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2024/11/07 16:31 |
天使と空と優しい雨~第十話~/シエル(マリムラ)
PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)・オーガス(商人)
場所:市場
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 エンジュが殴りかかるのとオーガスが呪文を詠唱を終えるのは、まさしく紙一重の
差だった。手加減なく、思い切り殴られたオーガスは、顔を若干歪ませたまま後ろの
壁に叩き付けられる。

「ざまぁみなさい!」

 ふんぞり返るエンジュ。その脇からレインが前に出たかと思うと、大きく振りかぶ
って平手打ちを見舞った。頬に残る大きな紅葉を見て少し気が済んだのか、深呼吸を
一つすると、レインはオーガスの持ち物を調べ始めた。遅れて駆けつけたシエルも露
店に並べられた商品を一瞥し、オーガスを睨め付ける。

「返して貰うからねっ!」

 そう言いながら探すモノの、なかなか目的のものが見つからない。荷物をひっくり
返して探し続けるレインの横で、エンジュはオーガスの首根っこを捕まえていた。

「返品だって言ってるでしょう!さっさと奪ったものを返しなさいよ!」

 ゴフッっと噎せ返るオーガスなど気にもしない様子でエンジュが揺らす。
 ユークリッドとシエルが後ろから肩を叩くまで、それは続いた。



「さて、イロイロと聞きたいことがあるんだけどね―――『渡り商人』、オーガス」

 ユークリッドの目がきらりと光る。
 さっきまでの母性本能をくすぐられるような甘い顔ではなく、『情報屋』ユークリ
ッドのもう一つの顔。鋭い眼光は、目を逸らすことなくオーガスを見ている。

「―――私はけっして不当な取引なぞいたしませんよ」

 疲れたような顔で、しかし何処か信念を持った口振りでオーガスは呟いた。

「エンジュさん、やっぱり何処にもありません!」

 何度も荷物をひっくり返し、やはり目当てのものが見つからないことに苛立ちを隠
そうともしないレインがエンジュを見上げる。エンジュはもう一度殴りかかろうとし
てシエルに止められた。

「待って、話を聞きましょう」
「ちょ、止めないでよシエル」
「そりゃ止めるわよ、あなた魔力を取り返す前に殴り殺す気?」
「殺さないって。話をしやすいようにもう2、3回殴っとこうかと思って」

 拳を作ったまま肩を回すエンジュは、脅しとしては十分だった。

「アレにボコボコにされる前に、自分で話さないか?」

 エンジュを背に、ユークリッドはオーガスとの間合いを詰める。
 オーガスが顔も目も逸らさずに見返しているのが不思議と言えば不思議なきがし
た。普通、何か後ろめたいことがあるモノはこうは出来ない。

「私はけっして不当な取引なぞいたしませんよ」

 同じ言葉を繰り返す。さっきよりもしっかりと、ユークリッドの目を見ながらの言
葉だった。表情は商売用の、張り付けた笑顔。

「では取引が不当ではなかったとして、あの像や羽根の価値も教えないというのは納
得行かないな。アンタが嫌う商売のマナー違反じゃないのか?」

 引き出したい情報はいくつかある。が、すべて素直に答えてくれるとは考えづらか
った。相手を否定することを避けて、話の軸を少しずつコチラ側に引き寄せる必要が
ある。交渉の技量が試されるところだ。

「それは確かに」

 エンジュに殴られ、レインに平手打ちを食らった頬をさすりながら、オーガスは答
えた。レインも立ち上がり、いつでも蹴りが繰り出せるように構えている。

「君も知っての通り、私の扱っているモノは普通のモノではありませんからね。その
中でもコレは格別ですよ」

 何処からともなく取り出したのはもう一体の天使像。

「あと六日です。お試し期間の間にいろいろ試してみることをおススメしますが?」

「もう!結局なんにも教えてくれないじゃないですか!」
「そうよ、ちゃんと聞かれたことを答えなさいよ!」
「大体、何処にそんなの隠し持ってたんですか!羽交い締めして身体検査の必要があ
ると思いますっ!」

