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2024/11/15 07:04 |
ナナフシ  7:Die Extreme beruhren sich./アルト(小林悠輝)
キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
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 果たして胸やら腰やらの問題なのだろうか。まぁ、どうでもいいけど。

 身の周りから変人が減ったと喜ぶべきなのか、それとも、その変人の中でもいちばん
ヤバそうな人と二人っきりで取り残されたのを嘆くべきなのか。

 間違いなく後者だろうと思いながらも、とりあえずこれでしばらく「筋肉」という単
語を聞く頻度は減るな、よかったよかったと相反したことを思う。

 思いながら、オルレアンの斜め後ろをとぼとぼと歩く。
 黒の町並みは変わりばえなく続いている。無暗矢鱈に数の多い岐路と路地。

 これでははぐれても仕方ないなと思わないでもなかったが、それにしても不自然すぎ
る。自称紳士が、逃れるために何か余計なことでもしたのだろうか。

 だとしたら後で腕の一本でも使い物にならなくして――

「あああああ駄目だ、毒されちゃ駄目だ……」

「あら興味があるならいつでも歓迎するわよ」

「いらないです。何のことだかわかってて言ってるんですか?」

 オルレアンが笑ったのが、顔を見なくてもわかった。
 恐らく、直視したら無事ではいられない類の笑みに違いないと本能だとか無意識の奥
深くだとかそういう遠いところで感じ取って、アルトは足元に視線を落とした。

「もちろん私の美貌よねー?」

「…………」

 会話が途切れる。
 そのまま二人分の足音だけが谺して、十数秒経ったところでアルトは再び口を開いた。

「あの二人はどこへ言ったと思うですか?」

「そうねぇ……ギュスターヴったら寂しがり屋サン☆ だから、一人で大丈夫かしら」

 アルトは少しだけ黙ってから、抑揚のない声で応えた。

「単独行動できない軍人ってどうなんですか」

「あえてツッコミどころ外してきたわね。ギュスターヴは一人になるとついついちょっ
と容赦や寛容やその他もろもろのものを遠くにフルスイングしちゃうだけだから。別に
なくてもいいものよね。むしろ時にはだいぶ邪魔よね」

「さっきから容赦なかった気がするですけど」

「甘いわ」

 何が? と問おうとは思わなかった。不穏な質問でしかない。
 オルレアンは喜んで応えてくれるだろうが、聞いてしまったら取り返しのつかないこ
とになる。これもどこかからの警告。

 神経が張り詰めている。
 武器の一つでも持ってくればもう少し平静でいられるだろうか。
 魔法? ああ、そういえばそんなものも使えたな……

 そう思いながら周囲を見やる。力を貸してくれそうな、意思持つ自然要素、ようする
に精霊の気配がまったくない。使えるにしても、延髄の辺りに棲みついている闇の精霊
だけだ。役に立たない。溜め息。

「武器になるようなもの持ってません?」

「私の鞭を使いたいっですて? いいわよ、使いこんで革がなめらかだから初心者でも
使いやすいと思うし、私がみーっちり教えてあげるわよ」

「やっぱりいいです」

 話題の選択から誤ったのか、それとも話相手との相性が悪すぎるのか。
 これは悪い夢だから一刻も早く目覚めて忘れよう。そのためにはどうしよう。

「何かうわーっとすごいモンスターとか出てきて倒したらぜんぶ片付いて一件落着とか
楽でいいと思いませんか」

「そういうシチュもありよね。ホラーからバイオレンスアクションに! いろんなアレ
ソレコレが飛び散る冒険活劇も捨てがたいわ」

「特にバイオレンスは望んでないです」

「あら、冷たーい。流血や破砕のない暴力なんてないのよ」

「破砕はそうそうないと思います」

 そうかしらー、と首を傾げるオルレアンの確信犯的態度を横目にしながら、アルトは
またこっそり溜め息をついた。

 それと同時にごごごごごとわざとらしいほど大きな地響きが起こり、行く手の町並み
が歪んでとてもとても大きな黒い化物の姿になったので、アルトは警戒するよりも先に、
うわぁ望み通りになったけどこれを何とかしても一件落着しそうな要素が一つもないぞ
とがっかりした。
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2007/02/11 23:35 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ
ナナフシ  8:A great fierce battle named endless sterility/オルレアン(Caku)
PC:オルレアン・アルト
NPC:ゴシャーな敵
PLACE:正エディウス国内?
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「なんか敵っぽいのが現れたけど、ちょっとコレ人間相手の規格はみでてな
い?」

「大丈夫だと思います、貴女(貴方)も規格外ですし」

目の前にゴシャー!と立ち塞がった巨大怪物を目の前に、二人は平坦な声でそ
れぞれの心境を吐露しあった。
身の丈七メートルは下るまい、というぐらいの大きな背丈に人の体をデフォル
メしたような単調なシルエット、人ならば顔のある位置には理性など感じさせ
ることもない巨大な口腔がくっぱり口開いていた。

