PC:エンジュ シエル レイン
NPC:なし
場所:宿屋の一室
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの変態親父を追っている時に会ったお姉さん達。
白くて綺麗な人はシエルさん、耳の尖っている(ハーフエルフなんだって)やっぱり綺麗な人がエンジュさん。
……自分の語彙の貧困さにちょっと頭が痛くなったりする18の昼下がりだった。
まぁ、そんなちょっぴり心が痛いけどどうでもいい事を考えながら、私はエンジュさん達の部屋の隅っこに座っていた。
突然倒れてしまった(エンジュさんによると力を使いすぎるとそうなるらしい)シエルさんをベットに寝かせて、じーっとそっちを見ている。
沈黙。
まだ沈黙。
とことん沈黙。
――もぉ、我慢できない。
「あの、これからどうするつもりですか?」
沈黙に耐え切れなかったから、とりあえず口を開いてみた。
考え事の邪魔しちゃった気もしてちょっと視線が怪しくなってしまう……
「朝になったら情報屋に当てがあるから取りあえずあたってみるわ」
ぼりぼりと頭を掻いてエンジュさんはそう言った。
どうやら考え事の邪魔をしちゃったとかはないみたいで、ちょっと安心――した次の瞬間、チ、と小さく舌打ちが聞こえた。
どーしよう、やっぱり邪魔したら悪かったかなぁ……
天にましますご先祖様、なんだか私精神的にピンチです。
「あの胡散臭い露店商のオヤジに何を取られたか聞いてもイイかしら」
こー、そこの無い沼にずぶずぶ沈んでいくような感じに悪循環する考えを止めてくれたのはエンジュさんの一言だった。
そこにはとりあえず私に対する苛立ちのようなものは感じられない気がする。
――感じられないといいな。
「……呪符を、取られてしまって」
返答を返してから、あらためてあの変態に対する怒りがこみ上げてくる。
「あの変態!!軽々しく乙女の太ももに触れた罪は重いわよ!!」
近所のお兄さん直伝の必殺ハイキックを絶対絶対絶対ぜぇーーーったいあの変態に叩き込んであげるんだから!!
なんだか炎を背負って立ってみたい気がする私だった。
◆◇★☆†◇◆☆★
ちょっと散歩に行ってきます、と言って私は部屋を出た。
時間はすでに夜を通り越して明け方……というかもう朝。
実は私が夕暮れの次に好きなのがこの時間帯なのだ。
家々から漂ってくる朝食の匂いとかだんだん増えていく人通りを眺めていると、『今日も一日がんばるぞー!』っていう声が聞こえてきそうで、私もなんだか元気がでてくる。
もちろん、昼よりも人通りが少ないのでウィンドウショッピングをしやすいという利点もきっちりとカバーしているし、夕暮れの散歩が何かの理由でできなかった時とか気が向いたときにはこうして朝もぶらつくことにしているのだ。
昨日みたいな腹だたしい事がそうそう起こるわけもなく、朝の散歩はつつがなく終わった。
ちぇ、もし今度見かけたら問答無用に蹴り飛ばすつもりだったのに……
そんなやるせないような気分を抱えつつも、とりあえず私は自分の宿へ。
自分の部屋を引き払って、エンジュさんとシエルさんの泊まっている宿に移ることにした。
現状私一人じゃ手がかり無しだし、あの人達なら見つけてくれそう、ていう気もする。
ちょっと他力本願だけど、後であの変態を皆でタコ殴りにするのはきっと楽しいハズ。
私刑にかけるなら数は多い方がいいって事で納得してもらおう、うんそうしよう。
部屋の手続きを済ませて、荷物を置いて、二人の部屋の前に戻ってきた。
コンコン、とノックして「ただいまーです」って声を掛けると、中から話し声が聞こえた。
「ほんっとにもう、可愛いんだから」「何がよ」とか。
シエルさんも起きてきたのかな?
声は聞いたことがないから、分からないけど女の人の声だしきっとそうなんだろう。
出てくるような感じがしたから一歩引いて待つ。
案の定、がちゃりとドアが開いて人が出てきたんだけど……
出てきたのは、予想もしてなかったなんだか髪を乱した、紅い目が特徴的な仮面の人。
えーーっと……この人、ダレ……?
NPC:なし
場所:宿屋の一室
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの変態親父を追っている時に会ったお姉さん達。
白くて綺麗な人はシエルさん、耳の尖っている(ハーフエルフなんだって)やっぱり綺麗な人がエンジュさん。
……自分の語彙の貧困さにちょっと頭が痛くなったりする18の昼下がりだった。
まぁ、そんなちょっぴり心が痛いけどどうでもいい事を考えながら、私はエンジュさん達の部屋の隅っこに座っていた。
突然倒れてしまった(エンジュさんによると力を使いすぎるとそうなるらしい)シエルさんをベットに寝かせて、じーっとそっちを見ている。
沈黙。
まだ沈黙。
とことん沈黙。
――もぉ、我慢できない。
「あの、これからどうするつもりですか?」
沈黙に耐え切れなかったから、とりあえず口を開いてみた。
考え事の邪魔しちゃった気もしてちょっと視線が怪しくなってしまう……
「朝になったら情報屋に当てがあるから取りあえずあたってみるわ」
ぼりぼりと頭を掻いてエンジュさんはそう言った。
どうやら考え事の邪魔をしちゃったとかはないみたいで、ちょっと安心――した次の瞬間、チ、と小さく舌打ちが聞こえた。
どーしよう、やっぱり邪魔したら悪かったかなぁ……
天にましますご先祖様、なんだか私精神的にピンチです。
「あの胡散臭い露店商のオヤジに何を取られたか聞いてもイイかしら」
こー、そこの無い沼にずぶずぶ沈んでいくような感じに悪循環する考えを止めてくれたのはエンジュさんの一言だった。
そこにはとりあえず私に対する苛立ちのようなものは感じられない気がする。
――感じられないといいな。
「……呪符を、取られてしまって」
返答を返してから、あらためてあの変態に対する怒りがこみ上げてくる。
「あの変態!!軽々しく乙女の太ももに触れた罪は重いわよ!!」
近所のお兄さん直伝の必殺ハイキックを絶対絶対絶対ぜぇーーーったいあの変態に叩き込んであげるんだから!!
