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2024/11/07 06:29 |
火の山に望み追うは虹の橋 第11節 Carolina Rua/ノクテュルヌ(Caku)
PC:ノクテュルヌ・ウィンデッシュウグレーツ 狛楼櫻華 スイ
場所:ヴァルメスト山・廃鉱

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



いくら科学や技術が発展して、その虹の正体を暴こうとも、
     青空に浮かぶ七色の輝きを、人は今日も美しいと思うだろう。








「えへへ、お化け屋敷みたーい。暗ーい、怖ーい」
「といいつつ一番怖くなさそうなのはお前だ、椿」
スイの腕にしがみついて(一部ぶらさがって)、恋人気分を満喫しているノク
テュルヌに、仙女は常連化した突っ込みを入れていた。
「だってお化け屋敷といえば、こういうシュチューエーションでしょ?」
「ああ、たしかに暗い室内を歩き回るそうだな。あと何か作り物の化け物が襲
ってくるとか」
「スイちゃんを普通のお化け屋敷にいれたら、役者さん全滅させて戻ってきそ
うだよねぇ」
「スイ、勘違いしてないか?お化け屋敷とは驚愕や恐怖を堪能する場所で、出
てきた相手を倒すものではないぞ」
スイが、無機質な表情でこちらを向いた。
スイの感情の発現の仕方がようやく最近わかってきた。どうやら驚いているよ
うだ。
「……全部倒したら、何か賞品とか貰えるんじゃないのか?」
どういう育ち方をしたのだろうか?親の顔が見てみたい。
いや、親もこういう風だったらさぞかし世離れした家系だ。もしくは、普通の
親から突然変異で生まれたのかもしれない(笑)


ランタンの琥珀の明かりが、ちらちらと洞内をちらついている。
ノクテュルヌが、さきほどから明かりを振り回して歌っているせいだ。
スイはともかく、櫻花はさっきから注意しよう注意しようと思っているのに、
ノクテュルヌがあまりに楽しそう&歌は中断させるほど不快でもないので、微
妙な顔で黙ってる。
そんな同行者の思惑をまったく理解してない『虹追い人』は高めのソプラノで
歌い続ける。


♪ ♪  ♪♪ ♪



終わりのない物語
自分で結論を出さなくっちゃ
君のせいで、僕はとっても混乱している 
僕が誰を選ぶか、待ち構えてるんだろう?
金にものをいわせるあの人か、
仲良し一緒の彼女か

君に首ったけ 僕の願いは一つだけ
あの風吹く道を 君と一緒に歩きたい
君に首ったけ 僕の祈りは一つだけ
あの桜咲く道を 君と一緒に歩きたい

カード2つで勝負がついたと思ったら
きみが突然微笑んだ
その瞳に浮かぶ微笑みは どんな人でも狂わせる
どんな心も狂わせる
僕が誰を選ぶか、君はもう知ってるの?

君に首ったけ 僕の思いは一つだけ
君と一緒に あの空まで行ってみたい
君に首ったけ 僕の行き先は一つだけ
君と一緒に 宝の島まで泳いでみたい

君のおかげで 僕は混乱してる
本当は着く前にサヨナラなのに、手を繋ぎたいとおもってる
分かれ道で離れちゃうのに まだ君の歌が聞きたいとおもってる

草原をこえて、山の中をくぐりぬけて、もう分かれ道はすぐそこ
なのに、僕は君に首ったけ
僕の願いは一つだけ この物語の終わりを君と見てみたい



  ♪ ♪

                  ♪

「ノクテュルヌ、あまり灯りを振り回すな。それは歩く先を照らすものだ、振
り回すものじゃない」
歌が終わってもランタンをピクニックのバスケットのように振り回す女性に、
ようやく櫻花は控えめな注意をしてみた。
「でもきちんと鉱山内は整備されてるし、ほら歩く歩道も平らだよ?こけな
い、こけない大丈夫!」
しかし、まったく効果は薄かった。というより皆無だった。
ふと、ノクテュルヌはさきほどからスイがこちらを見ているのに気がついた。
ランタンを振り回すのをやめて、不思議そうな顔をする。
「どしたのスイちゃん、おなか痛い?」
「いや……なんでもない」
珍しく歯切れの悪い返答に、何を思ったかノクテュルヌはいきなり笑顔ではし
ゃぎ始めた。

「そっか、おなか減ったんだね!」
「「・・・・・・・・・・・・・は?」」 
二人の発言が同音同語でかぶった。
「じゃあさ、またこれが終わったら皆で食べに行こう。餡蜜とか羊羹とか、ス
イちゃんヨウカンしってる?すっごく美味しいんだよ」
それでね、とえらく嬉しそうに話し始めるノクテュルヌの会話に応対するスイ
に、なんら表情の変化は認められなかった。
櫻花も、相も変わらないそんな彼女の様子を見て溜息をついた。
誰も、特に相手への疑いも詮索もなかった。

ただ、スイとしっかり繋いだ手が、少し緩みかけた。




「ってうわー、すごいー、綺麗ー、おっきいー、広いー」
「…確かに、そうだな」

一同が着いたのは、鉱山内で一番大きい区画だろう。
上が何十メートルも高く、ところどころで宝石だか水晶だかの欠片がきらりと
光る。
光は岸壁の間から細く細く差し込まれ、宗教画の洞穴内の教会のような雰囲気
だった。
さきほどから歩道は終わり、なぜか石畳の神殿風な造りや、壊れて倒れた西洋
風の柱が目立つ。
そろそろ、目的地に近いのかもしれない。
と、突然スイが少し離れた。
「っと、スイちゃんどうしたの?」


どこかで、岩が軋む音が、響いた。
振り返ったスイの瞳は、いつもと変わらなかったが、天上の微かな光源のせい
か、どこか感情を帯びていたように思えた。


-----------------------------------

Carolina Rua(かろりな・るー)
メアリー・ブラックの1989年代の曲。ノクテュルヌの歌の原型です。
ケルトでヨーロッパ最高の歌声。
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2007/02/10 17:24 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋
火の山に望み追うは虹の橋 第12節 innig/スイ(フンヅワーラー)
 対峙する

 それが、唯一の、自分の存在確認手段だった。
 その時だけ、確実に生きている、と感じられた。

 生と死、勝利と敗北という、コントラストな価値。
 自分とその他だけというシンプルな世界構造。

 悦びに脈は早打ち、脳は痺れながらもクリアになる。
 なんという、幸福感。

 それ以外、何も考えなくてもよい、ということは、それだけを考えていればい
いということだ。
 自分の存在と、相手の存在だけを、思っていればよい。
 相手も同様なのだから。
 喜びに痺れた脳には事足りる世界だ。

 あの熱気。
 あの視線。
 あの血の暖かさ。
 それに埋め尽くされた世界は、とてもいとおしい。

 あぁ、早く、早く、はやく、はやく、はやく!!!!!!!!


