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2024/11/08 10:02 |
9.インディアンレッド/フレア(熊猫)
キャスト:ヴィルフリード・リタルード・フレア
NPC:なし
場所:宿屋
―――――――――――――――

「……」

装備を外した胸が薄く上下するのを感じながら、フレアは
ベッドの上に寝転がりながら天井を見ていた。

ブーツは履いたままだが、足は床につけている。

視線を天井からベッドにうつす。そこには、外したバックルと剣が
ランプの光を受けて鈍く輝いていた。

ふと不安になって、上半身だけを起こして背後の窓を見る。
だがそこにはベッドに座っている自分と、部屋の様子が
映っているだけで、あとは闇だ。

あの何もかも知っているかのような目も、6本の指もない。

――また会おう――

それでも、きっともう会うことはないだろう――十回目の気休めを、胸中で繰り返
す。
それと同時に、リタとヴィルフリードのことが思い出された。

もしもう一度でもゼクスに会うようなことがあれば、彼らとは
別れなくてはいけない。


出会った瞬間に別れのことを考えるようになったのは、いつからだろう。


一度出逢ってしまったら、遅かれ早かれ、あとは別れるしかない。
その別れが怖いから、出逢うのも怖くなる。

ディアンと会った時もそうだ。あの時出逢ってしまったから、今こうして
別れに怯えている。

先に行っててくれ―― もしかしたら、
あれは遠まわしな別れの挨拶ではなかったのか。
現に3日経った今も、まだディアンと合流できていない。

(…言わない方がいいだろうな)

もし再会することができても、今日の事は黙っていよう。
それでなくても勘のいい彼のことだ。何かひとつでもとっかかりがあれば、
全て見抜かれてしまう。

だから、今日の事は忘れてしまおう。
そう決めたとき、ドアの向こうで階段を上ってくる足音がした。
とっさに横の剣を手にとって――苦笑しながら枕元に置く。

この宿屋にあるアルコールが、そんなに高くなければいいのだが。
フレアは立ち上がると、ドアに向かった。

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2007/02/11 14:30 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
10.Rose Grey/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
キャスト:ヴィルフリード・ディアン・フレア・リタルード
NPC:なし
場所:宿屋
―――――――――――――――

 ヴィルフリードは、酒瓶を持って、宿屋への帰路へついていた。
 仕事直後なのに、宿屋の安酒だけで済まそうという気にはなれず、食後、外に
繰り出していた。
 暗い夜道を歩きながら、ヴィルフリードは今日出会った二人について考えてい
た。

 不思議なことに、フレアよりリタと多く話していたというのに、フレアの性格
の方が掴みやすい、と感じていた。
 リタは、一言で表せば「不思議」であった。掴み所のない言動。ふわふわと
漂った雰囲気。女性であるのに、なぜかそう感じさせない所作(実際女性でない
のだからしょうがないのだが・・・)。
 あの手合いは、考えても埒が明かない。ヴィルフリードはリタについての思考
を放棄していた。
 あれは考えながら対応するよりは、その場の雰囲気で掛け合いを楽しむが一番
であろう。
 そんなリタの性格が掴みにくい、という対比もあるのだろうが、フレアはきっ
と、根っから素直なんだろう。
 そう、一言で表せば。

 不器用な子だ。

 ヴィルフリードは、フレアをそう評していた。

 甘えてしまえばいいのに。
 騙してしまえばいいのに。
 頼ってしまえばいいのに。
 逃げてしまえばいいのに。

 自分が今まで平然とやってきたことを、彼女はしない。
 それは、とても潔癖なことなのだろう。
 だが。

 正面から一人で立ち向かおうとするなんて、バカのすることだ。不器用にも程
がある。
 そんな身を削るような生き方で長生きできるとは思えない。

 そして今更のように気づいて、ヴィルフリードは息を吐き出すように笑う。

 彼女は、不器用な上、クソ真面目なんだ。

 だが、あのタイプは一度頼れる人ができると強くなる。
 何もかもが自分とは正反対のタイプだ。

 こうなると、心配というよりも、嫉妬が大きい。
 なのに同時に、ずっとそうであって欲しいという願望を託してしまう気持ちも
ある。
 両方とも、「なりえなかったもの」に対する感情だ。
 どちらにしても醜く、相手には迷惑なものだ。
 だから、それらを、静かに、静かに心の奥に沈める。
 沈めて、彼女の好きにさせるのいい。
 それが一番だ。


