PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)オーガス(商人)
場所:夢の島ナイティア
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「で、何があったのよ」
黒こげでしょぼくれるオーガスを連行してきた巫女装束のレインに、エンジュが訊
ねた。
「だって信じられますか? 乙女の寝てる部屋に無断で入ったんですよ!」
「あ、いや、落ちついて……」
「ユークリッドさん、コレが落ち着いていられますか!?」
凄い剣幕に気圧され気味のユークリッドとは対照的に、シエルは何事もなかったか
のように白湯を飲んでいる。
エンジュは呆れ顔で二人を見比べ、言葉を続けた。
「黒こげの原因を聞きたいんじゃなくて、夢、見たんでしょ?」
ん? とエンジュが促すと、レインはようやくオーガスを解放する。
「そうですよ……忘れるところでした」
「こらこら」
気が付けばツッコミ要員となっているユークリッド。
シエルは白湯を飲み干し、腰掛けていた手頃な岩から降り立った。
「待たされてた時間は短かったわ。まだエンジュのお腹もすいてないみたいだもの」
「ちょーっとその言い方、失礼じゃない?」
「違うの?」
「まあまあ、二人とも」
いつもの光景なんだろうと思うと、レインは少し力が抜けた。
一旦空を見上げ、やはり時間感覚が無くなる光景を目の当たりにして、現状を再認
識する。
考えながら思い出しながら、少しずつ言葉を紡ぎだした。
「えーと、儀式をやったら雨が降るって言われました~」
おもむろに枯れ枝を使って地面に似顔絵を描き始める。
「こんな感じのおにーさんに」
みんなが覗き込む。
その絵は可愛らしくデフォルメされていて似ているかどうかの判断は難しい。
しかし、シエルは一人口元を緩めた。
(コレで金髪だったら、あのバカにそっくりね)
言うほどのことじゃない。シエルは黙って続きを促した。
「でも、問題があるらしくて」
なおも描き加えながら、レインが続ける。
「儀式の途中で魔王が湧いて出るそうなんですよ」
全員を座ったままの姿勢から見上げながら、レインは他人事のように告げた。
「……なぁんですってー!」
オーガスの首根っこを掴まえて前後にガクガク揺さぶりながら、エンジュが大声を
上げる。
「さあ、私の魔力を返しなさいよ。今のままで勝てるわけがないじゃない!」
「ね、姉さん……落ちつ」
「黙んなさい、ユークリッド。コレが落ち着ける訳ないでしょー!」
オーガスは失神寸前で、半分白目を剥いているように見える。
シエルはさっきのレインの反応と似てるナァと思いつつ、傍観していた。
「シエルさんも止めて下さいよ」
「つい、面白くて」
命に別状はなさそうだったし、と思う。
考えてみたら向こうの都合で振り回せれっぱなしなのだ。一回くらい蹴っ飛ばして
も罰は当たらないかもしれない。
「彼女が呪符を返して貰えたって事は、協力の意志があれば返すって事でしょ」
シエルが当然のように言うと、エンジュはオーガスの頬をぺちぺち微笑みながら叩
き始めた。
「ほーらほら、逃げたりしないから返しなさい~?」
笑ってやるから余計に怖い。
「……私もそろそろ返して欲しいわね」
冷めた目で口元だけ笑う。交渉とは名ばかりの脅迫行為だと自覚はあるのだが。
お灸を据える意味でも、まあ、許される範囲だろうと思ったのだ。
「あの……天使像の効果が……」
「ハッキリ言いなさいよ」
「発動するまでわからないんですよ」
「……はぁ?」
話の関連性が分からない。
「効果を発動する手段もいろいろで……」
「だから、アンタは何が言いたいの!?」
思わず魔法を使いそうになって、エンジュは狂喜乱舞した。
「っ……魔力が逃げないわ!」
シエルにも愛銃が差し出される。
「つまり、本来なら天使像の効果でやる儀式を、自力でやっていただくことになりま
す」
怒られると思ったのか、オーガスは頭を抱えて小さくなった。
NPC:ユークリッド(情報屋)オーガス(商人)
場所:夢の島ナイティア
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「で、何があったのよ」
黒こげでしょぼくれるオーガスを連行してきた巫女装束のレインに、エンジュが訊
ねた。
「だって信じられますか? 乙女の寝てる部屋に無断で入ったんですよ!」
「あ、いや、落ちついて……」
「ユークリッドさん、コレが落ち着いていられますか!?」
凄い剣幕に気圧され気味のユークリッドとは対照的に、シエルは何事もなかったか
のように白湯を飲んでいる。
エンジュは呆れ顔で二人を見比べ、言葉を続けた。
「黒こげの原因を聞きたいんじゃなくて、夢、見たんでしょ?」
ん? とエンジュが促すと、レインはようやくオーガスを解放する。
「そうですよ……忘れるところでした」
「こらこら」
気が付けばツッコミ要員となっているユークリッド。
シエルは白湯を飲み干し、腰掛けていた手頃な岩から降り立った。
「待たされてた時間は短かったわ。まだエンジュのお腹もすいてないみたいだもの」
「ちょーっとその言い方、失礼じゃない?」
「違うの?」
「まあまあ、二人とも」
いつもの光景なんだろうと思うと、レインは少し力が抜けた。
一旦空を見上げ、やはり時間感覚が無くなる光景を目の当たりにして、現状を再認
識する。
考えながら思い出しながら、少しずつ言葉を紡ぎだした。
「えーと、儀式をやったら雨が降るって言われました~」
おもむろに枯れ枝を使って地面に似顔絵を描き始める。
「こんな感じのおにーさんに」
みんなが覗き込む。
その絵は可愛らしくデフォルメされていて似ているかどうかの判断は難しい。
しかし、シエルは一人口元を緩めた。
(コレで金髪だったら、あのバカにそっくりね)
言うほどのことじゃない。シエルは黙って続きを促した。