なんだか炎を背負って立ってみたい気がする私だった。
◆◇★☆†◇◆☆★
ちょっと散歩に行ってきます、と言って私は部屋を出た。
時間はすでに夜を通り越して明け方……というかもう朝。
実は私が夕暮れの次に好きなのがこの時間帯なのだ。
家々から漂ってくる朝食の匂いとかだんだん増えていく人通りを眺めていると、『今日も一日がんばるぞー!』っていう声が聞こえてきそうで、私もなんだか元気がでてくる。
もちろん、昼よりも人通りが少ないのでウィンドウショッピングをしやすいという利点もきっちりとカバーしているし、夕暮れの散歩が何かの理由でできなかった時とか気が向いたときにはこうして朝もぶらつくことにしているのだ。
昨日みたいな腹だたしい事がそうそう起こるわけもなく、朝の散歩はつつがなく終わった。
ちぇ、もし今度見かけたら問答無用に蹴り飛ばすつもりだったのに……
そんなやるせないような気分を抱えつつも、とりあえず私は自分の宿へ。
自分の部屋を引き払って、エンジュさんとシエルさんの泊まっている宿に移ることにした。
現状私一人じゃ手がかり無しだし、あの人達なら見つけてくれそう、ていう気もする。
ちょっと他力本願だけど、後であの変態を皆でタコ殴りにするのはきっと楽しいハズ。
私刑にかけるなら数は多い方がいいって事で納得してもらおう、うんそうしよう。
部屋の手続きを済ませて、荷物を置いて、二人の部屋の前に戻ってきた。
コンコン、とノックして「ただいまーです」って声を掛けると、中から話し声が聞こえた。
「ほんっとにもう、可愛いんだから」「何がよ」とか。
シエルさんも起きてきたのかな?
声は聞いたことがないから、分からないけど女の人の声だしきっとそうなんだろう。
出てくるような感じがしたから一歩引いて待つ。
案の定、がちゃりとドアが開いて人が出てきたんだけど……
出てきたのは、予想もしてなかったなんだか髪を乱した、紅い目が特徴的な仮面の人。
えーーっと……この人、ダレ……?
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:エンジュside【2】
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『ただのごく潰し』
--------------------------------------------------
PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)
場所:宿屋
--------------------------------------------------
扉を開けて、最初に目に入ったのは、不思議そうに己の後ろを見やる、レインの姿
だった。
彼女の視線の矛先を追って、エンジュは振り返り、合点が行く。
そこには、エンジュの手によって乱された髪を撫で付けるシエルが居た。
そして昨晩と、今ではシエルの見た目はまるで違う。
もともと、太陽に馴染まぬ体質である。
室内であっても、仮面と、身体をしっかりと覆う衣服を身に着けた現在のシエル
は、月下で見た時のレインと記憶とだいぶ食い違っているのであろう。
「あの・・・そちらは」
「昨日アナタが出会った純白のSleeping Beautyよ。美人だから、昼間は顔を晒した
くなんだってさ」
「……エンジュ」
エンジュの言葉に、シエルが仮面の奥から冷たい視線を向けたが、直ぐに口元に笑
みを作るとレインに話しかけた。
「シエルよ。確か・・・レインだったわよね」
レインと出会った瞬間に、シエルは魔力の行使による疲労で意識を手放した。
故に、二人のとってはこれが最初の交流と言えるだろう。
「はい、レインです。宜しくお願いします、シエルさん」
深々と、丁寧なお辞儀をした少女にシエルも好感を持ったようだった。
二人の短い挨拶が済むと、エンジュが待ちきれない様子で手を擦り合わせながら言
った。
「じゃ、下でご飯でも食べましょうか!」
「エンジュはそればっかね。良かったら貴方も一緒にどう?」
既に二人を置いて下へと降りていくエンジュに飽きれながらシエルはレインを誘
う。
少し悩む仕草をしてから、小さくレインは頷いた。
☆★☆★☆★
「・・・なんつーかさ、この町に来てから、姉さん、女遊びが激しくない?」
賑やかな朝の食堂で、エンジュが探し当てた人物の開口一番がこれだった。
「アンタ程じゃないわよ。」
「おはよう。ユークリッド君」
「あぁ、おはよう、シエルさん」
シエルの挨拶に如才無く答えたユークリッドは、再びその鈍色の瞳をレインに向け
た。
無表情の時は、冷たく鋭い眼光も、こうして人と接するときは人懐っこい。
エンジュとよく似通った容姿は女顔で、かなり良い方に部類されるものだったの
で、女受けも良かった。警戒していたレインもその様子に少し緊張を解いたようであ
った。
「うちの姉さんに捕まるとは、君も不運だな。一体何があったんだ?」
「あー、レイン?この減らず口ばかり叩いてる男が、不本意ながら私の知り合いの情
報屋よ。ユークリッド・・・ユークリッド・ローダ・アージェント。一応、見りゃ分
かる
わね、血縁者。・・・あぁ、座って」
エンジュはユークリッドの横に座ると、立ったままの二人に席を勧めた。
知った仲の集まりに、他から来た者が混ざるのは居心地が悪い。畏まったレインは
