PC:エンジュ シエル レイン
場所:海に囲まれた島
NPC:ユークリッド オーガス カモノハシ大王(仮)
「やだ~、可愛すぎッ!!」
レインの感極まった声が、静まり返った広場に響いた。
祭壇で舞を奉納するレインの前に現れた黒い物体は、今ではしっかりとレイ
ンの膝に収まっている。
事態を飲み込めないでいるのは島民たちだけでなく、エンジュたちも同様だ
った。
「あれが魔王・・・?」
「カモノハシに似てるな」
「少なくとも巫女の儀式を中断させることには成功してるわね」
シエルの言葉に我に返ったオーガスが悲痛な叫びを上げた。
「巫女様!儀式を続けてください。このままでは今年の儀式は失敗に終わって
しまう!」
「落ち着け、オーガス!」
祭壇に駆け寄ろうとした男を、ユークリッドが羽交い絞めにしておさえる。
「前向きに考えれば、今巫女は魔王を制してるんだぜ!もう少し様子を見よ
う」
「そんな悠長な事は言ってられません、ユークリッド!」
前方での動揺はすぐさま広場全体に伝わった。
しかし、魔王の愛くるしい魅力に囚われたレインにオーガスの声は届かず、
その独特の毛ざわりを楽しんでいる。
祭壇を囲んだ四方の松明の炎が、風も吹かないのに徐々に勢いを失い始めて
いた。
「少し危ないんじゃないかしら・・・?」
シエルはちらりとエンジュを横目で見たが、隣のエルフはただ食い入るよう
にレインが抱く魔王を見ている。
もう一度舞台のレインを見た後、仮面の美女は小さくため息をついて肩をす
くめた。
(姉ちゃん。・・・聞こえるか?そこの赤目の美人さん!)
耳元で突然若い男の声が聞こえて、シエルは思わずユークリッドの方を振り
返った。
しかし、ユークリッドはキョトンとこちらを見返す。
声の主は彼ではなかった。
(こっちだ下、した、手元!良かった。アンタには俺の声が聞こえるんだな)
シエルの手元で仄かに光っているのはオーガスから貰った白い羽飾りだっ
た。
「あなたは・・・?」
(俺はこの島の祠に住む聖霊だ。魔王のせいで子猫ちゃんの方には声が届かな
いんだ)
その声は随分若々しく、神聖とは程遠い。
聖霊はまるで困り果てた人間のように苦々しく言葉を続けた。
(大魔導師との契約の際、俺は水を引く経路を誤って、やつの寝床を破壊しち
まったのさ。それ以来やつは根を持って儀式を邪魔しにやがる。普段は夢を媒
介にしてしか俺は動けないんだが…今夜は違うようだ)
「それで、貴方は何ができるの?私に何をしてほしいのかしら?」
(この羽で祭壇の結界を突き破ってほしい)
「どうしたんだ?シエルさん」
「聖霊だと名乗る声が話しかけてくるんだけど…」
「聖霊様と!?シエルさん、貴女にも巫女の資格があるのですね!」
オーガスは喜んでいたが、シエルは勘弁してくれという顔で彼を見返す。
「罠じゃないかしら?」
(罠だなんて!そりゃあないぜ!)
「ちょっとエンジュ?きいてるの?」
憤慨する聖霊の声を無視してシエルがエンジュの肩を揺さぶった。
「え?あぁ、聞いてるわよ?やっぱりソースに浸してあぶり焼きが一番いいん
じゃないかしら」
「そんな事聞いてないわよ」
どうやら、放心していたのはあのカモノハシをどう調理するか考えていたら
しい。
ただならぬエンジュの様子に心配していた分、シエルの呆れ具合も大きい。
「聖霊ね…。おかしい気配はしないわ、ね」
エンジュは短剣を羽根飾りにかざした。
銀色の刃をもつ剣は変わらず美しい輝きを放っている。
魔を払うというエルフの村に伝わる聖剣だ。
「火が消える!シエルさん、早く!」
ユークリッドの声に、シエルが思い切り羽根を投げた。
シエルの呼んだ風で勢いを増した羽根は、祭壇を突き破り、そのまま魔王の
体に突き刺さる。
「ギャァァァ――!? おのれ!小癪な」
「きょ、巨大化した!?」
ぬいぐるみサイズから巨大化した魔王に流石にレインもわれに返った。
(お嬢ちゃん、儀式を続けろ。雨乞いの舞を踊りきるんだ)
「聖霊様!?」
魔王の体を貫いた白い羽根飾りは、そのまま美しい大きな羽根を持つ鳥に変
わった。
白い鳥を肩に乗せて舞を踊るレインの姿はまさに、この島で作られた天使像
そのものであった。
「私の魔力を使いなさいよ」
エンジュは、オーガスの肩を叩いた。
「儀式を守るのは司祭の役目なんでしょ」
「エンジュさん…」
「ただし、私の魔力は高いわよ?等価交換なんでしょ?あの天使像なんかじゃ
釣り合わないわ」
「は、はい!」
オーガスは、何やら呟いてエンジュに触れると、そのまま祭壇のほうへと走
っていく。
儀式を続ける巫女を守り、魔王の暴走を止めるためである。
「いいの?」
魔力を奪われた途端にやってきた虚脱感に顔をしかめるエンジュにそっとシ
エルは尋ねる。
エンジュはエルフ特有の達観した表情で答えた。
「いいのよ。これは私がハンターとして受けた依頼じゃあないからね。正しい
形で終わらせたほうがいいの」
「単にラクしたいだけでしょ」
「そうとも言うわね」
場所:海に囲まれた島