「ちょっと!って冷静になってる場合じゃないわよ本気で!あんなデカ物どっ
から叩けばいいのよ!」

「ええと、とりあえずさっき、変な蛾出してたじゃないですか?あの黒いの、
怪物VS蛾のミュージカルって見たことある気がするんで、そんな感じで?」

「馬鹿言わないで!あたしの人造精霊だって万能じゃないんだから!
増殖で体積増やしてもせいぜい馬サイズ程度よ…って来たぁぁぁぁぁ!!!?」

真上から徐々に降ってくる影に、顔を引き攣らせながら叫ぶオルレアン。
怪物が愛嬌さえ感じさせる身投げタックルの大瀑布に、アルトはダークエルフ
の脚力を最大限に使用し、オルレアンは咄嗟に人造精霊に命令を送り羽への擬
態で宙に避ける。
耳を劈くような大爆音と目を遮る視界で、辺りはもうもうと煙る。

「…ちょっとは頭使いなさいよコノ馬鹿!てか魔法生物!?なんなのコイツ!」

「…あ」

離れた場所にいるアルトが、ふとオルレアンに指を差す。
次の瞬間、口を大きく開けた怪物が顎を開いてオルレアンを噛み砕こうと咥え
ようと―――



がちっ!!


「って舐めんじゃないわよこの下種がぁ!」

紫電を散らしながら鎌を握るオルレアン。怪物の口の縁に足をかけ、怪物の口
腔内から脳天にめがけて鎌を突き刺し、つっかえぼうにしている。どうやら人
造精霊達も限界に近い力を発揮しているのか、鎌からは静電気のように紫色の
光がちかちかと跳ね回る。
さすが女性とは言い難い筋力で両者拮抗。よし、今だヤれ!とアルトは怪物に
ちょっとだけ応援を送る。

「…え?」

と、まだ収まりきっていなかった煙の中から手のような巨大もみじがアルトを
がっちり捕まえた。割とぬるい力で(おそらくオルレアンを噛み砕くことに必
死になっているからだろう)握られているので絞め殺されることはないが、が
っちりと掴まれたおかげで逃げ出せそうもない。
どうしようかと頭をめぐらせて、とりあえず怪物VSオカマの激闘を温い瞳で見
守ることにした。どうせどっちかが片つくまで体力は温存しておこう。ついで
にどっちも片付かないかな、と夢見ながら無関係を装った見学を始めたのであ
った。

……………………

三時間経過。

……………………

「ぬぉぉぉぉぉぉ……」

オルレアンは今だ怪物との不毛な力比べを続けていた。
人造精霊も約60%が休眠してしまうという現在状況。これ以上抜けられると本気
でヤヴァイので気力で死守しているが、いつまで持つか分からない。
そもそも、人造精霊とは生物の遺伝子から生まれた生命体だから、エネルギー
がなくなると彼らは活動できない。ようは宿主であるオルレアンの体力から自
分の活動エネルギーをぶっちぶっち取っていくので長時間の戦闘には不向きな
のだ。

(コイツ、まさか…)

生物にしては無機質な怪物の形を見て、オルレアンは最初、魔法生物の何かか
と思っていた。だが、魔法生物にしては意志が見られない。基本的に魔法生物
とは魔法を駆使する生命体だから、意志とのアクセスは重要だ。
数字がわかっても計算ができない猿のように、魔法は確固たる自意識からの発
信がないと行使できない。魔法を本能で使えるなんて能力はそうそうない。

「コイツ、まさか人造精霊とか言わないわよねあのクソジジィ!!」

「オルレアンさーん、もうそろそろ駄目そうですか?リタイアしますかー?」

平穏なアルトの声が聞こえてきたが、内容は早く破滅を願っているようにしか
思えない。

「馬鹿言ってんじゃないわ!リタイアしたらこの世から脱落じゃないの!」

「天国だと誰も綺麗で平等ですよ」

「オンリーワンじゃないと許せないのよ!」

ぐぎぎぎぎ、と手に汗握りながら、鎌がきしみを上げる。
オルレアンの胸中に、師とはまた別の予感がよぎって記憶を浮かび上がらせ
る。

(もしかして、コイツは…)




あの日、剣を信じて戦った日。あの日、忠誠を剣として振るったあの日。
まだ誰も彼もが生きていて、だからこそ陥落せねばならない城があった。
何もかもを焼き尽くさなければ、魔女の呪いを止められないとした元凶の日。
騎士らが乗り込んだ先に目にしたのは、黒い異形が人肉を貪る阿鼻叫喚。生き
たまま取り込まれていく同胞の絶叫。

城の地下に埋められたのは、瀕死の人間達。
なぜなら、彼らは突入時に魔女の呪いを受け、その身に黒い斑点が浮かび上が
っていた。呪いは感染する、そこで終らせなかればならなかった。

そうして、
正統エディウス国の北の果て、イズフェルミア地方ジェネック男爵領ヴァンジ
ェロ城の地下に、当時大量の人造精霊と感染者が埋められた話は、エディウス
国の上層部に属する者なら周知の事実だ。



