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2025/03/10 06:22 |
天使と空と優しい雨~第十二話~/エンジュ(千鳥)
PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋) オーガス(渡り商人)
場所:宿屋→島
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それは、多くの人々にとっては思いがけない朝の珍事件であり、エンジュにと
ってもまたそうであった。故に、それをこことは全く違う場所から見ていた、一
人の男が歓喜にうち震えたことなど知る由もなかった。

 ―――やっと!やっと見つけた。
    我が島を救う夢見の巫女を!!

:エンジュside【4】  
--------------------------------------------------
『ようこそ夢の島へ!』
--------------------------------------------------

「あの……落ちましたよ?」
 
 静まり帰った店内に、少女の悪意ない軽やかな声がやけに響いた。
 そして駄目押し。

「それにしても……見事ですねー」

 その一言に、こらえきれずに居た誰かが噴き出し、辺りは笑いの渦に巻き込ま
れた。

「見事な天然ね」

 軽く口笛を吹いてエンジュはレインと店主のやり取りを見ていた。既に食事が
終わり、テーブルには綺麗に皿が積み上げられている。

「そうね」

 シエルは紅茶を受け皿に戻すと、短く答えた。仮面のせいで表情を見ることは
かなわなかったが、口元には軽い笑みが浮かんでいる。

「随分上機嫌じゃない?」
「そうかしら」
「そうよ」
「そうね、夢見が良かったからかしら?」

 シエルはその容姿のせいか、普段はひどく感情を押し殺したふりをする。しか
し、エンジュはそれが彼女の本来の姿ではないことを知っている。だから、こう
して無防備な彼女を見ることはエンジュの楽しみでもあった。
 こうした自分の性格はエルフとしては大幅に規格外なものであったのだが、半
分は人の血が流れているのだ。仕方がないことなのだろう。むしろ、人とエルフ
では自分はかなり人間に近い側にいると自負しているのだが、何故か他人はそう
思ってくれないようである。

 そうこうしているうちに、レインがちょこちょことした足取りでこちらまで戻
ってきて席に落ちついた。

「どうかしたのか?」

 席についた途端に笑顔をひっこめたレインにユークリッドが声をかけた。その
変化は僅かなもので、エンジュとシエルはこの言葉に顔を見合わせ、少女を見た
。ユークリッドの言葉に、レインはなぜか納得いかない違和感を表情に浮かべ、
頷いた。 

「実は…さっきの光景を夢で見たんです」
「「「夢ェ!?」」」

 思わず3人の声が重なる。レインは事の詳細を話す。ただ、その夢の内容はあ
まり具体的とは言えず、みた内容がごく平凡な朝食の光景であったため、断定す
ることもできなかった。

「レインはそーいう夢をよく見る性質(たち)なの?…予知夢とか」
「いいえ、全然みないです」
「時期としては、どうにも…」

 オーガスのもたらした天使像の効果に見えなくも…ない。

「でも、私は特にそんな夢みなかったけどな。覚えてないけど…そうね、悪い夢
じゃなかったと思うけど」
「私も…」

 エンジュの言葉に、シエルが頷く。そんな彼女たちの言葉を聞いて、「夢ねぇ
」と何か思い出すようにユークリッドがつぶやいた。たしか、オーガスの出身地
には不思議な風習があったはずだ―――それを思い出せないことを何故か彼を苛
立たせた。
 
「とりあえず、もう一回寝てみたら?何かまた見るかもよ」
「そんなに寝れませんよ~~」

 いい加減な結論を出すと、エンジュは立ちあがる。他の者もそれに倣って立ち
あがった瞬間、テーブルを中心に膨れ上がった閃光が彼らの視覚を奪った。

「な!?なんですか!」
「あいつだわ!オーガスよッ」

 エンジュの確信に満ちた叫び声が、収縮する光とともに食堂から消えうせた。
 

 ★☆★☆

 最初に聞こえたのは、打ち寄せる波の音。そして、潮の香り。
 光が霧散していき、最後に視力が戻ってくる。
 いやな予感を現実として受け入れられたのは、自分の目で白い砂浜と、青い空
と、青い海を見てからだった。
 
「なんで海なのよ~~~~ゥ!?」
「や、姉さんや。叫んでも状況は変わらないぜぇ?」
「私たちだけ連れてこられたみたいね」
「ど、どこなんでしょう…ココ」
「ここは、夢の島―――ナイティア。わたくしの故郷でございます」

 最後に割りこんだのはオーガスの声だ。
 砂浜に茫然自失でたたずんでいた4人がはっと声の主を見つめた。

「やっと自ら出てきたわね」

 ふふんと笑うエンジュの脇を素通りすると、オーガスはその砂地に膝をつき、
レインを見上げた。その服は既に以前のものとは異なり、レインが夢で見た、あ
の民族衣装に酷似していた。
 
「貴女をお待ちしていました。どうか、この島を救ってください」 
 
 海鳥の鳴き声に、振り返ったその島の中央には白く高い岩山がそびえ立ってい
た―――。

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2007/02/10 21:10 | Comments(0) | TrackBack() | ●天使と空と優しい雨

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