大人しく二人の様子を眺めていた。
その様子はそれで愛らしかったが、このメンバーに押されるようでは困る。
そんな事をエンジュは考えていた。なぜならレインは今、部外者ではなく、当事者
になろうとしているのだから。
故に、メニューを注文した後、エンジュは何の前置きもなしに本題を切り出すこと
にした。
「私の魔力と、シエルのアルジャン、あと…レインの呪符が盗られたわ」
「はぁ!?」
案の定、ユークリッドが素っ頓狂な声を上げる。3つのうち、後の2つなら、それ
ほど驚くことではなかったが、魔力となると流石に驚かない者は居まい。
「盗むって・・・どうやって!?姉さんのを?」
「それじゃあ、正確じゃないわよエンジュ。私達は、ある商人に代金の代わりにそれ
らを取られたの」
「それも殆ど無理やりなんです!商品を手に取った瞬間、押し付けられるよう
に・・・。
断ると一週間のお試し期間ですからって、返してもらえなくて!」
レインの説明は語尾が少し荒かった。もしかしたら、盗られたときに身体に触られ
た事を思い出して憤っているのかもしれない。
「そんな風体の商人だ?」
男。年齢は不詳。帽子を深く被って、見た目は中年に見えたが、声は意外に若い。
三人が挙げたものは、特徴とすら言い難いものだった。
それでも、ユークリッドは渋い顔で答えた。
「多分、俺はその商人を知ってる・・・」
「ほんと!?」
「あぁ、『渡り商人』のオーガスだ」
「オーガス…?」
3人は神妙な顔で、情報屋の端正な顔を見た。
「島国出身の…元々は島の貿易商だったらしいんだが、金銀以外は硬貨に興味のない
男でね。なんつーんだ?『物物交換』ってのがやつの主義なんだ」
「随分詳しいのね、ユークリッド」
「だって、俺も少し前にやつの商品を買ったからな」
「「「えー!?」」」
今度は、3人同時に声があがる。
女が3人集まってなんとやら。ユークリッドが片耳を指でふさぎながら、首をかし
げた。
「でも、見る目もあるし真っ当な商人って感じだったがな…」
「女から物をぶんどる商人のドコがまっとーってゆーのよ!」
「そうですよ!!そりゃあ、確かに綺麗だけど…」
レインは懐から小さな子供の天使の像を取り出した。丁寧にクリーム色の布に包ま
れているソレは、腰をかがめて、今にも飛びあがりそうな躍動感があった。
エンジュが持っているのも同様に天使の像だったが、これはレインのものとは異な
り、祈りを捧げる清楚な女の天使だった。
「天使の像が二つに…私のは羽飾りよ。意味深ね」
仮面の麗人―――シエルが口元だけで笑う。
「3人バラバラって事は価値も違うのかしら?だいたい、私の魔力と同等の価値のあ
る銅像って一体どんな代物よ!?」
「へんに弄ると壊れるぜ、ねーさん。取り返しが付かなくなっちまう」」
「で、その商人だけど、特殊な能力者か何かなの?アイツ、私の魔法をさらっと使っ
て見せたわよ」
「そんなこと、聞いたことないな。しかし、ねーさんの魔法が使えるって事はシエル
さんのアルジャンも使えるわけだ?」
「多分ね。でも、レイン…貴女の取られたのは、呪符って言ってたわよね。何の?」
シエルの問いに、レインは一句一句噛み締めるように、言葉をつむいだ。
もしかしたら、外には漏らすことの出来ない特別な物なのだろうか…?
「式の…。私にしか、扱うことの出来ないはずの、物です」
一瞬テーブルに沈黙が落ちた。
しかし、深刻な話題も長くは続かない。
エンジュの目的は別のところにあったのだから。
「それより、メニュー頼むわよ」
☆★☆★☆★
しばらくして、シエルには紅茶、あまり朝は食べない体質らしい、レインには塩胡
椒で調味された鶏のリゾットが置かれた。
そして、エンジュには・・・
「・・・・・・!?」
「びっくりした?でも、ほんとこの量はエンジュにとっては文字通り朝飯前だから」
思わず箸の止まるレインの顔を面白そうに覗き込みながらシエルが言った。
カニのスクランブルエッグに、クラムチャウダー、大きく切られたパン、厚切りハ
ム、リンゴとチーズのサラダ、ヤマモモのヨーグルト添え・・・・・・の二人前。
「最近仕事してないみたいだけど、金の方大丈夫なのか?姉さん」
そもそもユークリッドがエンジュと待ち合わせたのは仕事を斡旋するためだった。
Bランクのエンジュはギルドからの恩恵で多少、宿等は融通が利くが、この食欲ば
かりはなんともなるまい。
あの商人の言うとおり、一週間で魔力が戻ってこればいいのだが・・・。
「・・・・・・出来ると思う?」
「無理だナァ。俺が持ってきたのは、Bランクの姉さんに見合った仕事だ。魔法が使
えないんじゃな・・・・・・」
そこで、ふと前の席の二人を見る。
彼女達の実力は知らなかったが、旅をする者である限り全くの無力というわけでは
ないだろう・・・。
ユークリッドの思うところが分かったのか、無理だと言うようにシエルとレインは
合わせて首を横に振った。
「あら、そう言えば・・・前言ってたわよねエンジュ」
「んー?」
「ほら、貴女が普通以上に食べる理由。『エルフと同等の魔力を行使するのには、ハ
ーフエルフの自分には負担が大き過ぎるから、余分に食べるんだ』って。魔法が使え
ないなら、そんなに食べる必要ないんじゃない?」
エンジュの場合、その一週間の食事を抑えればぐっと支出は減るのではないか?
