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2024/11/16 00:47 |
3.アロエ&オーシン「日曜大工天使」/アロエ(果南)
PC アロエ オーシン
場所 イノス
NPC おばば様(サラ)
___________________________________

「あのなぁ~、おれの名前はアロエだっつーの」
 人差し指をぴん、と一本突き出してアロエはいう。
「そこんとこ、間違えないでくれるか?」
 そんなアロエをきょとん、いや、ぼーっとした眼差しで見つめるオーシン。
オーシンはアロエからおずおずと視線を外すと、
「うん…、アルナ」
「だからぁ、ア・ロ・エだっつーの!」
「…アルレ?」
「アロエだよっ!」
「…オルナ」
「…うー」
 オーシンの物覚えの悪さに、ついにアロエはギブアップした。
「…わーったよ、もう何でもいいから。とりあえず修理道具持ってきてくんな
いかな。オーシン」
「…わかった、アロワ」
「うー」

 天使たるもの、めったなことで怒ったり取り乱してはいけませんよ。

 母さまにそう教えられていなければ、アロエはオーシンに向って怒っていた
ところだったかもしれない。

 いいですか?天使が怒るときは、正義のために怒るのですよ。

(わーってるよ、母さま)
 心の中でそう呟き、アロエはぽりぽりと頭を掻いた。アロエなりにこれでも
感情を抑制しているのだ。
(けど何だろな)
 アロエは大工道具をとりに背を向けた、オーシンの背中を見つめて考えた。
(アイツ見てると、何か、こう、背中がウズウズする。何だろな、この感じ)

 そう、アロエはまだ、オーシンの正体を知らない。

***********************************

 …野外にて。
 
 オーシンから大工道具と木の板を受け取ると、アロエは「よっ」という声と
共に、羽ばたいて屋根の上に上った。
「…」
 オーシンが無言でアロエを見つめている。背中の羽で飛べるなんて、やっぱ
り天使だ、と思っているのかもしれない。
 そしてアロエは屋根の修理をはじめたが、これが実に手際がいい。カンカ
ン、トントンと板を打ちつけ、オーシンが見つめている間に、あっという間に
屋根の穴だけは塞いでしまった。
「おい、オーシン。おれ、こーゆうの得意なんだぜ」
 アロエが屋根の上から自慢げにいう。
「こーいう修理とかは、よくウチでやってたんだ」
「…ウチ?」
「おう、おれ昔っからよく墜落して、物壊しまくってたからな。それに、実は
こーいう作業、結構好きだぜ、おれ」
 そういって、またトントンと釘を板に打ち付けるアロエ。
「ま、ただ働きってのがちょっとヤだけどな」
 そんなアロエをオーシンはぼーっと見つめていた。
 なんとなくだが、本能的に感じていた天使への畏怖が、少しとけたような気
がした。
 大工作業をしている、猫の天使…。それは、天使という存在にあまり似合わ
ない光景のはずだったが、アロエにはよく似合っていた。
「うし、終わったっ」
 一仕事終えたアロエは額の汗をぬぐった。
「はーっ、働いたら腹減ったぁ。なぁオーシン、晩飯ってまだか?」
「あの、おばば様が」
 オーシンがポケットからがさごそと何かのリストを取り出して読み上げる。
「屋根の修理が終わったら、部屋の掃除、それがすんだら洗濯、食器洗いだっ
て。…絶対にサボるなって書いてある」
 アロエの手から、カラン、と金槌が落ちた。
「んなっ、何だよ!あのばーさん、人をこき使いやがって!おれは掃除とか、
洗濯とかが死ぬほど苦手なんだよっ!」
 憤慨するアロエを、オーシンはちょっと困った顔をして見上げる。
「…でも、そう書いてある」
「あああっ、めんどくせぇっ!」
 アロエは頭をぐしゃぐしゃと掻き毟った。
「あーもー、しゃあねぇ、こうなったら、サボっちまうか」
「…え?」

