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2025/03/10 06:56 |
4.アロエ&オーシン 「おばば様、お客さんですよ!」/オーシン(周防松)
PC : アロエ オーシン
場所 : イノス
NPC : おばば様(サラ)・お客さん

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さて、次にすべきは居間の掃除である。

大工道具を元の場所に戻し、その帰りに掃除用具を持って、オーシンは居間に入る。

「……アロ……」
そこまで言いかけて、オーシンはしばし固まった。
視線の先には、開いた窓からこっそりと出て行こうとしているアロエの姿。
明らかに、逃げ出そうとしているところ、といった状態である。
普通なら、悲鳴を上げるなり「どこへ行くつもりだ!」と怒鳴るなりするべき場面で
ある。

しかしオーシンは、人の姿になってからの生活よりも、魔物としての生活の方がずっ
と長い。
……つまり、その分ちょっと思考がずれているのだ。
オーシンはこの時、「窓って、家を出ていく時に使う場所じゃないよな」ということ
を考えていた。
サラに、「しっかり見張れ」と言われたのをすっかり忘れている。

「……何してるんだい?」

純粋な疑問を投げかける。
オーシンの声に、アロエの体がぎくっと固まる。
それはそうだろう。逃げようとしていて見つかったのだから。
「い、いや……なんでも、あはは」
慌てて体勢を戻し、アロエは笑う。
その後、聞こえるか聞こえないかの声で「戻ってくんの、早過ぎだろ」と呟いた。

「掃除……しよ」

言いながら、オーシンは持ってきた掃除用具のうち、ホウキを手にした。
視界の端で、アロエががっくりとうなだれるのをとらえながら。

先ほどは、大量の板切れやら木くずやらが散乱し、悲惨なことになっていたが、今
は、大きなゴミはあらかた取り除かれている。
おそらくは、サラがやったのだろう。
口調はキツイし、表向きは優しさとは程遠い感じのするサラだが、実は案外優しかっ
たりするのである。
醜い魔物でありながら人間になりたい、というオーシンの願いを叶えてくれたこと。
空腹のあまり落ちてきたアロエに、思うさま食べさせたこと。
性根がどうしようもないクソババアならば、どちらも平気で見捨てているところであ
る。

まあ、その後しっかりと代償を要求しているから、サラという人物は、俗に言う、ひ
ねくれ者なのだろう。

「……先に床を掃こう」
ホウキを片手に、オーシンはアロエに歩み寄る。

「なあ、マジでやんのか……?」

心底嫌だという顔をしながら、アロエ。
うん、とオーシンは頷き、もう一本のホウキをアロエに差し出す。
渋々アロエは受け取るが、明らかにやる気はなさそうだ。
先ほど、屋根の修理をしていた時とは正反対である。

「あ~あ……なんで掃除とか洗濯とかしなくちゃいけねえんだろ。洗濯は……まあ服
も汚れるし、しょうがないかもしんねえけど。でもさあ、掃除は、別にしなくたって
いいんじゃねえの? しなくたって、死にやしねえし。こう、生活する最低限のとこ
ろさえ片付いてりゃいいじゃん。そう思わねえ?」

ぶつぶつと文句を並べるアロエに、オーシンは、首を傾げた。

「掃除、そんなに嫌いなのかい?」
「だーいっ嫌いだよ!」
大きな声を張り上げると、アロエははっとした顔つきになり、こほんっ、と小さく咳
払いをした。
「そういうお前は好きなのかよ?」
尋ねられ、オーシンは少し考え込む。

『好き』とは?

オーシンが好きなこととは、昼寝であり、釣りである。
昼寝は寝るのが好きだからで、釣りは糸をたらしさえすれば、後はぼーっとしていら
れるからである。(つまりオーシンの釣りは、一度として魚が釣れたことがない)
それらをやっている時と、掃除や洗濯の最中の気持ちは、同じではない。
ならば『好き』というわけではないだろう。

「……違うかも……」
「だろっ?」
にやりとアロエは笑う。 
「っていうことで、手抜きしようぜ。だーじょうぶ、ばーさんだからわからねえっ
て」
とっておきのいたずらを思いついた子供のように、アロエは瞳をきらきらさせる。
「駄目。ちゃんとやらないと……」
オーシンの表情が、かすかに曇る。


――あれは、オーシンが人の姿で生活を始めて、だいぶ経った頃のこと。


生まれて初めて掃除を一人でやり終え、そのことを報告しに行くと、サラは無言で居
間に向かった。
そしてサラは、おもむろにテーブルの上に指を置き、それをつつーっと滑らせたので
ある。
オーシンは、それがなんなのかよくわからなかったが、その後、嫌でも知ることと
なった。

『やり直し』

そう言ってオーシンに突き付けたサラの指先は、ほこりでしっかり汚れていた。



「い……陰険……」

ぼーっとした口調で語られたソレを聞いたアロエは、げんなりとした顔で呟いた。
「……だから……ちゃんとやらないと、駄目」
「なあ」
「なに」
「掃除って、他のところもやるのか? ばーさんの部屋って、なんか、ここ以上に
ぴっかぴかにしなくちゃいけねえんじゃねえの?」
うんざりした顔をするアロエ。
ただでさえ嫌いな掃除なのに、それを陰険にチェックされるなんてゴメンだ、と言わ
んばかりである。
「ううん……ここだけだよ」
ふるふる、とオーシンは首を横に振る。
「それに……おばば様の部屋は、掃除しなくていいんだよ……」
「えっ、マジ!?」
アロエが、パッと表情を輝かせる。

「絶対、部屋に入るな……って、そう言うから」

その時、コンコン、と玄関のドアをノックする音がした。
次いで、ごめんください、という声がする。

「……誰……?」

オーシンは、玄関の方向をじっと見つめる。
お客さんが来る、なんて、サラは言っていただろうか?
「お客さんか?」
アロエも、きょとんとした様子で玄関の方を見ている。
オーシンは、すたすたと玄関に向かう。
一体誰だろう。全く聞いたことのない声だ。
……まあ、オーシンの場合、家から滅多に出ないので、聞き覚えのある人物の声と
いったら、サラぐらいのものなのだが。

「誰だい?」

オーシンは、そう尋ねながら、ドアのノブに手をかけた。

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2007/02/12 16:32 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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