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人物:ランディ
場所:名もなき魔界・玉座
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「オマエに臨時休暇をやろう。」
「……へ?」
玉座に座る魔王様にいきなりそう切り出され、僕は驚くしかなかった。
僕の名前はランディ=フォルセウス=タングス。数ある魔界の中の一つ、名もなき
魔界を司る魔王様の秘書をやらせていただいている。戦争中の魔王様に休みなどとい
うものは存在しない、魔王様といつも共に行動する秘書である僕もまた然り、だ。
それなのに臨時休暇が出されたということは………もしかして一番恐れていたこと
が……?!
「ぼ、僕はもしかしなくともクビですか?!魔王様?!」
秘書に任命されてからかれこれ数百年、ちゃんと仕事をこなしてきたし魔王様のお
子様のオムツかえというバリッバリの家事もちゃんとこなしてきた。……もしや、魔
王様のお気に入りの茶器を割ってしまったことがバレたのだろうか?いや、それに関
してはちゃんと修復呪文をかけて元通りのはず。
「阿呆かオマエ。魔界でもトップクラスの術士をクビにするわけないだろが。阿呆。」
「それでは何故……」
「……その身体で戦闘に参加できると思ってんの?阿呆なこというのも大概にしろ。
阿呆」
そう言われ僕の心の中でなにかがぞわり、と動いた。そのなにかは、がんじがらめ
にして抑えているにも関わらずその影響をなくそうともしない。
そう、それは少し前のことだった。
▼
僕の傍らにいる魔王様が拳をふるう度に、押し寄せてくる天使達が鎧ごと肉体を砕
かれ宙を舞う。
彼等は僕達と身体の構築するものが違うのだろう。砕かれたその肉体からは体液は
一つもでず、ただ乾いた音をたてて砕け散るのみ。羽根だけがその原型を残し、ふわ
りふわりと飛んでいた。
魔王様のお陰でこの危機的状況は打破できそうだ。
「ランディ、オレ様達が食い止めてる間に一番強烈なヤツを『穴』にぶちこめッ!」
「はい!発動の余波に気をつけて下さい!」
魔王様の命令に素早く頷き、敵の本軍の上空に存在する『穴』を標的としての長距
離魔法の構成に取りかかる。ギリギリの射程距離だが、これ以上の被害を抑えるため
にも失敗するわけにはいかない。その間に魔王様達は僕らに向かってくる敵を迎え撃
ちはじめた。
『穴』、それは天使達がこの魔界へと降臨するためのゲートだ。あれさえ閉じてし
まえばこれ以上天使の増援はこない。
今日だけで一体何発の魔法を放ったのだろう。未だ魔力に余裕はあるものの、一向
に減らない敵の数にだんだんと疲労してきていた。
それは仲間達もきっと同じ。言葉には出してないものの表情に疲労の色が見えかく
れしている。
(魔族である、僕達が疲労させられるなんて……)
認めたくないその事実に僕は人知れず唇を噛み締めた。
『魔族たるもの弱きを見せることなかれ』。魔族の、いや、魔界の一般常識であり
教育方針である。
敵にも味方にも、自らの弱いところは見せてはならない。自らの弱いところを見せ
た瞬間、魔族として失格も同然だ。……そういう風に僕達は教えられてきた。家で、
学校で、軍で、全てで。
だけど、どうして僕は無意識に弱いところを露見してしまうのだろう。
時には泣いて、情けなく怒って、しょぼくれて……。
こんな弱い僕なんて、消えてしまわなければならない。それが、魔王様の側で魔王
秘書としての勤めを果たすための絶対条件だから。
……そう……なん、だけど。
カラン。
どこかで乾いた音がする。
何事かと周囲を見回すと、天使達の残骸の中から上半身のみになった瀕死の天使が
無表情で這い出し、魔王様を狙っている!
たがたが一般兵の攻撃ではあるが彼ら……天使と僕達、魔族の属性は相反している。
侮っていると致命傷を受けることにもなりかねない。しかも今、天使達を迎え撃って
いることで精一杯の魔王様は狙われていることに気付いていない!
広範囲攻撃用の呪文の構築を一時停止。及び再構成再構築、直線攻撃用……いや、
魔力反射用の構成へと編み直す。しかし、間に合うかどうか………!
「魔王様ッ!」
僕の大声でこちらを振り向き、瀕死の天使の存在に気付く。大丈夫……魔王様の身
体能力なら余裕で避けられる。
そう安堵したのもつかの間、魔王様が攻撃を避けるため移動しようとした時、足下
の天使の残骸が硬質な音を立てて蠢いた!