 ―――――その、はやる鼓動を宥めていたのは、おかしなことに、ノクテュル
ヌの歌と、手のぬくもりだった。
 その相反する心地よさが、なんとも……奇妙で、気持ち悪かった。熱い鉄に、
生温いお湯をかけるような、そんな心地悪さとでもいったところだろうか。
 なのに。なかなか手を放すことが出来なかった。
 「狂っている」と何度も言われてきたスイだが、これには「気が狂い」そう
だった。
 意を決し、手を放す。
 途端、寂寥がよぎり……そして、すぐに馴染んだ喜悦が到来した。

「っと、スイちゃんどうしたの?」

 抑える。
 まだ、早い。
 気づかれない程度に息を深く吸い、落ち着かせる。

「……ここが目的地だ」

 そう言って示したのは、道の終端が膨らんだような形をした場所だった。

「やっタもが」

 奇妙な発音をしたのはノクテュルヌだった。即座に歓喜の声を上げようとした
のだが、これまた即座に櫻華に口をふさがれたのだった。

「この広間の、どこにあるというんだ?」

 その問いに、スイは動く。
 思わず、櫻華は構えかけた。だが、スイは櫻華の横を過ぎる。
 櫻華は、自身では理解していなかったが、スイの内側にあるモノを無意識に感
じ取っていたのだ。
 スイは、そんな櫻華の振る舞いを気にする様子もなく、ノクテュルヌの目の前
で歩みを止める。

「ん?」

 スイは無言で、ノクテュルヌの持っていたランタンを取り上げ、中に入ってい
る火を吹き消した。

「あ。消えちゃった」

 ランタンの明かりが消え、光源は今や外からの、細い光のみであった。かろう
じて、という程度の明るさだ。

「どういうつもりだ?」

 その問いかけに、一度櫻華に顔を向けるが、スイは再び歩き出す。今度は、水
晶の壁に向かって。
 しばらく、壁に向かって、何かを探していたようだが、ある一角の水晶を掴ん
だ。
 ごとり、とはまる音がすると同時に。
 櫻華は息を呑んだ。
 瞬時に、辺りは光に包まれた。壁の水晶は光を内包し、光を拡散させていた。
やけに澄んだまぶしさを感じさせる。例えるならば、そう、朝の光だ。
 そして、何よりも櫻華の息を止めさせたものは……壁の水晶の中に無数の本が
点在している光景であった。

「なんか知らないが、この水晶は特別なものらしい。光の屈折率がどうだとか、
言っていた」

「……これは……一つの楽典を様々なところに投影しているのか」

 そう、突如現れた水晶の中にある本は、よくよく見ると、全て「同一」のもの
だった。

「らしいな。この状態でなければ、楽典は現れない。
 本物の楽典は、これらのどれかなのか。それとも、ここではない別のところか
らの投影かはわからない。
 そして」

 スイは、静かに水晶壁に手を当てる。スイの手元には小さな穴があった。

「私には、単なるいびつな穴にしか見えないが、鍵穴らしい」

 指し示したのは、確かに、奇妙な穴だった。奇妙な形をしている穴だ。
 なるほど、鍵穴だといわれればそう見えないことは無い。

「じゃぁ、それに鍵を……」

 櫻華の言葉を、スイが静かにふさぐ。

「それが」

 スイは、腕を伸ばす。

「そこにも、あそこにも」

 なんと、鍵穴は点在していた。

「……ど、どういうことだ?」

「知らない」

「……」

 問いかける相手が悪かったことに、仙女はすぐに後悔した。

「椿、鍵を持っているんだろう。どこに挿せばいいかわかるか?」

 櫻華は、ノクテュルヌに問いかける。こちらの方が建設的だというものだ。
 が。櫻華が振り返った先……つまりは、さっきまでノクテュルヌがいた所に、
彼女は存在しなかった。

「呼んだぁ?」

 声がした方向は、部屋の中央。
 先ほどまで暗くて分からなかったが、部屋の中央には小高い円形の段があっ
た。
 ……ノクテュルヌは、その上で跳ねていた。
 再び、後悔の波が襲ってくる。予想の範囲内だったではないか、と。しかし、
後悔とはいつも手遅れの時にやってくるものだった。
 今更ながら、櫻華はこの連れ達に……これまた、後悔した。

「……いや、鍵を……どこに、だな」

「え? 持ってないよ?」

 沈黙が流れる。愕然としているのは、ただ一人だけだが。

「本当に知らないのか!!」

「コーフンしちゃだめだよ。コーフンすると、毛細血管って切れちゃうんだっ
て」

 その言葉が、更に興奮させる一因になっていることに、何故気づかないのか。

「特に鼻の内部の血管はもろい。顔を殴っても一番に出血するしな」

 鍵の不在は、決して他人事ではないだろうに、スイは冷静な一言を付け加え
る。

「あはは、鼻血ブーだ」

 ………櫻華は、脱力した。まともに取り合っては、こちらが馬鹿を見るだけで
ある。
 そして、ふっ、と声が洩らし、笑った。
 何はともあれ、この光景は素晴らしいことには違いない。これを見ることが出
来たということだけでも、収穫ではないか。
 ここまで来て、手ぶらで帰るということに、全く落胆を覚えないというわけで
もないが。
 櫻華がそう納得しかけた時。

「まぁまぁ、聞いて聞いて、櫻華ちゃん。きっとね、鍵なんか、ないんだよ。コ
レ」

「……は?」

「でね、でね。この鍵穴? 鍵穴って呼んでるから鍵なのかなぁ……。まぁいい
や、鍵でいいや。
 で、この鍵穴は、一つ一つ挿しこむんじゃなくて……いっぺんに挿し込んじゃ
うんだよね」

「どういうことなんだ? 椿。鍵は……あるのか?」

 ノクテュルヌは微笑んで、自分の喉を指でトントンと軽く叩いた。

「古代曲『虹への道』」

 そして、彼女の肩が揚がり、肺が膨らんた。

 次の瞬間、爆発するように音が弾けた。
 高い音だ。
 そして、それは、言葉ですらなく、単なる音だった。その音は、緩やかな旋律
を、のったりと辿る。呻きのように。叫びのように。
 それは、泣き女(バンシー)の悲鳴にも似ているし、鳥のさえずりにも似てい
た。開放された雄叫びのようにも聞こえたし、愛に満ちた歓喜の声にも聞こえ
た。
 一体、彼女の細い身体のどこから、この声量が出るのか……。いや、声量の問
題ではないだろう。この歌の力は……力強さと雄大な優しさを含んだ声だ。

 その、声に隠れてぴしり、と音がした。それに気づいた時には、その音は崩れ
る音に変わった。
 その瞬間。

   *     *     *

「……おかーさん」

 少年が、母の服の裾をひっぱる。

「今、忙しいんだよ」

「おかーさん」

 先ほど強めに今度は引っ張る。

「どーしたんだい今日は……」

「おかーぁさん!! ねぇーぇ! みぃーてって!!」

 ぐずりだした子供にとうとう根負けしたのか、母は手を止めて子供が指差す方
向を見る。
 自分の子供が暇さえあれば眺めている、いつもの空を。
 いつも、青い空だけがある、いつもどおりの空――――のはずだった。
 母は目を疑った。
 そこにあるのは。