「まさか、あの時のを掘り返したとか言うんじゃないでしょうね!」

叫びながら、怪物の真っ黒な喉奥を睨む。
あの紳士は元々魔法使いではない、だがあの馬鹿が「城」から人造精霊を掘り
返して指導者に復讐しようと思いつくのは容易だ。地位を奪った憎い敵同士を
ぶつけ合わせて、共食いでも狙ったのか。
マズイ、人造精霊は本来生物を根幹とする。こいつはどこをどうしたのか、寄
生している本体が見当たらない。のっぺりとした表皮や牙を見る限り、それが
人造精霊によって増殖した部分であり、本体でないのは見て分かる。

「ちょっとそこのエルフ!どっかにこの馬鹿が基本にしてる生物がいるはず
よ!生温い瞳で眺めてないで探しなさい!」

「ごめんなさーい、目が悪くなりました。見えません」

「ぎゃー!最低の言い訳ね!」

あと何時間持つか、2時間ぐらいだな、とアルトは冷静に穏便に平和的に考え
ていた。


2007/02/11 23:35 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ
ナナフシ  9:Wo Licht ist, da ist auch Schatlen./アルト(小林悠輝)
キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
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 まぁ、一応探すだけ探してみるか。万が一オルレアンが負けたらその瞬間に握り潰さ
れそうな気がしないでもないので、醒めた目でくるりと周囲を一望する。大きな人影に
握られているお陰で視界は高い。ありがたみを感じないのは、見下ろす景色がまったく
何もおもしろくないからだろうか。

「特になにもいませんねー」

「そんなはずないのよ!」

 ないのよ、と言われても。眼下に広がるのは黒い町並み。迷路じみた路地が幾重にも
交差し、重なり、歪んでいる。目が悪いつもりはないが自分達以外に動くものは見つけ
られない。

 そもそも“この馬鹿が基本にしている生物”という言葉自体が意味不明――寄生する
生物の類だということだろうが、どうしてそんなことがわかるのか、さすがオカマはい
ろんなことを知っているなぁ。彼女(彼)の声はだいぶ切羽詰まっている。このままい
けば抹殺作戦は成功だ。さてどうする?

 まぁ、おなじ姿勢で居続けるのも疲れるし。
 残念ながら成功間違いなしのこの作戦を放棄することも考慮に入れないでもない。

「はいはいわーかーりーまーしーたー。
 探すだけ探すのであなたは気にせず死闘を続けてください」

「さっきまでと態度違いすぎない!?」

「短時間でこれだけヒドイ目に遭えば、猫かぶり続ける心の余裕なんかなくなるです」

「それでもかぶり続けるのが円滑な人間関係のコツよ」

 あなたに言われても、と反論しかけて、やめる。不毛だ。
 アルトは脱出しようと軽くもがいて、なんとか両腕を自由にすることに成功した。
 化物はオカマを食べようとすることに夢中らしい。このまま逃げられないかなと思っ
たが、さすがに気づかれるだろう。

 ここは観客席としてはなかなかの位置だし、もう少し機会を待ってみようか。
 巨大な手に肘を置いて頬杖をつき、はぁとため息をついてから改めて町を観察する。
のっぺりとした、艶のない黒檀の建物が立ち並んでいる。その一部が歪んで、巨大な人
型となってオルレアンと争っている。基本にしている生物とやらは見つからない。

 影のような町はどこまでもどこまでも続いている。
 これは――

 目を閉じて、改めて町を見下ろす。
 黒い町。落ちる影は影ではない。染める闇は闇ではない。すべてニセモノ。
 すぐそこにある巨大な黒い手は、町とまったくおなじ色をしている。

 どこかに本物の気配を感じる。無機質な世界のうちにあるそれは、間違いなく本物の
影で、本物の闇。さっきまでそんなものはなかったはずだ。
 首の付け根でチリリとシェイドが身じろぎした。

「あの」

「見つけたの!?」

「手を出していいですか?」

 ぎぢ、と嫌な音がして鎌の柄が歪んだように見えた。なんだかとても男らしい唸り声
を上げて耐えるオルレアン。これでオカマじゃなかったらとても頼りになりそうな軍人
に見えないこともないのになぁと思いながら、アルトは彼女が頷いたと勝手に解釈した。

「 Leise flehen meine Lieder durch die Nacht zu dir; 」

 影がある。何かがある。この世界のものではない何か、或いは誰か。
 引き寄せてみようと手を伸ばして唱える。怪物の中に何かがある。

「 In den stillen Hain her nieder,Liebchen, komm zu mir! 」

 蠢く気配があって、巨大な人影が一瞬、どろりと崩れた。
 すぐに形を取り戻す黒の向こうに別の色彩が確かに見えた。
 人間の肌の色。違う。醜く膨れ、濁った赤紫に変色した、崩れかけの何か。


2007/02/11 23:43 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ
ヴィル&リタ-1 「help help help」/リタ(夏琉)
PC:(ヴィルフリード) リタルード
NPC:いっぱい
場所:エイドの街 (ヴァルカン)

