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2025/11/06 21:40 |
ナナフシ 12.All the world is queer save thee and me, and even thou art a little queer./オルレアン(Caku)
キャスト:アルト オルレアン
NPC:国王ロンデヴァルド三世、側近&魔術師、ギュスターヴ
場所:正統エディウス国内?→正統エディウス・イズフェルミア禁区
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正統エディウス国第一領ノスタルジア、王都ノルジア王城。
城の中でも最も壮麗で壮大な造りとなっている玉座の間。宝石が随所に散りばめられ、青い絹が張られた玉座に座るのは、少年と傍らには鷹のように鋭い目つきの老臣が一人、また数人の兵士と魔術師が話し合っていた。

--------

扉ごしに聞こえるバタバタと廊下を走るせわしない足音。
それを聞きながら、怠惰な玉座の主は大きく欠伸を漏らした。

「えー…イズフェルミア禁区で大規模な魔力波を確認?…ふぁ、魔女が黄泉の国から戻ってきたのかなぁ?」

「王、そのような不吉なことをおっしゃられてはいけません」

絹のような黒い髪に宝石のような黒い瞳。周囲の側近達とは人種的に明らかに違う顔立ち、東の地方独特の彫りの浅い、しかし端正な顔。王族だけが許されるスカイ・ブルーの羽織をまとい、身の丈に合わぬ玉座にずるりと横たわっている。しかし傍らの側近に諌められて、正統エディウス国国王ロンデヴァルト三世は不満そうに嘆息した。

「…現地の魔術師が水鏡で伝えてきたところによると、天蓋のような半球状の皮膜が禁区全体を覆っているようです。皮膜は魔力で出来ているらしく、また魔力の波長から人造精霊のものと断定されたようです」

とたん、少年王の声がはしゃぐようにトーンを上げた。

「へぇ、ほらやっぱり。魔女が戻ってきたんだ、やっぱり土壇場で見限ったのがよくなかったかなぁ?でもしょうがないよね、あいつら殺す相手に見境なしだし。それに」

と、彼の声がわずかに落ちて、言葉が途絶える。


--------


それはもう昔のこと。けれども鮮明に思い出せる、ある小春日和の火刑場の様子。
焔に消えゆく、忌まわしくも美しいかの女の唇の動きを思い出す。
声は無いが、その言葉は幼い少年王にもはっきりと伝わった。


―私の魔法は、貴方の願いその通りだったでしょう?


--------



「冗談じゃない、僕はもっと都合のいいものが良かったんだ。あんな都合の悪いものを頼んだわけじゃないのに」

再び吐き出した声は、先刻とはまったく違う暗い感情を持っていた。欲しかった玩具ではないものが届いたような顔つきで、ロンデヴァルト三世は唇を尖らせた。拗ねたように王座の傍らにひじをついていると、広間の向こうから専属の魔術師がやってきた。

「王、ご報告が…」

「今度はなぁに?」

両足をパタパタとさせ、側近に「早く部屋に戻りたい」とジェスチャーで訴える。が、側近は石像のように立ち尽くしたまま、若い王のことなどどこ吹く風と受け流す。報告を聞くまで開放されないと悟ったロンデヴァルト三世は、大きく嘆息して玉座に座りなおした。

「…ベーダン・ハッシュナイト卿がここ一ヶ月ほど禁区付近で目撃されていたそうです」

「ベーダン・ハッシュナイト卿?誰それ?」

首を傾げる王に、魔術師は丁寧に説明を加えた。

「先代の王が設立した王立錬金術協会の会長であった方です。ご自身に魔力の素養はなかったですが、賢者の石の研究なされていました。
…結局は賢者の石まで届かず、擬似的な魔力発生装置モドキしか出来なかったみたいですが」

「ふーん、で、その人がどうかしたの?」

ロンデヴァルト三世といえば、丁寧な説明にも興味のないかのごとく欠伸をかみ殺している。側近の鷹のような視線と出会い、慌てて口元を引き締める。

「ハッシュナイト卿は魔女、そして【指導者】らに強い怨みを抱いておられました。
魔女がハッシュナイト卿の研究テーマ「永久機関の開発」を先に完成させてしまい、王の寵愛を得てハッシュナイト卿を「役立たず」だと王に進言したためです。そのためハッシュナイト卿は会長職どころか自身が設立なさった錬金術協会まで廃止されてしまったからです」

