PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―アロエが本を手に入れた同時刻。
この墓地の別の場所では未だ密かな戦いが続けられていた。
マルチと、ウォン=リーとの、である。
今はアロエそっくりに「化けて」いるマルチは、アロエからの脱出の合図を
今か今かと待ちわびていた。
…本当は今スグこんな場所から逃げ出したい。
実力がまるで図れない相手と対峙するのはオレの精神衛生上よくないのによ
ぉ…。
マルチは心の中で一人ごちる。
マルチは猪突猛進、無鉄砲で彼曰く「計画性ゼロの大馬鹿」姉アロエとは対
照的に、誰かと戦う際、まず相手の情報をじっくりリサーチしてから、隙を見
て相手の弱点を突いて戦う、というタイプだ。
ましてやマルチは「海猫亭」で相手の強さを一度目の当たりにしている。
ヤツは目の前で人間を二人飛ばし、自身も魔方陣でワープした。
こんな化け物じみた魔力を持つ相手にどう考えても敵うはずが無い。
「ふふ、私が怖いかね」
薄笑いを浮かべながら黒い影のようなヤツが迫ってくる。
マルチは恐怖からぴんっと尻尾を立て、じりじりと足を引いた。
マルチは今ははっきりと、自分の額から冷や汗がだらだら流れている感覚が
解る。
化け猫の血が多く流れているマルチは、たかが驚かされたぐらいで猫化して
しまうアロエほどはカンタンに変身は解けない。が、極度の緊張状態が続け
ば、猫には戻らずとも、自分の変化が切れてしまう可能性はあった。
自分はもうダメかもしれない、変化が解けてしまうかもしれない…。
アロエ…!!
心の中でマルチがアロエを呼んだその時、
いきなりウォンの目の前ににゅっ、と長い植物の蔓(つる)が伸びてきた。
(何だ?)
マルチが不審に思っている間にもっと驚くべき出来事が起こった。
なんとその蔓の先が二股に分かれ一方からは「目」が、もう一方からは
「口」がポンっ、というかわいらしい音とともに「生えて」きたのだ。
しかし、生えてきた「目」と「口」は人間のそれとソックリで妙に生々し
く、気持ち悪い。その口がウォンに向かって喉に痰が絡んでいるような声で喋
り掛けた。
『盗…られた…ァ…ア……ッ。ほ…、本…ぉぉゥゥっ!!ぐふぁああああ』
後の声は悲鳴のようなうめき声になって聞き取れなかった。が、ウォンは心
得たかのように頷くと、その言葉だけで全てを理解したようだ。
「解った、有難う」と言ってウォンがその気持ち悪い目玉を優しく撫でると、
目玉は嬉しそう(?)にぎょろっと白目をむいて、口からハァハァと息を漏ら
した。
目の前で見ているマルチとしては、できることなら見たくも無い気持ち悪い
光景だ。
「…ああ。こいつは<悪魔の森>の改良品種だよ」
マルチに顔も向けず、目玉を撫で続けながらウォンが言う。
「元々は森全体に取り付いて、入った人間を片っ端から喰らう魔物でね。大雑
把に説明すると、植物にヤツの子供が取り付き、長い年月をかけてじわじわと
全ての植物を支配するんだ。こいつの生態系には謎が多くてね。私としても実
に興味深い研究対象だよ。…ま、最も今はちょっと構造を弄ったやつを、ココ
の監視役として使わせてもらっているが」
<悪魔の森>、マルチが初めて聞く名前だ。森を取り込み人を喰らう魔物…
そんなものを「弄って」監視役にしているこの男に、マルチは更なる嫌悪感を
覚えた。
そして何より不吉なのが、目の前の気持ち悪い植物が発した言葉。
(盗られた…、本…?)
アロエだ…!