「でも、問題があるらしくて」
なおも描き加えながら、レインが続ける。
「儀式の途中で魔王が湧いて出るそうなんですよ」
全員を座ったままの姿勢から見上げながら、レインは他人事のように告げた。
「……なぁんですってー!」
オーガスの首根っこを掴まえて前後にガクガク揺さぶりながら、エンジュが大声を
上げる。
「さあ、私の魔力を返しなさいよ。今のままで勝てるわけがないじゃない!」
「ね、姉さん……落ちつ」
「黙んなさい、ユークリッド。コレが落ち着ける訳ないでしょー!」
オーガスは失神寸前で、半分白目を剥いているように見える。
シエルはさっきのレインの反応と似てるナァと思いつつ、傍観していた。
「シエルさんも止めて下さいよ」
「つい、面白くて」
命に別状はなさそうだったし、と思う。
考えてみたら向こうの都合で振り回せれっぱなしなのだ。一回くらい蹴っ飛ばして
も罰は当たらないかもしれない。
「彼女が呪符を返して貰えたって事は、協力の意志があれば返すって事でしょ」
シエルが当然のように言うと、エンジュはオーガスの頬をぺちぺち微笑みながら叩
き始めた。
「ほーらほら、逃げたりしないから返しなさい~?」
笑ってやるから余計に怖い。
「……私もそろそろ返して欲しいわね」
冷めた目で口元だけ笑う。交渉とは名ばかりの脅迫行為だと自覚はあるのだが。
お灸を据える意味でも、まあ、許される範囲だろうと思ったのだ。
「あの……天使像の効果が……」
「ハッキリ言いなさいよ」
「発動するまでわからないんですよ」
「……はぁ?」
話の関連性が分からない。
「効果を発動する手段もいろいろで……」
「だから、アンタは何が言いたいの!?」
思わず魔法を使いそうになって、エンジュは狂喜乱舞した。
「っ……魔力が逃げないわ!」
シエルにも愛銃が差し出される。
「つまり、本来なら天使像の効果でやる儀式を、自力でやっていただくことになりま
す」
怒られると思ったのか、オーガスは頭を抱えて小さくなった。
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人物:エンジュ シエル レイン
場所:どこかの島
エンジュSide5【夢見の巫女の受難】
-----------------------------------------------------
娯楽の少ないこの島は、街に比べてずっと夜が早く訪れる。
人が夢を見る時間も長いから、夢見の巫女などという信仰も生まれたのだろ
うか。
海岸からずいぶんと距離があるはずのこの家の窓にも、月の光と共に波の音
が運ばれてくる。
この月が完全に満ちたときに、儀式は行われる。
「レインは大丈夫かしら?」
窓の外を眺めながら、シエルが呟く。
彼女の色素の薄い髪は、月光と同化し、まさに月の光で出来ているようだっ
た。
美しい友人を満足げに見ながら、エンジュは答えた。
「大丈夫なんじゃらい?なんたって巫女様なんらもん、私たちよりよっぽど丁
重なもてなしを受けてるふぁよ」
言葉がはっきりしないのは、その口に甘蔗の茎をくわえているからである。
かじると甘い汁が出てくる、砂糖の原料でこの島で栽培されているものであ
る。
空腹で暴れださないようにと、ユークリッドが何処かから手に入れてきてく
れたものであるが、日照り続きの現状ではけしてこの島でも易く手に入る代物
ではあるまい。
そういえば、部屋を提供してくれたこの家の奥方がやたらユークリッドに意
味深な視線を送っていたような気がしたのだが・・・
――人妻には手を出すなって、先に釘をさして置くべきだったかし
ら・・・。
頭を悩ますエンジュをよそに、シエルが答えた。
「そうね、儀式は・・・3日後だったかしら?」
レインは今、島長の家に逗留している。
聖霊から伝えられた儀式を行うための準備を行う際に、再び巫女の力が必要
ならしい。
選考漏れしてしまった自分たちだから言えることだが、まったく難儀な話で
ある。
大事な呪符を取り返しにに来たハズが、あっというまに島の存亡をかけた、
儀式の巫女に祭り上げられてしまったのである。
それでもちゃんと役目を果たそうとしているところが、人が良いのか、押し
が弱いのか・・・・きちんとした教育を受けた娘なのだろう。
「私たちに手伝える事ってあるのかしらねー。天使像の効果を引き出せる巫女
が一人しかいないって、大変な事らしいじゃないの」
エンジュのベッドの枕元には、そもそも事件の発端となった天使像が置かれ
ている。
オーガスに結局返し損ねてしまったものだ。
悪夢から人々を守る天使の伝説はこの島に伝わるもので、刃物を扱える年に
なったらこの島の誰もが家族や自分の為に木彫りの天使像を彫る習慣があるそ
うだ。
重要な儀式に使うものだけが銀で作られ、大切に保存されてきたらしい。
この島に銀山などあるわけがないので、より巫女の力を高める為に、島の外
で作られ持ち込まれたのであろう。
「私のは・・・像じゃなくて、銀の羽飾りなのよね。これはどうやって使うの
かし
ら?」
シエルもまた、懐から白い布にくるまれたソレを取り出した。
綺麗な細工ではあったがさすがに自分につける気にはならないらしい。
「とりあえず、枕元にでもおいとく?いい夢がみられるみたいじゃないの」
「そう・・・ね」
寝る準備を整えたエンジュが潮風に当たった髪をいじりながり、口を尖らせ
る。
「それにしても。お風呂に入れないのは辛いわね…」
「しょうがないわ。今は飲み水すら不足してるんですもの。水を売ってくれる
船も週に一度しか来ないようだし・・・」
島は海に囲まれながらも、真水の確保が困難な場所である。
レインの話を聞くに、この島は水の流れから断ち切られた土地なため、雨が
降らないらしい。
それを聖霊の力で雨を降らせてもらうわけだが、途中で魔王が沸くというの
は一体どういう訳なんだろう…?