「ふんふん、働かざるもの喰うべからずってね。ついでに有能じゃないご老体は山にでも捨てたいっていうのが本音かな」

「王」

側近の鉄の一声で、慌てて口を紡ぐロンデヴァルト三世。この国王の悪癖の一つに「つい口が滑ってしまう」と噂されているのを知ってか知らずか。

「人造精霊は動物紛いの出来損ない…力の供給源がなければただの泥ですが、ハッシュナイト卿が発明した魔力発生装置を組み合わせれば」

「動かすことが出来る?」

「そのとおりかと」

「でもその人が元凶って決まったわけなの?」

「貧民街で指導者一名と軍幹部一名、あと所属不明のエルフがハッシュナイト卿ともめていて魔法陣が発生し、三人が消えてしまったという報告があります。禁区で皮膜が発生した時刻とほぼ同じであることからして、何かしら関連性があるかと」

「指導者らは例の山賊との一件以来、外出を控えてさせております。あれほど大規模に人造精霊を率いるなど国民に不安と恐怖の念を再燃させかねないと、釘を打ったつもりでしたが…」

ノルジアの王城の守りは鉄壁をはるかに超える。それゆえに【指導者】が中にいる限りは襲うことなど不可能だ。だからこそ外にふらふら出ていた【指導者】が標的になったのか。

「毒蛾は相変わらずってことかぁ、うん、今度オードリーに言ってしばらく外に出れないぐらいにしておこうか」

少年王はくすりと笑う。彼の事だ、異動だの減給だのでへこたれる男ではないことは、かつて四年間側にいた自分がよく理解している。娘からの怒りの進言のほうがよほど堪えるはずだ。問題は、自殺しない程度にするようにオードリーに言い含めておく必要があるのだが。

「王、いかがされますか?」

側近の問いかけの中に含まれた微妙な緊張を受け取って、ロンデヴァルト三世は少しだけ真面目な顔で頷いた。

「禁区は国境線に近すぎる、兵を送るわけにもいかないよ。それにあと…そうだなぁ、半日ぐらいで解決するんじゃない?

なにせ…」

あふ、と少年王はもう一度欠伸を漏らした。懐から取り出した豪奢な懐中時計の針は夜の九時を指し示している。真面目な顔はあっという間に過ぎ去り、にこりと微笑む。


「ほら、明日はオードリーの学校、授業参観でしょ?アイツが娘のことで遅れるはずないし」


--------

「……………」
「……………」

珍しくかち合った二人の呼吸。しばし両者絶句していたが、はじめに喋りはじめたのはやはりオルレアンだった。

「…あー…多分、ここが本体ね」

ばつ悪げに、オルレアン。腕組みをし、上を見上げながらうわごとのように呟く。
隣に並んだアルトの表情は無表情だったが、同じく首を傾けて見上げているものへの困惑具合は窺えた。

見た目は城だが、規模自体はそこまで大きくない。しかし形はそれそのものでありながら、色は暗黒のように黒く、また、ところどころが歪に変形している。間近でみる建物の姿は正常なのに、遠くにみえる煙突が微妙に傾斜していたり、窓の並びが均等ではなかったりとあるべき姿からゆがんでいる。まるで記憶の中の正しい姿を再現しようとして、ところどころが思い出せないために歪んでしまった絵のように。

「…あれ?」

アルトがふいに目を細めた。オルレアンもつられてアルトが見つめる方向へ目を向けた。
二人が視線を向けている方向には、一際高い塔があった。その塔の真ん中で、何かがきらりと光った。

「宝石?」

「何かしら?え、宝石!…やだー貰ってってもいいのかしらぁ」

身をくねらせて喜ぶオルレアン。しかしアルトは全方位型拒否拒絶の雰囲気を形成していた。仕方ないので、オルレアンは唇を尖らせながらももう一度確認する。

「なんか結構魔力流れてるみたいだし、コレなんとかすればいいっぽいんだけど…なんか打開策ある?」

「いや、大きすぎでしょこれは。というか、あの宝石っぽいのが元凶にも見えるんですが…」

オルレアンは元々魔法使いでも魔術師でもないが、人造精霊寄生後は魔力の有無ぐらいは分かるようになった。
しかしそれまでなので、アルトのように魔力がどこから発生してそうとか、どこに集中してるとかが分からない。エルフのアルトが感じるのならば、信じてもいいだろう。