シエルの疑問を、過去の自分の言葉でありながら、エンジュは一蹴した。
「知らないわよ。だって普通にお腹が空くんだもの」
「「「・・・・・・・」」」
魔法も使えないエルフ、仕事も出来ないハンター。
ならば、それは他ならぬ、
「それって・・・ごく潰し?」
シエルが呟いた言葉はかなり的を得ていた。
--------------------------------------------------
『ただのごく潰し』
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PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)
場所:宿屋
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扉を開けて、最初に目に入ったのは、不思議そうに己の後ろを見やる、レインの姿
だった。
彼女の視線の矛先を追って、エンジュは振り返り、合点が行く。
そこには、エンジュの手によって乱された髪を撫で付けるシエルが居た。
そして昨晩と、今ではシエルの見た目はまるで違う。
もともと、太陽に馴染まぬ体質である。
室内であっても、仮面と、身体をしっかりと覆う衣服を身に着けた現在のシエル
は、月下で見た時のレインと記憶とだいぶ食い違っているのであろう。
「あの・・・そちらは」
「昨日アナタが出会った純白のSleeping Beautyよ。美人だから、昼間は顔を晒した
くなんだってさ」
「……エンジュ」
エンジュの言葉に、シエルが仮面の奥から冷たい視線を向けたが、直ぐに口元に笑
みを作るとレインに話しかけた。
「シエルよ。確か・・・レインだったわよね」
レインと出会った瞬間に、シエルは魔力の行使による疲労で意識を手放した。
故に、二人のとってはこれが最初の交流と言えるだろう。
「はい、レインです。宜しくお願いします、シエルさん」
深々と、丁寧なお辞儀をした少女にシエルも好感を持ったようだった。
二人の短い挨拶が済むと、エンジュが待ちきれない様子で手を擦り合わせながら言
った。
「じゃ、下でご飯でも食べましょうか!」
「エンジュはそればっかね。良かったら貴方も一緒にどう?」
既に二人を置いて下へと降りていくエンジュに飽きれながらシエルはレインを誘
う。
少し悩む仕草をしてから、小さくレインは頷いた。
☆★☆★☆★
「・・・なんつーかさ、この町に来てから、姉さん、女遊びが激しくない?」
賑やかな朝の食堂で、エンジュが探し当てた人物の開口一番がこれだった。
「アンタ程じゃないわよ。」
「おはよう。ユークリッド君」
「あぁ、おはよう、シエルさん」
シエルの挨拶に如才無く答えたユークリッドは、再びその鈍色の瞳をレインに向け
た。
無表情の時は、冷たく鋭い眼光も、こうして人と接するときは人懐っこい。
エンジュとよく似通った容姿は女顔で、かなり良い方に部類されるものだったの
で、女受けも良かった。警戒していたレインもその様子に少し緊張を解いたようであ
った。
「うちの姉さんに捕まるとは、君も不運だな。一体何があったんだ?」
「あー、レイン?この減らず口ばかり叩いてる男が、不本意ながら私の知り合いの情
報屋よ。ユークリッド・・・ユークリッド・ローダ・アージェント。一応、見りゃ分
かる
わね、血縁者。・・・あぁ、座って」
エンジュはユークリッドの横に座ると、立ったままの二人に席を勧めた。
知った仲の集まりに、他から来た者が混ざるのは居心地が悪い。畏まったレインは
大人しく二人の様子を眺めていた。
その様子はそれで愛らしかったが、このメンバーに押されるようでは困る。
そんな事をエンジュは考えていた。なぜならレインは今、部外者ではなく、当事者
になろうとしているのだから。
故に、メニューを注文した後、エンジュは何の前置きもなしに本題を切り出すこと
にした。
「私の魔力と、シエルのアルジャン、あと…レインの呪符が盗られたわ」
「はぁ!?」
案の定、ユークリッドが素っ頓狂な声を上げる。3つのうち、後の2つなら、それ
ほど驚くことではなかったが、魔力となると流石に驚かない者は居まい。
「盗むって・・・どうやって!?姉さんのを?」
「それじゃあ、正確じゃないわよエンジュ。私達は、ある商人に代金の代わりにそれ
らを取られたの」
「それも殆ど無理やりなんです!商品を手に取った瞬間、押し付けられるよう
に・・・。
断ると一週間のお試し期間ですからって、返してもらえなくて!」
レインの説明は語尾が少し荒かった。もしかしたら、盗られたときに身体に触られ
た事を思い出して憤っているのかもしれない。
「そんな風体の商人だ?」
男。年齢は不詳。帽子を深く被って、見た目は中年に見えたが、声は意外に若い。
三人が挙げたものは、特徴とすら言い難いものだった。
それでも、ユークリッドは渋い顔で答えた。
「多分、俺はその商人を知ってる・・・」
「ほんと!?」
「あぁ、『渡り商人』のオーガスだ」
「オーガス…?」
3人は神妙な顔で、情報屋の端正な顔を見た。
「島国出身の…元々は島の貿易商だったらしいんだが、金銀以外は硬貨に興味のない
男でね。なんつーんだ?『物物交換』ってのがやつの主義なんだ」
「随分詳しいのね、ユークリッド」
「だって、俺も少し前にやつの商品を買ったからな」
「「「えー!?」」」
今度は、3人同時に声があがる。
女が3人集まってなんとやら。ユークリッドが片耳を指でふさぎながら、首をかし
げた。
「でも、見る目もあるし真っ当な商人って感じだったがな…」
「女から物をぶんどる商人のドコがまっとーってゆーのよ!」
「そうですよ!!そりゃあ、確かに綺麗だけど…」
レインは懐から小さな子供の天使の像を取り出した。丁寧にクリーム色の布に包ま
れているソレは、腰をかがめて、今にも飛びあがりそうな躍動感があった。
エンジュが持っているのも同様に天使の像だったが、これはレインのものとは異な
り、祈りを捧げる清楚な女の天使だった。
「天使の像が二つに…私のは羽飾りよ。意味深ね」
仮面の麗人―――シエルが口元だけで笑う。
「3人バラバラって事は価値も違うのかしら?だいたい、私の魔力と同等の価値のあ
る銅像って一体どんな代物よ!?」
「へんに弄ると壊れるぜ、ねーさん。取り返しが付かなくなっちまう」」
「で、その商人だけど、特殊な能力者か何かなの?アイツ、私の魔法をさらっと使っ
て見せたわよ」
「そんなこと、聞いたことないな。しかし、ねーさんの魔法が使えるって事はシエル
さんのアルジャンも使えるわけだ?」
「多分ね。でも、レイン…貴女の取られたのは、呪符って言ってたわよね。何の?」
シエルの問いに、レインは一句一句噛み締めるように、言葉をつむいだ。
もしかしたら、外には漏らすことの出来ない特別な物なのだろうか…?
「式の…。私にしか、扱うことの出来ないはずの、物です」
一瞬テーブルに沈黙が落ちた。
しかし、深刻な話題も長くは続かない。
エンジュの目的は別のところにあったのだから。
「それより、メニュー頼むわよ」
☆★☆★☆★
しばらくして、シエルには紅茶、あまり朝は食べない体質らしい、レインには塩胡
椒で調味された鶏のリゾットが置かれた。
そして、エンジュには・・・
「・・・・・・!?」
「びっくりした?でも、ほんとこの量はエンジュにとっては文字通り朝飯前だから」
思わず箸の止まるレインの顔を面白そうに覗き込みながらシエルが言った。
カニのスクランブルエッグに、クラムチャウダー、大きく切られたパン、厚切りハ
ム、リンゴとチーズのサラダ、ヤマモモのヨーグルト添え・・・・・・の二人前。
「最近仕事してないみたいだけど、金の方大丈夫なのか?姉さん」
そもそもユークリッドがエンジュと待ち合わせたのは仕事を斡旋するためだった。
Bランクのエンジュはギルドからの恩恵で多少、宿等は融通が利くが、この食欲ば
かりはなんともなるまい。
あの商人の言うとおり、一週間で魔力が戻ってこればいいのだが・・・。
「・・・・・・出来ると思う?」
「無理だナァ。俺が持ってきたのは、Bランクの姉さんに見合った仕事だ。魔法が使
えないんじゃな・・・・・・」
そこで、ふと前の席の二人を見る。
彼女達の実力は知らなかったが、旅をする者である限り全くの無力というわけでは
ないだろう・・・。
ユークリッドの思うところが分かったのか、無理だと言うようにシエルとレインは
合わせて首を横に振った。
「あら、そう言えば・・・前言ってたわよねエンジュ」
「んー?」
「ほら、貴女が普通以上に食べる理由。『エルフと同等の魔力を行使するのには、ハ
ーフエルフの自分には負担が大き過ぎるから、余分に食べるんだ』って。魔法が使え
ないなら、そんなに食べる必要ないんじゃない?」
エンジュの場合、その一週間の食事を抑えればぐっと支出は減るのではないか?
