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2024/11/16 12:35 |
33.アロエ&オーシン「対策」/アロエ(果南)
PC アロエ オーシン
場所 イノス北西墓地
NPC マルチ ウォン=リー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 墓石の下から現れた、鬱屈とした暗闇の中に続く階段。
 
 大切なナカマ…オーシンを助けに行くためとはいえ、墓の中に入るというこ
とのは気分が良いものではない…というか気味が悪い。

 頭上には相変わらず鉛色の空が広がりカラスが鳴いている。

 天使であること云々…を抜きにしても、正直そこから一歩踏み出し階段を進
むのには、アロエにとっても勇気がいる。
 しかし、これもオーシンを助けるため、そしてあの男と決着をつけるた
め…。ぶるぶるっと大きく身震いすると、アロエは「うーし、行くぞっ!」と
気合の掛け声と共に、階段を下り始めようとした。

 が。

「ちょいまち」

 いざ気合を入れて下りようとしたところをマルチにわしっと襟袖を掴まれ引
き戻された。

「あー!!なんだよっ!今せっかく気合入れて下りようとしてたってのによ
ぉ!」

「せっかくの勇気を台無しにして悪かったな。武器も持たずに敵陣に乗り込ん
でいく、無鉄砲なオマエのため、オレ様がちょっとした対策を練っておいたか
ら聞け」

 もちろん、マルチの「悪かったな」に続く一連のセリフには、一欠けらも謝
罪のニュアンスが含まれていない。しかも相変わらずの高圧的な態度。

「あー?あんだよぉ、対策だぁ?」

 せっかくの覚悟を邪魔され、あきらかに不機嫌なアロエをマルチは「まあ、
話聞くだけならタダだろ?聞けよ」といなし、話し始めた。

「いいか、いくらバカなオマエも、あきらかにあの男のほうがオマエより強い
のは解るな?」

「まぁ…」

 アロエがしゅん、と俯く。悔しいが、あの時、あの男と対峙しアロエもそれ
は痛いほど痛感している。

「だろ?だからよ、今はアイツを倒すことよりは、その…オーシンとかいう、
オマエの仲間を救出してここからとりあえずうまく逃げることを考えようぜ。
オマエ、オレの<能力>は解るだろ。だからそれを利用して…」

 それから二人はしばらく「対策」を話し合った後、了解、とお互いに強く頷
き合い、そして二人は地下への階段を一歩一歩進んでいった――。


 ***


 階段を下りた先は薄暗い廊下だった。
 ところどころに生えているコケのような植物が青白く発光しており、それが
この廊下の唯一の光であり、ランプの役割を果たしているようだった。それが
なければこの場所は完全な闇と化しているだろう。
 光の届かない澱んだ闇から、時折、何か動物が奇声を発してるかのような声
が聴こえるのは気のせいだろうか…。
 今一人でこの廊下を進んでいるアロエの背中にぶるぶるっと悪寒が走る。
「…しかし、わざわざこんな所にアイツは住んでんのか?相当な神経だな、お
い」
 恐怖を紛らわせるため、そう一人呟いた言葉も闇に消える。
 そのことにもう一度アロエは身を震わせた。
「うぇ…、早く出てぇよ、こんなトコ…」

 その時、ピクン、とアロエの耳が敏感に反応した。
 暗闇の奥から、一つの足音が聞こえたのだ。


 カツン カツン


 自分の前に確実に近づいてい来るその固い足音は、固い靴を履いている者の
発する足音である。そう、たとえば黒い革靴のような…。
 そして、そんな靴を履いていそうな人物は唯一人。

(来たか…)

