PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オーシンは、写真立てをじっと見つめたまま、石像のように動かない。
アロエは、写真立ての中におさまっている方のオーシンと、今実際に隣に立つオーシ
ンとを交互に見て、そして首を傾げながらも口を開いた。
「これ、お前か?」
語尾に疑問符がついているのは、疑いようがないほど顔かたちが同一人物のものであ
りながら、たたえている雰囲気がまるで違うからだろう。
それまでじっと写真を凝視していたオーシンが、ようやく生き物らしい反応を見せ
た。
「ううん」
ゆっくりと首を横に振る。
あ、やっぱりなぁ、とアロエは思った。
どう考えてもサラのしわが少ない、というところが引っかかっていたのである。
そうあんると、可能性として考えられるのは、親族のうちの誰か、ということであ
る。
「じゃあ、お前の母ちゃんか?」
「ううん」
「じゃあ……姉ちゃん?」
「ううん」
「あ、妹か?」
「ううん」
「じゃあ、おばさんとか?」
「ううん」
アロエの質問に返される反応は全て、「ううん」と首をゆっくりと横に振る動作ばか
りである。
なんだか、人の話を真面目に聞いているのかすら疑ってしまうほど、それは画一的な
反応だった。
「お前……おれの話、聞いてるか?」
ためしに聞いてみると、
「うん」
これには、首を縦に振る反応が返って来た。
やはり動きはのろいのだが。
アロエは、頭を抱えた。
わからない。
まったくもってわからない。
写真立ての中にいる、オーシンと同じ顔かたちの人物とオーシンとを繋げる続柄がこ
とごとく否定されてしまったのだ。
その上、本人でもないという。
「じゃあ、こいつ誰なんだ?」
この状況で誰しもが抱くであろう疑問をぶつけてみると、オーシンは、すっ、と写真
立てを指差した。
そして、こう答えた。
「オーシン」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
ウォンと対峙しながら、マルチは撤退する準備のことを考えていた。
そろそろ、アロエが人質を救出したという合図が来そうな頃合なのである。
合図が出たなら、即座にこの場から撤退しなくてはならない。
そもそも、この男に勝てるというのならば、最初から『人質を連れて逃げる』などと
いう提案はしない。
だったら最初からこいつを倒して、人質を助けに行くところである。
むしろ、その方が簡単で手っ取り早いし、楽といえば楽だ。
「しかし、よくここがわかったものだ」
ウォンは、芝居がかった動作で、そっと片手を差し出した。
マルチは、ウォンをじっと睨みながら距離を置く。
はた目には、怯えと警戒との入り混じった表情でウォンの出方を探っているように見
えるところだろう。
「ふふ、私が怖いかね」
(まだか……!)
マルチは、ひたすら、『合図』を待っていた。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「……は?」
たっぷりと間を置いてから、アロエが発したのは間抜けな声だった。
そんなアロエの反応を、ぼーっとした目で見つめ……オーシンは、聞こえなかったん
だ、という解釈をした。
だから、もう一度写真立てを指差して、
「いやそれはわかったから」
『オーシン』と教えようとしたところで、ひどく疲れたような表情のアロエに止めら
れた。
「あのな、お前。さっき、これ『自分じゃない』って言ってたよな?」
これ、と写真立てを示すアロエに、こく、とオーシンは頷く。
「で、こいつは?」
アロエは、写真立てにおさまっているほうのオーシンを、びし、と指差す。
オーシンは、きょとんとした表情でまばたきをした。
「オーシン」
「だあああからどうしてそうなるんだ!」
明かにイライラした様子でアロエが髪の毛をかきむしる。
なんとかこの情報を理解しようとして、失敗に終わっている。
「お前がオーシンで、こっちもオーシンか? 本人じゃねぇってのに? ただの同名
なのか?」
混乱しはじめたアロエをぼーっと見つめつつ、オーシンはこれまたぼーっと考えた。
『お前がオーシンで、こっちもオーシンか? 本人じゃねぇってのに?』という部分
である。
事実、なのである。
ここにいる自分にサラが与えた名前がオーシンならば、サラが亡くしたという娘の名
前もオーシンなのである。
そして自分は彼女ではないので、本人ではない。
しかし、同名であることは事実だ。
オーシンの考えは、そこで止まった。
彼女と、同じ姿をとった自分に与えられた名が同じであることに、いったいどんな意
味があるか……そこまでは思考が及ばない。
「うん」
あっさりと頷くオーシンに、アロエは『もはや理解不能』といわんばかりに固まっ
た。
「……ま、いいや……」
力なくアロエが呟くのを、オーシンは聞いた。
「で、こっちは何だろな」
写真立てにこだわるのをやめ、アロエが、人体から咲く真っ赤な花の絵が表紙の論文
を手に取る。
見ていて、あまり気分の良くない表紙である。
論文を持つアロエの手は、絵に触れない位置にあった。
「何か、手がかりになるモンはあるかな……」
真剣な眼差しで、アロエが表紙をめくる。
オーシンは、ぼーっとそれを覗いて見た。
……難しい専門用語などはさっぱりわからないが、どうやらそれは古代に封印された
という、例の植物を生育した観察記録が元になったようだ。
普通の植物と同じように生育した場合と、そして……本来の使用目的である、人体を
利用して生育した場合とが記録されているらしかった。