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リタルードを口説くときにヴィルフリードが言った、『仕事がある』という言葉は決
して方便ではなかった。

ヴァルカンの西、エイドの街に滞在するようになってから4日たつ。その間、リタ
ルードがヴィルフリードの姿を見たのは滞在2日目の朝まで。それ以降顔を合わせて
は居ないが、まだ心配するほどの日数も経ってはいないだろう。

「んー」

ガラスでできた器の中身を銀色の匙ですくって口に入れ、リタルードは足をばたつか
せた。
器の中身は、牛乳から作られた氷菓子と、その横に添えられたさくらんぼや豆をつぶ
して漉した餡や薄いウエハース。氷菓子の上には黒いソースが格子模様を描いてい
る。

「マリさんこれ絶対合う! すっごいおいしい!!」

「そうでしょー? ねね、次あんこと一緒に食べてみてよ」

「うん」

あんこと呼ばれた赤い物体を匙で崩し、氷菓子と一緒にすくって口に運ぶ。

「甘いー。冷たいー。おいしーいー」

「うわぁ、やったぁ」

マリはリタルードの反応ににこにこと満足げに笑った。

「ごめんね、もっと詳しい感想が言えたらいいんだけど。僕そっちは専門じゃ  な
いから、おいしいかまずいかしか反応できないんだ」

「いいのよお。実はもう職人さんたちのオッケーは取れてるから。素人さんではリタ
ちゃんに一番に食べてもらいたくてー」

「わぁ、ありがどうー」

リタルードもつられて笑って礼をいう。

エイドの街の名物は二つ。
一つは温泉。そしてもう一つは、ここ『甘味処』のあんみつだ。

もともと餡を使った菓子はヴァルカンのほうで流行していたのだが、ヴァルカンには
小さな茶屋はいくつかあっても、この店ほど大きく店舗を構えている店はない。
店の大きさは金持ちをターゲットにしたレストランより少し狭いくらいで、エイドの
人間だけじゃなく評判を聞いて遠くからやってくる客も多い。

いまリタルードが居るのは、店の職人たちが使う休憩用の部屋だ。厨房と繋がる短い
廊下に続くドアが目の前にある、小さな空間だ。

この2日ほど、リタルードはこの部屋に入り浸っていた。

店を手伝うのでもなく、このようなプライベートなスペースに居座っているのはなか
なか面白い。順番に休憩をとる職人からはいろんな話を聞くことができるし、こんな
ふうに経営者の妻に新製品を試食させてもらえたりもする。

小豆をふっくらと煮あげる方法から、若手職人のフレッドが仕事が忙しすぎて彼女に
ふられた話まで、短期間でリタルードはさまざまな情報を取り入れた。

そもそも発端は3日前のことだ。
リタルードはヴィルフリードには何も言わず、人に会うためにヴァルカンに訪れた。


「へぇー、エルディオってそんなに仕事もらえてないのね」

セリアナ・ルーマはリタルードの話を一通り聞くと、いまいちピントのずれた感想を
言った。

リタルードは定期的にこうして血縁者に会うことを義務付けられている。大抵そのと
きにくるのは、このセリアナだ。

自分の行動を報告する必要があるわけでもないし、数年前まで存在することも知らな
かった血縁者たちと連絡を取り合わなければならないのはわずらわしい。だが、面会
を無視したことがあるのは過去一度だけだ。それで懲りた。

今回の面会場所はヴァルカンの町外れにある『茶屋』というその名もズバリの店だ。
通りに面した、赤い布がかけられた長いすに二人は並んで腰掛けている。

「仕事ないと人にちょっかいだすわけ? というか、彼が何してたのか知らなかった
んだ?」

セリアナの反応の薄さにリタルードは苛立ちを感じるが、それを押し殺して友好的な
態度を取る。自分の血縁者たちが結束がとれた集団でないことは前から気づいていた
し、彼女に自分の感情をさらけ出したくもなかった。

「知らないわよー。私、あんたのお守り以外にも仕事あるし。忙しいし。
 でもちょっとへんね」

「へんって?」

「だってあの子、基本的にすごくまじめだと思うのよね」

厚手の持ち手のないカップに注がれた、緑色の茶。その水面を見つめて、考え込むよ
うにセリアナは言う。

「あんまりあったことはないんだけど、ギーザやお兄さんたちに好かれたくて気に入
られるためにがんばってるって印象があるのよ。
 暇だからって理由でそこまで動かないと思う。あの子、あんたの一番上の兄さんで
しょ?」

「え、それすっごい初耳なんだけど」

「だって、あんたギーザの子でしょ? 父親同じはずよ。確か」

「……なんかすっごいいい加減な情報だなっ」

突然聞いた情報とその提供者の態度の適当さに、リタルードは地面に沈みたい気持ち
になった。それを気にせず、セリアナは話続ける。

「あんたんとこの兄弟のブービーなエルくんとしてはあんたにちょっかいをかけずに
はいられないだろうけど…でも、そこまでのことやる子じゃないと思う。
 どうせあんたのことだから、全部が全部話してないでしょうけど、それってけっこ
う大惨事だったってことでしょ?」