 ごくん、とアロエは生唾を飲みこむ。予想通り、目の前の漆黒の闇から、ま
るで闇を纏ってきたかのように、黒服の男が現れた。

 ウォンはアロエを見ると、ふわっと、笑みを浮かべる。

「やあ、キミなら必ず来ると思ったよ。アロエ」


***


 コンコン。

 自分の部屋の扉を叩く音に、オーシンはゆっくりとドアの方を見た。
 オーシンがぼんやりと(誰だろう…?)と考えていると、続いて小さな声
で、

「…おい、オーシン。いるか?」
「…アロエ?」

 オーシンは急いでドアに近づいた。今、確かにドアの向こうからアロエの声
が聞こえた。確かめるようにオーシンはもう一度名前を呼んでみる。

「アロエ?」

「やっぱりか!そこにいるんだな!オーシン!」

 ドアの向こうで、アロエが嬉しそうな声をあげる。

「やった、やっと見つけたぜ、オーシン!」

「どうしてここに…」

「説明は後だ、急がねぇと…。今、アイツからもらったモンでココの鍵開ける
から待ってろ」

 そういうとアロエはゴソゴソと服のポケットを探り、ガムの包みを取り出し
た。
 中のピンク色をしたガムを急いで口に入れると、くちゃくちゃと二、三回噛
みそのガムを鍵穴に押し込む。
 少し経ってそのガムを回すと、ガチャン、という音がして鍵が開いた。
 そう、このガムはアロエが自称「サイバーテロリスト」を名乗る弟、マルチ
に渡された、「鍵ガム」である。
 マルチ曰く、このガムを鍵穴に押し込んでしばらく待つと、ガムが鍵の形に
変化して大抵の鍵ならコレで開けられる、らしい。

 アロエがドアを開けると、そこにはオーシンが黒い詰襟のドレスを着て立っ
ていた。
 オーシンの無事な姿を見て、ぱあっと顔を輝かせるアロエ。

「よかった…、ケガねぇか?アイツになんかされなかったか?」

「うん。あの…食事をもらった」

「へ?」

 オーシンの言葉に二人の間に妙な間が開く。

 しかしアロエは「そ、それはまあいいやっ」と急いで話の流れを切り替える
と、

「とにかく、急いでココ出ねぇと!アイツが今頃キケンかもしれねぇ…!」

「アイツ?」

「マルチ…、おれの弟だよ。おれとアイツ、入り口で二手に分かれたんだ…。
先にオーシンを見つけた方がオーシンと脱出して、残りは脱出する方の時間を
かせぐおとりになる…って。おれにはよくわかんねぇけど、あの男、おれを気
に入ってるみたいだから、<アロエ>にはそう乱暴しないだろうってアイ
ツ…」

「でも…」

 オーシンが不思議そうに首をかしげる。

「アロエは…ここにいるのに…」

「ああ、おれが化け猫のハーフだって前に言わなかったっけか?おれは天使の
血が濃くてほとんど化けられねぇけど、アイツの血はほとんど化け猫と一緒だ
から、だからアイツはおれに化けられるんだ」

「え…」

「つまり、アイツは<おれ>として、今おとりになっているかもしれねぇって
ことだ」

 …そう、そしてアロエの予想通り、今マルチが<アロエ>としてウォンと対
峙している事をアロエはまだ知らない――。

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2007/02/12 16:45 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
34.アロエ&オーシン 「水泡」/オーシン(周防松)
PC アロエ オーシン
場所 イノス北西墓地
NPC (マルチ ウォン=リー)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「よし、ここから逃げるぞ」
アロエが、やや声を押さえて告げる。
辺りに注意を傾けているのだろう、ネコミミが絶えずぴくぴくと動いていた。
対するオーシンは、いつものぼけっとした表情のまま、こく、と頷く。
それから、部屋の中にてくてくと戻っていき、暖炉の前にかけておいた白いワンピー
スの布地を手でつかむ。
着替える前に着ていたものである。

……あらかた、乾いている。

オーシンは、そのことを確認すると、次の行動に出た。

「ってうわわわわ!!」
大慌てしたアロエが、奇妙な声を上げる。
無理もない。
オーシンが、いきなり服を脱ぎ始めたからである。
アロエの動揺などどこ吹く風といった具合で、隠すべき部分を隠そうともせず、もそ
もそと黒い詰襟の喪服を脱ぐと、白いワンピースの袖に腕を通す。
「オオオオオーシンッ、いきなり脱ぐなっ!」
着替えを済ませ、ワンピースのすそをはたいてめくれた部分を直すと、オーシンは
「?」という表情を返した。
その表情は、『男性』だとか『女性』だとか、そんな区別などまだ関係ない……意識
すらもしない年頃の子供を彷彿とさせるものだった。
(……ま、まあ、女どうしだから、な)
アロエは、それ以上深く考えないことにした。
オーシンの性別は見た目だけのものに過ぎないと知っていたら、別の反応もあったか
もしれないが。