 詰め寄るレインとエンジュ。シエルはやっぱり二人とも似てるわ、と思いながら傍
観することに決めた。

「ほら、ユークリッドさんも手伝って!」
「な?!オレ?」
「そうよ、あんた以外に誰がいるっていうの。私たちはか弱い女の子なのよ!」
「か弱くないだろ」
「いいから、ほら!シエルもなんとか言って」

「―――『カルム』」

 シエルの一言と被るようにエンジュが身震いする。目の前の騒ぎの中、オーガスが
エンジュの魔力を拝借しようとした証拠だった。
 オーガスが口をパクパクさせる。シエルにより声を消され、呪文の詠唱が続かなく
なった哀れな姿。その姿はエンジュの怒りに火をつけた。

「懲りもせずにアンタってヤツは―――っ」

 エンジュの鉄拳が鳩尾に飛ぶ。同時に放たれたレインのハイキックは後頭部に決ま
り、『渡り商人』オーガスは体を二つに折るようにして意識を手放した。

「自業自得ね」

 シエルが冷たく言い放つ。ユークリッドは頭を抱えて座り込み、見上げながらエン
ジュに言った。

「ねえさん、通りで人をボコボコにしてたらどうなると思う?」
「どうせココ、ちょっと人通りを離れた場所なんだから大丈夫よ」
「そうじゃなくて」
「目立つと治安がどうのって連れてかれちゃう、分かってるわよそのくらい。宿に戻
って改めて話を聞いた方が良さそうってこともね。頼んだわよユークリッド」

 やっぱり面倒なことは押しつけられるのか、と頭を抱えるユークリッドとは対照的
に、晴れ晴れとした表情のエンジュは思い切り伸びをしてから言った。

「暴れたらお腹がすいちゃった」

 思わずレインも緊張を解いて吹き出す。慌てて我慢しようとしても笑いは収まらな
い。結局エンジュに肩を小突かれるようにして歩き出したのだが、もうすっかり打ち
解けたようだった。シエルはやれやれと呆れ顔で二人の後に続く。

 通りに残されたのは気絶したオーガスと、引っかき回されて散らばった彼の荷物
と、貧乏くじを引かされたユークリッドだけであった。

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2007/02/10 21:09 | Comments(0) | TrackBack() | ●天使と空と優しい雨
天使と空と優しい雨~第十一話~/レイン(魅流)
PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)
場所:宿屋
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 気がつけば、私は見知らぬ場所で見知らぬ格好をして見知らぬ儀式をしていた。
 よくわからないけど、なんとなくどこぞの民族衣装を思わせるような、しかもいかにも儀式用っぽい豪華な仕立ての服を着て、舞台の上で儀式を行う姿が俯瞰図となって私に見える。
 少し離れた所にこの間知り合ったばかりの美人な姉さん二人組、別の場所にはド変態の姿もあるのが見て取れる。どうしちゃったんだろう、私の視力……というか、私の目。

 ちょっと意識を別のところに飛ばしている間に、私が見下ろす景色はまったく別のものに変わってしまっていた。さっきと違うのは、今度はまるっきりの日常風景だったコト。
 今泊まっている宿屋の一階で、私とエンジュさんとシエルさんとユークリッドさんがご飯を食べているところとか、他の人がやっぱり朝ごはんを食べてるところを、また上から眺めている。
 仕事がひと段落したらしい親父さんが何かをいいながら窓を開けにいったり、中身は聞こえないけどそれぞれのテーブルについている人たちが談笑しているのがよくわかった。
それは、誰一人として例外もなく。つまり、私もまた普通にご飯を食べ、皆とお話してる。
上の私を意識することもなくて、よくわからないけど話しているような様子があった。
 そう、今の私には音が聞こえない。物に触れているという感じもないし、匂いも全然分からない。まるで、世界から一人隔離されて、その映像だけを見せられてるみたいに。

