PC アロエ オーシン
場所 イノス北西墓地
NPC マルチ ウォン=リー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
墓石の下から現れた、鬱屈とした暗闇の中に続く階段。
大切なナカマ…オーシンを助けに行くためとはいえ、墓の中に入るというこ
とのは気分が良いものではない…というか気味が悪い。
頭上には相変わらず鉛色の空が広がりカラスが鳴いている。
天使であること云々…を抜きにしても、正直そこから一歩踏み出し階段を進
むのには、アロエにとっても勇気がいる。
しかし、これもオーシンを助けるため、そしてあの男と決着をつけるた
め…。ぶるぶるっと大きく身震いすると、アロエは「うーし、行くぞっ!」と
気合の掛け声と共に、階段を下り始めようとした。
が。
「ちょいまち」
いざ気合を入れて下りようとしたところをマルチにわしっと襟袖を掴まれ引
き戻された。
「あー!!なんだよっ!今せっかく気合入れて下りようとしてたってのによ
ぉ!」
「せっかくの勇気を台無しにして悪かったな。武器も持たずに敵陣に乗り込ん
でいく、無鉄砲なオマエのため、オレ様がちょっとした対策を練っておいたか
ら聞け」
もちろん、マルチの「悪かったな」に続く一連のセリフには、一欠けらも謝
罪のニュアンスが含まれていない。しかも相変わらずの高圧的な態度。
「あー?あんだよぉ、対策だぁ?」
せっかくの覚悟を邪魔され、あきらかに不機嫌なアロエをマルチは「まあ、
話聞くだけならタダだろ?聞けよ」といなし、話し始めた。
「いいか、いくらバカなオマエも、あきらかにあの男のほうがオマエより強い
のは解るな?」
「まぁ…」
アロエがしゅん、と俯く。悔しいが、あの時、あの男と対峙しアロエもそれ
は痛いほど痛感している。
「だろ?だからよ、今はアイツを倒すことよりは、その…オーシンとかいう、
オマエの仲間を救出してここからとりあえずうまく逃げることを考えようぜ。
オマエ、オレの<能力>は解るだろ。だからそれを利用して…」
それから二人はしばらく「対策」を話し合った後、了解、とお互いに強く頷
き合い、そして二人は地下への階段を一歩一歩進んでいった――。
***
階段を下りた先は薄暗い廊下だった。
ところどころに生えているコケのような植物が青白く発光しており、それが
この廊下の唯一の光であり、ランプの役割を果たしているようだった。それが
なければこの場所は完全な闇と化しているだろう。
光の届かない澱んだ闇から、時折、何か動物が奇声を発してるかのような声
が聴こえるのは気のせいだろうか…。
今一人でこの廊下を進んでいるアロエの背中にぶるぶるっと悪寒が走る。
「…しかし、わざわざこんな所にアイツは住んでんのか?相当な神経だな、お
い」
恐怖を紛らわせるため、そう一人呟いた言葉も闇に消える。
そのことにもう一度アロエは身を震わせた。
「うぇ…、早く出てぇよ、こんなトコ…」
その時、ピクン、とアロエの耳が敏感に反応した。
暗闇の奥から、一つの足音が聞こえたのだ。
カツン カツン
自分の前に確実に近づいてい来るその固い足音は、固い靴を履いている者の
発する足音である。そう、たとえば黒い革靴のような…。
そして、そんな靴を履いていそうな人物は唯一人。
(来たか…)
ごくん、とアロエは生唾を飲みこむ。予想通り、目の前の漆黒の闇から、ま
るで闇を纏ってきたかのように、黒服の男が現れた。
ウォンはアロエを見ると、ふわっと、笑みを浮かべる。
「やあ、キミなら必ず来ると思ったよ。アロエ」
***
コンコン。
自分の部屋の扉を叩く音に、オーシンはゆっくりとドアの方を見た。
オーシンがぼんやりと(誰だろう…?)と考えていると、続いて小さな声
で、
「…おい、オーシン。いるか?」
「…アロエ?」
オーシンは急いでドアに近づいた。今、確かにドアの向こうからアロエの声
が聞こえた。確かめるようにオーシンはもう一度名前を呼んでみる。
「アロエ?」
「やっぱりか!そこにいるんだな!オーシン!」
ドアの向こうで、アロエが嬉しそうな声をあげる。
「やった、やっと見つけたぜ、オーシン!」
「どうしてここに…」