さて、オーシンは元の白いワンピース姿に戻ると、借り物である黒い詰襟の喪服をク
ローゼットにしまいこみ、アロエの元へと戻ってきた。

脱出開始、である。

辺りに注意を傾けながら、薄暗い廊下を突っ走る。
やや先頭を行くのはアロエである。
オーシンは途中からしか意識がないため、出口に続く道を知っているのはアロエだけ
なのである。

「マルチとは、後で落ち合う約束をしてンだ」
走りながら、アロエが説明をする。
「おれ達が入り口まで逃げたところで、合図を出して……」

「駄目」

オーシンの声が、アロエの説明を遮る。
思わず振り返ると、オーシンはすでに立ち止まっていた。
「どうした? 足、痛いのか?」
ふるる、とオーシンは首を横に振る。
「……カラを、治す方法…まだ教えてもらってない……」
ぽつん、と呟かれた言葉が、薄暗い空気の中に溶けていく。
「カヤのことは、絶対何とかする! 絶対助ける! でも、今は……今は……」
そこから先は言いづらいのだろう、アロエの言葉はしだいに弱くなっていった。
オーシンは、ぶんぶんと首を横に振る。
まさしく、「やだ」と言い張る幼い子供のそれである。
「……カラ、かわいそう」
薄暗い中にぼんやりと浮かぶ白い色彩が、ふわりと揺れる。

タンッ。

足音が生じる。

タッタッタッタッ……。

それは、廊下の中で反響しながら、しだいに遠ざかっていく。


「オーシンッ!!」

アロエが止める間もなく、オーシンは内部へと逆戻りして行った。

おそらくは、カヤを治す方法を求めて。



2007/02/12 16:45 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
35.アロエ&オーシン 「正義とは」/アロエ(果南)
PC アロエ オーシン
場所 イノス北西墓地
NPC (マルチ ウォン=リー)
___________________________________

「オーシンッ!!」
 薄暗い廊下の闇に白い服が吸い込まれるように小さくなっていく。
 遠ざかっていくオーシンを追いかけながら、アロエの金色の目には薄く涙が
滲んだ。

(ちくしょうッ!)

 悔しい。
 アロエの心が火傷のように痛んだ。
 本当に正しいのは誰か。今、アロエははっきりと悟った。
 …本当に正しいのは、今のオーシンの行動だ。

 オーシンは、どんな状況でも、どんな相手でも、カヤを思い、少しでもカヤ
を助けられる方向に動こうとしていた。
 なのに、自分は…、オーシンを助けることで精一杯で、ウォンという男の力
を恐れて、正しい行動を取れなかった。まっすぐに自分の正義のために動けな
かった。

 少しでも惑ってしまった自分が悔しい。
 少しでも弱気になった自分が悔しい。

 そんな自分をアロエは痛いほど悔いていた。

(ごめん、オーシン!カヤっ!おれ、もう、逃げねぇからっっ!!)

 オーシンの姿が闇の中に消えた。
 オーシンが廊下の角を曲がってしまったからだ。

(やべぇ!)

 息を切らして同じ角を曲がったアロエだが、そこにはもうオーシンの姿はな
かった。

「オーシンっ!!」

 廊下の隅から隅まで見渡してもオーシンの姿は無い。
 ふと目を移すと、廊下の壁には木製の、いかにも重そうな扉がついている。
先ほどオーシンが閉じ込められていた扉と同じ形のものだ。
 
 …もしかしたらオーシンはこの扉のどこかに入っていったのかもしれない。

 縋るような気持ちでアロエは扉を開けた。



 扉のドアノブに手を掛け、開け放つ。


 開け放ったドアのその向こうにオーシンはいた。

「オーシ…」
 
 嬉しそうに声をかけようとしたアロエの動作が止まった。
 

 その部屋は、本の山だった。
 壁の本棚は一番上が天井と同じ高さであり、その壁にはびっしりと分厚い本
が並んでいる。まるでこの部屋の壁がもともと本であったかのように。
 ふと足元を見ると、床にも本がごろごろと置いてある。それと何かのメモの
ような紙がいくつも落ちている。メモの文字は…走り書きのようなものなのに
もかかわらずなかなかの達筆だ。
 部屋の中央には机が置いてあり、そこには何かの書類と思われる大量の紙が
山積みになっている。