「下から二番目に生まれた人間のことをブービーとは言わないと思う」

「あー、そっか。それってたぶんアレ絡みなのかしら、やっぱ」

リタルードの指摘をあからさまに無視して、セリアナは笑いを含めて言った。

「…アレって何?」

聞き返しながら、無性に嫌な予感がした。

「あんたの父親、一番新しい愛人と逃げた」

「うわぁ…」

先ほどよりずっと深く地面にめり込みたい気持ちでいっぱいになって、リタルードは
引きつり笑いすら口の端に浮かべた。

「それいつごろの話? 探してないの?」

「二ヶ月ほど前の話。探してるけど見つかってない。『探さないでください』ってま
じもんの書置きがあったわよ」

「一言だけ?」

「もちろん。あのときは本当に笑ったって! 可笑しくて笑ってる人と笑うしかなく
て笑ってる人がいたけど」

そこに居ただろう人間はほぼ全員がリタルードの知らない人間だろうが、なんとなく
その光景が想像できた。たぶん自分の父親を直に知っている人間なら誰でも想像でき
るだろう。

初めてリタルードは血縁者に同情した。とくに笑うしかなくて笑っていた人に。

「そのあと、財産のこととか権利のこととか詳しく書いたものが見つかったから、一
応今のところなんとかなってるけどね。
 居なくなるっていうのは今までにないパターンだから、本気で帰ってこないんじゃ
ないかって説が最有力」

「へぇ…」

本当はセリアナの手から湯のみをもぎ取って地面に叩き付けたいくらいの気分だった
が、餡が包まれた餅を口の中につっこんで自分を抑えた。

「えええ、セーラちゃんの伯父様行方不明になっちゃったのぉ?!」

リタルードとセリアナの背後----つまりは店の中から、第三者が頓狂な声を上げた。


二人は立ち上がって振り返り、その人物を確認する。セリアナの眼が驚きに丸くなっ
て、それから顔いっぱいに破顔した。

「うっわぁ、うっそぉ。マリじゃん。なんで?」

「だって、ここうちの旦那の実家だもん。セーラちゃんの声ってよく通るから、すぐ
わかっちゃった。セーラちゃんこそなにしてるの?」

「へぇ。あんたの旦那、エイドで店だしてるもんね。ここ関連か。
 私は仕事。コレのお守り」

コレ扱いされたリタルードは、年嵩の女性二人が発する再開のエネルギーに押される
ものを感じて、文句を言うのをやめておく。

「あ、リタですー。よろしくー」

「よろしくー」

リタルードが軽く頭をさげると、マリもぺこりとお辞儀をする。

「マリは、私の学生時代の友達なの。
 あ、さっきの話とコレについてはうちの家の内証の類だからこれ以上聞かないで
ね。あとさっきの話は一応秘密で」

「うん、わかったぁ」

マリのセリアナにぽやぽやと頷くマリの姿は不安を感じさせるものだったが、『一
応』と言っているのだからそれくらいでいいのかもしれない。

「ねね、セーラちゃんこれから時間あるぅ?」

久しぶりに会った友人として、まったくもって正当な要求をマリが発すると、セリア
ナは渋面になる。

「うー、すっっっごい無念なことに、このあとすぐにファイの街に行かなきゃいけな
いのよ」

「そっかぁ…、じゃあ仕方ないね」

がくりと肩を落とすマリを見て、セリアナは「うー」と唸る。そして「あ」と声をあ
げると、リタルードの背中をぽんと叩いた。

「じゃあ、コレしばらく貸してあげる」

「あー、なんとなくそういう予感はしてたよ」

「これでも大陸規模をぶらぶらしてる人間だから話題は豊富だし、心身もしっかりし
てるはずだからいきなりダガーを振り回したりすることもないと思うわよ」

旅人に対する偏見を強化するような物言いをして、セリアナはマリに「どう?」と問
うた。

「…えーと、私はお客さんって好きだから嬉しいんだけど、リタちゃん? はそれで
いいのかなぁ?」

マリは話の飛びように目を丸くしている。

その振る舞いは一貫しておっとりと柔らかい。口調もしぐさもゆったりとしたものだ
が、他者にいらだちを感じさせるものではない。

しっとりと白い肌や、丁寧に手入れされたこまかく波打つ黒い髪、ふっくらとした頬
なんかから伝わってくる満たされた雰囲気は、この人物が自らの置かれた環境を如実
に語る。

まぁ合格、かな。

「今、僕の置かれている状況は気に入らないけど、お客になるのは僕も好きだから招
待をお受けするよ。暇だし」

招待されてるわけではないけれど、と心の中で付け加えてリタルードは言った。

「よかったぁ。実は私、旅人さんの話って大好きなの」

にこにこと言うマリの様子に、犬猫を拾って家人を困らせるタイプの人なのかな、と
リタルードはひそかに思った。


そんなやり取りがあって、その次の日、エイドの街に戻るというマリにくっついて、
リタルードはそのまま客分として彼女の家に落ち着いている。

友人の血縁者らしい子どもを客としてあっさり向かえ入れるマリも相当の変わり者だ
が、知らない人間が居座っていてもいじりはしても不審感をほとんど示さない店の人
間たちも変わっている。