「ほーう、何をサボるって?」

 ビクッ、としてアロエが屋根の下を見ると、いつのまにかオーシンの隣にお
ばば様が立っていた。オーシンがぽやっとして横を向く。
「…おばば様。いたんだ」
「まったく、嫌な予感がしてきてみたらこうだよ。お前、あんだけ飯を食っと
いて、サボろうってのかい?いい度胸してるね」
「うえっ、ばーさん…」
「ばーさんじゃなくて、おばば様と呼びなといってるだろう!!」
「みゃっ!」
 おばば様の大声に、今度は猫に変身こそしなかったが、アロエは驚いた。
「いいかい、今度サボろうとしたらたたじゃおかないからね!オーシンも、コ
イツがサボろうとしないようにしっかり見張っときな」
「…うん」
 オーシンにそういうとおばば様はまた家の中に戻っていった。オーシンはぼ
ーっとその背中を見送る。
「うー、怖えぇよ、あのばーさん…。いきなり大声出すしよぉ…」
 おばば様が去ると、へたへたっと、アロエは屋根に座り込んだ。
 そんなアロエを、きょとん、とオーシンは見上げる。
「…大丈夫?アロエ?」
「お?お前、初めて名前、ちゃんと言えたな」
「うん」
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2007/02/12 16:32 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
4.アロエ&オーシン 「おばば様、お客さんですよ!」/オーシン(周防松)
PC : アロエ オーシン
場所 : イノス
NPC : おばば様(サラ)・お客さん

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さて、次にすべきは居間の掃除である。

大工道具を元の場所に戻し、その帰りに掃除用具を持って、オーシンは居間に入る。

「……アロ……」
そこまで言いかけて、オーシンはしばし固まった。
視線の先には、開いた窓からこっそりと出て行こうとしているアロエの姿。
明らかに、逃げ出そうとしているところ、といった状態である。
普通なら、悲鳴を上げるなり「どこへ行くつもりだ!」と怒鳴るなりするべき場面で
ある。

しかしオーシンは、人の姿になってからの生活よりも、魔物としての生活の方がずっ
と長い。
……つまり、その分ちょっと思考がずれているのだ。
オーシンはこの時、「窓って、家を出ていく時に使う場所じゃないよな」ということ
を考えていた。
サラに、「しっかり見張れ」と言われたのをすっかり忘れている。

「……何してるんだい?」

純粋な疑問を投げかける。
オーシンの声に、アロエの体がぎくっと固まる。
それはそうだろう。逃げようとしていて見つかったのだから。
「い、いや……なんでも、あはは」
慌てて体勢を戻し、アロエは笑う。
その後、聞こえるか聞こえないかの声で「戻ってくんの、早過ぎだろ」と呟いた。

「掃除……しよ」

言いながら、オーシンは持ってきた掃除用具のうち、ホウキを手にした。
視界の端で、アロエががっくりとうなだれるのをとらえながら。

先ほどは、大量の板切れやら木くずやらが散乱し、悲惨なことになっていたが、今
は、大きなゴミはあらかた取り除かれている。
おそらくは、サラがやったのだろう。
口調はキツイし、表向きは優しさとは程遠い感じのするサラだが、実は案外優しかっ
たりするのである。
醜い魔物でありながら人間になりたい、というオーシンの願いを叶えてくれたこと。
空腹のあまり落ちてきたアロエに、思うさま食べさせたこと。
性根がどうしようもないクソババアならば、どちらも平気で見捨てているところであ
る。

まあ、その後しっかりと代償を要求しているから、サラという人物は、俗に言う、ひ
ねくれ者なのだろう。

「……先に床を掃こう」
ホウキを片手に、オーシンはアロエに歩み寄る。

「なあ、マジでやんのか……?」

心底嫌だという顔をしながら、アロエ。
うん、とオーシンは頷き、もう一本のホウキをアロエに差し出す。
渋々アロエは受け取るが、明らかにやる気はなさそうだ。
先ほど、屋根の修理をしていた時とは正反対である。

「あ~あ……なんで掃除とか洗濯とかしなくちゃいけねえんだろ。洗濯は……まあ服
も汚れるし、しょうがないかもしんねえけど。でもさあ、掃除は、別にしなくたって
いいんじゃねえの? しなくたって、死にやしねえし。こう、生活する最低限のとこ
ろさえ片付いてりゃいいじゃん。そう思わねえ?」

ぶつぶつと文句を並べるアロエに、オーシンは、首を傾げた。

「掃除、そんなに嫌いなのかい?」
「だーいっ嫌いだよ!」
大きな声を張り上げると、アロエははっとした顔つきになり、こほんっ、と小さく咳
払いをした。
「そういうお前は好きなのかよ?」
尋ねられ、オーシンは少し考え込む。

『好き』とは?

