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2024/05/05 09:15 |
ヴィル&リタ-3 「隣で笑む君」/リタ(夏琉)
PC:(ヴィルフリード) リタルード
NPC:女の人 ミィ爺
場所:エイドの街 
-------------------------------------

リタルードと女性がマリに言われた店に駆け込むと、カウンターに突っ伏していた人
物が僅かに白髪の残った頭をむくりと起こした。

「あ…、いらっしゃい」

年寄り特有の掠れた声。
くぐもった口調から察するに居眠りをしていたらしい。皺に埋もれてしまいそうな小
さな目を、皮膚の弛んだ手で擦る。

もともと小柄な体躯が年をとって中身だけぐっと縮んだせいで、表面に襞がよってい
るような印象の人物だ。そのくせ肌はやけに水っぽい。
彼がマリの言っていた『ミィ爺』なのだろう。

「予言と呪文どっちがいいですか。
 あ、めんどくさいことだったら魔術師ギルドにあたったほうが絶対いいよ」

「マリさんに、ここだったらかくまってくれるって聞いたんだけど」

「マリちゃん? 『甘味処』の?」

ミィ爺は、手で口を覆ってのんびりとふぁぁぁと欠伸をする。

「あそこのフレッド、最近彼女にふられたらしいねぇ…。
 ほら職人で一番若い子」

「あー…、らしいね。『愛っていつもいっしょにいなきゃ駄目なんですか! その程
度のものなんですか!』って泣いてたよ」

「リリィは刹那的な子だからフレッドには合ってなかったよ。
 とりあえずおっぱいおっきいけど」

「おっきいんだ」

「おっきいんだよ」

「えーと、あの」

リタルードの後ろに立っていた、女性が二人の注意を引くように頭のところの高さま
で片手を上げて、遠慮がちに言った。わざわざ薄いカーテンを引いてあるせいで薄暗
い室内の中、その手の白さが引き立つ。

「私、追われてるんですけど…。おっぱいの話はとりあえず脇に置いといていただけ
るとありがたいんですが」

「そうなんだ。それは大変だね」

「はい。私の人生のなかではかなり大変な状態だと」

「だよね。普通に生きてたら追われたりしないもんね。
 でも、とりあえずここに着たら大丈夫だよ。さっき君らが来たとき『閉じて』おい
たし。
 あ、追っ手の中に百戦錬磨っぽいギルドハンターか、魔術学院卒で実践魔術に特化
して長けてそうな人がいたりしなかった?」

「そんな大物はいないと思いますけど…」

「じゃ、大丈夫だよ。あとは100年に一度の才能がどっかの三下奴として埋もれて
て、たまたまこの局限においてその才能が覚醒したってことさえなければ、見つから
ないよ」

「へぇ、おじいちゃんって凄い人なんだね」

リタルードが感心して言うと、ミィ爺は微笑んで恥らった。

「凄くないよ。もうローブなんか恥ずかしくて着れないほど、最近なにもしてないん
だ。
 ただここは本当にちょうど局地的に、結界をすごく張りやすい土地なんだよ。あ、
それでも不安ならここから先は有料になるけど、いる?」

後半は女性に当てて言うと、彼女は首を縦に振った。

「あんまり持ち合わせがないんですけど…、でもできれば」

「そんなにボったりしないって。
 二人あわせてマリちゃんちのスーパデラックスのやつ一膳分でいいよ」

「それくらいなら、僕が出すよ」

「わかった。ちょっと待ってて」

ミィ爺は頭をひっこめてカウンターの下を除くと、簡単な物置になっているのだろう
そこを漁り始めた。整理がなっていないのか、「違う…これも違う」とぶつぶつ言っ
ている。

「なんだか時間かかりそうだね…マリさんのとこ突破したとしても、追っ手の人たち
普通に通りすぎちゃうんじゃない?」

リタルードが女性に声をかけると、彼女は軽口には乗らずに口元に手をやっておずお
ずと言う。

「あの、よかったの…お金」

「別にあれくらいなら。今、あんまりお金ないんでしょ?」

「うん、助かりました。ありがとう」

そう言って、彼女が浮かべた笑みにリタルードは激しい違和感を覚えた。
口元を手で抑えていても、ぽってりとした唇が横に広がっていることが分かるほど
の、にたとした笑み。
属性で言うなら女郎蜘蛛か猛禽類だ。

