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2025/03/10 07:03 |
魔王秘書、落下。/ランディ(スケミ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――
人物:ランディ
場所:名もなき魔界・玉座
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「オマエに臨時休暇をやろう。」
「……へ?」

 玉座に座る魔王様にいきなりそう切り出され、僕は驚くしかなかった。
 僕の名前はランディ=フォルセウス=タングス。数ある魔界の中の一つ、名もなき
魔界を司る魔王様の秘書をやらせていただいている。戦争中の魔王様に休みなどとい
うものは存在しない、魔王様といつも共に行動する秘書である僕もまた然り、だ。
 それなのに臨時休暇が出されたということは………もしかして一番恐れていたこと
が……?!

「ぼ、僕はもしかしなくともクビですか?!魔王様?!」

 秘書に任命されてからかれこれ数百年、ちゃんと仕事をこなしてきたし魔王様のお
子様のオムツかえというバリッバリの家事もちゃんとこなしてきた。……もしや、魔
王様のお気に入りの茶器を割ってしまったことがバレたのだろうか?いや、それに関
してはちゃんと修復呪文をかけて元通りのはず。
 
「阿呆かオマエ。魔界でもトップクラスの術士をクビにするわけないだろが。阿呆。」
「それでは何故……」
「……その身体で戦闘に参加できると思ってんの?阿呆なこというのも大概にしろ。
阿呆」

 そう言われ僕の心の中でなにかがぞわり、と動いた。そのなにかは、がんじがらめ
にして抑えているにも関わらずその影響をなくそうともしない。


 そう、それは少し前のことだった。





 僕の傍らにいる魔王様が拳をふるう度に、押し寄せてくる天使達が鎧ごと肉体を砕
かれ宙を舞う。
 彼等は僕達と身体の構築するものが違うのだろう。砕かれたその肉体からは体液は
一つもでず、ただ乾いた音をたてて砕け散るのみ。羽根だけがその原型を残し、ふわ
りふわりと飛んでいた。
 魔王様のお陰でこの危機的状況は打破できそうだ。

「ランディ、オレ様達が食い止めてる間に一番強烈なヤツを『穴』にぶちこめッ!」
「はい!発動の余波に気をつけて下さい!」

 魔王様の命令に素早く頷き、敵の本軍の上空に存在する『穴』を標的としての長距
離魔法の構成に取りかかる。ギリギリの射程距離だが、これ以上の被害を抑えるため
にも失敗するわけにはいかない。その間に魔王様達は僕らに向かってくる敵を迎え撃
ちはじめた。
 『穴』、それは天使達がこの魔界へと降臨するためのゲートだ。あれさえ閉じてし
まえばこれ以上天使の増援はこない。
 今日だけで一体何発の魔法を放ったのだろう。未だ魔力に余裕はあるものの、一向
に減らない敵の数にだんだんと疲労してきていた。
 それは仲間達もきっと同じ。言葉には出してないものの表情に疲労の色が見えかく
れしている。

(魔族である、僕達が疲労させられるなんて……)

 認めたくないその事実に僕は人知れず唇を噛み締めた。
 『魔族たるもの弱きを見せることなかれ』。魔族の、いや、魔界の一般常識であり
教育方針である。
 敵にも味方にも、自らの弱いところは見せてはならない。自らの弱いところを見せ
た瞬間、魔族として失格も同然だ。……そういう風に僕達は教えられてきた。家で、
学校で、軍で、全てで。
 だけど、どうして僕は無意識に弱いところを露見してしまうのだろう。
 時には泣いて、情けなく怒って、しょぼくれて……。
 こんな弱い僕なんて、消えてしまわなければならない。それが、魔王様の側で魔王
秘書としての勤めを果たすための絶対条件だから。

 ……そう……なん、だけど。

 カラン。

 どこかで乾いた音がする。
 何事かと周囲を見回すと、天使達の残骸の中から上半身のみになった瀕死の天使が
無表情で這い出し、魔王様を狙っている!
 たがたが一般兵の攻撃ではあるが彼ら……天使と僕達、魔族の属性は相反している。
侮っていると致命傷を受けることにもなりかねない。しかも今、天使達を迎え撃って
いることで精一杯の魔王様は狙われていることに気付いていない!
 広範囲攻撃用の呪文の構築を一時停止。及び再構成再構築、直線攻撃用……いや、
魔力反射用の構成へと編み直す。しかし、間に合うかどうか………!

「魔王様ッ!」

 僕の大声でこちらを振り向き、瀕死の天使の存在に気付く。大丈夫……魔王様の身
体能力なら余裕で避けられる。
 そう安堵したのもつかの間、魔王様が攻撃を避けるため移動しようとした時、足下
の天使の残骸が硬質な音を立てて蠢いた!
 次の瞬間には残骸達がまるで魔王様を拘束でもするかのように這いのぼってくる。
必死に振払おうとするも天使の魔力が残ったその残骸に力を封じられ見動きが出来な
い!仲間達が魔王様を救おうとするも残りの残骸がそれを阻む。残骸の魔力で皆の能
力が低下してしまっているのだ。そして呪文の再構築に気を取られているうちに僕の
足下にも残骸が絡み付く。力が……出ない。
 そして、僕の必死の魔法構築も間に合わず天使の手から溢れた光が魔王様に向かっ
て放たれる!
 
