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人物:アダム まめ子 ランディ
場所:ソフィニアの宿屋「クラウンクロウ」>
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窓枠を調べる。異常なし。
窓の縁を調べる。異常なし。
窓の鍵を調べる。異常なし。
窓そのものを調べる。まったく異常なし。
『そのうち、上から降ってきたりして★』
「・・・ンなわけ、あり得る」
窓を開けていて、さらに天井を見上げ頷いてしまった。
しかし俺とてそれなりの常識人であると自負している。その常識をことごとく
頼んでもいないのに覆してくれる相手だが。
天井を見上げるだけで、天井裏まで調べる気にはなれなかった。
昨日は延々と、シックザールと変態悪質不法侵入かつプライバシー侵略容疑の
濃厚な「イカれ帽子屋(マッド・ハッター)」の侵入経路について推理しあっ
ていたのだ。
はたから見れば、俺は無機物かつ刃物な物質に話し掛ける危ない人種に見える
のだろうか、見える。想像するな自分。
結論。
飛んで、もしくは浮上して侵入。
んなわけがあるのか現実、俺はまだ信じない。明日があると信じているからだ
(意味不明)
とりあえず、今度こそは奴の屑一つ通れないようにしっかり閉めようと思う。
屑どころか、髪の毛一本、奴の吸った空気すら遮断してやる。
そんな時、俺の相棒は話し掛けてきた。
『ねえねえ、今日の朝の占いでも見て気分変えたら?
ちなみに僕のAB型は”昔懐かしい古い旧友に出会えちゃうかも”だってサ』
「待て、お前にその体質区別的な判定ができるのか?」
すかさず突っ込む。刃物に血液型あるのか、あるわけないだろ。
『だって「イカれ帽子屋」に聞いたら”ではAB型なのでは?”って』
「なるほどね」
俺は、限りない悪意と嘲笑をこめて言ってやった。案の定、シックザールは
乗ってきた。
『ね、ね、どーして?』
「変人が多いんだよ、ABは」
勝った。せせら笑うように勝ち誇った物言いをした後、気分よく窓を閉めよう
とした。
『ねえねえ』
「あ?」
こんな時、物理予測だけの『異常眼』、心理的予測が出来ないのは致命的だな
んて思ったりする。
振り向いたら、何故か刀の柄の部分が、眉間に迫ってきていた。
ちょっと思った、純粋な疑問だ。お前動けるのか。
ごつっっ!!
ミリ単位の予測可能な『異常眼』、何故か機能しなかった。もしくは、ミリ単
位の予測すら超える超高速で相手が眉間へと捨て身の攻撃を仕掛けたのだ。
俺の意識は、一瞬途絶えて、奈落のそこか天上の川辺まで往復して、現世界へ
と復帰した。
何故か天上の川辺には、ドワーフにしてはやたら小奇麗な女の子が、おさげに
した髭を可愛らしく揺らしつつ手を振っていた。しかもメイド姿で。
何故だ、というかかなり痛い。勝ち誇った声が、妙に響く。
『やーいやーい、正義は勝つ!』
「どーいう意味だよっ!!」
眉間を抑えつつ、崩れ落ちた膝を立て直そうとするが、失敗。予想以上に喰
らった、この野郎。
『悪は滅びる』
「確実に俺は善良な市民だぞ」
『負け犬め』
その後、数十分ほど悪意と復讐と憎悪の口合戦が火花を散らせたのであった。
それは傍目から見て、アダムが無機物にひたすらに口論するというかなり危な
い光景であった。
宿屋を出て、通りを歩く。
「腫れたらお前の所為だ頭痛がしたらお前の所為だ昨日の変態(「イカれ帽子
屋」)が侵入したのもお前の所為だ」
呪詛を唱えつつ、世界崩壊に相当する悪の権化を言祝(ことほ)ぐ。
『最初はともかく、最後のびっくり★ウキドキお宅訪問は僕の所為じゃない
モーン』
「そのウキウキだとかドキドキとか止めろ。気色悪い というより気味が悪
い」
『僕そこまで言ってまセーン★』
ああ、どうか今スグ目の前でこの金属無機物不幸吸引機、別名珍生物が破砕さ
れますように と神に祈願する。
真剣かつ、今までにないほどの信仰心を捧げて。
一刻も早く、あの変態悪質訪問員が持ってきた依頼を済ませてしまおう。
そう思いつつ、急ぎ足で裏路地に。目指すは成り金だか貴族だかの邸宅。
『そうそう、アダムの占いはネー。
ええと”落下物注意、ふんどしと秘書は幸運の天使、道連れには魔力が封印さ
れた人間型の被害物”ってサ★』
「ンな占いだか予言どうやって当たるんだよ、天気予報のほうがまだ正確だ」
それが、数秒後に訪れる的確な未来であるなんて知る由もなかった。
ちなみに、昨夜から存在が忘れ去られている小箱。アダムのポケットの中に
ひっそりとあったのであった。
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