 ふと、宿の隅っこの方で親父さんが窓を開けている所が目に入った。……というか、目には入っていたんだけど、唐突にそちらが気になっちゃった。
 『それは、やっちゃいけない』心の中で警鐘がなる感じ。はたして、開け放たれた窓からごう、と強い風が吹き込んでくる。次の瞬間、私の視界は光に覆われてしまった。

              ★☆◆◇†☆★◇◆

 がばっと音を立てて私は起き上がった。
 辺りを見回すと、そこは私が泊まっている部屋。手の中にはあのド変態に押し付けられた天使像があったりなんかして、じょじょに私の記憶が戻ってきた。

 昨日、偶然見つけたド変態を捕まえて私達の宿まで連れてきたのはよかったのだけど、また逃げられちゃったんだ。いつも通り、お試し期間中だからいろいろ試してみなさいみたいな言葉を残して。
 それで皆で相談して、幸い後数日な事だしこうなったら時間切れで返してもらえるのを待とうみたいなコトになって、その言葉通りにいろいろ像をいじってる間に寝ちゃったんだ、私。
 つまり、さっきのは夢だった、ていうのが正解みたい。そう結論付けて、ベッドから降りて身支度を始める。そろそろ太陽が昇り始めて、朝の露店が並び始める頃合だから。
あんなよくわからない夢の事はさっさと忘れて、今は私の趣味に走らないと――

 日課のウィンドウショッピングを終えて戻ってきたら、ちょうど廊下で皆に会うことができた。ご飯を誘いに行くつもりだったからちょっとラッキー。
また一階に下りて、空いてるテーブルに座ったところでちょっと既視感を感じた。なんだろう、この配置にちょっと覚えがあるような?

 ちょっとキョロキョロと辺りを見回してたら、偶然目があったシエルさんに「どうかしたの?」って聞かれちゃった。「なんでもないでーす」って返事してから私も自分のご飯に取り掛かる。そろそろ財布の中身も危なかったりするから、今日は健康的にパンとスープがそのメニューだった。

 いつも思うんだけど、エンジュさんの食事っぷりは見てて気持ちがいい。
健啖家、て言うのかな。なんか見てて本当にすごいと思えるというかなんというか。
この料理を私が作ったんだとしたらさぞかしいい気分だろうなーって感じ。
と、いうわけで失礼かなーとか思いつつも見とれていたら、急に強い風が吹いてきた。
 一陣の、とでもいうべき短い、でも強い風。既視感の正体が夢だ、と気づいた時には再び私の視界は光に覆われていた。

 閃光は、一瞬だった。光が消えてしまえば、目がチカチカする以外は特になにもなく。
だというのに、まぜかさっきまでのざわざわした喧騒はこの宿の中からは消えうせて、奇妙な沈黙に包まれてしまう。
 ふと足元を見ると、そこには黒い毛の塊。そして、光のでた先を見てみると、そこにはさっきまであったものをなくしてしまった親父さんがいた。
あぁ……つまりはそういうコトなんだ。
 心の中で手をポンと打って、足元の毛の塊――鬘とも言うソレを拾って、窓際の親父さんの所へ。

「あの……落ちましたよ?」

 といって鬘を差し出した。「あぁ…」と、どこか放心したように受け取る親父さん。

「それにしても……見事ですねー」

 手元の鬘を所在なさげにいぢる親父さんがあまりにも可哀想だったから、ちょっと元気付けようとして褒めてみる。事実、親父さんの頭ときたら、まるで鏡にでもなりそうなくらいに綺麗につるっと毛がなくなっていたものだから。
 その時、後ろからプッっと噴出す音が聞こえる。

――どんなに小さくても、穴の開いたダムは壊れるしかない――近所のお兄さんの言葉の意味を私が理解したのは、まさにこのときの事だった。


2007/02/10 21:09 | Comments(0) | TrackBack() | ●天使と空と優しい雨
天使と空と優しい雨~第十二話~/エンジュ(千鳥)
PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋) オーガス(渡り商人)
場所:宿屋→島
-----------------------------------------------
それは、多くの人々にとっては思いがけない朝の珍事件であり、エンジュにと
ってもまたそうであった。故に、それをこことは全く違う場所から見ていた、一
人の男が歓喜にうち震えたことなど知る由もなかった。

 ―――やっと!やっと見つけた。
    我が島を救う夢見の巫女を!!

