

「看護婦?」

そうそう、と、メデッタが妙に明るい声で相槌を打った。
そして、サノレの手にしている紙束を指し示す。

「これを見給え、ギゼー君」
「魔方陣…か?」
「うむ、その通りだ。このお嬢さんの言い分を信じるなら、君と彼女の担いできたご
婦人の娘さんがこの魔方陣で消え」

一枚目の紙に描かれた魔方陣の外側を、メデッタの指がなぞる。

「そして、彼女の出会った看護婦がこの魔方陣で消えた」

二枚目の紙に描かれたそれも、同じようにしてなぞる。

「偶然の一致にしてはできすぎていると思わないかね?」

ギゼーは無言で頷く。
看護婦が消えたというのは自分が見たわけではなかったが、恐らく事実なのだろう。
彼女の言い分を有り得ないと否定するのなら、あの婦人の娘――ニーニャとかいった
か?――が雑踏の真ん中で掻き消えたことも同じように有り得ないと否定されるべき
であろう。
だが、ニーニャが消えたのはこの目で見たし、サノレだって見ているし、他の大勢の
通行人も目の当たりにしている、紛れもない事実なのである。
万一それが幻であっても、白昼の街中で大勢が幻を見たとなれば、それはそれで事件
だといえる。

「面白いな」

ギゼーは不敵な笑みを浮かべた。
この事件には何かがある。
トレジャーハンターの直感がそう告げていた。

「メデッタさん、面白い話を拾ったな」
「礼なら、このお嬢さんに言ってくれ給え」

よく事情を呑み込めていない当のサノレは、うっとりとした目つきでただただメデッ
タを見つめている。

「お嬢さん、ギゼー君が話があるそうだ」
「なーに?」

サノレの視線がギゼーに向くと、やれやれといった風にメデッタは苦笑した。
どうやら、サノレの熱烈アピールも今のところ全く効果がないようだ。

「お嬢さん、この街の人か?」
「違うーよ」
「それじゃ、冒険者か?」
「んー、そういうわけでもないけーど。いろんな人についてって旅してたんだーよ」
「それは冒険者っていうんじゃないのか…?」

そうかーも、とサノレはあどけなく笑う。

「まぁ、いいか。とにかく、この事件を解決する気はないか?」
「あれ、なーに?おにーさんたちも手伝ってくれるーの?」

どうやら、目的は一致していたらしい。
ギゼーが右手を差し出すと、サノレはその手をしっかりと握った。

(格好悪くはないけど、あたしの好みとはちょっと違うわーね)
(あと五年もすればいい女になるかも知れないが、まだまだだな…)

視線を交わした瞬間、サノレとギゼーはお互いをそう値踏みしていた。
だが、お互いがそれを知ることはないだろう。

医師の話によれば、婦人の意識はもうすぐ戻るはずだという。
だが、サノレの「なんかおなかが減ったーわ」の一言で、街で遅めの昼食をとること
になった。

だが、そこにもまた一連の事件の種は転がっていたのだった。
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2007/02/12 17:40 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡

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