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2025/03/10 06:18 |
18.暗黒/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
PT:ヴィルフリード、ディアン、フレア、リタルード
NPC:なし
場所:宿屋
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 まどろみながら、ヴィルフリードは思っていた。
 自分の取るべき行動を。
 明白なほどに、正しいと思える行動を。

 フレアの連れに、ゼクスのことを伝える。
 フレアのことだ。連れに心配をかけまいと、黙っているかもしれない可能性
だってある。
 その後、そのまま二人で旅をするか、もしくは手を貸して欲しいのならば、合
流する。それは、あちらの判断に任せよう。
 勝手に人様の内情に自分から首突っ込むことなど、格好悪いの極みである。そ
してなにより大人気ない。
 だから。
 あの、ディアンとかいう奴に、知らせなければならない。

 そう、確信するように、決意した。

 そう。確信するように、決意していた。
 あの瞬間までは。

◆  ◇  ◆  ◇ 

 視界いっぱいに扉が映る。そして、鼻先にその扉が存在し……

「ちょ……」

 ヴィルフリードは、途切れた言葉を吐き出した。

「オイ、待てよ……!」
「悪ィけどな、朝っぱらからおっさんなんかにからんでるヒマはねーんだ!」

 ヴィルフリードの制止の声と、カブるようにディアンの怒声が響いた。

 瞬時に。
 ヴィルフリードの中で、何かが、膨れ上がった。

 人が、こんなにも大人の態度をとろうとしているのに、何なんだ。こっちの言
い分も聞きもしねぇなんて、ガキと同等じゃねぇか。いや、大体、コイツの態度
は、出会った時からガキ丸出しだった。フレアのコトだって、勘違いにせよ、自
分に甲斐性が無ぇのが原因じゃないのか。なんでそこまで言われなきゃ、なん
ねぇんだ。

 しかし、それでも、まだ、抑えていた。
 腹を立てながらも、どうにか、「話し合う」という気持ちを持っていた。

 ドアノブに手をかける。が、ドアはガチャリと音がするだけで、開かない。
 蝶番が、さっきの衝動で歪んだのだろう。

 「ドアが開かない」という、物理的な要因による苛立ち。膨れたものが、弾け
るには、そんな些細なきっかけで十分だった。
 そして、弾けたものは、当然のごとく、爆(は)ぜる。
 ヴィルフリードの頭の中は、真っ白に染まった。
 あとは、考えなくてもよい。
 溢れるものを迸らしるままに、口が言葉へと自動的に変換し、吐き出す。

「……オマエもあと数年たったら『おっさん』なんだよッ!!!!!!!!
 でっけぇー図体して手前ェの中身はガキじゃねえか! 
 なのにイロボケだけはしっかり一人前にしやがって……!!
 こンのエロガキャぁがぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 叫び終えた後に聞こえたのは、自分自身の荒い吐息と。リタの唾を嚥下する音
と。……廊下から聞こえる、気軽な足取りで降りる階段の音と、かすかな鼻歌の
旋律。
 それを聞いたとき、ヴィルフリードの全身の力が、ガクリと抜けた。
 そして、膝をついた衝撃と共に、ヴィルフリードの中で、何かが壊れた。

 嗚呼。なんと意思の疎通というものが、難しいことか。
 あぁ。なんと気持ちが通じぬことの、悔しいものか。
 目の前いっぱいに塞がる木製の扉が、分厚い壁のようだ。
 人と人の隔たりは、こんなにも絶望的なものなのか。
 この、扉一枚分の壁。……それが、自分の今の敵なのか?

 突如、笑いが込み上げてきた。
 胃の底から、湧き上がる痙攣。
 その感覚自体が面白くなり、更に笑いは続く。

「……ヴィルフリード……さん?」

 おずおずと、不振げに、そして少々の怯えを孕んだ声が背後かけられ、ヴィル
フリードの笑いはピタリと急に収まる。
 そして、振り返らずに、リタに話しかける。

「リタ」

 いや。違う。
 自分の敵は、こんな木製の、単純な造りの扉ではない。
 自分の敵は。

「オマエに、トコトン付き合ってやる。ゼクスの件でも……お望みならばその、
『ブンツカ=ドンチャンとなんちゃら』」

「『ブンツカ=ドンドンと子猫たち』」

「……そのドンドンとかの本にも、付き合ってやる。
 だがなぁ。リタ。『付き合う』ってのは、文字通り、お互いに「付き」、「合
う」んだ。
 だから、当然、俺にも付き合って貰えるんだろうな?」