 それを沈め終わろうとした頃、丁度宿屋の前についた。
 カウンターでカギを受け取り、部屋に向かおうと、階段を上ったところで声が
した。

「あ」

 フレアだ。

「よぉ。
 どうしたんだ?」

「ちょっと、下に降りて軽いアルコールのものを飲もうと思って……」

「奇遇だな。
 俺はコイツを調達してきたところなんだ」

 ヴィルフリードは手に持った酒瓶を上げ、振ってみせた。

「なんなら一緒に飲むか? 下の食堂は閉まっていたから……どっちかの部屋に
なるが。
 軽いものなら、部屋に貰いモンがある。甘いやつで、飲めないから売ろうと
思ってたやつだ」

「いや……それは悪い」

 その時、先ほど沈めたはずの感情が、遊び心を伴って、一つの小さな泡ように
浮上した。

「ま、若い子がオッサンと飲んでも楽しかないわなぁ」

 カラカラと笑いながらその台詞を言う。
 この台詞を言うと、素直で真面目な彼女のことだ。答えは予想される。

「いや、そんなことはない」

 案の定、少し慌てたように、釈明するフレア。

「んじゃぁ、一人寂しく飲むこのオッサンにちょいと付き合ってくれんかね?」

「……だが……」

「ん? ……あぁ。そうか」

 渋るフレアの様子に、ヴィルフリードはようやく気がついた。

「うら若き娘さんとこんな時間に二人きりってのは、問題あるってか。
 いやぁ、最近はお嬢さんぐらいの娘には男扱いされなくてねぇー。『お父さん
と一緒の年だ』なぁんて言われるから、ま、逆に嬉しいんだがね。
 んじゃぁ、おやすみな」

 そう言って背を向けようとしたとき。

「ヴィルフリードは」

 ヴィルフリードはそのかけられた言葉に、少し驚いたように口を半開きにし、
顔だけをフレアに向けた。
 フレアの顔を見ると、声をかけた自分自身に驚いた顔をしていた。が、すぐ
に、笑顔を作った。
 やはり、誤魔化すのが下手な少女だ。

「ヴィルフリードは……何故、そんな風に出会いを楽しめるんだ?」

「……楽しまなきゃ損だろ?」

「でも……楽しんだら楽しんだ分だけ……」

 フレアはそこで言葉を呑み込んだ。

「……あ? ……あぁ、そうか。
 ……あー……なんだろね?」

 ヴィルフリードは軽く息をひとつ吐き、そしてひょうきんないつもの口調で話
し始めた。

「俺はさぁ。出会いに関して、そんな感覚が多分麻痺しかけてるんだ。慣れ、っ
てやつかね?
 だから、別れに対して、アンタみたいに強い思い入れも、今は無い。
 昔は辛かったよ、そりゃ。でもなぁ、昔の方が、出会いをもっと楽しめたん
だ。
 俺、バカだったからよ。アンタみたいに別れのことなんて目の前に突き出され
るまで考えてなかったからよ。
 だからこそ、あの頃みたいになれやしねぇかって、楽しもうとしているんだろ
うな。
 ま、よくわからねぇけど」

 ヴィルフリードの下に向けられた視線が、フレアにまっすぐに向けられる。

「その怖れる感覚は大事にした方がいい。それがあるからこそ、楽しめるんだ。
 でもな、アンタも剣をしょってるんだ。わかるだろう? 戦ってもいない敵相
手に脅えてちゃぁ、勝てるモンも負けるんだ。
 覚悟はしても、恐れちゃぁ、アカンよ。
 なんにしろ、アンタは俺より出会いを楽しめる」