オーシンが好きなこととは、昼寝であり、釣りである。
昼寝は寝るのが好きだからで、釣りは糸をたらしさえすれば、後はぼーっとしていら
れるからである。(つまりオーシンの釣りは、一度として魚が釣れたことがない)
それらをやっている時と、掃除や洗濯の最中の気持ちは、同じではない。
ならば『好き』というわけではないだろう。

「……違うかも……」
「だろっ?」
にやりとアロエは笑う。 
「っていうことで、手抜きしようぜ。だーじょうぶ、ばーさんだからわからねえっ
て」
とっておきのいたずらを思いついた子供のように、アロエは瞳をきらきらさせる。
「駄目。ちゃんとやらないと……」
オーシンの表情が、かすかに曇る。


――あれは、オーシンが人の姿で生活を始めて、だいぶ経った頃のこと。


生まれて初めて掃除を一人でやり終え、そのことを報告しに行くと、サラは無言で居
間に向かった。
そしてサラは、おもむろにテーブルの上に指を置き、それをつつーっと滑らせたので
ある。
オーシンは、それがなんなのかよくわからなかったが、その後、嫌でも知ることと
なった。

『やり直し』

そう言ってオーシンに突き付けたサラの指先は、ほこりでしっかり汚れていた。



「い……陰険……」

ぼーっとした口調で語られたソレを聞いたアロエは、げんなりとした顔で呟いた。
「……だから……ちゃんとやらないと、駄目」
「なあ」
「なに」
「掃除って、他のところもやるのか? ばーさんの部屋って、なんか、ここ以上に
ぴっかぴかにしなくちゃいけねえんじゃねえの?」
うんざりした顔をするアロエ。
ただでさえ嫌いな掃除なのに、それを陰険にチェックされるなんてゴメンだ、と言わ
んばかりである。
「ううん……ここだけだよ」
ふるふる、とオーシンは首を横に振る。
「それに……おばば様の部屋は、掃除しなくていいんだよ……」
「えっ、マジ!?」
アロエが、パッと表情を輝かせる。

「絶対、部屋に入るな……って、そう言うから」

その時、コンコン、と玄関のドアをノックする音がした。
次いで、ごめんください、という声がする。

「……誰……?」

オーシンは、玄関の方向をじっと見つめる。
お客さんが来る、なんて、サラは言っていただろうか?
「お客さんか?」
アロエも、きょとんとした様子で玄関の方を見ている。
オーシンは、すたすたと玄関に向かう。
一体誰だろう。全く聞いたことのない声だ。
……まあ、オーシンの場合、家から滅多に出ないので、聞き覚えのある人物の声と
いったら、サラぐらいのものなのだが。

「誰だい?」

オーシンは、そう尋ねながら、ドアのノブに手をかけた。


2007/02/12 16:32 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
5.アロエ&オーシン「面倒な頼みごと」/アロエ(果南)
PC アロエ・オーシン
場所 イノス
NPC おばば様(サラ)・シーカヤック号船員
___________________________________

 現れたのは、青と白の縞のシャツを着た、ひげの男だった。
「えー、突然失礼します。仲間に、ここが<魔女>サラの家だってきいたモン
ですから…」
「魔女…?」
 オーシンが首をかしげる。サラというのはおばば様の名前だということは解
る。しかし、<魔女>とは何のことだろう。
 オーシンの背後にいるアロエが、男を見て「おっ」と声を上げた。
「おっ。お前、確か、ここの港にいる船乗りだろ?」
「えっ」
 男はそのとき背後にいるアロエの存在に気づいたようだ。きょとんとした顔
になる。
「そういうアンタ誰だい?何でそんなこと知ってる?」
「だっておれ、ここの街の上通るとき見たんだ」
 通る、とはアロエが空腹で空を飛んでいたときのことだ。アロエは、めまい
がするほど空腹でも、見るものはそれなりに見ていたらしい。
「港でお前と同じようなカッコした奴が、いそがしそうに船から荷物出し入れ
しているの見たぜ。そうだろ?」
「ああ…、確かに俺はシーカヤック号の船員(クルー)だが…」
 言った後、男はじろじろとうさんくさそうにアロエの姿を見た。
「お前のその姿、何だ?猫の耳に羽が生えてるなんて。お前、人間か?」
「ん…、ああ。これナ」
 実はアロエは猫と天使のハーフで…。そういうことを、オーシンがおずおず
と説明しようとしたとき、

