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2024/11/17 20:05 |
捜し求める者たちの軌跡3「困った人たち」/メデッタ(果南)
PC:ギゼー メデッタ サノレ (アイリス エスト)
NPC:ウェイトレスさん×2 ガラ悪そうな男
場所:ソフィニア市街
----------------------------------------------

 サノレの提案で、ギゼー達一行はソフィニアの街で、少し遅めだが昼食をと
ることになった。
 だが…、街に出て早々、メデッタは、このメンツで街に出たことを後悔する
ことになる。
 サノレは、この街に来たのは初めてなのだろう、ソフィニアで見るもの全て
が珍しいらしく、
「わー、こんなのみたことないーよ」
「これすごいーよ」
 店のショーウィンドーを覗いてはそれを連発し、その場を離れないのだ。
 (やれやれ…)と思いメデッタがギゼーの方を見ると、ギゼーといえば今、
道ですれ違う王宮魔術師候補生のFカップはあるであろうエルフのオネーサン
に心奪われ、心ここにあらず…といった様子だ。鼻の下をびろーんと伸ばし、
少し目を離した隙にふらふら~っといなくなってしまいそうな気配を漂わせて
いる。
 一人なら、自分がその人物を注意して見守っていれば済むことだが、さすが
に、二人同時だと、メデッタも、注意の目を光らせるのには限度がある。

 ああ…。この二人の面倒を同時に見ることは不可能だ…。

 即座にそう感じたメデッタは、一方の手で「ほら、昼食をとるのだろう?」
とサノレをショーウィンドウから引き剥がすともう一方の手で「ギゼー君、行
くぞ」とギゼーの腕を掴み、店の名前もろくに見ずに、二人を引きずるような
形で、近くにあった店の中へとずかずか入っていった。
 耳に心なしか二人の不服そうな声が聴こえてきたが、それは無視しよう…と
心に決めたメデッタであった。


 ろくに名前も見ずに入った割には、この店はちゃんとしたレストランだっ
た。
「ご注文は?」
 ミニスカートに白いエプロンをした小柄なウェイトレスが尋ねる。
「ん~、俺、ハンバーグセット。あ、ライス大盛りね」
「あたしオムライスたのむーわ」
「私は海草サラダを一つ」
「かしこまりました」
 その小柄なウェイトレスが去っていくと、ギゼーがその後ろ姿を目で追いな
がら、一言。
「…カワイイなぁ。後で声かけてみるか」
 と、ボソッと呟いた。それを聞いて苦笑するメデッタ。そんなメデッタをう
っとりとした目で見つめているサノレ。
 その時だった。

 ガシャーン!!!

 盛大に何かが割れる音。
 驚いたギゼーたちがばっ、と音のした方向を見ると、別のウェイトレスの女
の子が、料理を運んでいる途中、盛大に転んだところであった。しかも、転ん
だ拍子に運んでいた料理を思いっきりお客の服にぶちまけてしまっている。
「てめぇ、なにさらしとんじゃあ!!」
 しかも、料理をぶちまけてしまった相手は、よりにもよって、言葉遣いとい
い服装といい、いかにもガラの悪そうな男である。怒鳴られた女の子は半泣き
だ。小さな声で「す…、すみません…っ…」と必死に謝っているが、目には大
粒の涙を溜めて、今にも泣き出しそうな様子である。
「ちょ…っ…」
 見かねたギゼーが席を立ち上がろうとすると、それより早く一人の男が席を
立ち上がり、すっと女の子の目の前に立ちはだかった――。

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2007/02/12 17:41 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
捜し求める者たちの軌跡4 「お代 銅貨4枚」/エスト(周防松)
PC:ギゼー メデッタ サノレ エスト (アイリス)
NPC:ウェイトレス ガラ悪そうな男 老コック
場所:ソフィニア市街のレストラン