もしや、新手の詐欺か。

リタルードは一瞬そう思うがすぐにうちけす。
正体を現すタイミングがあまりにも無意味だ。善哉のセット一つ分の代金が目的と
は、チンケに過ぎる。

「あった!」

リタルードが疑惑を言葉にしようとした直前に、ミィ爺がカウンターの上にぴょこり
と頭を出した。

「ほら、これ。ちょうど二つ見つかってよかったよ」

ぽんぽんとカウンターの上に置かれたのは、埃まみれのずんぐりとした茶色い同形の
塊が二つ。
やや縦長の球体の上に、それよりやや小さい横長の球体が乗っかっている。上部の球
体には、くちばしらしきでっぱりと、丸くて黒いガラス球が二つ。縦長のほうの球体
からは、手足が二つずつ伸びている。

「これって…ぬいぐるみ?」

「うん、ぬいぐるみ。
 カモノハシって動物なんだ。知ってる」

リタルードは知らなかったので、悔しさをバネにそのうち暇をみつけてこの未知の生
物について調べようと心に誓う。渋面でミィ爺に「で?」と話の続きを促す。

「コレ抱いて。うんであのタペストリーの下に座ってて。
 そしたら、もうかなり絶対確実に、部屋に誰かが入ってきても僕以外は気づかない
から」

「…なんで?」

「とりあえず抱いて座ってよ」

そう言われて仕方なく、リタルードはぬいぐるみを一体まず女性に手渡して、それか
ら自分も胸に抱く。埃がわんと舞って目と鼻が痛くなった。

ミィ爺が指差したタペストリー----と呼んでいいものか、かろうじて幾何学模様が描
かれていたとわかる大きな布----が掛けられた下の床----数年は誰も足を踏み入れて
いないと思われるほど、床が埃で白い----に座り込む。女性が隣に座ってから、
「で?」と再度ミィ爺に話を促した。

「まぁ、別にたいした話じゃないんだけどね。みんな不思議に思うからすごく簡単に
説明するけどね。
 若い頃、旅行で行った島で、枝の間にくちばしを挟んで困ってるカモノハシを助け
たんだよ。
 それで、そのカモノハシがなんかしゃべるカモノハシで、すごいびっくりしたんだ
けど、義理堅くてそれから加護をもらってるんだよ」

「…本当に簡単な説明だね」

「だって、詳しいはなしって面倒だもん。
 あ、どうせしばらくそのまま待つんでしょ。ついでだからお茶入れるよ」

「有料?」

「うん」

ミィ爺はそのままカウンターの奥にあるドアの向こうに行ってしまった。
その一連の態度は、面倒だからというより質問を恐れているのではと思わせるほど素
早かった。

「なにか辛いことでも昔あったのかなぁ」

ぎゅっとカモノハシを抱いたままリタルードはぼやく。
視線を無意識に視線を上げるとタペストリーから埃が降ってきて、慌てて俯いた。

「お茶…有料って言ってたけど、大丈夫?」

同じくカモノハシを抱きしめたまま、女性が話し掛けてきた。

「いくらなんでも一財産、要求したりはしないと思うよ。マリさんが推奨した人だ
し」

「あの女の人? すごくいい人っぽかったよね」

「うん。彼女は信用にたる人だよ」

なんとなく小さな声で会話をしながら、リタルードは彼女を横目で観察する。
黒髪は、てろんとした感であまり質は良くない。目は、この薄暗い部屋では分かりに
くいが、濃い茶色か。陽の光の存在を感じさせない、いっそ青白いほどの肌のなか
ぽってりとした下唇が浮き上がって見える。

赤い唇。
唇と--。

顔の血の気が引いていくのを感じながら、リタルードはいつしかそれから目をそらす
ことができなっていた。
全身に冷たい汗がどっと噴き出す。

彼女がふと視線を上げた。リタルードに目を向ける。
二人の目線が、今日出会ってから初めて、確と絡んだ。

「久しぶりね、ルーディ」

重たく柔らかい唇を、今度は隠さずに真横ににぃと引いて彼女は笑みを浮かべる。

彼女が呼んだ名。
それはほとんど自分が産まれた頃から親しんでいた人間か-------
二度と会うことのないと確信した、仮初めの縁を結んだ人間にしか名乗らない、名
前。

「ハンナ----」

冷たい汗にまみれながら、呆然とリタルードは彼女の名を呟いた。

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2007/02/11 23:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヴィル&リタ

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