「えー宝石壊すの?この前拷問部屋で指輪落として壊しちゃったのよねぇ、なんとかして壊さずに獲れないもんかしら?」

「……」

アルトの視線が一段を冷ややかさを増す。

「魔石か何かだと思いますけど、あそこからかなりの魔力がこの黒い塊とかに流れてるみたいで…!?」

アルトの耳がぴくりと動く。

「…なにか、聞こえてきますよ?」

「んー?」

アルトの妙な間合いこめた発言。
オルレアンは片手を耳の裏へ回す。そのまま待っていると遠くから轟音を轟かせて走ってくる何者かの音がする。奇怪なことに、黄色い乙女声まで聞こえる。その後ろでアルトは「そういや変態は一人じゃなかった」という厳しい現実に気が付いてげんなりとした表情を浮かべた。

「待ってたわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!」

「やだー!むしろ走ってるしぃ!!ギュスターヴぅぅぅーーーーー!!!」

オルレアンが再び乙女オーラ満載で瞳を輝かせる。と、何を勘違いしたのか、通りから城門へ走ってくる黒い筋肉の男は片腕を大きく振上げた。魔法による炎が上腕の筋肉から燃え盛り、逞しすぎる拳を握り締め、

「どっせぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぅいゴルぁ!!」

と、城門の一部を大破壊してゆく!

ずこぉぉぉぉぉん

「ピンチに駆けつける王子様みたーい!!めっさかっこいいーーー!!」

現状はピンチだが、今はそこまでピンチでもなかった気がする。むしろ平和だったような、とアルトは呟いたが、変態二人の圧力にかき消されてしまったのであった。


--------


「イズフェルミアですってぇぇぇぇ!!」

オルレアンの悲痛な甲高い叫びが辺りに響き渡った。

「…どーりでおかしいと思ったのよ!あのジジイに空間魔法、しかも異空間を作り上げるだなんて超級の魔法、できるわけないし…」

「…イズフェルミアって、どこなんですか?」

とりあえず現在状況を努めて冷静に把握したいアルトは、先程暑苦しいまでの登場により再会を果たした筋肉軍人・ギュスターヴに問いかけた。嫌々ながらも。

「正統エディウスと新生エディウスの国境線沿い、第一領ノルジア側にある立ち入り禁止区域よ。貴方と私達がいた市場からはかなり離れてるわ」

「空間転移ぐらいなら、あのバカでもアーティファクトや魔石を使えばできないことはないでしょうけど…ってやーーーーん!私明日オードリーの授業参観なのにぃ!」

「…つまり、ここはエディウス国内なんですか?でも空の模様にしてもこの空気にしても、ちょっと異常じゃありません?…まぁ、結界か何かかかってれば話は別、でしょうが…って聞いてますか?そこの人」

話を現状把握に戻そうとしたアルトだったが、オルレアンはそのまま脱力したように膝を崩すと、背後に暗黒のオーラをまといながら呟き始めた。

「王都に戻るまでイズフェルミアからだと、どんなにかかっても二日はかかるわ…そんな…あたしの、あた、しのオードリーの…晴れ舞台に間に合わないなんて…」

「その前に、これ倒すことが先なんじゃないですか…?ほら、軍人なんだし」

放浪のエルフであるアルトが思うのもなんだが、国民とか国を守れ、むしろ最優先事項だろうと突っ込みたかったが、

「大丈夫よ!むしろ戻ってからもう一度やり直してもらえばいいのよ!国家権力を見せ占める良いチャンスよオルレアン!」

「…貴女ってなんて頭がいいのギュスターヴ!そうね、今こそ特権を行使するときだわ!!待っててねオードリーぃぃぃーーーー!!!」

「…駄目だ、この国」

人間の国家なんてどうでもよかったが、少なくともこの腐敗した人間達がいる限りエディウスに明日はない、と明確に国家の存亡を予言したアルトであった。

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2008/04/18 23:32 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ
ファブリーズ  27 /アーサー(千鳥)
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PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
  エンプティ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森

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 風が強くなった。
 竜の吐き散らした火の粉が、酒気を含んだ風に乗り、湖から森へと周囲に広がって
いく。
 熱風を浴びた木々はその熱さから逃れるように身をよじらせた。
 その中心では、異形の竜と一人の騎士が炎をもろともせず激しい死闘を繰り広げて
いる。
 

「行く」

 足元に落ちた蛍のように儚い焔を革靴で踏み消すと、ジュリアが短い合図とともに
駆け出した。

「お気をつけて」

 俺の見送りの言葉をあっさりと無視し、ジュリアは走りざまに剣を抜くと、竜の背
後に回りこんだ。
 長い黒髪とドレスがまるでダンスを踊るように華麗に舞う。
 ここが未だファブリー邸の大広間であったなら俺もその動作に心をときめかせたか
もしれない。
 しかし、その後の彼女の行動は、ドレスを着た淑女の行いとはかけ離れていたわけ
だが。