次の瞬間には残骸達がまるで魔王様を拘束でもするかのように這いのぼってくる。
必死に振払おうとするも天使の魔力が残ったその残骸に力を封じられ見動きが出来な
い!仲間達が魔王様を救おうとするも残りの残骸がそれを阻む。残骸の魔力で皆の能
力が低下してしまっているのだ。そして呪文の再構築に気を取られているうちに僕の
足下にも残骸が絡み付く。力が……出ない。
そして、僕の必死の魔法構築も間に合わず天使の手から溢れた光が魔王様に向かっ
て放たれる!
僕は、自分が今まで出したことのないような馬鹿力で残骸を振りきり、骨があらぬ
方向へとねじ曲がるのにも構わず魔王様の前へと飛び出していた。
「魔王様がいなくなったら困る」、ただそれだけを考えて。
視界に光が、満ちた。
…………………
……………
……?
「あ、あれ?」
僕は思わず間抜けな声を上げた。眼前を満たした光は何時の間には消え失せ、そこ
にはつい先程と何らかわりのない風景が広がっている。仲間達も何が起こったかわか
らずに呆然とこちらをみている。
自分の身体を見下ろす。腕も、足も、ついている。何ともなっちゃいない。これは
一体……。
ぞわり。
突如、自分の身体の中で何かが勝手に蠢く。身体……いや、これは心?
「…………………!………ッ!!!」
魔王様が何か言っているのに何も聞こえない。いや、それだけでなく全ての音が僕
から失われてしまっていた。言葉に応えなくちゃいけないのに、僕の身体は僕の命令
に従ってくれない。
突然、心の中で作業途中の呪文構成が勝手に蠢き出す。
(そんな……僕はそんな構成しようとした覚えは……!)
自らの意志とは関係なくどんどんと勝手に紡がれていく滅茶苦茶な構成。あまりに
も支離滅裂なその呪文構成はまるで子供がクレヨンで落描きするように無遠慮だ。
このままではいけない、と力を振り絞り<反発>の魔術公式を展開し解こうとした
刹那、僕の思考に戦慄が走った。
(魔術の公式が………思い出せない……?!)
それだけじゃない、先程まで当たり前のように紡いでいた構成や構築をしようとす
る度に頭にもやのようなものがかかり、思考を邪魔してくる。内側を蹂躙される不快
感に、口からうめき声が漏れた。
右腕に構築が具現化し、魔力が溢れてくる。
呪文は、暴発した。
▼
暴発した僕の呪文は圧倒的な破壊をもたらすほどの威力だった。普段理性という名
の鎖で縛り支配下においている自らの魔力がその全ての力を曝け出したのだ。
魔王様が僕の呪文に干渉して力の鉾先を『穴』に向けなければ自分や仲間すら巻込
んで発動、という恐るべき事態になっていただろう。
瀕死の天使の放った呪いによって、僕の最大の武器である魔力は………暴走した。
今はなんとか自らの身体に封印を施して沈静化はしている。だけど、身体活動の一部
に魔力を用い圧倒的な身体能力や特殊能力を発揮する魔族にとって、魔力を封印する
ということは『役ただずになる』ということだ。
実際、今の僕の身体能力は通常よりも遥かに低下し人間並、呪文はもちろん使えな
いし特殊能力を制限され今では多少の催眠や物質の硬質化、短距離の瞬間移動が精一
杯。まさに、『役たたず』。
「オマエも分かってる通り、この魔界では天使の呪いを解く術がない。つーかぶっちゃ
け五体満足でいるのが不思議な位。」
「はい……。」
僕らの身体を構築するものと全く真逆の呪い。その呪いを抑えることはできようと
も僕らの力で無力化することは不可能だ。………これって八方塞がりのような気がす
る。
「役立たずなオマエをクビにしてパシリにでもしたいところだか……その魔力を失う
のは惜しい。そこで、だ。」
魔王様の口から漏れたとんでもない提案に、目の前が真っ暗になった。それ程、魔
王様の提案はぶっ飛んでいたのだ。反論しようと立ち上がりかけた瞬間、柱の影に潜
んでいた同僚達に押さえられ僕は部屋を追い出される。
大声で何だかわからない言葉を喚きながら引きずられて行く僕を、魔王様はニヤニ
ヤと見つめていた。僕は必死で同僚達に助けを求めるが彼等は何も聞こえないかのよ
うに振舞い、僕をある場所へと連れて行く。魔族である僕が、『弱さ』全開にしてい
るのを内心では呆れながら。
でも彼等の瞳に同情の色が見えかくれするのを僕は見逃さなかった。それ程、僕に
告げられた提案はぶっ飛んだものだった。