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

転んで料理をお客にぶちまけてしまったウェイトレス。
ぶちまけられて激怒しているガラの悪い男。

その間に割り込んだのは、暗い色の衣服に身を包んだ、銀髪に褐色の肌の若い男だっ
た。

「あんだぁ? ああ?」

ガラの悪そうな男は、突然ウェイトレスと自分との間に割りこんできた若い男をねめ
つけた。
場の雰囲気が、一気に緊迫する。
ちらちらと様子をうかがう者もいれば、関わりあいになりたくないとばかりに視線を
逸らして息を殺している者もいる。
何しろ、割って入った男の方も、ガラの悪そうなツラがまえなら負けていないのだ。
身長こそさほど高くないものの、三白眼のうえに目つきが悪いときている。
何か起きそうな予感がしても、不思議ではない。

「飯が不味くなる。人前でぎゃあぎゃあわめくな」
愛想もそっけもなく、彼は言う。
その態度が、男にとってはしゃくだったらしい。
「人前だあ? そんなもん知ったことか!」
男はぎゃんぎゃんわめきながら、自分の着ているものを指差した。
衣服の胸の辺りから太ももの辺りまでが、ぐしゃぐしゃに濡れている。
スープをかぶったのだな、ということが匂いでわかった。

「このアマ、俺の服をこんなにしやがったんだ、タダじゃおかねぇ!」

(やかましい……)
間近で吠えたてられ、彼――エストは、ほんのわずかに眉をしかめた。
よくもまあ、こんなに怒鳴り続けていられるものだ。
このやかましい男を、拳で黙らせて叩き出すのは非常に簡単なことである。
この場は、取りあえずそれで静かになることだろう。
だが、それを実際にやったらどうなるか。
それが原因で、店の評判は落ちてしまうだろう。
公共の場でがなり立てる男も男だが、元はといえばウェイトレスが転んで料理をお客
にぶちまけたせいなのだ。
どちらかが一方的に悪いというわけではない。

エストはちらりと後ろにいるウェイトレスに視線を向けた。
彼女は、もはや口をきくことすらかなわない状態だ。
怯えきって震え、この事態が収まるのをひたすら待っている。
大嵐に遭遇した、小動物さながらに。
――どうしたもんか。
店の関係者でもない自分が、これ以上踏みこんでいいことなのだろうか。
「……店長はいないのか?」
答えるとは思えないが、背後のウェイトレスにぼそりと尋ねてみたところ、
「ああ、この店の店長ね。気弱だからこういう時は出てこないよ」
厨房の奥から、痩せぎすな老コックが顔を出した。
……それって、店長としてどうなんだろうか。
そう思わずにいられないエストだった。
(仕方ないか)
心の中でため息をつき、エストは上着の内ポケットに手を突っ込んだ。
「なんだ、やる気かぁ!? 女かばっていいトコ見せようたって……!」

ぴぃん!

男の額を、何かが弾いた。

ことん、と床に落ちたものを見れば、それは一枚の銀貨だった。

「シャツとズボン、靴まで買ってもつり銭が来るぞ。不服か?」

男の背中を、冷や汗が伝う。
今の一瞬、エストの動きが見えなかったのだ。
額に向けてコインを飛ばしたのなら、それなりに動きがあって当然のはずである。
しかし、それが全くわからなかったのだ。

この男、一体何者なのか。

「へ……へっ、これで勘弁してやるよ」
威勢のいいことを言う割に、男はそそくさと銀貨を拾い、店から出ていこうとする。
「待て」
その背中に、エストの声がかかった。
「な、なんだよ……?」
ぎこちなく男は振り返る。
「食い逃げすんな。飯代は置いていけ」
「く、くそっ」
男はズボンのポケットに無造作に手を突っ込み、取り出したものをやけくそ気味にエ
ストに投げつけ、逃げるように出ていった。
エストはそれを片手で受け止め、後ろにいるウェイトレスに振り返る。
「これで足りるのか?」
受け止めた手の平を開いて見せると、そこには銅貨が4枚あった。
「え、ええ……」
ウェイトレスは、おどおどした態度で頷くと、
「あ……あの……ありがとう、ございました……」
次に礼を述べた。
しかしエストは黙って席に戻ると、椅子の下に置いていたカバンを開ける。
「あ、あの……」
聞こえなかったのだと判断したらしい彼女は、もう一度繰り返そうとした。
「顔洗って来い。ひどいもんだぞ」
エストはその言葉をさえぎり、カバンから取り出したタオルを彼女の頭にかけた。

