忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/18 23:47 |
ナナフシ  9:Wo Licht ist, da ist auch Schatlen./アルト(小林悠輝)
キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
--------------------------------------------------------------------------

 まぁ、一応探すだけ探してみるか。万が一オルレアンが負けたらその瞬間に握り潰さ
れそうな気がしないでもないので、醒めた目でくるりと周囲を一望する。大きな人影に
握られているお陰で視界は高い。ありがたみを感じないのは、見下ろす景色がまったく
何もおもしろくないからだろうか。

「特になにもいませんねー」

「そんなはずないのよ!」

 ないのよ、と言われても。眼下に広がるのは黒い町並み。迷路じみた路地が幾重にも
交差し、重なり、歪んでいる。目が悪いつもりはないが自分達以外に動くものは見つけ
られない。

 そもそも“この馬鹿が基本にしている生物”という言葉自体が意味不明――寄生する
生物の類だということだろうが、どうしてそんなことがわかるのか、さすがオカマはい
ろんなことを知っているなぁ。彼女(彼)の声はだいぶ切羽詰まっている。このままい
けば抹殺作戦は成功だ。さてどうする?

 まぁ、おなじ姿勢で居続けるのも疲れるし。
 残念ながら成功間違いなしのこの作戦を放棄することも考慮に入れないでもない。

「はいはいわーかーりーまーしーたー。
 探すだけ探すのであなたは気にせず死闘を続けてください」

「さっきまでと態度違いすぎない!?」

「短時間でこれだけヒドイ目に遭えば、猫かぶり続ける心の余裕なんかなくなるです」

「それでもかぶり続けるのが円滑な人間関係のコツよ」

 あなたに言われても、と反論しかけて、やめる。不毛だ。
 アルトは脱出しようと軽くもがいて、なんとか両腕を自由にすることに成功した。
 化物はオカマを食べようとすることに夢中らしい。このまま逃げられないかなと思っ
たが、さすがに気づかれるだろう。

 ここは観客席としてはなかなかの位置だし、もう少し機会を待ってみようか。
 巨大な手に肘を置いて頬杖をつき、はぁとため息をついてから改めて町を観察する。
のっぺりとした、艶のない黒檀の建物が立ち並んでいる。その一部が歪んで、巨大な人
型となってオルレアンと争っている。基本にしている生物とやらは見つからない。

 影のような町はどこまでもどこまでも続いている。
 これは――

 目を閉じて、改めて町を見下ろす。
 黒い町。落ちる影は影ではない。染める闇は闇ではない。すべてニセモノ。
 すぐそこにある巨大な黒い手は、町とまったくおなじ色をしている。

 どこかに本物の気配を感じる。無機質な世界のうちにあるそれは、間違いなく本物の
影で、本物の闇。さっきまでそんなものはなかったはずだ。
 首の付け根でチリリとシェイドが身じろぎした。

「あの」

「見つけたの!?」

「手を出していいですか?」

 ぎぢ、と嫌な音がして鎌の柄が歪んだように見えた。なんだかとても男らしい唸り声
を上げて耐えるオルレアン。これでオカマじゃなかったらとても頼りになりそうな軍人
に見えないこともないのになぁと思いながら、アルトは彼女が頷いたと勝手に解釈した。

「 Leise flehen meine Lieder durch die Nacht zu dir; 」

 影がある。何かがある。この世界のものではない何か、或いは誰か。
 引き寄せてみようと手を伸ばして唱える。怪物の中に何かがある。

「 In den stillen Hain her nieder,Liebchen, komm zu mir! 」

 蠢く気配があって、巨大な人影が一瞬、どろりと崩れた。
 すぐに形を取り戻す黒の向こうに別の色彩が確かに見えた。
 人間の肌の色。違う。醜く膨れ、濁った赤紫に変色した、崩れかけの何か。

PR

2007/02/11 23:43 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<ナナフシ  8:A great fierce battle named endless sterility/オルレアン(Caku) | HOME | ヴィル&リタ-1 「help help help」/リタ(夏琉)>>
忍者ブログ[PR]