キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
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果たして胸やら腰やらの問題なのだろうか。まぁ、どうでもいいけど。
身の周りから変人が減ったと喜ぶべきなのか、それとも、その変人の中でもいちばん
ヤバそうな人と二人っきりで取り残されたのを嘆くべきなのか。
間違いなく後者だろうと思いながらも、とりあえずこれでしばらく「筋肉」という単
語を聞く頻度は減るな、よかったよかったと相反したことを思う。
思いながら、オルレアンの斜め後ろをとぼとぼと歩く。
黒の町並みは変わりばえなく続いている。無暗矢鱈に数の多い岐路と路地。
これでははぐれても仕方ないなと思わないでもなかったが、それにしても不自然すぎ
る。自称紳士が、逃れるために何か余計なことでもしたのだろうか。
だとしたら後で腕の一本でも使い物にならなくして――
「あああああ駄目だ、毒されちゃ駄目だ……」
「あら興味があるならいつでも歓迎するわよ」
「いらないです。何のことだかわかってて言ってるんですか?」
オルレアンが笑ったのが、顔を見なくてもわかった。
恐らく、直視したら無事ではいられない類の笑みに違いないと本能だとか無意識の奥
深くだとかそういう遠いところで感じ取って、アルトは足元に視線を落とした。
「もちろん私の美貌よねー?」
「…………」
会話が途切れる。
そのまま二人分の足音だけが谺して、十数秒経ったところでアルトは再び口を開いた。
「あの二人はどこへ言ったと思うですか?」
「そうねぇ……ギュスターヴったら寂しがり屋サン☆ だから、一人で大丈夫かしら」
アルトは少しだけ黙ってから、抑揚のない声で応えた。
「単独行動できない軍人ってどうなんですか」
「あえてツッコミどころ外してきたわね。ギュスターヴは一人になるとついついちょっ
と容赦や寛容やその他もろもろのものを遠くにフルスイングしちゃうだけだから。別に
なくてもいいものよね。むしろ時にはだいぶ邪魔よね」
「さっきから容赦なかった気がするですけど」
「甘いわ」
何が? と問おうとは思わなかった。不穏な質問でしかない。
オルレアンは喜んで応えてくれるだろうが、聞いてしまったら取り返しのつかないこ
とになる。これもどこかからの警告。
神経が張り詰めている。
武器の一つでも持ってくればもう少し平静でいられるだろうか。
魔法? ああ、そういえばそんなものも使えたな……
そう思いながら周囲を見やる。力を貸してくれそうな、意思持つ自然要素、ようする
に精霊の気配がまったくない。使えるにしても、延髄の辺りに棲みついている闇の精霊
だけだ。役に立たない。溜め息。
「武器になるようなもの持ってません?」
「私の鞭を使いたいっですて? いいわよ、使いこんで革がなめらかだから初心者でも
使いやすいと思うし、私がみーっちり教えてあげるわよ」
「やっぱりいいです」
話題の選択から誤ったのか、それとも話相手との相性が悪すぎるのか。
これは悪い夢だから一刻も早く目覚めて忘れよう。そのためにはどうしよう。
「何かうわーっとすごいモンスターとか出てきて倒したらぜんぶ片付いて一件落着とか
楽でいいと思いませんか」
「そういうシチュもありよね。ホラーからバイオレンスアクションに! いろんなアレ
ソレコレが飛び散る冒険活劇も捨てがたいわ」
「特にバイオレンスは望んでないです」
「あら、冷たーい。流血や破砕のない暴力なんてないのよ」
「破砕はそうそうないと思います」
そうかしらー、と首を傾げるオルレアンの確信犯的態度を横目にしながら、アルトは
またこっそり溜め息をついた。
それと同時にごごごごごとわざとらしいほど大きな地響きが起こり、行く手の町並み
が歪んでとてもとても大きな黒い化物の姿になったので、アルトは警戒するよりも先に、
うわぁ望み通りになったけどこれを何とかしても一件落着しそうな要素が一つもないぞ
とがっかりした。
場所:正エディウス国内?