「ひどいもんだなんて、そんなことはないっ!」

唐突に知らない男の声がした。
けげんに思って振り返ってみると、そこにはウェイトレスの両手を握りしめその顔を
見つめる、一人の男。
小柄で、栗色の髪を短く刈っている。

「可憐な貴方、是非お名前をっ!」

何なんだこいつは。
異様な疲労感を覚えて、エストは軽い頭痛を覚えた。

……放っておこう。

そう心に決めて視線を逸らした瞬間、紫の巻き毛の人物が視界に入った。

2007/02/12 17:41 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
探し求める者たちの軌跡5「つまらない男」/アイリス(とばり)
PC :ギゼー メデッタ サノレ アイリス エスト
NPC:研究者
場所 :ソフィニア市街・レストラン


-- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --


 何故ここまでしなきゃならないんだ、と男は神妙な顔つきのまま思った。
 目の前の席には、デザートまで運ばれきったセットメニューがずらりと並ん
でいた。鴨をまるまるローストにして仕上げたそれらは、男でも食べきるには
少々骨が折れそうな量である。しかし今、向かい合って食事をしているのは、
どう見ても女性なのであった。
 象牙色の肌に包まれた輪郭を覆うのは、紫色の細い巻き毛。黒いコートの下
はやはり黒で、無駄のない四肢を強調するようなタイトスカートだ。華奢に見
えるその体のどこへそんなに入るのか、彼女は前菜からメインディッシュま
で、まったく速度を落とさずに手を動かし続けている。
 遠慮も何もない食べっぷりなのは、男の奢りだからに違いない。この店で一
番値の張るものを頼まれて悲鳴を上げかけた時、にっこりと微笑まれて―――
凄まれて?―――何も言えなくなった男は、ふるふると首を振った。
 仕方がないのだ。これもすべては研究のため、そう信じることにしよう。男
は1人で頷く。
 食事の誘いをかけられたということは、少なくともこちらの話に興味がある
ということだ。うまく懐柔さえしてしまえば、こっちのものだろう。

「どうしたの、変な顔して」

 声をかけられ、顔を上げる。フォークを止めて女がこちらを見ていた。じっ
と視線を投げかける濃い灰色の瞳は、奥を覗こうとすればぎくりとするほど深
い。

「いや……どうすればあなたが僕の話に乗ってくださるかと、考えていたので
すよ」

 慣れた愛想笑いを浮かべて、試すように言ってみる。早く本題に入りたいと
いうのが本音であった。女は手早く口元を拭い、弓のようにきつく描かれた眉
をちょっと上げてみせた。

「要するに、あなたに雇われてみないか、っていう話?」

 道端でずいぶんしつこく、回りくどーく説明してくれたけど、とつけくわえ
る。皮肉っぽい笑みにあてられ、男は頬を引きつらせないよう、笑う口元に余
分な力を入れた。
 ―――回りくどい? そりゃあそうさ。人を丸め込むのに、直球勝負に出る
奴はいない。
 男は気を取り直して、女が頼んだものとは違う安物のワインを1口含んだ。

「わかっていただけたのなら、話は早い。あなたも見たでしょう? あの、人
が消える魔方陣を―――」

 街で少女が、消えた。
 事実、少数ではあるが目撃証言の残る、不可思議な出来事だ。
 あの出来事を見て、男はこれだと思った。そして自分の隣で、焼け焦げたよ
うな魔方陣を妙に熱心に見つめる、見知らぬ女を目に留めたとき、きっといけ
る、とも思った。
 徹夜明けで、疲れた頭が見せる夢想だとは、考えもしなかったが。

