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2024/05/05 15:19 |
ヴィル&リタ-2 「past」/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
PC:ヴィルフリード (リタルード)
NPC:ディーン
場所:ヴァルカン

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 この前までいた町のギルドで仕事を探しに行くと、名指しでヴァルカンでの
仕事が来ていた。……とはいっても、この期間までに連絡が付けば、というも
のであったが。
 ヴィルフリードに回すように手配をした人物の名前を見て、ヴィルフリード
はすぐに引き受けた。

 ヴァルカンには、数年前まで拠点を置いていた場所だった。理由は単純に、
粗雑だが活気のある地域性が気に入っていたからだ。 ヴァルカンのエイドに
着くなり、仕事に取り掛かった。
 内容は、ヴァルカンでも指折りの、エイドにある鍛冶屋の悩みの解消をし、
鍛冶屋職人の仕事をスムーズにさせるというものだ。……くだらないと思うな
かれ。これがなかなか大変な仕事なのである。
 何かに特化した職人や芸術家は、皆、変わり者で、そして大体が気難しい。
機嫌を損ねず、そして要望を叶えるとなるには、経験と交渉力が必要となる。

 ヴィルフリードは、数度その鍛冶屋と面識があったので(しかし、相手は
すっかりわすれていたようだが。……まぁ、身勝手な彼らにはよくあること
だ。)、扱いにはさほど困らなかった。だが、それでも、仕事は、思ったより
難航した。

 鍛冶屋が言うには。

「インスピレーションがきたのだが、2年前、客が土産に持ってきたお菓子
が、今の構想をさらに構築させるのに役に立つのだが、それを手に入れられな
いと、依頼された作品ができない。いやもう鍛冶自体がもう、今後できない」

 ……という「悩み」だった。断っておくが、これでもかなり、ヴィルフリー
ドは自分なりに要約した内容である。実際には相手に理解を求めるような順序
ではない、話し方であった。なお、ヒントは「甘い。ツルンとしている。中が
黒くてゲロ甘い。なんか丸い。白だったり緑だったり。奇麗。半透明」
 ゲロ甘いと評価したものを、本当に食べたいのか。
 ともあれ、仕事である。ヴィルフリードはそれを探し始めた。

 初日は数度宿屋に戻ることができたが、2日目は一度だけ戻って、それから
はヴァルカンにまで赴き、奔走していた。
 ようやく、終わったのは、先ほどだ。
 目的の物を売っていた店は、実にこじんまりとしており、看板すら出ておら
ず、普通の民家と見間違えるものだった。どうやら、半ば趣味で作っている物
らしく、売っているものもその日その日で変わるらしい。
 目当ての品が無かったが、ヴィルフリードは頭を下げると、快く作ってもら
えた。
 エイドに戻り鍛冶屋にその探し当てた菓子、”水饅頭”を持って行き、店の
場所を報告した。……そして、それが鍛冶屋の求めているものだと判明し……
めでたしめでたしと思えたが、御仁は、ヴァルカンに戻って、その水饅頭が足
りないから、もっと買って来い言ったのだ。
 当然、ヴィルフリードは抗議した。

「んなもん、弟子でも使いっパシリに使えよ!」

 しかし、御仁は、水饅頭効果か、仕事に取り掛かり、先ほどまで亡羊として
いた弟子も忙しそうに、そして生き生きとして働き出したのだ。
 ヴィルフリードは、「悩みの解消をし、鍛冶屋職人の仕事をスムーズにさせ
る」という依頼の後半部分を自分に言い聞かせ、ヴァルカンに再び来ていた。
 最初よりもさらに頭を下げ、流石に今度はいくらかお金を包み、なんとか明
日の朝までに水饅頭を作ってもらうことを作ってもらえることになった。
 ヴィルフリードはその日、ヴァルカンに宿を取り、一休みした。
 数時間ぐったりとベッドに突っ伏し、ようやく体力回復したのが、4日目の
夕方である。
 大きな支部のあるヴァルカンにいるついでに、ことの経過を報告しに、ヴィ
ルフリードは冒険者ギルドに来ていた。
 そして、ヴィルフリードに仕事を回すように手配した人物についでに会うた
め。



 名指しで呼びつけると、個室に通された。
 出された冷たい水を飲みながら、ソファーに座ってしばらく待っていると、
扉が開いた。穏やかそうな壮年の男が部屋に入り、ヴィルフリードの顔を見る
なりこう言った。

「思ったより早く終わったんだな」

「……話が違ったじゃねぇか。そんなに急がないって聞いていたぞ。俺は。
 なのに、あのオヤジは、『一刻も早く』とか、抜かしてたぞ、オイ」

「依頼人が、鍛冶屋に頼んだ物の納期は、まだ先だ。依頼人からの期限には、
余裕があったはずだから、そんなの知らないよ、こっちは」

 ニコニコとしながら男は言った。ヴィルフリードは呆れるように男を見て、
そして、笑いの吐息を洩らした。

「……久しぶりだな。ディーン」

「そうだね。お互い年はとったけどね」

「それにしても偉くなったもんだ。個室に通された時はびっくりした」

「まぁ、ね。年数だけはこなしてるから」

「そういや、マラミアは元気か? カーティは?」

「うん、最近孫ができてね。孫の世話を焼くのが大変だと、嬉しそうにしてい
るよ。
 カーティは、ヴァルカンの和菓子ブームにのって、店舗を出そうかとか言っ
ていたなぁ」