:エンジュside【4】  
--------------------------------------------------
『ようこそ夢の島へ!』
--------------------------------------------------

「あの……落ちましたよ?」
 
 静まり帰った店内に、少女の悪意ない軽やかな声がやけに響いた。
 そして駄目押し。

「それにしても……見事ですねー」

 その一言に、こらえきれずに居た誰かが噴き出し、辺りは笑いの渦に巻き込ま
れた。

「見事な天然ね」

 軽く口笛を吹いてエンジュはレインと店主のやり取りを見ていた。既に食事が
終わり、テーブルには綺麗に皿が積み上げられている。

「そうね」

 シエルは紅茶を受け皿に戻すと、短く答えた。仮面のせいで表情を見ることは
かなわなかったが、口元には軽い笑みが浮かんでいる。

「随分上機嫌じゃない?」
「そうかしら」
「そうよ」
「そうね、夢見が良かったからかしら?」

 シエルはその容姿のせいか、普段はひどく感情を押し殺したふりをする。しか
し、エンジュはそれが彼女の本来の姿ではないことを知っている。だから、こう
して無防備な彼女を見ることはエンジュの楽しみでもあった。
 こうした自分の性格はエルフとしては大幅に規格外なものであったのだが、半
分は人の血が流れているのだ。仕方がないことなのだろう。むしろ、人とエルフ
では自分はかなり人間に近い側にいると自負しているのだが、何故か他人はそう
思ってくれないようである。

 そうこうしているうちに、レインがちょこちょことした足取りでこちらまで戻
ってきて席に落ちついた。

「どうかしたのか?」

 席についた途端に笑顔をひっこめたレインにユークリッドが声をかけた。その
変化は僅かなもので、エンジュとシエルはこの言葉に顔を見合わせ、少女を見た
。ユークリッドの言葉に、レインはなぜか納得いかない違和感を表情に浮かべ、
頷いた。 

「実は…さっきの光景を夢で見たんです」
「「「夢ェ!?」」」

 思わず3人の声が重なる。レインは事の詳細を話す。ただ、その夢の内容はあ
まり具体的とは言えず、みた内容がごく平凡な朝食の光景であったため、断定す
ることもできなかった。

「レインはそーいう夢をよく見る性質(たち)なの?…予知夢とか」
「いいえ、全然みないです」
「時期としては、どうにも…」

 オーガスのもたらした天使像の効果に見えなくも…ない。

「でも、私は特にそんな夢みなかったけどな。覚えてないけど…そうね、悪い夢
じゃなかったと思うけど」
「私も…」

 エンジュの言葉に、シエルが頷く。そんな彼女たちの言葉を聞いて、「夢ねぇ
」と何か思い出すようにユークリッドがつぶやいた。たしか、オーガスの出身地
には不思議な風習があったはずだ―――それを思い出せないことを何故か彼を苛
立たせた。
 
「とりあえず、もう一回寝てみたら?何かまた見るかもよ」
「そんなに寝れませんよ~~」

 いい加減な結論を出すと、エンジュは立ちあがる。他の者もそれに倣って立ち
あがった瞬間、テーブルを中心に膨れ上がった閃光が彼らの視覚を奪った。

「な!?なんですか!」
「あいつだわ!オーガスよッ」

 エンジュの確信に満ちた叫び声が、収縮する光とともに食堂から消えうせた。
 

 ★☆★☆

 最初に聞こえたのは、打ち寄せる波の音。そして、潮の香り。
 光が霧散していき、最後に視力が戻ってくる。
 いやな予感を現実として受け入れられたのは、自分の目で白い砂浜と、青い空
と、青い海を見てからだった。
 