シエルの疑問を、過去の自分の言葉でありながら、エンジュは一蹴した。
「知らないわよ。だって普通にお腹が空くんだもの」
「「「・・・・・・・」」」
魔法も使えないエルフ、仕事も出来ないハンター。
ならば、それは他ならぬ、
「それって・・・ごく潰し?」
シエルが呟いた言葉はかなり的を得ていた。
PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)
場所:宿屋の食堂
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シエルは呆れた目でエンジュの食事風景を眺めていた。
なんというか、口を出す気さえ失せるほどの豪快な食べっぷり。ユークリッドにと
っては当たり前なのかもしれないが、レインに至っては自分の食事をとる手が止まる
くらいに気をとられているようだった。
レインは私達に付いてきた。ということは、協力して取り返すという気持ちはある
のだろうか。いや、ただ押しが弱いだけだったらどうしよう。彼女は巻き込むべきで
はないのかもしれない。エンジュの魔力を行使できる以上、タダの泥棒とは桁違いに
危険な相手なのは明白だ。しかし、一人でも戦力が欲しいのは確か。私は風に頼りす
ぎると昏睡状態に陥ってしまうワケだし、エンジュだって今までのように魔法を行使
できないのだから。
紅茶の入ったカップを傾けながら、シエルはレインを見ていた。仮面のせいで何を
見ているか大抵は分かりづらいのだが、見られている本人は視線を感じるのだろう。
レインと視線がぶつかる。緊張しているのが見て取れるが……いつまでもお客様のま
までは埒がかない。初対面のこんな怪しい格好の人とうち解けろと言うのも難しいの
は分かっているのだ。しかし、ソレを抜きにしても……
「昔から人見知りするほう?」
「え、いや、そうでもないですよ?結構誰でも仲良くなれちゃったりとか、あ、でも
やっぱり綺麗な人がいると緊張しちゃいますよね」
……大丈夫なんだろうか。とりあえずユークリッドくんに色目を使わないだけでヨ
シとするべきかな。イイ子そうなんだけど、気を使われると気を使ってしまう。
カップに残った紅茶は半分、その間にエンジュは8割方食べ終えている。ようやく
半分くらい食したらしいレインは、ユークリッドくんになにやら吹き込まれているよ
うだった。
「入れ知恵するなら見えないトコでやんなさい」
「そんなんじゃないよ姉さん」
何を言ったかまでは聞いていなかった。聴こうと思えば聞けたけど、わざわざ風を
使ってまで内緒話を聴こうとは思わないし。ただ、レインの表情が軟らかくなったの
で少し気が楽になった。ありがとうユークリッドくん、ここでは何故か一番普通の人
に見えるから不思議よね。
「ねぇエンジュ」
「なに?」
「急いだ方が良さそう、とか思わない?」
「まぁね。でも“腹が減っては戦は出来ない”って言うでしょ?」
戦が無くても食べるでしょ?……とは、言わないでおくことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「んー!じゃいこっか!」
「あんなに怒ってたのに、食べると機嫌いいんだから」
「あら、ちゃんと怒ってるわよ?」
顔はしっかり笑顔で答えるエンジュに、レインが笑いかける。最初の頃の緊張感も
薄らいで、なんだか空気になじんできたような気もする。親友が増えるか知り合いで
止まるか、シエルはまだ計りかねていた。
NPC:ユークリッド(情報屋)
場所:宿屋の食堂
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シエルは呆れた目でエンジュの食事風景を眺めていた。
なんというか、口を出す気さえ失せるほどの豪快な食べっぷり。ユークリッドにと
っては当たり前なのかもしれないが、レインに至っては自分の食事をとる手が止まる
くらいに気をとられているようだった。
レインは私達に付いてきた。ということは、協力して取り返すという気持ちはある
のだろうか。いや、ただ押しが弱いだけだったらどうしよう。彼女は巻き込むべきで
はないのかもしれない。エンジュの魔力を行使できる以上、タダの泥棒とは桁違いに
危険な相手なのは明白だ。しかし、一人でも戦力が欲しいのは確か。私は風に頼りす
ぎると昏睡状態に陥ってしまうワケだし、エンジュだって今までのように魔法を行使
できないのだから。
紅茶の入ったカップを傾けながら、シエルはレインを見ていた。仮面のせいで何を
見ているか大抵は分かりづらいのだが、見られている本人は視線を感じるのだろう。
レインと視線がぶつかる。緊張しているのが見て取れるが……いつまでもお客様のま
までは埒がかない。初対面のこんな怪しい格好の人とうち解けろと言うのも難しいの
は分かっているのだ。しかし、ソレを抜きにしても……
「昔から人見知りするほう?」
「え、いや、そうでもないですよ?結構誰でも仲良くなれちゃったりとか、あ、でも
やっぱり綺麗な人がいると緊張しちゃいますよね」