 ジュリアの細身の剣が針のように竜の黒い剛毛を掻き分けて、その肉を突いた。
 その傷は浅い。
 しかし、ジュリアは追撃することなく、剣を引き抜くと竜と距離をとった。
 
 呪いの魔法を纏った剣は、その小さな傷口から茨のつるが伸びていくように全身を
苦痛で絡め取る。

 騎士を地面にひき倒し、その身を食いちぎろうとしていた竜に、予想外の苦痛が襲
う。
 その痛みに耐えられず、体をよじる竜から、騎士は地面を転がるように逃れた。

「危機一髪。ジュリアさんもなかなかやるじゃないか」

 ピュウと軽く口笛を吹き、俺は隣に控えていたエンプティを見た。

 魔女の話では、相手は数々の猛者を一飲みにしてきた竜だ。
 銘酒『竜殺し』と、バルメの長年による結界の効果もあるのだろうが、彼らの攻撃
は竜にダメージを与えて いるようだ。
 特に騎士殿――ヴァン・ジョルジュ・エテツィオの剣の腕は目を見張るところが
あった。
 最初は口だけの詐欺師の可能性も考えてはいたのだが、本物もしくは同等の教育を
受けている事は事実なのかもしれない。
 ならば、何故あれほどまでに、彼は騎士らしく見えないのか。
 彼に足りない部分を考えようとして、余分なところばかりなのだと気がついたとき
に、エンプティが遅い返事を返 してきた。
 
「貴方は宜しいのですか?テイラックさん」
「俺は損得を考える方が得意な商人でね。竜を倒す騎士や賢者には役不足さ」 
 
 第一、俺の銃で竜を倒すのは難しい。
 先ほどの初弾も、あの黒い獣には小石をぶつけられた程度だったに違いない。

 騎士の攻撃は、竜の体力を削ぎ、ジュリアの剣もまた、その呪いを徐々に竜の身体
に絡めて行った。
 それでも、未だ決定的なダメージにはならない。

「しぶといな。あと少しだというのに・・・バルメは何故出てこない?」

 額に浮いた汗を拭う。
 それだけ、あたりは炎に包まれていたのだ。
 この森の分身とも言えるバロメが、この状況に気がつかないわけがない。
 竜を倒すことが彼女の使命ならば、今この機会を逃すなど考えられないというの
に。
 この場に老木の魔女の姿はなかった。

「変化の術が限界まで来ているのです。彼女に状況の正常な判断は望めません」

 エンプティが答える。

「彼女は樹木に姿を変えることで、途方もなく永い寿命と、竜を捕らえる大きな檻を
手に入れました。が、同時に人として必要な部分をいくつか失っているのです」 

 俺は先ほどのバルメとの話し合いを思い出し、彼の言葉に頷いた。
 穏やかな婦人のような振る舞いとは裏腹に、子供達に対する認識はどこか狂ってい
た。
 いくら話し合っても平行線と思われたからこそ、俺達は竜退治を手伝うことに同意
したのだ。
 月夜に狼の姿になった男が理性を失うように、老木に姿を変えた女の精神は既に普
通ではないのかもしれない。
 
「それに、重要な事をお話し忘れていましたが、恐らく彼女は竜を殺すことができな
いのです」
「どういうことだ・・・?」

 まるで、たった今思い出したかのような仕草。
 しかし、エンプティが意図的に隠していたのは明白で、それゆえにその理由がろく
なものでない事を予測してしまう。
 俺は眉を潜めて、聞きたくない話の先を促す。

「あの竜を倒すのが魔女の目的なのだろう?」
「確かに、その通りなのです」

 しかし――と、エンプティは付け加え、ある意味俺の予想どうりの事を告げた。

「あの竜はかつて、宮廷に仕える一人の女魔道師―――魔女バルメの息子だったので
す」

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2008/04/18 23:34 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ
ナナフシ  13:Man erntet nur das, was man sat./アルト(小林悠輝)
キャスト:アルト オルレアン
場所:正統エディウス・イズフェルミア禁区
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 アルトは、かつてこの地に存在した大きな帝国を知らないが、その国が二つに別れた
ときの争いのことなら人並みに知っている。先の王が崩御するなり、彼の弟と息子が同
時に新王を称したことによる内乱だ。