「ほんとに、何で魔王なんかに目を付けられてるのかしら?雑魚らしいけ
ど・・・」
島の人々には失礼だが、こんな島を一つ征服したところで一体何になろう。
魔王なら誰でも夢見る世界征服への足がかりにしても、小さすぎる気がしな
いか?
「うーん、良いところに気がついたね、姉さん」
「!?ユークリッド君!」
「アンタ!どっから入ってきてるのよッ!!」
窓の外から割り込んできた声に、シエルは驚いて振り返った。
月光を背中に浴びながら、窓から侵入してくる長身の男は、紛れもなくユー
クリッド。
エンジュは手近にある枕をひっつかむと、その顔面に思い切り投げつけた。
「ぷはっ。ちょっと待った!待った!ちょいと外に用事があったからさ」
一体どんな用事があったんだか・・・。
二人の女性の冷ややかな視線に多少慌てながらも、ユークリッドは持ち前の
愛嬌で、二人の疑念を流した。
「今回のことでさ、少し不審な点があったから島について少し調べてたんだ」
「「不審なこと・・・?」」
二人の注意を逸らせたことに満足したのか、ユークリットは口の端を持ち上
げながら頷く。
「レインは、夢を操る大魔導師の祠に行っただろ?そして聖霊のご意見を伺っ
たわけだ」
「確か、そんなよーなこと言ってたわね」
それの一体どこがおかしいのだろう。
「しかし、本来この儀式に必要なのは天使像と聖霊、夢見の巫女なんだ。それ
が、いつの間にやら大魔導師とか、魔王とか、うんくさいのが現れた。それ
に、オーガスの能力にも気になってさ」
「そうよね、いくら天使像に力があるとは言え、私の魔力を奪ったり、尋常じ
ゃないわ。そもそもアイツは夢見の巫女でもないんだし・・・」
オーガスの巫女姿を想像したのか、エンジュは不味そうな表情をした。
「実は、オーガスはその、夢を操る大魔導師の子孫らしいんだ。この島に大魔
導師が訪れた時、ちょうど今と同じように夢見の巫女が一人も現れない事態が
起きたらしい。夢を操る力をもっていた大魔導師は、島の人々の懇願で、巫女
を介さずに聖霊と恵みの契約を結ぶことに成功したらしい。しかし、その儀式
は完全な成功でもなかった・・・・・・」
「それで、魔王が出たってわけ?」
「そう。んで、それ以来、大魔導師の子孫は、司祭として儀式を妨害する魔王
を抑える役目を担ってらしい」
「よくそんなこと島の人はユークリッド君に教えたわね・・・」
「これでも、一応情報屋だからね」
そういって、ユークリッドはシエルに軽くウインクしてみせた。
エンジュはその動作に、「なに色目使ってんのよ」とユークリッドの頭を殴
りながら、具合が悪そうに言った。
「ところで、この事レインに言った方がいいのかしら・・・・」
「・・・・・・言わない方が良いんじゃないか?」
オーガスの先祖のおかげで、聖霊と契約するどころか魔王まで何とかしない
といけないなんて・・・・いえるわけが無い。
三人は複雑な面持ちで顔をあわせた。
★---------------------------------------------------☆
「あ!エンジュさん!シエルさん!」
二人が歩いてくるのに気が付くと、巫女装束を身に纏ったレインが嬉しそう
に顔を上げた。
「よく似合ってるわ、その衣装」
「そうですか?有難うございます、シエルさん」
「意外に元気そう・・・・・・ってわけでも無いわね」
明るい表情を見せたのはつかの間。
すぐにレインの顔には隠していた疲れが出てきた。
「儀式の準備とか・・・あと、夢であの聖霊が毎晩ちょっかいかけて来てくれ
ちゃ
って、ちっともぐっすり眠れないんです!!」
「ちょっかいって・・・うちのバカみたいな聖霊なのね」
聖霊というイメージからだいぶ逸れたレインの言葉に、エンジュが呆れなが
らいった。
「聖霊様が夢に出てくるのは、巫女様が聖霊様に愛されてる証拠なんだよ!」
「愛されても困ります・・・」
心底嫌そうなレインに熱弁するのは、ブランジェという島の少女だ。
島長の孫娘で、彼女の家に泊まるさい、二人はかなり仲良くなったらしい。
まだ幼いこの少女が無事娘になれば、彼女が夢見の巫女としての役目を果た
せると人々は考えているらしい。
「とうとう今日が儀式の日ね、私たちも見守ってるから・・・」
「ほら、巫女様時間だよ!!」
「え!?ブランジェ!ちょっとまって・・・」
エンジュが励ましの言葉を言い終える間もなく、レインはブランジェに引っ
張られて、中央の祭壇へと連れられていった。
呆気にとられるエンジュの後ろでクスクスとシエルが笑う。
「あのブランジェって子ならきっと次代の良い巫女になりそうね」
「そうね、んでなきゃ、新しい巫女が見つかるまでこの島から出れないわ
よ・・・私たち・・・・・・というか、レインがね」
既に島の人々の多くが、この島の中央に開かれた儀式の広場に集まってい
る。
重要な儀式なのだから、島民の関心が高いのは分かるが、途中で魔王が出て
くるというのに、大丈夫なのだろうか?