……大丈夫なんだろうか。とりあえずユークリッドくんに色目を使わないだけでヨ
シとするべきかな。イイ子そうなんだけど、気を使われると気を使ってしまう。
カップに残った紅茶は半分、その間にエンジュは8割方食べ終えている。ようやく
半分くらい食したらしいレインは、ユークリッドくんになにやら吹き込まれているよ
うだった。
「入れ知恵するなら見えないトコでやんなさい」
「そんなんじゃないよ姉さん」
何を言ったかまでは聞いていなかった。聴こうと思えば聞けたけど、わざわざ風を
使ってまで内緒話を聴こうとは思わないし。ただ、レインの表情が軟らかくなったの
で少し気が楽になった。ありがとうユークリッドくん、ここでは何故か一番普通の人
に見えるから不思議よね。
「ねぇエンジュ」
「なに?」
「急いだ方が良さそう、とか思わない?」
「まぁね。でも“腹が減っては戦は出来ない”って言うでしょ?」
戦が無くても食べるでしょ?……とは、言わないでおくことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「んー!じゃいこっか!」
「あんなに怒ってたのに、食べると機嫌いいんだから」
「あら、ちゃんと怒ってるわよ?」
顔はしっかり笑顔で答えるエンジュに、レインが笑いかける。最初の頃の緊張感も
薄らいで、なんだか空気になじんできたような気もする。親友が増えるか知り合いで
止まるか、シエルはまだ計りかねていた。
PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)
場所:宿屋の食堂
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本当に、驚いた。
いかに自分が先入観でものを見ていたっていうコトを思い知らされる。
そう、いくらエルフだって人と意思疎通ができるって事は思考形態が似てるって事なんだから、一口に人て言ったっていろんな人がいるみたいに、肉をたくさん食べるエルフさんがいてもおかしくない……んじゃないかな、多分。
よく考えたら、エンジュさんはいろんな意味で私にとってのエルフのイメージを変えてくれる人だと思う。
さっきも知り合いらしい男の人にまた女遊びがどうとか言われていたし、シエルさんとはそういう関係なんだろうか?ちょっと踏み込んではイケナイ世界のような気がするんだけど、激しいってコトはもしかして私も勘定に入ってるのかな。
……私ったら何を想像してるんだろう。唯でさえ遅れ気味な食事のペースが、さらに遅くなっちゃった。
「昔から人見知りするほう?」
正面にいたシエルさんの質問。
どう聞いても普通の質問なんだけど、その裏はやっぱりイケナイ関係へのお誘い第一歩なのかな。
「え、いや、そうでもないですよ?結構誰でも仲良くなれちゃったりとか、あ、でも
やっぱり綺麗な人がいると緊張しちゃいますよね」
当たり障りのない返事っていうのを考えるのは本当に難しいと思う。
気が付けば、エンジュさんはもうほとんど食事を終えていた。
「――気にしない方がいいよ、アレは都市伝説だから」
耳元で。ぼそり、と呟かれた言葉。
それがなんか綺麗にツボに入ってしまって、噴き出すのを堪えるのが精一杯だった。
「入れ知恵するなら見えないトコでやんなさい」
「そんなんじゃないよ姉さん」
そう、これはそんなのじゃないの、エンジュさん。
そんなものじゃ済まない、知ったらきっとがーって感じに怒ってくれるような。
その姿を想像したらまた衝動がこみあげて来て、つい声を上げて笑いそうになってしまう。
落ち着け、落ち着きなさい、私。いきなり爆笑したらなんだか変な人みたいじゃないの。
★☆◆◇†☆★◇◆
結局、あの変態の名前が分かった以外情報はなにも手にはいらなかったから、私達はこうして街をぶらぶらとうろつくことになった。
もちろん目的はあのド変態を見つける事なんだけど、気分は皆でお散歩みたいな感じ。
あっちの店を覗いたりこっちの店を冷やかしたり。
いつも1人でやってる事だけど、何人かで集まるとやっぱり感覚が新鮮だった。
やっぱり人はつるんで行動する生き物なんだなーとか思ってみたりして。
そんなこんなでうろうろして、そろそろお昼ご飯時。
どこかでお昼にしようかー?って話が出始めた時に、私の意識が今みた景色に引っかかりを感じたような気がした。
――既視感。
引っかかりの名前にようやく心当たりが行った時、急いで振り返ってもう一度確認する。
人ごみを避ける、ちょっと人通りを離れた暗めな場所にソイツはいた。
相変わらずの格好で、きっと新しい犠牲者を探しているんだろう。
思わず頭に血が上り過ぎて貧血を起こしそうになるくらいにカっとしちゃってみたりなんかして。
喉元過ぎれば熱さは忘れるけど、きっかけがあれば前以上の大火事になる自分の性格がちょっと恨めしい。どうしよう、やり過ぎないで済めばいいんだけど……
「アイツ、見つけました。あっちの方に」
ちょっと小走りで前を行く2人に追いついてに囁く。
今度こそは、絶対絶対ぜぇぇぇぇぇったいに報いを受けてもらうんだから―――!!
NPC:ユークリッド(情報屋)
場所:宿屋の食堂
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本当に、驚いた。
いかに自分が先入観でものを見ていたっていうコトを思い知らされる。
そう、いくらエルフだって人と意思疎通ができるって事は思考形態が似てるって事なんだから、一口に人て言ったっていろんな人がいるみたいに、肉をたくさん食べるエルフさんがいてもおかしくない……んじゃないかな、多分。
よく考えたら、エンジュさんはいろんな意味で私にとってのエルフのイメージを変えてくれる人だと思う。
さっきも知り合いらしい男の人にまた女遊びがどうとか言われていたし、シエルさんとはそういう関係なんだろうか?ちょっと踏み込んではイケナイ世界のような気がするんだけど、激しいってコトはもしかして私も勘定に入ってるのかな。
……私ったら何を想像してるんだろう。唯でさえ遅れ気味な食事のペースが、さらに遅くなっちゃった。
「昔から人見知りするほう?」
正面にいたシエルさんの質問。
どう聞いても普通の質問なんだけど、その裏はやっぱりイケナイ関係へのお誘い第一歩なのかな。
「え、いや、そうでもないですよ?結構誰でも仲良くなれちゃったりとか、あ、でも
やっぱり綺麗な人がいると緊張しちゃいますよね」
当たり障りのない返事っていうのを考えるのは本当に難しいと思う。
気が付けば、エンジュさんはもうほとんど食事を終えていた。
「――気にしない方がいいよ、アレは都市伝説だから」
耳元で。ぼそり、と呟かれた言葉。
それがなんか綺麗にツボに入ってしまって、噴き出すのを堪えるのが精一杯だった。
「入れ知恵するなら見えないトコでやんなさい」
「そんなんじゃないよ姉さん」
そう、これはそんなのじゃないの、エンジュさん。
そんなものじゃ済まない、知ったらきっとがーって感じに怒ってくれるような。
その姿を想像したらまた衝動がこみあげて来て、つい声を上げて笑いそうになってしまう。
落ち着け、落ち着きなさい、私。いきなり爆笑したらなんだか変な人みたいじゃないの。
★☆◆◇†☆★◇◆
結局、あの変態の名前が分かった以外情報はなにも手にはいらなかったから、私達はこうして街をぶらぶらとうろつくことになった。
もちろん目的はあのド変態を見つける事なんだけど、気分は皆でお散歩みたいな感じ。
あっちの店を覗いたりこっちの店を冷やかしたり。
いつも1人でやってる事だけど、何人かで集まるとやっぱり感覚が新鮮だった。
やっぱり人はつるんで行動する生き物なんだなーとか思ってみたりして。
そんなこんなでうろうろして、そろそろお昼ご飯時。
どこかでお昼にしようかー?って話が出始めた時に、私の意識が今みた景色に引っかかりを感じたような気がした。
――既視感。
引っかかりの名前にようやく心当たりが行った時、急いで振り返ってもう一度確認する。
人ごみを避ける、ちょっと人通りを離れた暗めな場所にソイツはいた。
相変わらずの格好で、きっと新しい犠牲者を探しているんだろう。
思わず頭に血が上り過ぎて貧血を起こしそうになるくらいにカっとしちゃってみたりなんかして。
喉元過ぎれば熱さは忘れるけど、きっかけがあれば前以上の大火事になる自分の性格がちょっと恨めしい。どうしよう、やり過ぎないで済めばいいんだけど……
「アイツ、見つけました。あっちの方に」
ちょっと小走りで前を行く2人に追いついてに囁く。
今度こそは、絶対絶対ぜぇぇぇぇぇったいに報いを受けてもらうんだから―――!!
:エンジュside【3】
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『親しくなりたくない間柄』
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PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)・オーガス(商人)
場所:市場
--------------------------------------------------
活気ある朝の市場を、エンジュたちは特に目的もなく…いや、あの詐欺まがい
商人を探すという目的はあったのだが、さ迷い歩いていた。
比較的大きい街で、この地の名産だという織物の店が幾つも庇を並べていた。
赤と青が主体となる独特な文様に、エンジュたちは買うでもなく、足を止めては
お互いの好みを言い合っている。
ただし、過去の教訓か、けして手にとって見たりはしない。
「あら、これビーズが織り交ぜてあるのね」
「このサイズなら、ハンカチとして使えそうですよね」
「あのさ……こんな大通りより…もっと細い道に行ったほうがよくない?」
そんな楽しげな彼女たちの様子とは反比例した、一人の疲れた男の声はユーク
リッドである。
最初は如才なく三人の女性の相手をしていた彼だが、次第に疲れてきたのか、
飽きたのか、向ける視線が商品から微妙にずれた所を漂っている。
この場にいることが酷く苦痛なようで、美しいブロンドの髪はすでに乱れたま
まほったらかしである。
長いため息とともにしゃがみ込んで、彼女たちを見上げる仕草は、道行く乙女
の母性本能をかなり刺激したようだったが、あいにくエンジュの本能は刺激され
なかった。
「なに言ってるのよ。あんな細道いったらそれこそ思う壺じゃない。分かってる
の?あんたと違って私たちはか弱い婦女子なのよ!」
「…エンジュがか弱いかは別として、一応端にも気を配ってるのよ?ユークリッ
ド君。ほら、ターゲットは女性だけみたいだし、私たちが通る道に彼が店を出し
てる可能性は高いじゃない?」
こんな様子で暢気に買い物を楽しむ女性陣を眺めていると、なんとなくオーガ
スが女性のみを狙う理由が分かった気がした。
****
「アイツ、見つけました。あっちの方に」
そんなレインの囁き声を耳にしたのは、そろそろ引き上げて昼食をとろうかと
シエルに持ちかけた矢先であった。
「え?」
驚いて振り向く二人にレインはギラギラと闘志に満ちた目を雑踏の中に向け
る。
そこに、注意しなければ気がつかないほど影の薄い、目深く帽子をかぶった商
人が、居た。
必死で自制しているのか意外にも動かないレインにならって、エンジュは静か
にユークリッドに尋ねた。
「あいつよ。オーガスって男で間違いない?」
「あぁ、そうだな。まさか本当にアイツとは……」
「どうする?捕まえる」
ユークリッドの瞳もその男の姿を捉えていた。
シエルの問いに軽く手を上げる。
「一応俺が話しかけてみるよ。向こうが覚えてるかしらんが顔見知りだしな。ね
ーさん達は近くで待機していてくれ」
「ちょっと!」
不服げな声を遮って、ユークリッドは人ごみを掻き分け、オーガスの元へ向か
った。
くすんだ赤い帽子のつばが、男の顔に影を落とし隠していたが、ユークリッド
の影が南中の陽から商品を覆うと、ごく自然な様子で顔を上げた。
「おや…こんなところで珍しい」
「同感だな。むしろ俺のことをよく覚えていたな」
「商売人ですからね。それに、旦那のおきれいな顔を忘れるはずは御座いません
よ」
