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2024/05/05 12:54 |
ヴィル&リタ-1 「help help help」/リタ(夏琉)
PC:(ヴィルフリード) リタルード
NPC:いっぱい
場所:エイドの街 (ヴァルカン)

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リタルードを口説くときにヴィルフリードが言った、『仕事がある』という言葉は決
して方便ではなかった。

ヴァルカンの西、エイドの街に滞在するようになってから4日たつ。その間、リタ
ルードがヴィルフリードの姿を見たのは滞在2日目の朝まで。それ以降顔を合わせて
は居ないが、まだ心配するほどの日数も経ってはいないだろう。

「んー」

ガラスでできた器の中身を銀色の匙ですくって口に入れ、リタルードは足をばたつか
せた。
器の中身は、牛乳から作られた氷菓子と、その横に添えられたさくらんぼや豆をつぶ
して漉した餡や薄いウエハース。氷菓子の上には黒いソースが格子模様を描いてい
る。

「マリさんこれ絶対合う! すっごいおいしい!!」

「そうでしょー? ねね、次あんこと一緒に食べてみてよ」

「うん」

あんこと呼ばれた赤い物体を匙で崩し、氷菓子と一緒にすくって口に運ぶ。

「甘いー。冷たいー。おいしーいー」

「うわぁ、やったぁ」

マリはリタルードの反応ににこにこと満足げに笑った。

「ごめんね、もっと詳しい感想が言えたらいいんだけど。僕そっちは専門じゃ  な
いから、おいしいかまずいかしか反応できないんだ」

「いいのよお。実はもう職人さんたちのオッケーは取れてるから。素人さんではリタ
ちゃんに一番に食べてもらいたくてー」

「わぁ、ありがどうー」

リタルードもつられて笑って礼をいう。

エイドの街の名物は二つ。
一つは温泉。そしてもう一つは、ここ『甘味処』のあんみつだ。

もともと餡を使った菓子はヴァルカンのほうで流行していたのだが、ヴァルカンには
小さな茶屋はいくつかあっても、この店ほど大きく店舗を構えている店はない。
店の大きさは金持ちをターゲットにしたレストランより少し狭いくらいで、エイドの
人間だけじゃなく評判を聞いて遠くからやってくる客も多い。

いまリタルードが居るのは、店の職人たちが使う休憩用の部屋だ。厨房と繋がる短い
廊下に続くドアが目の前にある、小さな空間だ。

この2日ほど、リタルードはこの部屋に入り浸っていた。

店を手伝うのでもなく、このようなプライベートなスペースに居座っているのはなか
なか面白い。順番に休憩をとる職人からはいろんな話を聞くことができるし、こんな
ふうに経営者の妻に新製品を試食させてもらえたりもする。

小豆をふっくらと煮あげる方法から、若手職人のフレッドが仕事が忙しすぎて彼女に
ふられた話まで、短期間でリタルードはさまざまな情報を取り入れた。

そもそも発端は3日前のことだ。
リタルードはヴィルフリードには何も言わず、人に会うためにヴァルカンに訪れた。


「へぇー、エルディオってそんなに仕事もらえてないのね」

セリアナ・ルーマはリタルードの話を一通り聞くと、いまいちピントのずれた感想を
言った。

リタルードは定期的にこうして血縁者に会うことを義務付けられている。大抵そのと
きにくるのは、このセリアナだ。

自分の行動を報告する必要があるわけでもないし、数年前まで存在することも知らな
かった血縁者たちと連絡を取り合わなければならないのはわずらわしい。だが、面会
を無視したことがあるのは過去一度だけだ。それで懲りた。

今回の面会場所はヴァルカンの町外れにある『茶屋』というその名もズバリの店だ。
通りに面した、赤い布がかけられた長いすに二人は並んで腰掛けている。

「仕事ないと人にちょっかいだすわけ? というか、彼が何してたのか知らなかった
んだ?」

セリアナの反応の薄さにリタルードは苛立ちを感じるが、それを押し殺して友好的な
態度を取る。自分の血縁者たちが結束がとれた集団でないことは前から気づいていた
し、彼女に自分の感情をさらけ出したくもなかった。

「知らないわよー。私、あんたのお守り以外にも仕事あるし。忙しいし。
 でもちょっとへんね」

「へんって?」

「だってあの子、基本的にすごくまじめだと思うのよね」

厚手の持ち手のないカップに注がれた、緑色の茶。その水面を見つめて、考え込むよ
うにセリアナは言う。

「あんまりあったことはないんだけど、ギーザやお兄さんたちに好かれたくて気に入
られるためにがんばってるって印象があるのよ。
 暇だからって理由でそこまで動かないと思う。あの子、あんたの一番上の兄さんで
しょ?」