 国を逃げた旅人たちは、口を揃えて「ひどい戦いだった」と言った。

 新生エディウスの兵士たちは、かつての同胞である敵国を激しく罵った。魔女の力を
借りた呪われた偽王、悪魔の手先め。敗残国の人々のその言葉を誰も本気にしなかった。

 金のために戦った傭兵たちは、言葉少なく「ひどい戦いだった」と言った。一部の者
たちは「ひどい虐殺だった」と言ったが、そのうちの更に一部は人知れず姿を消した。



「……あの、今はあれを何とかしないと」

 城を指差して提案してみる。非常識二人は個人的用件に国家権力を濫用するかどうか
を本気で話していたが、とりあえず「する」という方向で結論を得たようだった。そん
なことに権力を扱える立場だというのが信じられない。これだから人間は理解できない。

「そうね、こんなところであのバカ錬金術師に足止め食らってる場合じゃないわ。立ち
塞がるものは粉砕、粉砕、粉砕して、愛するオードリーのところに行かなきゃいけない
んだから!」

 アルトは心の耳栓をして歩き始めた。背後で二人はまた騒ぎ出した。が、歩き出す気
配はあったので、少しは進展したのだろうか。

 城を見上げる。塔の上で光が瞬いている。
 前庭を横断し扉を開ける。中は広い玄関ホール。
 動くものは何もない。床には黒い灰が積もっていて、踏み込むと煙のように舞った。

「ちょっと、あまり先に行くと危ないわよ」

「そうよ。先陣は私達に、いえ私に任せておきなさい! あなたもオルレアンも、私の
背中に「きゃああああああ素敵よギュスターヴ! 貴方の逞しい脊柱起立筋と棘上筋と」

 付き合っていられないので先に進むことにする。
 灰のにおいがする。肺が侵されていく。

 意識の隅に巣食っている影精霊が囁いた。
“アア、仲間ガ呼ンデイル。”

 アルトは眉根を寄せて、意味を問うた。ざっと周囲に目を走らせるが、意思持つ自然
の要素、アルトが精霊と呼ぶ不可視の彼らはここには存在していない。この空間は異常
すぎる。

(何もいないじゃないですか)
“呼ンデイル。呼ンデイル。人ニ憑カネバ生キラレナイ、異質ノ同胞ガ”

 何を言っている? 今までになかったことだ。
 元々、自我はあっても理性は持たない存在だというのに、意味のある言葉まで発して。

 同胞とは、人造精霊という兵器のことだろうか。だがあれは精霊の名こそ冠している
が別のものだ。特別の知識があるわけではないが先ほど見たばかりなのだから、わかる。

(何もいませんよ)
“彼ラハ異質。自然ナラザル魔術ノ落子。呼ンデイル。呼ンデイル。呼ンデイル。呼ン
デイル。呼ンデイル。呼ンデイル。呼ンデイル。呼ンデイル。呼ンデイル。呼ンデイル。
呼ンデイル呼ンデイル呼ンデイル呼ンデイル呼ンデイル呼ンデイル呼ンデイル呼ンデイ
ル呼ンデイル呼ンデイル呼ンデイル!彼ラハ落子。古キ禍カラ生ミ出サレ生マレル日ヲ
待ッテイル!”

(うるさい!)

 床を強く蹴り、立ち止まる。靴の裏で、何か、踏みつけて崩す感触があった。
 足をどけて見下ろす。何か黒い影。薄暗くて、よく見えない。細長い、黒い塊が崩れ
かけて残っている。片方の先端に、何か平らな、硝子片のようなものがついている。 
炭にまみれ、濁り、生理的嫌悪感を催させるそれは――

「なんて胸糞悪い場所かしら」

 オルレアンの言葉に、アルトは反射的に振り返った。
 青い髪の軍人は言葉通りの表情をしていた。

「あまり見ない方がいいわよ」

「……この灰、人間ですね。そこに指が」

「ええ。この城ではたくさんが死んだわ。
 ここは何らかの魔術で再現された城のようだけど」

「困ったですね。歩きづらいです」

 肩を竦めてみせる。深くは聞かないほうがいい。
 彼は当事者かも知れない。いい記憶ではないだろう。そして、聞いてはいけない。

 国境線上の立ち入り禁止地区。エディウス内戦の最後の決戦の場所――いや、内戦終
結後、正統エディウス軍によって攻め落とされた、正統エディウス軍の城。ここにある
のは国家機密だ。それも、禍々しい類の。
 知っては始末される。立ち入った時点で手遅れか?