 いつの間にかヴィルフリードは真顔になっていたが、今度は相好が崩れる。

「って、今、説教臭かったなァ。
 あー、クソ。年はとりたかねぇや。
 ……ま。そーゆー訳で。また今度機会があったらオッチャンとの出会いも大事
にしてなァー。
 んじゃ、おやすみぃーい」

 そのまま、歩こうとしだしたとき。

「いや、待ってくれ。一緒に……飲もう。少しだけなら付き合おう。私の部屋で
よければ」

 その小さな逆転劇に、ヴィルフリードは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに口の両
端を吊り上げる。

「んじゃぁ、自分のグラスと酒を持ってくるよ。部屋で待っててくれ」

 笑顔で軽く手を振る。フレアは少し微笑みながら小さく手を振り返した。



 部屋に戻ったヴィルフリードは一人自己嫌悪に陥っていた。

 あのみっともなさといったらなんなんだ。
 親父臭く説教しやがって、挙句の果てに……沈めたはずの「願望による託し」
までしやがった。

 兎に角も。
 仕切りなおしだ。
 酒でも飲んで忘れよう。

 そう思ったとき、隣の部屋のドアの音が聞こえた。
 隣人は、リタである。
 恐らく、共用トイレにでも行くのだろう、とヴィルフリードは、さして気にも
しなかった。



 フレアの部屋の前に立ち、ノックをする。
 しばらくするとフレアがドアから顔を出した。

「入ってくれ」

 そう言われて入ろうとした時、背後で文字で表現し難い奇妙で短い言葉―――
あえて文字で表現するならば「ゴァっ!」だろうか―――が聞こえた。
 振り返ると、そこには白ずくめの戦士が驚いたようにこちらを見ていた……。


2007/02/11 14:31 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
11.トリノコイロ/リタ(遠夏)
PTメンバー:ヴィルフリード、ディアン、フレア、リタルード
NPC:エルディオ
場所:どっかの路地
----------------------------------

宿を出て、すぐに胸騒ぎの原因はわかった。

原因は例の六本指の人物でもなければ、未知の人物でもなく----。

「うわっ」

その人物は、リタルードが路地に入ると同時に投げつけた、そのへんで拾ってきた空
の酒瓶に声をあげる。
ビンが地面にあたって割れたのを見て、リタルードはいらいらと言った。

「いったい何のようなのさ----エルディオ」

年のころは二十代半ばか。
闇の中では確認しがたいが、髪の色は茶色だったと記憶している。
リタルードの知っている限りでは、自分と血のつながった人間には茶色の髪と赤毛が
多い。

「可愛いオトウトだか従弟だかの顔を唐突に見たくなったっていうのは理由にならな
いか?」

「単に会うだけならそんなもの使う必要ないだろう?」

エルディオの右手にあるのは一枚の札。
血のつながりのある者を呼ぶのなら魔力を必要としないとか、その類のものだろう。


その手に、街道から路地に入り込むわずかな明かりを受けて光る、糸のようなものが
握られているのに気づいて、リタルードはより強い苛立ちを感じる。
あれが自分の髪の毛だとしたら、いつ採取されたなど考えたくも無い。