「異界へ行って呪いを解く方法を探してこい。」だなんて。
確かに、この魔界で解けない呪いを解く方法が異界にはあるかもしれない。異界へ
と行く術も既に開発されていて、僕も幾度か偵察にいった事がある。しかし、僕は今
魔力を封印されて術は使えない。その上、異界へと行く術は術者本人しか効果がない
のだ。……と、なると他の方法は一つしかない。
「……死なないよう頑張れ。」
僕を拘束していた一人が、そう声をかけて肩を掴む。
目前に広がるは漆黒の『穴』。法を破った犯罪者の中でもとびきり質が悪い変態犯
罪者達が落とされる次元の穴……異界追放刑の『穴』である。
(これってある意味クビのようなものですよ、魔王様。)
そう思っているスキに、僕は『穴』へと落とされた。自分の涙がひらりひらりと飛
んでは散るのを僕は他人事のように見ていた。
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人物:アダム まめ子 ランディ
場所:ソフィニアの宿屋「クラウンクロウ」>
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窓枠を調べる。異常なし。
窓の縁を調べる。異常なし。
窓の鍵を調べる。異常なし。
窓そのものを調べる。まったく異常なし。
『そのうち、上から降ってきたりして★』
「・・・ンなわけ、あり得る」
窓を開けていて、さらに天井を見上げ頷いてしまった。
しかし俺とてそれなりの常識人であると自負している。その常識をことごとく
頼んでもいないのに覆してくれる相手だが。
天井を見上げるだけで、天井裏まで調べる気にはなれなかった。
昨日は延々と、シックザールと変態悪質不法侵入かつプライバシー侵略容疑の
濃厚な「イカれ帽子屋(マッド・ハッター)」の侵入経路について推理しあっ
ていたのだ。
はたから見れば、俺は無機物かつ刃物な物質に話し掛ける危ない人種に見える
のだろうか、見える。想像するな自分。
結論。
飛んで、もしくは浮上して侵入。
んなわけがあるのか現実、俺はまだ信じない。明日があると信じているからだ
(意味不明)
とりあえず、今度こそは奴の屑一つ通れないようにしっかり閉めようと思う。
屑どころか、髪の毛一本、奴の吸った空気すら遮断してやる。
そんな時、俺の相棒は話し掛けてきた。
『ねえねえ、今日の朝の占いでも見て気分変えたら?
ちなみに僕のAB型は”昔懐かしい古い旧友に出会えちゃうかも”だってサ』
「待て、お前にその体質区別的な判定ができるのか?」
すかさず突っ込む。刃物に血液型あるのか、あるわけないだろ。
『だって「イカれ帽子屋」に聞いたら”ではAB型なのでは?”って』
「なるほどね」
俺は、限りない悪意と嘲笑をこめて言ってやった。案の定、シックザールは
乗ってきた。
『ね、ね、どーして?』
「変人が多いんだよ、ABは」
勝った。せせら笑うように勝ち誇った物言いをした後、気分よく窓を閉めよう
とした。
『ねえねえ』
「あ?」
こんな時、物理予測だけの『異常眼』、心理的予測が出来ないのは致命的だな
んて思ったりする。
振り向いたら、何故か刀の柄の部分が、眉間に迫ってきていた。
ちょっと思った、純粋な疑問だ。お前動けるのか。
ごつっっ!!
ミリ単位の予測可能な『異常眼』、何故か機能しなかった。もしくは、ミリ単
位の予測すら超える超高速で相手が眉間へと捨て身の攻撃を仕掛けたのだ。
俺の意識は、一瞬途絶えて、奈落のそこか天上の川辺まで往復して、現世界へ
と復帰した。
何故か天上の川辺には、ドワーフにしてはやたら小奇麗な女の子が、おさげに
した髭を可愛らしく揺らしつつ手を振っていた。しかもメイド姿で。
何故だ、というかかなり痛い。勝ち誇った声が、妙に響く。
『やーいやーい、正義は勝つ!』
「どーいう意味だよっ!!」
眉間を抑えつつ、崩れ落ちた膝を立て直そうとするが、失敗。予想以上に喰
らった、この野郎。
『悪は滅びる』
「確実に俺は善良な市民だぞ」
『負け犬め』
その後、数十分ほど悪意と復讐と憎悪の口合戦が火花を散らせたのであった。
それは傍目から見て、アダムが無機物にひたすらに口論するというかなり危な
い光景であった。
宿屋を出て、通りを歩く。
「腫れたらお前の所為だ頭痛がしたらお前の所為だ昨日の変態(「イカれ帽子