 ヴィルフリードは、楽しそうに笑った。

「変わらねぇな、みんな」

「一番変わってないのは、君だよ、ヴィル」

 呆れるように、そして、諌めるようにディーンは言った。

「あの仲間内で未だに続けているのは、あんたしかいないよ」

 ムキになって……そして少し拗ねるように、ヴィルはそれに反論する。

「クリードは死ぬまで続けると言って……」

「あぁ、そうだ。そして、死んだな」

 ヴィルフリードは、ディーンの顔を見た。しかし、ディーンの目はヴィルフ
リードを真っ直ぐと見返していた。
 ヴィルフリードは、しばらくして、そうか、と小さく呟いた。

「……いつだ?」

「4年ほど前だ」

 聞いたからといって、どうすることもできなかった。ただ、少しだけ現実味
が増した。
 しばらく流れていた沈黙を破って、ディーンは切り出した。

「ヴィル。分かっているだろう? いつまで続けるつもりなんだ? お前は、
この仕事で死にたいと思っていないはずだろう」

 ヴィルフリードは、反論しなかった。ディーンの言っている言葉は、図星
だったからだ。
 目の前で、死んでいった人、命は助かったものの、使い物にならなくなった
人。それを目の当たりにした時、ヴィルフリードは、ほんの少しの罪悪感を感
じながらも思ったのだ。「こうなりたくない」と。
 しかし、何故か、続けてきた。いや、続けてきてしまったのだ。何かの、辞
めるきっかけも何もなく。
 ヴィルフリードは、誤魔化すように笑った。

「だけどよ。今更、他の職で雇ってくれるところなんか……」

「あるよ。ウチが雇う」

 ヴィルフリードは目を丸くして、ディーンの顔を見た。

「ヴィル、君は今回の仕事を、とてもスムーズにこなした。
 そして、君は数年間離れていたものの、やはりヴァルカンの土地柄に親しん
でいて、気質も合っている。
 ……ヴァルカンのギルドで働けるよう、僕が推薦する」

 ディーンは、目を丸くしたままのヴィルフリードを見ながら、続ける。

「経験を数多く重ねた冒険者というのは、ギルドの運営には必要な人材なんだ
よ。
 特に、君みたいな人間関係や情報の収集に適した人物はね」

 ヴィルフリードは、うなだれ、テーブルに視線を落とす。

「……今回は、それで呼んだのか?」 

「……それもあるけど……会いたかっただけだよ。単にね。
 この話については、別に嫌ならいいんだ。断ってくれて構わない」

「いや……ありがたいよ。だけども、考えさせてくれ……。それとも、すぐに
返事がいるか?」

 ディーンはかぶりを振った。

「いつでも返事はいいよ。ただ、僕にはそういう道を君に用意できるってこと
だけを覚えてて欲しいんだ」

「……ありがとう。やっぱりお前は変わってないよ。ディーン。本当に真面目
なお人よしだ」

「それは、こっちが損にならなければの話だよ。流石に身を削ってまでは親切
にはできないよ」

 ディーンは笑って応じた。

「マラミアは、お前のそういうところが好きだったんだったんだが。知ってた
か?」

「知ってるよ。僕も、彼女のそういう嗜好も含めて愛してるからね」

 そこに、ノックが入り、ドアが開かれる。来客の姿を認めて、扉を開いた人
物が戸惑う。
 ヴィルフリードはソファーから立ち上がった。

「忙しそうだな。んじゃ、もう行くよ。
 ところで、報酬はもう、貰えるのか?」

 ディーンは苦笑しながら立ち上がる。

「あぁ、そう言うと思って、もう出すように伝えているよ。
 会えてよかった」

 ディーンは右手を差し出し、ヴィルフリードもそれに応じて手を差し出す。

「こっちもだ」

 握手を交わす。お互い、年をとった手の皮膚の固さを感じる。
 そして、ディーンは、ぎゅっと握り、ヴィルフリードの目を見て言った。

「考えておいてくれ。悪い話じゃない」

「……あぁ」

 ヴィルフリードは、なぜだか目をそらしてしまった。



 きっかけがなかった。
 そう、思って笑っていたのに、突然目の前に来てしまうと、戸惑いがあっ
た。分かってはいたが、所詮、それは言い訳にしか過ぎなかったことを自覚す
る。
 このような生活をしていて、ある日、誰も見取ることなく、死ぬのは嫌だと
いうことはわかる。しかし……。
 ……その、「しかし」の言葉の後が何も続かない。だけども、打ち消せな
い。
 その思考から逃げようとすると、クリードの顔が浮かんだ。よりによって、
あのマヌケそうな笑い顔だ。
 4年だ。それを聞くと、悲しみも高ぶらない。

「そういえば、どこで死んだか聞いてなかったな……」

 ぽそりと、呟くと、クリードの顔が途端にぼやけた。
 ヴィルフリードは、明日エイドに朝一番で帰ろうと決め、その夜は酒を押し
込んで早々に寝た。
 リタの顔を見れば、どちらかに決心がつくか……それとも、有耶無耶なまま
流して過ごせることができるような気がした。

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2007/02/11 23:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヴィル&リタ

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