 オルレアンもギュスターヴも、軍人である以上、報告義務を負っている。
 脱出できたとしても、自分の身柄は軍に拘束されるだろう。

 ついてない。どうしてこんなことに巻き込まれた?
 どうやら相手の狙いはオルレアンのようだが、彼一人をここへ連れてくるつもりだっ
たのなら、何も、ギュスターヴとアルトが彼の近くにいたあの瞬間でなくてもよかった
はずだ。

 ギュスターヴはともかく、意図的に自分が巻き込まれるような心当たりは、ない。少
し種族が珍しいことくらいだ。しかしあのタイミングには意図的なものを感じずにはい
られない。足手まといを巻き込んで、彼らの動きを制限するつもりだったのだろうか?

「あの塔まで、どうやって行くんです?」

 オルレアンは頷いて、奥へ足を踏み出した。
 心配顔のギュスターヴが彼を追うのを確認してから、アルトは最後尾を行った。

“……! …………”
 心に憑いた影精霊はまだ騒いでいる。話し相手になる気もないくせに。
 早く帰りたい。変態と三人でこんなところをうろつくのはもう嫌だ。

“…! ……イル”
(静かになさい。お前は常に私を助ける。代わりにお前は私の感情を喰う。
 それだけがルールです。余計なことを騒いで、私を混乱させるんじゃない)


 黒い廊下を進み、いくつもの扉の前を通った。
 道はところどころが歪んでいて、迂廻の必要が度々あった。
 外からではそれほど広いと感じなかったこの城で、しかし目的の塔の入り口らしき階
段の下までたどり着くまでには、随分の時間がかかったように感じられた。

 のぼりの螺旋階段は、待ち受けるように口を開いている。


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2008/04/18 23:42 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ
Rendora-12/クロエ(熊猫)
キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール
場所:ヴィヴィナ渓谷→フィキサ砂漠
――――――――――――――――

森の中を通る湿った風とは違い、フィキサ砂漠から吹き付けてくる風は
軽く、乾いていた。

足元には砂漠の気配が忍び寄っている。
まだ鮮やかさを失わない緑の下草の間にはざらめのような白い砂が入り込み、
異様なコントラストを生み出していた。

「ヴァーンまでは、人の足でどのくらいかかるでしょうか…」

掌でひさしを作っているアダムの横に立って、
クロエは彼と同じ方向を見つめながら呟いた。

「なんとも言えないな…距離的には2日もあれば十分なんだろうけど。
せめて地図があればなぁ」
「道は――どうにかなりそうです」

と、しゃがみこんで地面にてのひらを置き、アダムが見てる先から
やや視線をずらす。そうしたところで景色に大した変わりはないが、
頭の中でかちりと噛み合う感覚がある。

「僅かですが水脈があります。これを辿れば道を外すことはないでしょう」
「水脈?」
「スズナ山脈から出た水をクリノクリアの木々が蓄え、
浄化した水です。きっと私達を導いてくれますよ」

笑みを浮かべてアダムを見る。
彼は正直わからないという顔をしていたが、
なんとか自身を納得させたらしく頷いた。

「なら…どうにかなりそうかな。食料もまだ少しならあるし」
「私は何もいりませんからね。アダムの分があればいいんです」
「……はぁ」
「?」
「ん、なんでもない」

無念そうにため息をつくアダムに視線で問うが、彼はひさしにしていた手を
振るだけできびすを返し、足元に置いてあった荷物を持ち上げた。

『パートナーにごはんも食べさせてあげられないだなんて、
こりゃ相当キてるね、アダム♪』
「てめぇシックザールこの野郎!」
「アダム」

傍らの刀に怒鳴るアダムの腕を両手で取る。
怒りで膨らみかけた筋肉が柔らかく手の中で沈むのを感じながら、
静かに言う。

「本当に気にしないでください。私は大丈夫ですから」

ね、と念を押してから手を離すと、支えを失ったアダムの腕は
だらりと垂れて落ちていった。

「行きましょう。風が強くなりそうですし」

そう言いながら、丘から足を踏み出す。
なめした革を縫い合わせただけの簡単な靴の中は
すでに砂に蹂躙されていたが、ゆるやかな坂を小走りで降りてゆく。

「風だって?」

ややおぼつかないながらもクロエよりかはしっかりした足取りで、
アダムが追い付いてくる。
なにか言いたそうな手をこちらに差し出してきているのは、
クロエの転倒を警戒しての事だろう。