屋」)が侵入したのもお前の所為だ」
呪詛を唱えつつ、世界崩壊に相当する悪の権化を言祝(ことほ)ぐ。
『最初はともかく、最後のびっくり★ウキドキお宅訪問は僕の所為じゃない
モーン』
「そのウキウキだとかドキドキとか止めろ。気色悪い というより気味が悪
い」
『僕そこまで言ってまセーン★』
ああ、どうか今スグ目の前でこの金属無機物不幸吸引機、別名珍生物が破砕さ
れますように と神に祈願する。
真剣かつ、今までにないほどの信仰心を捧げて。
一刻も早く、あの変態悪質訪問員が持ってきた依頼を済ませてしまおう。
そう思いつつ、急ぎ足で裏路地に。目指すは成り金だか貴族だかの邸宅。
『そうそう、アダムの占いはネー。
ええと”落下物注意、ふんどしと秘書は幸運の天使、道連れには魔力が封印さ
れた人間型の被害物”ってサ★』
「ンな占いだか予言どうやって当たるんだよ、天気予報のほうがまだ正確だ」
それが、数秒後に訪れる的確な未来であるなんて知る由もなかった。
ちなみに、昨夜から存在が忘れ去られている小箱。アダムのポケットの中に
ひっそりとあったのであった。
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人物:まめ子 アダム ランディ
場所:空
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夜空にまたたく流れ星ってこんな気持ちなのかもしれないなあ、なんてことを考え
ながら真直ぐに落ちていた。
そういえば、流れ星って最後は燃え尽き………いや、ちょっとそのことを考えるの
はやめておきたい。今ならば瞬く流れ星に感情を同調させてしまいそうだから。
とりあえず酸素は吸える。
気体を体内に取り込むも異常をきたすことは一応ない。
どうやら何とか生きられる世界に来たようで僕は胸をなで下ろした。
とりあえず。
「魔王様……ひっぐ………僕、ど、ど、どうすればよいのですか……?」
目前の景色がどんどんと全く違うものへと変化している。何故だかわからないけど
その変化は落下しているのにひどくゆっくりのような気がした。
以前人づてに聞いた話だけど、ふとした拍子で転んだりする時や非常時に人間の体
感時間はひどくゆっくりになるらしい。多分、僕の身に起こっているのもそういう現
象なのだろう。
魔力を封印しているほとんど僕はただの人間と同じ。
………人間の身体で墜落しても大丈夫なのかなぁ……。
そんなことを考えても落下速度は遅くなるどころか一層早まるばかりで、運命の時
はすぐそこだと嫌でも僕に囁く。未知の恐怖に身体が勝手に震える。
もしかしたら異界で僕はこの一生を終えてしまうのかもしれない。
呪いを解くこともなく、魔界へ帰ることもなく……
そんなことを考えていると強い衝撃と共に僕の落下が停止した。
(………何かに、上から釣り下げられているような感じが………)
僕はとめどなく垂れる鼻水をすすりながら恐る恐る後ろを振り向く。
「ぶひゃッ!」
悲鳴の代わりに鼻水が怒濤の勢いで飛び出した。
▼
ソフィニアの裏路地を若い男が毒づきながら闊歩している。
無造作なチョコレート色の髪に黒いファーコートという出で立ちの男は一見遊び人
のようにも見える。しかし、その背にある何本もの険類が男を冒険者ということを表
していた。
「あー、っくそッ!生ゴミくせー」
わざわざ口に出すのは苛立ちからか、それとも誰かに語りかけているのか……。し
かし裏路地には今、男一人しか存在しない。だというのにどこからか男に語りかける
声が裏路地に響く。
『怒りやすいのは優しさが足りない証拠★あ~あ、大人ってイヤな生き物だな~』
「うっせ。俺はまだ優しさが溢れんばかりの若者だ。」
そういいつつ、男は足下に散らばる生ゴミを足で払う。どうやら男は語りかけてく
る声に慣れているらしく自然に返答している。それは見るものが見れば腹話術のよう
に見えた。人通りの多い通りだと明らかに怪しいが、誰も居ないこの場では彼等を気
にかけるものは一人もいない。
「まったく……天下の魔術都市なんだから魔術でゴミ問題くらいも解決しろよ。」
延々と続くゴミの道を見据え、男はうんざりとした気分で呟いた。そうする間にも
声は語りかけてくるが軽くあしらいながら歩を進める。
