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2025/03/10 06:40 |
13.アカネ/フレア(熊猫)
キャスト:ヴィルフリード・リタルード・ディアン・フレア
NPC:なし
場所:宿屋
―――――――――――――――

尻餅をついて――その振動で、なのだろうか。一粒だけ涙が落ちた。
瞳は大きく見開いたまま、ただ呆然と、頬に水のあとを感じている。
もう雫は落ちてこず、既に乾こうとしていた。

悲しみでもない。
怒りでもない。
今感じているこの感情に、先人は名前はつけていない。

――強いて言うなら、喪失感。

その、どの感情に押し出されたのかわからない、たった一筋の
涙の跡をみとって、ヴィルフリードが歯噛みした。
ぎし、と安っぽい宿の床が軋む。見れば、目の前にある彼の足が
肩幅ぶんほど開いている。視線はディアンの背中。

「っ!」

瞬間、フレアは尻餅をついたまま、がばと両手でヴィルフリードの足に
とりすがっていた。
数歩、彼がたたらを踏む。複雑な表情でこちらを見下ろしてくる彼に、
かぶりを振った。

ヴィルフリードは舌打ちをすると、そのまま苛立ちを吐き出すようにして、
彼の消えた廊下に向かってなにやら毒づいた――
が、何を言ったかは聞いていなかった。

・・・★・・・

ヴィルフリードに簡単に事情を説明してから、その足で、フレアはディアンの
消えた部屋の前に立っていた。
ノックをしようと軽く握ったこぶしを胸の高さまで上げて――ためらう。

(なんて言えばいい?)

そもそも、なぜ彼はあんなに怒っていたのだろうか。
男と一緒に酒を飲もうとしていたから嫉妬した?それはまずありえない。
絶世の美女だというならまだしも、ディアンがこんな自分に気をかけるわけがない。

わからない。
わからないが、彼が不快に感じたことは確かだ。
ここで別れるというならそれでいいだろう。一人には慣れている。
ゼクスの事もある。
だが、誤解があれば解き、こちらに非があるのなら謝りたい。

顔を上げて、ノックをする。
一拍ののち、数歩の足音がして、ドアが開いた。

ディアンはいつも通りだった。白で統一された装備、眼鏡、相変わらずの長身。
そのてっぺんから、目だけでこちらを見下ろしている。

「…話がしたい」

心臓が痛いほどに縮む。
とにかく眉の動きひとつでも見逃さまいと、ディアンの顔を見る。
それでも特に表情を作らないまま、彼は一歩下がって道を開けた。

視線で促されて、彼の部屋に足を踏み入れる。
おそらく到着したばかりなのだろう。備品も使った様子がない。

ばたん、と後ろでドアの閉まる音を聞いた。続いて、近づいてくる彼の足音。
ディアンの足音はそのままフレアの横を通り過ぎ、一脚しかない椅子を
持ってくると、背もたれに片肘を置いて、腰掛ける。

フレアは立ちすくんだまま、口を開いた。

「先程の人はヴィルフリード。今日、出会ったばかりだ…もう一人、
リタという人にも会った」

あいづちを打つでもなく、ディアンはこちらを見ている。

「さっきは…私が下の酒場に行こうとしたら、ヴィルフリードがちょうど来て、
 一緒に飲まないかって誘ってくれたんだ。酒場はもう閉まっていたから」

目を伏せ、左の肘あたりを右手で掴む。
ディアンは足を組んだだけで、やはり返事は返ってこない。

「ただ、それだけの事だ…。ディアンを嫌な気持にさせてしまったなら、謝る」

答えを待つ――のは無駄か。
顔を上げて、小さく会釈してからドアに歩み寄る。
ドアノブに手をかけたとき、意識せずに言葉が出た。

「――できることなら」

顔だけで振り返る。

「できることなら、ディアンとはもう少し一緒にいたかった…けれど、どうするかは
 ディアンに任せる。ここで別れるのなら、私は明日発つ」

後半はもう、顔はドアに向けていた。
ドアを開けて、廊下に出る。

ドアが閉まる音を聞くと同時、フレアは胸に強烈な痛みを覚えてうずくまった。


これでいい。

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2007/02/11 14:32 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors

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