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2025/03/10 06:38 |
32.アロエ&オーシン 「地下へ」/オーシン(周防松)
PC アロエ オーシン
場所 イノス北西墓地
NPC マルチ ウォン=リー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

墓場の空気というものは、どうしてこうも陰気くさくてジメジメしていて暗くて淀ん
でいる――ような錯覚を感じさせるのだろう。
少なくとも清々しいものではないことは確かである。
アロエでなくとも『なんか薄気味悪りィトコ』と表現したくもなる。

そんなことを思いながら、マルチは仏頂面で、墓場の中を突っ切って歩いていく。
立ち並ぶ白い十字架の中には、最近供えられたらしい花輪がかけられているものも
あった。

その中で、一つ、異質な墓があった。

階段状に石畳をしき、その上に横向きに墓石が置かれた墓である。
周囲に広がる白い十字架の群れの中で、妙に浮いている。

――怪しい。

「ほら、さっさと歩けよ」

マルチはアロエを促しながら、足早にその墓へと近付いた。
遠目には大きく立派に見えたそれは、近づいてみると案外古めかしく、かなりの年月
を経てそこにあることを思わせる。
墓石一面についた砂を手で払いのけてみると、長年風雨にさらされ、削られた文字の
跡が現れた。
何と書いてあるのかは読み取れないが、ここが墓場であることから、書かれている文
字はだいたい想像がつく。

「安らかに眠れ、ってところだな」

マルチはつぶやき――墓石に足をかけた。
なんとも恐れ多い行動である。
「お前っ、何してんだよ!」
「うるせぇな。黙って見てろ」
アロエの抗議を一蹴し、マルチは墓石にかけた足に体重を乗せ、動かし始める。
普通ならこれぐらいのことで動くはずの無い墓石は、重い音を立てながらも本来の位
置からずれた。
ずれた場所から現れたのは、地下へと続く階段である。
「うわっ、なんだコレッ」
「ビンゴだな」
アロエにとっては驚くべきことだろうが、マルチにとっては特に驚くべきことではな
かった。
先ほど、墓石に手を触れた感触から、違和感を覚えたのである。
こういうことだったのか、とむしろ納得さえしていた。

「……階段だ。どうする?」
「行くに決まってるじゃねえか」
ぱしっ、と右手を左手の手のひらに打ちつけ、アロエはキュッと表情を引き締める。
しかし、やはり緊張しているのだろう。尻尾はいつもの倍ほどに膨れてピクリピクリ
と震えていた。


    *    *    *


地下墓地の一角を研究用に作り変えた部屋。
仮眠用のベッドも置いてあるため、食事さえなんとかすれば、あとは好きなだけこ
もって研究ができる。
ウォンの日常は、そこで『研究』にいそしむ、ひたすらにそれだけである。
が、今のウォンは机の上に大量に積まれた研究用の資料に目を通すことも無く、椅子
に腰掛けたまま、じっと考え込んでいた。
(……あの娘、以前どこかで……?)
あの娘、とはオーシンのことである。
日頃、他人のことなどどうでも良いものとして切り捨てているウォンではあったが、
どうにもそのことが頭から離れなかった。
研究者の性とでも言うべきか、一旦気にかかったことをそのまま放置しておくことが
できないでいるのだ。
だが、いくら記憶をかき回しても、彼女のことは出てこない。
普通なら、『もしかしたら、勘違いか思い過ごしかもしれない』と片付けてしまうと
ころであろう。
しかし、記憶力は優れていると自負しているだけに、勘違いや思い過ごしとして片付
けるのはウォンにとって屈辱だった。

絶対に、どこかで会ったはずだ。
しかし、一体どこで?

ウォンの沈思は、微かないら立ちを含んでいた。



――その頃、オーシンはというと。

食事を済ませた後はやることがないし、ウォンが来る気配もないので、ひたすらひた
すら暇であった。
出ていこうにも扉にはカギがかかっているし、部屋には窓がないから窓の外の風景を
眺めるなどということもできない。
もっとも、地下墓地なのだから窓があったってしょうがない。
そんなものがあったところで、見えるのは変化の無い土の層ばかりであろう。

ちなみに、オーシンの思考に『カギを壊して部屋を出る』という選択肢はない。
「人の家の物を壊すんじゃない」と教えられたためである。

仕方が無いので、オーシンは床の上に座り、喪服の詰襟についているホックをいじ
くっていた。
開いてみたり、閉じてみたり、なんとなく苦しい気がしてまた開いてみたり……とい
うことを延々と繰り返しているのだ。
暖炉の炎をぼーっと眺め続けることもしたのだが、いかんせん熱さで目が痛くなって
しまうので、じきにやめてしまった。

もう何度目になるだろうか。
ふと、詰襟をいじくる手を止め、オーシンはぼーっと天井へと視線を向ける。
そのまましばらく天井を見つめた末に、その唇がゆっくりと声を紡いだ。

「……アロエ……?」

オーシンが呟いたのは、かすかな気配を感じ取ったためなのか……それとも全くの偶
然だったのか。
それは今のところ、謎である。

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2007/02/12 16:44 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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