ャスト:ヴィルフリード・リタルード・ディアン・フレア
NPC:なし
場所:宿屋
---------------------------------------
「すまなかったな……」
どうしたらよいのか、分からず、半ば硬直しているヴィルフリードに、フレア
は目を赤くしながらそう言った。
「………大丈夫か?」
ヴィルフリードは、自分でも、何が大丈夫なんだ、と思うのだが、このような
場面ではお決まりの台詞しか出てこない。
そして、彼女も、お決まりの返しをするんだ。ヴィルフリードはそう確信す
る。なんていったって、わかりやすい、彼女のことだ。
「ああ……」
「アイツは……フレアのいい人か何かかい?」
「……違う。が、大切な、仲間なんだ。ディアンというんだが…。
ちょっとあって……少しだけ別行動してて、すぐに落ち合うはずだったんだ」
「……じゃぁ……なんでアイツが」
「それでも」
ヴィルフリードの語尾に重ね、強く、フレアの言葉が塞ぐ。
「それでも、私は謝らなければならない。不快な思いをさせてしまったのなら
ば」
意外であった。
彼女の場合、自分に非が無ければ、謝る必要の無いことをしない性格だと、
ヴィルフリードは思っていた。
あぁ。そうか。
あの白尽くめの男が、別れを極度に怖れる原因であり、……更に言ってしまえ
ば、フレアの弱さであり、強さである源なのだろう。
フレアが立ち上がる。
「……今日は、本当にすまなかった。こんなことにもなってしまって……。
ヴィルフリードは、気にしないでくれ。後は、私がすることだから」
目の端が赤いまま、少し微笑むフレアを見て、ヴィルフリードは謂れも無く、
なんだか悲しくなった。
だが、ヴィルフリードは、「そうか」と、一言だけ言い、それ以上何も言わ
ず、部屋に戻った。
部屋に設置されているランプに火も灯さず、月明かりだけで、ヴィルフリード
は部屋で酒を飲んでいた。
「不味い……酒だ」
折角、外に繰り出してまで買ってきたというのに、台無しだ。酔いもしない。
が、そのまま飲み続ける。
『女を泣かす男なんざ、クソ野郎だ!』
あの時、怒りというよりも、苛立ちが身を焦がしていた。
勘違いしているディアンとか言う男の頭の悪さにも。
弁護もせず、それどころか崩れ落ちるフレアの脆さにも。
自分の、つまらないからかいの混ざった言動が発端だということにも。
だから、八つ当たりのように奴を振り向かせたかった。
ディアンに、涙を流しているフレアを見せつけ、その顔が更に歪むのが見た
かった。
しかし、それをフレアに止められ、ヴィルフリードは、相手の傷つく言葉を、
わざと選んで吐き捨てた。
それでも、ディアンは振り返らなかった。
今思うと、振り向かないで良かったと思う。
「どっちがクソ野郎だ……」
あぁ。早く明日にならないだろうか。
明日も、リタと無意味な掛け合いをして、何も考えずに楽になりたい。
そう、祈るように、ヴィルフリードは机に倒れこみ、目を閉じた。
NPC:なし
場所:宿屋
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「すまなかったな……」
どうしたらよいのか、分からず、半ば硬直しているヴィルフリードに、フレア
は目を赤くしながらそう言った。
「………大丈夫か?」
ヴィルフリードは、自分でも、何が大丈夫なんだ、と思うのだが、このような
場面ではお決まりの台詞しか出てこない。
そして、彼女も、お決まりの返しをするんだ。ヴィルフリードはそう確信す
る。なんていったって、わかりやすい、彼女のことだ。
「ああ……」
「アイツは……フレアのいい人か何かかい?」
「……違う。が、大切な、仲間なんだ。ディアンというんだが…。
ちょっとあって……少しだけ別行動してて、すぐに落ち合うはずだったんだ」
「……じゃぁ……なんでアイツが」
「それでも」
ヴィルフリードの語尾に重ね、強く、フレアの言葉が塞ぐ。
「それでも、私は謝らなければならない。不快な思いをさせてしまったのなら
ば」
意外であった。
彼女の場合、自分に非が無ければ、謝る必要の無いことをしない性格だと、
ヴィルフリードは思っていた。
あぁ。そうか。
あの白尽くめの男が、別れを極度に怖れる原因であり、……更に言ってしまえ
ば、フレアの弱さであり、強さである源なのだろう。
フレアが立ち上がる。
「……今日は、本当にすまなかった。こんなことにもなってしまって……。
ヴィルフリードは、気にしないでくれ。後は、私がすることだから」
目の端が赤いまま、少し微笑むフレアを見て、ヴィルフリードは謂れも無く、
なんだか悲しくなった。
だが、ヴィルフリードは、「そうか」と、一言だけ言い、それ以上何も言わ
ず、部屋に戻った。
部屋に設置されているランプに火も灯さず、月明かりだけで、ヴィルフリード
は部屋で酒を飲んでいた。
「不味い……酒だ」
折角、外に繰り出してまで買ってきたというのに、台無しだ。酔いもしない。
が、そのまま飲み続ける。
『女を泣かす男なんざ、クソ野郎だ!』
あの時、怒りというよりも、苛立ちが身を焦がしていた。
勘違いしているディアンとか言う男の頭の悪さにも。
弁護もせず、それどころか崩れ落ちるフレアの脆さにも。
自分の、つまらないからかいの混ざった言動が発端だということにも。
だから、八つ当たりのように奴を振り向かせたかった。
ディアンに、涙を流しているフレアを見せつけ、その顔が更に歪むのが見た
かった。
しかし、それをフレアに止められ、ヴィルフリードは、相手の傷つく言葉を、
わざと選んで吐き捨てた。
それでも、ディアンは振り返らなかった。
今思うと、振り向かないで良かったと思う。
「どっちがクソ野郎だ……」
あぁ。早く明日にならないだろうか。
明日も、リタと無意味な掛け合いをして、何も考えずに楽になりたい。
そう、祈るように、ヴィルフリードは机に倒れこみ、目を閉じた。
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PTメンバー:ヴィルフリード、ディアン、フレア、リタルード
NPC:なし
場所:宿屋
-------------------------------
空は薄い青に染まり、星の姿も可視でなくなるころ。
「おっはよーございまーす!」
リタルード・ルーマは今日も無駄に元気だ。
「ねー、朝だよ。起きようよ僕が暇だから」
カーテンの隙間からわずかに差し込む弱々しい光は、まだ太陽が顔を覗かせていない
証拠。
うぐぐ、とうめき声をあげた犠牲者はもちろん。
「……なんでいるんだよ」
「僕がヴィルフリードさんの部屋の位置チェックして無かったとでも思ってるの?