ゴミの中には魔術の儀式に使われるマジックアイテムや使い古された薬草、はてに
は山羊や牛などの家畜の亡骸までもあった。魔術都市らしい廃棄物といえばらしいが、
あまりにその風景は異様である。
男はふと、ポケットの中の小箱の存在を思い出した。そっとポケットに手を差し入
れ、触れる。男の目が確かであればこの小箱に入ってるものは………。
そこまで考えて男はポケットから手を出した。
『ねえねえ、何か発汗量凄いんだけど昼間からウキドキ状態?』
声にそう言われ額に手をあててみると、びっしょりと冷汗をかいていた。
魔術都市として繁栄するソフィニアの大通りは、水と芸術の都として名高いコール
ベルにも勝るとも劣らぬ美しさを誇る。しかし、一歩裏路地へと入ればそこは魔術に
よる繁栄によって生み出された灰色の世界へと変わる。
魔術。その力に善悪はなく力を行使するものによってその善悪は決まる。光届かぬ
灰色の世界は魔術を行使し悪行を働くもの、または好奇心から禁断の領域へと踏み込
むものの世界だ。光が生ずる時、また闇も生ずるのは逃れられぬ運命。そうやって光
の世界が繁栄し、闇の世界もまた繁栄しているのだ。
ぽつっ。
「あ?」
男が足を止める。
『どうしたのサ?もしかしてお便秘?うわ~野グソは勘弁だよ★』
「ンなわけないだろ。何だか水が顔に……」
雨かと思い空を仰ぐが、空は真っ青の快晴である。どこからか水が漏れている可能
性もあるが水道管はどこにも見当たらない。一体何の水かと指ですくうと、その液体
はゆっくりと糸を引いて男の頬と指を繋げた。
「んげ。何かネバネバしてるぞコレ!」
『ヤダ!何だかキモいヤバいマズい液体なんだったりして!』
「あー。服に落ちなくて本当に良かった……」
『うわー!僕になすりつけないでよ!汚い!大人って色んな意味で汚いー!!』
「だから若者だって。っていうか……」
言いかけた男にまた、液体がぽつりと落ちる。先ほどのと同じねばついた液体だ。
雨ではないとはわかっているが、もう一度確認する意味で空を仰ぐ。すると、先程ま
でにはなかった物体が男達の真上に浮いていた。
「……まさか…天使……?」
男は我が目を疑った。逆光でその姿をきちんと確認することは出来ないが、ヒトガ
タをしたその影の背には大きな翼が生えていた。その姿はまさに天使。天使とは正に
天の使い、その姿を確認できるのは稀なことだという。
男の脳裏に今朝の言葉が蘇る。
『そうそう、アダムの占いはネー。
ええと”落下物注意、ふんどしと秘書は幸運の天使、………』
幸運の天使。そして。
「そこのはだけた人ッ、どいてくださああああああいいいいいいい!」
「うべしッ!!」
人間型の被害物。
男ーアダムは今朝に引き続き今回も発動しなかった異常眼を恨みつつ、ゆっくりと
後ろに倒れた。人間型の被害物に押し倒される格好で。せめて女に押し倒されるなら
本望ではあるが、刹那の瞬間見えたのは涙と鼻水にまみれた青年。どこからどう見て
も幸運の天使には見えやしなかった。
そんな彼等の上から翼のはためく大きな音が響いてきた。真っ赤な羽に大きな嘴、
そして長い尾をもった鳥がこちらを見下ろしていた。ヴァルカン地方からこっちの方
向へと渡ってくる火山鳥という大鳥の一種だ。彼等は珍しいものを嘴に加えて旅をす
るが、飽きた時はところ構わずソレを捨てるという習性がある。
どうやら青年はあの鳥に捕まえられ、落とされたらしい。
「あああああッ!大丈夫ですかッ?!生きてますかッ?!」
緑色の青年は泣きわめきながら、自分の下で倒れているアダムを前後に揺らすが芳
しい反応はない。
「…ああ、魔王様……僕、こっちにきてから早速殺人を……ひっぐ……魔王秘書であ
るランディ=フォルネウス=タングスの名に泥をぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ランディと名乗る青年は、反応がないアダムの上でひたすら嗚咽をあげる……かと
思うとおもむろに懐から取り出した細長い布で涙を拭きはじめた。その細長い布の両
脇には長い紐がついている。明らかに、ハンカチの類いのものでないことは確かだ。
……実を言うとアダムの意識ははっきりとしていているのだが、自分の上から垂れ
てくる鼻水と涙の激流に襲われ、色んな意味で反応できないのだ。
(喋ったが最後……俺の体内に鼻水が……!頑張るんだ俺!)