エンジュが辺りを見回していると、ふと、真白い司祭の服を来たオーガスと
目があった。
合った所で、微笑むとか、手を振るとか、そんな関係でもないので無視を決
め付けようとしたエンジュだが、意外にも相手のほうから近づいてくる。
「お二人とも私がお渡しした品はお持ちですか?」
「えぇ、一応ね」
「それは良かった」
ほっとしたような男の表情に、だったら最初からもってこいと言えばいいの
にとエンジュは思う。
「それにしても、この人だかり大丈夫なの?あんたが魔王を抑えるんでし
ょ?」
「・・・そのことなのですが」
オーガスは実に申し訳なさそうな声で、実に無責任なことを言った。
「私は確かに大魔導師様の血を受け継いでいますが、島民との血が混じるにつ
れてその魔力は徐々に薄まり・・・・私には殆ど魔力などないのです」
「何ですってぇ!!」
掴みかかろうとしたエンジュの手からスルリと抜け出したオーガスは、ぬけ
ぬけと、二人に頭を下げる。
「私の能力は、モノとモノとの力を交換する力と、天使像の力を増幅させるこ
とだけです。貴女方に魔力をお返ししてしまった現在は、殆ど能力はございま
せん・・・どうか、この儀式を成功させるために、巫女様ともども力をお貸し
くださいませ」
そうして、儀式の時はきた。
巫女の役を務める私は、祈祷から踊りからここ数日間大急ぎで詰め込んだ儀式の手順をなんとか消化していく。
もとより夢の中にでてくる聖霊様とのコンタクトには成功しているから、後は降雨の契約を結ぶだけでよくて、実はこれでもかなり省略されて楽になっているんですよ、と私の補佐をしてくれている次期巫女のブランジェちゃんは言っていた。
見た目に麗しいとは決して言いかねる舞をなんとか最後までやりきって、私は動きを止めた。後はいよいよ最後の段階、聖霊様に呼びかけて降雨の契約を結ぶだけ。
呼びかけようとして、空を見上げて、そこで私は固まった。
「何、あれ……」
ブランジェちゃんの呟きが私の心情をも的確に代弁してくれている。
私達の視線の先には、黒くてモヤモヤっとしたモノがふよふよと浮いていた。
「ぼはははははははははははははは!!」
辺り一面に大きな声が響き渡る。黒いモヤモヤは徐々に大きさを増し、大きな人のような形を作っていく。次の瞬間、ぼふんと音を立てて煙が一気に立ち昇る!
「ぼはははははははははははははは!!」
煙が少しずつ晴れて行くのにつれて、黒い影だった魔王の姿が少しずつ明らかになっていく。視界を妨げる煙幕が無くなったとき、そこに立っていたのは後ろ足で立つ普通のカモノハシの姿だった。
「ぼはははははははっげふっがはっげふぉっ」
外見に似合った可愛い声で高笑いを続ける魔王(カモノハシ)。途中で何かが気道に入ってしまったらしく、ケホケホとオーバーアクションで咽ているのがまた可愛い。
「というわけでこの地に雨を降らせるわけにはいかん。邪魔をさせてもらうぞ、巫女よ」
「えーっと……」
巫女よ、と言うのに合わせて右手?をびしっとこっちに向ける。顔をちょっと横にしてこちらに向けている円らな瞳と目が合った。ああ、もうだめだ。我慢できない……!!
「な、なんだ!?」
ふらふらふら、と自称魔王の元に歩み寄る。私の視界にはもはやカモノハシの姿、それ以外のモノは入っていない。何かを感じ取ったのか、じりっと下がろうとするカモノハシ。しかし、もともとが直立に向いている体じゃないし、当然後ずされるようにも出来ていない魔王はバランスを崩し、後ろ向きにゆっくりと倒れていく。
好機到来、私は一気に踏み切ってそのままカモノハシ大魔王に体当たりを掛ける……!!
「ぐぇっ!」
膝を折り、かものはしを抱きかかえるようにしてずざーっとスライディング。幸い祭壇はわりと石が綺麗に磨かれていて、すりむいたりとかはしなかった。
そして、膝の上には捕獲したカモノハシ。状況についてこれてないのか目をきょときょとさせているのがもう破壊的。とっくに限界なんか通り越した私の要求が行動に直結した。もう遠慮なんかしないで、思いっきり全力手加減なしで抱きしめるっ!