「あの人の『拾い人』は今にはじまったことじゃないから」

やんわりと疑問を呈してみると、職人の一人からこう返ってきた。
彼女の連れてくるものは、犬猫どころではなかったらしい。

「ほや~っとして見えても、姐さんの人の見る目は確かだからな。信用してんだよ」


人一人にこう言わせるとは、なるほどこの店は相当うまく行っているのだろう。

「私、旅人さんって、本当にすごいと思う」

リタルードが器の中身を平らげるぐらいになって、マリがふと真剣な顔になって言っ
た。

「そりゃあ、私だって自分のことはそれなりに偉いと思うわ。
学校で修めた学問から得たものをちゃんと自分の中で生きたものに転換して、旦那の
お店だけどここまで大きくしたのは私の力だって自覚もある。でもね…」

「でも?」

「私は私を絶対に認めてくれる人がいるところでしか生きられないんだもの。夫も職
人さんたちも私のことを信じていてくれるから、私は力を出せるの。旅人さんの話を
聞いてると楽しいし、憧れるけど、私はそんな自分の居場所が絶対的じゃない生活に
は、耐えられないと思う。いつだって手を伸ばしたら、その手を取ってくれる人が決
まってないとすぐに駄目になる人間だと思うの」

「マリさんは、そういうのに耐える力が欲しいの?」

リタルードが尋ねると、マリは首を横にふった。

「ううん、そういうのじゃなくて。単に、本当にすごいなぁって…。やっぱ、自分が
できないことをできてる人って、単純にすごいって思うから」

「うん、だから、僕はマリさんのことを単純に凄いって思うよ」

リタルードがそういうと、マリは顔をあげ目を丸くして、それからぱっと笑んでリタ
ルードに「ありがとう」と言った。

なるほどな、とリタルードは思う。
ほとんど見ず知らずの人間に、弱音を吐いて相手から自分の聞きたい言葉を引き出し
て、それでも相手にはほとんど不快感を感じさせない。それどころか、自分が感じて
いるのは相手といくらかの感情を共有した心地よさと、マリの笑顔を引き出した満足
感だ。

まっすぐに感情を出す彼女の性質は商売に向いていないようにも思えるが、相手を選
んでやれば他者の信頼を勝ち取ることができるだろう。しかもその選出は無意識に行
われているから、嫌味がない。その資質が、彼女の能力を発揮するのに必要な土台を
形成させているのだろう。

「あれ…、なんか騒がしいな」

調理場のほうから、普段とは違う喧騒が伝わってきて、マリは首をかしげた。
この店の調理場は、甘味処という性質も関係してか怒鳴り声が行き交うことも少ない
し、手際もよく働くのがとても心地よいと職人の一人からリタルードも聞いている。
それが今、不意に人々の混乱する気配が伝わって来た。

確認しに行こうとマリが立ち上がったとき、足音が早い間隔で伝わってきて、調理場
に通じるドアが勢いよく開いた。

「助けてください!」

飛び込んできたのは、マリと同年代くらいの女性だった。
長いまっすぐな黒い髪を乱して、はぁと荒く息を吐く。

「今、追われてて…それで逃げて…」

絶え絶えに言葉を口にする彼女の言葉を制して、マリはきっぱりと頷いた。

「うん、わかったそこ通って」

「ええ?! マリさんいいの?」

あまりの決断の早さに、リタルードが思わず抗議めいた声をあげると、マリはきっと
リタルードをきっと睨んで言った。

「困ってる人助けるのって当たり前でしょ! この先家ちょっと造りがややこしいか
らリタちゃん案内してあげて。 裏から出て、路地の2本目右に曲がったら、ミィ爺
の店だからとりあえず隠れられると思う」

リタルードが曖昧に頷くのを確認して、マリはさっき女性が出てきたドアの向かいに
ある扉を開けて、有無を言わさない様子で二人を睨めつけた。

仕方なくリタルードがマリの横を通って部屋から出ると、女性が後ろからついて来
た。

「幸運を!」

マリが、駆け出した二人の背に声を送った。


2007/02/11 23:45 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヴィル&リタ
ヴィル&リタ-2 「past」/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
PC:ヴィルフリード (リタルード)
NPC:ディーン
場所:ヴァルカン

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 この前までいた町のギルドで仕事を探しに行くと、名指しでヴァルカンでの
仕事が来ていた。……とはいっても、この期間までに連絡が付けば、というも
のであったが。
 ヴィルフリードに回すように手配をした人物の名前を見て、ヴィルフリード
はすぐに引き受けた。