起きようよ」
「…男の寝室に自分から進んで入ってくるのってものすごく感心しねぇぞ」
ヴィルフリードはぶつぶつ言いながらも身を起こす。寝起きはいいらしい。
「朝だからいいんだよ。それに僕気にしないし」
「俺は気にするんだ」
「リクエストあるなら添い寝くらいはするけど」
「いらん!」
リタルードがカーテンを開けると、東向きだったらしく空の端に赤みがさすのが見え
た。
窓を開けて冷たい清浄な空気を取り入れたい思いにかられたが、寝起きの人間のこと
を考慮して我慢する。
「アンタもまだ寝てればいいだろうに…」
「んー、実は僕徹夜しちゃってさ。今妙に頭冴えてて寝れないんだよねー」
「寝ろよ…」
「だって本買いだめしちゃったんだもん」
「俺は眠いんだ」
「『ブンツカ=ドンドンと子猫たち』って面白いね」
「知らん」
「昨日なんかあった?」
なにげなく差し込まれた一言にヴィルフリードは言葉に詰まる。
「…フレアの仲間とかいう男に会った」
「へぇ?」
意外だった。
リタルードは、ただ単に六本指の人物がもう一度現れたとか、自分の兄がもしかした
ら自分の接触した人物に興味を持ったのではなどの可能性を思いついて尋ねてみたの
だけれど。
しかも、どうやらただ会っただけではないらしい。
「…もう少し寝かせてくれ」
不機嫌な人間をつついて喋らせても、別に差し迫った必要が無いのならば、特に利益
はない。
しばしの沈黙のあと絞りだされたその言葉に、リタルードは従うことにする。
「ん、じゃあ朝ご飯は来てよね」
そのまま立ち去ろうとして、ふいに眩暈を感じた。
完全に健康体の自分には珍しく、寝不足で貧血を起こしたのか-----。
つんのめり、近くにあった椅子に足を引っ掛ける。そのまま倒れた先はあまり広くは
無い宿のこと。
「なっ」
開いたままのドアの外から聞こえた驚きの声に、リタルードがヴィルフリードを下敷
きにして振り向いた先にいたのは、白い装束の見知らぬ人物だった。
NPC:なし
場所:宿屋
-------------------------------
空は薄い青に染まり、星の姿も可視でなくなるころ。
「おっはよーございまーす!」
リタルード・ルーマは今日も無駄に元気だ。
「ねー、朝だよ。起きようよ僕が暇だから」
カーテンの隙間からわずかに差し込む弱々しい光は、まだ太陽が顔を覗かせていない
証拠。
うぐぐ、とうめき声をあげた犠牲者はもちろん。
「……なんでいるんだよ」
「僕がヴィルフリードさんの部屋の位置チェックして無かったとでも思ってるの?