もふもふとしたなんとも言えない手ざわり抱き心地が、どこまでも私の理性を溶かしていく。あ~、幸せ~。
どろどろに溶けて液状になった理性がこれが魔王の力かー、すごいなーとか呟いているけど、もうすっかり虜になってしまった私の心にはまったく意味を成さなかった。
嗚呼、この至福がずっと続けばいいのに……そう思いながら、私はいっそう腕に力を込めるのだった。
巫女の役を務める私は、祈祷から踊りからここ数日間大急ぎで詰め込んだ儀式の手順をなんとか消化していく。
もとより夢の中にでてくる聖霊様とのコンタクトには成功しているから、後は降雨の契約を結ぶだけでよくて、実はこれでもかなり省略されて楽になっているんですよ、と私の補佐をしてくれている次期巫女のブランジェちゃんは言っていた。
見た目に麗しいとは決して言いかねる舞をなんとか最後までやりきって、私は動きを止めた。後はいよいよ最後の段階、聖霊様に呼びかけて降雨の契約を結ぶだけ。
呼びかけようとして、空を見上げて、そこで私は固まった。
「何、あれ……」
ブランジェちゃんの呟きが私の心情をも的確に代弁してくれている。
私達の視線の先には、黒くてモヤモヤっとしたモノがふよふよと浮いていた。
「ぼはははははははははははははは!!」
辺り一面に大きな声が響き渡る。黒いモヤモヤは徐々に大きさを増し、大きな人のような形を作っていく。次の瞬間、ぼふんと音を立てて煙が一気に立ち昇る!
「ぼはははははははははははははは!!」
煙が少しずつ晴れて行くのにつれて、黒い影だった魔王の姿が少しずつ明らかになっていく。視界を妨げる煙幕が無くなったとき、そこに立っていたのは後ろ足で立つ普通のカモノハシの姿だった。
「ぼはははははははっげふっがはっげふぉっ」
外見に似合った可愛い声で高笑いを続ける魔王(カモノハシ)。途中で何かが気道に入ってしまったらしく、ケホケホとオーバーアクションで咽ているのがまた可愛い。
「というわけでこの地に雨を降らせるわけにはいかん。邪魔をさせてもらうぞ、巫女よ」
「えーっと……」
巫女よ、と言うのに合わせて右手?をびしっとこっちに向ける。顔をちょっと横にしてこちらに向けている円らな瞳と目が合った。ああ、もうだめだ。我慢できない……!!
「な、なんだ!?」
ふらふらふら、と自称魔王の元に歩み寄る。私の視界にはもはやカモノハシの姿、それ以外のモノは入っていない。何かを感じ取ったのか、じりっと下がろうとするカモノハシ。しかし、もともとが直立に向いている体じゃないし、当然後ずされるようにも出来ていない魔王はバランスを崩し、後ろ向きにゆっくりと倒れていく。
好機到来、私は一気に踏み切ってそのままカモノハシ大魔王に体当たりを掛ける……!!
「ぐぇっ!」
膝を折り、かものはしを抱きかかえるようにしてずざーっとスライディング。幸い祭壇はわりと石が綺麗に磨かれていて、すりむいたりとかはしなかった。
そして、膝の上には捕獲したカモノハシ。状況についてこれてないのか目をきょときょとさせているのがもう破壊的。とっくに限界なんか通り越した私の要求が行動に直結した。もう遠慮なんかしないで、思いっきり全力手加減なしで抱きしめるっ!
もふもふとしたなんとも言えない手ざわり抱き心地が、どこまでも私の理性を溶かしていく。あ~、幸せ~。
どろどろに溶けて液状になった理性がこれが魔王の力かー、すごいなーとか呟いているけど、もうすっかり虜になってしまった私の心にはまったく意味を成さなかった。
嗚呼、この至福がずっと続けばいいのに……そう思いながら、私はいっそう腕に力を込めるのだった。
PC:エンジュ シエル レイン
場所:海に囲まれた島
NPC:ユークリッド オーガス カモノハシ大王(仮)
「やだ~、可愛すぎッ!!」
レインの感極まった声が、静まり返った広場に響いた。
祭壇で舞を奉納するレインの前に現れた黒い物体は、今ではしっかりとレイ
ンの膝に収まっている。
事態を飲み込めないでいるのは島民たちだけでなく、エンジュたちも同様だ
った。
「あれが魔王・・・?」
「カモノハシに似てるな」
「少なくとも巫女の儀式を中断させることには成功してるわね」
シエルの言葉に我に返ったオーガスが悲痛な叫びを上げた。
「巫女様!儀式を続けてください。このままでは今年の儀式は失敗に終わって
しまう!」
「落ち着け、オーガス!」
祭壇に駆け寄ろうとした男を、ユークリッドが羽交い絞めにしておさえる。
「前向きに考えれば、今巫女は魔王を制してるんだぜ!もう少し様子を見よ
う」
「そんな悠長な事は言ってられません、ユークリッド!」
前方での動揺はすぐさま広場全体に伝わった。
しかし、魔王の愛くるしい魅力に囚われたレインにオーガスの声は届かず、
その独特の毛ざわりを楽しんでいる。
祭壇を囲んだ四方の松明の炎が、風も吹かないのに徐々に勢いを失い始めて
いた。
「少し危ないんじゃないかしら・・・?」
シエルはちらりとエンジュを横目で見たが、隣のエルフはただ食い入るよう
にレインが抱く魔王を見ている。
もう一度舞台のレインを見た後、仮面の美女は小さくため息をついて肩をす
くめた。
(姉ちゃん。・・・聞こえるか?そこの赤目の美人さん!)