「あっはっは、そんなに敵意剥き出しだと頭悪そうにみえるぞ」

「別にアンタに姦計を用いようとか考えるほど僕アンタに関心ないから」

「あんまり嫌われるの、俺の精神衛生上あまりよろしくないんだが、
 もう少しこびて甘えたりしてみないか?」

「絶対嫌だ」

「あのさー、いくら馬鹿っぽいやりかたでも否定されるのって辛いんだぞ」

「帰れ」

身も蓋も無い言葉でリタルードに全面拒否されつづけるエルディオは、にやりと顔を
歪めて目を細める。

「お前…ゼクスって奴知ってるか?」

「なっ…」

「お、何だ知ってるみたいだな」

「……もう会ったよ」

リタルードは一瞬詰まって、結局正直に言った。

「会ったと言ってもちょっと見ただけどね」

「へぇ、じゃあ六本目の指持ってるのも見たのか? 
 興味持ったんだろう?」

「……」

「お前、一年ほど前、人体変成について執拗に知識集めてたよな。
 ちょっと俺らの中でも話題になってたんでだぜ」

優位にいることを自覚している者の、神経を切りつけるような口調にリタルードは奥
歯をかみ締める。
感情を叩きつける。

「お前たちには関係ないことだろっ!」

「関係? 
 あると思うぜ。だって俺らの弟のことだしな」

あ。
その言外に含まれるものを悟って、リタルードは激情がすっと冷めるのを感じた。
熱が引いて、冷たい笑いをこらえる。

こいつらは何を勘違いしているんだろう。
自分が、人体変成についてしりたがってるのは、そんなつまらない理由からじゃない
のに。

それならいい。自分が自覚している中では、一番触れられたくないと思っているもの
を理解していないのならば。
それなら、何を言われても嘲ることができる。

「ほらよ」

突然自分に向かって放られたものを受け取って、リタルードは目を丸くした。

皮でできた鞘に入った、とくに目立つ飾りも無いどこにでもあるような短刀。それに
細い鎖が幾重にも巻かれている。つまりは、見た目通りのものではないということ
だ。

「…なにコレ」

「その鎖ここでとるなよ」

「だからこれ何?」

「大した力はないらしい。だが、何故かゼクスが探してる」

「何でそんなこと知ってんのさ? というか何でここに」

リタルードのその問いに、エルディオは今までとは違う種類の笑みを浮かべて言っ
た。
いたずらを思いついてわくわくしている子どものような。

「俺が奴から盗ったから」

「はぁ?!」

人に驚かされたのは久しぶりかも知れない。

「…友達とか、言わないよね」

「昨日、初対面」

「目的は? てかどうやって?」

「まぁ、いろいろこじこじやってだなぁ。目的はアレだ。
 ”怒った顔も見たかったから”」

心底楽しそうにエルディオが言うのに、リタルードは眩暈を覚えるのを禁じえなかっ
た。

『どうやって』はまだいい。強い力を持つものは、その力に頼りすぎて思わぬスキが
生じるからとか、エルディオが本当にいろいろやったとか、あるいは彼の言葉すべて
が真っ赤な嘘だとか、いくらでも説明はつく。

しかし、理由というのは突拍子も無ければ無いほど、不思議と真実味を増すものだと
いうことを、リタルードは思い知った。

「じゃあ、用事終わったからお前もう帰れ」

「何のつもり? こんなもの人に押し付けて」

「返したいなら返してもいいんだぜ」

「…もらっとく。僕あんまり豊かな生活してなかったから、基本的にがめついんだよ
ね」

フレアはあのとき頷いてはいたけれど、本心からではないだろう。
関わらせたくない。彼女ならそう考えるはず。

ならば自分が当事者になるのが一番手っ取り早い。

そのままリタルードは踵を返す。
その後ろ姿が見えなくなってから、エルディオはかがんで、割れたビンの破片をひと
つ拾い上げる。
ぽつりとつぶやいた。

「また、嫌われたかな」

その表情は、先ほどまでの相手を傷つけるための笑みではなかったが、それでも楽し
げなものだった。

2007/02/11 14:32 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
12.バニラホワイト/ディアン(光)
PTメンバー:ヴィルフリード、ディアン、フレア、リタルード
     場所:宿屋(2F)