「説明は後だ、急がねぇと…。今、アイツからもらったモンでココの鍵開ける
から待ってろ」
そういうとアロエはゴソゴソと服のポケットを探り、ガムの包みを取り出し
た。
中のピンク色をしたガムを急いで口に入れると、くちゃくちゃと二、三回噛
みそのガムを鍵穴に押し込む。
少し経ってそのガムを回すと、ガチャン、という音がして鍵が開いた。
そう、このガムはアロエが自称「サイバーテロリスト」を名乗る弟、マルチ
に渡された、「鍵ガム」である。
マルチ曰く、このガムを鍵穴に押し込んでしばらく待つと、ガムが鍵の形に
変化して大抵の鍵ならコレで開けられる、らしい。
アロエがドアを開けると、そこにはオーシンが黒い詰襟のドレスを着て立っ
ていた。
オーシンの無事な姿を見て、ぱあっと顔を輝かせるアロエ。
「よかった…、ケガねぇか?アイツになんかされなかったか?」
「うん。あの…食事をもらった」
「へ?」
オーシンの言葉に二人の間に妙な間が開く。
しかしアロエは「そ、それはまあいいやっ」と急いで話の流れを切り替える
と、
「とにかく、急いでココ出ねぇと!アイツが今頃キケンかもしれねぇ…!」
「アイツ?」
「マルチ…、おれの弟だよ。おれとアイツ、入り口で二手に分かれたんだ…。
先にオーシンを見つけた方がオーシンと脱出して、残りは脱出する方の時間を
かせぐおとりになる…って。おれにはよくわかんねぇけど、あの男、おれを気
に入ってるみたいだから、<アロエ>にはそう乱暴しないだろうってアイ
ツ…」
「でも…」
オーシンが不思議そうに首をかしげる。
「アロエは…ここにいるのに…」
「ああ、おれが化け猫のハーフだって前に言わなかったっけか?おれは天使の
血が濃くてほとんど化けられねぇけど、アイツの血はほとんど化け猫と一緒だ
から、だからアイツはおれに化けられるんだ」
「え…」
「つまり、アイツは<おれ>として、今おとりになっているかもしれねぇって
ことだ」
…そう、そしてアロエの予想通り、今マルチが<アロエ>としてウォンと対
峙している事をアロエはまだ知らない――。
場所 イノス北西墓地
NPC マルチ ウォン=リー
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墓石の下から現れた、鬱屈とした暗闇の中に続く階段。
大切なナカマ…オーシンを助けに行くためとはいえ、墓の中に入るというこ
とのは気分が良いものではない…というか気味が悪い。
頭上には相変わらず鉛色の空が広がりカラスが鳴いている。
天使であること云々…を抜きにしても、正直そこから一歩踏み出し階段を進
むのには、アロエにとっても勇気がいる。
しかし、これもオーシンを助けるため、そしてあの男と決着をつけるた
め…。ぶるぶるっと大きく身震いすると、アロエは「うーし、行くぞっ!」と
気合の掛け声と共に、階段を下り始めようとした。
が。
「ちょいまち」
いざ気合を入れて下りようとしたところをマルチにわしっと襟袖を掴まれ引
き戻された。
「あー!!なんだよっ!今せっかく気合入れて下りようとしてたってのによ
ぉ!」
「せっかくの勇気を台無しにして悪かったな。武器も持たずに敵陣に乗り込ん
でいく、無鉄砲なオマエのため、オレ様がちょっとした対策を練っておいたか
ら聞け」
もちろん、マルチの「悪かったな」に続く一連のセリフには、一欠けらも謝
罪のニュアンスが含まれていない。しかも相変わらずの高圧的な態度。
「あー?あんだよぉ、対策だぁ?」
せっかくの覚悟を邪魔され、あきらかに不機嫌なアロエをマルチは「まあ、
話聞くだけならタダだろ?聞けよ」といなし、話し始めた。
「いいか、いくらバカなオマエも、あきらかにあの男のほうがオマエより強い
のは解るな?」
「まぁ…」
アロエがしゅん、と俯く。悔しいが、あの時、あの男と対峙しアロエもそれ
は痛いほど痛感している。
「だろ?だからよ、今はアイツを倒すことよりは、その…オーシンとかいう、
オマエの仲間を救出してここからとりあえずうまく逃げることを考えようぜ。
オマエ、オレの<能力>は解るだろ。だからそれを利用して…」
それから二人はしばらく「対策」を話し合った後、了解、とお互いに強く頷