「おかーさん! にじ!! 虹でしょ? これ!!
 これが、虹なんでしょう? ねぇ!」

 青い空に、無数の色がつまった弧。
 母親も、初めて見るものだった。だから、子供の問いには、答えられなかっ
た。
 ただ、子供の手をぎゅっと握り、子供の名を呼ぶだけであった。

「エメ……」

 子供は母親の大きな手を、興奮をただ、伝えようとするように握り返した。
 そして、母と子供は、ずっと空を見ていた。

   *     *     *

 水晶が、割れる。
 その水晶は粒子となり、風が空へと吹きぬける。
 粒子は、空へと舞い、光を受ける。
 それは。
 虹。

   *     *     *

「へぇ……これが、噂の虹ってやつかい」

「本当に、やるとはなぁ、あのお嬢ちゃん達」

「ってことは……もぉ、俺らの目的って、無くなったちゃったとか?」

 最後の問いかけに、他の二人は「あ゛ー……」などと、輪唱する。

「まぁ……今回は、コレで、十分な収穫じゃない?」

 阿呆みたいに口を空けながら頭上を見る。

「……だな」

 耳に聞こえるのは、歌声。
 天まで突き抜けるような声色。
 何かに、捧げるかのような、一途な声。

   *     *     *

 その瞬間、楽典が消えた。
 いや、違う。一つだけ、残っている。
 そう、消えたのは、楽典の虚像だったのだ。
 その楽典を抱いている水晶にも、ひびが入っている。
 遠くで、水晶の割れてゆく音が聞こえる。

 ノクテュルヌの声が、ひときわ強い響きに変わる。
 ひびは一気に亀裂となった。
 そして、ノクテュルヌの声が、徐々に徐々に小さく変化し、そして、最後、肺
の中の空気全てを吐き出すように、音は終結した。
 ノクテュルヌが、息を静かに吸い込み、ふぅ、と吐き出し、満足を帯びた静か
な微笑みを浮かべていた。

 あまりのことに、呆けていた櫻華を正気に戻したのは水晶が砕かれた音だっ
た。
 楽典が、空気に触れた。

 突如、弾けたような大きな音が鳴り響いた。
 振り向くと、そこには大仰に拍手をしているダヴィードが、数人の護衛に付き
添われ、そこにいた。

「なるほど。鍵とは、歌ということか。
 ある音程を手順どおりに踏めば、共鳴して水晶は砕かれるという訳か。
 あの穴は、さしずめ、振動の通り道というわけか?」

 拍手がやんだ。

「さて……。ご苦労だったな。
 それを、素直に渡してもらえるかな……というのは、やっぱ聞いてもらえない
かね」

 櫻華が二本の剣を抜く。二本とも、なにかしらの文様が刻まれている。

「そんなことだろうとは思っていたよ。
 気前が良過ぎたからな」

「必要な投資は出し惜しみしないのが、成功の秘訣だな。
 素直に引いてくれないのなら……仕方ないな」

「椿」

 ダヴィードだって理解しているのだろう。
 今までの人材を今更自分達にぶつけるわけが無い。
 動揺させないように、ノクテュルヌに呼びかける。呼びかけることによって、
自分というものを自覚させるのだ。
 ノクテュルヌを見ると、彼女は構えていた。

 スイに向かって。

 スイは、途端に高揚した。
 櫻華の覚悟と、ノクテュルヌの理解に、嬉しさを覚えた。
 心臓が、身体を急かすように鼓動する。

 さぁ、いとおしい対峙者達よ。
 始めようではないか。
 愛すべき、闘争者達よ。
 世界を、自覚しようではないか。

「スイ、やれ」

 ダヴィードの声と同時に、スイは弾けた。
----------------------------------------------------------------
innig(インニヒ):心からの


2007/02/10 17:25 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋
火の山に望み追うは虹の橋 第13節 con fuoco/狛楼櫻華(生物)
PC:ノクテュルヌ・ウィンデッシュウグレーツ 狛楼櫻華 スイ
場所:ヴァルメスト山・廃鉱
NPC:ダヴィードとその一味