座ったままこちらを見上げた顔に違和感。
ユークリッドがこの男に会ったのは1年前だが、その時と比較すると10歳以
上老けたように感じたのだ。
まぶしいのか、細めた目には皺さえ浮かんでいた。
「商売を変えたのか?」
「…はい?」
男が広げているのは安っぽい女性向けの装飾品だった。
この道に並ぶには何の変哲もないが、この男が今まで扱ってきたものはこんな
ありふれた物ではない。
異世界から流れてきた物、あやしげな宝の地図、人の臓器……そしてユークリ
ッドは彼から情報を買った。
「女から奪って集めたもので何をしている?―――『渡り商人』、オーガス」
*****
「んもうッ!何をグズグズしてるのかしら!あの馬鹿弟はッ」
「そですよね。早くいって懲らしめてやらなきゃ!」
「そうよ。男同士で見詰めあってて何が楽しいのかしら!」
熱(いき)り立つエンジュとレインを呆れ顔でシエルが見ていた。
「あなた達、結構似たもの同士ね」
「そうかしら?」
「そうですか?」
気を落ち着かせるためか、レインがその長いツインテールの片方に何度も手を
やった。
「あいつらの会話、きこえる?」
「いえ、今魔法を使うのは勿体無いわ」
「あ、でも……」
レインが短い声で、示唆する。
親しげに話していた男達の様子が一変したのだ。
身を乗り出したユークリッドが、男に何かを問う。
ぶわっと肌があわ立つ感触にエンジュが声を上げた。
「あぁ!結局これじゃない」
強い不快感。まるで己の体を何者かが侵食しているようだ。
あの男が魔法を使おうとしている。エンジュの、魔力で。
細い体をすばやく滑り込ませ、オーガスの服をつかんだ。
今度こそ逃がしはしない。
一発くらい殴ってやらねば気がすまない。
そしてエンジュは拳をふるった。
魔法が使えないのがこんなに不便だとは思っても見なかった。
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『親しくなりたくない間柄』
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PC:エンジュ シエル レイン
NPC:ユークリッド(情報屋)・オーガス(商人)
場所:市場
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活気ある朝の市場を、エンジュたちは特に目的もなく…いや、あの詐欺まがい
商人を探すという目的はあったのだが、さ迷い歩いていた。
比較的大きい街で、この地の名産だという織物の店が幾つも庇を並べていた。
赤と青が主体となる独特な文様に、エンジュたちは買うでもなく、足を止めては
お互いの好みを言い合っている。
ただし、過去の教訓か、けして手にとって見たりはしない。
「あら、これビーズが織り交ぜてあるのね」
「このサイズなら、ハンカチとして使えそうですよね」
「あのさ……こんな大通りより…もっと細い道に行ったほうがよくない?」
そんな楽しげな彼女たちの様子とは反比例した、一人の疲れた男の声はユーク
リッドである。
最初は如才なく三人の女性の相手をしていた彼だが、次第に疲れてきたのか、
飽きたのか、向ける視線が商品から微妙にずれた所を漂っている。
この場にいることが酷く苦痛なようで、美しいブロンドの髪はすでに乱れたま
まほったらかしである。
長いため息とともにしゃがみ込んで、彼女たちを見上げる仕草は、道行く乙女
の母性本能をかなり刺激したようだったが、あいにくエンジュの本能は刺激され
なかった。
「なに言ってるのよ。あんな細道いったらそれこそ思う壺じゃない。分かってる
の?あんたと違って私たちはか弱い婦女子なのよ!」
「…エンジュがか弱いかは別として、一応端にも気を配ってるのよ?ユークリッ
ド君。ほら、ターゲットは女性だけみたいだし、私たちが通る道に彼が店を出し
てる可能性は高いじゃない?」
こんな様子で暢気に買い物を楽しむ女性陣を眺めていると、なんとなくオーガ
スが女性のみを狙う理由が分かった気がした。
****
「アイツ、見つけました。あっちの方に」
そんなレインの囁き声を耳にしたのは、そろそろ引き上げて昼食をとろうかと
シエルに持ちかけた矢先であった。
「え?」
驚いて振り向く二人にレインはギラギラと闘志に満ちた目を雑踏の中に向け
る。
そこに、注意しなければ気がつかないほど影の薄い、目深く帽子をかぶった商
人が、居た。
必死で自制しているのか意外にも動かないレインにならって、エンジュは静か
にユークリッドに尋ねた。
「あいつよ。オーガスって男で間違いない?」
「あぁ、そうだな。まさか本当にアイツとは……」
「どうする?捕まえる」
ユークリッドの瞳もその男の姿を捉えていた。
シエルの問いに軽く手を上げる。
「一応俺が話しかけてみるよ。向こうが覚えてるかしらんが顔見知りだしな。ね
ーさん達は近くで待機していてくれ」
「ちょっと!」
不服げな声を遮って、ユークリッドは人ごみを掻き分け、オーガスの元へ向か
った。
くすんだ赤い帽子のつばが、男の顔に影を落とし隠していたが、ユークリッド
の影が南中の陽から商品を覆うと、ごく自然な様子で顔を上げた。
「おや…こんなところで珍しい」
「同感だな。むしろ俺のことをよく覚えていたな」
「商売人ですからね。それに、旦那のおきれいな顔を忘れるはずは御座いません
よ」
座ったままこちらを見上げた顔に違和感。
ユークリッドがこの男に会ったのは1年前だが、その時と比較すると10歳以
上老けたように感じたのだ。
まぶしいのか、細めた目には皺さえ浮かんでいた。
「商売を変えたのか?」
「…はい?」
男が広げているのは安っぽい女性向けの装飾品だった。
この道に並ぶには何の変哲もないが、この男が今まで扱ってきたものはこんな
ありふれた物ではない。
異世界から流れてきた物、あやしげな宝の地図、人の臓器……そしてユークリ
ッドは彼から情報を買った。
「女から奪って集めたもので何をしている?―――『渡り商人』、オーガス」
*****
「んもうッ!何をグズグズしてるのかしら!あの馬鹿弟はッ」
「そですよね。早くいって懲らしめてやらなきゃ!」
「そうよ。男同士で見詰めあってて何が楽しいのかしら!」
熱(いき)り立つエンジュとレインを呆れ顔でシエルが見ていた。
「あなた達、結構似たもの同士ね」
「そうかしら?」
「そうですか?」
気を落ち着かせるためか、レインがその長いツインテールの片方に何度も手を
やった。
「あいつらの会話、きこえる?」
「いえ、今魔法を使うのは勿体無いわ」
「あ、でも……」
レインが短い声で、示唆する。
親しげに話していた男達の様子が一変したのだ。
身を乗り出したユークリッドが、男に何かを問う。
ぶわっと肌があわ立つ感触にエンジュが声を上げた。
「あぁ!結局これじゃない」
強い不快感。まるで己の体を何者かが侵食しているようだ。
あの男が魔法を使おうとしている。エンジュの、魔力で。
細い体をすばやく滑り込ませ、オーガスの服をつかんだ。
今度こそ逃がしはしない。
一発くらい殴ってやらねば気がすまない。
そしてエンジュは拳をふるった。
魔法が使えないのがこんなに不便だとは思っても見なかった。