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果たして胸やら腰やらの問題なのだろうか。まぁ、どうでもいいけど。
身の周りから変人が減ったと喜ぶべきなのか、それとも、その変人の中でもいちばん
ヤバそうな人と二人っきりで取り残されたのを嘆くべきなのか。
間違いなく後者だろうと思いながらも、とりあえずこれでしばらく「筋肉」という単
語を聞く頻度は減るな、よかったよかったと相反したことを思う。
思いながら、オルレアンの斜め後ろをとぼとぼと歩く。
黒の町並みは変わりばえなく続いている。無暗矢鱈に数の多い岐路と路地。
これでははぐれても仕方ないなと思わないでもなかったが、それにしても不自然すぎ
る。自称紳士が、逃れるために何か余計なことでもしたのだろうか。
だとしたら後で腕の一本でも使い物にならなくして――
「あああああ駄目だ、毒されちゃ駄目だ……」
「あら興味があるならいつでも歓迎するわよ」
「いらないです。何のことだかわかってて言ってるんですか?」
オルレアンが笑ったのが、顔を見なくてもわかった。
恐らく、直視したら無事ではいられない類の笑みに違いないと本能だとか無意識の奥
深くだとかそういう遠いところで感じ取って、アルトは足元に視線を落とした。
「もちろん私の美貌よねー?」
「…………」
会話が途切れる。
そのまま二人分の足音だけが谺して、十数秒経ったところでアルトは再び口を開いた。
「あの二人はどこへ言ったと思うですか?」
「そうねぇ……ギュスターヴったら寂しがり屋サン☆ だから、一人で大丈夫かしら」
アルトは少しだけ黙ってから、抑揚のない声で応えた。
「単独行動できない軍人ってどうなんですか」
「あえてツッコミどころ外してきたわね。ギュスターヴは一人になるとついついちょっ
と容赦や寛容やその他もろもろのものを遠くにフルスイングしちゃうだけだから。別に
なくてもいいものよね。むしろ時にはだいぶ邪魔よね」
「さっきから容赦なかった気がするですけど」
「甘いわ」
何が? と問おうとは思わなかった。不穏な質問でしかない。
オルレアンは喜んで応えてくれるだろうが、聞いてしまったら取り返しのつかないこ
とになる。これもどこかからの警告。
神経が張り詰めている。
武器の一つでも持ってくればもう少し平静でいられるだろうか。
魔法? ああ、そういえばそんなものも使えたな……
そう思いながら周囲を見やる。力を貸してくれそうな、意思持つ自然要素、ようする
に精霊の気配がまったくない。使えるにしても、延髄の辺りに棲みついている闇の精霊
だけだ。役に立たない。溜め息。
「武器になるようなもの持ってません?」
「私の鞭を使いたいっですて? いいわよ、使いこんで革がなめらかだから初心者でも
使いやすいと思うし、私がみーっちり教えてあげるわよ」
「やっぱりいいです」
話題の選択から誤ったのか、それとも話相手との相性が悪すぎるのか。
これは悪い夢だから一刻も早く目覚めて忘れよう。そのためにはどうしよう。
「何かうわーっとすごいモンスターとか出てきて倒したらぜんぶ片付いて一件落着とか
楽でいいと思いませんか」
「そういうシチュもありよね。ホラーからバイオレンスアクションに! いろんなアレ
ソレコレが飛び散る冒険活劇も捨てがたいわ」
「特にバイオレンスは望んでないです」
「あら、冷たーい。流血や破砕のない暴力なんてないのよ」
「破砕はそうそうないと思います」
そうかしらー、と首を傾げるオルレアンの確信犯的態度を横目にしながら、アルトは
またこっそり溜め息をついた。
それと同時にごごごごごとわざとらしいほど大きな地響きが起こり、行く手の町並み
が歪んでとてもとても大きな黒い化物の姿になったので、アルトは警戒するよりも先に、
うわぁ望み通りになったけどこれを何とかしても一件落着しそうな要素が一つもないぞ
とがっかりした。
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