起きようよ」
「…男の寝室に自分から進んで入ってくるのってものすごく感心しねぇぞ」
ヴィルフリードはぶつぶつ言いながらも身を起こす。寝起きはいいらしい。
「朝だからいいんだよ。それに僕気にしないし」
「俺は気にするんだ」
「リクエストあるなら添い寝くらいはするけど」
「いらん!」
リタルードがカーテンを開けると、東向きだったらしく空の端に赤みがさすのが見え
た。
窓を開けて冷たい清浄な空気を取り入れたい思いにかられたが、寝起きの人間のこと
を考慮して我慢する。
「アンタもまだ寝てればいいだろうに…」
「んー、実は僕徹夜しちゃってさ。今妙に頭冴えてて寝れないんだよねー」
「寝ろよ…」
「だって本買いだめしちゃったんだもん」
「俺は眠いんだ」
「『ブンツカ=ドンドンと子猫たち』って面白いね」
「知らん」
「昨日なんかあった?」
なにげなく差し込まれた一言にヴィルフリードは言葉に詰まる。
「…フレアの仲間とかいう男に会った」
「へぇ?」
意外だった。
リタルードは、ただ単に六本指の人物がもう一度現れたとか、自分の兄がもしかした
ら自分の接触した人物に興味を持ったのではなどの可能性を思いついて尋ねてみたの
だけれど。
しかも、どうやらただ会っただけではないらしい。
「…もう少し寝かせてくれ」
不機嫌な人間をつついて喋らせても、別に差し迫った必要が無いのならば、特に利益
はない。
しばしの沈黙のあと絞りだされたその言葉に、リタルードは従うことにする。
「ん、じゃあ朝ご飯は来てよね」
そのまま立ち去ろうとして、ふいに眩暈を感じた。
完全に健康体の自分には珍しく、寝不足で貧血を起こしたのか-----。
つんのめり、近くにあった椅子に足を引っ掛ける。そのまま倒れた先はあまり広くは
無い宿のこと。
「なっ」
開いたままのドアの外から聞こえた驚きの声に、リタルードがヴィルフリードを下敷
きにして振り向いた先にいたのは、白い装束の見知らぬ人物だった。
PTメンバー:ヴィルフリード、ディアン、フレア、リタルード
NPC:なし
場所:宿屋
-------------------------------
「・・・・・・・・」
さて、どうするかな・・・?
今もまだ頭にあるのは、昨夜の俺の子供じみた言動と、フレアの言葉。
こういうときに痛切に感じるのは、けして止まることの無い時間の里譴料・蕕靴気澄・・鹿追崗
迷い迷って答えの出ないまま、朝が来た。
いや、違う。
答えは決まってるんだ。
別に迷うほどのことじゃないが・・・問題は、そう。
「なんて言うかだよな?」
口に出して呟き、部屋を出る。
食堂なら、ヘンに意識することなく自然にフレアと会うことも出来るだろうからな。
1階へ降りる階段へ向かおうとしたその途中で、横合いの部屋から聞こえてきた物音に俺の意識が引きつけられる。
開け放された扉から見るとは無しに中を覗くと、見覚えのある顔が二つ、並んでいる。
一つは、俺が宿に入る前にあった美形の少年だが・・・
もう一つは、昨日の晩俺をクソ野郎よばわりしてくれたヤツじゃねぇか・・・!
一瞬、昨夜の恥ずかしい記憶がよみがえってきて、思わず顔をしかめてしまう俺だった。
でも、今はそんなこと思い出してる場合じゃねぇしな・・・なにせ、時間が経ったらあいつは本当に宿を出て行ってしまうに決まってるから、なおのこと急がねぇと!
今の俺はこれからどうするかってことで―つまりはほんの数分後に起こるだろうフレアとの出会いをどうするかってことで―頭がいっぱいなんだから、こんな野郎どもに朝から関わってるヒマはねぇ!!
徹底的にシカトすることを決意して再び階段に向かおうとした瞬間・・・
「・・・・」
速攻ばっちり目が合っちまったじゃねぇか!
俺を認識した途端、眠たげだった中年の目がくわっと見開かれた。
「てめぇ・・・!!」
今度は何を言うつもりだ、コイツ?
面倒くさいうえに、朝から中年なんぞ暑苦しいことこの上ない。
上の少年を跳ね飛ばして立ち上がろうとした男の鼻先で、思い切りドアを閉めてやった。
「悪ィけどな、朝っぱらからおっさんなんかにからんでるヒマはねーんだ!」
力一杯締めてやったから、ドアの蝶番がいびつに歪んでしまった・・・らしい。
ガチャガチャドアノブを捻る音と共に部屋から聞こえてくる怒声を軽く聞き流し、俺は鼻歌交じりに食堂へと向かった。
さして広くも無い食堂だから、入った瞬間にフレアの顔が目に入った。
俺が来たのに気づいたのか、彼女のパンを運ぶ手が、止まった・・・
(どうする!?さあ、どうする、俺!!なんて言うんだ、オイ!?)
昨夜から答えの出ない、自問自答。
だが、もう後戻りはできない。
若干の緊張に、手のひらから染み出てくる汗を感じつつ、俺は何食わぬ顔で席に着いた。
運ばれてきた朝食に手を伸ばすが、あえてフレアの方は見ない。
というか、見れなかった。
ずっと、目線を落としたまま食事を続けるが、その間ずっと、フレアの視線を感じる。
息が止まりそうな・・・緊張。
「フレア?」
声をかけると、彼女がぴくり、と動いたのが分かった。
「・・・なんだ?」
わずかに、語尾が震えているのは、やはり彼女も緊張しているのだろう。
それに勢いづけられ、俺は更に言葉を続ける。
「朝飯、もういいのか?」
見れば、フレアの皿はほとんど減っておらず、わずかにパンがちぎられているだけだ。
そりゃあ・・・ムリもねぇけどさ。
今の俺の言葉をどう感じたのか、帰ってこない返事をしばらく待ってみる。
「・・・・・・・・」
さっきより強く感じるフレアの視線に、俺は咳払いを一つ。
「しっかり食っとかないと、体がもたないぞ?12時にはこの宿を立って次の町に移るからな。」
はっと、フレアが息を呑んだのが聞こえた。
「それは、どういう・・・?」
どっちなんだろう、そう思いつつ期待が80%。
そんな声色だった。
もちろん期待は裏切らないし、裏切らせはしない。
努めて平静に、俺は言葉をつむいだ。
「どうもこうも、聞いたまんまだろ・・・11時半には部屋に行くから、待ってろよ?」
それだけをどうにか言い終えると、俺は席を立った。
食堂を出る間際に見た、何かを堪えるように唇をかんだフレアの泣き笑いの表情が、胸に残った・・・
NPC:なし
場所:宿屋
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「・・・・・・・・」
さて、どうするかな・・・?