「なんでもあなたは、Bランクの冒険者だっていう話じゃないですか」

「あら、どうして?」

「ギルドから出てくる所、あの騒ぎの前に見たんですよ。そこで聞いたんです
……あなたのような美人、目立ちますから」

 女の造作は正直、さほど男の好みをくすぐるものではなかったのだが。とに
かく、紫の巻き毛と黒い衣装が目立つのは事実だ。
 しかし予想に反して、女はどこか嫌そうな顔をした。まさか思ったことが顔
に出ていたかと焦ったが、瞬きの間に、目の前の表情は何事もなかったかのよ
うに、さっきまでの取り澄ましたものに戻っていた。

「それはどうも。それで?」

「ですから、どうか僕と一緒に、謎を突き止めてほしいんですよ」

 男はできるかぎり必死の顔をつくって(事実必死だったが)、女の様子を
窺った。かなりの腕利きと聞いている。これでうまくすれば―――。

「確かに私は、外であの光景を見たけど……それとこれとは関係ないんじゃな
い? ―――あなた、魔法学研究者、とかって言ってたわね。気になるなら、
ご自分で捜査なさいな」

「いや、それは……」

 食い繋ぐために研究所に入ったけど、実際に危険な目に逢いたくない。でも
成果が上がらなければ今度こそ追いだされる―――などと、本当のことがまさ
か言えるわけがなかった。
 口ごもる男に、女は容赦をしなかった。
 
「ギルドも通してなければ、筋も通ってない。第一、報酬は?」

「―――この謎を解明して発表すれば、充分なお返しができます!」

「そんな不確かな口約束じゃ、私はおつきあいできないわ。詐欺師のまねごと
は、研究者さんにはちょっと難しかったみたいね。どうも、ごちそうさま」

 あっさりと切り捨てて、立ち上がろうとする。詐欺師とまで言われて(あま
り否定もできない自覚はあったが)怒る間もない動作に、男は慌ててテーブル
越しにその腕を掴んだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 少々きつめの女の目許が、さらに吊り上がる。ぎょっとするほど鋭い光がよ
ぎったかに見えたが―――

「てめぇ、なにさらしとんじゃあ!!」

 豪快に食器がぶちまけられた音、そして続く怒声に、思わずそっちの方向を
向いてしまった。
 どうやらウエイトレスが、転んで客を怒らせてしまったらしい。数人が立ち
上がって何やら話をしているのを、うっかり空気に呑まれて見つめてしまって
から、男ははっと我に返った。

 掴んでいたはずの腕がない。振り向けば、紫色の巻き毛をなびかせながら歩
き去っていく、黒いコートの背中が遠くなっていた。










 最近、めっきりとつまらない。
 今の男もそうだ。人が消えた後にのこされた魔方陣、それそのものには確か
に面白そうな予感はある。しかし絡まれてつらつらと話をされているうちに、
その興味もなんだか醒めてしまった。
 首尾よく腹も満たしたことだし、さっさとこの街を出ようか? 赤く塗った
唇をゆるめ、「女」はヒールのかかとを鳴らしもせずに、真っ直ぐ出口へと向
かった。 
 ―――しかしそこでは、まだちょっとした騒ぎの余韻が残っていた。
 黒いマントをつけた長身の男、金と黒に別れた髪をした少女。ウエイトレス
の手を握りしめて何やら力説する栗色の髪の男に、褐色の肌の少年とも呼べそ
うな若者―――
 まとめて見ると目立つその組合わせに、なんとなく足を止めた。たまたまこ
ちらに向けたらしい、褐色の肌の中の鋭く青い目と視線が合ったからでもあっ
た。
 騒ぎからは蚊帳の外にいたが、大体の事情は静まり返ってしまった周囲のお
かげで、わかっていた。彼が上手いこと丸く収めたのだろう。立ち姿を見るか
ぎり腕も立つだろうに、あえてそちらを誇示せず公平に立ち回ったようだ。た
だ面倒だったのか、それとも性格か、どちらかはわからないが。
 そんなことを考えながらじっと見ていると、さすがに不審に思ったのか、彼
は小さく眉根を寄せた。怪訝さの色濃く滲む声で、低く、しかしきっぱりとし
た声で言う。

