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2025/03/10 07:00 |
天使と空と優しい雨~第十話~/シエル(マリムラ)
PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)・オーガス(商人)
場所:市場
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 エンジュが殴りかかるのとオーガスが呪文を詠唱を終えるのは、まさしく紙一重の
差だった。手加減なく、思い切り殴られたオーガスは、顔を若干歪ませたまま後ろの
壁に叩き付けられる。

「ざまぁみなさい!」

 ふんぞり返るエンジュ。その脇からレインが前に出たかと思うと、大きく振りかぶ
って平手打ちを見舞った。頬に残る大きな紅葉を見て少し気が済んだのか、深呼吸を
一つすると、レインはオーガスの持ち物を調べ始めた。遅れて駆けつけたシエルも露
店に並べられた商品を一瞥し、オーガスを睨め付ける。

「返して貰うからねっ!」

 そう言いながら探すモノの、なかなか目的のものが見つからない。荷物をひっくり
返して探し続けるレインの横で、エンジュはオーガスの首根っこを捕まえていた。

「返品だって言ってるでしょう!さっさと奪ったものを返しなさいよ!」

 ゴフッっと噎せ返るオーガスなど気にもしない様子でエンジュが揺らす。
 ユークリッドとシエルが後ろから肩を叩くまで、それは続いた。



「さて、イロイロと聞きたいことがあるんだけどね―――『渡り商人』、オーガス」

 ユークリッドの目がきらりと光る。
 さっきまでの母性本能をくすぐられるような甘い顔ではなく、『情報屋』ユークリ
ッドのもう一つの顔。鋭い眼光は、目を逸らすことなくオーガスを見ている。

「―――私はけっして不当な取引なぞいたしませんよ」

 疲れたような顔で、しかし何処か信念を持った口振りでオーガスは呟いた。

「エンジュさん、やっぱり何処にもありません!」

 何度も荷物をひっくり返し、やはり目当てのものが見つからないことに苛立ちを隠
そうともしないレインがエンジュを見上げる。エンジュはもう一度殴りかかろうとし
てシエルに止められた。

「待って、話を聞きましょう」
「ちょ、止めないでよシエル」
「そりゃ止めるわよ、あなた魔力を取り返す前に殴り殺す気?」
「殺さないって。話をしやすいようにもう2、3回殴っとこうかと思って」

 拳を作ったまま肩を回すエンジュは、脅しとしては十分だった。

「アレにボコボコにされる前に、自分で話さないか?」

 エンジュを背に、ユークリッドはオーガスとの間合いを詰める。
 オーガスが顔も目も逸らさずに見返しているのが不思議と言えば不思議なきがし
た。普通、何か後ろめたいことがあるモノはこうは出来ない。

「私はけっして不当な取引なぞいたしませんよ」

 同じ言葉を繰り返す。さっきよりもしっかりと、ユークリッドの目を見ながらの言
葉だった。表情は商売用の、張り付けた笑顔。

「では取引が不当ではなかったとして、あの像や羽根の価値も教えないというのは納
得行かないな。アンタが嫌う商売のマナー違反じゃないのか?」

 引き出したい情報はいくつかある。が、すべて素直に答えてくれるとは考えづらか
った。相手を否定することを避けて、話の軸を少しずつコチラ側に引き寄せる必要が
ある。交渉の技量が試されるところだ。

「それは確かに」

 エンジュに殴られ、レインに平手打ちを食らった頬をさすりながら、オーガスは答
えた。レインも立ち上がり、いつでも蹴りが繰り出せるように構えている。

「君も知っての通り、私の扱っているモノは普通のモノではありませんからね。その
中でもコレは格別ですよ」

 何処からともなく取り出したのはもう一体の天使像。

「あと六日です。お試し期間の間にいろいろ試してみることをおススメしますが?」

「もう!結局なんにも教えてくれないじゃないですか!」
「そうよ、ちゃんと聞かれたことを答えなさいよ!」
「大体、何処にそんなの隠し持ってたんですか!羽交い締めして身体検査の必要があ
ると思いますっ!」

 詰め寄るレインとエンジュ。シエルはやっぱり二人とも似てるわ、と思いながら傍
観することに決めた。

「ほら、ユークリッドさんも手伝って!」
「な?!オレ?」
「そうよ、あんた以外に誰がいるっていうの。私たちはか弱い女の子なのよ!」
「か弱くないだろ」
「いいから、ほら!シエルもなんとか言って」

「―――『カルム』」

 シエルの一言と被るようにエンジュが身震いする。目の前の騒ぎの中、オーガスが
エンジュの魔力を拝借しようとした証拠だった。
 オーガスが口をパクパクさせる。シエルにより声を消され、呪文の詠唱が続かなく
なった哀れな姿。その姿はエンジュの怒りに火をつけた。

「懲りもせずにアンタってヤツは―――っ」

 エンジュの鉄拳が鳩尾に飛ぶ。同時に放たれたレインのハイキックは後頭部に決ま
り、『渡り商人』オーガスは体を二つに折るようにして意識を手放した。

「自業自得ね」

 シエルが冷たく言い放つ。ユークリッドは頭を抱えて座り込み、見上げながらエン
ジュに言った。

「ねえさん、通りで人をボコボコにしてたらどうなると思う?」
「どうせココ、ちょっと人通りを離れた場所なんだから大丈夫よ」
「そうじゃなくて」
「目立つと治安がどうのって連れてかれちゃう、分かってるわよそのくらい。宿に戻
って改めて話を聞いた方が良さそうってこともね。頼んだわよユークリッド」

 やっぱり面倒なことは押しつけられるのか、と頭を抱えるユークリッドとは対照的
に、晴れ晴れとした表情のエンジュは思い切り伸びをしてから言った。

「暴れたらお腹がすいちゃった」

 思わずレインも緊張を解いて吹き出す。慌てて我慢しようとしても笑いは収まらな
い。結局エンジュに肩を小突かれるようにして歩き出したのだが、もうすっかり打ち
解けたようだった。シエルはやれやれと呆れ顔で二人の後に続く。

 通りに残されたのは気絶したオーガスと、引っかき回されて散らばった彼の荷物
と、貧乏くじを引かされたユークリッドだけであった。

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2007/02/10 21:09 | Comments(0) | TrackBack() | ●天使と空と優しい雨

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