 その机の前でオーシンは身動きもせずじっと何かを凝視していた。

「何やってんだ…?オーシン?」

 アロエの呼びかけにもオーシンは答えない。
 アロエはオーシンの肩越しにオーシンが凝視しているものを覗いてみた。

 そこにあったモノは…人体から咲く真っ赤な花の絵が表紙の論文が一つ。そ
して、青空と海をバックに、オーシンがサラと写っている写真。
 その写真のオーシンは今までアロエが見たこともない満面の笑みで微笑んで
いて、その写真のサラは、今より少しシワが少ないように見えた―。


2007/02/12 16:46 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
36.アロエ&オーシン 「ややこしや」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オーシンは、写真立てをじっと見つめたまま、石像のように動かない。
アロエは、写真立ての中におさまっている方のオーシンと、今実際に隣に立つオーシ
ンとを交互に見て、そして首を傾げながらも口を開いた。
「これ、お前か?」
語尾に疑問符がついているのは、疑いようがないほど顔かたちが同一人物のものであ
りながら、たたえている雰囲気がまるで違うからだろう。
それまでじっと写真を凝視していたオーシンが、ようやく生き物らしい反応を見せ
た。
「ううん」
ゆっくりと首を横に振る。
あ、やっぱりなぁ、とアロエは思った。
どう考えてもサラのしわが少ない、というところが引っかかっていたのである。
そうあんると、可能性として考えられるのは、親族のうちの誰か、ということであ
る。
「じゃあ、お前の母ちゃんか?」
「ううん」
「じゃあ……姉ちゃん?」
「ううん」
「あ、妹か?」
「ううん」
「じゃあ、おばさんとか?」
「ううん」
アロエの質問に返される反応は全て、「ううん」と首をゆっくりと横に振る動作ばか
りである。
なんだか、人の話を真面目に聞いているのかすら疑ってしまうほど、それは画一的な
反応だった。
「お前……おれの話、聞いてるか?」
ためしに聞いてみると、
「うん」
これには、首を縦に振る反応が返って来た。
やはり動きはのろいのだが。
アロエは、頭を抱えた。
わからない。
まったくもってわからない。
写真立ての中にいる、オーシンと同じ顔かたちの人物とオーシンとを繋げる続柄がこ
とごとく否定されてしまったのだ。
その上、本人でもないという。

「じゃあ、こいつ誰なんだ?」
この状況で誰しもが抱くであろう疑問をぶつけてみると、オーシンは、すっ、と写真
立てを指差した。
そして、こう答えた。


「オーシン」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


ウォンと対峙しながら、マルチは撤退する準備のことを考えていた。
そろそろ、アロエが人質を救出したという合図が来そうな頃合なのである。
合図が出たなら、即座にこの場から撤退しなくてはならない。
そもそも、この男に勝てるというのならば、最初から『人質を連れて逃げる』などと
いう提案はしない。
だったら最初からこいつを倒して、人質を助けに行くところである。
むしろ、その方が簡単で手っ取り早いし、楽といえば楽だ。

「しかし、よくここがわかったものだ」

ウォンは、芝居がかった動作で、そっと片手を差し出した。
マルチは、ウォンをじっと睨みながら距離を置く。
はた目には、怯えと警戒との入り混じった表情でウォンの出方を探っているように見
えるところだろう。
「ふふ、私が怖いかね」
(まだか……!)
マルチは、ひたすら、『合図』を待っていた。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


「……は?」

たっぷりと間を置いてから、アロエが発したのは間抜けな声だった。
そんなアロエの反応を、ぼーっとした目で見つめ……オーシンは、聞こえなかったん
だ、という解釈をした。
だから、もう一度写真立てを指差して、
「いやそれはわかったから」
『オーシン』と教えようとしたところで、ひどく疲れたような表情のアロエに止めら
れた。

「あのな、お前。さっき、これ『自分じゃない』って言ってたよな?」
これ、と写真立てを示すアロエに、こく、とオーシンは頷く。
「で、こいつは?」
アロエは、写真立てにおさまっているほうのオーシンを、びし、と指差す。
オーシンは、きょとんとした表情でまばたきをした。
「オーシン」
「だあああからどうしてそうなるんだ!」
明かにイライラした様子でアロエが髪の毛をかきむしる。
なんとかこの情報を理解しようとして、失敗に終わっている。