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 櫻華が両手に握る小太刀が普段よりも重く感じられる。これから戦う人物は
少々自分には荷が重い。知らず知らずの内に気が練られていく、数十年の修練
の賜物だ。
 スイは槍の刃にかけていた皮布を器用に腕に巻き取ると槍を構える。 緊迫
した瞬間、周囲の物が少し色を失い、緊張を生み出す者だけが色を濃くしてい
く。
 最初に仕掛けるのは、スイか? それともダヴィードが連れてきた連中だろ
うか……。
 櫻華の予想を裏切ったのはやはりというべきだろう、ノクテュルヌだった。
しかも到底この場には似合わない緩やかで優しく、そしてほんの少しの悲しみ
を込めた、そんな旋律をノクテュルヌはハープで奏で始めた。
「椿?」
 呆気にとられている櫻華をあっさり置き去りにして笑顔でノクテュルヌはハ
ープを奏で続ける。ノクテュルヌの細い指が一定のリズムでハープの弦を弾
く、光が差し込む水晶の洞窟で、ノクテュルヌは舞台に立っていた。観客の大
半が厳ついゴロツキだとしても彼女は気にしない。
 それは音楽を奏でる事自体を楽しんでいるからなのか、彼女の場合はそれだ
けとは限らないが。
 しばし、その場の全員がその音色に聴き惚れ、やがてダヴィード達に異変が
おきた。
「だ、ダヴィードさん。な、なんか、体が」
「ぬぅ……」
 体から力が抜けていく、まるで強制的に生気を抜き取られているような。そ
んな錯覚を覚える。
「とりあえず、その他大勢の人は邪魔だからちょーっと寝ててね」
 ぞっとするような笑顔で、ノクテュルヌはハープを奏でる。それは船乗りを
死の眠りへと誘うローレライのような笑顔だった。
「くっ、スイ!」
 ダヴィードが叫ぶ。もう足にも力がはいらず立っていられないその姿は酷く
滑稽だった。
 ダヴィードに言われて、いや、早く戦いたいという願望が渦巻いていたスイ
は嬉々としてノクテュルの背後から突きかかる。
「させんっ!」
 櫻華は槍の柄を二本の小太刀で挟むと、スイの勢いを体をぶつけて止める。
その細いからだのどこに? そう思いたくなるほどスイの力は強かった。
「ははっ、お前からやるのか!」
「くっ」
 スイは槍を大きく振り上げ拘束していた小太刀を櫻華ごと振り払い、そのま
まの勢いで体を回転させ櫻華を薙ぎ払う。
 スイの槍は櫻華の体めがけ、唸りを上げる。慌てて櫻華は後に飛ぶ、文字通
り空中を滑るように下がった。穂先が櫻華の眼前を掠めるようにすぎていく。
 槍の重さに振り回される形になったスイめがけ、櫻華は地面を蹴って斬りか
かる。動きを止めるという言葉は存在しないといわんばかりに櫻華の剣先が届
くよりもスイが槍を振り下ろす。
 軽く舌打ちをして櫻華は左手の小太刀で滑らすように槍を受け流し、右手の
小太刀をスイに突き出す、が、もうそこにはスイの姿はなかった。
 振り下ろした槍を地面に突き刺してそのまま飛び上がり、櫻華の背後に降り
立つと槍で再び櫻華をなぎ払う。避けられずに櫻華は殴り飛ばされる。
 刃ではなく柄で殴られたのが幸いして即死はしなかったが、それでも大分ダ
メージを受けた。地面に叩きつけられる前に櫻華は大勢を建て直し、なんとか
着地する。
 立ち上がる間もなくスイが突っ込んでくる。これは避けられない。櫻華は歯
を食いしばりなんとか防御の体制をとろうとするが、間に合いそうにない。
 突如、スイと櫻華の間に風吹き抜ける。初めて動きを止めたスイがノクテュ
ルヌの方を見据える。演奏を終えたノクテュルヌの後にはダヴィード達――死
体でないことを櫻華は切に願う――が倒れている。
「ずるいなぁ、二人だけで。私もまぜてよ」
 ノクテュルヌがまるで一人だけ遊び仲間に入れてもらえない子供の様な顔で
声を上げる。その表情が酷くこの場所に似つかわしくない。その手にあるハー
プも弦が剣の形を模した形状になっている。
「二対一だけどスイちゃんは全然問題ないよね。さぁ、いくよ櫻華ちゃん!」
 笑顔でびしっと擬音が聞こえてきそうなほどにスイを指差してノクテュルヌ
は高らかに声を上げる。そもそも、問題ない以前に、なにか緊張感に欠けてい
る感じがしないでもないが、もはやそんなことを突っ込んでも無駄だろう。
と、思いつつも櫻華は立ち上がりながらつっこんでしまう。
「椿、お前には緊張感という物は無いのか」
「あはは、細かいことは気にしない気にしない」
 笑って流される。まあ、予想はしていた反応ではある。
「もう伴奏は終わりか?」
 スイは槍を構え直すとノクテュルヌに向かって突進する。
「ほら、脇役よりやっぱり主役でしょ!」
 ノクテュルヌはハープを大振りに振り下ろす。スイには到底届かない距離だ
が、弦が描く軌跡から衝撃波が発生し、スイに、というより周りの物全てをな
ぎ倒す。
「ちっ」
 スイはなんとか槍を支えに踏みとどまるが動きが止まってしまう。スイの背
後から櫻華が袈裟斬りに小太刀を振る。槍を回転させスイは小太刀を受け止め
ると同時に足払いをかける。櫻華は少し体を浮かして足払いを避けると、スイ
の槍を足場に蹴って後に下がる。
 櫻華が下がった瞬間、スイの周りを風が取り囲む。ノクテュルヌが笑顔を浮
かべて掲げた細い剣をゆっくりと降ろす。降ろす手と呼応してスイの周りの風
が包囲を狭めていく。やがてスイの体に幾筋もの切り傷が刻まれる。
「どうする、このままだと体中傷だらけになっちゃうよ?」
 ちょうど剣をスイに向ける格好で動きを止めたノクテュルヌが尋ねる。その
言葉を少しだけ吟味したのか、それとも別のことを思っていたのか。スイは一
瞬だけ考えるような表情をして唇の端を上へと歪める。
 両腕で顔を庇うとスイは不可視の刃が飛び交う風の中を突っ切ってノクテュ
ルヌに向かって走る。
「椿!」
 スイの後を追う櫻華、だがすでにスイの射程内だった。矢の様な勢いでスイ
は槍を突き出す。ノクテュルヌは横に身をよじる、槍は服と一緒に脇腹を掠め
て通り過ぎる。そこで動きを止めるスイではない、ノクテュルヌを押し飛ばす
ように槍を振ると、そのまま追ってきた櫻華に攻撃をしかける。
「はっ」
 槍が描く軌道よりも低く身を沈めると、櫻華はそのまま滑るようにスイに向
かって進むと、小太刀を振り上げる。しかし、振りきる前に皮布を巻いたスイ
の手が小太刀を掴み取る。
「櫻華ちゃんどいて!」
「無茶を!」
 ノクテュルヌの声と同時に発生した風の刃は、櫻華とスイに等しくその刃で
斬りたてる。掴んでいた小太刀を話して櫻華を蹴り飛ばすとスイは三度ノクテ
ュルヌに迫る。
 全身血まみれでスイはノクテュルヌに向かって槍を振るう。加速の十分につ
いた槍は傷を負ったノクテュルヌの体に容赦なく叩きつけられる。
「くぅ」
 なす術もなく吹っ飛ばされるノクテュルヌ。それを追おうとしたスイの足が
もつれる。これだけの切り傷を負っていれば当然といえば当然だろう。それで
もスイはノクテュルヌにむかって歩き出す。槍を逆手に構え、振り上げる。
「椿……ッ!」
 櫻華はなんとか立ち上がろうとするが、力が入らない。スイが息を吸い込
む。手にした槍に力を篭めて、振り下ろした。

        ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

――ネギィイイ、ネギィイイイ。
 スイの槍はノクテュルヌのから大きく左に外れた場所に突き刺さっていた。
そして廃鉱全体に響き渡るよう、間の抜けた声のように聞こえなくもない奇怪
な音が響き渡っていた。
 なぜかその音を聞くとねぎを崇めたくなりそうで、もしここでねぎを食べよ
うものならすぐさま呪われそうな。そんな音だ。
「時間、切れか……」
 残念そうな顔をしてスイは懐から自身の血でまみれた人形を取り出した。ど
うやら奇怪な音はその人形から発せられていたようだ。
――ネギィイイイイイ、ネギィイイイイイイイイイイイ。
 その微妙にデフォルメされた奇怪な人形の股間をスイは無造作に押すと、余
韻を残しながら発せられていた音は消えていった。
――ネ、ネギィィィ……。
「とりあえず、ダヴィードとの契約は切れた」
 そういって、スイは腕に巻いていた皮布をほどいて槍に巻こうとして顔をし
かめる。ノクテュルヌの攻撃のおかげで服も、皮布もボロボロだ。
「あー、なにからどう言えばいいか、わからないんだが」
 よろよろと立ち上がった櫻華が口を開く。両手にはしっかりと小太刀が握ら
れている。
「とりあえずその奇怪な人形はなんだ!」
 小太刀でスイの持っている人形を指して、櫻華は思わず大声をあげてしまっ
た。
「ん? ……ぼふぉーず様人形」
 スイは血まみれのぼふぉーず様人形を櫻華に向ける。貧血気味でいつもより
もぼーっとした感じが強いが、先程までの獣じみたギラギラした目つきではな
くなっていた。
「いや、そうではなくてだ」
「ああ、時間を設定するとその時間ぴったりにありがたい声で鳴く。便利だか
ら契約時にはいつも切れる時間に設定するんだ」
「あー、ぼふぉーず様だ! いいないいな、スイちゃんそれどーしたの?」
 いつの間にかスイの横で飛び跳ねている――一応ケガをしている。一番軽傷
だが――ノクテュルヌが羨ましそうな声で騒ぐ。
「ね? 櫻華ちゃんもそう思うよね!」
 ああ、と、だけ短く返事をした櫻華はがっくりと肩を落とす。どっと疲れが
出た気がして。いや、もう何にツッコンでいいかわからない。
「それで、ダヴィードとの契約が切れたということはもう戦わないということ
か?」
 未だノクテュルヌの演奏で地に伏しているダヴィードをみやって櫻華は言
う。眠そうな顔でスイはコクコクと頷いた。
「つまり、今スイちゃんと契約すればこっちの味方になってくれるの?」
 やっぱり眠そうな顔で、スイはコクコクと首を縦に振る。
「じゃあ、契約しよう!」
 血まみれのぼふぉーず様人形を抱えて、右手をぶんぶん振りながらノクテュ
ルヌは声を上げる。どうでもいいが血まみれの人形を抱えて気持ち悪くないの
だろうかと櫻華はふと思う。
「そんな金があるのか?」
 至極まっとうな質問に、ノクテュルヌは笑顔を向ける。なんというか、血ま
みれのぼふぉーず様人形はとりあえず置いておかないのかと、櫻華が言う前
に、ノクテュルヌはダヴィードの顔に蹴りを入れる。
「へぁああ、目がぁあ、目がぁあああ」
 ちょうど蹴りが眼鏡でも割ったのか、ダヴィードは顔押さえて転げまわる。
とりあえず生きていたことに櫻華はため息をつく。
「ダヴィードさん、ダヴィードさん」
「な、おい、スイ。始末しろといったはずだ」
 顔を押さえながら立ち上がったダヴィードはスイに食って掛かるが、眠そう
なスイはいっこうに気にする様子はない。
「お前との契約は切れたらしい」
「な! ば、馬鹿なことを! ならば再契約だ、この二人を殺せ!」
 ヒステリックな声を出して、ダヴィードはスイに命令するが大あくびをして
いるスイには聞こえていないようだった。
「ざーんねん。もうスイちゃんと契約しちゃったもんね」
 極上の笑顔でノクテュルヌはダヴィードに死刑宣告とも取れる言葉をさらり
と言う。むしろ、いつまで血まみれのぼふぉーず様人形を持っているんだろ
う。
「それでね。私達お金いるの。だ、か、らぁ。この本買って」
 ノクテュルヌはいつの間に拾ったのか、水晶の中に封印されていた古書をに
こやかにダヴィードの前に出す。
「な、ば。……かっ!」
 あまりの事にダヴィードは言葉にならない声を発する。同じく櫻華も言葉を
失う。スイはというと相変わらず眠そうな顔でぼーっと遠くを見つめている。
「あー、嫌ならいいよ? ほら。どーなるかはすぐわかでしょ」
 やっぱり笑顔で血まみれのぼふぉーず様を抱いてノクテュルヌはダヴィード
に尋ねる。
「……くっ、わかった。幾らだ」
「うーん、そうだなぁ。じゃあ金貨百枚ぐらいで」
「なっ……」
「ダメ?」
「……金貨百枚で買おう」
 がっくりと肩を落としてダヴィードはノクテュルヌの条件を飲んだ。その
後、続々と目を覚ます取り巻き達を伴い、ダヴィードは憎憎しげな表情で逃げ
るように廃鉱から出て行った。
「……しかし、今のは完全に脅迫だったぞ」
 苦笑いをしながら櫻華は気を練る。そうしないと出血多量で倒れそうだ。
「そういえば、櫻華ちゃんもスイちゃんも傷だらけだねぇ」
「お前のせいだろ」
「あー、あはは。まあ、あんまり細かいことは気にしない気にしない」
「どこが細かいことだ、まったく」
 大きくため息をついて櫻華は小太刀を鞘に納めた。疲れた。一刻も早く宿に
帰って寝たい。
「それじゃあ。帰ろうか。あれ?」
 ノクテュルヌが後を振り返るとスイが仰向けになって眠っていた。普通なら
痛くて眠れないと思うのだが、やはりどこかしら抜けているのだろうか。
「はぁ、やれやれ、仕方ないな。椿、お前は槍を持ってきてくれ」
「りょーかぁい」
 槍と血まみれのぼふぉーず様人形を抱えたノクテュルヌを横に、櫻華はスイ
を背負って廃坑を後にした。今日はよく眠れそうだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
con fuoco〔伊〕(コン フォーコ) 熱烈に、火のように

2007/02/10 17:25 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋
火の山に望み追うは虹の橋・第14節 『No Frontiers』/ノクテュルヌ(Caku)

火山の街ヴァルカン。
清浄な水晶と、溶岩の山ヴァルメスト。
昨日は、果てしない青空に虹がかかったという現象が起きた。
人々は、空を見上げてそれを噂にした。ああ、虹だ。雨も雲もないのに、虹が
架かった。
ある者はそれは七色の虹だといった、ある者はそれは三色だったと言った。い
やいや、あれは数え切れない程の色を持っていたと言う者もいた。

「だから言っただろ!虹は本当に架かるんだ!」
得意げに話している子供がいる。名前はエメ。
通りの隅にばらばらに立て掛けられた木箱の上に、まるで剣を振りかざす勇者
の姿で山を指差して、誇らしげに宣言する。
「僕は約束したんだ!お姉ちゃん達が虹をかけてくれるって。きっとお姉ちゃ
ん達が架けてくれたんだ!」
そう言うと、彼の周りの友達の一人が目を輝かせて発言した。
「エメ、それきっと天使様だよ!」
少女は、エメに憧憬をいっぱいに称えて喋り続ける。
「虹は神様の歌声だって言うんだって。
神様は人間と約束を守る証に空に自分の歌声を架けるんだって。でも人間には
それは見えないんだって、だってそれは神様の言葉だから。
だから神様は虹を作って、空に浮べたんだって。契約は守護されるって示すた
めに!」
ほとんど勢いの棒読み。おそらく父母に聞いた話をそのまま喋っているのだろ
う。
それを聞いたエメは、満面の笑顔でこう答えた。

「天使様が、僕の約束のために虹を架けてくれたんだ!」





そんな噂の渦中の天使達といえば。

「ひ~ど~いっ!スイちゃぁん、櫻花ちゃんが虐める!私を弄ぶっ!!」
「誰がんなことをしたのだ!お前が寝起きで摺りついてきたから、剥がそうと
したら余計暴れて部屋が半壊したんだぞ!というかモテアソブなんて破廉恥な
言葉を使うな!お前が言うと余計火の粉になるから!」
「櫻花、弱い者虐めはよくない」
「いやどう解釈してもそいつは弱者の範疇に入らないぞ!」
「スイちゃん、えぐえぐ」
「ノクテュルヌも泣いている、櫻花無理やり玩ぶのは私もどうかと…」
「お前は部屋が離れていたから被害に遭わなかったんだ!」

平和そうに、大喧嘩を繰り広げていた。
寝相が恐ろしく凶悪なノクテュルヌに、毎回毎回餌食にされる仙女は、それを
分かっているのだが今回はどうしようもなかった。
何せ部屋の空きがなく、スイは一番怪我がひどかったので、別室を頼み込んで
寝かせた。
それで一部屋ベットが2個ある部屋に宿をとったのだが、ベットが離れている
からと油断した櫻花が甘かったのである。