「ええ、もしかすると砂嵐になるかもしれません。
規模はさほど大きくならないでしょうが」
「行き先とかち合えば動けなくなる、か…」
「はい」
『風の民っていうくらいだから、ヴァーンに着けば砂嵐が来ても
どうにかしてくれるかもね?』
「砂嵐に出会う前に着ければ良いのですが…」

さく、さく、と砂を踏みながら歩く。
空は美しい晴天だった。雲はひとつたりとてなく、紺碧の一枚板が
一面に広がっている。
その下で白い砂漠に刻まれた風紋がわずかに影を落として
整然と並ぶ様は壮観だったが、生の気配がしない荒涼とした風と、
まっすぐに届いてくる痛いほどの日差しを和らげるには至らない。

「あっついなー」

アダムの装備は明らかに砂漠越えには向いていないようだったが、
クロエに比べればよほど機能的に見えた。
もっとも人の姿で行動する事のほうが少ないのだから、準備不足は仕方ないが。

「クロエさん、その水脈って深いの?」
「そうですね…このあたりは地形もそれほど複雑ではないので、
そう深くはないと思います」
「そっかぁ、補給できればいいんだけどなぁ。
…ま、そんなのんきな事も言ってられないだろうけど」

行こう、と立ち止まっていたアダムが歩きだす。
クロエは小走りで彼の隣に並ぶと、軽く頷いた。

…★…

「腐りそう…」

数刻も経たずにアダムの体調が悪くなっていくのは、一目瞭然だった。

彼は脱いだ上着を頭からかぶって日除け替わりにしているが、
まったくと言っていいほど効果はないらしく、滝のように
汗をかいているのが遠目にも窺えた。

クロエは立ち止まって振り返ると、小首を傾げて言った。

「そろそろ休みませんか?」
「いや…さっきも休んだばかりだし…」

顔をあげることすら億劫そうに答えるアダムに、
そうですよね、と相づちをうつ――「でも」。

「私、疲れてしまって」

ため息混じりに笑うと、ぱっとアダムが顔をあげた。
彼は不思議そうにまじまじとクロエを見てから、
何かに思い当たったように顔を曇らせた。

「…ごめん」
「こちらこそ」
『クロエったらお嬢様なんだからー』
「すみません、こんなに長く歩いたのって初めてなものですから」

全てを含んだようなシックザールの言葉に苦笑してから、
向かっているほうからやや外れた場所を示す。

「あそこに行きましょう」

かくして、そこから見える身の丈ほどもある砂丘の影に
二人は落ち着いた。

「あぁ――疲れましたねぇ」

明るい声音で言いながら、影になった砂地の上に座り込む。
そのまま半身を下にして寝転び、白い砂に耳を押しあてる。
突拍子もないその行動に驚いて、というわけでもないだろうが、
どさっと砂に座り込むアダム。

「クロエさん?」

荒い砂糖のような粒子の中から、さまざまな音が耳に流れ込んでくる。
鉱物の擦れ合う響き、少ない獲物を待ちながら潜む蛇の鱗の音、
いつか来るとも知れない雨季を切望している種の声。そして。

「…ありました」
「なにが?」
「水です」

アダムがえっ、と言ったきり言葉を失う。その間に、手でその場を
無言で掘りはじめる。だが乾燥した砂は掘っているそばから
低いところへ落ちていき、遅々として進まない。
気がつくとアダムも無言でそれを手伝ってくれていた――顔には
明らかに半信半疑の然が浮かんでいたが。

子供が一人くらい入れそうなくらいの穴を掘ったところで、ちらりと
アダムがこちらを伺うような視線で見た。穴の底は依然として
白い砂のままである。彼としてもそうすぐ水脈が出てくるわけはないと
たかをくくっていたのだろうが、さすがに不安になったらしい。

「えーと…」
『いつまで砂遊びしてんのー?』
「そうですね、このくらいでいいでしょう」
『何が?』
「あとは私が掘ります。お二人はここで待っていてください。
…できるだけ目立たないようにしますから」

剣の声とアダムにそう言って、やおら今掘ったばかりの穴に
足を踏み入れる。その瞬間、合点がいったのかアダムがいきなり
体をのけぞらせた。

粉袋を高いところから落としたような轟音とともに、クロエは
本来の姿に戻っていた。ただし今回は空を翔るわけではない。
頭から垂直に、砂の海へと潜ってゆく。

灼熱の砂を、潜む蛇を、望む種を。そしてさらにその下に横たわる
透明な水の流れを通り過ぎたところで、クロエは急に向きを変え、
すべてを逆戻りするかのように今度は地上を目指して砂の中を
駆け抜け、飛び出す――。