耳元で突然若い男の声が聞こえて、シエルは思わずユークリッドの方を振り
返った。
しかし、ユークリッドはキョトンとこちらを見返す。
声の主は彼ではなかった。
(こっちだ下、した、手元!良かった。アンタには俺の声が聞こえるんだな)
シエルの手元で仄かに光っているのはオーガスから貰った白い羽飾りだっ
た。
「あなたは・・・?」
(俺はこの島の祠に住む聖霊だ。魔王のせいで子猫ちゃんの方には声が届かな
いんだ)
その声は随分若々しく、神聖とは程遠い。
聖霊はまるで困り果てた人間のように苦々しく言葉を続けた。
(大魔導師との契約の際、俺は水を引く経路を誤って、やつの寝床を破壊しち
まったのさ。それ以来やつは根を持って儀式を邪魔しにやがる。普段は夢を媒
介にしてしか俺は動けないんだが…今夜は違うようだ)
「それで、貴方は何ができるの?私に何をしてほしいのかしら?」
(この羽で祭壇の結界を突き破ってほしい)
「どうしたんだ?シエルさん」
「聖霊だと名乗る声が話しかけてくるんだけど…」
「聖霊様と!?シエルさん、貴女にも巫女の資格があるのですね!」
オーガスは喜んでいたが、シエルは勘弁してくれという顔で彼を見返す。
「罠じゃないかしら?」
(罠だなんて!そりゃあないぜ!)
「ちょっとエンジュ?きいてるの?」
憤慨する聖霊の声を無視してシエルがエンジュの肩を揺さぶった。
「え?あぁ、聞いてるわよ?やっぱりソースに浸してあぶり焼きが一番いいん
じゃないかしら」
「そんな事聞いてないわよ」
どうやら、放心していたのはあのカモノハシをどう調理するか考えていたら
しい。
ただならぬエンジュの様子に心配していた分、シエルの呆れ具合も大きい。
「聖霊ね…。おかしい気配はしないわ、ね」
エンジュは短剣を羽根飾りにかざした。
銀色の刃をもつ剣は変わらず美しい輝きを放っている。
魔を払うというエルフの村に伝わる聖剣だ。
「火が消える!シエルさん、早く!」
ユークリッドの声に、シエルが思い切り羽根を投げた。
シエルの呼んだ風で勢いを増した羽根は、祭壇を突き破り、そのまま魔王の
体に突き刺さる。
「ギャァァァ――!? おのれ!小癪な」
「きょ、巨大化した!?」
ぬいぐるみサイズから巨大化した魔王に流石にレインもわれに返った。
(お嬢ちゃん、儀式を続けろ。雨乞いの舞を踊りきるんだ)
「聖霊様!?」
魔王の体を貫いた白い羽根飾りは、そのまま美しい大きな羽根を持つ鳥に変
わった。
白い鳥を肩に乗せて舞を踊るレインの姿はまさに、この島で作られた天使像
そのものであった。
「私の魔力を使いなさいよ」
エンジュは、オーガスの肩を叩いた。
「儀式を守るのは司祭の役目なんでしょ」
「エンジュさん…」
「ただし、私の魔力は高いわよ?等価交換なんでしょ?あの天使像なんかじゃ
釣り合わないわ」
「は、はい!」
オーガスは、何やら呟いてエンジュに触れると、そのまま祭壇のほうへと走
っていく。
儀式を続ける巫女を守り、魔王の暴走を止めるためである。
「いいの?」
魔力を奪われた途端にやってきた虚脱感に顔をしかめるエンジュにそっとシ
エルは尋ねる。
エンジュはエルフ特有の達観した表情で答えた。
「いいのよ。これは私がハンターとして受けた依頼じゃあないからね。正しい
形で終わらせたほうがいいの」
「単にラクしたいだけでしょ」
「そうとも言うわね」
場所:海に囲まれた島
NPC:ユークリッド オーガス カモノハシ大王(仮)
「やだ~、可愛すぎッ!!」
レインの感極まった声が、静まり返った広場に響いた。
祭壇で舞を奉納するレインの前に現れた黒い物体は、今ではしっかりとレイ
ンの膝に収まっている。
事態を飲み込めないでいるのは島民たちだけでなく、エンジュたちも同様だ
った。
「あれが魔王・・・?」
「カモノハシに似てるな」
「少なくとも巫女の儀式を中断させることには成功してるわね」
シエルの言葉に我に返ったオーガスが悲痛な叫びを上げた。
「巫女様!儀式を続けてください。このままでは今年の儀式は失敗に終わって
しまう!」
「落ち着け、オーガス!」
祭壇に駆け寄ろうとした男を、ユークリッドが羽交い絞めにしておさえる。
「前向きに考えれば、今巫女は魔王を制してるんだぜ!もう少し様子を見よ
う」
「そんな悠長な事は言ってられません、ユークリッド!」
前方での動揺はすぐさま広場全体に伝わった。
しかし、魔王の愛くるしい魅力に囚われたレインにオーガスの声は届かず、
その独特の毛ざわりを楽しんでいる。
祭壇を囲んだ四方の松明の炎が、風も吹かないのに徐々に勢いを失い始めて
いた。
「少し危ないんじゃないかしら・・・?」
シエルはちらりとエンジュを横目で見たが、隣のエルフはただ食い入るよう
にレインが抱く魔王を見ている。
もう一度舞台のレインを見た後、仮面の美女は小さくため息をついて肩をす
くめた。
(姉ちゃん。・・・聞こえるか?そこの赤目の美人さん!)