 「ゴァッ!!」
 自分の口から漏れた声とも吐息ともつかない微妙なそれを、俺は人事のように聞い
ていた。
 目の前には、数日前に分かれたばかりのフレアが、そして見たことも無い中年の男
が、そこにいたのだ。
 それだけなら、自分の中でどうにか誤魔化し歪曲して、無害な事実として捕らえる
ことが出来たかもしれない。
 だが、世の中は皮肉なもんだ。
 さっきのフレアの台詞、「付き合おう。私の部屋でよければ。」
 フレアをおどろかそうと、あえて気配を消してしまっていたがために俺は階段のす
ぐ下で、つまり二人のすぐ背後でその言葉を聞いてしまったのだ・・・!
 幾ら数日ぶりに聞くフレアの声だからといって、聞き間違いでは、ありえない。
 ましてや、上物のワインと、グラスを二つ持っている男が一緒では、どう考えたっ
て友好的にまとまるわけが無い。
 
 なぜ?
 なんで、俺と別れて、フレアが他の男と一緒に居る?
 頭の中で、色んな想像と妄想が入り混じり、一瞬視界が極彩色に染まる。
 怒り、嫉妬・・・それらの、黒い感情の色に。

 「あ、その、これは・・・」
 若干の罪悪感の浮かんだ瞳で何かを言い募ろうとしたフレアを、感情のままに、俺
は拒絶した。
 「悪ぃ。人違いだったみたいだ。」
 それだけを言い放って、俺は真っ直ぐ自分の部屋へと向かった。
 恐らく、さえぎろうとしたのだろう。
 途中、軽くフレアと肩が当たったが、感情は俺の乏しい罪悪感を軽く上回った。
 ためらいもせずに歩を進める。
 どん、と軽い衝撃と共に、フレアがその場に尻餅をついたのが分かったが、それで
も視線は下に向けない。
 見てしまうと、俺の怒りがなえてしまいそうで怖かったからだ。
 すまない、と一言謝られれば、俺の怒りなどたやすく雲散霧消してしまうだろう。
 それが分かっているだけに、歩みは止められなかった。
 後ろで、男が動いたのが分かった。
 
 来いよ!ぶちまけてやる・・・!
 
 心中で、身構える。
 いっそのこと、そのまま男が飛び掛ってきていれば、俺の怒りは全てそちらに向か
うことで打ち消されていたかもしれない。
 だが、恐らくはフレアが止めたのだろう。
 男が靴底を鳴らして踏みとどまる音が聞こえ、次いで、
 「女を泣かす男なんざ、クソ野郎だ!」
 という罵声が背中に浴びせれた。
 
 (泣いたか・・・泣かせたのか、俺が。)
 
 秀麗なフレアの顔を伝う涙を想像して、俺の胸は一瞬重くなったが、それもすぐに
胸中の炎に掻き消された。
 なに、すぐに無き止むさ。
 分かれてすぐに男を作るような女にゃ、いい薬だろうさ。
 その一瞬燃え上がった激しい憎悪が、そのまま彼女に対する好意の裏返しだという
ことに俺が気づいたのは部屋に入ってから数刻が過ぎてからだった・・・
 後で考えれば幼稚の極み、勘違いにもほどがある、なんとも赤面もののハナシなん
だけどな。
 とにもかくにも、俺は何とか部屋を間違うことなくドアを開け、装備も取らずにそ
のままベッドに寝っ転がった。
 そして、目を閉じて何も考えないように、頭の中を空っぽにしていったんだ。
 このまま考え込んでしまうと、本当にろくでもない方向に進んじまうのが分かり
きってたからな。

 目を閉じてちょっとしてから、ドアが鳴った。
 軽い、控えめなノックの音だ。
 この場合、誰が来たかは分かるだろ?
 