今もまだ頭にあるのは、昨夜の俺の子供じみた言動と、フレアの言葉。
こういうときに痛切に感じるのは、けして止まることの無い時間の里譴料・蕕靴気澄・・鹿追崗
迷い迷って答えの出ないまま、朝が来た。
いや、違う。
答えは決まってるんだ。
別に迷うほどのことじゃないが・・・問題は、そう。
「なんて言うかだよな?」
口に出して呟き、部屋を出る。
食堂なら、ヘンに意識することなく自然にフレアと会うことも出来るだろうからな。
1階へ降りる階段へ向かおうとしたその途中で、横合いの部屋から聞こえてきた物音に俺の意識が引きつけられる。
開け放された扉から見るとは無しに中を覗くと、見覚えのある顔が二つ、並んでいる。
一つは、俺が宿に入る前にあった美形の少年だが・・・
もう一つは、昨日の晩俺をクソ野郎よばわりしてくれたヤツじゃねぇか・・・!
一瞬、昨夜の恥ずかしい記憶がよみがえってきて、思わず顔をしかめてしまう俺だった。
でも、今はそんなこと思い出してる場合じゃねぇしな・・・なにせ、時間が経ったらあいつは本当に宿を出て行ってしまうに決まってるから、なおのこと急がねぇと!
今の俺はこれからどうするかってことで―つまりはほんの数分後に起こるだろうフレアとの出会いをどうするかってことで―頭がいっぱいなんだから、こんな野郎どもに朝から関わってるヒマはねぇ!!
徹底的にシカトすることを決意して再び階段に向かおうとした瞬間・・・
「・・・・」
速攻ばっちり目が合っちまったじゃねぇか!
俺を認識した途端、眠たげだった中年の目がくわっと見開かれた。
「てめぇ・・・!!」
今度は何を言うつもりだ、コイツ?
面倒くさいうえに、朝から中年なんぞ暑苦しいことこの上ない。
上の少年を跳ね飛ばして立ち上がろうとした男の鼻先で、思い切りドアを閉めてやった。
「悪ィけどな、朝っぱらからおっさんなんかにからんでるヒマはねーんだ!」
力一杯締めてやったから、ドアの蝶番がいびつに歪んでしまった・・・らしい。
ガチャガチャドアノブを捻る音と共に部屋から聞こえてくる怒声を軽く聞き流し、俺は鼻歌交じりに食堂へと向かった。
さして広くも無い食堂だから、入った瞬間にフレアの顔が目に入った。
俺が来たのに気づいたのか、彼女のパンを運ぶ手が、止まった・・・
(どうする!?さあ、どうする、俺!!なんて言うんだ、オイ!?)
昨夜から答えの出ない、自問自答。
だが、もう後戻りはできない。
若干の緊張に、手のひらから染み出てくる汗を感じつつ、俺は何食わぬ顔で席に着いた。
運ばれてきた朝食に手を伸ばすが、あえてフレアの方は見ない。
というか、見れなかった。
ずっと、目線を落としたまま食事を続けるが、その間ずっと、フレアの視線を感じる。
息が止まりそうな・・・緊張。
「フレア?」
声をかけると、彼女がぴくり、と動いたのが分かった。
「・・・なんだ?」
わずかに、語尾が震えているのは、やはり彼女も緊張しているのだろう。
それに勢いづけられ、俺は更に言葉を続ける。
「朝飯、もういいのか?」
見れば、フレアの皿はほとんど減っておらず、わずかにパンがちぎられているだけだ。
そりゃあ・・・ムリもねぇけどさ。
今の俺の言葉をどう感じたのか、帰ってこない返事をしばらく待ってみる。
「・・・・・・・・」
さっきより強く感じるフレアの視線に、俺は咳払いを一つ。
「しっかり食っとかないと、体がもたないぞ?12時にはこの宿を立って次の町に移るからな。」
はっと、フレアが息を呑んだのが聞こえた。
「それは、どういう・・・?」
どっちなんだろう、そう思いつつ期待が80%。
そんな声色だった。
もちろん期待は裏切らないし、裏切らせはしない。
努めて平静に、俺は言葉をつむいだ。
「どうもこうも、聞いたまんまだろ・・・11時半には部屋に行くから、待ってろよ?」
それだけをどうにか言い終えると、俺は席を立った。
食堂を出る間際に見た、何かを堪えるように唇をかんだフレアの泣き笑いの表情が、胸に残った・・・
キャスト:ヴィルフリード・リタルード・ディアン・フレア
NPC:なし
場所:宿屋
―――――――――――――――
朝食を食べなかったのは、食欲の問題とはまた別に理由があった。
――明日の朝ご飯も三人一緒だからね――
きっと彼女(彼)自身は何気なく言ったのだろう。
それでも、この約束だけは守らなければいけないような気がした。
カップを両手で包み込んだまま、考え込む。そんな動作をさっきから
何回も繰り返しているせいで、中のミルクはすっかり冷めてしまっていた。
「…」
ゼクスは、自分に『また会おう』と言った。リタは彼に何か思うところが
あるらしい。そうなるとヴィルフリードも一緒だろう。
ディアンだけは、まだゼクスの事を知らない。
(ディアンに話すのか…?巻き込んでしまうのか?)