「なんで海なのよ~~~~ゥ!?」
「や、姉さんや。叫んでも状況は変わらないぜぇ?」
「私たちだけ連れてこられたみたいね」
「ど、どこなんでしょう…ココ」
「ここは、夢の島―――ナイティア。わたくしの故郷でございます」

 最後に割りこんだのはオーガスの声だ。
 砂浜に茫然自失でたたずんでいた4人がはっと声の主を見つめた。

「やっと自ら出てきたわね」

 ふふんと笑うエンジュの脇を素通りすると、オーガスはその砂地に膝をつき、
レインを見上げた。その服は既に以前のものとは異なり、レインが夢で見た、あ
の民族衣装に酷似していた。
 
「貴女をお待ちしていました。どうか、この島を救ってください」 
 
 海鳥の鳴き声に、振り返ったその島の中央には白く高い岩山がそびえ立ってい
た―――。


2007/02/10 21:10 | Comments(0) | TrackBack() | ●天使と空と優しい雨
天使と空と優しい雨~第十三話~/シエル(マリムラ)
「えー……っと、意味が分からないんだけど?」

 頭一杯を疑問符で覆われながら、レインがオーガスに訊ねる。

「あと、頭あげて下さい。そんなコトされても困ります」

 こんな暴挙に出られたにも関わらず、相手が下手に出ると強く出られないレイン。
それは彼女が見た夢のせいなのか、それとも元々の気質なのか。シエルは後者だろう
なと何となく考えた。

「何なりとお聞き下さい、夢見の巫女よ」

 恭しく跪いたまま、顔だけ上げてオーガスが答える。

「夢見の巫女?」

「ええそうです。天使像の力を引き出し、夢を自在に操れる夢見の巫女。私はずっと
あなた様を捜しておりました」

 ますます混乱するレインを見かね、ユークリッドがオーガスへいくつか質問を浴び
せた。いろいろ回りくどいその答えを要約するとこうだ。

  <昔、この島には夢見の巫女と崇められる女達がいた。
   彼女たちは天使像の力を借り、夢の中で聖霊に近づくことによって
   雨の降らないこの土地に実りをもたらしたのだった。
   しかし時は流れ、その力を受け継ぐ者がいなくなってしまう。
   島の人々は最後の望みをオーガスに託し、新たな巫女を捜していたのだ>

「えぇぇ~!」

 ユークリッドの解説付き要約でやっと事態が飲み込めたらしいレインが後ずさりな
がら叫ぶ。エンジュはあまりの声の大きさに耳を塞ぎ、シエルは首を竦めた。

「で、私たちは選考漏れ?」

 シエルが皮肉っぽくオーガスに問う。

「私もエンジュもそれらしい夢、見てないわ」
「そうよ!関係ないならさっさと魔力返しなさいよ!」
「まあまあ、落ち着いて姉さん」

 今にも掴みかかりそうなエンジュをユークリッドが抑ようとするので、エンジュは
身を乗り出して威嚇するに止めた。シエルがエンジュに囁く。

『一つ聞くけど、魔力取り返したら全員を長距離転送出来る?』
『そんな面倒で高度な魔法、使えるワケないじゃない』
『……そうよね、エンジュだものね』
『ど-いう意味よ』

「お嬢さん方、私がお呼びしたのは天使像の力です。天使像はそれぞれが引きつけあ
う特性があるのですから」

 なるほど、使い方次第では魔力に相当するモノなのかもしれない。しかし、コレで
は帰ろうにも帰れないではないか。思わず頭を抱える。
 でも、あれ?何でユークリッド君まで連れてこられたのかしら。