き合い、そして二人は地下への階段を一歩一歩進んでいった――。
***
階段を下りた先は薄暗い廊下だった。
ところどころに生えているコケのような植物が青白く発光しており、それが
この廊下の唯一の光であり、ランプの役割を果たしているようだった。それが
なければこの場所は完全な闇と化しているだろう。
光の届かない澱んだ闇から、時折、何か動物が奇声を発してるかのような声
が聴こえるのは気のせいだろうか…。
今一人でこの廊下を進んでいるアロエの背中にぶるぶるっと悪寒が走る。
「…しかし、わざわざこんな所にアイツは住んでんのか?相当な神経だな、お
い」
恐怖を紛らわせるため、そう一人呟いた言葉も闇に消える。
そのことにもう一度アロエは身を震わせた。
「うぇ…、早く出てぇよ、こんなトコ…」
その時、ピクン、とアロエの耳が敏感に反応した。
暗闇の奥から、一つの足音が聞こえたのだ。
カツン カツン
自分の前に確実に近づいてい来るその固い足音は、固い靴を履いている者の
発する足音である。そう、たとえば黒い革靴のような…。
そして、そんな靴を履いていそうな人物は唯一人。
(来たか…)
ごくん、とアロエは生唾を飲みこむ。予想通り、目の前の漆黒の闇から、ま
るで闇を纏ってきたかのように、黒服の男が現れた。
ウォンはアロエを見ると、ふわっと、笑みを浮かべる。
「やあ、キミなら必ず来ると思ったよ。アロエ」
***
コンコン。
自分の部屋の扉を叩く音に、オーシンはゆっくりとドアの方を見た。
オーシンがぼんやりと(誰だろう…?)と考えていると、続いて小さな声
で、
「…おい、オーシン。いるか?」
「…アロエ?」
オーシンは急いでドアに近づいた。今、確かにドアの向こうからアロエの声
が聞こえた。確かめるようにオーシンはもう一度名前を呼んでみる。
「アロエ?」
「やっぱりか!そこにいるんだな!オーシン!」
ドアの向こうで、アロエが嬉しそうな声をあげる。
「やった、やっと見つけたぜ、オーシン!」
「どうしてここに…」
「説明は後だ、急がねぇと…。今、アイツからもらったモンでココの鍵開ける
から待ってろ」
そういうとアロエはゴソゴソと服のポケットを探り、ガムの包みを取り出し
た。
中のピンク色をしたガムを急いで口に入れると、くちゃくちゃと二、三回噛
みそのガムを鍵穴に押し込む。
少し経ってそのガムを回すと、ガチャン、という音がして鍵が開いた。
そう、このガムはアロエが自称「サイバーテロリスト」を名乗る弟、マルチ
に渡された、「鍵ガム」である。
マルチ曰く、このガムを鍵穴に押し込んでしばらく待つと、ガムが鍵の形に
変化して大抵の鍵ならコレで開けられる、らしい。
アロエがドアを開けると、そこにはオーシンが黒い詰襟のドレスを着て立っ
ていた。
オーシンの無事な姿を見て、ぱあっと顔を輝かせるアロエ。
「よかった…、ケガねぇか?アイツになんかされなかったか?」
「うん。あの…食事をもらった」
「へ?」
オーシンの言葉に二人の間に妙な間が開く。
しかしアロエは「そ、それはまあいいやっ」と急いで話の流れを切り替える
と、
「とにかく、急いでココ出ねぇと!アイツが今頃キケンかもしれねぇ…!」
「アイツ?」
「マルチ…、おれの弟だよ。おれとアイツ、入り口で二手に分かれたんだ…。
先にオーシンを見つけた方がオーシンと脱出して、残りは脱出する方の時間を
かせぐおとりになる…って。おれにはよくわかんねぇけど、あの男、おれを気
に入ってるみたいだから、<アロエ>にはそう乱暴しないだろうってアイ
ツ…」
「でも…」
オーシンが不思議そうに首をかしげる。
「アロエは…ここにいるのに…」
「ああ、おれが化け猫のハーフだって前に言わなかったっけか?おれは天使の
血が濃くてほとんど化けられねぇけど、アイツの血はほとんど化け猫と一緒だ
から、だからアイツはおれに化けられるんだ」
「え…」
「つまり、アイツは<おれ>として、今おとりになっているかもしれねぇって
ことだ」
…そう、そしてアロエの予想通り、今マルチが<アロエ>としてウォンと対
峙している事をアロエはまだ知らない――。
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