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2024/05/17 08:57 |
捜し求める者たちの軌跡4 「お代 銅貨4枚」/エスト(周防松)
PC:ギゼー メデッタ サノレ エスト (アイリス)
NPC:ウェイトレス ガラ悪そうな男 老コック
場所:ソフィニア市街のレストラン

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

転んで料理をお客にぶちまけてしまったウェイトレス。
ぶちまけられて激怒しているガラの悪い男。

その間に割り込んだのは、暗い色の衣服に身を包んだ、銀髪に褐色の肌の若い男だっ
た。

「あんだぁ? ああ?」

ガラの悪そうな男は、突然ウェイトレスと自分との間に割りこんできた若い男をねめ
つけた。
場の雰囲気が、一気に緊迫する。
ちらちらと様子をうかがう者もいれば、関わりあいになりたくないとばかりに視線を
逸らして息を殺している者もいる。
何しろ、割って入った男の方も、ガラの悪そうなツラがまえなら負けていないのだ。
身長こそさほど高くないものの、三白眼のうえに目つきが悪いときている。
何か起きそうな予感がしても、不思議ではない。

「飯が不味くなる。人前でぎゃあぎゃあわめくな」
愛想もそっけもなく、彼は言う。
その態度が、男にとってはしゃくだったらしい。
「人前だあ? そんなもん知ったことか!」
男はぎゃんぎゃんわめきながら、自分の着ているものを指差した。
衣服の胸の辺りから太ももの辺りまでが、ぐしゃぐしゃに濡れている。
スープをかぶったのだな、ということが匂いでわかった。

「このアマ、俺の服をこんなにしやがったんだ、タダじゃおかねぇ!」

(やかましい……)
間近で吠えたてられ、彼――エストは、ほんのわずかに眉をしかめた。
よくもまあ、こんなに怒鳴り続けていられるものだ。
このやかましい男を、拳で黙らせて叩き出すのは非常に簡単なことである。
この場は、取りあえずそれで静かになることだろう。
だが、それを実際にやったらどうなるか。
それが原因で、店の評判は落ちてしまうだろう。
公共の場でがなり立てる男も男だが、元はといえばウェイトレスが転んで料理をお客
にぶちまけたせいなのだ。
どちらかが一方的に悪いというわけではない。

エストはちらりと後ろにいるウェイトレスに視線を向けた。
彼女は、もはや口をきくことすらかなわない状態だ。
怯えきって震え、この事態が収まるのをひたすら待っている。
大嵐に遭遇した、小動物さながらに。
――どうしたもんか。
店の関係者でもない自分が、これ以上踏みこんでいいことなのだろうか。
「……店長はいないのか?」
答えるとは思えないが、背後のウェイトレスにぼそりと尋ねてみたところ、
「ああ、この店の店長ね。気弱だからこういう時は出てこないよ」
厨房の奥から、痩せぎすな老コックが顔を出した。
……それって、店長としてどうなんだろうか。
そう思わずにいられないエストだった。
(仕方ないか)
心の中でため息をつき、エストは上着の内ポケットに手を突っ込んだ。
「なんだ、やる気かぁ!? 女かばっていいトコ見せようたって……!」

ぴぃん!

男の額を、何かが弾いた。

ことん、と床に落ちたものを見れば、それは一枚の銀貨だった。

「シャツとズボン、靴まで買ってもつり銭が来るぞ。不服か?」

男の背中を、冷や汗が伝う。
今の一瞬、エストの動きが見えなかったのだ。
額に向けてコインを飛ばしたのなら、それなりに動きがあって当然のはずである。
しかし、それが全くわからなかったのだ。

この男、一体何者なのか。

「へ……へっ、これで勘弁してやるよ」
威勢のいいことを言う割に、男はそそくさと銀貨を拾い、店から出ていこうとする。
「待て」
その背中に、エストの声がかかった。
「な、なんだよ……?」
ぎこちなく男は振り返る。
「食い逃げすんな。飯代は置いていけ」
「く、くそっ」
男はズボンのポケットに無造作に手を突っ込み、取り出したものをやけくそ気味にエ
ストに投げつけ、逃げるように出ていった。
エストはそれを片手で受け止め、後ろにいるウェイトレスに振り返る。
「これで足りるのか?」
受け止めた手の平を開いて見せると、そこには銅貨が4枚あった。
「え、ええ……」
ウェイトレスは、おどおどした態度で頷くと、
「あ……あの……ありがとう、ございました……」
次に礼を述べた。
しかしエストは黙って席に戻ると、椅子の下に置いていたカバンを開ける。
「あ、あの……」
聞こえなかったのだと判断したらしい彼女は、もう一度繰り返そうとした。
「顔洗って来い。ひどいもんだぞ」
エストはその言葉をさえぎり、カバンから取り出したタオルを彼女の頭にかけた。

「ひどいもんだなんて、そんなことはないっ!」

唐突に知らない男の声がした。
けげんに思って振り返ってみると、そこにはウェイトレスの両手を握りしめその顔を
見つめる、一人の男。
小柄で、栗色の髪を短く刈っている。

「可憐な貴方、是非お名前をっ!」

何なんだこいつは。
異様な疲労感を覚えて、エストは軽い頭痛を覚えた。

……放っておこう。

そう心に決めて視線を逸らした瞬間、紫の巻き毛の人物が視界に入った。
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2007/02/12 17:41 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡

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