「コレ、わざと置いていったんだな?オーガス」

 ユークリッドの懐から出てきたのは、逃げ出す前に最後に出した天使像。オーガス
が格別と言った、胸の前で両手を交差させる直立の天使像だった。

「ご名答。巫女様に必要と感じますれば」

 うやうやしくお辞儀をするオーガスを、半泣きの表情で見下ろすレイン。

「エンジュさん、シエルさん、ユークリッドさぁん~。助けて下さぁぁい」

 助けを求めてこちらを向く姿は、底なし沼に足を取られたかのように見えた。




「で、具体的にはどうする必要があるんだ?」

 ユークリッドの一言で、そういえば抽象的な話しか聞いてないなぁと振り返る。

「聖霊と契約をするんですよ。100年の恵みの契約を」

 ココで精霊なんて見かけただろうか。特別な気配も感じなかったような気がして、
シエルは辺りを探ってみた。……普通に風の精霊はいるみたい。でも、契約をしてど
うこうするような存在は感じられなかった。

「何の精霊?何処にいるのか分からないわ」

「そうでしょうとも。そこが聖霊の聖霊たる所以なのです。普通の精霊ではなく、夢
見の巫女が夢の中だけで近づける存在なのですから」

 誇らしげに、半ば陶酔したようなオーガスの表情になんだか疲れを感じる。いよい
よもってやれることはないのかもしれない。だから宗教は苦手だ。理解の範疇を越え
てしまっている。

「しばらく雨も降ってないのね」

 レインがしゃがんで足下の枯れかけた草を見る。よく見渡せばそこかしこで枯れた
草が見え、枯れた木までもが今にも倒れそうに踏ん張っていた。

「雨が降るのを止めてもう半年です。コレが最後のチャンスなんです!」

 ようやく見つけた夢見の巫女に縋るようにオーガスが訴える。目は涙で潤み、全身
から切羽詰まった様子が感じられ、レインは思わず頷きそうになって思い留まった。

「だから、どーやって聖霊に近づくのよ~」

 何一つ具体的なことは聞いていないのだ。レインは思わずオーガスから目を背け、
空を仰いで叫んでいた。

2007/02/10 21:10 | Comments(0) | TrackBack() | ●天使と空と優しい雨
天使と空と優しい雨~第十四話~/レイン(魅流)
PC:レイン
NPC:オーガス(商人)
場所:夢の島ナイティア~夢の祠~夢の世界~夢の祠。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 適当に、その場に合わせた反応をなんとなく返しながら思考を少しずつ纏めて行く。魔術師は自己のコントロールが完璧でなければならないというのが祖父の口癖だった。
おちついて、冷静に、余計な思考をカット。とりあえず狂信者とかそういうのはまず言う事を聞いてあげることが沈静化への第一歩なんだっけ?これも聞いた話なんだけど。

「――つまり、結局私は何をすればいいんですか?」

 0.5秒くらい(適当)で考えを纏めて、ついでにいろいろ決心して口を開くと、おぉ、やる気になってくださいましたか!とか、これでナイティアも救われます!とかなんとか。
相変わらず感情が理性を完全に超えていて一向に要領を得ないんだけど、まぁとにかく実際ヤルコト編を総合すると、つまり私は像に触れながら(実際には抱けって言われた。語り継ぐのに必要なんだって、別に語り継がなくていいのに)寝ればいいみたい。そんな簡単なコトならさっさとそう言ってくれれば私もいろいろと助かるのに、とかは思っちゃいけないんだろうね。やっぱり。

 聖霊に接する夢見の巫女が眠りにつく部屋とやらは、村から少し離れた山間にある洞窟のような祠だった。着いた時にはもう、げっそり。村からそんなに離れてるわけでもないし、道中は平坦な道だったんだけど、同行者の精神攻撃が痛い痛い痛い。久しぶりに自分の呪符を身につけている安心感とかそういうのがなかったら耐え切れてたかどうか本気で怪しいっていうのは困りモノだと思うんだ、私。
ようやく着いたってほっとしながら中に入ると、小さな部屋が作られていてポツンとベッドが一つ置かれていた。

「ここは、本来夢を操る大魔導師様の住まわれていた祠なのです」

 と、私を案内してきたオーガスとか言うヤツが言う。
まぁ、私にしてみればそんな曰く因縁はどうでもいい。どうせ寝るだけ……だ……し?