とりあえずこの危機的状況を打破しようと一発殴ってみるか、そう思い拳を固めた
アダムの視界が何かの異変を捕らえた。
かさり、かさり。
先ほどの衝撃でポケットから出てしまったのであろう、あの小さな箱がかすかに蠢
いていたのだ。驚きに思わず口がちょっと開き、口腔に鼻水がちょっと侵入した。少
ししょっぱい。
『ホーラ!僕の占い当たったデショ?さあ!どんどん崇めていいヨ!!』
アダムの腰から聞こえる声が何か言っているが、何処か遠くから響いてくる言葉の
ように聞こえる。
ふと、突然現れた声に驚くランディの注意がアダムの腰の剣に向けられた。正しく
は、突然現れた声の発生元へと。
「……け、剣が……喋った……?」
その言葉を、「また『腹話術』とか『電波』とか言われるのか』とうんざりした思
いでアダムは聞いていた。
◆――――――――――――――――――――――――――――――――――
人物:まめ子 アダム ランディ
場所:ソフィニア裏路地
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
咄嗟に反応したアダムは、これ以上の異常事態を起こさない為の処置を施し
た。即ち、即座に小箱を両手で押さえ付けたのだ。
「あっぶねぇ~。危うく、開いちまう所だった……」
何とか危地を脱したアダムは、徐に垂れてもいない額の汗を拭う素振りを見
せた。ひょっとしたら本当に冷や汗をかいていたのかもしれないが。上から滝
の如く垂れてくる鼻水はそのままだが。
「す、すいませぇん。大丈夫ですか? ……生きてて良かった」
唐突にアダムの頭上から声が降ってきた。
見るとアダムの背中の上に二本足を揃えて屈んでいる緑の髪の男がいた。男
の姿は、一目見て普通では有り得なかった。肩の所で丁度切り揃えている緑色
の髪の毛の合間からは尖がり耳が飛び出ている。一見エルフの様にも見える
が、その金色の瞳から発せられる魔力のようなものと額に刻印されている
“印”を見て取ると、どうやら違うようである。
「ごめんじゃない! 危うく小箱が開きそうになっただろ!」
正直初対面の人物を、それも只ならぬ人物をいきなり怒鳴りつけるのはどう
かと思ったアダムだが、声の主自身がアダムの背上から降りようともせずに声
を掛けてきたのだから仕様が無いといえば仕様が無い。だが、第一声としては
間違っていた。正直、「早く上から退いてくれ」と言うべきだったと本気で悔
やんだ。変人だと思われただろうか、アダムは真剣に思い悩んだ。
「本当にすいません。でも、小箱は無事のようですよ?」
男は相も変わらずアダムの背上からは降りようともせずに、小箱を指差して
いった。まるで悪びれる様子も無い。天然なのか何なのか、男は本当にすまな
そうにひたすら平身低頭するばかりである。
「じ、事実は事実だけど、そんな事は如何でも良いから早く俺の背中から降り
てくれないかなぁ」
アダムは、少しいらつきを見せて言ってみる。
案の定、男は慌ててアダムの背中から降り立った。
「す、すいません! だ、大丈夫でしたか!? お怪我は有りませんでした
か?」
にこやかに微笑んで手を差し伸べる緑髪の男に、アダムは何となく親近感を
抱いてしまった。何となく、何となくだがこの男は自分と同じ穴の狢[むじな]
なのではないかと。何故か自分と同じ者を感じずにはいられなかったのだ。
呆然としているアダムに、何処を如何勘違いしたのか緑髪の男はいきなり自
己紹介を始めた。
「あ、申し遅れました。私、ランディ・フォルネウス=タングスと申します。
しがない魔王秘書なんぞをやっております。あ、ランディで結構です。故有っ
て今はこの世界に落とされてしまいましたが……あの、本当に大丈夫ですか?
お怪我はありませんか?」
一瞬、「魔王秘書」という部分に拒絶反応を見せかけるアダムだったが、本
気で心配して覗き込んでくる奴に悪い奴はいない、と気を取り直した。何かの
聞き違いかもしれないし。それよりも今の自分の置かれている状況を打開する
方が先決だと、アダムは悟って差し伸べられた手を握ってしまった。これでも
うこのお人好しな「魔王秘書」から逃れる術を見失ってしまったのだと気付い
た時には、後の祭りだった――。
「俺はアダム。見ての通りの剣士だよ」
◇◆◇
いっしゅん、ひかりがみえたきがした。
いっしゅん、ほんのいっしゅんだったわ。
わたしがきがついたときにはもう、そのひかりはきえていたけれど、わたし
にとってそれはきぼうのひかりのようにみえたの。このさき、なにがおころう
ともなんとかなるって、なんとなくだけどそんなゆうきがわいてくるようなひ
かりだったわ。
◇◆◇
巨大な門扉が目前に聳え立っていた。
アダムは今、依頼人の館の前に立っている。依頼人に会うためだ。義理だと
か義務だとかの問題でなく、あのイカレ帽子屋[マッド・ハッター]の依頼を受
けるつもりだった。今の彼にはそれしかないし、金が底をつきかけていること
に不安を感じてもいたからだった。
途中噴水広場に立ち寄って噴水の水で鼻水で汚れた体とか顔とかを洗い流し
てから、辻を四つほど曲がって来たから、随分と時間が経過してしまってい
る。今は昼を少し回った頃だろうか。
「で、何でお前は付いて来るんだよ」
アダムは振り向かず、緑髪の魔王秘書に文句をつける。
「いやだって、他に行く当てもありませんし」
にこやかに微笑んで、ランディは応じた。
アダムは深い深い溜息をついた。お喋りな剣に何だか変てこな植物の種子、
その上こんな変な奴にまで付き纏われたらと思うと、自分の前途に不安を感じ
るアダムだった。しかし、諦めるべき時に諦めるしかない。ここ数日間のうち
に学んだ精一杯の学習能力だった。
『あら? どうしたの? 溜息なんかついちゃって★
面白くなりそうだってのに』
「面白がっているのはお前だけだロ」
シック・ザールのいつもの無責任な台詞に、小声で切り返す。自分だけにし
か聞えない剣の声にいちいち返答している自分の姿を見られて変人だと思われ
たくない、アダムにとって精一杯の抵抗だった。もう遅いだろうが。
「どうしたんですか? 剣とお話しちゃって。……おや、その剣、面白いです
ねぇ。ちゃんと意思を持ってる」
「!?」
徐に覗き込んでごく普通に普通じゃない台詞を吐いたランディに、驚きの眼
差しを向けるアダム。自分以外には聞えない声で語り掛けるシックザールを一
目見て、意思のある剣だと言い当てたのだ。普通の人間ではありえない事だ。
故に普通の人間では無いという事に、改めて気付かされるアダムであった。
「お、お前……何者だ?」
「先程自己紹介した筈ですが?」
「い、いや、そーゆー意味じゃなくて……まぁ、この際どーでもいいか。そん
な事。それより俺はこの館に用がある。あんたは……ランディさん、だっけ?