耳元で突然若い男の声が聞こえて、シエルは思わずユークリッドの方を振り
返った。
しかし、ユークリッドはキョトンとこちらを見返す。
声の主は彼ではなかった。
(こっちだ下、した、手元!良かった。アンタには俺の声が聞こえるんだな)
シエルの手元で仄かに光っているのはオーガスから貰った白い羽飾りだっ
た。
「あなたは・・・?」
(俺はこの島の祠に住む聖霊だ。魔王のせいで子猫ちゃんの方には声が届かな
いんだ)
その声は随分若々しく、神聖とは程遠い。
聖霊はまるで困り果てた人間のように苦々しく言葉を続けた。
(大魔導師との契約の際、俺は水を引く経路を誤って、やつの寝床を破壊しち
まったのさ。それ以来やつは根を持って儀式を邪魔しにやがる。普段は夢を媒
介にしてしか俺は動けないんだが…今夜は違うようだ)
「それで、貴方は何ができるの?私に何をしてほしいのかしら?」
(この羽で祭壇の結界を突き破ってほしい)
「どうしたんだ?シエルさん」
「聖霊だと名乗る声が話しかけてくるんだけど…」
「聖霊様と!?シエルさん、貴女にも巫女の資格があるのですね!」
オーガスは喜んでいたが、シエルは勘弁してくれという顔で彼を見返す。
「罠じゃないかしら?」
(罠だなんて!そりゃあないぜ!)
「ちょっとエンジュ?きいてるの?」
憤慨する聖霊の声を無視してシエルがエンジュの肩を揺さぶった。
「え?あぁ、聞いてるわよ?やっぱりソースに浸してあぶり焼きが一番いいん
じゃないかしら」
「そんな事聞いてないわよ」
どうやら、放心していたのはあのカモノハシをどう調理するか考えていたら
しい。
ただならぬエンジュの様子に心配していた分、シエルの呆れ具合も大きい。
「聖霊ね…。おかしい気配はしないわ、ね」
エンジュは短剣を羽根飾りにかざした。
銀色の刃をもつ剣は変わらず美しい輝きを放っている。
魔を払うというエルフの村に伝わる聖剣だ。
「火が消える!シエルさん、早く!」
ユークリッドの声に、シエルが思い切り羽根を投げた。
シエルの呼んだ風で勢いを増した羽根は、祭壇を突き破り、そのまま魔王の
体に突き刺さる。
「ギャァァァ――!? おのれ!小癪な」
「きょ、巨大化した!?」
ぬいぐるみサイズから巨大化した魔王に流石にレインもわれに返った。
(お嬢ちゃん、儀式を続けろ。雨乞いの舞を踊りきるんだ)
「聖霊様!?」
魔王の体を貫いた白い羽根飾りは、そのまま美しい大きな羽根を持つ鳥に変
わった。
白い鳥を肩に乗せて舞を踊るレインの姿はまさに、この島で作られた天使像
そのものであった。
「私の魔力を使いなさいよ」
エンジュは、オーガスの肩を叩いた。
「儀式を守るのは司祭の役目なんでしょ」
「エンジュさん…」
「ただし、私の魔力は高いわよ?等価交換なんでしょ?あの天使像なんかじゃ
釣り合わないわ」
「は、はい!」
オーガスは、何やら呟いてエンジュに触れると、そのまま祭壇のほうへと走
っていく。
儀式を続ける巫女を守り、魔王の暴走を止めるためである。
「いいの?」
魔力を奪われた途端にやってきた虚脱感に顔をしかめるエンジュにそっとシ
エルは尋ねる。
エンジュはエルフ特有の達観した表情で答えた。
「いいのよ。これは私がハンターとして受けた依頼じゃあないからね。正しい
形で終わらせたほうがいいの」
「単にラクしたいだけでしょ」
「そうとも言うわね」
PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)オーガス(商人)
場所:夢の島ナイティア
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
オーガスがエンジュの元から消え去った、と次の瞬間には儀式の祭壇の横に立って
いる。
「ねえ、エンジュ」
「なに?」
「あなたあんなコトできたかしら」
「やったことないからわからないわ」
もう肩の荷は下りたのか、エンジュはオーガスの魔力の使い方に口笛を吹きそうな
勢いで感心している。脱力感は未だ拭いきれないようだが、隣に立つシエルの方に手
を置いて立ったまま顛末を眺めているのだ。
天使像のごときレインのちょっと辿々しい舞いも、よく見れば最初から繰り返して
いるらしい。若干疲れの色が見え隠れする。
で、肝心のカモノハシはというと。
「ぼはははははははははははははは!!」
巨大化して(といっても人間サイズなのだが)オーガスとにらみ合っているのだ。
「今こそお前を封印してやる」
「ぼはははははははははははははは!!」
「この魔力がお前の行動を阻んでいるのが分かるだろう?」
手を大きく広げたオーガスが、なにやら呪縛系の魔法を使っているらしい。コレな
らレインの舞いもつつがなく終えることが出来そうだった。が。
「ぼはははははははははははははは!!