「誰だ、あんた」
 
 訊ねられたら、答えなくてはならないだろう。今度ははっきりと微笑んだ。
何だか楽しいことが起きそうだ。それは直感であり、予感だった。

「アイリッシュ・ミスト」

 長いからアイリスね、とつけ加えるのも、忘れなかった。


2007/02/12 17:42 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
捜し求める者たちの軌跡6「消えた少女の捜索依頼」/ギゼー(葉月瞬)
PC :ギゼー メデッタ サノレ アイリス エスト
NPC:ニーニャの母親テレゼア・パルヒャー
場所 :ソフィニア市街・レストラン~ギルド
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 アイリッシュ・ミストと名乗った女性は、妖艶なほど美麗だった。
 だが、どこか違う雰囲気を醸し出していた。女性――というには余りにも完
璧すぎた。完璧すぎる女性など、この世には存在しない。だからこそ、ギゼー
は名乗られたとき即座に反応を示さなかったのだ。それに何故か、何処と無く
女性の色香を感じられなかったのだ。
 アイリスは名前を名乗っただけで、そのままある一点を見詰めて目を瞠っ
た。そして優雅に微笑むと、メデッタから目を離さずに言った。

「あら奇遇ね。こんなところで漆黒の竜神と出会うなんて。私も冒険者なの
よ。よろしくね」

 そして一つウィンクして見せると、微笑を残しながら店を出た。
 一方メデッタの方はというと、アイリスから目を離さずにずっと彼女の言葉
に耳を傾けていた。一言一句逃さぬように聞き入れているかのように。アイリ
スに興味があるようにも見えたし、然して興味を示していないようにも見え
た。


     ***


 気が付いたら黒い肌の目つきの悪い青年も居なくなっていた。恐らく店を出
て行ったのだろう。彼が何処で何をしていようと、今のギゼー達には関係のな
い話であった。
 ギゼー達は最初に席を取った卓に再び腰を落ち着けると、いつの間にか運ば
れていた料理を目の前にして顔を突き合わせて相談事に集中する事にした。

「さっきの、消えた少女の事、どう思う?」

 ギゼーが早速、口を開く。付いて出た言葉は至極もっともな疑問だった。そ
の疑問に答えるように何度か頷いて言葉を綴るメデッタ。

「ああ。明らかに先程の現象は異常だった」
「見るからに不自然だったーよ」

 サノレも鳥の腿肉を口に頬張りながら賛同する。

「だな。母親らしき人も必死になってたし」
「君は女性が絡むと、直ぐに興味を示すな」

 二人はスパゲティを軽く口に運びながらも、会話を続ける。
 ニーニャの母親は美しかった。絶世のとまではいかないまでも見目麗しく、
ギゼーの頬を染めるには十分だった。ギゼーは何故かそのニーニャの母親が気
になっていた。

「とりあえず、ギルドに行けば何か情報がつかめるかもしれない。よし! 
俺、ギルドに登録する! 冒険者になる!」

 ギゼーが拳を握り締めて決意を表すと、メデッタが半目であきれがちに問い
質した。

「まさかとは思うが、あんな美女の依頼を受けられるなら一にも二にも無く冒
険者への道を歩む、とか言う気じゃ……」

 ギゼーは親指を立ててそれに答えた。
 メデッタは米神を押さえて苦悩の表情を浮かべた。
 サノレは、そんな二人を交互に見詰めながら皿にあった鳥の唐揚げを平らげ
ていた。