どうする?」
「どうする、と申しますと?」
苦肉の策でこれまでの経緯を無かった事にしようと試みたアダムの苦労など
考えても見なかったように、ランディは満面の笑顔で聞き返した。まるでこれ
から先二人で生きて行こう、とでも言いたげな笑顔だった。
「あ、あ、あ……」
「何をやっているんです? 人の家の前で」
ランディを指差しながら思考を言葉に出来なくて固まっているアダムの背後
から、突如声が掛けられた。声の調子から、男のものだと判る。
「あんた、誰や!?」
アダムの指先の矛先が百八十度回転して、背後にいる人物に変わる。何故か
地方の鉛が出てしまっていた。それほど動揺していた、ということだろう。
「私、ですか? 私は、ル・グラン=マジエと申します。グランで良いです
よ。あなた方は?」
ル・グラン=マジエと名乗った青年はは両手一杯に本を抱えていた。見ると
どれも著名な魔導書ばかりである。
「あ、俺……僕はアダムといいます。依頼を受けて来たのですが……」
正直、アダムは戸惑っていた。偶然にしても、こんな所で依頼人と出会って
しまうとは。普通では考えられない事だった。同時に依頼人はおとなしく家の
中にでも居やがれ、とも思った。思うだけで口には出さなかったが。
「あ、私はランディと申します。まおう……ぐぇっ」
釣られてランディも自己紹介を始める。彼が言い終える暇も与えず、足を踏
んで言葉を遮るアダム。その行為には、これ以上変人扱いされて堪るかと言う
決意の念が込められていた。
「あ、ところで、何処へ行っていたんです?」
何かを誤魔化すかのごとく、話題を変えてみるアダム。
当の依頼人は、その題目変更に嬉々として乗って来た。
「クックック。良い事を聞いてくれました。本がね、本が私を呼んでいたの
で、ちょっと買出しに行っていたんですよ。いやぁ、お陰で良い本が買えまし
た。クククッ」
片手を上げ、さり気なくポーズを取って楽しそうに言うマジエ氏。その瞳は
幼年期のそれを思わせるほど、キラキラ光り輝いている。
誰のお陰かと、アダムは危うく突っ込みそうになったが何とか堪えた。
再び増えた変人に、これから受けるであろう依頼の前途を思い遣り、アダム
はうんざりした面持ちで今日何度目かの溜息を吐いた。
場所 : ソフィニア・マジエ氏邸宅
PC : アダム ランディ シックザール
NPC: ル・グラン=マジエ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とりあえず書斎で待たされていたら、
思い出したようにランディが喋りかけた。
「そういえば、この剣喋れるし自分で意志を持ってるんですね。
しかも柄や形が珍しい」
常識的な反応をありがとう。そして常識的に「腹話術、お上手ですね」
とか「お独りは寂しいんですか?」とか良心的になめられた答えが
返ってくると予測。
しかし、ここでとんでもない事実が現れる。
『まあ数ある魔界の中でも僕みたいな日本刀は貴重(レア)ってことで』
「そうですね~、こう片刃ってのもそうですが、
その丹精で綿密な職人芸な造り…どえぇぇぇ!?」
「なんだなんだ!どうした、唾をこっちに向けるな馬鹿!」
いきなりランディが大声でシックザールの発言に悲鳴を上げた。
こいつ窓から蹴り落としてくれようか、と飛んできた唾を近場の本
(ぁ)で防御しつつ、迷惑気味に視線を向けた。
そんな彼の思惑をまったく無視して、魔族は襲い掛からんばかりに日本刀に
顔を近づけた。
「今なんて言いましたっ!?魔界っ!?魔界ってどこの!?というか実は天使の呪い
の解除法を知ってるミラクル★ソードとかじゃありませんっ!?」
「最後のはさりげに自己妄想っぽいなオイ」
アダムのさりげない突っ込み後、日本刀はやや沈黙をおいて、発言した。
『さぁーてどうでしょう?随分可哀想にねぇ、だいぶ何重にも押さえ込んでる
みたいだけど★
アダム、こう見えても僕はなんとかつて魔界を支配した5剣帝が一人、“最強
王★あきぴょん”なのさ!』
「そーかそーか、魔界に帰れこのアホ!誰がんな話に………」