NPC:ユークリッド オーガス カモノハシ大王(仮)
「やだ~、可愛すぎッ!!」
レインの感極まった声が、静まり返った広場に響いた。
祭壇で舞を奉納するレインの前に現れた黒い物体は、今ではしっかりとレイ
ンの膝に収まっている。
事態を飲み込めないでいるのは島民たちだけでなく、エンジュたちも同様だ
った。
「あれが魔王・・・?」
「カモノハシに似てるな」
「少なくとも巫女の儀式を中断させることには成功してるわね」
シエルの言葉に我に返ったオーガスが悲痛な叫びを上げた。
「巫女様!儀式を続けてください。このままでは今年の儀式は失敗に終わって
しまう!」
「落ち着け、オーガス!」
祭壇に駆け寄ろうとした男を、ユークリッドが羽交い絞めにしておさえる。
「前向きに考えれば、今巫女は魔王を制してるんだぜ!もう少し様子を見よ
う」
「そんな悠長な事は言ってられません、ユークリッド!」
前方での動揺はすぐさま広場全体に伝わった。
しかし、魔王の愛くるしい魅力に囚われたレインにオーガスの声は届かず、
その独特の毛ざわりを楽しんでいる。
祭壇を囲んだ四方の松明の炎が、風も吹かないのに徐々に勢いを失い始めて
いた。
「少し危ないんじゃないかしら・・・?」
シエルはちらりとエンジュを横目で見たが、隣のエルフはただ食い入るよう
にレインが抱く魔王を見ている。
もう一度舞台のレインを見た後、仮面の美女は小さくため息をついて肩をす
くめた。
(姉ちゃん。・・・聞こえるか?そこの赤目の美人さん!)
耳元で突然若い男の声が聞こえて、シエルは思わずユークリッドの方を振り
返った。
しかし、ユークリッドはキョトンとこちらを見返す。
声の主は彼ではなかった。
(こっちだ下、した、手元!良かった。アンタには俺の声が聞こえるんだな)
シエルの手元で仄かに光っているのはオーガスから貰った白い羽飾りだっ
た。
「あなたは・・・?」
(俺はこの島の祠に住む聖霊だ。魔王のせいで子猫ちゃんの方には声が届かな
いんだ)
その声は随分若々しく、神聖とは程遠い。
聖霊はまるで困り果てた人間のように苦々しく言葉を続けた。
(大魔導師との契約の際、俺は水を引く経路を誤って、やつの寝床を破壊しち
まったのさ。それ以来やつは根を持って儀式を邪魔しにやがる。普段は夢を媒
介にしてしか俺は動けないんだが…今夜は違うようだ)
「それで、貴方は何ができるの?私に何をしてほしいのかしら?」
(この羽で祭壇の結界を突き破ってほしい)
「どうしたんだ?シエルさん」
「聖霊だと名乗る声が話しかけてくるんだけど…」
「聖霊様と!?シエルさん、貴女にも巫女の資格があるのですね!」
オーガスは喜んでいたが、シエルは勘弁してくれという顔で彼を見返す。
「罠じゃないかしら?」
(罠だなんて!そりゃあないぜ!)
「ちょっとエンジュ?きいてるの?」
憤慨する聖霊の声を無視してシエルがエンジュの肩を揺さぶった。
「え?あぁ、聞いてるわよ?やっぱりソースに浸してあぶり焼きが一番いいん
じゃないかしら」
「そんな事聞いてないわよ」
どうやら、放心していたのはあのカモノハシをどう調理するか考えていたら
しい。
ただならぬエンジュの様子に心配していた分、シエルの呆れ具合も大きい。
「聖霊ね…。おかしい気配はしないわ、ね」
エンジュは短剣を羽根飾りにかざした。
銀色の刃をもつ剣は変わらず美しい輝きを放っている。
魔を払うというエルフの村に伝わる聖剣だ。
「火が消える!シエルさん、早く!」
ユークリッドの声に、シエルが思い切り羽根を投げた。
シエルの呼んだ風で勢いを増した羽根は、祭壇を突き破り、そのまま魔王の
体に突き刺さる。
「ギャァァァ――!? おのれ!小癪な」
「きょ、巨大化した!?」
ぬいぐるみサイズから巨大化した魔王に流石にレインもわれに返った。
(お嬢ちゃん、儀式を続けろ。雨乞いの舞を踊りきるんだ)
「聖霊様!?」
魔王の体を貫いた白い羽根飾りは、そのまま美しい大きな羽根を持つ鳥に変
わった。
白い鳥を肩に乗せて舞を踊るレインの姿はまさに、この島で作られた天使像
そのものであった。
「私の魔力を使いなさいよ」
エンジュは、オーガスの肩を叩いた。
「儀式を守るのは司祭の役目なんでしょ」
「エンジュさん…」
「ただし、私の魔力は高いわよ?等価交換なんでしょ?あの天使像なんかじゃ
釣り合わないわ」
「は、はい!」
オーガスは、何やら呟いてエンジュに触れると、そのまま祭壇のほうへと走
っていく。
儀式を続ける巫女を守り、魔王の暴走を止めるためである。
「いいの?」
魔力を奪われた途端にやってきた虚脱感に顔をしかめるエンジュにそっとシ
エルは尋ねる。
エンジュはエルフ特有の達観した表情で答えた。
「いいのよ。これは私がハンターとして受けた依頼じゃあないからね。正しい
形で終わらせたほうがいいの」
「単にラクしたいだけでしょ」
「そうとも言うわね」
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