その日、フィキサ砂漠に新たなオアシスと大砂丘が出現した。


――――――――――――――――
ドラゴンのくせに生態系を著しく壊していますが、
大事な夫のためならエンヤコーラ。
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Rendora診断(最高五つ★)
恋愛レベルLv-1.5
ドキドキ度… ★
ほんわか度…★★
ヤヴァイ度…★★★
胸キュン度…★
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2008/04/24 11:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora
ファブリーズ  28/ジュリア(小林悠輝)
キャスト:ジュリア アーサー
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
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 そして、竜は死んだ。

 大地に血と炎を吐き散らし、周囲を朱と紅に染めながら、呪いじみた咆哮を最後に息
絶えた。黒い毛並みの体を横たわらせて、ひゅうひゅうと細い息で生きながらえる時間
すらなしに、呆気なく命を落とした。


「……倒した、のか?」

 自称騎士が恐る恐る言った。
 彼は屍骸のすぐ間近に立ち尽くしたままだったが、今ひとつ信じられないようだった。

「そういうのはお前の専門だろう」

「死体の確認が?」

「自分の名声が確かに増えたかどうかの確認が、だ。
 騎士はそういうことが得意なんだろう?」

「心外だ」

 自称騎士は、剣の先で黒い毛皮をちょんとついた。
 ジュリアから見ても、竜は既に死んでいた。生きているものと死んでいるものの間に
は、言葉では表せない決定的な違いがある。認識以下の近くの集合体。不気味な違和感。

「……死んでいる」

「終わりだな」


「そうはいきません」

 と、エンプティが進み出た。彼は片手を挙げ、枯れ枝のように細い人差し指で、周囲
の景色をゆっくりと横に薙いでみせた。

 森は明々と燃えている。酒精のにおいが漂っている。
 あの、目が痛くなる煙のにおいがしないのは、ここが魔女の森だからだろうか。

「このままでは森が焼けてしまいます」

「消火活動は契約外だ。
 あの魔女のところまで火が回らないうちに、子供を連れて戻るぞ」

「では、バルメがかけた獣化の術はどうするんです?
 あれを解くことができるのは彼女だけですよ」

 エンプティはそう言って、身に纏った襤褸布の中から、古ぼけたバケツを取り出した。
それを恭しく、最も近くにいたテイラックに差し出す。
 テイラックは突然のことに困惑したようで、しかし反射的に受け取ってしまった。

「……まさか、これで消せというんじゃないだろうな」

「そのまさかでございます。
 太古より、火は水で消えるものと決まっております故」

「しかし……」

「さあ、どうぞ。森が焼け落ちないうちに」

 テイラックはついに押し負けて、しぶしぶ泉のふちに膝をついた。
 バケツを泉に沈める、ぴちゃんという音が小さく響いた。

「酔いそうだ」

「皆さんの分もありますから」

 いつの間にか、エンプティの両手には、それぞれ一つずつのバケツが提げられている。
渡そうと近づいてくるのを、ジュリアは軽い身振りでとめた。

「力仕事は男の領分だ」

「では、ヴァン殿」

「え? あ、ああ……」

 彼は受け取ってから、それがあまり騎士には相応しくない道具だと気づいたらしかっ
たが、もう手遅れだと思ってか、観念した様子で泉へ向かった。その表情は、竜に立ち
向かうときと変わらないほど深刻だった。

「残りの一つはどうしましょう」

「お前のたぐい希なる腕力を見せてくれ」

 エンプティは苦笑してバケツをどこかへと仕舞った。
 二人の男が、疑わしげな表情で、バケツの水をぱしゃんと木にかける。

 こんなもので――

 じゅ、と音がして、立ち上る水蒸気と共に、燃え盛っていた炎が消えた。
 呆然とする三人にエンプティが言った。

「太古より、火は水で消えるものと決まっております故」

「…………」

 追求しても無駄だろう、という暗黙の同意の元に、鎮火作業は速やかに進行した。

 手を出さずに暇を持て余したジュリアが竜の屍骸のあった箇所に目をやると、そこに
横たわっていたのは人間の男だった。


 男の死体は自らの内から湧き出した炎に飲み込まれ、一瞬で消え失せた。
 地面には焦げ跡が残るだけだった。


「……戻ろう」

 テイラックが言った。
 皆が頷いた。

 月は傾き、水面から姿を消していた。
 酒のにおいが空しく残っている。



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2008/04/24 11:10 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ

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