「お前がオーシンで、こっちもオーシンか? 本人じゃねぇってのに? ただの同名
なのか?」
混乱しはじめたアロエをぼーっと見つめつつ、オーシンはこれまたぼーっと考えた。
『お前がオーシンで、こっちもオーシンか? 本人じゃねぇってのに?』という部分
である。
事実、なのである。
ここにいる自分にサラが与えた名前がオーシンならば、サラが亡くしたという娘の名
前もオーシンなのである。
そして自分は彼女ではないので、本人ではない。
しかし、同名であることは事実だ。
オーシンの考えは、そこで止まった。
彼女と、同じ姿をとった自分に与えられた名が同じであることに、いったいどんな意
味があるか……そこまでは思考が及ばない。
「うん」
あっさりと頷くオーシンに、アロエは『もはや理解不能』といわんばかりに固まっ
た。

「……ま、いいや……」

力なくアロエが呟くのを、オーシンは聞いた。
「で、こっちは何だろな」
写真立てにこだわるのをやめ、アロエが、人体から咲く真っ赤な花の絵が表紙の論文
を手に取る。
見ていて、あまり気分の良くない表紙である。
論文を持つアロエの手は、絵に触れない位置にあった。
「何か、手がかりになるモンはあるかな……」
真剣な眼差しで、アロエが表紙をめくる。
オーシンは、ぼーっとそれを覗いて見た。
……難しい専門用語などはさっぱりわからないが、どうやらそれは古代に封印された
という、例の植物を生育した観察記録が元になったようだ。
普通の植物と同じように生育した場合と、そして……本来の使用目的である、人体を
利用して生育した場合とが記録されているらしかった。



2007/02/12 16:46 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
37.アロエ&オーシン 「目玉のスウィート・ハニー」/アロエ(果南)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ―アロエが本を手に入れた同時刻。

 この墓地の別の場所では未だ密かな戦いが続けられていた。
 マルチと、ウォン=リーとの、である。

 今はアロエそっくりに「化けて」いるマルチは、アロエからの脱出の合図を
今か今かと待ちわびていた。
 …本当は今スグこんな場所から逃げ出したい。
 実力がまるで図れない相手と対峙するのはオレの精神衛生上よくないのによ
ぉ…。
 マルチは心の中で一人ごちる。

 マルチは猪突猛進、無鉄砲で彼曰く「計画性ゼロの大馬鹿」姉アロエとは対
照的に、誰かと戦う際、まず相手の情報をじっくりリサーチしてから、隙を見
て相手の弱点を突いて戦う、というタイプだ。
 ましてやマルチは「海猫亭」で相手の強さを一度目の当たりにしている。

 ヤツは目の前で人間を二人飛ばし、自身も魔方陣でワープした。
 こんな化け物じみた魔力を持つ相手にどう考えても敵うはずが無い。

「ふふ、私が怖いかね」

 薄笑いを浮かべながら黒い影のようなヤツが迫ってくる。
 マルチは恐怖からぴんっと尻尾を立て、じりじりと足を引いた。

 マルチは今ははっきりと、自分の額から冷や汗がだらだら流れている感覚が
解る。
 化け猫の血が多く流れているマルチは、たかが驚かされたぐらいで猫化して
しまうアロエほどはカンタンに変身は解けない。が、極度の緊張状態が続け
ば、猫には戻らずとも、自分の変化が切れてしまう可能性はあった。
 自分はもうダメかもしれない、変化が解けてしまうかもしれない…。

 アロエ…!!
 心の中でマルチがアロエを呼んだその時、

 いきなりウォンの目の前ににゅっ、と長い植物の蔓(つる)が伸びてきた。

(何だ?)