直感的にマルチはそう思った。
無計画なアイツのことだ。逃げる時にきっと何かやらかしたに決まって
る…!思わず唇をかみ締めるマルチ。
と、事も無げにウォンがマルチに言った。
「…そう悔しそうな顔をするな。じき本物がここに来るらしい」
「んな…っ!!」
驚きのあまりマルチは大きく目を見開くと、呻くように言葉を吐き出した。
「…最初…から、知って…」
「勿論。キミとあの子じゃ、確かに似ているが、感じるものが違う。キミの方
が、魔物の血が濃いだろう」
ショックでマルチの頭の中が真っ白になった。
自分とアロエの「血」の秘密は誰にも明かしてはいけない絶対の秘密なの
だ。
それを一目でこの男に見抜かれてしまった。
「オマエは…何だ…?」
「ん?」
自分とアロエの秘密を一目で見破った。
それに常人には無いあの魔力。
マルチの中で燻っていたギモンが確信に変わった。
「…たぶん、オマエ、人間じゃない、だろう?」
「答えはあの子が来たら教えてあげよう。…ほら、3、2、1」
ウォンのカウントダウンは恐ろしく正確だった。
1、という声とともにアロエが目の前の角から飛び出したのだ。
「…アロエっ!!」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
確かに来た時と同じルートで戻ったはずなのに。
なのに、鉢合わせてしまった。
丁度マルチとあの男が対峙しているその現場に。
その光景を目にして、思わず立ち止まるアロエ。
が、そのアロエの背中に、後ろから走ってきて止まりきれなかったオーシン
が「ごんっ」と体当たりしてきた。
「あだっ!」
よろめいて、完全にウォンの視界に入る場所に出てきてしまったアロエ。
その後ろを、よろよろとオーシンが出て来た。
「だいじょうぶ…?アロエ?」
「うわっ!お前まで出てくんなよ!つーか、押すなよ!完全に見つかっちまっ
たじゃねぇかっ!」
「ごめ…ん…」
「…んっ!!」
茶番は終わりだ、というようにウォンが大きく咳払いをする。
その音で二人ははっ、とウォンのほうを見た。
目の前にはウォン、と奇妙な植物。そしてアロエと瓜二つの姿をしたマル
チ。
アロエの尻尾がびん、と立ち、体から滝のような冷や汗が出る。
一方オーシンは、ぼーっとした目で何かを見つめている。
どうやら、ウォンの隣の植物が気になっているようだ。植物の方もウォンが
アロエたちのほうを向いたと同時にぎょろっと目玉をこちらに向け、大きな瞳
でじいーっとこちらを見ている。心なしかオーシンに興味があるように見えな
くもない。
ここへきて、事態はどうやら最悪の状態になりつつあった―。
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー
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―アロエが本を手に入れた同時刻。
この墓地の別の場所では未だ密かな戦いが続けられていた。
マルチと、ウォン=リーとの、である。
今はアロエそっくりに「化けて」いるマルチは、アロエからの脱出の合図を
今か今かと待ちわびていた。
…本当は今スグこんな場所から逃げ出したい。
実力がまるで図れない相手と対峙するのはオレの精神衛生上よくないのによ
ぉ…。
マルチは心の中で一人ごちる。
マルチは猪突猛進、無鉄砲で彼曰く「計画性ゼロの大馬鹿」姉アロエとは対
照的に、誰かと戦う際、まず相手の情報をじっくりリサーチしてから、隙を見
て相手の弱点を突いて戦う、というタイプだ。
ましてやマルチは「海猫亭」で相手の強さを一度目の当たりにしている。
ヤツは目の前で人間を二人飛ばし、自身も魔方陣でワープした。
こんな化け物じみた魔力を持つ相手にどう考えても敵うはずが無い。
「ふふ、私が怖いかね」
薄笑いを浮かべながら黒い影のようなヤツが迫ってくる。
マルチは恐怖からぴんっと尻尾を立て、じりじりと足を引いた。
マルチは今ははっきりと、自分の額から冷や汗がだらだら流れている感覚が
解る。
化け猫の血が多く流れているマルチは、たかが驚かされたぐらいで猫化して
しまうアロエほどはカンタンに変身は解けない。が、極度の緊張状態が続け
ば、猫には戻らずとも、自分の変化が切れてしまう可能性はあった。
自分はもうダメかもしれない、変化が解けてしまうかもしれない…。
アロエ…!!
心の中でマルチがアロエを呼んだその時、
いきなりウォンの目の前ににゅっ、と長い植物の蔓(つる)が伸びてきた。
(何だ?)