「<コスプレ>、だ」
 
 きっぱりと言い切ったアロエを、オーシンはぽやーっと振り返った。本人は
はっとして振り返ったつもりなのだが。
 その言葉をきいて、船乗りは即座に(ああ…)と納得した。
 そして、渋い顔つきになった。
「そうか…。しかしまあ…、ヘンな趣味だな」
 こすぷれ?こすぷれとは何だろう…。
 ドアの前で、しばらくぼーっと考えるオーシン。
 アロエを見ると、アロエは、オーシンに向ってイタズラっぽくにやっ、と笑
いかけた。その顔は(黙っとけ)と言っている様だ。
 オーシンも細かい説明は苦手なので、とりあえず、今はアロエの言うとおり
にしようと思った。
 そんな二人を見つめながら、船員は困ったような表情を浮かべる。
「とりあえず、お嬢ちゃん方、どっちか魔女を呼んできてくれないか?俺は早
いとこ魔女に会って用を伝えなきゃいけないんだ」

「誰が<魔女>だってぇ?」

 その声にアロエが「みゃっ!」と驚き、船員がびくっと身体を震わせ、オー
シンがゆっくりと振り向くと、いつのまにかそこにはおばば様が立っていた。
「はっ、あ、あのっ、アンタが例の魔女…」
「魔女とは失礼だね!」
 おばば様がドンっ、と床に杖をつく。
「おばば様と呼びな!」
「はいいっ!!」
 おばば様の怒声に、一気に船員の背筋がピシイッとなる。
「それで?用はなんだい?」
 おばば様がうさんさそうに睨む。
「お前たち船員は、めんどくさいことばかり頼むわ、影でこそこそと魔女だと
噂するわ、本当に嫌な奴らだよ、全く。お前もどうせ噂を鵜呑みにして、ここ
に来たんだろ?」
 イタいところを突かれたとばかりに、船員が「うっ」と呻いた。
 しかし、彼には今日中になんとしても頼まなくてはならない、大事な用があ
った。船員は気を取り直すと、思い切って話し出した。
「実は、今日は船長の使いで、貴方にお願いがあって来たんですが…」
 それを聞いて、おばば様はふうっ、とため息をついた。
「ふん、まためんどくさい頼みごとかい。どうせそんなこっだろうと思った
よ。とりあえず玄関じゃ何だからね。奥にいって話を聞くとしようか」
 そうして、おばば様と船員は、一緒に奥にある部屋に引っ込んだ。
残されたのはオーシンとアロエだ。
二人は、おばば様と船員が奥に引っ込んだ後、顔を見合わせた。
「なぁ、アイツ、頼みごとがあるって言ってたけど、何だろな?」
「…たぶん、何かの薬やお守りを作って欲しいっていう、依頼、じゃないか
な…」
 アロエと目が合った瞬間、オーシンは目を伏せてぼそぼそと答えた。やは
り、まだ天使としてのアロエに、直視されることには慣れないらしい。
「おばば様はいつも、こういう頼みごと聞いてお金を貰ってるから…、口では
嫌がっても、今回も断れないんじゃないかと思う…」
「なるほど…、あのばーさんは、魔法で薬とか作って、その報酬で生活してる
ってわけだな」
 アロエがうんうん、と頷く。
「しっかしあのヒゲオヤジ、あのばーさんに何頼みに来たんだろーな」
 アロエの言葉を聞いて、オーシンも少し考え込んだ。
「…そうだなぁ。…お守りとか、かな?」
「うーん、そうかぁ?」
 アロエは、その金色の瞳を少し細めて考え込んだ。なにか思うところがある
らしい。
「それにしちゃあ、アイツ、切羽詰まってたように見えたぜ、おれ」

2007/02/12 16:33 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
6.アロエ&オーシン 「こすぷれって、なんですか」
PC : アロエ・オーシン
場所 : イノス
NPC : おばば様(サラ)・シーカヤック号船員

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「で、なんの用なんだい。このあたしに頼むって事は、よっぽどのことなんだろう
ねぇ?」
サラは、そう言いながら船員をじろりと見た。
くだらない用事だったら叩き出すよ、と言わんばかりの態度である。
――『魔女』サラは、かなり偏屈でひねくれた性格の持ち主と言われているが。
(噂通り、というか、噂以上だぜ、おい……)
彼は、ほんのちょっと、1人で来たことを後悔していた。