     ***


 ギルドは例の如く賑わっていた。
 そこにはあの紫色の髪の女性も、色黒の目つきの悪い青年も居た。そして、
何故か先程消えた少女の母親と思しき女性もいた。ニーニャと少女の名前を連
呼していたあの、女性である。見目麗しいその姿は、途端にギゼーの目を奪っ
た。
 彼女を観察していたら、彼女が何故このギルド斡旋所に来たのか、その理由
が解った。彼女は、依頼を申し込みに来たのだ。ニーニャを失った悲しみを乗
り越えて、ニーニャを捜索する依頼をするためにここに来たのだ。
 途端にギゼーの両の目は光った。何に燃えているのかは想像に難くない。彼
は、ニーニャの母親を助けるべく行動に移した。即ち、冒険者ギルドの登録と
いう行動に。

「あのう。ここで冒険者ギルドに登録出来るって聞いてきたのですが……」

 語尾は何故か臆病だった。

「ん? ああ。冒険者希望者ね。……これと、これに必要事項を記入して。
あ、それと、既にハンターになってる人の紹介も必要なんだけど…………君の
場合、大丈夫みたいだね」

 応対に応じたギルド員の青年は、ちらりとギゼーの後ろに居る漆黒の竜神に
目を走らせると、そのまま下を向いてしまった。ギゼーは用紙を何枚か受け取
るとその紙に記入するべくペンを取った。奇しくもニーニャの母親と同じ姿勢
で、同じようにギルドの用紙に記入する事になったギゼー。至福のひと時に身
を振るわせるギゼーであった。



「ちょっと待ってて下さいね」

 そう言ってギゼーが書いた書類を持って奥へと引っ込んだ受付係の青年。
 暫く経って、奥から彼の青年が出てきた。手には何やらカードらしきものを
持っている。材質は不明。キラキラ輝いているようにも見えるし、まるでただ
の紙の様にも見える。書かれている内容は、ハンターの氏名、年齢、ギルドラ
ンクや血液型まで書いてある。

「これが彼の有名な、ギルドカードか……」

 をのカードを手にしたギゼーは、感慨深げに翳してみたり眺め見たりしてい
た。

「一年後に更新に来てくれ。更新だけなら各地にあるギルド支部でも行ってい
るよ」

 そうこうしている内に、ギルドに新たな依頼書が貼り出された。
 内容は以下の如くである。

***********************************

依頼人:テレゼア・パルヒャー

依頼内容:ニーニャ・パルヒャーを探してください。
     ニーニャは今日、街角で突然消えました。
     近くには魔方陣のような紋様が残っていました。
     どうか、ニーニャを、ウチの娘を探してください。

報酬:銅貨500枚

***********************************

 ギゼーはその依頼に、一も二も無く飛びついた。


2007/02/12 17:42 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡
捜し求める者たちの軌跡6 「歯車」/サノレ(ちあきゆーか)
PC ギゼー メデッタ アイリス エスト サノレ
場所 ソフィニア表通り・裏通り
NPC 小男
--------------------------------------------


時は夕刻、ソフィニアギルド前の大通り。

「さて、と」

無事に初仕事を請け負い、ギゼーはひと息つく。
力不足だとギルドに断られるのではないかと。
そうでなくとも、依頼人は新米に任せてくれるだろうかと。
申請をしてから職員が奥から戻ってくるまでの間、そんな不安ばかり頭を掠めていた
のだった。
ところが、意に反して、職員は相変わらず事務的な態度で判をつき、簡素な応接室で
会ったニーニャの母親も「お願いします」を繰り返すだけで、彼の素性やランクにつ
いては一切触れなかった。
そう、こうなれば後は。

「とっとと娘を見つけるだけさ!そしてあの人は俺に感謝するっ!!」

握りしめた拳を、天に向かって突き上げるギゼー。
通行人がちらちらと見ているが、彼はちっとも意に介していない。
どうやら、声になっていることにまったく気付いていないらしい。