「だからってゲンコツしなくたっていいじゃん!すきんしっぷ!スキンシッ
プ!!」
頭を抱えて涙ぐむノクテュルヌがスイにすがりつく、櫻花はさらに言葉を加え
る。
「スイ、お前どうしてか椿に甘くないか?いいや絶対甘い!甘いからこの諸悪
の根源がのさばるんだ」
諸悪の根源を指差しつつ、仙女は叫ぶがスイは黙して黙り…ふと気がついたよ
うに顔を上げた。
「皮膚の湿布?(スキンシップ)」
「誰がそんなこと言ってる!」
「あははー、スイちゃんアッタマいいー」


そうやってひとしきり騒いだ後、スイはやや面持ちを変えて二人に向かった。
「これからお前達はどこへ行くんだ?」
櫻花は、ノクテュルヌにスイと同じ疑問を含んだ視線を返す。
「櫻花ちゃんは一緒に来てくれるの?」
「…まあ、それなりに自由な身だ。暇つぶしに椿のような動物の世話も悪くな
い」
「あ、酷い。それって何気に櫻花ちゃんイジメ?」
隣の動物の反論もあまり気にしない風情で、緑茶をすする仙女。
「というか、私の契約はそういえば期限を設定されてないようだが?」
「あ、そうだねぇーどーしようかー」
「適当なその場限りの発言ほど無責任なものはないぞ」
むーと膨れるノクテュルヌ、テーブルに顎をのっけてだらりと体を机に預けな
がら微笑む。




三人が座るテーブルは窓側で、青空と雄大な山脈が雄雄しく聳え立つのが良く
見える。
山並みは壮大、青空は爽快に晴れ渡る。
あの空に、きっとあの少年が夢描いた虹がかかったのだろう。
ノクテュルヌは残念なことに見れなかった。それを思うとちょっとだけ悔し
い。
せっかくあんな辺鄙な場所まで行ったのに。一応少年のためを思っての行動だ
からいいけれどやっぱり少しもったいない気がした。自分も見たかった。
窓脇に可憐にさくセントポーリアの鉢植えに向かってむぅと唸る。
…でも、と思う。


また追えばいいのだ。何故なら私は虹追い。
私は求める者、追う者、捜し焦がれる者なのだ。
それに虹は決して消えない、七色の輝きは絶対の論理の化身。
例えヴァルメストであろうがコールベルであろうが、虹は架かる。どの国であ
ろうが、虹は決してその存在を一つも変えずに人々の前に現れる。
例え、見る者によって咀嚼され捻じ曲げられても、その本質は変わらないよう
に。

ノクテュルヌは、ふと思い出した。
ああ、忘れていた。
すっかり、大切なことを忘れていた。自分の探し物、神を称える学校からの聖
命を。

「そろそろ、行こっか?」










まだ、旅は終わらない。
飢えを凌いだ剣と、金色の瞳の仙人、そして決して虹が存在しない夜の住人の
名を持つ娘の旅は、まだ始まったばっかりだ。



……天は広く、そして果てしない
あなたの瞳に、私は天を見た

人生という酒場で、待たされる私達
歌いながら恐怖と定めの夜を明かす
屍は棺に詰めて、指定の宛先へ

どこからか、歌が聞こえる
ヒバリの歌声にも似た、かすかな兆しに
この漆黒の夜が
すこしだけ暖かく感じられる
少しだけ、暖かく…
朝まで持ちこたえれば
恐怖もその手を緩めて
虹が顔を覗かせるだろう

天は広く、果てしない
あなたの瞳に、私は虹を見た

空が顔をのぞかせれば
全てうまくいくの
人は己の心を知り
夢は目を覚ます

天は広く、そして果てしない
あなたの瞳に、私は天を見る
空は広く、果てしない
あなたの瞳に、私は虹を見た

No Frontiers      ーMary Blackー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

曲名は『ノー・フロンティアーズ』。
メアリー・ブラック1989年代作品。


2007/02/10 17:26 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋
火の山に望み追うは虹の橋 15節 modulieren
 背筋がぴんと伸びている、品のよい白髪の老人が、美しい角度で頭を下げてい
る。
 その老人に背を向けたまま、返答をする男。
「……足りない、だと?」
 ダヴィードである。あの時鼻でも折ったのか、そこは治療の跡がある。他、頬
など、様々な箇所にもガーゼがあてられていた。流石に、眼鏡はかけていない。
 それらの表情を隠す覆いがあるにも関わらず、ダヴィードは不機嫌であると一
目で分かった。
「はぁ。先方はそう申しております」
「馬鹿を言うな! 100枚、だ。100枚、私は、確かに用意しただろ
う!!」
 低く、唸るように窓ガラスに向かって吼える。
 それとは対称的に、老人は淡々と答える。
「仰る通りでございます。しかし、それでは足りないそうです」
「……小娘らが! 調子にのりおって!!」
 老人の瞼が持ち上がり、床を見ていた老人の目がダヴィードに向けられた。し
かし、美しく傾斜している上半身は依然動かない。
「……一応、僭越ながら訂正させていただきますが。来訪者はお一人でございま
す」
「……なんだと?」
 そこで、ダヴィードは始めて振り返った。と、同時に老人の瞼はまた落ちる。
「スイ様お一人でございます」
 ダヴィードの肺の中が、驚きと羞恥と怒りで膨れた。