 さっきまであんなに怒り狂っておきながら、その瞬間俺の中で怒りがすうっと消え
て、代わりに自分でも不思議なくらい、嬉しさがこみ上げて来たな。
 やべぇ、俺はこんなにフレアを待ってたのか?
 変な気持ちになりながら、俺はわざと足音を立てて扉まで行き、ドアを開けた。
 

2007/02/11 14:32 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
13.アカネ/フレア(熊猫)
キャスト:ヴィルフリード・リタルード・ディアン・フレア
NPC:なし
場所:宿屋
―――――――――――――――

尻餅をついて――その振動で、なのだろうか。一粒だけ涙が落ちた。
瞳は大きく見開いたまま、ただ呆然と、頬に水のあとを感じている。
もう雫は落ちてこず、既に乾こうとしていた。

悲しみでもない。
怒りでもない。
今感じているこの感情に、先人は名前はつけていない。

――強いて言うなら、喪失感。

その、どの感情に押し出されたのかわからない、たった一筋の
涙の跡をみとって、ヴィルフリードが歯噛みした。
ぎし、と安っぽい宿の床が軋む。見れば、目の前にある彼の足が
肩幅ぶんほど開いている。視線はディアンの背中。

「っ!」

瞬間、フレアは尻餅をついたまま、がばと両手でヴィルフリードの足に
とりすがっていた。
数歩、彼がたたらを踏む。複雑な表情でこちらを見下ろしてくる彼に、
かぶりを振った。

ヴィルフリードは舌打ちをすると、そのまま苛立ちを吐き出すようにして、
彼の消えた廊下に向かってなにやら毒づいた――
が、何を言ったかは聞いていなかった。

・・・★・・・

ヴィルフリードに簡単に事情を説明してから、その足で、フレアはディアンの
消えた部屋の前に立っていた。
ノックをしようと軽く握ったこぶしを胸の高さまで上げて――ためらう。

(なんて言えばいい?)

そもそも、なぜ彼はあんなに怒っていたのだろうか。
男と一緒に酒を飲もうとしていたから嫉妬した?それはまずありえない。
絶世の美女だというならまだしも、ディアンがこんな自分に気をかけるわけがない。

わからない。
わからないが、彼が不快に感じたことは確かだ。
ここで別れるというならそれでいいだろう。一人には慣れている。
ゼクスの事もある。
だが、誤解があれば解き、こちらに非があるのなら謝りたい。

顔を上げて、ノックをする。
一拍ののち、数歩の足音がして、ドアが開いた。

ディアンはいつも通りだった。白で統一された装備、眼鏡、相変わらずの長身。
そのてっぺんから、目だけでこちらを見下ろしている。

「…話がしたい」

心臓が痛いほどに縮む。
とにかく眉の動きひとつでも見逃さまいと、ディアンの顔を見る。
それでも特に表情を作らないまま、彼は一歩下がって道を開けた。

視線で促されて、彼の部屋に足を踏み入れる。
おそらく到着したばかりなのだろう。備品も使った様子がない。

ばたん、と後ろでドアの閉まる音を聞いた。続いて、近づいてくる彼の足音。
ディアンの足音はそのままフレアの横を通り過ぎ、一脚しかない椅子を
持ってくると、背もたれに片肘を置いて、腰掛ける。

フレアは立ちすくんだまま、口を開いた。

「先程の人はヴィルフリード。今日、出会ったばかりだ…もう一人、
リタという人にも会った」

あいづちを打つでもなく、ディアンはこちらを見ている。

「さっきは…私が下の酒場に行こうとしたら、ヴィルフリードがちょうど来て、
 一緒に飲まないかって誘ってくれたんだ。酒場はもう閉まっていたから」

目を伏せ、左の肘あたりを右手で掴む。
ディアンは足を組んだだけで、やはり返事は返ってこない。

「ただ、それだけの事だ…。ディアンを嫌な気持にさせてしまったなら、謝る」

答えを待つ――のは無駄か。
顔を上げて、小さく会釈してからドアに歩み寄る。
ドアノブに手をかけたとき、意識せずに言葉が出た。

「――できることなら」

顔だけで振り返る。

「できることなら、ディアンとはもう少し一緒にいたかった…けれど、どうするかは
 ディアンに任せる。ここで別れるのなら、私は明日発つ」

後半はもう、顔はドアに向けていた。
ドアを開けて、廊下に出る。

ドアが閉まる音を聞くと同時、フレアは胸に強烈な痛みを覚えてうずくまった。


これでいい。


2007/02/11 14:32 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors

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