 ヴァルカンには、数年前まで拠点を置いていた場所だった。理由は単純に、
粗雑だが活気のある地域性が気に入っていたからだ。 ヴァルカンのエイドに
着くなり、仕事に取り掛かった。
 内容は、ヴァルカンでも指折りの、エイドにある鍛冶屋の悩みの解消をし、
鍛冶屋職人の仕事をスムーズにさせるというものだ。……くだらないと思うな
かれ。これがなかなか大変な仕事なのである。
 何かに特化した職人や芸術家は、皆、変わり者で、そして大体が気難しい。
機嫌を損ねず、そして要望を叶えるとなるには、経験と交渉力が必要となる。

 ヴィルフリードは、数度その鍛冶屋と面識があったので(しかし、相手は
すっかりわすれていたようだが。……まぁ、身勝手な彼らにはよくあること
だ。)、扱いにはさほど困らなかった。だが、それでも、仕事は、思ったより
難航した。

 鍛冶屋が言うには。

「インスピレーションがきたのだが、2年前、客が土産に持ってきたお菓子
が、今の構想をさらに構築させるのに役に立つのだが、それを手に入れられな
いと、依頼された作品ができない。いやもう鍛冶自体がもう、今後できない」

 ……という「悩み」だった。断っておくが、これでもかなり、ヴィルフリー
ドは自分なりに要約した内容である。実際には相手に理解を求めるような順序
ではない、話し方であった。なお、ヒントは「甘い。ツルンとしている。中が
黒くてゲロ甘い。なんか丸い。白だったり緑だったり。奇麗。半透明」
 ゲロ甘いと評価したものを、本当に食べたいのか。
 ともあれ、仕事である。ヴィルフリードはそれを探し始めた。

 初日は数度宿屋に戻ることができたが、2日目は一度だけ戻って、それから
はヴァルカンにまで赴き、奔走していた。
 ようやく、終わったのは、先ほどだ。
 目的の物を売っていた店は、実にこじんまりとしており、看板すら出ておら
ず、普通の民家と見間違えるものだった。どうやら、半ば趣味で作っている物
らしく、売っているものもその日その日で変わるらしい。
 目当ての品が無かったが、ヴィルフリードは頭を下げると、快く作ってもら
えた。
 エイドに戻り鍛冶屋にその探し当てた菓子、”水饅頭”を持って行き、店の
場所を報告した。……そして、それが鍛冶屋の求めているものだと判明し……
めでたしめでたしと思えたが、御仁は、ヴァルカンに戻って、その水饅頭が足
りないから、もっと買って来い言ったのだ。
 当然、ヴィルフリードは抗議した。

「んなもん、弟子でも使いっパシリに使えよ!」

 しかし、御仁は、水饅頭効果か、仕事に取り掛かり、先ほどまで亡羊として
いた弟子も忙しそうに、そして生き生きとして働き出したのだ。
 ヴィルフリードは、「悩みの解消をし、鍛冶屋職人の仕事をスムーズにさせ
る」という依頼の後半部分を自分に言い聞かせ、ヴァルカンに再び来ていた。
 最初よりもさらに頭を下げ、流石に今度はいくらかお金を包み、なんとか明
日の朝までに水饅頭を作ってもらうことを作ってもらえることになった。
 ヴィルフリードはその日、ヴァルカンに宿を取り、一休みした。
 数時間ぐったりとベッドに突っ伏し、ようやく体力回復したのが、4日目の
夕方である。
 大きな支部のあるヴァルカンにいるついでに、ことの経過を報告しに、ヴィ
ルフリードは冒険者ギルドに来ていた。
 そして、ヴィルフリードに仕事を回すように手配した人物についでに会うた
め。



 名指しで呼びつけると、個室に通された。
 出された冷たい水を飲みながら、ソファーに座ってしばらく待っていると、
扉が開いた。穏やかそうな壮年の男が部屋に入り、ヴィルフリードの顔を見る
なりこう言った。

「思ったより早く終わったんだな」

「……話が違ったじゃねぇか。そんなに急がないって聞いていたぞ。俺は。
 なのに、あのオヤジは、『一刻も早く』とか、抜かしてたぞ、オイ」

「依頼人が、鍛冶屋に頼んだ物の納期は、まだ先だ。依頼人からの期限には、
余裕があったはずだから、そんなの知らないよ、こっちは」

 ニコニコとしながら男は言った。ヴィルフリードは呆れるように男を見て、
そして、笑いの吐息を洩らした。

「……久しぶりだな。ディーン」

「そうだね。お互い年はとったけどね」

「それにしても偉くなったもんだ。個室に通された時はびっくりした」

「まぁ、ね。年数だけはこなしてるから」

「そういや、マラミアは元気か? カーティは?」

「うん、最近孫ができてね。孫の世話を焼くのが大変だと、嬉しそうにしてい
るよ。
 カーティは、ヴァルカンの和菓子ブームにのって、店舗を出そうかとか言っ
ていたなぁ」