「何を……する気なの?」

「さっきの男に……トコトン嫌がらせをしてやる」

「……………へ?」

 そう、見据え間違えるな。
 自分の敵は、目の前の板切れなんぞではない。
 生身の、人間だ。
 あの、クソ野郎だ。

 そこで、ヴィルフリードはようやく、リタに向きを変えた。

「うわぁ。ヴィルフリードさん、目の形は笑ってるのに瞳の奥底が澱んでる」

 リタの客観的且つ正しい指摘を、ヴィルフリードは聞き流す。

「……で、どうなんだ? リタは、俺に付き合ってくれるのか?」

 少し考え込んだあと、リタは、ヴィルをまっすぐ見ながら、問いかける。

「なんで、そこまで、あの人にこだわるの?」

 ヴィルフリードの瞳の奥底の澱みが薄れた。

「俺には俺なりの事情があるってだけじゃ……納得してもらえないか?」

 どこかで聞いたことのあるフレーズを、リタに突きつける。

「……って、誰かさんみたいに卑怯な言い方はしねぇぞ。
 まぁ、理由は単純だ。
 気に喰わねぇ。
 全力を賭してまで、アイツに嫌がる顔をさせたい。
 それだけだ」

 瞳の奥底は、以前より更に濁っていった。リタは、今度はそれ告げないでい
た。

「うわぁ。大人気ない」

「相手がガキだからその土俵に乗っかったまでだ。何が悪い」

 笑顔で悪意無く、これまた、冷静でかつ客観的な判断に、ヴィルフリードは開
き直ったようにそれを肯定する。
 ヴィルフリードの顔が、ふっと緩み、今度は、いたずらっぽそうにニヤリと不
敵な笑みを作る。

「……リタ。俺のこと結構好きだよな?」

 これまた、どこかで聞いたことのあるフレーズに、リタは、笑みを作り、応じ
る。
 自分が使ったカードの役を、使われるとは。しかも、それを使われたのであれ
ば、自分はこう答えるしかないではないか。
 どっちが卑怯なんだか。
 そう思いながら、半ば、苦笑するように、リタは答える。

「まぁ、ね。……というか、僕、ヴィルフリードさんのこと、結構、『大』好き
かもしれない」

「……ヴィルでいい。
 結構気分のイイモンだな。悪い気はしねぇな、その言葉」

「ヴィルさん。いいよ。付き合う。
 ……でも、どうするの?
 殴りこみ? 闇討ち?」

「馬鹿言え。そんなことしたらこっちが死ぬ」

「うん、僕も言ってみただけ」

 さらりとその場の空気が流れる。

「なぁに。お互い、利害は一致していることをするだけだ。
 リタは、フレアにくっついていたい。
 俺は、フレアにくっついてヤツの面白くなさそうな顔を見たい。
 見たところ……あの二人は、少なからず好意を寄せ合っているが、デキちゃぁ
いない。
 オマケにアイツは俺を嫌っている。だから、ただ、一緒にいりゃいいのさ。
 要は恋路の邪魔さ。フレアにゃ悪いがな」

「馬に蹴られて死んじゃうよ?」

「障害が無きゃ燃え上がらないとも言うな」

 リタは、ヴィルフリードの変容振りを面白がっていた。
 昨日までの、一歩引いた態度が、今は無い。
 どこか、何かに対して諦めていた色が、今は無い。
 この人の本性は。子供だ。
 屁理屈をこねながらムキになる、子供だ。
 リタは、ヴィルフリードの本性を見たような気がした。

「で。これからどうするの? 閉じ込められているみたいだけども」

 ヴィルフリードは、リタを通り過ぎ、カーテンを勢いよく開ける。
 眩しい光が、刺すように部屋に滑り込んだ。

「決まっている。昨夜約束したじゃねぇか。
 一緒に朝ごはんを食べるんだろう?
 ……3人では無くなったが……みんなで、仲良く、な」

 そう言って、ヴィルは窓を開けた。
 朝の、冷たさを含んでいる澄んだ空気が、くすんだ部屋の中に流れ込む。

 ヴィルは、窓枠に足をかけた。
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2007/02/11 14:35 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors

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