そこへ、コンコン、と軽いノックの音が響いた。
ほどなく、開いたドアから、オーシンが姿を現した。
白いティーポットに2人分のカップ、お茶うけのお菓子の皿を載せたトレイを持って

る。
「失礼します」
ぼーっとした口調で言いながら、オーシンは軽く会釈をする。
「あ、お気遣いなく」
なんとなくかしこまる船員。
オーシンは、まず、お茶うけのお菓子の皿を真ん中に置き、それから船員とサラ、そ
れぞれの前にカップを置き、こぽこぽとお茶を注いだ。
……はあ……。
船員は、鼻をくすぐるお茶の良い香りに、ほんの少し緊張が和らいだ。
トレイを下げたオーシンは、何故かすぐ立ち去ろうとせず、ぼーっとサラを見つめ
た。
「おばば様」
「なんだい」
サラが、じろりと横目でオーシンを見た。

「こすぷれ……って、なに?」

オーシンのこの発言に、さすがのサラもしばし固まった。
「そんなくだらない言葉、どこで覚えてきたんだ」
数秒後、やっと出てきたのがそんな言葉だった。
「アロエが、言ってた」
「……そんな言葉、知らなくたっていいんだよ」
「でも」
「うるさいね。さっさと下がりな。話し合いの邪魔だよ」
オーシンは、思った。
さっさと下がれと言われてなお食い下がるほど、サラに『こすぷれ』の意味を聞きた
いわけではない。
それに、『こすぷれ』の意味を聞くのなら、発言者であるアロエに聞くのが妥当なよ
うな気がする。
……天使に話しかけるのは、正直緊張するけれど。
またぺこりと頭を下げ、オーシンは部屋を出た。

「……あ、ああ、お孫さんがいたなんて初耳で」
「さっさと用件を言いな」
おずおずと尋ねる船員の言葉をぴしゃりと遮り、サラはお茶をすすった。
船員はしばらく困ったような顔をしていたが、やがて口を開いた。
「……実は、船長の娘……俺達船員にとっちゃあ、お嬢さんなんですが、それが熱を
出して寝こんでるんです。発熱に効くっていう薬草を片っ端から試しても、医者に見
せてもまるで駄目で……熱を出して、今日で10日になるんです」
「ふん。それで?」
「それが……腕に、妙な形のアザが浮かんできて」

船員の言葉に、サラの眉がぴくりと動いた。


* * * * * * * * *


「……遅いね」
居間のテーブルに頬杖をつき、オーシンは、サラと船員のいる部屋のドアをぼーっと
見つめながら、誰にともなしに呟いた。
掃除に洗濯、食器洗い。
2人が、こなすべき仕事を全て終えても、話し合いはまだ終わっていなかった。
「相当込み入った話なんじゃねえの」
ものすごく難しい顔をしながら、アロエは、うーん、と伸びをする。
嫌いな掃除と洗濯という仕事をどうにかこなしたせいか、疲労の色が濃いように見え
る。
食事の用意は1人でやろうか、とオーシンは思った。
ガタン、と椅子から立ちあがり、ふらふらと居間から台所に向かう。
今日の献立、何にしようかと考えながら。
「ん? まだ仕事あったのか?」
立ち上がったオーシンの背中に、アロエが声をかける。
「……ごはんの支度」
「あーっ、そっか。で、何作るんだ?」
アロエが、椅子から立ちあがろうとする。
「……いい。アロエ、疲れてるから」
ちらっと振り返り、オーシンはそれを止めた。
ぼーっとしているせいで疲れていないように見えるが、実際、オーシンは疲れていな
い。元が魔物なせいか、体力だけはほとんど無尽蔵にあるのだ。
しかしアロエの方はそうではない。
オーシンはそう思って、気遣っているのだ。
そのまま台所に入っていったオーシンだったが、すぐにひょっこりと居間にいるアロ
エに顔を出した。
「……アロエ」
「なんだ?」

「こすぷれ、って、何?」




2007/02/12 16:33 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
7.アロエ&オーシン「おにぎりあたためますか」/アロエ(果南)
PC アロエ オーシン
場所 イノス
NPC おばば様(サラ)
___________________________________