ゼクスが間違いなく有害であるとは思わない。
しかし、彼を目の前にして警戒しないわけにはいかない。
何せ相手は、この宿を何のためらいもなく、根こそぎ消し飛ばそうとしたのだ。
一番いいのは自分ひとりでここを離れることだ――
傷つき、死に近づくのは自分だけでいい。
しかしディアンに『待ってろ』と言われた以上、巻き込みたくないからと
いって、黙って発つのは忍びない。
このまま一緒に行動するなら、少しでも危険な要素を含んでいそうなもの
――例えば、ゼクスがまた何らかの危険な行動に及ぶ可能性――が
あれば、仲間に警告するのが道理だろう。
それが杞憂だとしても、そのほうが遥かにいい。
ゼクスの事を話した上で、どうするかはディアンが決める。
「よし…」
小さく呟いて、カップを傾けて中のミルクを喉に流し込む。
冷め切ってむしろ冷たくなったそれは、意外と心地よく身体に沁み込んだ。
と、
どん、と軽く地の底から突き上げるような衝撃が宿を襲った。
「っ?」
むせそうになりながらも何とかすべて飲み込んで、状況を理解しようと
なんとなく見当をつけて右を見る。
ちょうどそこは窓で、あの男――ゼクスが昨日立っていたあたりだ。
すっと、凍えた空気が鼻を通る。瞳は窓を溶かしそうなほど外を見ている。
(来たのか…!?)
整理できたと思った頭の中は、既に崩れかけていた。
NPC:なし
場所:宿屋
―――――――――――――――
朝食を食べなかったのは、食欲の問題とはまた別に理由があった。
――明日の朝ご飯も三人一緒だからね――
きっと彼女(彼)自身は何気なく言ったのだろう。
それでも、この約束だけは守らなければいけないような気がした。
カップを両手で包み込んだまま、考え込む。そんな動作をさっきから
何回も繰り返しているせいで、中のミルクはすっかり冷めてしまっていた。
「…」
ゼクスは、自分に『また会おう』と言った。リタは彼に何か思うところが
あるらしい。そうなるとヴィルフリードも一緒だろう。
ディアンだけは、まだゼクスの事を知らない。
(ディアンに話すのか…?巻き込んでしまうのか?)
ゼクスが間違いなく有害であるとは思わない。
しかし、彼を目の前にして警戒しないわけにはいかない。
何せ相手は、この宿を何のためらいもなく、根こそぎ消し飛ばそうとしたのだ。
一番いいのは自分ひとりでここを離れることだ――
傷つき、死に近づくのは自分だけでいい。
しかしディアンに『待ってろ』と言われた以上、巻き込みたくないからと
いって、黙って発つのは忍びない。
このまま一緒に行動するなら、少しでも危険な要素を含んでいそうなもの
――例えば、ゼクスがまた何らかの危険な行動に及ぶ可能性――が
あれば、仲間に警告するのが道理だろう。
それが杞憂だとしても、そのほうが遥かにいい。
ゼクスの事を話した上で、どうするかはディアンが決める。
「よし…」
小さく呟いて、カップを傾けて中のミルクを喉に流し込む。
冷め切ってむしろ冷たくなったそれは、意外と心地よく身体に沁み込んだ。
と、
どん、と軽く地の底から突き上げるような衝撃が宿を襲った。
「っ?」
むせそうになりながらも何とかすべて飲み込んで、状況を理解しようと
なんとなく見当をつけて右を見る。
ちょうどそこは窓で、あの男――ゼクスが昨日立っていたあたりだ。
すっと、凍えた空気が鼻を通る。瞳は窓を溶かしそうなほど外を見ている。
(来たのか…!?)