甘い、甘いぞ、蜂蜜よりも甘いぞぅ!!」
何で蜂蜜なんだよ、というツッコミはおいといて。
「……最大奥義"巨大なカモノハシ☆"!!」」
カモノハシの声がオーガスの耳に叩き付けられる。視線を合わせ、直接頭に押し込
まれた呪文(?)は、オーガスの目の色を変えさせた。
「……マズイぞ」
異変に最初に気付いたのはユークリッドだった。
「アレは……この村に伝説として伝わっている”ことあるごとに河に潜って木の枝を
集めたくさせる能力”に違いない!!」
「何よソレ!」
「……河の水が干上がっているときに、その能力って意味あるの?」
「あるさ、今オーガスは姉さんの魔力を持ってるんだぞ!!」
エンジュとシエルが目を見合わせる。おそるおそるオーガスに視線を戻すと、何ご
とか唱え、突然水の湧きだした河へ飛び込むところだった。
「ぼはははははははははははははは!!」
勝ち誇ったカモノハシにシエルは小さく舌打ちすると『カルム』と呟いて走り出し
た。愛銃アルジャンはユークリッドに押しつけて。いきなり声が出なくなってオロオ
ロするカモノハシを無視し、エンジュに目だけで合図する。
「……『クードヴァン』」
エンジュの頷きと同時の呪文。祭壇まで風で高速移動したのだ。
「……アレは任せる。援護はユークリッド君に頼んで」
「任された。シエルは大丈夫?」
「あんまり保ちそうにないな」
目も合わせずの会話。アレとはもちろんカモノハシ魔王のことで、エンジュが未だ
動揺しているカモノハシに駆け寄るのを背中で感じると、シエルはオーガスの後を追
う。しかし、止めるのは間に合いそうにない。
「……『エール』……っ!」
咄嗟に口を突いたのは呼吸補助の風を呼ぶ呪文。その風をオーガスにまとわりつか
せるのは、何とか間に合ったようだ。
「こ、れで……溺れはしない……わね」
目が据わっている。風魔法の連続使用で、睡魔は極限に達しようとしていた。
よろけつつも河に落ちる前に踏みとどまり、振り返ってエンジュとレインを見る。
「我は夢見の巫女として聖霊に乞う……この乾いた地に恵みの雨を!
この乾いた河に満ち満ちるほどのの雨を!
そして永きにわたる……降雨の契約を!!」
舞い終わったレインが、銀の短刀をカモノハシに突きつけているエンジュの向こう
で、聖霊に呼びかけた。祭壇が光に包まれる……!?
その光を見たような気がしたのは、もしかしたら夢だったのかもしれない。
シエルはホッとしたように崩れ落ち、深い眠りについていたのだ。
NPC:ユークリッド(情報屋)オーガス(商人)
場所:夢の島ナイティア
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
オーガスがエンジュの元から消え去った、と次の瞬間には儀式の祭壇の横に立って
いる。
「ねえ、エンジュ」
「なに?」
「あなたあんなコトできたかしら」
「やったことないからわからないわ」
もう肩の荷は下りたのか、エンジュはオーガスの魔力の使い方に口笛を吹きそうな
勢いで感心している。脱力感は未だ拭いきれないようだが、隣に立つシエルの方に手
を置いて立ったまま顛末を眺めているのだ。
天使像のごときレインのちょっと辿々しい舞いも、よく見れば最初から繰り返して
いるらしい。若干疲れの色が見え隠れする。
で、肝心のカモノハシはというと。
「ぼはははははははははははははは!!」
巨大化して(といっても人間サイズなのだが)オーガスとにらみ合っているのだ。
「今こそお前を封印してやる」
「ぼはははははははははははははは!!」
「この魔力がお前の行動を阻んでいるのが分かるだろう?」
手を大きく広げたオーガスが、なにやら呪縛系の魔法を使っているらしい。コレな
らレインの舞いもつつがなく終えることが出来そうだった。が。
「ぼはははははははははははははは!!
甘い、甘いぞ、蜂蜜よりも甘いぞぅ!!」
何で蜂蜜なんだよ、というツッコミはおいといて。
「……最大奥義"巨大なカモノハシ☆"!!」」
カモノハシの声がオーガスの耳に叩き付けられる。視線を合わせ、直接頭に押し込
まれた呪文(?)は、オーガスの目の色を変えさせた。
「……マズイぞ」
異変に最初に気付いたのはユークリッドだった。
「アレは……この村に伝説として伝わっている”ことあるごとに河に潜って木の枝を
集めたくさせる能力”に違いない!!」
「何よソレ!」
「……河の水が干上がっているときに、その能力って意味あるの?」
「あるさ、今オーガスは姉さんの魔力を持ってるんだぞ!!」
エンジュとシエルが目を見合わせる。おそるおそるオーガスに視線を戻すと、何ご
とか唱え、突然水の湧きだした河へ飛び込むところだった。
「ぼはははははははははははははは!!」
勝ち誇ったカモノハシにシエルは小さく舌打ちすると『カルム』と呟いて走り出し
た。愛銃アルジャンはユークリッドに押しつけて。いきなり声が出なくなってオロオ
ロするカモノハシを無視し、エンジュに目だけで合図する。
「……『クードヴァン』」
エンジュの頷きと同時の呪文。祭壇まで風で高速移動したのだ。
「……アレは任せる。援護はユークリッド君に頼んで」
「任された。シエルは大丈夫?」
「あんまり保ちそうにないな」
目も合わせずの会話。アレとはもちろんカモノハシ魔王のことで、エンジュが未だ
動揺しているカモノハシに駆け寄るのを背中で感じると、シエルはオーガスの後を追
う。しかし、止めるのは間に合いそうにない。
「……『エール』……っ!」
咄嗟に口を突いたのは呼吸補助の風を呼ぶ呪文。その風をオーガスにまとわりつか
せるのは、何とか間に合ったようだ。
「こ、れで……溺れはしない……わね」
目が据わっている。風魔法の連続使用で、睡魔は極限に達しようとしていた。
よろけつつも河に落ちる前に踏みとどまり、振り返ってエンジュとレインを見る。
「我は夢見の巫女として聖霊に乞う……この乾いた地に恵みの雨を!
この乾いた河に満ち満ちるほどのの雨を!
そして永きにわたる……降雨の契約を!!」
舞い終わったレインが、銀の短刀をカモノハシに突きつけているエンジュの向こう
で、聖霊に呼びかけた。祭壇が光に包まれる……!?
その光を見たような気がしたのは、もしかしたら夢だったのかもしれない。
シエルはホッとしたように崩れ落ち、深い眠りについていたのだ。