「敵は誰になる?」
「んー。テキ?」
 微動だにせず、ノクテュルヌの返答を待つスイ。
 首をかしげながら考えているのか考えていないのか分からぬ仕草をするノク
テュルヌ。
 その二人がテーブル越しで対面している横で、お茶を呑みながら様子を見てい
る櫻華。
 しばらくの沈黙の後。
「……櫻華ちゃん?」
 ごふぉ、という音が響き渡る。今度は二人がむせている櫻華を見つめる番で
あった。
 一人は疑問符を浮かべ。一人は値踏みする視線で。
「……不足は無いな」
 ゴホゴホという音をBGMに、スイは満足そうな笑みを浮かべてノクテュルヌ
に言う。
 その時、ぐぇほ、と隣でひときわ大きな音が聞こえたが、気にしていないよう
だ。
「あ、本当? 喜んでくれたみたいだね! よかったね、櫻華ちゃん」
 櫻華の肩に手をポンと置いたと同時に。
「何もよくないっ!!!」
 櫻華の絶叫が響く。
 まだ気管支に入っているまま、無理に叫んだのだろう。すぐにまた咳き込み、
昼下がりのあたたかい空気の中、わびしい咳の音が響き渡る。
 ようやく咳が収まった櫻華は、二人の顔を見て、愕然とした。
「……何故、きょとんとした顔をしてるんだ!?」
「だって、ねぇ? スイちゃん、いいんでしょ?」
「あぁ、構わない」
「構ってくれ!! そこ!!
 というか、おかしいだろう!? 椿の同行人である私が、なんで椿が雇ったス
イの敵設定になるんだ!?」
「あ」
「……あ」
 絶妙な、間合いのズレ。それは同時にそろう声よりも計算されているかのよう
だった。
 そこに、ポン、という間の抜けた音がした。それは、スイの手が櫻華の頭の上
に載せられた音だった。
「……じゃぁ、櫻華は、実は裏社会の奥底に潜んで活動している地下組織『小粋
なマスターの小話』から送られてきた構成員で、実は、ノクテュルヌの母に親を
奪われた過去を持っていたりなんかして、なんだか敵になるってことで」
「ならんし、そんな過去は無いし、更に言えばそんな名前の地下組織は絶対存在
しない」
「……じゃぁ、混沌組織『耳鳴り大根』」
「別の案を考えるな。というかネーミングがさっきよりひどくなっている」
 その時、無表情なスイの顔に、異変が起きた。顎にはなにやらデコボコが生
じ、唇が突き出て、眉間にはなにやら縦に筋が出来ている。奇妙な表情だ。
「あー。櫻華ちゃんがいじめるから、スイちゃんがスネちゃったー」
 その言葉を聞いて、櫻華はその表情が拗ねているものだと気づいた。なるほ
ど、冷静に見れば、拗ねている表情である。
 ノクテュルヌがスイを頭を抱きかかえ、『よしよし』をする。スイはやはり、
無抵抗である。もしかしたら甘えているのかもしれない、とも思い、想像してみ
たが、想像ができなかったので、櫻華はその思考を放棄した。
「……待つのは、いやだ。何も無い状態で所有されると……気持ち悪い」
 ガバリと、ノクテュルヌの手から頭を離し、スイは、真っ直ぐとノクテュルヌ
を見据える。
「ノクテュルヌは、これから、自ら危険に身を置くのか?」
「……そういう予定は無いなぁ。探し物しているだけだから」
「……探し物は、得意じゃない。私の意味が無くなる……。
 私は、意味のある物として存在したい……」
 机の上に、気が抜けたように突っ伏すスイ。すなわち、それはノクテュルヌの
手の拒絶。
 その様子に、櫻華は驚くばかりである。感情豊か、とまではいかないが、ここ
まで感情の動きを読み取らせるスイの一面があるとは、思いもしなかったから
だ。
 しばらく、その様子をお茶を飲みながら眺めていたが、突然、ノクテュルヌが
席を立った。
「よし、決めた!
 スイちゃんの雇う期間、今日でお終い!」
 スイは顔を上げ、いつもの、何を考えているかわからない目でノクテュルヌを
見つめる。逆に言えば、それが正常に戻ったといえるのだろう。
 櫻華はそのスイの様子にどこか安堵しつつ、
「……いいのか? 椿。
 それは、金貨100枚をフイにする行為に等しいぞ?」
「イヤン☆ 櫻華ちゃん。金にモノを言わせてスイちゃんまでも弄ぶの?」
「……もう、頼むから、いい加減にしてくれ」
 今度は櫻華が机に突っ伏す番だった。
 スイはノクテュルヌを見つめたまま、言葉を発した。
「……いいのか?」
「それで、雇うとか、そういうの無しで。
 勿論、スイちゃんにこの先何も予定が無くて、スイちゃんさえよければ、つい
てきてもらえると嬉しいのは確かだけども。
 勿論、櫻華ちゃんもそうだと嬉しいよね?」
「まぁ、朝の地獄体験が半分になるのは確かにありがたいな」
 と、言いつつ、櫻華の笑みは優しいものだ。
 ノクテュルヌがガサゴソと本を取り出す。あの時、水晶の中から取り出した古
書だ。
 勿論あの時のダヴィードに手持ちに金貨100枚があるはずもなく、まだ引き
換えていないので、ノクテュルヌが持っていた。
 ノクテュルヌがそれをスイに差し出す。
「ハイ、これ。
 とりあえず、まだお金に換えてないけど、渡しておくね」
 ニコっと極上の笑顔で、ノクテュルヌはスイに渡した。



「……確かに、一人で来ているな」
 ドアの隙間からダヴィードは、スイが一人出来ていることを確認した。
 上等で華美である、ダヴィードの自慢のソファーの上にちょこんと膝を揃えて
スイが座っている。そのスイの目の前のテーブルには金貨100枚の入った袋
と、その隣には例の古書がある。しかし、スイはその両方共を視界に入れていな
いようで、空中をボーっと見ている。
 服の裾から見える肌には包帯が巻かれている所を見るに、まだ、完全に回復し
てはいないようである。
「……しかし、何故100枚で足りないと言い出したんだ」
 スイの性格上、値を釣り上げるなどという行為は考えられない。それは、短期
間とはいえ、雇っていて感じていたことだった。
「スイ様は、自分を雇った報酬の後払い分を請求しておられます」
「……は?」
「確か、ダヴィード様は、報酬を前払い後払いと2分割での契約をなさいまし
て。スイ様はその後払い分を請求しておられるのかと」
 馬鹿な。敵に翻っておいて、尚、報酬がもらえるとでも思っているのか!
 先ほど沈めた怒りがまたふつふつと泡を立て始めた。
 実を言えば、スイに支払う分は、ダヴィードにとってはした金と呼んでもいい
くらいの金額であった。しかし、金額の問題ではない。
 スイの無神経な主張が、ダヴィードのプライドを逆なでしていた。
「……スイの武器はどうした?」
「はい。こちらで預からせていただいております」
「そうか……そうか……」
 ダヴィードは、笑いからくる空気の漏れを抑えることが出来ず、鼻がスン、と
短く鳴った。
「……新しく雇った者がいたな。そいつらに準備させろ」
 傷がまだ完治していないというのに一人で来たのが大きな間違いだったと、思
い知らせてやろう。