「しかし、ギゼー君」

それまで沈黙を保っていたメデッタが、唐突に口を開いた。

「何か忘れてはいないかね」
「何か、って?」
「そこにいるお嬢さんのことだ。成り行き上連れて来たが、我々の仕事に巻き込むわ
けにもゆかぬだろう」

メデッタの言うことも道理であった。
ギゼーとメデッタはこれまでパーティを組んできた間柄であり、互いに冒険者である
から、何の問題もないが、サノレはさっき偶然知り合ったばかりで、しかも冒険者で
もない。
このまま彼女を同行させれば、幾度となく危険な目にさらすことになるだろう。
しかし、当のサノレはというと、ギゼーのギルド入りを我がことのように喜んだこと
といい、レストランでの食べっぷりといい、既にパーティの一員であると思っている
ように見受けられた。

「お嬢さん」
「なーに?」
「ここから先は我々の仕事だが、お嬢さんはどうするかね?」

サノレは意味がわからないといった風にメデッタを見た。
そして、当然だと言わんばかりに答えた。

「どうって、ニーニャ探すに決まってるーよ」

一呼吸おいて、メデッタは低い笑いを漏らした。
ギゼーもそれに同調するように笑い出す。
何がおかしいのーよ、とサノレは唇を尖らせる。

「いや、なんでもない…よろしく頼む、サノレ嬢」
「もっちろーん!」
「よろしくな!」
「お礼は山分けーね」
「…………」
「あっはは、冗談ーよ!」

苦虫を噛み潰したような顔をするギゼーの肩をばしばし叩きながら、サノレは声をあ
げて笑った。

「なんでメデッタさんだけ…」
「でもね、あたしギゼーも嫌いじゃないのーよ?15年後が楽しみだーわ」
「15年……」

そんな三人を、向かいの建物から鋭い眼が覗いていた。


そのころ、裏通りでは。

「あら、失礼」

ふらつく足取りで向かってくる小男を、アイリスは優雅な動きでかわす。
しかし、男は急に向き直ると、アイリスの腕を掴んでものすごい力で引き寄せた。
不意を衝かれ、アイリスの両腕は自由を奪われてしまう。

「あら、積極的なのね」
「こそこそ嗅ぎ回っているのはお前か?」

生臭い吐息が耳元で囁く。

「…何のことかしらね」
「とぼけるな」

後ろから掴まれた腕にさらに力がこめられ、骨が軋む。
貧弱な小男のくせに、どこにこんな力が潜んでいるのか。
アイリスは声をあげないように歯を食いしばっていたが、耐えかねたように、艶かし
くも聞こえる吐息を漏らした。

「さっき会っていた奴と、何を話していたんだ」

それはあのつまらない男か、漆黒の竜神か、銀髪のエストなのか、それとも。

「さぁ、何だったかしらね…」

ほぼ無関係に近い自分にまでこんな応対をするとは、よほど知られたくない秘密なの
だろう。
いずれにせよ、面白いことになってきた。

「…ねぇ、あなたの御主人様に会わせてくれない?きっとお役に立てると思うわ」
腕の痛みに眉をしかめながらも口元には妖艶な微笑をたたえ、アイリスは男を誘い込
む。
「本気か…?」

男の束縛がゆるむ。
その一瞬を見逃さず、アイリスは男の手を振り払った。

「嘘だと思うならいいわ」

男より頭ひとつ分背の高いアイリスは、男を見おろすように言った。
その雰囲気に呑まれてか、男は頷いた。

「…よかろう」

それを聞き、アイリスの濡れた唇が笑みを形作る。
そして、男の顎をとらえて顔を近づけると、低い声で囁いた。

「私を満足させてくれる?」



2007/02/12 17:43 | Comments(0) | TrackBack() | ▲捜し求める者達の軌跡

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