「こすぷれ?ああ、アレな」
 子供のように無心な問いを投げかけてくるオーシンに、アロエはにっこり笑
って答えた。

「実はおれも、よく知らねぇんだな、これが」

 オーシンは、三秒ほど「…」と黙った後、
「…知らないんだ」
 そう洩らした。通常の人間なら、こけっ、とこけているところだが、オーシ
ンの反応ならこうなるらしい。
「アロエは、知らない言葉なのに、よく平気で使えるね」
「ん、ああ、なんかな、おれの父ちゃんが、自分の容姿のことについて聞かれ
たとき面倒なことになりそうだったらな、こう言っとけ、って教えてくれたん
だ」
「そうなんだ…」
 アロエのその言葉を聞いて、オーシンはとりあえずくるっと台所のほうを向
き夕飯支度を再開したが、腹の中では今ひとつ納得がいかないようだ。
 アロエがしばらくテーブルに座って様子をみていると、オーシンは料理をし
ながらも時折「うーん…」とうなっている。
 そんなオーシンの様子が少し心配になり、アロエは、料理をしているオーシ
ンの傍に近づいた。
「どした?もしかして、まだこすぷれのこと、考えてんのか??」
「…それも、あるけど」
 アロエが顔を覗き込むと、オーシンは浮かない表情だ。
「何作ればいいのかな、って、思って…」
 そう言って、オーシンはまな板の上に目を落とす。
 キュウリ、ナス、トマト…、とりあえず食べられそうなものを目の前にいろ
いろ用意してはみたけれど、何を作ればいいのかという問題になると、メニュ
ーがさっぱり思いつかない。
 その言葉を聞いて、アロエはオーシンが用意した食材を一通りふんふんと眺
めると、
 きっぱりとこういった。
「よし、ミソ汁と、おにぎりにしよう」
「…え?」
「おれ、ミソ汁とおにぎりなら作れるんだ。それにしよう」
「でも…」
 オーシンがおろおろとしながらアロエの顔を見る。体力が無尽蔵にある自分
と違って、アロエは嫌いな掃除と洗濯で疲れているはずだ。だから、自分一人
で料理はするつもりだったのに…。
 心配そうな顔のオーシンに、アロエはにっ、と笑った。
「心配すんなよ、一緒に作ろうぜ。そのほうが早ぇだろ?なっ」
「でも…」
「おれ、これでも天使だぜ。困っているヤツを助けるのが天使の役目なんだ」
「…」
 それでも渋い表情をしているオーシンに、アロエはぐっ、とガッツポーズを
してみせた。
「はっ、天使なめんなよ。まだまだ働けるぜ、おれ」
 オーシンの表情が、少し和らいだ。


 シーカヤック号の船員が「では明日、よろしくお願いします」と言い残し家
を後にした後、おばば様は疲れた足取りで居間に向かった。人の話を聞くとい
うのもけっこう疲れるものなのだ。加えて今回の依頼は少々難解な依頼だった
為尚更である。
 食事をとった後は、徹夜で調べものをしなくてはならない。もっとも夕飯は
あのオーシンと、大食い猫天使が作った料理だからたいしたものではないだろ
うが…。…そんな憂鬱なことを考えながら、おばば様が居間のドアを開ける
と、おばば様の鼻に、ぷうんといい香りが漂ってきた。
 おばば様がドアを開けたことに反応して、オーシンとアロエが、台所からく
るっとこちらを振り返る。
「おっ、来たなばーさん」
「お話…、終わった…?」
「ああ、あの客なら帰ったけど…?」
 いぶかしげな表情でテーブルの上を見るおばば様。そこには、ほかほか湯気
を立てている味噌汁と、形はいびつだが、握りこぶしほど大きいのがとりえの
おにぎりが用意されていた。
「…これは、お前たちが作ったのかい?」
 アロエがえっへん、と得意そうに答える。
「そうだぜ、どうだ、おれたちもやりゃあできるんだよ」
 無言でおばば様は席についた。
 それにアロエがむっ、とする。
「なんだよ、ほーこれはウマそうだねぇ、とか一言いったらどうなんだ」
「煩いね、そんなの食べてみなきゃ解らないだろ!」
 口ではそんな風に言っているが、それが彼女の照れ隠しだということに、ア
ロエは気づかない。ふん、と鼻を鳴らすとアロエは「オーシン、早く飯食おう
ぜ」といって席に着いた。
 オーシンもいそいそと台所から駆けてくる。


 味噌汁の具が、トマトとキュウリだということにおばば様が気づくのは、そ
れから一分後の話である。

2007/02/12 16:33 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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