 マルチが不審に思っている間にもっと驚くべき出来事が起こった。
 なんとその蔓の先が二股に分かれ一方からは「目」が、もう一方からは
「口」がポンっ、というかわいらしい音とともに「生えて」きたのだ。

 しかし、生えてきた「目」と「口」は人間のそれとソックリで妙に生々し
く、気持ち悪い。その口がウォンに向かって喉に痰が絡んでいるような声で喋
り掛けた。

『盗…られた…ァ…ア……ッ。ほ…、本…ぉぉゥゥっ!!ぐふぁああああ』

 後の声は悲鳴のようなうめき声になって聞き取れなかった。が、ウォンは心
得たかのように頷くと、その言葉だけで全てを理解したようだ。
「解った、有難う」と言ってウォンがその気持ち悪い目玉を優しく撫でると、
目玉は嬉しそう(?)にぎょろっと白目をむいて、口からハァハァと息を漏ら
した。

 目の前で見ているマルチとしては、できることなら見たくも無い気持ち悪い
光景だ。

「…ああ。こいつは<悪魔の森>の改良品種だよ」

 マルチに顔も向けず、目玉を撫で続けながらウォンが言う。

「元々は森全体に取り付いて、入った人間を片っ端から喰らう魔物でね。大雑
把に説明すると、植物にヤツの子供が取り付き、長い年月をかけてじわじわと
全ての植物を支配するんだ。こいつの生態系には謎が多くてね。私としても実
に興味深い研究対象だよ。…ま、最も今はちょっと構造を弄ったやつを、ココ
の監視役として使わせてもらっているが」

 <悪魔の森>、マルチが初めて聞く名前だ。森を取り込み人を喰らう魔物…
そんなものを「弄って」監視役にしているこの男に、マルチは更なる嫌悪感を
覚えた。
 そして何より不吉なのが、目の前の気持ち悪い植物が発した言葉。

(盗られた…、本…?)

 アロエだ…!
 直感的にマルチはそう思った。
 無計画なアイツのことだ。逃げる時にきっと何かやらかしたに決まって
る…!思わず唇をかみ締めるマルチ。
 と、事も無げにウォンがマルチに言った。

「…そう悔しそうな顔をするな。じき本物がここに来るらしい」

「んな…っ!!」

 驚きのあまりマルチは大きく目を見開くと、呻くように言葉を吐き出した。

「…最初…から、知って…」

「勿論。キミとあの子じゃ、確かに似ているが、感じるものが違う。キミの方
が、魔物の血が濃いだろう」

 ショックでマルチの頭の中が真っ白になった。
 自分とアロエの「血」の秘密は誰にも明かしてはいけない絶対の秘密なの
だ。
 それを一目でこの男に見抜かれてしまった。

「オマエは…何だ…?」
「ん?」

 自分とアロエの秘密を一目で見破った。
 それに常人には無いあの魔力。
 マルチの中で燻っていたギモンが確信に変わった。

「…たぶん、オマエ、人間じゃない、だろう?」
「答えはあの子が来たら教えてあげよう。…ほら、3、2、1」

 ウォンのカウントダウンは恐ろしく正確だった。
 1、という声とともにアロエが目の前の角から飛び出したのだ。

「…アロエっ!!」

* * * * * * * * * * * * * * * * * *         

 確かに来た時と同じルートで戻ったはずなのに。
 なのに、鉢合わせてしまった。
 丁度マルチとあの男が対峙しているその現場に。

 その光景を目にして、思わず立ち止まるアロエ。
 が、そのアロエの背中に、後ろから走ってきて止まりきれなかったオーシン
が「ごんっ」と体当たりしてきた。

「あだっ!」

 よろめいて、完全にウォンの視界に入る場所に出てきてしまったアロエ。
 その後ろを、よろよろとオーシンが出て来た。

「だいじょうぶ…?アロエ?」
「うわっ!お前まで出てくんなよ!つーか、押すなよ!完全に見つかっちまっ
たじゃねぇかっ!」
「ごめ…ん…」

「…んっ!!」
 茶番は終わりだ、というようにウォンが大きく咳払いをする。
 その音で二人ははっ、とウォンのほうを見た。
 目の前にはウォン、と奇妙な植物。そしてアロエと瓜二つの姿をしたマル
チ。

 アロエの尻尾がびん、と立ち、体から滝のような冷や汗が出る。
 一方オーシンは、ぼーっとした目で何かを見つめている。
 どうやら、ウォンの隣の植物が気になっているようだ。植物の方もウォンが
アロエたちのほうを向いたと同時にぎょろっと目玉をこちらに向け、大きな瞳
でじいーっとこちらを見ている。心なしかオーシンに興味があるように見えな
くもない。

 ここへきて、事態はどうやら最悪の状態になりつつあった―。

2007/02/12 16:47 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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