 ヴィルフリードは、楽しそうに笑った。

「変わらねぇな、みんな」

「一番変わってないのは、君だよ、ヴィル」

 呆れるように、そして、諌めるようにディーンは言った。

「あの仲間内で未だに続けているのは、あんたしかいないよ」

 ムキになって……そして少し拗ねるように、ヴィルはそれに反論する。

「クリードは死ぬまで続けると言って……」

「あぁ、そうだ。そして、死んだな」

 ヴィルフリードは、ディーンの顔を見た。しかし、ディーンの目はヴィルフ
リードを真っ直ぐと見返していた。
 ヴィルフリードは、しばらくして、そうか、と小さく呟いた。

「……いつだ?」

「4年ほど前だ」

 聞いたからといって、どうすることもできなかった。ただ、少しだけ現実味
が増した。
 しばらく流れていた沈黙を破って、ディーンは切り出した。

「ヴィル。分かっているだろう? いつまで続けるつもりなんだ? お前は、
この仕事で死にたいと思っていないはずだろう」

 ヴィルフリードは、反論しなかった。ディーンの言っている言葉は、図星
だったからだ。
 目の前で、死んでいった人、命は助かったものの、使い物にならなくなった
人。それを目の当たりにした時、ヴィルフリードは、ほんの少しの罪悪感を感
じながらも思ったのだ。「こうなりたくない」と。
 しかし、何故か、続けてきた。いや、続けてきてしまったのだ。何かの、辞
めるきっかけも何もなく。
 ヴィルフリードは、誤魔化すように笑った。

「だけどよ。今更、他の職で雇ってくれるところなんか……」

「あるよ。ウチが雇う」

 ヴィルフリードは目を丸くして、ディーンの顔を見た。

「ヴィル、君は今回の仕事を、とてもスムーズにこなした。
 そして、君は数年間離れていたものの、やはりヴァルカンの土地柄に親しん
でいて、気質も合っている。
 ……ヴァルカンのギルドで働けるよう、僕が推薦する」

 ディーンは、目を丸くしたままのヴィルフリードを見ながら、続ける。

「経験を数多く重ねた冒険者というのは、ギルドの運営には必要な人材なんだ
よ。
 特に、君みたいな人間関係や情報の収集に適した人物はね」

 ヴィルフリードは、うなだれ、テーブルに視線を落とす。

「……今回は、それで呼んだのか?」 

「……それもあるけど……会いたかっただけだよ。単にね。
 この話については、別に嫌ならいいんだ。断ってくれて構わない」

「いや……ありがたいよ。だけども、考えさせてくれ……。それとも、すぐに
返事がいるか?」

 ディーンはかぶりを振った。

「いつでも返事はいいよ。ただ、僕にはそういう道を君に用意できるってこと
だけを覚えてて欲しいんだ」

「……ありがとう。やっぱりお前は変わってないよ。ディーン。本当に真面目
なお人よしだ」

「それは、こっちが損にならなければの話だよ。流石に身を削ってまでは親切
にはできないよ」

 ディーンは笑って応じた。

「マラミアは、お前のそういうところが好きだったんだったんだが。知ってた
か?」

「知ってるよ。僕も、彼女のそういう嗜好も含めて愛してるからね」

 そこに、ノックが入り、ドアが開かれる。来客の姿を認めて、扉を開いた人
物が戸惑う。
 ヴィルフリードはソファーから立ち上がった。

「忙しそうだな。んじゃ、もう行くよ。
 ところで、報酬はもう、貰えるのか?」

 ディーンは苦笑しながら立ち上がる。

「あぁ、そう言うと思って、もう出すように伝えているよ。
 会えてよかった」

 ディーンは右手を差し出し、ヴィルフリードもそれに応じて手を差し出す。

「こっちもだ」

 握手を交わす。お互い、年をとった手の皮膚の固さを感じる。
 そして、ディーンは、ぎゅっと握り、ヴィルフリードの目を見て言った。

「考えておいてくれ。悪い話じゃない」

「……あぁ」

 ヴィルフリードは、なぜだか目をそらしてしまった。



 きっかけがなかった。
 そう、思って笑っていたのに、突然目の前に来てしまうと、戸惑いがあっ
た。分かってはいたが、所詮、それは言い訳にしか過ぎなかったことを自覚す
る。
 このような生活をしていて、ある日、誰も見取ることなく、死ぬのは嫌だと
いうことはわかる。しかし……。
 ……その、「しかし」の言葉の後が何も続かない。だけども、打ち消せな
い。
 その思考から逃げようとすると、クリードの顔が浮かんだ。よりによって、
あのマヌケそうな笑い顔だ。
 4年だ。それを聞くと、悲しみも高ぶらない。

「そういえば、どこで死んだか聞いてなかったな……」

 ぽそりと、呟くと、クリードの顔が途端にぼやけた。
 ヴィルフリードは、明日エイドに朝一番で帰ろうと決め、その夜は酒を押し
込んで早々に寝た。
 リタの顔を見れば、どちらかに決心がつくか……それとも、有耶無耶なまま
流して過ごせることができるような気がした。


2007/02/11 23:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヴィル&リタ

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