 冷えた空気に満たされた静けさの中、時折鳥の鳴き声が響く。沈んでいた空気
が徐々に首をもたげていき、黄色味の強い光が世界を横に突き刺す。
 櫻華が虚ろな意識のまま、眼球に光を受け入れた時、彼女は気づいた。
 光を真正面に受け、静寂に立ち向かうように音もなく立っているスイがそこに
いた。
「……いつからそこに?」
「さっきだ。起こすつもりは無かった」
 いつも通りのスイの様子。静かに、気が抜けているような、意識がどこかずれ
ている、いつも通りの様子。
 しかし、櫻華にはそんなスイの様子に恐ろしさを感じた。無造作に突き立てる
ような、静かな、静かな殺意。……朝の空気のせいだけではない。
 自分はこのスイの空気に目が覚めたのかもしれない。いや、それに間違いは無
いだろう。
 櫻華は上半身を起き上がらせた。下半身は、いつでも立てるような位置に足を
置いている。
「……どうしたんだ? こんな早くに」
 と言って、櫻華はスイの格好に気づいた。
 旅支度を済ませている格好である。
「行くのか」
 スイは、首をカクンと縦に振った。
「そうか……」
 起こすつもりは無かったということは、挨拶をしに来たというわけでも無いよ
うである。すると、何故、スイはここに現れたのか。
 そう疑問に思ったが、櫻華は、別の疑問を口にしていた。
「意味が無くなると……自分の意味が無くなると、言っていたな」
 しばらく間があって、スイは頷いた。
「意味とは、何なんだ?」
「……他人と、相対して役に立つこと」
「何故、相対する必要があるんだ」
「意味は、相手によって作られて、成立する。
 私は、所有されて、生きる」
「所有されなければ?」
「……死んでも生きてもいない。意味が無いものとして、それはそれで楽だ。立
ち向かうものがあれば、私はそこで存在できる」
「……ならば、所有されない状態で、付いてくればいいではないか」
 そこで、スイの目が、初めて櫻華に真っ直ぐと向けられた。
 いつもの焦点が合っていない視線でもなく、あのギラギラとぬめった輝きを持
つ目でもなく、温度という概念を抜いたような、静かな視線。そこにあるのは、
殺す意思。
 櫻華の背筋に冷たいものが走る。
 あぁ、彼女は。
「あんた達には、所有されたくなる、という感覚が出てくるんだ。
 だが、所有されたいのに、私は意味を持てない」
 彼女は、殺そうとしている。
「それを、抑えてしまうと、私が消える」
 殺意に満ちた瞳を、瞼で閉じる。
 その殺意の矛先は自分の内側。
 罪の無い欲望と、自身の存在を秤にかけての結果。
 彼女は、いつでも闘いを挑んでいるのだ。自分の存在に対して。
「私は戦場以外の場所では役に立たないことを、自覚している」
 再び、瞼を上げ、覗かせた光には、もう、あの冷たい殺意は無かった。
 いつも通りの、一点を見つめているようで、見つめていないような、ぼーっと
した目に戻っていた。
「……まぁ、楽しかった、と言っておこう」
 櫻華は立ち上がり、右手を差し出す。それに呼応するように、包帯に巻かれた
細い腕が伸び、白い手のひらを握……いや、ひっぱった。
 ふいのことで、櫻華の身体は引かれる方向へと持っていかれる。
 そして、頬に、湿った生ぬるいものが当たる感触を感じた。
「私も楽しかった。また戦う機会があるといいな」
 ……今、何が起きた?
 スイは、またズレたことを言っていたが、今の櫻華の脳内にはその言語を処理
する余裕は無い。
 しかしスイはそんな櫻華の様子を気にしていないようで、次に静かな寝息を立
てているノクテュルヌのところに行き、上半身を倒し、すぐに身を起こした。
 ノクテュルヌは、「にゃはは」などという寝言を洩らした。
「戦場に身を置くことがあれば、呼んでくれ。駆けつける」
 そう言って、スイは櫻華の隣を、通り抜ける。
 ドアノブのガチャリという、朝の空気には無粋な音によって、櫻華はトんでい
た意識を、少しだけ取り戻すことが出来た。
 そして、脳内を駆け巡っていた一つの疑問が、ポロリと出る。
「……今、何をした?」
 スイは、きょとん、とした顔をしながら櫻華の顔をしばらく見つめていたが、
真顔で答えた。
「ちゅー」
 事も無げに返された言葉は、簡潔だ。
「ちゅー……」
 意味も無く、返された言葉を繰り返す櫻華の言葉に、頷きを返し、スイは部屋
から出て行った。
 朝日が、先ほどより少し高くなり、冷たさを排除するように暖かい日差しが差
し込んできた。先ほどまで、どこか寂しさを感じていた鳥の声も、今日が始まる
期待に満ちたものに聞こえる。
 その、暖かな空気の中、櫻華は立ち尽くしていた。
「……ちゅー」



 スイは案内されるまま、置いていった荷物を保管してあるという部屋に入る
と、すぐにドアに鍵が閉められ、屈強そうな数人の男が不敵そうな笑みを浮かべ
ながら立っていた。
「怪我をしているとはいえ、こっちも仕事だ。分かるだろう?」
 と、男は口では殊勝なことを言いつつも、そこにはサディスティックな含みが
あった。
 だが、男の表情はすぐに訝しげなものへと変わる。
 スイの口の両端が持ち上がっていることに、気づいたのだ。表情は、無造作に
されている前髪で見えない。
「……そうか」
 内側から膨れ上がる喜悦が言葉になって洩れた響きに、男はゾクリとした。
 スイは、懐から短剣を出した。刃渡りは女性の手のひらほどの長さのものだ。
 たかがそれだけの物で、何が出来るというのだ。
 男は先ほど感じた恐怖を否定の感情を、侮辱されたという怒りに変えて、叫び
と共に飛び掛った。
 スイの包帯に赤いものが滲む。興奮により、塞ぎかけていた傷の一つが出血し
たのだ。だが、それは、彼女の赤い歓びが溢れ出しているようでもあった。



「ちゅー……」
「櫻華ちゃん、どうしたの?」
 気づくと、ノクテュルヌが既に支度を済ませて立っていた。
「準備しないの? もう出るよ?」
 外はすっかりもう日が高くなっている。既に昼は過ぎたようだ。それもそうだ
ろう、あのノクテュルヌが自力で起きているのだから。
「す、すまない。支度をする……」
 我に返った櫻華だが、すぐにまた、動きを止めた。
「……椿。
 あの、スイのことだが……」
「うん、行っちゃったんでしょう?」
「あぁ……そうか、部屋を見たのか」
 もう昼は過ぎている。既に自分で確かめたのだろう。
「いや? 今起きたばっかりだし」
「今、起きたのか!?」
 問題はそこではない。が、この短期間で身についてしまったツッコミの体質
が、櫻華にそうさせていた。
「ふぇ……へぶしっ」
 ノクテュルヌは返答をくしゃみで返した。寝起きの鼻腔は敏感なのだ。



「へぶし」
 奇しくも、同じ頃、ダヴィード邸にも同じ音が生じた。
「あ」
 ドアを開けた途端、古書の背表紙がダヴィードの顔面にめり込んだのだ。
 スイの様子によると、どうやら動く物に対しての条件反射で投げて『しまっ
た』という程度のものなのだろう。ダヴィードの治療は、更に長引くようであ
る。
 意識を失い、崩れたダヴィードの背後には老人が、上品に目を伏せ、立ってい
る。
「そんなことだろうとは思いまして、こちらに全て用意してございます。
 成功報酬に、買取金額。そして、スイ様のお荷物でございます」
 スイは、無言でそれを受け取った。包帯には鮮血が染み込んでいるが、それは
スイのものか、返り血なのかは判別が付かない。
「しかし、見事でございますね。こちらで用意したロープを見事にご利用遊ばさ
れるとは」
 顔色が紫色に変色した男の首には、ロープの痕が赤く残っていた。
「……ありがとう」
 褒め言葉と受け取ったのだろう。老人の言葉に対して礼を言うスイ。
 そして、スイは部屋から出て行った。



「……分かっていたのか?」
 ノクテュルヌの食事に付き合いながら、櫻華は尋ねる。
「ん? だって言ったでしょう?
 スイちゃんは、地平線を求めて駆けていって、私は虹を求めて空を見上げる
の。道は重ならない。ただ、今回は交差したんだろうね」
 その台詞、もぐもぐと、口いっぱいに食べ物をつめていなければどれだけ様に
なるだろう……と、櫻華は思った。
 その口の中のものを飲み下し、ノクテュルヌは、小声で、楽しそうに呟いた。
「……また交差するといいなぁ」

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modulieren【仏モドゥリーレン】転調する。

2007/02/10 17:26 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋

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