 僕は、自分が今まで出したことのないような馬鹿力で残骸を振りきり、骨があらぬ
方向へとねじ曲がるのにも構わず魔王様の前へと飛び出していた。
 「魔王様がいなくなったら困る」、ただそれだけを考えて。


 
 視界に光が、満ちた。



 …………………

 ……………

 ……?
 


「あ、あれ?」

 僕は思わず間抜けな声を上げた。眼前を満たした光は何時の間には消え失せ、そこ
にはつい先程と何らかわりのない風景が広がっている。仲間達も何が起こったかわか
らずに呆然とこちらをみている。
 自分の身体を見下ろす。腕も、足も、ついている。何ともなっちゃいない。これは
一体……。

 ぞわり。

 突如、自分の身体の中で何かが勝手に蠢く。身体……いや、これは心?

「…………………!………ッ!!!」
 
 魔王様が何か言っているのに何も聞こえない。いや、それだけでなく全ての音が僕
から失われてしまっていた。言葉に応えなくちゃいけないのに、僕の身体は僕の命令
に従ってくれない。
 突然、心の中で作業途中の呪文構成が勝手に蠢き出す。

(そんな……僕はそんな構成しようとした覚えは……!)

 自らの意志とは関係なくどんどんと勝手に紡がれていく滅茶苦茶な構成。あまりに
も支離滅裂なその呪文構成はまるで子供がクレヨンで落描きするように無遠慮だ。
 このままではいけない、と力を振り絞り<反発>の魔術公式を展開し解こうとした
刹那、僕の思考に戦慄が走った。

(魔術の公式が………思い出せない……?!)

 それだけじゃない、先程まで当たり前のように紡いでいた構成や構築をしようとす
る度に頭にもやのようなものがかかり、思考を邪魔してくる。内側を蹂躙される不快
感に、口からうめき声が漏れた。
 右腕に構築が具現化し、魔力が溢れてくる。
 
 呪文は、暴発した。







 暴発した僕の呪文は圧倒的な破壊をもたらすほどの威力だった。普段理性という名
の鎖で縛り支配下においている自らの魔力がその全ての力を曝け出したのだ。
 魔王様が僕の呪文に干渉して力の鉾先を『穴』に向けなければ自分や仲間すら巻込
んで発動、という恐るべき事態になっていただろう。
 瀕死の天使の放った呪いによって、僕の最大の武器である魔力は………暴走した。
今はなんとか自らの身体に封印を施して沈静化はしている。だけど、身体活動の一部
に魔力を用い圧倒的な身体能力や特殊能力を発揮する魔族にとって、魔力を封印する
ということは『役ただずになる』ということだ。
 実際、今の僕の身体能力は通常よりも遥かに低下し人間並、呪文はもちろん使えな
いし特殊能力を制限され今では多少の催眠や物質の硬質化、短距離の瞬間移動が精一
杯。まさに、『役たたず』。

「オマエも分かってる通り、この魔界では天使の呪いを解く術がない。つーかぶっちゃ
け五体満足でいるのが不思議な位。」
「はい……。」

 僕らの身体を構築するものと全く真逆の呪い。その呪いを抑えることはできようと
も僕らの力で無力化することは不可能だ。………これって八方塞がりのような気がす
る。

「役立たずなオマエをクビにしてパシリにでもしたいところだか……その魔力を失う
のは惜しい。そこで、だ。」


 魔王様の口から漏れたとんでもない提案に、目の前が真っ暗になった。それ程、魔
王様の提案はぶっ飛んでいたのだ。反論しようと立ち上がりかけた瞬間、柱の影に潜
んでいた同僚達に押さえられ僕は部屋を追い出される。
 大声で何だかわからない言葉を喚きながら引きずられて行く僕を、魔王様はニヤニ
ヤと見つめていた。僕は必死で同僚達に助けを求めるが彼等は何も聞こえないかのよ
うに振舞い、僕をある場所へと連れて行く。魔族である僕が、『弱さ』全開にしてい
るのを内心では呆れながら。
 でも彼等の瞳に同情の色が見えかくれするのを僕は見逃さなかった。それ程、僕に
告げられた提案はぶっ飛んだものだった。




「異界へ行って呪いを解く方法を探してこい。」だなんて。




 確かに、この魔界で解けない呪いを解く方法が異界にはあるかもしれない。異界へ
と行く術も既に開発されていて、僕も幾度か偵察にいった事がある。しかし、僕は今
魔力を封印されて術は使えない。その上、異界へと行く術は術者本人しか効果がない
のだ。……と、なると他の方法は一つしかない。

「……死なないよう頑張れ。」

 僕を拘束していた一人が、そう声をかけて肩を掴む。
 目前に広がるは漆黒の『穴』。法を破った犯罪者の中でもとびきり質が悪い変態犯
罪者達が落とされる次元の穴……異界追放刑の『穴』である。

(これってある意味クビのようなものですよ、魔王様。)

 そう思っているスキに、僕は『穴』へと落とされた。自分の涙がひらりひらりと飛
んでは散るのを僕は他人事のように見ていた。

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2006/12/05 23:53 | Comments(0) | TrackBack() | ▲劇(まめ子&アダム&ランディ)

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