「え、それすっごい初耳なんだけど」

「だって、あんたギーザの子でしょ? 父親同じはずよ。確か」

「……なんかすっごいいい加減な情報だなっ」

突然聞いた情報とその提供者の態度の適当さに、リタルードは地面に沈みたい気持ち
になった。それを気にせず、セリアナは話続ける。

「あんたんとこの兄弟のブービーなエルくんとしてはあんたにちょっかいをかけずに
はいられないだろうけど…でも、そこまでのことやる子じゃないと思う。
 どうせあんたのことだから、全部が全部話してないでしょうけど、それってけっこ
う大惨事だったってことでしょ?」

「下から二番目に生まれた人間のことをブービーとは言わないと思う」

「あー、そっか。それってたぶんアレ絡みなのかしら、やっぱ」

リタルードの指摘をあからさまに無視して、セリアナは笑いを含めて言った。

「…アレって何?」

聞き返しながら、無性に嫌な予感がした。

「あんたの父親、一番新しい愛人と逃げた」

「うわぁ…」

先ほどよりずっと深く地面にめり込みたい気持ちでいっぱいになって、リタルードは
引きつり笑いすら口の端に浮かべた。

「それいつごろの話? 探してないの?」

「二ヶ月ほど前の話。探してるけど見つかってない。『探さないでください』ってま
じもんの書置きがあったわよ」

「一言だけ?」

「もちろん。あのときは本当に笑ったって! 可笑しくて笑ってる人と笑うしかなく
て笑ってる人がいたけど」

そこに居ただろう人間はほぼ全員がリタルードの知らない人間だろうが、なんとなく
その光景が想像できた。たぶん自分の父親を直に知っている人間なら誰でも想像でき
るだろう。

初めてリタルードは血縁者に同情した。とくに笑うしかなくて笑っていた人に。

「そのあと、財産のこととか権利のこととか詳しく書いたものが見つかったから、一
応今のところなんとかなってるけどね。
 居なくなるっていうのは今までにないパターンだから、本気で帰ってこないんじゃ
ないかって説が最有力」

「へぇ…」

本当はセリアナの手から湯のみをもぎ取って地面に叩き付けたいくらいの気分だった
が、餡が包まれた餅を口の中につっこんで自分を抑えた。

「えええ、セーラちゃんの伯父様行方不明になっちゃったのぉ?!」

リタルードとセリアナの背後----つまりは店の中から、第三者が頓狂な声を上げた。


二人は立ち上がって振り返り、その人物を確認する。セリアナの眼が驚きに丸くなっ
て、それから顔いっぱいに破顔した。

「うっわぁ、うっそぉ。マリじゃん。なんで?」

「だって、ここうちの旦那の実家だもん。セーラちゃんの声ってよく通るから、すぐ
わかっちゃった。セーラちゃんこそなにしてるの?」

「へぇ。あんたの旦那、エイドで店だしてるもんね。ここ関連か。
 私は仕事。コレのお守り」

コレ扱いされたリタルードは、年嵩の女性二人が発する再開のエネルギーに押される
ものを感じて、文句を言うのをやめておく。

「あ、リタですー。よろしくー」

「よろしくー」

リタルードが軽く頭をさげると、マリもぺこりとお辞儀をする。

「マリは、私の学生時代の友達なの。
 あ、さっきの話とコレについてはうちの家の内証の類だからこれ以上聞かないで
ね。あとさっきの話は一応秘密で」

「うん、わかったぁ」

マリのセリアナにぽやぽやと頷くマリの姿は不安を感じさせるものだったが、『一
応』と言っているのだからそれくらいでいいのかもしれない。

「ねね、セーラちゃんこれから時間あるぅ?」

久しぶりに会った友人として、まったくもって正当な要求をマリが発すると、セリア
ナは渋面になる。

「うー、すっっっごい無念なことに、このあとすぐにファイの街に行かなきゃいけな
いのよ」

「そっかぁ…、じゃあ仕方ないね」

がくりと肩を落とすマリを見て、セリアナは「うー」と唸る。そして「あ」と声をあ
げると、リタルードの背中をぽんと叩いた。

「じゃあ、コレしばらく貸してあげる」

「あー、なんとなくそういう予感はしてたよ」

「これでも大陸規模をぶらぶらしてる人間だから話題は豊富だし、心身もしっかりし
てるはずだからいきなりダガーを振り回したりすることもないと思うわよ」

旅人に対する偏見を強化するような物言いをして、セリアナはマリに「どう?」と問
うた。

「…えーと、私はお客さんって好きだから嬉しいんだけど、リタちゃん? はそれで
いいのかなぁ?」

マリは話の飛びように目を丸くしている。

その振る舞いは一貫しておっとりと柔らかい。口調もしぐさもゆったりとしたものだ
が、他者にいらだちを感じさせるものではない。

しっとりと白い肌や、丁寧に手入れされたこまかく波打つ黒い髪、ふっくらとした頬
なんかから伝わってくる満たされた雰囲気は、この人物が自らの置かれた環境を如実
に語る。