整理できたと思った頭の中は、既に崩れかけていた。
PT:ヴィルフリード、ディアン、フレア、リタルード
NPC:なし
場所:宿屋
---------------------------------------------------
まどろみながら、ヴィルフリードは思っていた。
自分の取るべき行動を。
明白なほどに、正しいと思える行動を。
フレアの連れに、ゼクスのことを伝える。
フレアのことだ。連れに心配をかけまいと、黙っているかもしれない可能性
だってある。
その後、そのまま二人で旅をするか、もしくは手を貸して欲しいのならば、合
流する。それは、あちらの判断に任せよう。
勝手に人様の内情に自分から首突っ込むことなど、格好悪いの極みである。そ
してなにより大人気ない。
だから。
あの、ディアンとかいう奴に、知らせなければならない。
そう、確信するように、決意した。
そう。確信するように、決意していた。
あの瞬間までは。
◆ ◇ ◆ ◇
視界いっぱいに扉が映る。そして、鼻先にその扉が存在し……
「ちょ……」
ヴィルフリードは、途切れた言葉を吐き出した。
「オイ、待てよ……!」
「悪ィけどな、朝っぱらからおっさんなんかにからんでるヒマはねーんだ!」
ヴィルフリードの制止の声と、カブるようにディアンの怒声が響いた。
瞬時に。
ヴィルフリードの中で、何かが、膨れ上がった。
人が、こんなにも大人の態度をとろうとしているのに、何なんだ。こっちの言
い分も聞きもしねぇなんて、ガキと同等じゃねぇか。いや、大体、コイツの態度
は、出会った時からガキ丸出しだった。フレアのコトだって、勘違いにせよ、自
分に甲斐性が無ぇのが原因じゃないのか。なんでそこまで言われなきゃ、なん
ねぇんだ。
しかし、それでも、まだ、抑えていた。
腹を立てながらも、どうにか、「話し合う」という気持ちを持っていた。
ドアノブに手をかける。が、ドアはガチャリと音がするだけで、開かない。
蝶番が、さっきの衝動で歪んだのだろう。
「ドアが開かない」という、物理的な要因による苛立ち。膨れたものが、弾け
るには、そんな些細なきっかけで十分だった。
そして、弾けたものは、当然のごとく、爆(は)ぜる。
ヴィルフリードの頭の中は、真っ白に染まった。
あとは、考えなくてもよい。
溢れるものを迸らしるままに、口が言葉へと自動的に変換し、吐き出す。
「……オマエもあと数年たったら『おっさん』なんだよッ!!!!!!!!
でっけぇー図体して手前ェの中身はガキじゃねえか!
なのにイロボケだけはしっかり一人前にしやがって……!!
こンのエロガキャぁがぁぁぁぁぁぁッ!!!」
叫び終えた後に聞こえたのは、自分自身の荒い吐息と。リタの唾を嚥下する音
と。……廊下から聞こえる、気軽な足取りで降りる階段の音と、かすかな鼻歌の
旋律。
それを聞いたとき、ヴィルフリードの全身の力が、ガクリと抜けた。
そして、膝をついた衝撃と共に、ヴィルフリードの中で、何かが壊れた。
嗚呼。なんと意思の疎通というものが、難しいことか。
あぁ。なんと気持ちが通じぬことの、悔しいものか。
目の前いっぱいに塞がる木製の扉が、分厚い壁のようだ。
人と人の隔たりは、こんなにも絶望的なものなのか。
この、扉一枚分の壁。……それが、自分の今の敵なのか?
突如、笑いが込み上げてきた。
胃の底から、湧き上がる痙攣。
その感覚自体が面白くなり、更に笑いは続く。
「……ヴィルフリード……さん?」
おずおずと、不振げに、そして少々の怯えを孕んだ声が背後かけられ、ヴィル
フリードの笑いはピタリと急に収まる。
そして、振り返らずに、リタに話しかける。
「リタ」
いや。違う。
自分の敵は、こんな木製の、単純な造りの扉ではない。
自分の敵は。
「オマエに、トコトン付き合ってやる。ゼクスの件でも……お望みならばその、
『ブンツカ=ドンチャンとなんちゃら』」
「『ブンツカ=ドンドンと子猫たち』」
「……そのドンドンとかの本にも、付き合ってやる。
だがなぁ。リタ。『付き合う』ってのは、文字通り、お互いに「付き」、「合
う」んだ。
だから、当然、俺にも付き合って貰えるんだろうな?」
「何を……する気なの?」
「さっきの男に……トコトン嫌がらせをしてやる」
「……………へ?」
そう、見据え間違えるな。
自分の敵は、目の前の板切れなんぞではない。
生身の、人間だ。
あの、クソ野郎だ。
そこで、ヴィルフリードはようやく、リタに向きを変えた。
「うわぁ。ヴィルフリードさん、目の形は笑ってるのに瞳の奥底が澱んでる」
リタの客観的且つ正しい指摘を、ヴィルフリードは聞き流す。
「……で、どうなんだ? リタは、俺に付き合ってくれるのか?」
少し考え込んだあと、リタは、ヴィルをまっすぐ見ながら、問いかける。
「なんで、そこまで、あの人にこだわるの?」
ヴィルフリードの瞳の奥底の澱みが薄れた。
「俺には俺なりの事情があるってだけじゃ……納得してもらえないか?」
どこかで聞いたことのあるフレーズを、リタに突きつける。
「……って、誰かさんみたいに卑怯な言い方はしねぇぞ。
まぁ、理由は単純だ。
気に喰わねぇ。
全力を賭してまで、アイツに嫌がる顔をさせたい。
それだけだ」
瞳の奥底は、以前より更に濁っていった。リタは、今度はそれ告げないでい
た。
「うわぁ。大人気ない」
「相手がガキだからその土俵に乗っかったまでだ。何が悪い」
笑顔で悪意無く、これまた、冷静でかつ客観的な判断に、ヴィルフリードは開
き直ったようにそれを肯定する。
ヴィルフリードの顔が、ふっと緩み、今度は、いたずらっぽそうにニヤリと不
敵な笑みを作る。
「……リタ。俺のこと結構好きだよな?」
これまた、どこかで聞いたことのあるフレーズに、リタは、笑みを作り、応じ
る。
自分が使ったカードの役を、使われるとは。しかも、それを使われたのであれ
ば、自分はこう答えるしかないではないか。
どっちが卑怯なんだか。
そう思いながら、半ば、苦笑するように、リタは答える。
「まぁ、ね。……というか、僕、ヴィルフリードさんのこと、結構、『大』好き
かもしれない」
「……ヴィルでいい。
結構気分のイイモンだな。悪い気はしねぇな、その言葉」
「ヴィルさん。いいよ。付き合う。
……でも、どうするの?
