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2025/03/10 06:54 |
パラノイア 第八章「無事と有事」/ベアトリーチェ(熊猫)
キャスト:オルレアン・ルフト・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・白熊アメリア・賊長アドルフ
場所:スズシロ山脈中腹~盗賊の砦
――――――――――――――――

そう、たとえるならば。

地獄の光景をできるうる限りでこの世に存在させたなら、
今のような光景になるのかもしれない。

・・・★・・・

高いところから悠然を見下ろしてきているものは、確かに男で女でもあった。

すらりとした長身をエディウス軍の軍服で包み――ベアトリーチェとしては
なぜ正規の軍服にフリルがついているのか謎だったが、あえて追求しようとは
思わなかった。

それを差し引いても、正直に言えばかなりの美人といえた。

しかしどうにも重心が傾いているようで、まっすぐ立っているのだろうに、
腰はわずかながらくねっている。

「…うげぇ」

舌を出してそっぽを向き、ベアトリーチェはその軍人を視線から追放した。

「なんだありゃぁ!?」

まるきり未知の生物を見る目で、名前すら知らない賊の長がうろたえている。
ベアトリーチェはそっぽを向いたまま、賊の服のはじをくいくい、と引っ張って
ささやいた。

「あたし知ってるわ。あれ、オカマっていうのよ」
「ハァ!?」
「聞こえたわよそこのクソジャリ」
『うどわぁああああ!』

何気に仲良くなれそうな賊長との間に、いきなりその『オカマ』がにゅうと割り込んでくる。
耳元で聞いたその声はあくまでも妖艶で、しかし五感すべてをもってして否定したいほど
体中をむず痒くさせる響きを持っていた。

「キモイキモイキモイキモイキモイキモイ!!!なんか喋ってるし!喋った!」
「うーわ!うーわなんだよその服!髪!」

手と手を取り合ってずざぁああああ、と退る二人に向けて、『オカマ』は悠然と
片手に持った巨大な鎌を軽々と振って、その切っ先を賊長の鼻先に向ける。

「アタシを侮辱しようってわけね。いい度胸だわ。でもアタシはやることがあんのよ」


「そうね主に整形とか情操教育とかね」
「うっせ黙れ変な靴下」
「…うぜぇ…」

嫌悪感に加えて憎悪もプラス。今ならこのソウルシューターをもってすれば、
街ひとつくらいならば破壊できそうではあった。

「ま♪と・り・あ・え・ず♪」

しかし目の前の軍人はやたら嬉しそうに立ちポーズを変えると、凍えた瞳で
片腕を振るった。

ひゅごうっ!と鎌が黒い残像に化ける。
次の瞬間、賊長の持っていたヌンチャクの鎖がきれいに寸断されていた。
賊長の口が「い」の発音をしたままで止まっている。

「あんた顔ひどいんだからまずそこを落とすわよ」
「い゛い゛い゛い゛っ!」

・・・★・・・

「なっさけない!」

足元に転がっている狼男――ルフトを見下ろしてから、ベアトリーチェは
おおげさに天を仰いだ。
背後ではあのオカマが賊長を一方的にいたぶっている。実際に見たわけではないが、
見たとしても夕飯がまずくなるだけだろうと彼女は確信していた。

軍人もかなりの長身だったが、目の前の男はそれさえ超えて、優にニメートルは
あろうかという巨体である。
だがその持ち主からは、堂々とした風格より、苔が背中を蹂躙してもお構いなしと
いったような樹木を連想させる、そんな雰囲気が漂っている。

そうでなくとも、これだけの巨体をまのあたりにすれば、大概の人間は
物怖じするに違いないが――ベアトリーチェはしゃがみ込むと、やおら
寝ているその巨人の尻尾を、思い切り引っ張った。

「痛」

そっけない意思表示ではあったが、感情は伝わってくる。
彼は、もたもたと気遣うように起き上がってきた。

「ベア…」
「そうよ。あたしよ」
「なぜこんな事をしたんです」

感情の起伏があまりないとはいえ、目の前の巨狼は明らかに
困った表情をしていた。
おかえしとばかりに、憮然とした表情を隠さないまま、ベアトリーチェは
頬を膨らませた。

「あたしの手を煩わせたバツとして私刑(リンチ)を執行しただけよ」
「リンチって…いや、それは置いておいてですね、私が欲しいのは状況説明でして」

視線の高さがちょうどいいのか、ルフトは立ち上がらないままあぐらをかいて、
目の前の少女をなだめるように両手をかざしてくる。

「あたしこそ説明してほしいわよ。なんだってあんた、こんなところまで
 夕飯探しに来てたわけ?さすがにあたしでも人肉は食べないわよ」
「そろそろ人様の尊厳というものを認めませんかベア」

高笑いと破砕音と爆発が、間を埋めている。ルフトはちらちら後ろを
振り返っていたが、ベアトリーチェは特に気にもしなかった。
と、崩れた壁の向こうに白い影が見える。

「…なにあれ」
「あぁ、白熊のアメリアさんです。まだ独身だそうですよ」
「そういうセリフは精神科医の前で言わないことね」

言っている間にも、白熊はおずおずとこちらに向かってきていた。
瓦礫と化したこの景色の中でその白い姿は確かに異様だったが、
状況はもうすでに異様の真っ只中である。

つまり、もう何が出てきても驚きはしないだろうということだ。

「ハァイ、こんにちは」

ふわふわの背中に手を置く。白熊はやたらマイペースな動きで、くんくんと
鼻面をベアトリーチェに向けてきた。

「自己紹介をしていらっしゃいます」
「ホントにィ…?」
「ルフトー!!無事かー!」

真顔でそう言う相棒に疑わしげな視線を送ると、ようやく復活したらしい
ウィンドブルフが舞い降りてくる。

「ブルフ…心配をかけました」
「オウ、なんか俺、もしかしたらベアに知らせないほうがよっぽどぐぇ」

高速で飛んできた鉄材の直撃を受けて、再度彼は沈黙した。
クゥン、と息を漏らして心なしか眉を下げるルフトは無視して、ベアトリーチェは
白熊から新しいソウルシューターへと目を転じた。

「ようこそあたしの手の中へ♪」

新ぴかの砲に口付けをする。確認するようにいろんなアングルから眺め回して、
最後に肩に乗せてみる――

従来のものとは比べ物にならないぐらい、新しい武器の出来具合はよかった。

まず重量からして違う。銃口を覗いてみると、無駄な部品がなくなって
かなり広々している。感情を変換して打ち出すだけでよいのだから、その
魔道機関さえしっかりしていれば、銃身は筒だけでもいいわけだ。

「素敵」

ベアトリーチェは、新しいよそ行き用の服を買ってもらった子供そのものの
瞳で、感慨深げに大きくあたりを見渡した。

「試し撃ちはもうされちゃったから、次は本番しかないわよね」

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2007/02/10 17:34 | Comments(0) | TrackBack() | ●パラノイア

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