「ねぇ、これなぁに?」

 ベッドを見ると嫌でも目につく、白いシーツに映える強烈な色彩。
それは、朱色の袴だった。上着とセットでキレイに畳んでおいてある。

「はい、夢見の巫女さまの装束です。それをご着用の上でお眠りください」

 よくわからないけど、これも必要なコトらしい。
さすが、村の存続を賭けてるだけに大掛かりなんだなぁとか思ってみる。

「必要な事ですから。どうか、お願いいたします」

 手にとって見ると一応洗濯はされてあったけど、長年使ってきた服の、独特のよれとかがあった。きっと新品ではなくて代々の巫女さんが使ってた服なんだろーなーとか思いながら袖を通す。決して私も大柄な方ではないハズなのだけど、私には少し小さくて肩回りとかがちょっと窮屈なのが困るといえば困った。

                ★☆◆◇†☆★◇◆

 変態追い出して着替えてベッドに入ったら、そこはまさに夢のような心地で私はすぐに自分が眠りに落ちていくのがわかった。

 気が付けば、私は上も下も左も右もわからないようなところをふらふらしていた。
適当にうろついていると、いつの間にかオトコの人が目の前に立っていた。実家の近所にすんでいたお兄さんに似ているんだけど、髪の毛とか目の色が違う。いっそ髪型まで違っていれば別人なのに、なんだろうこのハンパさ。

「よう、なかなかぴっちり感ただよういい感じの子猫ちゃん、何かオレに用かい?」

「…えっと、ぴっちりした子猫ちゃんてどんなのです?」

「キミのようなカワイイ子のコトさぁ」

「ぴっちりってかわいいって意味もあったんですね~」

 初耳でしたって小さな声で付け加えて。そこで一端会話が途切れた。
きっと私も同じ表情をしてると思うんだけど、彼も困ったような愛想笑いを浮かべながら立ち尽くしている。

「……で、何か用なのかい?」

 たっぷり数分の間に渡る沈黙をやぶったのはハンパ者の方だった。結局ぴっちりと可愛いの関係とか、子猫ちゃんのコトとか聞いてないけどそれを言い出すと話が進まないみたいだからとりあえずおいておくことにした。

「聖霊さんとやらに会って、雨降らせて~ってお願いしなきゃいけないんです」

「あぁ、やっぱりそうか子猫ちゃん。そしたらキミにはこれからある儀式を教えるから、向こうに帰ったら実行すればいい」

 なーんてコトもなげに言ってくれた。……私が巫女やった意味って、あるの?

「それで雨が降るんですね?」

 一応念を押してから帰ろうと思ったら、なんか視線が泳いでるハンパ者(推定聖霊様)が一名。

「ホントーに雨、降るんですよね?」

「そ、そりゃあ降るさ。儀式が完全に成功すればネ。途中でちょっと魔王とか沸くケド」

「それならよか……って魔王!?」

 魔王。きっと青いロングヘアで耳が尖ってて肌が白くて鎌を使うんだ。

「いや、いやいや。一応魔王に属されるケド、たいした能力も持ってネェ雑魚だからサ」

「そうなんですか……で、どんな能力を持ってるんですか?」

「ウム、ことあるごとに河に潜って木の枝を集めたくさせる能力だ。」

 …ぇ。

「ちなみに持続時間は296ミニッツ」

 ……はぁ。

「そして能力名"巨大なカモノハシ☆"!!」

「わけわかんないです!!」

 全力で突っ込みを入れながら起き上がると、部屋の隅っこでキャンバスに向かう変態。

「一番、火炎符、龍火!!!」

 そうして、一直線に伸びた炎が変態を覆い隠した。

2007/02/10 21:11 | Comments(0) | TrackBack() | ●天使と空と優しい雨

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