殴りこみ? 闇討ち?」
「馬鹿言え。そんなことしたらこっちが死ぬ」
「うん、僕も言ってみただけ」
さらりとその場の空気が流れる。
「なぁに。お互い、利害は一致していることをするだけだ。
リタは、フレアにくっついていたい。
俺は、フレアにくっついてヤツの面白くなさそうな顔を見たい。
見たところ……あの二人は、少なからず好意を寄せ合っているが、デキちゃぁ
いない。
オマケにアイツは俺を嫌っている。だから、ただ、一緒にいりゃいいのさ。
要は恋路の邪魔さ。フレアにゃ悪いがな」
「馬に蹴られて死んじゃうよ?」
「障害が無きゃ燃え上がらないとも言うな」
リタは、ヴィルフリードの変容振りを面白がっていた。
昨日までの、一歩引いた態度が、今は無い。
どこか、何かに対して諦めていた色が、今は無い。
この人の本性は。子供だ。
屁理屈をこねながらムキになる、子供だ。
リタは、ヴィルフリードの本性を見たような気がした。
「で。これからどうするの? 閉じ込められているみたいだけども」
ヴィルフリードは、リタを通り過ぎ、カーテンを勢いよく開ける。
眩しい光が、刺すように部屋に滑り込んだ。
「決まっている。昨夜約束したじゃねぇか。
一緒に朝ごはんを食べるんだろう?
……3人では無くなったが……みんなで、仲良く、な」
そう言って、ヴィルは窓を開けた。
朝の、冷たさを含んでいる澄んだ空気が、くすんだ部屋の中に流れ込む。
ヴィルは、窓枠に足をかけた。
NPC:なし
場所:宿屋
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まどろみながら、ヴィルフリードは思っていた。
自分の取るべき行動を。
明白なほどに、正しいと思える行動を。
フレアの連れに、ゼクスのことを伝える。
フレアのことだ。連れに心配をかけまいと、黙っているかもしれない可能性
だってある。
その後、そのまま二人で旅をするか、もしくは手を貸して欲しいのならば、合
流する。それは、あちらの判断に任せよう。
勝手に人様の内情に自分から首突っ込むことなど、格好悪いの極みである。そ
してなにより大人気ない。
だから。
あの、ディアンとかいう奴に、知らせなければならない。
そう、確信するように、決意した。
そう。確信するように、決意していた。
あの瞬間までは。
◆ ◇ ◆ ◇
視界いっぱいに扉が映る。そして、鼻先にその扉が存在し……
「ちょ……」
ヴィルフリードは、途切れた言葉を吐き出した。
「オイ、待てよ……!」
「悪ィけどな、朝っぱらからおっさんなんかにからんでるヒマはねーんだ!」
ヴィルフリードの制止の声と、カブるようにディアンの怒声が響いた。
瞬時に。
ヴィルフリードの中で、何かが、膨れ上がった。
人が、こんなにも大人の態度をとろうとしているのに、何なんだ。こっちの言
い分も聞きもしねぇなんて、ガキと同等じゃねぇか。いや、大体、コイツの態度
は、出会った時からガキ丸出しだった。フレアのコトだって、勘違いにせよ、自
分に甲斐性が無ぇのが原因じゃないのか。なんでそこまで言われなきゃ、なん
ねぇんだ。
しかし、それでも、まだ、抑えていた。
腹を立てながらも、どうにか、「話し合う」という気持ちを持っていた。
ドアノブに手をかける。が、ドアはガチャリと音がするだけで、開かない。
蝶番が、さっきの衝動で歪んだのだろう。
「ドアが開かない」という、物理的な要因による苛立ち。膨れたものが、弾け
るには、そんな些細なきっかけで十分だった。
そして、弾けたものは、当然のごとく、爆(は)ぜる。
ヴィルフリードの頭の中は、真っ白に染まった。
あとは、考えなくてもよい。
溢れるものを迸らしるままに、口が言葉へと自動的に変換し、吐き出す。
「……オマエもあと数年たったら『おっさん』なんだよッ!!!!!!!!
でっけぇー図体して手前ェの中身はガキじゃねえか!
なのにイロボケだけはしっかり一人前にしやがって……!!
こンのエロガキャぁがぁぁぁぁぁぁッ!!!」
叫び終えた後に聞こえたのは、自分自身の荒い吐息と。リタの唾を嚥下する音
と。……廊下から聞こえる、気軽な足取りで降りる階段の音と、かすかな鼻歌の
旋律。
それを聞いたとき、ヴィルフリードの全身の力が、ガクリと抜けた。
そして、膝をついた衝撃と共に、ヴィルフリードの中で、何かが壊れた。
嗚呼。なんと意思の疎通というものが、難しいことか。
あぁ。なんと気持ちが通じぬことの、悔しいものか。
目の前いっぱいに塞がる木製の扉が、分厚い壁のようだ。
人と人の隔たりは、こんなにも絶望的なものなのか。
この、扉一枚分の壁。……それが、自分の今の敵なのか?