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オーシンは、写真立てをじっと見つめたまま、石像のように動かない。
アロエは、写真立ての中におさまっている方のオーシンと、今実際に隣に立つオーシ
ンとを交互に見て、そして首を傾げながらも口を開いた。
「これ、お前か?」
語尾に疑問符がついているのは、疑いようがないほど顔かたちが同一人物のものであ
りながら、たたえている雰囲気がまるで違うからだろう。
それまでじっと写真を凝視していたオーシンが、ようやく生き物らしい反応を見せ
た。
「ううん」
ゆっくりと首を横に振る。
あ、やっぱりなぁ、とアロエは思った。
どう考えてもサラのしわが少ない、というところが引っかかっていたのである。
そうあんると、可能性として考えられるのは、親族のうちの誰か、ということであ
る。
「じゃあ、お前の母ちゃんか?」
「ううん」
「じゃあ……姉ちゃん?」
「ううん」
「あ、妹か?」
「ううん」
「じゃあ、おばさんとか?」
「ううん」
アロエの質問に返される反応は全て、「ううん」と首をゆっくりと横に振る動作ばか
りである。
なんだか、人の話を真面目に聞いているのかすら疑ってしまうほど、それは画一的な
反応だった。
「お前……おれの話、聞いてるか?」
ためしに聞いてみると、
「うん」
これには、首を縦に振る反応が返って来た。
やはり動きはのろいのだが。
アロエは、頭を抱えた。
わからない。
まったくもってわからない。
写真立ての中にいる、オーシンと同じ顔かたちの人物とオーシンとを繋げる続柄がこ
とごとく否定されてしまったのだ。
その上、本人でもないという。
「じゃあ、こいつ誰なんだ?」
この状況で誰しもが抱くであろう疑問をぶつけてみると、オーシンは、すっ、と写真
立てを指差した。
そして、こう答えた。
「オーシン」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
ウォンと対峙しながら、マルチは撤退する準備のことを考えていた。
そろそろ、アロエが人質を救出したという合図が来そうな頃合なのである。
合図が出たなら、即座にこの場から撤退しなくてはならない。
そもそも、この男に勝てるというのならば、最初から『人質を連れて逃げる』などと
いう提案はしない。
だったら最初からこいつを倒して、人質を助けに行くところである。
むしろ、その方が簡単で手っ取り早いし、楽といえば楽だ。
「しかし、よくここがわかったものだ」
ウォンは、芝居がかった動作で、そっと片手を差し出した。
マルチは、ウォンをじっと睨みながら距離を置く。
はた目には、怯えと警戒との入り混じった表情でウォンの出方を探っているように見
えるところだろう。
「ふふ、私が怖いかね」
(まだか……!)
マルチは、ひたすら、『合図』を待っていた。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「……は?」
たっぷりと間を置いてから、アロエが発したのは間抜けな声だった。
そんなアロエの反応を、ぼーっとした目で見つめ……オーシンは、聞こえなかったん
だ、という解釈をした。
だから、もう一度写真立てを指差して、
「いやそれはわかったから」
『オーシン』と教えようとしたところで、ひどく疲れたような表情のアロエに止めら
れた。
「あのな、お前。さっき、これ『自分じゃない』って言ってたよな?」
これ、と写真立てを示すアロエに、こく、とオーシンは頷く。
「で、こいつは?」
アロエは、写真立てにおさまっているほうのオーシンを、びし、と指差す。
オーシンは、きょとんとした表情でまばたきをした。
「オーシン」
「だあああからどうしてそうなるんだ!」
明かにイライラした様子でアロエが髪の毛をかきむしる。
なんとかこの情報を理解しようとして、失敗に終わっている。
「お前がオーシンで、こっちもオーシンか? 本人じゃねぇってのに? ただの同名
なのか?」
混乱しはじめたアロエをぼーっと見つめつつ、オーシンはこれまたぼーっと考えた。
『お前がオーシンで、こっちもオーシンか? 本人じゃねぇってのに?』という部分
である。
事実、なのである。
ここにいる自分にサラが与えた名前がオーシンならば、サラが亡くしたという娘の名
前もオーシンなのである。
そして自分は彼女ではないので、本人ではない。
しかし、同名であることは事実だ。
オーシンの考えは、そこで止まった。
彼女と、同じ姿をとった自分に与えられた名が同じであることに、いったいどんな意
味があるか……そこまでは思考が及ばない。
「うん」
あっさりと頷くオーシンに、アロエは『もはや理解不能』といわんばかりに固まっ
た。
「……ま、いいや……」
力なくアロエが呟くのを、オーシンは聞いた。
「で、こっちは何だろな」
写真立てにこだわるのをやめ、アロエが、人体から咲く真っ赤な花の絵が表紙の論文
を手に取る。
見ていて、あまり気分の良くない表紙である。
論文を持つアロエの手は、絵に触れない位置にあった。
「何か、手がかりになるモンはあるかな……」
真剣な眼差しで、アロエが表紙をめくる。
オーシンは、ぼーっとそれを覗いて見た。
……難しい専門用語などはさっぱりわからないが、どうやらそれは古代に封印された
という、例の植物を生育した観察記録が元になったようだ。
普通の植物と同じように生育した場合と、そして……本来の使用目的である、人体を
利用して生育した場合とが記録されているらしかった。
PR
トラックバック
トラックバックURL: