PC:オルレアン、ベアトリーチェ、ルフト
NPC:盗賊達
場所:スズシロ山脈中腹 盗賊の砦
--------------------------------------------------------------------------------
「普通に考えると……私、かんっぜんに珍獣扱いされてますね」
いつもこれだけ大雑把なのか、それとも今は何か別にやるべき事があるのか。ルフトは拘束すらされず、荷物と武器を奪われただけの状態で檻の中に閉じ込められていた。錆び付いた鉄檻はそこはかとなく脆そうに見える。とりあえず、両手で鉄棒を握り、全力を篭めて折り取ろうとしてみた。ミシッミシッと音はするが、そう簡単に折れる様子はみせない。
仕方なく自力で鉄格子をどうにかする事を諦め、近くで円らな瞳をコチラに向けている白熊とコンタクトを取ることにした。
『どうも、はじめまして。私は西方より参りました、ルフト・ファングと申します』
獣族は喉より発する音だけに限らず、体の動き全体を含めて言葉とする。だから手足尻尾などの身体的構造がある程度近い物同士ならばかなり楽に意思疎通する事ができるのだ。
『これはどうもご丁寧に。私(わたくし)、アメリアと申します。北の方より参りました』
白熊の淑女――アメリアはまだ若く、夫も子供もいないらしい。『捕まって、別に殺される様子もないのでご飯と住処の保障がされてるんなら別にいいかなって思いましたのよ』なんておほほほほとお上品に笑いながら、抵抗しないで大人しく捕まっている理由を話していた。
――数分後、ルフトは晴れて檻の外にでる事に成功した。抵抗する気のなかったアメリアがちょっと本気になれば、錆び付いた鉄格子など一撃で引き千切られてしまったのだ。自由になったアメリアはその後ルフトの檻も一撃で粉砕、無事自由の身を獲得することができたのだった。
手早く自分の荷物を身につけ、ざっと辺りを見回すと、ふと見慣れた綴りの名前が目に飛び込んできた。ベアトリーチェ・ガレット。今ルフトと一緒に組んで行動している少女の名前だ。
「そういえば、新しいのが届くってここ数日はしゃいでましたね」
呟いて、恐ろしく丁寧に梱包された武器――ソウルシューターを手に取る。梱包を剥がそうかどうしようかしばらく悩む。現在両手武器である棍しかない状況で、これを持って行き、なおかつ戦うのは厳しい。だが、ベアがあれだけ楽しみにしていたモノを本人が使う前に使ってしまうのも些か気がとがめる……というよりも、そのせいでどんな無理難題を吹っかけられるか分からないのが怖かった。
『あの、私はどうしましょう?』
思考の渦にハマっていたルフトを現実に引き戻したのはおずおずと掛けられたアメリアの声だった。ルフトの注意が自分に戻ってきたのを確認して、さらに続ける。
『檻、壊してしまいましたし……このままここにいるといろいろ大変そうですわよね?』
『そうですね……それでは、私と一緒に行きますか?本来の引き取り先の方がいる場所、多分分かりますし』
『あらあら、そうですの?それじゃあ、ご一緒させていただきますわ。よろしくお願いしますね、ルフトさん』
右腕に抱えたベアの宝物を見てもう少しだけ悩んで、梱包剤を剥がす。傷一つないぴかぴかの砲身がルフトの良心を刺激した。左手を腹にあてがいそうになって、首を振る。覚悟を決めろ、大丈夫、派手に傷をつけたりしなきゃそうは怒られない、はずだ。だといいな。
かくて、自ら窮地を打破せんとルフトはさらなる窮地へ足を踏み入れたのだった。
★☆◆◇†★☆◆◇
――ルフトが保管庫より脱出を図っている時、砦上層部では。
「砦南側に生命力感知!動物よりは大きいですが、人間とするとやや小さめです!」
さっそく発見し、リーダーの下へ見張りから報告が飛ぶ。
「またかよ!ええい、今度はほうっておけ!そろそろ毒蛾のヤツが来る頃合だ。各員、気合いれろ!」
「りょ、りょうかっ!うわあああああ!?か、壁が!?」
威勢のいい返事の余韻がまだ消えぬうちに、見張りはパニックを起こした声をあげた。同時にドガァッっという破砕音と衝撃が砦全体に響き渡る。
「どうした、何があった!?」
声を荒らげるが、悲鳴を上げた見張りがいた塔から連絡が帰ってくる様子はない。アドルフは、確実に破滅への道を辿り始めていた。
オルレアンとベアトリーチェ、先に砦に辿り着いたのはベアトリーチェの方だった。
「さて、ここの内部構造なんだが、俺が調べたところによるとだな……?」
ブルフがこれからどうするか相談しようとする間にも、今回でお役御免になるであろうソウルシューターを構えるベアトリーチェは
「お、おい?」
戸惑うブルフを尻目に
「あたしの新パートナー、かえしなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」
特大の一発を盗賊の砦に向けてぶっぱなした。
「おおおおおおおおおおおおおおい!?」
ソウルシューターから放たれた怒りの火炎弾は砦の外壁を易々と貫通し直径10mほどの風穴を開け、中に着弾して大爆発。そこらじゅうに炎を撒き散らす。
正面から攻められた時に備えて中庭で待機していた第一部隊が巻き込まれて一緒にコゲた。
そして、地上部分の主材料が乾燥している木で構成されている砦において、燃料と酸素を思う存分与えられた炎は激しく燃えさかる。
「り、リーダー、やられました!!南側の壁に大穴が開いちまった上に、辺り一面が火の海です!」
「中庭で待機していた第一部隊、壊滅的状態です!」
「地下保管庫にブチこんでおいた商品が二匹とも逃げやした!」
まだ断線されていない伝声管を通じて次々と寄せられる悲観的情報にアドルフは悲壮な決意を顔に浮かべた。
「第三部隊、砦の鎮火に当たれ!済み次第本丸に詰めて脱出口を確保!第四部隊は南防壁に開いた穴に急行、そっから入ってくる敵を通すな!一人たりともだ!俺もでる!!」
指示を全て出し終わった後、愛用のヌンチャクを小脇に抱えてアドルフは走り出した。ようやくここまで漕ぎ付けた、己の悲願を、部下達と一緒に見てきた夢を、ここで潰させるわけにはいかない……!!
★☆◆◇†★☆◆◇
その頃、白熊の淑女アメリアと共に保管庫を抜け出したルフトは、見張りやら偶然通りかかった盗賊やらを問答無用に殴り飛ばして地上を目指していた。傷をつけずに捕獲すれば高く売れる、という欲目をだした盗賊達はロクに抵抗もできないまま蹴散らされていく。
破竹の快進撃ノルフトだが、ある部屋の前でぴたりと立ち止まった。
『どうなさいましたの?』
ワリと全力で飛ばして突っ走ってるルフトに対して、ついてきているアメリア嬢は完全に余裕の表情、息がきれている様子もまったくないのにルフトは少しメゲかけるが、気を取り直して部屋の中を指差した。
『構造的にこの先が地上だと思うのですが、中には人が沢山いそうでして』
溜息を一つついて、ルフトは覚悟を決めた。主に、ベアに対して平謝りする覚悟を。
ソウルシューターは使い手の感情を弾にして撃ち出す武器だ。その時一番大きい感情を弾に変換して撃つのだが、その感情が大きければ大きいほど威力が増すという仕組みになっている。しかし、ルフトは長老に掛けられた呪いがあるので弾に出来るほどの感情の起伏は、ない。しかし、ソウルシューターのもう一つの機能、体力の1/3を弾に変換して撃ち出すという荒業を使う事ができるのだ。対複数への攻撃はブルフが居ないとできないルフトにとって、ここにソウルシューターがあることは天佑のようなものだった。
ガッ、と扉を蹴破る。中で待機していたのは火消しを終えた魔導師中心の第三部隊。もっとも、、ルフトがそれを知るよしもないのだが。
ソウルシューターを構えたルフトは、撃て、と頭の中で命令をくだした。体から力が抜け、構えた砲身に吸い込まれていく感覚。飛び出した弾はまっすぐ部屋の中央へと飛んでいき、そこにいた人間を一気に薙ぎ払う。ややふらふらと揺れる体に活を入れて、獣人と白熊は地上目掛けて部屋を走り抜けていった。
★☆◆◇†★☆◆◇
外壁に大穴を開けたベア&ブルフペアは、第四部隊が集まってくる前に砦の中に潜入する事に成功していた。さっさと砦の本丸の中へと入り、オニューのパートナーを探している。
そしていよいよ、本命の"エディウスの毒蛾"が人造騎馬隊「荒猟師」を伴って砦へと辿り着いた。
NPC:盗賊達
場所:スズシロ山脈中腹 盗賊の砦
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「普通に考えると……私、かんっぜんに珍獣扱いされてますね」
いつもこれだけ大雑把なのか、それとも今は何か別にやるべき事があるのか。ルフトは拘束すらされず、荷物と武器を奪われただけの状態で檻の中に閉じ込められていた。錆び付いた鉄檻はそこはかとなく脆そうに見える。とりあえず、両手で鉄棒を握り、全力を篭めて折り取ろうとしてみた。ミシッミシッと音はするが、そう簡単に折れる様子はみせない。
仕方なく自力で鉄格子をどうにかする事を諦め、近くで円らな瞳をコチラに向けている白熊とコンタクトを取ることにした。
『どうも、はじめまして。私は西方より参りました、ルフト・ファングと申します』
獣族は喉より発する音だけに限らず、体の動き全体を含めて言葉とする。だから手足尻尾などの身体的構造がある程度近い物同士ならばかなり楽に意思疎通する事ができるのだ。
『これはどうもご丁寧に。私(わたくし)、アメリアと申します。北の方より参りました』
白熊の淑女――アメリアはまだ若く、夫も子供もいないらしい。『捕まって、別に殺される様子もないのでご飯と住処の保障がされてるんなら別にいいかなって思いましたのよ』なんておほほほほとお上品に笑いながら、抵抗しないで大人しく捕まっている理由を話していた。
――数分後、ルフトは晴れて檻の外にでる事に成功した。抵抗する気のなかったアメリアがちょっと本気になれば、錆び付いた鉄格子など一撃で引き千切られてしまったのだ。自由になったアメリアはその後ルフトの檻も一撃で粉砕、無事自由の身を獲得することができたのだった。
手早く自分の荷物を身につけ、ざっと辺りを見回すと、ふと見慣れた綴りの名前が目に飛び込んできた。ベアトリーチェ・ガレット。今ルフトと一緒に組んで行動している少女の名前だ。
「そういえば、新しいのが届くってここ数日はしゃいでましたね」
呟いて、恐ろしく丁寧に梱包された武器――ソウルシューターを手に取る。梱包を剥がそうかどうしようかしばらく悩む。現在両手武器である棍しかない状況で、これを持って行き、なおかつ戦うのは厳しい。だが、ベアがあれだけ楽しみにしていたモノを本人が使う前に使ってしまうのも些か気がとがめる……というよりも、そのせいでどんな無理難題を吹っかけられるか分からないのが怖かった。
『あの、私はどうしましょう?』
思考の渦にハマっていたルフトを現実に引き戻したのはおずおずと掛けられたアメリアの声だった。ルフトの注意が自分に戻ってきたのを確認して、さらに続ける。
『檻、壊してしまいましたし……このままここにいるといろいろ大変そうですわよね?』
『そうですね……それでは、私と一緒に行きますか?本来の引き取り先の方がいる場所、多分分かりますし』
『あらあら、そうですの?それじゃあ、ご一緒させていただきますわ。よろしくお願いしますね、ルフトさん』
右腕に抱えたベアの宝物を見てもう少しだけ悩んで、梱包剤を剥がす。傷一つないぴかぴかの砲身がルフトの良心を刺激した。左手を腹にあてがいそうになって、首を振る。覚悟を決めろ、大丈夫、派手に傷をつけたりしなきゃそうは怒られない、はずだ。だといいな。
かくて、自ら窮地を打破せんとルフトはさらなる窮地へ足を踏み入れたのだった。
★☆◆◇†★☆◆◇
――ルフトが保管庫より脱出を図っている時、砦上層部では。
「砦南側に生命力感知!動物よりは大きいですが、人間とするとやや小さめです!」
さっそく発見し、リーダーの下へ見張りから報告が飛ぶ。
「またかよ!ええい、今度はほうっておけ!そろそろ毒蛾のヤツが来る頃合だ。各員、気合いれろ!」
「りょ、りょうかっ!うわあああああ!?か、壁が!?」
威勢のいい返事の余韻がまだ消えぬうちに、見張りはパニックを起こした声をあげた。同時にドガァッっという破砕音と衝撃が砦全体に響き渡る。
「どうした、何があった!?」
声を荒らげるが、悲鳴を上げた見張りがいた塔から連絡が帰ってくる様子はない。アドルフは、確実に破滅への道を辿り始めていた。
オルレアンとベアトリーチェ、先に砦に辿り着いたのはベアトリーチェの方だった。
「さて、ここの内部構造なんだが、俺が調べたところによるとだな……?」
ブルフがこれからどうするか相談しようとする間にも、今回でお役御免になるであろうソウルシューターを構えるベアトリーチェは
「お、おい?」
戸惑うブルフを尻目に
「あたしの新パートナー、かえしなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」
特大の一発を盗賊の砦に向けてぶっぱなした。
「おおおおおおおおおおおおおおい!?」
ソウルシューターから放たれた怒りの火炎弾は砦の外壁を易々と貫通し直径10mほどの風穴を開け、中に着弾して大爆発。そこらじゅうに炎を撒き散らす。
正面から攻められた時に備えて中庭で待機していた第一部隊が巻き込まれて一緒にコゲた。
そして、地上部分の主材料が乾燥している木で構成されている砦において、燃料と酸素を思う存分与えられた炎は激しく燃えさかる。
「り、リーダー、やられました!!南側の壁に大穴が開いちまった上に、辺り一面が火の海です!」
「中庭で待機していた第一部隊、壊滅的状態です!」
「地下保管庫にブチこんでおいた商品が二匹とも逃げやした!」
まだ断線されていない伝声管を通じて次々と寄せられる悲観的情報にアドルフは悲壮な決意を顔に浮かべた。
「第三部隊、砦の鎮火に当たれ!済み次第本丸に詰めて脱出口を確保!第四部隊は南防壁に開いた穴に急行、そっから入ってくる敵を通すな!一人たりともだ!俺もでる!!」
指示を全て出し終わった後、愛用のヌンチャクを小脇に抱えてアドルフは走り出した。ようやくここまで漕ぎ付けた、己の悲願を、部下達と一緒に見てきた夢を、ここで潰させるわけにはいかない……!!
★☆◆◇†★☆◆◇
その頃、白熊の淑女アメリアと共に保管庫を抜け出したルフトは、見張りやら偶然通りかかった盗賊やらを問答無用に殴り飛ばして地上を目指していた。傷をつけずに捕獲すれば高く売れる、という欲目をだした盗賊達はロクに抵抗もできないまま蹴散らされていく。
破竹の快進撃ノルフトだが、ある部屋の前でぴたりと立ち止まった。
『どうなさいましたの?』
ワリと全力で飛ばして突っ走ってるルフトに対して、ついてきているアメリア嬢は完全に余裕の表情、息がきれている様子もまったくないのにルフトは少しメゲかけるが、気を取り直して部屋の中を指差した。
『構造的にこの先が地上だと思うのですが、中には人が沢山いそうでして』
溜息を一つついて、ルフトは覚悟を決めた。主に、ベアに対して平謝りする覚悟を。
ソウルシューターは使い手の感情を弾にして撃ち出す武器だ。その時一番大きい感情を弾に変換して撃つのだが、その感情が大きければ大きいほど威力が増すという仕組みになっている。しかし、ルフトは長老に掛けられた呪いがあるので弾に出来るほどの感情の起伏は、ない。しかし、ソウルシューターのもう一つの機能、体力の1/3を弾に変換して撃ち出すという荒業を使う事ができるのだ。対複数への攻撃はブルフが居ないとできないルフトにとって、ここにソウルシューターがあることは天佑のようなものだった。
ガッ、と扉を蹴破る。中で待機していたのは火消しを終えた魔導師中心の第三部隊。もっとも、、ルフトがそれを知るよしもないのだが。
ソウルシューターを構えたルフトは、撃て、と頭の中で命令をくだした。体から力が抜け、構えた砲身に吸い込まれていく感覚。飛び出した弾はまっすぐ部屋の中央へと飛んでいき、そこにいた人間を一気に薙ぎ払う。ややふらふらと揺れる体に活を入れて、獣人と白熊は地上目掛けて部屋を走り抜けていった。
★☆◆◇†★☆◆◇
外壁に大穴を開けたベア&ブルフペアは、第四部隊が集まってくる前に砦の中に潜入する事に成功していた。さっさと砦の本丸の中へと入り、オニューのパートナーを探している。
そしていよいよ、本命の"エディウスの毒蛾"が人造騎馬隊「荒猟師」を伴って砦へと辿り着いた。
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キャスト:オルレアン・ルフト・ベアトリーチェ
NPC:盗賊・ブルフ
場所:スズシロ山脈中腹~盗賊の砦
――――――――――――――――
「あんたら『邪魔』よっ!」
ベアトリーチェは肩に砲を担いで、そこから放たれるどす黒い感情を
余すことなく解き放ち続けていた。
着弾した火炎と爆風が、岩壁を紙のように崩してゆく。
無論、作戦などない。あの『芸術品』が無事であればそれでいい。
ソウルシューター、という大層な名前をつけたのは武器職人だった。
メンテナンスや扱いに知識がいる銃、重い剣、命中率が必要な弓など、
そういう類の武器を好まないベアトリーチェのために、武器職人が
マキーナの工房で3年かけて製作したものだ。
もちろん個人で製作したものなのでまだ世には広まっていないが、
ベアトリーチェはそれを誇りに思っている。
――あたしだけの武器なのよ。
だから、愚鈍で端的でしかも美的センスのない賊にそれが奪われたとなれば、
いかなる手段をもってしても奪還しなければならない。
「ベア!賞金首になりてーのか!?お前は『狩る』側だろーが!?ぁいてっ」
ごしゃ、と飛んできた瓦礫に直撃されて、喋る鷹が落下する。
ベアトリーチェはそちらに一瞥すら投げずに、砂塵で乾いた唇をなめた。
「かぁえええせぇェエエ…あたしのかえぇせー」
完全に据わった目で、歩みを進める。そして人影が見えたら撃つ。
見えなくても撃つ。
「ひぃいいいいいいっ」
逃げ遅れたのか、無傷だというのに手だけでずりずり這いずって逃げようとする
賊の一人が、思わず悲鳴をあげる――その眼前に、ベアトリーチェは迷うことなく
がつ!とソウルシューターをさえぎるように突き立てた。
「ぅをおお!」
「あのねー、ベアねー、聞きたいこと、あるんだぁ」
「くっ…!これは呪文か!?俺を魔王の生贄にしようとでも!?」
歳相応の幼い言い回しをしただけなのだが、賊はなにやら独り言を言って
一人でおびえている。震えている後姿を半眼で睨みながら、へたった腰の上に
片足を乗せる。ぐげぇ、とそこでようやく男が振り向いて、眼前の少女の笑顔の前に
沈黙した。
「『はい・いいえ』で答えなさい。あんたら、昨日隊商を襲撃したわね?」
がっしと男の額を掴む。指の間からはみ出た黒髪を引きちぎらんばかりの勢いで、
力をこめてゆく。
男はもはや首をとられたかのような絶望的な表情で、しかし正直な返事をすれば
この得体の知れない侵入者から解放されるかもしれないという、霞のような希望を
もちながら、首を縦に振った。
「あ…あぁ…」
「そう」
あっさりとした声音で、しかし乱暴に男を解放する。ばたばたとやはり手だけで逃げる
男の後姿に、ベアトリーチェは呼びかけていた。
「最後にひとつ」
「な、なんだよぅ!」
情けない格好でまた振り返る男に銃口を向けながら、にっこり笑う。
「『はい・いいえ』で答えろっつったのに、それをしなかったわよね?」
ひゅううううう…と、風が吹き抜ける音がする。真っ黒な銃口の奥底に、青白い点が
出現して、大きくなってゆく。みるみる男の顔が蒼白になって――
「とりあえずカウントするから、死にたくなかったらその間に逃げなさい。いくわよ」
ひぃっ!と、やっと男が立ち上がる。肩に担いだ筒にぴったり頬をあてて、
ベアトリーチェは叫んでいた。
「ゼロォ――――――――――――――ッ!」
森に野鳥がいなかったのは、救いだったのかもしれない。
・・・★・・・
「誰も10から始めるなんて言ってないわ。合法よ。そうでしょ」
瓦礫の隅から這い出して、ベアトリーチェはひとつ咳きをしてから立ち上がった。
空が広い。しかし彼女は一歩も動いていない。
周囲の壁が吹っ飛んだのだ。
ズボンについた埃を叩いて払うと、完全に沈黙した賊の体を踏み越えて、
さきほどまで床だった部分を覗き込む。
下の階が穴と同じ形の光を受けて、しかし瓦礫に埋もれながらそこにあった。
よくよく目をこらせば階段も見える。彼女は一人ごちていた。
「まぁ、動物ってのは大抵、穴掘った中に宝物を隠すわよね。イヌみたいに」
「待てコラァアアアアア!!!」
がらがらがら!
突然、近場の瓦礫がいきなり盛り上がり、そこから尊大そうな男が
ヌンチャクを持って立ち上がった。
「なんかいきなり俺の砦が爆発してビックリしたぞ!てめぇは天災か!」
「確かにあたしは天才だけど」
「言葉遊びをするつもりはねぇ!覚悟しろィ!」
じゃらっ、と男の持つヌンチャクの鎖が鳴る。
「覚悟すんのはそっちじゃなくて?」
ベアトリーチェは特に表情を変えずに、ただソウルシューターの柄を強く握り返した。
NPC:盗賊・ブルフ
場所:スズシロ山脈中腹~盗賊の砦
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「あんたら『邪魔』よっ!」
ベアトリーチェは肩に砲を担いで、そこから放たれるどす黒い感情を
余すことなく解き放ち続けていた。
着弾した火炎と爆風が、岩壁を紙のように崩してゆく。
無論、作戦などない。あの『芸術品』が無事であればそれでいい。
ソウルシューター、という大層な名前をつけたのは武器職人だった。
メンテナンスや扱いに知識がいる銃、重い剣、命中率が必要な弓など、
そういう類の武器を好まないベアトリーチェのために、武器職人が
マキーナの工房で3年かけて製作したものだ。
もちろん個人で製作したものなのでまだ世には広まっていないが、
ベアトリーチェはそれを誇りに思っている。
――あたしだけの武器なのよ。
だから、愚鈍で端的でしかも美的センスのない賊にそれが奪われたとなれば、
いかなる手段をもってしても奪還しなければならない。
「ベア!賞金首になりてーのか!?お前は『狩る』側だろーが!?ぁいてっ」
ごしゃ、と飛んできた瓦礫に直撃されて、喋る鷹が落下する。
ベアトリーチェはそちらに一瞥すら投げずに、砂塵で乾いた唇をなめた。
「かぁえええせぇェエエ…あたしのかえぇせー」
完全に据わった目で、歩みを進める。そして人影が見えたら撃つ。
見えなくても撃つ。
「ひぃいいいいいいっ」
逃げ遅れたのか、無傷だというのに手だけでずりずり這いずって逃げようとする
賊の一人が、思わず悲鳴をあげる――その眼前に、ベアトリーチェは迷うことなく
がつ!とソウルシューターをさえぎるように突き立てた。
「ぅをおお!」
「あのねー、ベアねー、聞きたいこと、あるんだぁ」
「くっ…!これは呪文か!?俺を魔王の生贄にしようとでも!?」
歳相応の幼い言い回しをしただけなのだが、賊はなにやら独り言を言って
一人でおびえている。震えている後姿を半眼で睨みながら、へたった腰の上に
片足を乗せる。ぐげぇ、とそこでようやく男が振り向いて、眼前の少女の笑顔の前に
沈黙した。
「『はい・いいえ』で答えなさい。あんたら、昨日隊商を襲撃したわね?」
がっしと男の額を掴む。指の間からはみ出た黒髪を引きちぎらんばかりの勢いで、
力をこめてゆく。
男はもはや首をとられたかのような絶望的な表情で、しかし正直な返事をすれば
この得体の知れない侵入者から解放されるかもしれないという、霞のような希望を
もちながら、首を縦に振った。
「あ…あぁ…」
「そう」
あっさりとした声音で、しかし乱暴に男を解放する。ばたばたとやはり手だけで逃げる
男の後姿に、ベアトリーチェは呼びかけていた。
「最後にひとつ」
「な、なんだよぅ!」
情けない格好でまた振り返る男に銃口を向けながら、にっこり笑う。
「『はい・いいえ』で答えろっつったのに、それをしなかったわよね?」
ひゅううううう…と、風が吹き抜ける音がする。真っ黒な銃口の奥底に、青白い点が
出現して、大きくなってゆく。みるみる男の顔が蒼白になって――
「とりあえずカウントするから、死にたくなかったらその間に逃げなさい。いくわよ」
ひぃっ!と、やっと男が立ち上がる。肩に担いだ筒にぴったり頬をあてて、
ベアトリーチェは叫んでいた。
「ゼロォ――――――――――――――ッ!」
森に野鳥がいなかったのは、救いだったのかもしれない。
・・・★・・・
「誰も10から始めるなんて言ってないわ。合法よ。そうでしょ」
瓦礫の隅から這い出して、ベアトリーチェはひとつ咳きをしてから立ち上がった。
空が広い。しかし彼女は一歩も動いていない。
周囲の壁が吹っ飛んだのだ。
ズボンについた埃を叩いて払うと、完全に沈黙した賊の体を踏み越えて、
さきほどまで床だった部分を覗き込む。
下の階が穴と同じ形の光を受けて、しかし瓦礫に埋もれながらそこにあった。
よくよく目をこらせば階段も見える。彼女は一人ごちていた。
「まぁ、動物ってのは大抵、穴掘った中に宝物を隠すわよね。イヌみたいに」
「待てコラァアアアアア!!!」
がらがらがら!
突然、近場の瓦礫がいきなり盛り上がり、そこから尊大そうな男が
ヌンチャクを持って立ち上がった。
「なんかいきなり俺の砦が爆発してビックリしたぞ!てめぇは天災か!」
「確かにあたしは天才だけど」
「言葉遊びをするつもりはねぇ!覚悟しろィ!」
じゃらっ、と男の持つヌンチャクの鎖が鳴る。
「覚悟すんのはそっちじゃなくて?」
ベアトリーチェは特に表情を変えずに、ただソウルシューターの柄を強く握り返した。
PC@ベアトリーチェ、ルフト、オルレアン
NPC@ウィンドブルフ、旅賊リーダー・アドルフ・ハイマン
人造騎馬隊「荒猟師」、白熊の淑女アメリア
場所@エディウス~パウラ連合国境付近・スズシロ山脈中腹
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ってぶっは!げーっほげぼっ!!」
瓦礫の中から咳き込みながら飛び出してきたのは、ウィンドブルフだった。
先刻の瓦礫の衝撃で、地面に落ちていたがようやく意識を取り戻す。
「いってー…ってベア!?どこだーおーいっ!!」
周囲は砂埃で霧のようにぼやけ、ところどころで下火が燃えて揺らめいてい
る。
一緒に居た少女の姿はどこにもなく、遠くやら近くやらで激しい衝突音が響い
ている。
「はぐれたのか…?あーもうって……ん?」
慌ててばさばさと飛び立とうとした、まさにその瞬間。
本能の警告が脳裏を走るのと、砂埃の幕から突如突き出した黒い甲冑の手に足
をつかまれて引きずられたのは同時であった。
「何だっ!?」
『…魔法式で動く、半自律型の使役生物か…?』
煙が晴れていくにしたがって、彼を捉えた者達の異様な様が浮かび上がった。
黒光りする漆黒の甲冑に全身を包んだ、赤い瞳を向ける騎士兵団。
通称「荒猟師」、問答無用で旅人の命を刈り取る、悪魔の群れの名を持つ者
達。
悪魔の騎士団、砦内に侵入。
つまりは、この即興の略奪劇の盤面に毒蛾は舞い降りたということだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー
「だぁりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
「うぉりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
二重の叫び声が同時に重なった。
自称・未来の盗賊王ことアドルフ・ハイマンと自称・未来の美貌の賞金稼ぎこ
とベアトリーチェ・ガレットの凄まじいまでの戦闘は現在周囲を破壊しながら
大行進中である。
ヌンチャクを駆使する男の周囲を、まるでツバメのようにするりするりと掠め
ながら、赤毛の少女の右手にはナイフ、左手には憎悪滴るような鉤爪。
12歳の少女にしては恐ろしく手馴れた戦闘姿である。しかしこちらも未来の
盗賊王アドルフ、培ってきた長年の近接格闘術は並ではない。
「ガキはさっさとお家に帰ってお菓子でも食ってやがれ!」
「うっさいわね!あんたらぶっ飛ばして賞金もらったらそうするわよ!
あとあたしの相棒を取り戻したらね!」
ヌンチャクの一撃が、鉤爪にさえぎられる。
と、ピシリと嫌な音がしてベアトリーチェが露骨に顔をゆがめた。
我が愛しの武器にして初代相棒のソウルシューターの爪が見事に欠けたのだ。
ピシリ、とベアトリーチェの精神にも見事な亀裂が生じたのも同じである。
「ああああああああああああああっ!
もう許さない絶対許さない死んでも許さない土下座しても脱いでもゆぅるさな
いぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」
まさにベアトリーチェがサイヤ人とかであったならば、髪が黄金に輝き全身を
炎のオーラが纏い、そして空中浮遊すら可能だっただろう。
ちなみに彼女は人間のために、そんな効果は出なかったが爆発的に殺意やオー
ラといった第六感に訴える何かが噴出された。
「甘いっての!!」
ヌンチャクの嵐の最中、ふたたび鈍い衝撃。
ついにソウルシューターの根元にヒビが入りが、ちゃん!と装備していた-左手
から零れ落ちた。
怒りと驚愕で思わず、ヌンチャクから目線をそらしたベア。
ほそく笑んだ顔で、アドルフはトドメを振り下ろしたーーーーーーー!!
「……みぃつけた………」
と、横殴りに黒い何かの群れが体当たりしてきた。
「のわぁ!!ってうわ!虫!?いや蝶、ってま、まさかっ!!」
自分の横っ腹にひっついた無数の昆虫を見て、アドルフの顔に恐怖がよぎっ
た。体から蝶をひっぺはがして立ち上がると、崩れた砦の壁の上に、そいつは
いた。
三つ編み、レースが風にそよぎ、「魔女の森色」の軍服は白いフリルと共に優
雅に舞い上がっている。
群れ纏うのは黒い虫、蝶の乱舞。三十匹はくだらない、見る者に生理的な嫌悪
を呼ぶ光景で、まさにその中核にして原因にして事象たるその軍人は。
「さあ、どうやって遊びましょうか………(恍惚)」
もはや、人に許されるはずのない、ありあらゆる邪悪と闇と狂気を湛えて微笑
んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー
「ええと、ですね。
結論するとどうやら非常にまずい展開ですねっ!!」
魔法舞台の生き残りと鉢合わせた我らがヒロインにして獣人・ルフト・ファン
グは倒れた見張り台の壁に隠れながら叫んだ。
と、頭上を掠める炎の魔法。慌てて突き出ていた耳を引っ込める。
『ルフトさん、どうしましょう。出るに出れませんわ』
白熊の淑女はおろおろと周囲を見渡しながらも、その巨体を縮こまらせる。
周囲の煙は黒だったり茶色だったりと視界が非常に悪い。
おかげで、出るにも出られず集中砲火をぎりぎりに防いでいる状態。
ソウルシューターは使い慣れてない上に、傷つけたら冥府にたどり着く前にベ
アに魂まで砕かれて消滅してしまうだろうので大切に扱っている。
それを慎重にかばいながら、なおかつ白熊の淑女を連れて出るには少々状況が
悪いのだ。
と、突如向こう側で悲鳴が響き渡った。
ルフトの聴覚に続いて飛び込んだのはいななき、蹄の音楽、怒号と叫喚。
思わず立ち上がって壁の向こう側を見ると。
そこには、黒い騎兵団が旅賊を踏み潰しながらあたりを見回している光景が見
えた。そして、その赤い瞳がルフトに向き、そして。
白熊の淑女を認識するやいないや、全員の動きが止まり。瞳が同じタイミング
で瞬く。
不気味な一瞬。場は静まった。
その次の瞬間、黒の騎兵団は二人(二匹)のヒロインに殺到したのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーー
ー……回想
『誕生日プレゼント?』
幼い娘の一挙一動に、感激のあまり鼻血を噴出しそうになるのを必死に堪え
る。
いつも施設に預けっきりで、一週間に4回しか会えない可哀想な愛娘。せめ
て、望むものは全て与えてやりたい。
『ママは今年も来てくれる?』
大きく頷いた。
一昨年は誕生日にいけなかった、去年は軍部の仕事予定表(データベース)を
書き換えて無事娘の誕生パーティーには間に合った。ちなみに犯罪であるが。
無論、きっと仕事はあるのだろうが今年も予定表を改竄する気満々である。
『ママがいてくれるならママとケーキ食べたい』
思わず、彼は愛しさのあまり鮮血が噴出した。
娘はいつものことなので、近くに準備してあったティッシュ箱を手渡す。
積み上げられたティッシュ箱は主に彼の娘への愛ゆえの出血処理のためのもの
である。
それは当たり前でしょ、と胸元を真っ赤に染めて微笑む。
欲しいものとかないの?ああそうペットとかいいかもしれないわ。でもオスは
駄目ね。そう言うと娘は彼の服をティッシュで拭きながらしばらく考えてい
た。
『…じゃあ、何でもいいの?』
そうよ、ママは軍でもそれなりに顔が利くからなんだってと(盗、取、獲)っ
て来てあげるわよ。そういうと娘は上目遣いにおずおずと見上げてくる。
また鼻血が出たが、そろそろこれ以上出すと意識が保てない。必死に鼻の毛
細血管を自粛させる。
『じゃあね、なんか珍しくて可愛い動物がいいな。
二コルの犬やヴィリジッタの小鳥も可愛いんだけどね、みんなに自慢できる
ようなペットが欲しいな』
翌日、なぜかオカマの仕事机の上には派閥争いで生じた銃撃事件と近隣諸国
とのトラブルを回避するための条件が書かれた書類の上に『絶滅危惧種保護
リスト』と『よい子の珍獣怪獣図鑑』が置いてあったのを見た中佐は一抹の
不吉を予感していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーー
思わず過去世界に逃避しかけて、あやうく踏みとどまる。
目の前には憎き愛娘の(誕生日プレゼントを奪った)仇敵のリーダーがいる。
百億の怒り、千億の憎悪、そして無限の狂気を携えてなお、あまりある漆黒
の闇を片手に集めると、みちみちと体を引き裂いた蝶が繋がってひとつの鎌
を形成した。
「…軍のデータベースにあった旅賊、リーダーはアドルフ・ハイマン。
犯罪歴で逮捕5回、名誉毀損罪1回、器物派損罪と公務執行妨害2回。旅団
を形成してからはパウラ連合~我が領土国境付近でたびたび略奪を繰り返し
ては金品を強奪する。
判決、死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死
刑死刑死刑っ!!おもにアタシの訴えと判決で。死刑執行、とりあえず死ね、
ともかく逝け、何もなくても滅びるがいいっ!!」
もはや理性というものは存在しないようだ。
オカマ破壊神は光臨し、世界は今、再び物語のように終末を迎える。
おもにアドルフの世界が。
NPC@ウィンドブルフ、旅賊リーダー・アドルフ・ハイマン
人造騎馬隊「荒猟師」、白熊の淑女アメリア
場所@エディウス~パウラ連合国境付近・スズシロ山脈中腹
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ってぶっは!げーっほげぼっ!!」
瓦礫の中から咳き込みながら飛び出してきたのは、ウィンドブルフだった。
先刻の瓦礫の衝撃で、地面に落ちていたがようやく意識を取り戻す。
「いってー…ってベア!?どこだーおーいっ!!」
周囲は砂埃で霧のようにぼやけ、ところどころで下火が燃えて揺らめいてい
る。
一緒に居た少女の姿はどこにもなく、遠くやら近くやらで激しい衝突音が響い
ている。
「はぐれたのか…?あーもうって……ん?」
慌ててばさばさと飛び立とうとした、まさにその瞬間。
本能の警告が脳裏を走るのと、砂埃の幕から突如突き出した黒い甲冑の手に足
をつかまれて引きずられたのは同時であった。
「何だっ!?」
『…魔法式で動く、半自律型の使役生物か…?』
煙が晴れていくにしたがって、彼を捉えた者達の異様な様が浮かび上がった。
黒光りする漆黒の甲冑に全身を包んだ、赤い瞳を向ける騎士兵団。
通称「荒猟師」、問答無用で旅人の命を刈り取る、悪魔の群れの名を持つ者
達。
悪魔の騎士団、砦内に侵入。
つまりは、この即興の略奪劇の盤面に毒蛾は舞い降りたということだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー
「だぁりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
「うぉりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
二重の叫び声が同時に重なった。
自称・未来の盗賊王ことアドルフ・ハイマンと自称・未来の美貌の賞金稼ぎこ
とベアトリーチェ・ガレットの凄まじいまでの戦闘は現在周囲を破壊しながら
大行進中である。
ヌンチャクを駆使する男の周囲を、まるでツバメのようにするりするりと掠め
ながら、赤毛の少女の右手にはナイフ、左手には憎悪滴るような鉤爪。
12歳の少女にしては恐ろしく手馴れた戦闘姿である。しかしこちらも未来の
盗賊王アドルフ、培ってきた長年の近接格闘術は並ではない。
「ガキはさっさとお家に帰ってお菓子でも食ってやがれ!」
「うっさいわね!あんたらぶっ飛ばして賞金もらったらそうするわよ!
あとあたしの相棒を取り戻したらね!」
ヌンチャクの一撃が、鉤爪にさえぎられる。
と、ピシリと嫌な音がしてベアトリーチェが露骨に顔をゆがめた。
我が愛しの武器にして初代相棒のソウルシューターの爪が見事に欠けたのだ。
ピシリ、とベアトリーチェの精神にも見事な亀裂が生じたのも同じである。
「ああああああああああああああっ!
もう許さない絶対許さない死んでも許さない土下座しても脱いでもゆぅるさな
いぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」
まさにベアトリーチェがサイヤ人とかであったならば、髪が黄金に輝き全身を
炎のオーラが纏い、そして空中浮遊すら可能だっただろう。
ちなみに彼女は人間のために、そんな効果は出なかったが爆発的に殺意やオー
ラといった第六感に訴える何かが噴出された。
「甘いっての!!」
ヌンチャクの嵐の最中、ふたたび鈍い衝撃。
ついにソウルシューターの根元にヒビが入りが、ちゃん!と装備していた-左手
から零れ落ちた。
怒りと驚愕で思わず、ヌンチャクから目線をそらしたベア。
ほそく笑んだ顔で、アドルフはトドメを振り下ろしたーーーーーーー!!
「……みぃつけた………」
と、横殴りに黒い何かの群れが体当たりしてきた。
「のわぁ!!ってうわ!虫!?いや蝶、ってま、まさかっ!!」
自分の横っ腹にひっついた無数の昆虫を見て、アドルフの顔に恐怖がよぎっ
た。体から蝶をひっぺはがして立ち上がると、崩れた砦の壁の上に、そいつは
いた。
三つ編み、レースが風にそよぎ、「魔女の森色」の軍服は白いフリルと共に優
雅に舞い上がっている。
群れ纏うのは黒い虫、蝶の乱舞。三十匹はくだらない、見る者に生理的な嫌悪
を呼ぶ光景で、まさにその中核にして原因にして事象たるその軍人は。
「さあ、どうやって遊びましょうか………(恍惚)」
もはや、人に許されるはずのない、ありあらゆる邪悪と闇と狂気を湛えて微笑
んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー
「ええと、ですね。
結論するとどうやら非常にまずい展開ですねっ!!」
魔法舞台の生き残りと鉢合わせた我らがヒロインにして獣人・ルフト・ファン
グは倒れた見張り台の壁に隠れながら叫んだ。
と、頭上を掠める炎の魔法。慌てて突き出ていた耳を引っ込める。
『ルフトさん、どうしましょう。出るに出れませんわ』
白熊の淑女はおろおろと周囲を見渡しながらも、その巨体を縮こまらせる。
周囲の煙は黒だったり茶色だったりと視界が非常に悪い。
おかげで、出るにも出られず集中砲火をぎりぎりに防いでいる状態。
ソウルシューターは使い慣れてない上に、傷つけたら冥府にたどり着く前にベ
アに魂まで砕かれて消滅してしまうだろうので大切に扱っている。
それを慎重にかばいながら、なおかつ白熊の淑女を連れて出るには少々状況が
悪いのだ。
と、突如向こう側で悲鳴が響き渡った。
ルフトの聴覚に続いて飛び込んだのはいななき、蹄の音楽、怒号と叫喚。
思わず立ち上がって壁の向こう側を見ると。
そこには、黒い騎兵団が旅賊を踏み潰しながらあたりを見回している光景が見
えた。そして、その赤い瞳がルフトに向き、そして。
白熊の淑女を認識するやいないや、全員の動きが止まり。瞳が同じタイミング
で瞬く。
不気味な一瞬。場は静まった。
その次の瞬間、黒の騎兵団は二人(二匹)のヒロインに殺到したのだった。
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ーーーー
ー……回想
『誕生日プレゼント?』
幼い娘の一挙一動に、感激のあまり鼻血を噴出しそうになるのを必死に堪え
る。
いつも施設に預けっきりで、一週間に4回しか会えない可哀想な愛娘。せめ
て、望むものは全て与えてやりたい。
『ママは今年も来てくれる?』
大きく頷いた。
一昨年は誕生日にいけなかった、去年は軍部の仕事予定表(データベース)を
書き換えて無事娘の誕生パーティーには間に合った。ちなみに犯罪であるが。
無論、きっと仕事はあるのだろうが今年も予定表を改竄する気満々である。
『ママがいてくれるならママとケーキ食べたい』
思わず、彼は愛しさのあまり鮮血が噴出した。
娘はいつものことなので、近くに準備してあったティッシュ箱を手渡す。
積み上げられたティッシュ箱は主に彼の娘への愛ゆえの出血処理のためのもの
である。
それは当たり前でしょ、と胸元を真っ赤に染めて微笑む。
欲しいものとかないの?ああそうペットとかいいかもしれないわ。でもオスは
駄目ね。そう言うと娘は彼の服をティッシュで拭きながらしばらく考えてい
た。
『…じゃあ、何でもいいの?』
そうよ、ママは軍でもそれなりに顔が利くからなんだってと(盗、取、獲)っ
て来てあげるわよ。そういうと娘は上目遣いにおずおずと見上げてくる。
また鼻血が出たが、そろそろこれ以上出すと意識が保てない。必死に鼻の毛
細血管を自粛させる。
『じゃあね、なんか珍しくて可愛い動物がいいな。
二コルの犬やヴィリジッタの小鳥も可愛いんだけどね、みんなに自慢できる
ようなペットが欲しいな』
翌日、なぜかオカマの仕事机の上には派閥争いで生じた銃撃事件と近隣諸国
とのトラブルを回避するための条件が書かれた書類の上に『絶滅危惧種保護
リスト』と『よい子の珍獣怪獣図鑑』が置いてあったのを見た中佐は一抹の
不吉を予感していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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思わず過去世界に逃避しかけて、あやうく踏みとどまる。
目の前には憎き愛娘の(誕生日プレゼントを奪った)仇敵のリーダーがいる。
百億の怒り、千億の憎悪、そして無限の狂気を携えてなお、あまりある漆黒
の闇を片手に集めると、みちみちと体を引き裂いた蝶が繋がってひとつの鎌
を形成した。
「…軍のデータベースにあった旅賊、リーダーはアドルフ・ハイマン。
犯罪歴で逮捕5回、名誉毀損罪1回、器物派損罪と公務執行妨害2回。旅団
を形成してからはパウラ連合~我が領土国境付近でたびたび略奪を繰り返し
ては金品を強奪する。
判決、死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死
刑死刑死刑っ!!おもにアタシの訴えと判決で。死刑執行、とりあえず死ね、
ともかく逝け、何もなくても滅びるがいいっ!!」
もはや理性というものは存在しないようだ。
オカマ破壊神は光臨し、世界は今、再び物語のように終末を迎える。
おもにアドルフの世界が。
PC:オルレアン、ベアトリーチェ、ルフト
NPC:アドルフ、荒猟師
場所:スズシロ山脈中腹、盗賊の砦
--------------------------------------------------------------------------------
「ちょっと勘弁してください。話せば分かったりするかもしれないじゃないですかっ」
問答無用に押し寄せてくる黒の騎士団に、ルフトはほとんど脊髄反射のレベルで体力消耗弾を放って迎撃した。大きな疲労感がルフトの体を襲い、思わず膝を付きそうになるのを必死で堪える。
体力の最大値が大きいルフトが放った弾はそれなりに大きい威力を持つ。さしもの黒の騎士達も耐え切れず、四方に吹き飛ばされていく。もっとも完全に無力化されたという事もなく、起き上がろうとピクピク体を動かしていたりするのだが。
『ベアッ!』
呼び声、というよりはほとんど吼えるようにして声をあげ、ルフトはたった今自分で作った道を駆け抜けた。鎖で繋がった二つの棒、ヌンチャクという珍しい暗器を使う男が虚を突かれ、動きを止める。そこへ、黒い何かの塊が一気に体当たりを仕掛けた。
それなりに戦いなれているのだろう、男はすぐに体勢を立て直し腹部に張り付いた黒い何かを投げ捨てる。気を抜くと倒れそうな体に鞭を打ってルフトはベアの隣まで駆けつけた。
「さあ、どうやって遊びましょうか……」
いまやヌンチャク男の注意は完全にベアから外され、目の前の女性……にしては声がやや野太い人物に向けられている。あまりにも特徴的な軍人の姿に一瞬ルフトの脳裏に何かが浮かびかけたが、今はそれどころではないと隅っこに追いやり、ベアトリーチェに向き直った。
「ベア、大丈夫ですか?」
「犬っころ、アンタ……」
心配げに声を掛けるルフトに、ベアは押し殺した声で答える。もしルフトがその声の調子にもっと注意を払っていれば、声を殺しきれずに声が震えているのがわかっただろう。
「アンタ……一応聞いてあげるけど、どうして徹底させたハズの梱包が、解かれてるのかしら?」
「う゛」
半ば予想はしていたとはいえ、想像以上の怒りの様子に思わずルフトの顔が引き攣る。
「まさか、勝手に使ったなんて言わないわよね。さっき見えた爆発はアタシの気のせいよね……?」
今のベアトリーチェの表情を一言で表現しろ、と聞かれたら10人中10人が"笑みを浮かべている"と答えるだろう。そして、それは楽しそうか、と問えば10人中10人が"怒っています"と答える事は想像に難くない。ベアトリーチェが浮かべている笑みはそういう類のモノだった。
恐る恐る差し出された新しいソウルシューターを受け取って、ベアはにっこりと笑った。先ほどと違い、完全ににぱっとした明るい表情なのだが。
「……なにか、言う事はあるかしら?」
「ごめんなさい」
ルフトが速攻でわびを入れた瞬間、赫く輝く火線がルフトの横を駆け抜けた。その先にいた黒の騎士が二体、跡形もなく消滅する。通常、怒りの感情をソウルシューターが撃ち出す場合は炎の弾の形を取るのだが、今回はそれがあまりにも行き過ぎてしまいこうなったらしい。掠めた熱気で焦げる服の臭いが妙に鼻につく。
二本、三本、四本。立ち止まるルフトの周囲を灼熱の熱線が焦がして行く。超々高熱を誇る炎は当たった物体を個体から気体へと昇華させる為、山火事が起きる心配はないなぁ、と現実感の薄れた頭で考える。そして、顔のすぐ横を怒気が通り過ぎたの最後にルフトは意識を失った。
NPC:アドルフ、荒猟師
場所:スズシロ山脈中腹、盗賊の砦
--------------------------------------------------------------------------------
「ちょっと勘弁してください。話せば分かったりするかもしれないじゃないですかっ」
問答無用に押し寄せてくる黒の騎士団に、ルフトはほとんど脊髄反射のレベルで体力消耗弾を放って迎撃した。大きな疲労感がルフトの体を襲い、思わず膝を付きそうになるのを必死で堪える。
体力の最大値が大きいルフトが放った弾はそれなりに大きい威力を持つ。さしもの黒の騎士達も耐え切れず、四方に吹き飛ばされていく。もっとも完全に無力化されたという事もなく、起き上がろうとピクピク体を動かしていたりするのだが。
『ベアッ!』
呼び声、というよりはほとんど吼えるようにして声をあげ、ルフトはたった今自分で作った道を駆け抜けた。鎖で繋がった二つの棒、ヌンチャクという珍しい暗器を使う男が虚を突かれ、動きを止める。そこへ、黒い何かの塊が一気に体当たりを仕掛けた。
それなりに戦いなれているのだろう、男はすぐに体勢を立て直し腹部に張り付いた黒い何かを投げ捨てる。気を抜くと倒れそうな体に鞭を打ってルフトはベアの隣まで駆けつけた。
「さあ、どうやって遊びましょうか……」
いまやヌンチャク男の注意は完全にベアから外され、目の前の女性……にしては声がやや野太い人物に向けられている。あまりにも特徴的な軍人の姿に一瞬ルフトの脳裏に何かが浮かびかけたが、今はそれどころではないと隅っこに追いやり、ベアトリーチェに向き直った。
「ベア、大丈夫ですか?」
「犬っころ、アンタ……」
心配げに声を掛けるルフトに、ベアは押し殺した声で答える。もしルフトがその声の調子にもっと注意を払っていれば、声を殺しきれずに声が震えているのがわかっただろう。
「アンタ……一応聞いてあげるけど、どうして徹底させたハズの梱包が、解かれてるのかしら?」
「う゛」
半ば予想はしていたとはいえ、想像以上の怒りの様子に思わずルフトの顔が引き攣る。
「まさか、勝手に使ったなんて言わないわよね。さっき見えた爆発はアタシの気のせいよね……?」
今のベアトリーチェの表情を一言で表現しろ、と聞かれたら10人中10人が"笑みを浮かべている"と答えるだろう。そして、それは楽しそうか、と問えば10人中10人が"怒っています"と答える事は想像に難くない。ベアトリーチェが浮かべている笑みはそういう類のモノだった。
恐る恐る差し出された新しいソウルシューターを受け取って、ベアはにっこりと笑った。先ほどと違い、完全ににぱっとした明るい表情なのだが。
「……なにか、言う事はあるかしら?」
「ごめんなさい」
ルフトが速攻でわびを入れた瞬間、赫く輝く火線がルフトの横を駆け抜けた。その先にいた黒の騎士が二体、跡形もなく消滅する。通常、怒りの感情をソウルシューターが撃ち出す場合は炎の弾の形を取るのだが、今回はそれがあまりにも行き過ぎてしまいこうなったらしい。掠めた熱気で焦げる服の臭いが妙に鼻につく。
二本、三本、四本。立ち止まるルフトの周囲を灼熱の熱線が焦がして行く。超々高熱を誇る炎は当たった物体を個体から気体へと昇華させる為、山火事が起きる心配はないなぁ、と現実感の薄れた頭で考える。そして、顔のすぐ横を怒気が通り過ぎたの最後にルフトは意識を失った。
キャスト:オルレアン・ルフト・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・白熊アメリア・賊長アドルフ
場所:スズシロ山脈中腹~盗賊の砦
――――――――――――――――
そう、たとえるならば。
地獄の光景をできるうる限りでこの世に存在させたなら、
今のような光景になるのかもしれない。
・・・★・・・
高いところから悠然を見下ろしてきているものは、確かに男で女でもあった。
すらりとした長身をエディウス軍の軍服で包み――ベアトリーチェとしては
なぜ正規の軍服にフリルがついているのか謎だったが、あえて追求しようとは
思わなかった。
それを差し引いても、正直に言えばかなりの美人といえた。
しかしどうにも重心が傾いているようで、まっすぐ立っているのだろうに、
腰はわずかながらくねっている。
「…うげぇ」
舌を出してそっぽを向き、ベアトリーチェはその軍人を視線から追放した。
「なんだありゃぁ!?」
まるきり未知の生物を見る目で、名前すら知らない賊の長がうろたえている。
ベアトリーチェはそっぽを向いたまま、賊の服のはじをくいくい、と引っ張って
ささやいた。
「あたし知ってるわ。あれ、オカマっていうのよ」
「ハァ!?」
「聞こえたわよそこのクソジャリ」
『うどわぁああああ!』
何気に仲良くなれそうな賊長との間に、いきなりその『オカマ』がにゅうと割り込んでくる。
耳元で聞いたその声はあくまでも妖艶で、しかし五感すべてをもってして否定したいほど
体中をむず痒くさせる響きを持っていた。
「キモイキモイキモイキモイキモイキモイ!!!なんか喋ってるし!喋った!」
「うーわ!うーわなんだよその服!髪!」
手と手を取り合ってずざぁああああ、と退る二人に向けて、『オカマ』は悠然と
片手に持った巨大な鎌を軽々と振って、その切っ先を賊長の鼻先に向ける。
「アタシを侮辱しようってわけね。いい度胸だわ。でもアタシはやることがあんのよ」
「そうね主に整形とか情操教育とかね」
「うっせ黙れ変な靴下」
「…うぜぇ…」
嫌悪感に加えて憎悪もプラス。今ならこのソウルシューターをもってすれば、
街ひとつくらいならば破壊できそうではあった。
「ま♪と・り・あ・え・ず♪」
しかし目の前の軍人はやたら嬉しそうに立ちポーズを変えると、凍えた瞳で
片腕を振るった。
ひゅごうっ!と鎌が黒い残像に化ける。
次の瞬間、賊長の持っていたヌンチャクの鎖がきれいに寸断されていた。
賊長の口が「い」の発音をしたままで止まっている。
「あんた顔ひどいんだからまずそこを落とすわよ」
「い゛い゛い゛い゛っ!」
・・・★・・・
「なっさけない!」
足元に転がっている狼男――ルフトを見下ろしてから、ベアトリーチェは
おおげさに天を仰いだ。
背後ではあのオカマが賊長を一方的にいたぶっている。実際に見たわけではないが、
見たとしても夕飯がまずくなるだけだろうと彼女は確信していた。
軍人もかなりの長身だったが、目の前の男はそれさえ超えて、優にニメートルは
あろうかという巨体である。
だがその持ち主からは、堂々とした風格より、苔が背中を蹂躙してもお構いなしと
いったような樹木を連想させる、そんな雰囲気が漂っている。
そうでなくとも、これだけの巨体をまのあたりにすれば、大概の人間は
物怖じするに違いないが――ベアトリーチェはしゃがみ込むと、やおら
寝ているその巨人の尻尾を、思い切り引っ張った。
「痛」
そっけない意思表示ではあったが、感情は伝わってくる。
彼は、もたもたと気遣うように起き上がってきた。
「ベア…」
「そうよ。あたしよ」
「なぜこんな事をしたんです」
感情の起伏があまりないとはいえ、目の前の巨狼は明らかに
困った表情をしていた。
おかえしとばかりに、憮然とした表情を隠さないまま、ベアトリーチェは
頬を膨らませた。
「あたしの手を煩わせたバツとして私刑(リンチ)を執行しただけよ」
「リンチって…いや、それは置いておいてですね、私が欲しいのは状況説明でして」
視線の高さがちょうどいいのか、ルフトは立ち上がらないままあぐらをかいて、
目の前の少女をなだめるように両手をかざしてくる。
「あたしこそ説明してほしいわよ。なんだってあんた、こんなところまで
夕飯探しに来てたわけ?さすがにあたしでも人肉は食べないわよ」
「そろそろ人様の尊厳というものを認めませんかベア」
高笑いと破砕音と爆発が、間を埋めている。ルフトはちらちら後ろを
振り返っていたが、ベアトリーチェは特に気にもしなかった。
と、崩れた壁の向こうに白い影が見える。
「…なにあれ」
「あぁ、白熊のアメリアさんです。まだ独身だそうですよ」
「そういうセリフは精神科医の前で言わないことね」
言っている間にも、白熊はおずおずとこちらに向かってきていた。
瓦礫と化したこの景色の中でその白い姿は確かに異様だったが、
状況はもうすでに異様の真っ只中である。
つまり、もう何が出てきても驚きはしないだろうということだ。
「ハァイ、こんにちは」
ふわふわの背中に手を置く。白熊はやたらマイペースな動きで、くんくんと
鼻面をベアトリーチェに向けてきた。
「自己紹介をしていらっしゃいます」
「ホントにィ…?」
「ルフトー!!無事かー!」
真顔でそう言う相棒に疑わしげな視線を送ると、ようやく復活したらしい
ウィンドブルフが舞い降りてくる。
「ブルフ…心配をかけました」
「オウ、なんか俺、もしかしたらベアに知らせないほうがよっぽどぐぇ」
高速で飛んできた鉄材の直撃を受けて、再度彼は沈黙した。
クゥン、と息を漏らして心なしか眉を下げるルフトは無視して、ベアトリーチェは
白熊から新しいソウルシューターへと目を転じた。
「ようこそあたしの手の中へ♪」
新ぴかの砲に口付けをする。確認するようにいろんなアングルから眺め回して、
最後に肩に乗せてみる――
従来のものとは比べ物にならないぐらい、新しい武器の出来具合はよかった。
まず重量からして違う。銃口を覗いてみると、無駄な部品がなくなって
かなり広々している。感情を変換して打ち出すだけでよいのだから、その
魔道機関さえしっかりしていれば、銃身は筒だけでもいいわけだ。
「素敵」
ベアトリーチェは、新しいよそ行き用の服を買ってもらった子供そのものの
瞳で、感慨深げに大きくあたりを見渡した。
「試し撃ちはもうされちゃったから、次は本番しかないわよね」
NPC:ウィンドブルフ・白熊アメリア・賊長アドルフ
場所:スズシロ山脈中腹~盗賊の砦
――――――――――――――――
そう、たとえるならば。
地獄の光景をできるうる限りでこの世に存在させたなら、
今のような光景になるのかもしれない。
・・・★・・・
高いところから悠然を見下ろしてきているものは、確かに男で女でもあった。
すらりとした長身をエディウス軍の軍服で包み――ベアトリーチェとしては
なぜ正規の軍服にフリルがついているのか謎だったが、あえて追求しようとは
思わなかった。
それを差し引いても、正直に言えばかなりの美人といえた。
しかしどうにも重心が傾いているようで、まっすぐ立っているのだろうに、
腰はわずかながらくねっている。
「…うげぇ」
舌を出してそっぽを向き、ベアトリーチェはその軍人を視線から追放した。
「なんだありゃぁ!?」
まるきり未知の生物を見る目で、名前すら知らない賊の長がうろたえている。
ベアトリーチェはそっぽを向いたまま、賊の服のはじをくいくい、と引っ張って
ささやいた。
「あたし知ってるわ。あれ、オカマっていうのよ」
「ハァ!?」
「聞こえたわよそこのクソジャリ」
『うどわぁああああ!』
何気に仲良くなれそうな賊長との間に、いきなりその『オカマ』がにゅうと割り込んでくる。
耳元で聞いたその声はあくまでも妖艶で、しかし五感すべてをもってして否定したいほど
体中をむず痒くさせる響きを持っていた。
「キモイキモイキモイキモイキモイキモイ!!!なんか喋ってるし!喋った!」
「うーわ!うーわなんだよその服!髪!」
手と手を取り合ってずざぁああああ、と退る二人に向けて、『オカマ』は悠然と
片手に持った巨大な鎌を軽々と振って、その切っ先を賊長の鼻先に向ける。
「アタシを侮辱しようってわけね。いい度胸だわ。でもアタシはやることがあんのよ」
「そうね主に整形とか情操教育とかね」
「うっせ黙れ変な靴下」
「…うぜぇ…」
嫌悪感に加えて憎悪もプラス。今ならこのソウルシューターをもってすれば、
街ひとつくらいならば破壊できそうではあった。
「ま♪と・り・あ・え・ず♪」
しかし目の前の軍人はやたら嬉しそうに立ちポーズを変えると、凍えた瞳で
片腕を振るった。
ひゅごうっ!と鎌が黒い残像に化ける。
次の瞬間、賊長の持っていたヌンチャクの鎖がきれいに寸断されていた。
賊長の口が「い」の発音をしたままで止まっている。
「あんた顔ひどいんだからまずそこを落とすわよ」
「い゛い゛い゛い゛っ!」
・・・★・・・
「なっさけない!」
足元に転がっている狼男――ルフトを見下ろしてから、ベアトリーチェは
おおげさに天を仰いだ。
背後ではあのオカマが賊長を一方的にいたぶっている。実際に見たわけではないが、
見たとしても夕飯がまずくなるだけだろうと彼女は確信していた。
軍人もかなりの長身だったが、目の前の男はそれさえ超えて、優にニメートルは
あろうかという巨体である。
だがその持ち主からは、堂々とした風格より、苔が背中を蹂躙してもお構いなしと
いったような樹木を連想させる、そんな雰囲気が漂っている。
そうでなくとも、これだけの巨体をまのあたりにすれば、大概の人間は
物怖じするに違いないが――ベアトリーチェはしゃがみ込むと、やおら
寝ているその巨人の尻尾を、思い切り引っ張った。
「痛」
そっけない意思表示ではあったが、感情は伝わってくる。
彼は、もたもたと気遣うように起き上がってきた。
「ベア…」
「そうよ。あたしよ」
「なぜこんな事をしたんです」
感情の起伏があまりないとはいえ、目の前の巨狼は明らかに
困った表情をしていた。
おかえしとばかりに、憮然とした表情を隠さないまま、ベアトリーチェは
頬を膨らませた。
「あたしの手を煩わせたバツとして私刑(リンチ)を執行しただけよ」
「リンチって…いや、それは置いておいてですね、私が欲しいのは状況説明でして」
視線の高さがちょうどいいのか、ルフトは立ち上がらないままあぐらをかいて、
目の前の少女をなだめるように両手をかざしてくる。
「あたしこそ説明してほしいわよ。なんだってあんた、こんなところまで
夕飯探しに来てたわけ?さすがにあたしでも人肉は食べないわよ」
「そろそろ人様の尊厳というものを認めませんかベア」
高笑いと破砕音と爆発が、間を埋めている。ルフトはちらちら後ろを
振り返っていたが、ベアトリーチェは特に気にもしなかった。
と、崩れた壁の向こうに白い影が見える。
「…なにあれ」
「あぁ、白熊のアメリアさんです。まだ独身だそうですよ」
「そういうセリフは精神科医の前で言わないことね」
言っている間にも、白熊はおずおずとこちらに向かってきていた。
瓦礫と化したこの景色の中でその白い姿は確かに異様だったが、
状況はもうすでに異様の真っ只中である。
つまり、もう何が出てきても驚きはしないだろうということだ。
「ハァイ、こんにちは」
ふわふわの背中に手を置く。白熊はやたらマイペースな動きで、くんくんと
鼻面をベアトリーチェに向けてきた。
「自己紹介をしていらっしゃいます」
「ホントにィ…?」
「ルフトー!!無事かー!」
真顔でそう言う相棒に疑わしげな視線を送ると、ようやく復活したらしい
ウィンドブルフが舞い降りてくる。
「ブルフ…心配をかけました」
「オウ、なんか俺、もしかしたらベアに知らせないほうがよっぽどぐぇ」
高速で飛んできた鉄材の直撃を受けて、再度彼は沈黙した。
クゥン、と息を漏らして心なしか眉を下げるルフトは無視して、ベアトリーチェは
白熊から新しいソウルシューターへと目を転じた。
「ようこそあたしの手の中へ♪」
新ぴかの砲に口付けをする。確認するようにいろんなアングルから眺め回して、
最後に肩に乗せてみる――
従来のものとは比べ物にならないぐらい、新しい武器の出来具合はよかった。
まず重量からして違う。銃口を覗いてみると、無駄な部品がなくなって
かなり広々している。感情を変換して打ち出すだけでよいのだから、その
魔道機関さえしっかりしていれば、銃身は筒だけでもいいわけだ。
「素敵」
ベアトリーチェは、新しいよそ行き用の服を買ってもらった子供そのものの
瞳で、感慨深げに大きくあたりを見渡した。
「試し撃ちはもうされちゃったから、次は本番しかないわよね」