「あああああああああああああ、あきぴょーーーーーーーんっっ!!!?あの全魔
界統一を成し遂げたっ!?」
「って嘘ー!?」
ランディが真っ青な顔で飛び上がり、数歩後退して日本刀を凝視。
アダムは余計な話がまた出てきた、とばかりに頭を抱えた。
「まさかっ、まさかっ!あの魔界を一面とうもろこし畑に変えようとしたり、
逆らう者には容赦なくすね毛を一網打尽で燃やしたり、また魔界統一のために
朝食をパンから米に変えようとしたあの!?」
「馬鹿がまた増えたのか……」
『ふははははははっ!例え我が身は滅ぼうとも、
このお茶目な性格は魂をこえて健在ダネ★』
「魂とか心とかじゃなくって性格だけかよ」
「ま、魔王様っ!魔王様の危機ですっ!!ここでほっとけばまた一面とうもろこ
し畑にっ…!」
「そのもろこしネタはどうよ?」
「…随分、にぎやかですね?まあ本は汚さないで下さいね」
割って入った第三者によってまたもや会話は一時中断。
どこか『イカれ帽子屋』に似通ったイっちゃてる雰囲気と瞳の男性を見て、ア
ダムはもうどうにでも
なれと、半ばやけくそ気味であった。
小箱は、相変わらずポケットの中であった。
PC : アダム ランディ シックザール
NPC: ル・グラン=マジエ
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とりあえず書斎で待たされていたら、
思い出したようにランディが喋りかけた。
「そういえば、この剣喋れるし自分で意志を持ってるんですね。
しかも柄や形が珍しい」
常識的な反応をありがとう。そして常識的に「腹話術、お上手ですね」
とか「お独りは寂しいんですか?」とか良心的になめられた答えが
返ってくると予測。
しかし、ここでとんでもない事実が現れる。
『まあ数ある魔界の中でも僕みたいな日本刀は貴重(レア)ってことで』
「そうですね~、こう片刃ってのもそうですが、
その丹精で綿密な職人芸な造り…どえぇぇぇ!?」
「なんだなんだ!どうした、唾をこっちに向けるな馬鹿!」
いきなりランディが大声でシックザールの発言に悲鳴を上げた。
こいつ窓から蹴り落としてくれようか、と飛んできた唾を近場の本
(ぁ)で防御しつつ、迷惑気味に視線を向けた。
そんな彼の思惑をまったく無視して、魔族は襲い掛からんばかりに日本刀に
顔を近づけた。
「今なんて言いましたっ!?魔界っ!?魔界ってどこの!?というか実は天使の呪い
の解除法を知ってるミラクル★ソードとかじゃありませんっ!?」
「最後のはさりげに自己妄想っぽいなオイ」
アダムのさりげない突っ込み後、日本刀はやや沈黙をおいて、発言した。
『さぁーてどうでしょう?随分可哀想にねぇ、だいぶ何重にも押さえ込んでる
みたいだけど★
アダム、こう見えても僕はなんとかつて魔界を支配した5剣帝が一人、“最強
王★あきぴょん”なのさ!』
「そーかそーか、魔界に帰れこのアホ!誰がんな話に………」
「あああああああああああああ、あきぴょーーーーーーーんっっ!!!?あの全魔
界統一を成し遂げたっ!?」
「って嘘ー!?」
ランディが真っ青な顔で飛び上がり、数歩後退して日本刀を凝視。
アダムは余計な話がまた出てきた、とばかりに頭を抱えた。
「まさかっ、まさかっ!あの魔界を一面とうもろこし畑に変えようとしたり、
逆らう者には容赦なくすね毛を一網打尽で燃やしたり、また魔界統一のために
朝食をパンから米に変えようとしたあの!?」
「馬鹿がまた増えたのか……」
『ふははははははっ!例え我が身は滅ぼうとも、
このお茶目な性格は魂をこえて健在ダネ★』
「魂とか心とかじゃなくって性格だけかよ」
「ま、魔王様っ!魔王様の危機ですっ!!ここでほっとけばまた一面とうもろこ
し畑にっ…!」
「そのもろこしネタはどうよ?」
「…随分、にぎやかですね?まあ本は汚さないで下さいね」
割って入った第三者によってまたもや会話は一時中断。
どこか『イカれ帽子屋』に似通ったイっちゃてる雰囲気と瞳の男性を見て、ア
ダムはもうどうにでも
なれと、半ばやけくそ気味であった。
小箱は、相変わらずポケットの中であった。