マルチが不審に思っている間にもっと驚くべき出来事が起こった。
なんとその蔓の先が二股に分かれ一方からは「目」が、もう一方からは
「口」がポンっ、というかわいらしい音とともに「生えて」きたのだ。
しかし、生えてきた「目」と「口」は人間のそれとソックリで妙に生々し
く、気持ち悪い。その口がウォンに向かって喉に痰が絡んでいるような声で喋
り掛けた。
『盗…られた…ァ…ア……ッ。ほ…、本…ぉぉゥゥっ!!ぐふぁああああ』
後の声は悲鳴のようなうめき声になって聞き取れなかった。が、ウォンは心
得たかのように頷くと、その言葉だけで全てを理解したようだ。
「解った、有難う」と言ってウォンがその気持ち悪い目玉を優しく撫でると、
目玉は嬉しそう(?)にぎょろっと白目をむいて、口からハァハァと息を漏ら
した。
目の前で見ているマルチとしては、できることなら見たくも無い気持ち悪い
光景だ。
「…ああ。こいつは<悪魔の森>の改良品種だよ」
マルチに顔も向けず、目玉を撫で続けながらウォンが言う。
「元々は森全体に取り付いて、入った人間を片っ端から喰らう魔物でね。大雑
把に説明すると、植物にヤツの子供が取り付き、長い年月をかけてじわじわと
全ての植物を支配するんだ。こいつの生態系には謎が多くてね。私としても実
に興味深い研究対象だよ。…ま、最も今はちょっと構造を弄ったやつを、ココ
の監視役として使わせてもらっているが」
<悪魔の森>、マルチが初めて聞く名前だ。森を取り込み人を喰らう魔物…
そんなものを「弄って」監視役にしているこの男に、マルチは更なる嫌悪感を
覚えた。
そして何より不吉なのが、目の前の気持ち悪い植物が発した言葉。
(盗られた…、本…?)
アロエだ…!
直感的にマルチはそう思った。
無計画なアイツのことだ。逃げる時にきっと何かやらかしたに決まって
る…!思わず唇をかみ締めるマルチ。
と、事も無げにウォンがマルチに言った。
「…そう悔しそうな顔をするな。じき本物がここに来るらしい」
「んな…っ!!」
驚きのあまりマルチは大きく目を見開くと、呻くように言葉を吐き出した。
「…最初…から、知って…」
「勿論。キミとあの子じゃ、確かに似ているが、感じるものが違う。キミの方
が、魔物の血が濃いだろう」
ショックでマルチの頭の中が真っ白になった。
自分とアロエの「血」の秘密は誰にも明かしてはいけない絶対の秘密なの
だ。
それを一目でこの男に見抜かれてしまった。
「オマエは…何だ…?」
「ん?」
自分とアロエの秘密を一目で見破った。
それに常人には無いあの魔力。
マルチの中で燻っていたギモンが確信に変わった。
「…たぶん、オマエ、人間じゃない、だろう?」
「答えはあの子が来たら教えてあげよう。…ほら、3、2、1」
ウォンのカウントダウンは恐ろしく正確だった。
1、という声とともにアロエが目の前の角から飛び出したのだ。
「…アロエっ!!」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
確かに来た時と同じルートで戻ったはずなのに。
なのに、鉢合わせてしまった。
丁度マルチとあの男が対峙しているその現場に。
その光景を目にして、思わず立ち止まるアロエ。
が、そのアロエの背中に、後ろから走ってきて止まりきれなかったオーシン
が「ごんっ」と体当たりしてきた。
「あだっ!」
よろめいて、完全にウォンの視界に入る場所に出てきてしまったアロエ。
その後ろを、よろよろとオーシンが出て来た。
「だいじょうぶ…?アロエ?」
「うわっ!お前まで出てくんなよ!つーか、押すなよ!完全に見つかっちまっ
たじゃねぇかっ!」
「ごめ…ん…」
「…んっ!!」
茶番は終わりだ、というようにウォンが大きく咳払いをする。
その音で二人ははっ、とウォンのほうを見た。
目の前にはウォン、と奇妙な植物。そしてアロエと瓜二つの姿をしたマル
チ。
アロエの尻尾がびん、と立ち、体から滝のような冷や汗が出る。
一方オーシンは、ぼーっとした目で何かを見つめている。
どうやら、ウォンの隣の植物が気になっているようだ。植物の方もウォンが
アロエたちのほうを向いたと同時にぎょろっと目玉をこちらに向け、大きな瞳
でじいーっとこちらを見ている。心なしかオーシンに興味があるように見えな
くもない。
ここへきて、事態はどうやら最悪の状態になりつつあった―。
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