突如、笑いが込み上げてきた。
胃の底から、湧き上がる痙攣。
その感覚自体が面白くなり、更に笑いは続く。
「……ヴィルフリード……さん?」
おずおずと、不振げに、そして少々の怯えを孕んだ声が背後かけられ、ヴィル
フリードの笑いはピタリと急に収まる。
そして、振り返らずに、リタに話しかける。
「リタ」
いや。違う。
自分の敵は、こんな木製の、単純な造りの扉ではない。
自分の敵は。
「オマエに、トコトン付き合ってやる。ゼクスの件でも……お望みならばその、
『ブンツカ=ドンチャンとなんちゃら』」
「『ブンツカ=ドンドンと子猫たち』」
「……そのドンドンとかの本にも、付き合ってやる。
だがなぁ。リタ。『付き合う』ってのは、文字通り、お互いに「付き」、「合
う」んだ。
だから、当然、俺にも付き合って貰えるんだろうな?」
「何を……する気なの?」
「さっきの男に……トコトン嫌がらせをしてやる」
「……………へ?」
そう、見据え間違えるな。
自分の敵は、目の前の板切れなんぞではない。
生身の、人間だ。
あの、クソ野郎だ。
そこで、ヴィルフリードはようやく、リタに向きを変えた。
「うわぁ。ヴィルフリードさん、目の形は笑ってるのに瞳の奥底が澱んでる」
リタの客観的且つ正しい指摘を、ヴィルフリードは聞き流す。
「……で、どうなんだ? リタは、俺に付き合ってくれるのか?」
少し考え込んだあと、リタは、ヴィルをまっすぐ見ながら、問いかける。
「なんで、そこまで、あの人にこだわるの?」
ヴィルフリードの瞳の奥底の澱みが薄れた。
「俺には俺なりの事情があるってだけじゃ……納得してもらえないか?」
どこかで聞いたことのあるフレーズを、リタに突きつける。
「……って、誰かさんみたいに卑怯な言い方はしねぇぞ。
まぁ、理由は単純だ。
気に喰わねぇ。
全力を賭してまで、アイツに嫌がる顔をさせたい。
それだけだ」
瞳の奥底は、以前より更に濁っていった。リタは、今度はそれ告げないでい
た。
「うわぁ。大人気ない」
「相手がガキだからその土俵に乗っかったまでだ。何が悪い」
笑顔で悪意無く、これまた、冷静でかつ客観的な判断に、ヴィルフリードは開
き直ったようにそれを肯定する。
ヴィルフリードの顔が、ふっと緩み、今度は、いたずらっぽそうにニヤリと不
敵な笑みを作る。
「……リタ。俺のこと結構好きだよな?」
これまた、どこかで聞いたことのあるフレーズに、リタは、笑みを作り、応じ
る。
自分が使ったカードの役を、使われるとは。しかも、それを使われたのであれ
ば、自分はこう答えるしかないではないか。
どっちが卑怯なんだか。
そう思いながら、半ば、苦笑するように、リタは答える。
「まぁ、ね。……というか、僕、ヴィルフリードさんのこと、結構、『大』好き
かもしれない」
「……ヴィルでいい。
結構気分のイイモンだな。悪い気はしねぇな、その言葉」
「ヴィルさん。いいよ。付き合う。
……でも、どうするの?
殴りこみ? 闇討ち?」
「馬鹿言え。そんなことしたらこっちが死ぬ」
「うん、僕も言ってみただけ」
さらりとその場の空気が流れる。
「なぁに。お互い、利害は一致していることをするだけだ。
リタは、フレアにくっついていたい。
俺は、フレアにくっついてヤツの面白くなさそうな顔を見たい。
見たところ……あの二人は、少なからず好意を寄せ合っているが、デキちゃぁ
いない。
オマケにアイツは俺を嫌っている。だから、ただ、一緒にいりゃいいのさ。
要は恋路の邪魔さ。フレアにゃ悪いがな」
「馬に蹴られて死んじゃうよ?」
「障害が無きゃ燃え上がらないとも言うな」
リタは、ヴィルフリードの変容振りを面白がっていた。
昨日までの、一歩引いた態度が、今は無い。
どこか、何かに対して諦めていた色が、今は無い。
この人の本性は。子供だ。
屁理屈をこねながらムキになる、子供だ。
リタは、ヴィルフリードの本性を見たような気がした。
「で。これからどうするの? 閉じ込められているみたいだけども」
ヴィルフリードは、リタを通り過ぎ、カーテンを勢いよく開ける。
眩しい光が、刺すように部屋に滑り込んだ。
「決まっている。昨夜約束したじゃねぇか。
一緒に朝ごはんを食べるんだろう?
……3人では無くなったが……みんなで、仲良く、な」
そう言って、ヴィルは窓を開けた。
朝の、冷たさを含んでいる澄んだ空気が、くすんだ部屋の中に流れ込む。
ヴィルは、窓枠に足をかけた。