まぁ合格、かな。

「今、僕の置かれている状況は気に入らないけど、お客になるのは僕も好きだから招
待をお受けするよ。暇だし」

招待されてるわけではないけれど、と心の中で付け加えてリタルードは言った。

「よかったぁ。実は私、旅人さんの話って大好きなの」

にこにこと言うマリの様子に、犬猫を拾って家人を困らせるタイプの人なのかな、と
リタルードはひそかに思った。


そんなやり取りがあって、その次の日、エイドの街に戻るというマリにくっついて、
リタルードはそのまま客分として彼女の家に落ち着いている。

友人の血縁者らしい子どもを客としてあっさり向かえ入れるマリも相当の変わり者だ
が、知らない人間が居座っていてもいじりはしても不審感をほとんど示さない店の人
間たちも変わっている。

「あの人の『拾い人』は今にはじまったことじゃないから」

やんわりと疑問を呈してみると、職人の一人からこう返ってきた。
彼女の連れてくるものは、犬猫どころではなかったらしい。

「ほや~っとして見えても、姐さんの人の見る目は確かだからな。信用してんだよ」


人一人にこう言わせるとは、なるほどこの店は相当うまく行っているのだろう。

「私、旅人さんって、本当にすごいと思う」

リタルードが器の中身を平らげるぐらいになって、マリがふと真剣な顔になって言っ
た。

「そりゃあ、私だって自分のことはそれなりに偉いと思うわ。
学校で修めた学問から得たものをちゃんと自分の中で生きたものに転換して、旦那の
お店だけどここまで大きくしたのは私の力だって自覚もある。でもね…」

「でも?」

「私は私を絶対に認めてくれる人がいるところでしか生きられないんだもの。夫も職
人さんたちも私のことを信じていてくれるから、私は力を出せるの。旅人さんの話を
聞いてると楽しいし、憧れるけど、私はそんな自分の居場所が絶対的じゃない生活に
は、耐えられないと思う。いつだって手を伸ばしたら、その手を取ってくれる人が決
まってないとすぐに駄目になる人間だと思うの」

「マリさんは、そういうのに耐える力が欲しいの?」

リタルードが尋ねると、マリは首を横にふった。

「ううん、そういうのじゃなくて。単に、本当にすごいなぁって…。やっぱ、自分が
できないことをできてる人って、単純にすごいって思うから」

「うん、だから、僕はマリさんのことを単純に凄いって思うよ」

リタルードがそういうと、マリは顔をあげ目を丸くして、それからぱっと笑んでリタ
ルードに「ありがとう」と言った。

なるほどな、とリタルードは思う。
ほとんど見ず知らずの人間に、弱音を吐いて相手から自分の聞きたい言葉を引き出し
て、それでも相手にはほとんど不快感を感じさせない。それどころか、自分が感じて
いるのは相手といくらかの感情を共有した心地よさと、マリの笑顔を引き出した満足
感だ。

まっすぐに感情を出す彼女の性質は商売に向いていないようにも思えるが、相手を選
んでやれば他者の信頼を勝ち取ることができるだろう。しかもその選出は無意識に行
われているから、嫌味がない。その資質が、彼女の能力を発揮するのに必要な土台を
形成させているのだろう。

「あれ…、なんか騒がしいな」

調理場のほうから、普段とは違う喧騒が伝わってきて、マリは首をかしげた。
この店の調理場は、甘味処という性質も関係してか怒鳴り声が行き交うことも少ない
し、手際もよく働くのがとても心地よいと職人の一人からリタルードも聞いている。
それが今、不意に人々の混乱する気配が伝わって来た。

確認しに行こうとマリが立ち上がったとき、足音が早い間隔で伝わってきて、調理場
に通じるドアが勢いよく開いた。

「助けてください!」

飛び込んできたのは、マリと同年代くらいの女性だった。
長いまっすぐな黒い髪を乱して、はぁと荒く息を吐く。

「今、追われてて…それで逃げて…」

絶え絶えに言葉を口にする彼女の言葉を制して、マリはきっぱりと頷いた。

「うん、わかったそこ通って」

「ええ?! マリさんいいの?」

あまりの決断の早さに、リタルードが思わず抗議めいた声をあげると、マリはきっと
リタルードをきっと睨んで言った。

「困ってる人助けるのって当たり前でしょ! この先家ちょっと造りがややこしいか
らリタちゃん案内してあげて。 裏から出て、路地の2本目右に曲がったら、ミィ爺
の店だからとりあえず隠れられると思う」

リタルードが曖昧に頷くのを確認して、マリはさっき女性が出てきたドアの向かいに
ある扉を開けて、有無を言わさない様子で二人を睨めつけた。

仕方なくリタルードがマリの横を通って部屋から出ると、女性が後ろからついて来
た。

「幸運を!」

マリが、駆け出した二人の背に声を送った。

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2007/02/11 23:45 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヴィル&リタ

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